説明

迷走神経活性化剤

【課題】迷走神経の求心枝を活性化するための有効な手段及び方法を提供すること。
【解決手段】乳酸菌の菌体及び/又は乳酸菌の処理物を有効成分として含有する迷走神経活性化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、迷走神経活性化剤、具体的には乳酸菌を含む迷走神経活性化剤に関する。また本発明は、該迷走神経活性化剤を含む機能性食品の製造方法、対象における迷走神経を活性化する方法、並びに脳血流を改善するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
迷走神経とは胸腹部の内臓を支配する副交感性の神経の総称であり、特に迷走神経の求心性神経は、腹部内臓で感知した外部情報を延髄孤束核や中枢神経に伝達する役割を担っている。
【0003】
迷走神経性の脳血流変化は医学的に知られるところであり、脳血流の変化によって脳機能を改善することができると考えられる。また、迷走神経の求心枝活性化は、血圧低下に作用し脳血流を部分的に低下させ、不眠症や睡眠の質改善に関与すると考えられる。さらに迷走神経の求心枝活性化は、胃内容排出の抑制、PYY、CCK、レプチンの分泌制御に関与し、満腹の感情、及び摂食行動と代謝を抑制することが知られている(非特許文献1〜3)。従って、迷走神経の求心枝の活性化により、脳血流改善、脳機能改善、睡眠改善、摂食抑制などが期待できる。
【0004】
一方、乳酸菌(ラクトバチルス・ジョンソニー、ラクトバチルス・カゼイ及びラクトバチルス・パラカゼイ)が胃の迷走神経の遠心枝又は副腎交感神経の遠心枝を制御することが報告されている(非特許文献4〜6)。しかし、微生物が遠心枝とは全く異なる機能を有する胃及び腸の迷走神経の求心枝を制御することについては報告されていない。また、乳酸菌の睡眠改善に関しての報告はある(特許文献1)が、この報告では、ラクトバチルス・ガセリには睡眠改善効果はないと考えられていた。さらに乳酸菌による内臓脂肪減少や肥満予防、加齢に伴う代謝異常症の改善に関しては報告されている(特許文献2〜4、非特許文献7)が、飼料摂取量についての報告はない。また、乳酸菌によるストレス緩和作用が報告されている(非特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003-517828号公報
【特許文献2】特開2008-214253号公報
【特許文献3】特表2009-545311号公報
【特許文献4】特開2009-242431号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Juhasz A, et al. Orv Hetil. 148(39):1827-1836, 2007年
【非特許文献2】Sobocki J, et al. J Physiol Pharmacol. 56 Suppl 6:27-33, 2005年
【非特許文献3】Li Y. Curr Med Chem. 14(24):2554-2563, 2007年
【非特許文献4】永井克也 他 腸内細菌学雑誌 Vol.23, No.3, 209-216, 2009年
【非特許文献5】Tanida M et al. Neurosci Lett. 389(2):109-114, 2005年
【非特許文献6】Yamano T et al. Life Sci. 79(20):1963-1967, 2006年
【非特許文献7】Yun SI, et al. J Appl Microbiol. 107(5):1681-1686, 2009年
【非特許文献7】澤田大輔 他 第13回腸内細菌学会 プログラム 一般演題, 2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、迷走神経の求心枝を活性化するための有効な手段及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、乳酸菌の菌体及び発酵乳が、胃及び腸の迷走神経求心枝の活動を亢進することを見出した。また、乳酸菌菌体の摂取により脳血流が変化すること、及び睡眠が改善することを確認した。これらの知見から、本発明者は、乳酸菌の菌体及び処理物を迷走神経の活性化において使用できると考え、本発明を完成するに至った。
【0009】
従って、本発明は以下のとおりである。
[1]迷走神経活性化作用を有する乳酸菌の菌体及び/又は乳酸菌の処理物を有効成分として含有する迷走神経活性化剤。
[2]乳酸菌が、ラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属、エンテロコッカス属、ロイコノストック属、ストレプトコッカス属、ラクトコッカス属、ペディオコッカス属、及びワイセラ属からなる群より選択される属に属する少なくとも1種の細菌である、[1]に記載の迷走神経活性化剤。
[3]ラクトバチルス属に属する細菌が、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・アミロボラス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・ゼアエ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・クリスパタス、ラクトバチルス・ガリナーラム、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・デルブルッキ サブスピーシーズ ブルガリカス、及びラクトバチルス・ジョンソニーからなる群より選択される少なくとも1種である、[2]に記載の迷走神経活性化剤。
[4]乳酸菌がラクトバチルス・ガセリCP2305株(FERM P-21356)である、[1]〜[3]のいずれかに記載の迷走神経活性化剤。
[5]乳酸菌の処理物が、乳酸菌の粉末若しくは懸濁液又は乳酸菌の発酵産物である、[1]〜[4]のいずれかに記載の迷走神経活性化剤。
[6]迷走神経が胃及び/又は腸の迷走神経の求心枝である、[1]〜[5]のいずれかに記載の迷走神経活性化剤。
[7]経口投与用である、[1]〜[6]のいずれかに記載の迷走神経活性化剤。
[8]飲食品、飼料又は医薬品に使用するための、[1]〜[7]のいずれかに記載の迷走神経活性化剤。
[9]脳血流改善又は摂食抑制に使用するための、[1]〜[8]のいずれかに記載の迷走神経活性化剤。
[10][1]〜[9]のいずれかに記載の迷走神経活性化剤を調製する工程、及び該迷走神経活性化剤を飲食品に配合する工程を含む、機能性飲食品の製造方法。
[11]対象に迷走神経活性化作用を有する乳酸菌の菌体及び/又は乳酸菌の処理物を投与することを含む、対象における迷走神経を活性化する方法。
[12]迷走神経活性化作用を有する乳酸菌の菌体及び/又は乳酸菌の処理物と、薬学的に許容される担体とを含む、脳血流を改善するための医薬組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、迷走神経活性化剤が提供される。本発明の迷走神経活性化剤は、迷走神経活性化作用を有するため、脳血流改善、脳機能改善、睡眠改善又は摂食抑制などの効果を奏し、医薬又は健康飲食品に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】乳酸菌生菌体による腸迷走神経求心枝活動(intestinal vagal afferent nerve activity;IVNA)の変化を示すグラフである。
【図2】乳酸菌発酵乳による腸迷走神経求心枝活動(IVNA)の変化を示すグラフである。
【図3】乳酸菌発酵乳による胃迷走神経求心枝活動(gastric vagal afferent nerve activity;GVNA)の変化を示すグラフである。
【図4】乳酸菌摂取前後における、脳の単一光子放射断層撮影(SPECT)画像の一例を示す。
【図5】乳酸菌摂取前後における、脳のSPECT画像の一例を示す。
【図6】乳酸菌摂取前後における、脳のSPECT画像の一例を示す。
【図7】乳酸菌摂取による睡眠の質のスコア変化を示すグラフである。
【図8】乳酸菌摂取による寝付きのスコア変化を示すグラフである。
【図9】乳酸菌摂取による糞便中のバクテロイデス・ブルガタスの構成比変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明は、乳酸菌が迷走神経の求心枝活性化に関与しているという知見に基づくものである。迷走神経の求心枝活性化には、以下の3つの意義があると考えられる。
【0014】
(1)脳血流改善及び脳機能改善への関与
迷走神経性の脳血流変化は医学的に知られるところであり、実際に乳酸菌L.ガセリCP2305株をヒトに摂取させたところ、脳血流(大脳皮質の血流上昇、基底核の血流低下、後頭葉第8領域の血流低下)の変化を検出し、脳機能を改善しうると考えられた(実施例2)。これらの脳血流変化は、てんかん発作リスクの回避、脳卒中リスクの低減、脳動脈瘤リスクの回避、行動を穏やかにする、イライラ行動の抑制に効果があると考えられる。
【0015】
(2)睡眠改善への関与
迷走神経の求心枝活性化は、血圧低下に作用し、脳血流を部分的に低下させ、不眠症や睡眠の質改善に関与すると考えられる。実際に、ヒト摂取試験の質問票解析において、睡眠の質、寝付き、睡眠障害の緩和が示され、睡眠を改善していることが示された(実施例3)。
【0016】
(3)摂食抑制への関与
迷走神経の求心枝活性化は、胃内容排出の抑制、PYY、CCK、レプチンの分泌制御に関与し、満腹の感情、及び摂食行動と代謝を抑制することが知られている(非特許文献1及び2)。
【0017】
以上の当技術分野における技術常識及び本明細書に示す実験結果から、乳酸菌は、迷走神経求心枝を活性化することで、脳血流改善及び脳機能改善をベースとして、睡眠改善、摂食抑制、ストレス緩和、リラックス作用に関しての用途が考えられる。
【0018】
従って、本発明は、乳酸菌の菌体及び/又は処理物を含有する迷走神経活性化剤、並びにその医薬及び食品用途に関する。
【0019】
本発明において使用する乳酸菌とは、発酵によって糖類から乳酸を産生する細菌であり、例えばラクトバチルス(Lactobacillus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ワイセラ(Weissella)属などに属する細菌が含まれる。本発明においては、乳酸菌の菌体又はその処理物が迷走神経活性化作用を示すものであれば、当技術分野で公知の乳酸菌株を使用することができる。なお、動物への投与・摂取を考慮して、動物において安全性が確認されている菌株であることが好ましい。
【0020】
乳酸菌のより具体的な種としては、ラクトバチルス属に属する細菌として、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・アミロボラス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・ゼアエ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・クリスパタス、ラクトバチルス・ガリナーラム、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・デルブルッキ サブスピーシーズ ブルガリカス、及びラクトバチルス・ジョンソニーなどがある。
【0021】
また乳酸菌の具体的な別の種としては、ビフィドバクテリウム属に属する細菌として、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ラクティス、ビフィドバクテリウム・カテニュラータム、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラータム、及びビフィドバクテリウム・マグナムが挙げられる。エンテロコッカス属に属する細菌としては、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・ヒラエ、及びエンテロコッカス・フェシウムが挙げられる。ストレプトコッカス属に属する細菌としては、ストレプトコッカス・サーモフィルスが挙げられる。ロイコノストック属に属する細菌としては、ロイコノストック・メセンテロイデス、及びロイコノストック・ラクティスが挙げられる。ラクトコッカス属に属する細菌としては、ラクトコッカス・ラクティス、ラクトコッカス・プランタラム、及びラクトコッカス・ラフィノラクティスが挙げられる。ペディオコッカス属に属する細菌としては、ペディオコッカス・ペントサセウス、及びペディオコッカス・ダムノサスが挙げられる。ワイセラ属に属する細菌としては、ワイセラ・チバリア、ワイセラ・コンフューザ、ワイセラ・ハロトレランス、ワイセラ・ヘレニカ、ワイセラ・カンドレリ、ワイセラ・キムチイ、ワイセラ・コレエンシス、ワイセラ・ミノール、ワイセラ・パラメセンテロイデス、ワイセラ・ソリ、ワイセラ・タイランデンシス、及びワイセラ・ビリデスセンスが挙げられる。
【0022】
本発明において「迷走神経活性化作用」とは、迷走神経、特に胃及び/又は腸の迷走神経求心枝の活動を亢進する作用を意味する。迷走神経の活動は、胃又は腸の迷走神経求心枝における電気活動として測定することができる。このような技術は当技術分野で周知であり、例えばShen J, et al, Neurosci Lett. 2005 Jul 22-29;383(1-2):188-93. Olfactory stimulation with scent of lavender oil affects autonomic nerves, lipolysis and appetite in rats.に記載の方法及び手段を用いて測定することができる。従って、ある乳酸菌又はその処理物が迷走神経活性化作用を有するか否かは、乳酸菌又は処理物を調製し、それを実験動物などの対象に投与し、対象において胃又は腸の迷走神経求心枝における電気活動の変化を測定することによって、迷走神経活性化作用を有するか否かを判定することができる。
【0023】
本発明においては、上述したような方法により菌体又は処理物が迷走神経活性化作用を有すると評価された乳酸菌であれば、任意の乳酸菌を用いることができる。そのような迷走神経活性化作用を有する好ましい乳酸菌としては、ラクトバチルス・ガセリCP2305株が挙げられる。なお、ラクトバチルス・ガセリCP2305株は、本出願人により迷走神経活性化作用を有することを確認しており、特許微生物の寄託のためのブダペスト条約に基づく国際寄託当局である独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に、平成19年9月11日付でFERM P-21356として寄託されている。
【0024】
また本発明においては、上述した具体的な菌株の変異株又は派生株も、迷走神経活性化作用を有する限り使用することができる。
【0025】
乳酸菌は、乳酸菌の培養に通常用いられる培地を使用して、適当な条件下で培養することにより調製することができる。培養に用いる培地は、炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、乳酸菌の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよく、当業者であれば使用する菌株に適切な公知の培地を適宜選ぶことができる。炭素源としてはラクトース、グルコース、スクロース、フラクトース、ガラクトース、廃糖蜜などを使用することができ、窒素源としてはカゼインの加水分解物、ホエータンパク質加水分解物、大豆タンパク質加水分解物等の有機窒素含有物を使用することができる。また無機塩類としては、リン酸塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウムなどを用いることができる。乳酸菌の培養に適した培地としては、例えばMRS液体培地、GAM培地、BL培地、Briggs Liver Broth、獣乳、脱脂乳、乳性ホエーなどが挙げられる。好ましくは、滅菌されたMRS培地を使用することができる。天然培地としては、トマトジュース、ニンジンジュース、その他野菜ジュース、あるいはリンゴ、パイナップル、ブドウ果汁などを使用することができる。
【0026】
また乳酸菌の培養は、20℃から50℃、好ましくは25℃から42℃、より好ましくは約37℃において、嫌気条件下で行う。温度条件は、恒温槽、マントルヒーター、ジャケットなどにより調整することができる。また、嫌気条件下とは、乳酸菌が増殖可能な程度の低酸素環境下のことであり、例えば嫌気チャンバー、嫌気ボックス又は脱酸素剤を入れた密閉容器若しくは袋などを使用することにより、あるいは単に培養容器を密閉することにより、嫌気条件とすることができる。培養の形式は、静置培養、振とう培養、タンク培養などである。また、培養時間は3時間から96時間とすることができる。培養開始時の培地のpHは4.0〜8.0に維持することが好ましい。
【0027】
乳酸菌の具体的な調製例を簡単に説明する。例えばラクトバチルス・ガセリCP2305株を用いる場合には、乳酸菌用培地(例えばMRS液体培地)に乳酸菌を植菌し、約37℃で一晩(約18時間)かけて培養を行う。
【0028】
培養後、得られる乳酸菌培養物をそのまま使用してもよいし、さらに必要に応じて遠心分離などによる粗精製及び/又は濾過等による固液分離や滅菌操作を行ってもよい。なお、本発明において使用する乳酸菌は、生菌体であっても又は死菌体であってもよいし、湿潤菌体であっても又は乾燥菌体であってもよい。
【0029】
また、目的とする迷走神経活性化作用を有する限り、乳酸菌の菌体に処理を行って得られる乳酸菌の処理物を用いてもよいし、また乳酸菌の処理物にさらなる処理を行ってもよい。そのような処理の例を以下に記載する。
【0030】
乳酸菌の菌体及び/又は処理物を適当な溶媒に懸濁又は希釈することによって、懸濁物又は希釈物として調製することができる。使用することができる溶媒としては、例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などが挙げられる。
【0031】
乳酸菌の菌体及び/又は処理物を用いて生乳、脱脂粉乳又は豆乳を発酵することにより、発酵産物を調製することができる。例えば、乳酸菌又は他の処理を行った乳酸菌を、生乳、脱脂粉乳又は豆乳などに接種し、当技術分野で公知の乳酸菌発酵条件(上述した乳酸菌培養の条件とほぼ同じである)にて発酵を行う。得られる発酵産物は、そのまま使用してもよいし、又は濾過、滅菌、希釈、濃縮などの他の処理を行ってもよい。
【0032】
乳酸菌の菌体及び/又は処理物を滅菌処理によって、滅菌処理物として調製することができる。乳酸菌の菌体及び/又は処理物を滅菌処理するには、例えば、濾過滅菌、放射性殺菌、過熱式殺菌、加圧式殺菌などの公知の滅菌処理を行うことができる。
【0033】
また、乳酸菌の菌体及び/又は処理物を加熱処理することにより、加熱処理物として調製することができる。加熱処理物を調製するには、乳酸菌の菌体及び/又は処理物を、一定時間、例えば約10分〜1時間(例えば約10〜20分)にわたり、高温処理(例えば80〜150℃)する。
【0034】
乳酸菌の菌体及び/又は処理物を破砕、細砕又は磨砕することによって、破砕物、無細胞抽出物を調製することができる。例えばそのような破砕は、物理的破砕(撹拌、フィルター濾過など)、酵素溶解処理、薬品処理、あるいは自己溶解処理などによって行うことができる。
【0035】
乳酸菌の菌体及び/又は処理物を、適当な水性溶媒又は有機溶媒を用いて抽出することによって、抽出物を得ることができる。抽出方法としては、水性溶媒又は有機溶媒を抽出溶媒として用いる抽出方法であれば特に制限されないが、上記の乳酸菌又は乳酸菌に他の処理を行った処理物を、水性又は有機溶媒(例えば水、メタノール、エタノールなど)中に浸漬、攪拌又は還流する方法など公知の方法を挙げることができる。
【0036】
また、乳酸菌の菌体及び/又は処理物を乾燥して粉状物(粉末)又は粒状物とすることができる。具体的な乾燥方法としては、特に制限されないが、例えば、噴霧乾燥、ドラム乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などが挙げられ、これらを単独で又は組み合わせて採用できる。その際、必要に応じて通常用いられる賦形剤を添加してもよい。
【0037】
さらに、乳酸菌の菌体及び/又は処理物から、公知の分離・精製法を用いて、迷走神経活性化作用を有する成分又は画分を精製してもよい。そのような分離・精製法としては、塩沈殿及び有機溶媒沈殿などの溶解性を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過などの分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーのような電荷の差を利用する方法、アフィニティクロマトグラフィーのような特異的結合を利用する方法、疎水クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーなどの疎水性を利用する方法などが挙げられ、これらの方法の1種を、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
上述した処理は、単一の処理を行ってもよいし、あるいは複数を適宜組み合わせて行ってもよい。本発明においては、このような処理物も迷走神経活性化剤に用いることができる。
【0039】
上記で得られた乳酸菌の菌体及び/又は処理物は、単独で又は他の成分と共に、迷走神経活性化剤として又は飲食品、飼料若しくは医薬組成物に配合して継続的に摂取すると、迷走神経求心枝の活動亢進効果と、それによる脳血流改善、脳機能改善、睡眠改善、摂食抑制などの効果が期待される。 本発明の迷走神経活性化剤は、有効成分として上述した乳酸菌の菌体及び/又は処理物を含むものであるが、1種の乳酸菌の菌体及び/又は処理物を含んでもよいし、複数の異なる乳酸菌の菌体及び/又は処理物、さらには異なる処理を行った複数の乳酸菌処理物を組み合わせて含んでもよい。なお、乳酸菌の菌体を含む場合の方が迷走神経活性化作用が高いため、菌体を含んでいることが好ましい。
【0040】
また本発明の迷走神経活性化剤には、有効成分である乳酸菌の菌体及び/又は処理物に加えて、目的とする作用を阻害しない限り、後述する添加剤、他の公知の脳機能改善剤、睡眠改善剤、摂食抑制剤などを単独又は複数組み合わせて添加してもよい。
【0041】
本発明の迷走神経活性化剤の形態は特に制限されないが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、懸濁剤、吸入剤などの経口剤、坐剤などの経腸製剤、点滴剤、注射剤などの剤型としてもよい。これらのうちでは、経口剤とするのが好ましい。なお、液剤、懸濁剤などの液体製剤は、服用直前に水又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁する形であってもよく、また錠剤、顆粒剤の場合には周知の方法でその表面をコーティングしてもよい。さらに、本発明の迷走神経活性化剤は、当技術分野で公知の技術を使用して、徐放性製剤、遅延放出製剤又は即時放出製剤などの放出が制御された製剤としてもよい。
【0042】
このような剤型の迷走神経活性化剤は、上述した成分に、通常用いられる賦形剤、崩壊剤、結合剤、湿潤剤、安定剤、緩衝剤、滑沢剤、保存剤、界面活性剤、甘味料、矯味剤、芳香剤、酸味料、着色剤などの添加剤を剤型に応じて配合し、常法に従って製造することができる。例えば、迷走神経活性化剤を医薬組成物とする場合には、薬学的に許容される担体又は添加剤を配合することができる。そのような薬学的に許容される担体及び添加物の例として、水、薬学的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、水溶性デキストリン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤などの他、リポゾームなどの人工細胞構造物などが挙げられる。
【0043】
本発明の迷走神経活性化剤が、上記添加剤や他の脳機能改善剤、睡眠改善剤、摂食抑制剤などを含む場合、有効成分である乳酸菌の菌体及び/又は処理物の含有量は、その剤型により異なるが、乳酸菌の量として、通常は、0.0001〜99質量%、好ましくは0.001〜80質量%、より好ましくは0.001〜75質量%の範囲であり、有効成分の望ましい摂取量を摂取できるように、1日当たりの投与量が管理できる形にするのが望ましい。また、本発明の迷走神経活性化剤に含まれる乳酸菌又は処理物は、処理物の場合には処理前の乳酸菌数として、約107個/g〜約1012個/gである。
【0044】
本発明の迷走神経活性化剤に添加又は配合することができる他の脳機能改善剤、睡眠改善剤、摂食抑制剤としては、限定されるものではないが、GABA(γ-アミノ酪酸)、グリシン、テアニン、ローズマリー、ミルクペプチド、ホスファチジルセリン、桂花、発酵オタネニンジン、活性化コエンザイムQ10、プチヴェール、アキノワスレナグサ、サフラン、ザイラリア、合歓花、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)、イソフラボン、アスタキサンチン、トコフェロール、トコトリエノール、セントジョーンズウォート、バレリアン、イチョウ葉エキス、タウリン、レロラ、アンセリン、カルノシン、クルクミン、バコパ・モンニエリ、ビンカマイナー、ホップ、αリポ酸、リン脂質、漢方薬生薬、羅布麻、霊芝、1-デオキシグルコサミン、1-デオキシ-N-アセチルグルコサミン等のグルコサミン誘導体類、キトサンオリゴ糖、キトビオース、キトトリオース、リモノイド、杜仲葉配糖体、ニームエキスが挙げられる。
【0045】
さらに、本発明の迷走神経活性化剤には、医薬、飲食品、飼料の製造に用いられる種々の添加剤やその他種々の物質を共存させてもよい。このような物質や添加剤としては、各種油脂(例えば、大豆油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油などの植物油、牛脂、イワシ油などの動物油脂)、生薬(例えばロイヤルゼリー、人参など)、アミノ酸(例えばグルタミン、システイン、ロイシン、アルギニンなど)、多価アルコール(例えばエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、糖アルコール、例としてソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、マンニトールなど)、天然高分子(例えばアラビアガム、寒天、水溶性コーンファイバー、ゼラチン、キサンタンガム、カゼイン、グルテン又はグルテン加水分解物、レシチン、澱粉、デキストリンなど)、ビタミン(例えばビタミンC、ビタミンB群など)、ミネラル(例えばカルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄など)、食物繊維(例えばマンナン、ペクチン、ヘミセルロースなど)、界面活性剤(例えばグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなど)、精製水、賦形剤(例えばブドウ糖、コーンスターチ、乳糖、デキストリンなど)、安定剤、pH調製剤、酸化防止剤、甘味料、呈味成分、酸味料、着色料及び香料などが挙げられる。
【0046】
また、本発明の迷走神経活性化剤には、上記有効成分以外の機能性成分又は添加剤として、例えば、タウリン、グルタチオン、カルニチン、クレアチン、コエンザイムQ、グルクロン酸、グルクロノラクトン、トウガラシエキス、ショウガエキス、カカオエキス、ガラナエキス、ガルシニアエキス、テアニン、γ-アミノ酪酸、カプサイシン、カプシエイト、各種有機酸、フラボノイド類、ポリフェノール類、カテキン類、キサンチン誘導体、フラクトオリゴ糖などの難消化性オリゴ糖、ポリビニルピロリドンなどを配合することができる。
【0047】
これら添加剤の配合量は、添加剤の種類と所望すべき摂取量に応じて適宜決められるが、有効成分である乳酸菌の菌体及び/又は処理物の含有量は、その剤型により異なるが、処理物の場合には処理前の乳酸菌の量として、通常は、0.0001〜99質量%、好ましくは0.001〜80質量%、より好ましくは0.001〜75質量%の範囲となるよう配合することが望ましい。
【0048】
本発明の迷走神経活性化剤を投与又は摂取する対象は、脊椎動物、具体的には、哺乳動物、例えばヒト、霊長類(サル、チンパンジーなど)、家畜動物(ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジなど)、ペット用動物(イヌ、ネコなど)、実験動物(マウス、ラットなど)、さらには爬虫類及び鳥類である。特に、迷走神経の活性化が望まれる対象、例えば脳障害のリスクのあるヒト、不眠症患者、ストレスによる症状、肥満症を示すヒトが対象として好ましい。
【0049】
本発明の迷走神経活性化剤の投与又は摂取量は、対象の年齢及び体重、投与・摂取経路、投与・摂取回数、投与目的(脳血流改善、脳機能改善、睡眠改善、摂食抑制等)などにより異なり、目的とする作用を達成できるように当業者の裁量によって広範囲に変更することができる。例えば、経口的に投与又は摂取する場合には、迷走神経活性化剤に含まれる乳酸菌の菌体及び/又は処理物を、乳酸菌の量として、体重1kgあたり、通常約106個〜約1012個、好ましくは約107個〜約1011個投与することが望ましい。乳酸菌の菌体及び/又は処理物の含有割合は特に限定されず、製造の容易性や好ましい一日投与量等に合わせて適宜調節すればよい。本発明の迷走神経活性化剤は安全性の高いものであるため、摂取量をさらに増やすこともできる。1日当たりの摂取量は、1回で摂取してもよいが、数回に分けて摂取してもよい。また、その投与又は摂取の頻度も、特に限定されず、投与・摂取経路、対象の年齢及び体重、目的とする効果(脳血流改善、脳機能改善、睡眠改善、摂食抑制等)の種々の条件に応じて適宜選択することが可能である。
【0050】
本発明の迷走神経活性化剤の投与・摂取経路は特に限定されず、経口投与若しくは摂取、又は非経口投与(例えば直腸内、皮下、筋肉内、静脈内投与)などが挙げられる。本発明の迷走神経活性化剤は、特に経口的に投与又は摂取することが好ましい。
【0051】
本発明の迷走神経活性化剤は、その迷走神経活性化作用により、脳血流改善、脳機能改善、睡眠改善、摂食抑制の効果を有する。具体的には、本発明の迷走神経活性化剤は、脳血流の改善(例えば、大脳皮質の血流の増加、基底核の血流の抑制、後頭葉第8領域の血流の抑制)によって、脳機能を改善して、てんかん発作リスクの回避、脳卒中リスクの低減、脳動脈瘤リスクの回避、行動を穏やかにする、イライラ行動の抑制の効果がある。また本迷走神経活性化剤は、睡眠改善、すなわち睡眠の質の改善、寝付きの改善、睡眠障害の緩和の効果がある。さらに本迷走神経活性化剤は、摂食行動と代謝を抑制する効果がある。
【0052】
本発明の迷走神経活性化剤は、他の医薬、治療又は予防法等と併用してもよい。このような他の医薬は、本発明の迷走神経活性化剤と共に一製剤を成していてもよいし、また、別々の製剤であって同時に又は間隔を空けて投与してもよい。
【0053】
上述したように、本発明の迷走神経活性化剤は、医薬組成物として、脳血流改善、脳機能改善、睡眠改善、又は摂食抑制のために用いることができる。
【0054】
また、本発明の迷走神経活性化剤は、安全性が高く長期間の継続的摂取が容易である。そのため、本発明の迷走神経活性化剤は、飲食品及び飼料にも使用できる。本発明の迷走神経活性化剤は、迷走神経活性化作用を有するうえ、食経験のある乳酸菌を含むものであり、安全性が高い。さらに、様々な飲食品に添加しても飲食品自体の風味を阻害しないため、種々の飲食品に添加して継続的に摂取することができ、迷走神経求心枝の活動亢進が期待される。
【0055】
本発明の飲食品は、上述した迷走神経活性化剤を含有する。本発明において、飲食品には飲料も包含される。本発明の迷走神経活性化剤を含有する飲食品には、迷走神経活性化作用により健康増進を図る健康飲食品、機能性飲食品、特定保健用飲食品などの他、上記迷走神経活性化剤を配合できる、全ての飲食品が含まれる。
【0056】
本発明の迷走神経活性化剤を含有する飲食品として、機能性飲食品はとりわけ好ましい。本発明の「機能性飲食品」は、生体に対して一定の機能性を有する飲食品を意味し、例えば、特定保健用飲食品(条件付きトクホ[特定保健用食品]を含む)及び栄養機能飲食品を含む保健機能飲食品、特別用途飲食品、栄養補助飲食品、健康補助飲食品、サプリメント(例えば、錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセル及び液剤などの各種剤形のもの)及び美容飲食品(例えばダイエット飲食品)などのいわゆる健康飲食品全般を包含する。本発明の機能性飲食品はまた、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康飲食品を包含する。
【0057】
飲食品の具体例としては、経管経腸栄養剤などの流動食、錠菓、錠剤、チュアブル錠、錠剤、粉剤、散剤、カプセル剤、顆粒剤及びドリンク剤などの製剤形態の健康飲食品及び栄養補助飲食品;緑茶、ウーロン茶及び紅茶などの茶飲料、清涼飲料、ゼリー飲料、スポーツ飲料、乳飲料、炭酸飲料、野菜飲料、果汁飲料、醗酵野菜飲料、醗酵果汁飲料、発酵乳飲料(ヨーグルトなど)、乳酸菌飲料、乳飲料(コーヒー牛乳、フルーツ牛乳など)、粉末飲料、ココア飲料、牛乳並びに精製水などの飲料;バター、ジャム、ふりかけ及びマーガリンなどのスプレッド類;マヨネーズ、ショートニング、カスタードクリーム、ドレッシング類、パン類、米飯類、麺類、パスタ、味噌汁、豆腐、ヨーグルト、スープ又はソース類、菓子(例えば、ビスケットやクッキー類、チョコレート、キャンディ、ケーキ、アイスクリーム、チューインガム、タブレット)などが挙げられる。
【0058】
本発明の飲食品は、上記迷走神経活性化剤のほかに、その飲食品の製造に用いられる他の食品素材、各種栄養素、各種ビタミン、ミネラル、食物繊維、種々の添加剤(例えば呈味成分、甘味料、有機酸などの酸味料、安定剤、フレーバー)などを配合して、常法に従って製造することができる。
【0059】
本発明の飲食品において、迷走神経活性化剤の配合量は、飲食品の形態や求められる食味又は食感を考慮して、当業者が適宜定めることができる。通常は、添加される迷走神経活性化剤中の乳酸菌の菌体及び/又は処理物の総量が、乳酸菌の量として、通常は0.0001〜99質量%、好ましくは0.001〜80質量%、より好ましくは0.001〜75質量%となるような迷走神経活性化剤の配合量が適当である。本発明の迷走神経活性化剤は安全性の高いものであるため、飲食品におけるその配合量をさらに増やすこともできる。迷走神経活性化剤の望ましい摂取量を飲食できるよう、1日当たりの摂取量が管理できる形にするのが好ましい。このように本発明の飲食品を、本発明の迷走神経活性化剤の望ましい摂取量を管理できる形態で飲食することにより、該飲食品を用いた脳血流改善、脳機能改善、睡眠改善、又は摂食抑制の方法が提供される。
【0060】
本発明の迷走神経活性化剤は、当業者が利用可能である任意の適切な方法によって、飲食品に含有させればよい。例えば、本発明の迷走神経活性化剤を、液体状、ゲル状、固体状、粉末状又は顆粒状に調製した後、それを飲食品に配合することができる。あるいは本発明の迷走神経活性化剤を、飲食品の原料中に直接混合又は溶解してもよい。本発明の迷走神経活性化剤は、飲食品に塗布、被覆、浸透又は吹き付けてもよい。本発明の迷走神経活性化剤は、飲食品中に均一に分散させてもよいし、偏在させてもよい。本発明の迷走神経活性化剤を入れたカプセルなどを調剤してもよい。本発明の迷走神経活性化剤を、可食フィルムや食用コーティング剤などで包み込んでもよい。また本発明の迷走神経活性化剤に適切な賦形剤等を加えた後、錠剤などの形状に成形してもよい。本発明の迷走神経活性化剤を含有させた飲食品はさらに加工してもよく、そのような加工品も本発明の範囲に包含される。
【0061】
本発明の飲食品の製造においては、飲食品に慣用的に使用されるような各種添加物を使用してもよい。添加物としては、限定するものではないが、発色剤(亜硝酸ナトリウム等)、着色料(クチナシ色素、赤102等)、香料(オレンジ香料等)、甘味料(ステビア、アステルパーム等)、保存料(酢酸ナトリウム、ソルビン酸等)、乳化剤(コンドロイチン硫酸ナトリウム、プロピレングリコール脂肪酸エステル等)、酸化防止剤(EDTA二ナトリウム、ビタミンC等)、pH調整剤(クエン酸等)、化学調味料(イノシン酸ナトリウム等)、増粘剤(キサンタンガム等)、膨張剤(炭酸カルシウム等)、消泡剤(リン酸カルシウム)等、結着剤(ポリリン酸ナトリウム等)、栄養強化剤(カルシウム強化剤、ビタミンA等)、賦形剤(水溶性デキストリン等)等が挙げられる。さらに、オタネニンジンエキス、エゾウコギエキス、ユーカリエキス、杜仲茶エキス等の機能性素材をさらに添加してもよい。
【0062】
本発明の飲食品は、上述したとおり、迷走神経活性化作用を有するため、脳血流改善、脳機能改善、睡眠改善又は摂食抑制効果を奏する上に、安全性が高く副作用の心配がない。また、本発明の迷走神経活性化剤は風味がよく、様々な飲食品に添加してもその飲食品の風味を阻害しないため、得られる飲食品は長期間の継続的摂取が容易であり、長期にわたって迷走神経の求心枝の活動亢進が期待される。
【0063】
さらに本発明の迷走神経活性化剤は、ヒト用の飲食品のみならず、家畜(ウシ、ブタなど)、競走馬、ペット(イヌ、ネコなど)の動物の飼料にも配合することができる。飼料は、対象がヒト以外であることを除き飲食品とほぼ等しいことから、上記の飲食品に関する記載は、飼料についても同様に当てはめることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
[参考例1]
乳酸菌ラクトバチルス・ガセリCP2305株は、MRS液体培地で培養後、凍結乾燥粉末化し、107cfu/mlに調製した。
【0066】
乳酸菌発酵乳は、ラクトバチルス・ガセリCP2305株を用いて、脱脂粉乳、酵母エキスを含む液体培地で培養後、凍結乾燥粉末化し、107cfu/mlに調製した。
【0067】
乳酸菌粉末は、ラクトバチルス・ガセリCP2305株を用いて、糖源、肉エキス、タンパク質加水分解物、酵母エキス、塩類等を含む液体培地で培養後、凍結乾燥粉末化し調製した。
【0068】
殺菌乳酸菌飲料は、乳酸菌CP2305株を用いて、脱脂粉乳、酵母エキスを含む液体培地で培養後、糖、塩類、フレーバー等を配合することにより調製した。
【0069】
[実施例1]
本実施例では、乳酸菌による胃及び腸迷走神経求心枝活動への影響を調べた。
【0070】
Wistar系雄ラット(約9週齢)を麻酔し、腸迷走神経求心枝若しくは胃迷走神経求心枝を電極で吊り上げ、その電気活動を測定した。
【0071】
参考例1に記載のように調製した乳酸菌CP2305株又はその発酵乳1ml(107cfu)を経口投与して、腸迷走神経求心枝若しくは胃迷走神経求心枝の電気活動の変化を電気生理学的に測定した。対照として、水を経口投与したラットにおいて同様に測定を行った。
【0072】
上記の実験結果を図1〜3に示す。図1及び2は、それぞれ乳酸菌生菌体及び乳酸菌発酵乳による腸迷走神経求心枝活動(intestinal vagal afferent nerve activity;IVNA)の変化を示す。また図3は、乳酸菌発酵乳による胃迷走神経求心枝活動(gastric vagal afferent nerve activity;GVNA)の変化を示す。この結果から、乳酸菌の生菌及び発酵乳が、胃及び腸迷走神経求心枝を活性化することが示された。
【0073】
[実施例2]
本実施例では、乳酸菌による脳機能への影響を調べた。
【0074】
健常人8名に、参考例1に記載のように調製した乳酸菌CP2305株生菌体粉末0.2gを1日1回3週間摂取させた。その摂取前後に単一光子放射断層撮影(SPECT)を行い、脳血流画像を取得した。
【0075】
代表的な脳血流画像を図4〜6に示す。図4は大脳皮質の血流(白矢印)を示し、図5は基底核の血流(白矢印)を示し、図6は後頭葉第8領域の血流(白丸)を示す。CP2305株摂取により、大脳皮質の血流が増加し(図4)、基底核の血流が抑制され(図5)、後頭葉第8領域の血流が抑制された(図6)。この結果から、乳酸菌による脳血流改善及び脳機能改善の可能性が示された。
【0076】
[実施例3]
本実施例では、乳酸菌による睡眠への影響を調べた。
【0077】
ストレス下にある健常人32名を2群に分け、乳酸菌CP2305株から製造された乳酸菌飲料(加熱殺菌)200ml又はプラセボ飲料(乳酸にて改変調整した未発酵乳)を35日間連続して摂取させ、摂取前後の健康状態に関して評価を実施した。摂取前後で睡眠の質に関する質問票を回答させ、スコアの比較を実施した。また、糞便中細菌叢の解析を実施し、腸内有害菌の1種であるバクテロイデス・ブルガタスの構成比を調べた。
【0078】
その結果を図7〜9に示す。図7は睡眠の質についてのスコア変化を示し、図8は寝付きについてのスコア変化を示し、図9は糞便中のバクテロイデス・ブルガタスの構成比変化を示す。これらの結果では、CP2305株摂取は、睡眠の質及び睡眠導入に関して改善が認められ(図7及び8)、腸内バクテロイデス・ブルガタスの構成比に関しても抑制が認められた(図9)。従って、乳酸菌摂取による睡眠改善の効果が示された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明により、迷走神経活性化剤が提供される。本発明の迷走神経活性化剤は、迷走神経活性化作用を有するため、脳血流改善、脳機能改善、睡眠改善又は摂食抑制などの効果を奏し、医薬又は健康飲食品に使用することができる。従って、本発明は、医薬品、飲食品、畜産などの分野に有用である。
【受託番号】
【0080】
受託番号FERM P-21356(ラクトバチルス・ガセリCP2305株、平成19年9月11日付寄託)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
迷走神経活性化作用を有する乳酸菌の菌体及び/又は乳酸菌の処理物を有効成分として含有する迷走神経活性化剤。
【請求項2】
乳酸菌が、ラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属、エンテロコッカス属、ロイコノストック属、ストレプトコッカス属、ラクトコッカス属、ペディオコッカス属、及びワイセラ属からなる群より選択される属に属する少なくとも1種の細菌である、請求項1に記載の迷走神経活性化剤。
【請求項3】
ラクトバチルス属に属する細菌が、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・アミロボラス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・ゼアエ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・クリスパタス、ラクトバチルス・ガリナーラム、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・デルブルッキ サブスピーシーズ ブルガリカス、及びラクトバチルス・ジョンソニーからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の迷走神経活性化剤。
【請求項4】
乳酸菌がラクトバチルス・ガセリCP2305株(FERM P-21356)である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の迷走神経活性化剤。
【請求項5】
乳酸菌の処理物が、乳酸菌の粉末若しくは懸濁液又は乳酸菌の発酵産物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の迷走神経活性化剤。
【請求項6】
迷走神経が胃及び/又は腸の迷走神経の求心枝である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の迷走神経活性化剤。
【請求項7】
経口投与用である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の迷走神経活性化剤。
【請求項8】
飲食品、飼料又は医薬品に使用するための、請求項1〜7のいずれか1項に記載の迷走神経活性化剤。
【請求項9】
脳血流改善又は摂食抑制に使用するための、請求項1〜8のいずれか1項に記載の迷走神経活性化剤。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の迷走神経活性化剤を調製する工程、及び該迷走神経活性化剤を飲食品に配合する工程を含む、機能性飲食品の製造方法。
【請求項11】
対象に迷走神経活性化作用を有する乳酸菌の菌体及び/又は乳酸菌の処理物を投与することを含む、対象における迷走神経を活性化する方法。
【請求項12】
迷走神経活性化作用を有する乳酸菌の菌体及び/又は乳酸菌の処理物と、薬学的に許容される担体とを含む、脳血流を改善するための医薬組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−17282(P2012−17282A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154893(P2010−154893)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000104353)カルピス株式会社 (35)
【Fターム(参考)】