説明

送受信方法

【課題】GIフリーOFDMシステムのための新規な等化方法を有する送受信方法を提案する。
【解決手段】本発明の送受信方法は送受信間のチャンネル応答を表すベクトルhをL個の要素として求める工程と、前記ベクトルhから、行列Hcyc(51式)と、行列H(6式)と、行列G(52式)と、要素がM個のベクトルg(53式)を作製する工程と、送信信号を送る工程と、受信した前記送信信号をN個毎のシンボルの受信信号であるベクトルrとして前記シンボル毎に離散フーリエ変換処理する工程と、前記離散フーリエ変換処理後のシンボルを、前記行列G(52式)に相当する周波数領等化処理をする工程と、前記周波数領域等化処理後のシンボルを逆離散フーリエ変換処理する工程と、前記逆離散フーリエ変換処理後のシンボルの最後のN−(M+L−2)個の信号を取り出す工程とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号をシンボル毎に送受信する通信方式に関する発明であり、特にシンボル間にガードインタバルを設けなくても、符号間干渉やキャリア間干渉の影響を削除できる通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
直交周波数分割多重(Orthogonal frequency−devision multiplexing:以後「OFDM」と呼ぶ)方式は、ADSLにおけるDMT同様、DAB、DVB、無線LANといった多くの通信システムで利用されている。OFDM方式は、よく知られているように、高い周波数利用効率、とチャンネルのマルチパスに対する頑強性を有している。
【0003】
マルチパスチャンネルが原因となる歪に対処するために、ガードインタバル(Gard Interval:以後「GI」と呼ぶ。)とも呼ばれる、サイクリックプレフィックス(Cyclic Prefix:以後「CP」と呼ぶ。)がOFDMシンボル間に挿入されている。CPの長さは、チャンネルでの遅れ時間よりも長く設定されているので、符号間干渉(Inter−Symbol Interference:以後「ISI」と呼ぶ。)から受信した信号を保護することができ、また周波数領域での補償も容易である。
【0004】
GIは符号間干渉を解消するには非常に効果的であるが、なんの情報も生まない信号を送信するので、貴重な帯域を浪費していることになる。このGIの長さは、できるだけ短く選択されるべきであり、さらに究極的には、OFDM通信システムからGIを排除するのが、使用帯域の有効利用という観点からは望ましい。OFDMシステムにおいてGIを短くすることについては、すでに検討されている(非特許文献2乃至7)。
【0005】
OFDMシステムは、符号間干渉やキャリア間干渉(Inter−Carrier Interference:以後「ICI」と呼ぶ)に脆弱であることは知られており、従来の1タップ周波数補償(1タップイコライザとも呼ぶ)は、信号を回復させることができない。なお、周波数領域での補償をFDE(Frequency Domain Equalization)とも呼ぶ。
【0006】
よく知られている対処方法は、短いGIにインパルス応答を入れ、復調する前に時間領域での補償を行うことである(非特許文献2)。
【0007】
時間領域での補償(Time Domain Equalization:以後「TDE」とも呼ぶ。)を利用した補償は、近年、周波数領域でのプレトーン等化補償と同等であると理解されていた(非特許文献3)。
【0008】
GIを利用したISIやICIに対する対応策の他の方法としては、テール削除や巡回再構築、前符号やオーバーサンプリング等が提案されていた(非特許文献4乃至6および非特許文献7)。
【0009】
一方、GIフリーのOFDMシステムの研究も見受けられる(非特許文献8乃至10)。非特許文献8における等化はOFDMシステムにおける使用されていないサブキャリアであるヌルサブキャリアを利用するものである。
【0010】
非特許文献9は、ISIとICIの除去を繰り返し行うことを提案している。これは、非特許文献5に示された短いGIを有するOFDMの方法を拡張したものと考えられる。反復法に関しては、信号間に挿入されたトレーニング信号に基づいて、チャンネルの反復決定方法も提案されている(非特許文献10)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】[1] Part 11: Wireless LAN Medium Access Control and Physical Layer (PHY) Specifications: High−Speed Physical Layer in the 5GHz Band, IEEE Standard 802.11a−1999.
【非特許文献2】[2] P. J. W. Melsa, R. C. Younce, and C. E. Rohrs, ”Impulse response shortening for discrete multitone transceivers,” IEEETrans. Commun., vol. 44, no. 12, pp. 1662−1672, Dec. 1996.
【非特許文献3】[3] K. Van Acker, G. Leus, M. Moonen, O. van de Wiel, and T. Pollet, ”Per tone equalization for DMT receivers,” in Proc.of IEEE Global Telecommun. Conf., vol. 5, pp. 2311−2315, 1999.
【非特許文献4】[4] J. M. Cioffi and J. A. C. Bingham, ”A data−driven multitone echo canceller,” IEEE Trans. Commun., vol. 42, no. 10, pp.2853−2869, Oct. 1994.
【非特許文献5】[5] D. Kim and G. L. Stuber, ”Residual ISI cancellation for OFDM with applications to HDTV broadcasting,” IEEE J. Sel.Areas Commun., vol. 16, no. 8, pp. 1590−1599, Oct. 1998.
【非特許文献6】[6] K. W. Cheong and J. M. Cioffi, ”Precoder for DMT with insufficient cyclic prefix,” in Proc. of IEEE Int. Conf. Commun.,vol. 1, pp. 339−343, June 1998.
【非特許文献7】[7] M. de Courville, P. Duhamel, P. Madec, and J. Palicot, ”Blind equalization of OFDM systems based on the minimizationof a quadratic criterion, in Proc. of IEEE Int. Conf. Commun., vol. 3, pp. 1318−1322, June 1996.
【非特許文献8】[8] S. Trautmann and N. J. Fliege, ”Perfect equalization for DMT systems without guard interval,” IEEE J. Sel. Areas Commun.,vol. 20, no. 5, pp. 987−996, June 2002.
【非特許文献9】[9] X. Wang, P. Ho, and Y. Wu, ”Robust channel estimation and ISI cancellation for OFDM systems with suppressed features,”IEEE J. Sel. Areas Commun., vol. 23, no. 5, pp. 963−972, May 2005.
【非特許文献10】[10] W−C. Huang, Y−S. Yang, C−P. Li, and H−J. Li, ”Superimposed training for data detection and channel estimation in OFDM systems without cyclic prefix,” in Proc. of IEEE Veh. Technol. Conf., pp. 1−5, Sept. 2009.
【非特許文献11】[11] E. Newhall, S. Qureshi, and C. Simone, ”A technique for finding approximate inverse systems and its applications to equalization,” IEEE Trans. Commun., vol. COM−19, no. 6, pp. 1116−1127, Dec. 1971.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、ヌルサブキャリアを用いる方法では、それ専用のヌルキャリアが必要となる。それは、従来のOFDMシステムには有用でない。そのようなヌルキャリアは、エイリアシングを排除し、伝送フィルタを容易にするために周波数帯域の両端に配置される。また、反復方法は、計算の複雑さを増加させるだけでなく、エラーを伝搬させることにもなる。特に高次のコンスタレーション信号ではエラーの伝播は顕著となる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで本発明の目的は、GIフリーOFDMシステムのための新規な等化方法を有する送受信方法を提案することである。この方法では、ヌルサブキャリアも反復工程も必要としない。さらに、本発明の送受信方法は、より興味深い現象を示すことができる。それは、ISIは、ある特殊なチャンネル条件の下では、送信信号のシンボルの始めの部分だけに干渉の影響を及ぼしているということである。
【0014】
換言すると、GIがない場合であっても、ISIやICIのない送信信号の一部を得る事ができる。また、この事はOFDM方式に限定されることではなく、いかなる方式であっても、ISIやICIの影響を受けていない送信信号を受信側で得ることができる。この特殊なチャンネル条件、(ここでは、プロパーなチャンネルと呼ぶ。)は、その逆数が適当な長さのFIRフィルタとして近似することができる。
【0015】
通常、最小位相チャンネルは、プロパーと考えることができる。非最小位相チャンネルに対しては、そのチャンネルインパルスレスポンスを調整する時間領域での等化手段(TEQ)を提案する。一度等化され、チャンネルインパルスレスポンスがプロパーとなったら、受信処理する信号の一部から、ISIやICIの影響を受けていない信号を取り出すことができる。そして、この影響を受けていない信号を使うことで、全送信信号を受信側で再現することができる。システムがOFDMの場合であれば、実質的に全OFDMシンボルを再現することができる。
【0016】
より具体的に、本発明の送受信方法は、
送受信間のチャンネル応答を表すベクトルhをL個の要素として求める工程と、
前記ベクトルhから、行列Hcyc(51式)と、行列H(6式)と、行列G(52式)と、要素がM個のベクトルg(53式)を作製する工程と、
送信信号を送る工程と、
受信した前記送信信号をN個毎のシンボルの受信信号であるベクトルrとして前記シンボル毎に離散フーリエ変換処理する工程と、
前記離散フーリエ変換処理後のシンボルを、前記行列G(52式)に相当する周波数領域等化処理をする工程と、
前記周波数領域等化処理後のシンボルを逆離散フーリエ変換処理する工程と、
前記逆離散フーリエ変換処理後のシンボルの最後のN−(M+L−2)個の信号を取り出す工程とを有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の送受信方法をOFDM方式で用いる場合は、
OFDM方式の送受信方法であって、
送受信間のチャンネル応答を表すベクトルhをL個の要素として求める工程と、
前記ベクトルhから、行列Hcyc(51式)と、行列H(6式)と、行列G(52式)を作製する工程と、
送信する各シンボル間にガードインタバルを設けずに送信信号を送る工程と、
受信した前記送信信号ベクトルrをシンボル毎に離散フーリエ変換処理する工程と、
前記離散フーリエ変換処理後のシンボルを、前記行列G(52式)に相当する周波数領域等化処理をする工程と、
前記周波数領域等化処理後のシンボルを逆離散フーリエ変換処理する工程と、
前記逆離散フーリエ変換処理後のシンボルの最後のL−1個の信号をベクトルドットsとして取り出す工程と、
1つ前のシンボルの最後のL−1個の信号であるベクトルドットsi−1と、前記L−1個の信号であるベクトルドットsと、受信信号rに対して、54式右辺で示すように離散フーリエ変換処理と前記周波数領域等化処理を順に作用させ、送信データを得る工程とを
有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の送受信方法では、伝送路がプロパーとなる条件下で、受信信号をフーリエ変換し、チャンネル応答から求められる周波数領域での等化処理を行い、さらに逆フーリエ変換することで、ISIやICIの影響を受けていない送信信号を処理している受信信号中から得る事ができる。これはOFDM方式に限定されるものではなく、いかなる方式の信号であっても、送信された送信信号のうちISIやICIの影響を受けていない送信信号を得る事ができるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明の送受信方法をOFDM方式に用いれば、GIをシンボル間に設けなくても、ヌルサブキャリアや反復工程といった操作を必要とせずに、元の信号を復元することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の構成を示す図である。
【図2】最小位相でない伝送路の場合に対する本発明の構成を示す図である。
【図3】時間領域等化処理部の構成を示す図である。
【図4】他の実施形態の構成を示す図である。
【図5】他の実施形態の信号処理のタイムチャートを示す図である。
【図6】シミュレーション結果を示す図である。
【図7】チャンネルの状態によって、エラーの伝播がシンボル中のどのサンプルにまで及ぶかを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の送受信方法について、詳細な説明を行う。デジタル伝送システムは、数学的に記述することが可能であるため、以下には、送信信号、受信信号、DFT(Discrete Fourier Transform:離散フーリエ変換)処理、IDFT(Inverse Discrete Fourier Transform:逆離散フーリエ変換)処理、周波数領域での等化処理などといった処理を行列を用いて説明する。
【0022】
記載上の制約があるため、行列は、文章中では、例えば「行列A」等と記載し、式中では、太文字で表す。行若しくは列の要素が1つ(1列又は1行だけ)の場合を「ベクトルB」等と呼ぶ。エルミート行列や転置行列、逆行列は、文章中では、(・)、(・)、(・)−1と表す。なお、式中では、「H」や「T」は書体が異なる。式中で太文字の「F」で表される行列Fは、N点のDFTに対する行列を表し、行列Fは、IDFTに対する行列を表す。
【0023】
また本明細書中では、文字の直上にドット「・」をつけた文字を使用するが文章中では、「ドットs」と表示し、「ドットs」がベクトルの場合は、「ベクトルドットs」と表示する。
【0024】
(実施の形態1)
図1に本発明に係る通信システム全体の概念図を示す。図1の通信システムはOFDM方式に基づくシステムである。送信機2内では、送信されるデータがマッピング部10でマッピング処理をされた後、並列化部11で並列化され送信される送信データであるベクトルSが生成される。
【0025】
送信データであるベクトルSは、逆離散フーリエ変換部(IDFT変換部)12で、所定のサブキャリアに割り当てられ時間領域信号に変換され送信信号であるベクトルsとなる。この信号は連続化部13で連続信号にされ、送信される。
【0026】
送信波は、伝送路16途中でさまざまな影響を受ける。送信波が伝送路16から受ける影響をチャンネル応答と呼ぶ。したがって、受信機3側で受信された信号は、チャンネル応答の影響を受け、何らかの歪が生じている。また、ノイズはガウシャンノイズ(AWGN)17がまとめて重畳されるとする。
【0027】
受信機3では、受信された信号を並列化部20によって並列化し、受信信号rとする。これは離散処理のためである。なお、キャリア周波数帯域からダウンコンバートする工程は省略している。本発明の送受信方法では、この受信信号rに対して、離散フーリエ処理部(DFT処理部)21でフーリエ変換処理を行い、次に周波数領域等化処理部(FDE)22で、周波数領域での等化処理を行い、そして逆離散フーリエ変換処理部23で逆フーリエ変換処理を行うことで、ICIやISIの影響を受けていない末尾信号を有する受信信号を得る事ができる。これは、バッファ24を介して、末尾処理部25で行われる。
【0028】
そして、この信号に基づいて、CP再構築部26で、末尾部にエラーのない送信信号と、受信信号rを合わせて、さらに離散フーリエ変換部27でフーリエ変換処理を行い、周波数領域等化処理部(FDE)28で等化処理を行う。以上の処理によって送信データであるベクトルSを再現することができる。
【0029】
本発明の送受信方法では、予め内容のわかったパイロット信号を送信機2(送信側)と受信機3(受信側)の間で伝送しておき、チャンネル応答の状態を把握しておく必要がある。このチャンネル応答を行列表示した行列と、DFT処理およびIDFT処理を行列表示した行列から周波数領域での等化処理を求めることができる。また、伝送路のチャンネル応答は、その伝達関数が最小位相であることが必要である。なお、伝送路の伝達関数が最小位相でない場合は、実質的に最小位相であるとみなせる処理を、実施の形態2で示す。なお、図1では、DFT処理部をFFTと記載し、IDFT処理部をIFFTと記載しているが、意味は同じである。
【0030】
さて、GIを使わないOFDM方式を説明するため、サブキャリアがN本ある場合を想定する。送信機においては、複素信号がN点IDFT処理部12によってブロック単位で変換される。
【0031】
N個のサブキャリアを有するOFDMシステムにおいては、バンド幅Bは、間隔f=B/NのNチャンネルに分割される。この場合Ts=1/(Nf)となる。N個のサブチャンネルを有するDFT処理は(50)式のように行列Fとして表される。ここで、各行はサブチャンネルを表す。第1行は周波数ゼロ、すなわちDC成分を表す。各行は、左から右に位相が進むように要素が配置されている。IDFT処理はこの行列Fのエルミート行列であり、行列Fで表される。
【0032】
【数1】

【0033】
をi番目のシンボルのn番目のサブキャリアで変換される送信データとする。「n」は、大文字「S」の右肩に表示され、「i」は大文字「S」の右下に表示される。すると、i番目の周波数領域のシンボルで変換される送信データは、ベクトルS=[S,・・・・,SN−1というN個のデータで表される。なお、ベクトルSの右辺右肩の「T」は、上述の通り、転置行列であることを示す。
【0034】
伝送路には予めパイロット信号を流しておき、インパルス応答であるベクトルh=[h,・・・・,hL−1]が求められているものとする。すなわち、伝送路のチャンネル応答がL個の要素を有するベクトルhで表されることを表す。
【0035】
送信データであるベクトルSは、逆離散フーリエ変換処理部12でサブキャリア毎の周波数に変換され、時間領域の信号であるベクトルsに変換される。これを式で表すと、ベクトルs=行列F・ベクトルSと表される。ここで「・」は行列同士の積を表している。
【0036】
このベクトルsは連続信号(送信信号)にされて、送信され、伝送路のチャンネル応答の影響を受けた後、受信機で受信される。なお、キャリア信号で変復調する工程は省略している。従って、受信機で受信された受信信号はベクトルrとなる。ここでベクトルr=[r,r,・・・,rN−1である。送信に関するこれらの関係を式で表すと(1)式のようになる。
【0037】
【数2】

【0038】
ここで、sは、i番目の伝送される時間領域シンボル中のm番目の信号を表す。また、ベクトルzはN×1のベクトルで表され、ガウシャンノイズ(AWGN)を表す。なお、以後の説明では、簡単のために、このノイズ分は省略して説明を続ける。これは伝送中に加えられるノイズ17を表している。また、チャンネル応答を表す行列(チャンネル行列と呼ぶ)である行列Hは、N×(N+L−1)の要素を有するテプリッツ行列のような行列(Toeplitz−like matrix)として表される。行列Hをあらわに示すと(2)式のようになる。
【0039】
【数3】

【0040】
(1)式に戻って、GIのない送信信号では、i番目のシンボルの信号だけでなく、i―1番目のシンボルの信号の一部も受信信号として取り込まれる。言い換えると、受信側では、送信側が送信するシンボルより多い信号をDFT処理の対象とする。ここで、sは、i番目の伝送される時間領域シンボル中のm番目の信号を表すこととしたので、i番目の時間領域シンボルの信号は、ベクトルs=[s,s,・・・,sN−1と表される。つまり、最後のL−1個の信号は、(sN−L+1,・・・,sN−1)である。したがって、i−1番目のシンボル中の最後のL−1個の信号は(3)式のように表される。
【0041】
【数4】

【0042】
(3)式の左辺のベクトルドットsi−1は、i−1番目のシンボルの最後のL−1個の信号であるので、i番目のシンボルの最後のL−1個の信号もベクトルドットsと表される。このようにすると(1)式は次の(4)式のように書き直すことができる。
【0043】
【数5】

【0044】
ここで、行列Hと行列Hは次の(5)式および(6)式で表される。
【0045】
【数6】

【0046】
【数7】

【0047】
行列HはN×Nの要素を有する行列であり、行列Hは、N×(L−1)個の要素を有する行列である。これらの行列を構成する全ての要素は、ベクトルhの要素から構成されているので、ベクトルhが求まれば行列Hと行列Hは容易に構成することができる。
【0048】
そして、行列Hcyc=行列H+[行列0 行列H]とする行列Hcycを考える。行列Hcycは巡回行列である。行列0(ゼロ)は、行列Hcycと要素の数を同じにするために、行列Hの左側に付け加える要素が全てゼロの行列を表す。従って、行列HcycはN×N個の要素を有する行列である。行列Hcycを(51)式に示す。
【0049】
【数8】

【0050】
通常サイクリックフレックス(CP)を使用するOFDMシステムでは、(1)式のベクトルドットsi−1の部分は現在の送信信号であるベクトルsの最後のL−1個のサンプルに相当するベクトルドットsで置き換えられている。
【0051】
ベクトルドットsでCPの部分が置き換えられた状態で(1)式を見る。行列Hが(2)式で表されるので、(1)式の右辺の行列積の第1行目の計算は以下のようになっている。まず、行列Hの第1行目は、(hL−1,・・・,h,h,0,・・・,0)である。これに掛けられるベクトルは[sL−N+1,・・・,sN−1,s,s,・・・,sN−1である。
【0052】
この結果は、(hL−1・sL−N+1,・・・,h・sN−1,h・s,0,・・・,0)である。この最初のL−1個の信号は、ベクトルsの最後のL−1個の信号にベクトルhの要素であるhL−1からhをかけたものである。したがって、これらを後方に移動させると、(h・s,0,・・・,hL−1・sL−N+1,・・・,h・sN−1)のようになる。
【0053】
これは、巡回行列である行列Hcycに送信信号であるベクトルsをかけた結果と同じである。すなわち、ベクトルr=行列Hcyc・ベクトルsと表される。これはCP付きのOFDM信号の受信信号は、1シンボル分の送信信号を表すベクトルとチャンネル応答から作られる巡回行列の巡回畳みこみ計算で求められることを表している。
【0054】
巡回行列は、DFTとIDFTを前後に作用させることで容易に対角化することができる。また、送信信号であるベクトルsは、送信データであるベクトルSをIDFTしたものである(ベクトルs=行列F・ベクトルS)ので、送信された送信データであるベクトルSは、DFT処理に続く1タップの周波数等化処理によって容易に復調させることができる。なお、1タップの周波数等化処理とは、各サブキャリアに対して1つの要素を作用させることで、数学的には対角行列を作用させることであり、容易に構成することができる。
【0055】
さらに(4)式を以下のように書き直す。
【0056】
【数9】

【0057】
(8)式の右辺第2項は、1つ前のシンボルの信号との間の干渉とチャンネル応答に基づくものであるので、ICIとISIに起因するものであることが明白である。つまり、GIをなくしたOFDMシステムでは、1つ前のシンボルの信号との干渉も生じる。
【0058】
ここで、巡回行列である行列Hcycを対角行列化した行列Gを登場させる。行列Gは、行列Hcycの右から行列Fを作用させ、左から行列Fを作用させ、さらにそれを逆行列にしたものである。あらわに書くと、(52)式のようになる。
【0059】
【数10】

【0060】
伝送路のチャンネル応答であるベクトルhは予め調べておくこととしたので、行列Hcycの内容は、受信機には予めわかっている。具体的には、ベクトルhの各要素を(51)式のように配列させればよい。また、行列Fおよび行列FはそれぞれDFT処理とIDFT処理であるので、サブキャリアの数やそれぞれの周波数がわかれば、(50)式に基づいて、これも予め知ることができる。従って、行列Gは予め求めて、受信機に記憶させておくことができる。
【0061】
また、巡回行列にDFT処理とIDFT処理を施した(行列F・行列Hcyc・行列F)で求められる行列は、対角行列である。したがって、その逆行列である行列Gも、対角行列となる。
【0062】
また、(8)式の右辺第1項にベクトルs=行列F・ベクトルSの関係を代入すると、第1項は、行列Hcyc・行列F・ベクトルSとなる。そこで、さらに(8)式に左から行列Fと行列Gを作用させると、(9)式を得る事ができる。
【0063】
【数11】

【0064】
ここで(8)式の右辺第1項は以下のように変形され(9)式の右辺第1項となった。
【0065】
【数12】

【0066】
(6)式より、チャンネル応答であるベクトルhが完全にわかっていれば、ベクトルHの内容も予め知ることができる。すると、受信機3側で送信信号の最後のL−1個の内容がわかれば、あとは、行列Fおよび対角行列である行列Gによる操作によって送信データであるベクトルSを求める事ができる。これは、1タップ周波数等化処理とDFT処理によって送信データであるベクトルSを求めることができることを表している。
【0067】
そこで、ベクトルd=ベクトルドットsi−1−ベクトルドットsと置き、さらに(9)式の両辺に行列Fを作用させる。これはIDFT処理をさらに行うことに対応する。
【0068】
【数13】

【0069】
行列Gが対角行列であるので、行列Ω=行列F・行列G・行列Fは、行列Hcycと似た形を有する。そこで、行列Gに対応するインパルス応答がベクトルg=[g,・・・,gM−1]とすると、行列Ωは、以下の(13)式のように表される。なお、文章中の「g」と式中の小文字のgは、書体が異なるがともに小文字のgであり、同じものを表す。
【0070】
【数14】

【0071】
ここで、行列Hの最後のN−M+1個のサンプルが全てゼロであるので、(12)式の右辺第2項である行列Ω・行列H・ベクトルdの最後のN−(M+L−2)個のサンプルは、全てゼロになる。
【0072】
すなわち、N−(M+L−2)≧L−1の条件が満足されれば、(10)式の左辺である、行列F・行列G・行列F・ベクトルrを計算することで、ICIもISIの影響も受けていない、送信信号であるベクトルsの末尾部分であるベクトルドットsを得る事ができる。この条件は、(12)式の右辺第2項の最後のN−(M+L−2)個のサンプル(すべて値はゼロ)が、L−1個より多くなる条件であり、この条件が満たされれば、(12)式の左辺の処理を行った結果の信号の最後のL−1個の信号は、右辺第2項による干渉の影響を受けない信号となることを表している。また、これは受信した信号にDFT処理を行い、次に行列Gで表される周波数領域の等化処理を行い、さらにIDFT処理を行うだけで、ICIやISIの影響を受けない送信信号の末尾部分を得る事ができることを表している。
【0073】
ベクトルgはベクトルhの逆チャンネルである。ベクトルhが分かっていれば、行列Gに対応するインパルス応答から、若しくは(53)式によってベクトルgは求めることができ、ベクトルgの要素の数Mも求める事ができる。そして、LとMの間にM≦N−2L+3となる関係が満足されている場合はプロバーなチャンネルと呼ぶ。
【0074】
同様にして、1つ前のシンボルの送信信号の末尾部の信号であるベクトルsi−1についても、ICIやISIの影響を受けない信号を求めることができる。
【0075】
なお、行列Gの対角成分を[G,G,・・・,GN−1]とすると、ベクトルgは以下のベクトルg´の最初のM個の要素から求めることもできる。
【0076】
【数15】

【0077】
再び(9)式に戻ると、(9)式の左辺は受信信号であるベクトルrに対するDFT処理および周波数領域の等化処理である。また、右辺第2項は、ICIからもISIからも影響を受けない信号となるベクトルドットsi−1とベクトルドットsの差に、チャンネル応答の情報から知ることができる行列HにDFT処理と周波数領域の等化処理である。したがって、この処理は実際に行うことができ、それによって送信データであるベクトルSを求めることができる。
【0078】
図1でこれらの処理を具体的に説明する。送信機2と受信機3が用意され、これらの間のチャンネル応答特性は予めパイロット信号を通すことで求められている。つまり、伝送路16の応答特性であるベクトルhが具体的に複素データとして得る事ができている。これから、行列Hcycと行列Hは求めることができる。したがって、行列Gも求めることができる。受信機3ではこれらのデータを保持している。
【0079】
以上の条件で、送信機2からはGIのない時間領域での連続信号であるベクトルsが送信され、受信機3で受信される。まず、送信データであるベクトルSを送信機2の逆離散フーリエ変換処理部12で時間領域の連続送信信号ベクトルsに変換する。次に、適当なキャリア信号で変調し送信する。受信機3で受信された信号は、ベースバンドにダウンコンバートされた後、離散フーリエ変換処理部21で離散フーリエ変換処理が施される。次に行列Gに相当する周波数領域の等化処理を周波数領域等化処理部22で受ける。さらに逆離散フーリエ変換処理部23にて、逆離散フーリエ変換処理が施される。これで、(10)式の左辺が実施されることとなる。
【0080】
次に、この処理された信号の末尾部(L−1個分)を末尾処理部25で取り出す。これはベクトルドットsである。この末尾部の信号は次のシンボルの計算にも用いるので、記憶しておく。1つ前の信号の末尾部の信号であるベクトルドットsi−1と共に、その差(ベクトルd)を求めておいてもよい。次にCP再構築部26において、ベクトルドットsi−1とベクトルドットsi−1との差に行列Hを作用させる処理を行う。さらに、その信号を受信信号であるベクトルrから差し引く。
【0081】
この信号をさらに離散フーリエ変換処理部27で離散フーリエ変換処理を行い、次に周波数領域等化処理部28で、行列Gを作用させる処理を行う。これによって、送信データであるベクトルSを求めることができる。なお、上記の処理は、(8)式を具現化した構成であるが、(9)式を具現化してもよい。(9)式は以下の(54)式のように変形することで、上記と同じ構成で具現化することができる。
【0082】
【数16】

【0083】
(実施の形態2)
実施の形態1で示したように、GIのないOFDMシステムであっても、ICIやISIの影響を除外して送信データを再現させることができる。しかし、これは伝送路の伝達関数が最小位相であることが必要である。もし伝送路の伝達関数が最小位相でない場合は、受信信号が安定しないからである。
【0084】
すでに実施の形態1で示したように本発明の方法では、伝送路がプロパーなチャンネルであることが必要である。通常はサブキャリアの数Nが、チャンネル応答の長さLより十分に長いので、最小位相チャンネルもプロパーなチャンネルであると考えられる。
【0085】
しかし、もし伝送路の伝達関数が最小位相でなければ、受信信号が最小位相になるような手段を講じる必要がある。以下には、ふたたび最初に数学的な説明を行い、その後、具現化する場合の構成を説明する。
【0086】
伝送路において、チャンネル応答がL個の要素で表される場合、その伝達関数は(14)式のように表される。
【0087】
【数17】

【0088】
これは、次の(15)式のように変形することができる。
【0089】
【数18】

【0090】
ここで、a,a,・・・,aL−1は、チャンネルのゼロ点である。ここでは、どのゼロ点も単位円上にはないとする。つまり、|a|≠1(小文字はエルである。),1≦l≦L−1である。これはz面における単位円上はシステムの帯域において、ゼロ周波数応答を意味するからである。つまり、利得がゼロとなってしまうからである。
【0091】
一般性を失うことなく、P個(P<L−1)のゼロ点a,・・a,・・・,aが単位円の外にあるとする。伝達関数H(z)を最小位相になるようにするには、これら全ての点を単位円内へ移動させる必要がある。そこで、H(z)=(1−a−1)に相当するp番目のゼロ点を例として、時間領域の等化処理について説明する。
【0092】
明らかに、aを除くには、逆フィルタH´(z)=1/(1−a−1)を作用させればよい。しかし、aが単位円の外にあるために、逆フィルタH´(z)は安定でない。したがって、実フィルタによって近似する必要がある。そこで、非特許文献11に示されている近似法を適用する。この文献中長分割は、近似的な逆システムを見出すために用いられている。H(z)=(1−a−1)のシステムの近似的な逆システムを見出す方法は以下のように与えられる。
【0093】
最初に、D(z)=z(z)のように置く。ここで、nはインパルスレスポンスのピーク値を選択する。ここで、H(z)に相当するインパルス応答は[1,a]である。なぜなら、|a|>1であるからn=1だからである。1/D(z)を見出すために長分割の後に(16)式を得る。
【0094】
【数19】

【0095】
ここで、Q(z)とR(z)は、それぞれ多項式の商と余りである。1/H(z)は安定でなく、また発散する場合もあるので、R(z)は、大きな係数を有する。そこで、(16)式においてR(z)は1より十分大きいとみなして、(17)式のように変形する。
【0096】
【数20】

【0097】
をQ(z)の打ち切り多項式の最高指数とすると、Q(z)およびR(z)はそれぞれ(18)式と(19)式のように表される。
【0098】
【数21】

【0099】
R(z)はたった1つの項であるから、近似的な逆フィルタは(20)式のように得る事ができる。
【0100】
【数22】

【0101】
H´(z)がH(z)の逆フィルタとしてよい近似になっていることを確認するために、(21)式を計算してみる。
【0102】
【数23】

【0103】
は十分大きいとしたので、(21)式の右辺第1項は省略することができ、その結果(22)式のように表すことができる。
【0104】
【数24】

【0105】
(22)式より、近似的な逆フィルタをチャンネルの直後に作用させることで、K+1個のサンプル分の遅延が生じるだけであることがわかる。他のゼロ点も考慮すると、時間領域の等化処理は(23)式のように表される。
【0106】
【数25】

【0107】
以上のように、近似的な時間領域等化処理を用いる事で、伝送路の伝達関数が最小位相でない場合も最小位相にすることができる。
【0108】
図2には、この時間領域等化処理部29を装着した本発明の送受信システムを示す。受信機3は受信信号を受信した後に時間領域等化処理部(TEQ)29で上記の近似的な逆フィルタを作用させる。この処理を通過した受信信号は、遅れが生じているものの、最小位相の伝送路を通過した信号として扱えるので、後は実施の形態1と同じように処理することができる。
【0109】
なお、時間領域等化処理部29は予め伝送路の特性41を調べておきアンプの係数等を決めた時間領域等化処理部42が反映される。
【0110】
図3には、時間領域等化処理部29の具体的な構成を示す。時間領域等化処理部29は(23)式を具現化したものである。中には、逆フィルタが単位円から外れるゼロ点の数だけ用意される。逆フィルタ50、51、53はそれぞれ単位円からはずれるゼロ点に対する逆フィルタである。今p番目の逆フィルタ50について注目すると、中身は(20)式を具現化した構成となっている。(20)式を見ると、Kp個の遅延要素から構成される非再帰型フィルタであるので、遅延要素55を1番目とすると、遅延要素56は2番目であり、遅延要素58は、Kp番目の遅延要素となる。
【0111】
次にそれぞれからの出力のアンプ61乃至64は、(20)式の係数として与えられる。例えば、アンプ61のゲインは(20)式より1/(−aKp)である。またアンプ64のゲインは(aKp−1/(−aKp))である。これらのゲインおよび逆フィルタの数は、伝送路毎に決定される。
【0112】
これらのアンプの出力を加算器69で足し合わせることで、p番目のゼロ点を削除することができる。単位円の外にあるゼロ点毎に逆フィルタを用意し、それぞれを直列に連結することで、時間領域等化処理部29は構成される。送受信システムは、この時間領域等化処理部29を有することで、伝送路が最小位相でなくても最小位相として扱うことができ、すなわち、プロバーなチャンネルとして扱うことができる。
【0113】
(実施の形態3)
再び、(12)式を示す。
【0114】
【数26】

【0115】
ここで、行列Ω・行列H・ベクトルdの最後のN−(M+L−2)個のサンプルは、全てゼロになるのであった。すると、受信信号rをN−(M+L−2)個ずつずらせて処理を行い、干渉を受けていない信号だけを抽出すると、干渉を受けていない送信信号を得る事ができる。
【0116】
図4に本実施の形態の受信機の構成を示す。図4(b)を参照して、本実施の形態において、受信機には、送信信号抽出器70が、所定個数用意される。ここでは、符号70、80、82、84は全て同じ送信信号抽出器である。図4(a)を参照して、送信信号抽出器70の構成を説明する。送信信号抽出器70は、先入れ先出しのN個分のデータを記憶するバッファメモリ71と、離散フーリエ変換処理部21と、周波数領域等化処理部22と、逆離散フーリエ変換処理部23と、N個分のデータを記憶し、最後のN−(M+L−2)個分のデータだけ出力するバッファメモリ72を含む。
【0117】
バッファメモリ71に入力される入力信号73は、受信機の受信信号であるベクトルrである。入力信号73は、バッファメモリ71に順番に記憶されていき、記憶されるデータがN個を超えると、最初に入ったデータから捨てられる(74)。つまり、バッファメモリ71には常に、最新のN個のデータが蓄積されている。そして、タイミング信号76によって、バッファメモリ71の内容は全て離散フーリエ変換処理部21に渡される。データを渡したバッファメモリ71は、また新たにデータを記憶する。
【0118】
離散フーリエ変換処理部21と、周波数領域等化処理部22と、逆離散フーリエ変換処理部23による処理は、(12)式の左辺を実施する処理であり、実施の形態1の場合で説明した通りである。従って、逆離散フーリエ変換処理部23は、最後のN−(M+L−2)個はなんらの干渉も受けないデータとなっている送信信号をバッファメモリ72に渡す。
【0119】
バッファメモリ72は、最後のN−(M+L−2)個のデータだけをシステムのタイミングで順次出力するメモリである。つまり、出力75は、なんらの干渉の影響を受けていない送信信号が出力される。このような送信信号抽出器が複数個並列に配置されたのが、図4(b)である。ここでは例として、受信信号rは、4×(N−(M+L−2))個のデータから構成されるとする。
【0120】
図4(b)の受信機は、図示しないタイミング制御部が送信信号抽出器のタイミング信号76を順次切り替えることで、干渉を受けない送信信号だけを出力することができる。図5はこれをタイミングチャートで示したものである。送信信号抽出器同士の入力段のバッファメモリに送られるタイミング信号はTmずつずれて送られる。今、送信信号抽出器70から順に、タイミング信号が送られるとする。送信信号抽出器70のバッファメモリは最初に一杯になるので、(12)式の右辺の処理がT1から開始され、t後から最後尾のN−(M+L−2)個の信号が順次出力される。その信号を、ここではA0とした。
【0121】
送信信号抽出器80、82、84も順次Tm間隔で、最後尾のN−(M+L−2)個の信号を出力する。それぞれA1、A2、A3である。各送信信号抽出器に送られるタイミング信号はTmだけずれて、巡回的に送信されるので、結果、A0乃至A3が連続して出力される。これは、ISIやICIといった干渉の影響を全くうけていない送信信号を再現できることを意味する。
【0122】
また、このように再現した送信信号は、送信側が送信した時間領域の信号であり、変調方法や送受信のプロトコルには全く依存しない。すなわち、このような送信信号の再現は、OFDM方式に限定されるものではなく、いかなる方式の信号であっても、ISIやICIの影響を受けない送信信号を再現することができる。
【0123】
さらに、この方法を行えるのは、伝送路がプロパーな場合だけであるが、上記の方法では、受信信号rに対するNという数字は、フーリエ変換のためのデータ数でしかない。したがって、受信側でフーリエ変換のデータ数を変えることで、N−(M+L−2)≧L−1の条件を実質的に常に満たすことができる。すなわち、本発明の送受信方法は、受信側で離散フーリエ変換処理および逆離散フーリエ変換処理のデータ数を調節することで、実質的にほとんどの伝送路において、ISIやICIといった干渉の影響を全く受けない送信信号を再現することができる。
【0124】
言い換えると、OFDM方式に限らず、ブロック単位で送信される信号であれば、受信機側にチャンネル応答とDFTおよびIDFTを備えることで、ISIやICIの影響を受けない信号を再現することができる。
【実施例】
【0125】
本発明の送受信方法の効果をシミュレーションによって調べた。シミュレートしたOFDMシステムでは、サブキャリアの数がN=64であり、信号のコンスタレーションは、QPSK、16−QAM、64−QAMを用いた。また、チャンネルは2の特性のものを用意した。
【0126】
【数27】

【0127】
ここで、ベクトルh1は最小位相であり、ベクトルh2は、2つの点が単位円から外れる非最小位相のチャンネルである。これらの2つのチャンネルは単位パワーになるように規格化されている。本発明の送受信システムに対する比較例として従来のOFDMシステム(CP−OFDM)を用いた。シンボルエラーレート(SER)とSN比(SNR)の結果を図6に示す。図6は、横軸がSNRであり縦軸がSERである。図6(a)は、チャンネルh1の場合であり、図6(b)はチャンネルh2の場合である。
【0128】
これらの結果から、いずれの場合であっても、従来のOFDMシステムよりもすぐれた特性を示しているのがわかる。特に高次のコンスタレーションである16−QAMや64−QAMにおいて、エラーの伝播が抑制されている。本発明のシステムではエラーが伝播しにくい理由の1つとして、ベクトルドットsi−1が行列F・行列G・行列F・ベクトルsi−1を直接計算して求めていることがあげられる。
【0129】
さらに、本発明の時間領域等化処理の効果をより明確に示すために、干渉電力(行列Ω・行列Hのそれぞれの行のパワー)を図7に示す。図7は、横軸が1つのシンボル中のサンプル番号を表し、縦軸が干渉電力である。また図7(a)、(b)、(c)はそれぞれ、チャンネルh1、チャンネルh2、時間領域等化処理を行ったチャンネルh2の場合を示す。
【0130】
図7(a)ではチャンネルが最小位相となっているため、信号の31個目以降のサンプルには干渉の影響がほとんど及んでいない。一方、図7(b)では、全てのサンプルにまで干渉の影響が及んでいる。しかし、これに時間領域等化処理を行うと(図7(c))、伝送路のチャンネル特性が、最小位相となるので、信号の末尾部は、やはり干渉の影響を受けない信号を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の送受信方法はOFDM方式を利用する通信システムはもちろんのこと、ブロック毎に信号を送信する通信システムであれば、広く利用することができる。
【符号の説明】
【0132】
2 送信機
3 受信機
10 マッピング部
11 並列化部
12 逆離散フーリエ変換部
13 連続化部
16 伝送路
21 離散フーリエ処理部
22 周波数領域等化処理部
23 逆離散フーリエ変換処理部
24 バッファ
25 末尾処理部
26 CP再構築部
27 離散フーリエ変換処理部
28 周波数領域等化処理部
29 時間領域等化処理部
50、51,53 逆フィルタ
55、56、58 遅延要素
61、62、63、64 アンプ
70、80、82、84 送信信号抽出器
71 バッファメモリ
72 バッファメモリ
76 タイミング信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送受信間のチャンネル応答を表すベクトルhをL個の要素として求める工程と、
前記ベクトルhから、行列Hcyc(51式)と、行列H(6式)と、行列G(52式)と、要素がM個のベクトルg(53式)を作製する工程と、
送信信号を送る工程と、
受信した前記送信信号をN個毎のシンボルの受信信号であるベクトルrとして前記シンボル毎に離散フーリエ変換処理する工程と、
前記離散フーリエ変換処理後のシンボルを、前記行列G(52式)に相当する周波数領域等化処理をする工程と、
前記周波数領域等化処理後のシンボルを逆離散フーリエ変換処理する工程と、
前記逆離散フーリエ変換処理後のシンボルの最後のN−(M+L−2)個の信号を取り出す工程とを有することを特徴とする送受信方法。
【数100】

【数101】

【数102】

【数103】

【請求項2】
OFDM方式の送受信方法であって、
送受信間のチャンネル応答を表すベクトルhをL個の要素として求める工程と、
前記ベクトルhから、行列Hcyc(51式)と、行列H(6式)と、行列G(52式)を作製する工程と、
送信する各シンボル間にガードインタバルを設けずに送信信号を送る工程と、
受信した前記送信信号ベクトルrをシンボル毎に離散フーリエ変換処理する工程と、
前記離散フーリエ変換処理後のシンボルを、前記行列G(52式)に相当する周波数領域等化処理をする工程と、
前記周波数領域等化処理後のシンボルを逆離散フーリエ変換処理する工程と、
前記逆離散フーリエ変換処理後のシンボルの最後のL−1個の信号をベクトルドットsとして取り出す工程と、
1つ前のシンボルの最後のL−1個の信号であるベクトルドットsi−1と、前記L−1個の信号であるベクトルドットsと、受信信号rに対して、54式右辺で示すように離散フーリエ変換処理と前記周波数領域等化処理を順に作用させ、送信データを得る工程とを
有することを特徴とする送受信方法。
【数104】

【数105】

【数106】

【数107】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−120134(P2012−120134A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270909(P2010−270909)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】