説明

送電線宙乗り用足場

【課題】碍子連よりも先にある電線部位に対する取り付け、取外しが極めて容易であり、しかも当該電線上への移行に際して安定した足場を確保することができる送電線宙乗り用足場を提供する。
【解決手段】可撓性を有した絶縁性シート材から成り二つ折りにすることによって送電線上に設置される足場シート2と、足係止部と、二つ折りにした足場シートの折り返し部の内面を送電線上に乗せた状態で垂れ下がった2つのシート部分を連結する連結部材10と、足場シートに一部を固定され他部を送電鉄塔側に対して着脱自在に係止される落下防止手段15と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作業員が送電用鉄塔から電力線上に乗り出しての作業を行う際に好適な送電線宙乗り用足場に関する。
【背景技術】
【0002】
架空電線路における保守点検作業等においては、作業者が鉄塔から停電状態にした電線上に身を乗り出して宙乗りせねばならないことがある。
従来から鉄塔のアームに支持した碍子連から送電線上に移動する際に足場として架線梯子が用いられている。架線梯子はその基端部側を鉄塔側に係止される一方で、他端側に設けた係止フックを送電線に係止されることにより鉄塔−送電線間に固定されるため、作業者は架線梯子の先端から送電線上にスムーズに移動して宙乗り作業に移行することができる。
しかし、架線梯子は2.5mの全長を有した金属製であり、重量も大きいため、鉄塔が山岳地帯にある場合には運搬に伴う労力が多大になるばかりでなく、鉄塔上への引き上げ作業が複数人による作業となり、また固定、取外しに際しての労力も多大なものとなる。
このような不具合を解消する手段として、図3に示したように、作業者Pが腰や靴裏を乗せるためのロープ101から成る乗り出し具100が用いられている。この乗り出し具100の設置に際しては、例えばロープ101の一端を腕金、或いは碍子連110の端部金具等に係止する一方で、他端部を電線107とジャンパー線105との接続金具106の近傍に係止する。鉄塔の腕金から碍子連110を越えて電線107上に移動する際には、図示したように片足の靴裏を乗り出し具100の上に乗せた状態で他方の足を接続金具106、或いは電線107上に引っ掛けて体重を移動して宙乗り状態に移行することなる。
【0003】
しかし、乗り出し具は揺動するため足場として不安定であり、しかも接続金具106の形状、長さによっては、電線側に乗り出しつつ体重移動する際の姿勢が無理な体勢となるため、危険度、及び肉体的、心理的な疲労度が大きくなる。従って、体力に優れた熟練者以外には難しい作業となる。
特許文献1(特開2010−90667公報)には、断面形状が四角形の二本の足場棒材と、各足場棒材の一端部同士を連結すると共に架線に係止される連結用ロープと、両足場棒材を並行な姿勢で着脱自在に連結する連結具と、両足場棒材の他端部に一端を固定されて他端部で塔体に固定される掛止用ロープと、を備えた送電線鉄塔用仮足場が開示されている。
しかし、この仮足場にあっては、足場棒材が2mを越える長尺体であるため、山岳地帯等での運搬に際して不便であるばかりでなく、塔上に引き上げて設置する作業が何よりも煩雑となる。
【0004】
次に、特許文献2(特開2002−152933公報)には、ネット状の足場が開示されており、これは鉄塔上において作業者が碍子連上に乗り出してジャンパー線開放作業を行う際に適したものである。このネット足場は、碍子連よりも先にある電線上に乗り出して宙乗りする際の足場として利用できる。しかし、ネット足場を多数の吊り金具を用いて電線や碍子連周辺の金属部分に掛止する作業が必須となり、設置手数、取外し手数が増大するという問題がある。特に、碍子連よりも先にある電線に吊り金具を掛止するためには何らかの足場を利用して電線上に身を乗り出して宙乗りした上で吊り金を係止するという煩雑な作業が必要となるため、上記乗り出し具の欠点を解消することはできない。
次に、特許文献3(特開2007−306723公報)にも特許文献2と同様に足場となる網状の電線作業用具が開示されているが、この電線作業用具においても碍子連よりも先にある電線に吊り金具を掛止するためには、電線上に身を乗り出して宙乗りするなどの繁雑な作業が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−90667公報
【特許文献2】特開2002−152933公報
【特許文献3】特開2007−306723公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように従来の架空電線路における保守点検作業等において、作業者が鉄塔から停電状態にした送電線上に乗り出して宙乗りせねばならない場合には、架線梯子や特許文献1の仮足場のように運搬、鉄塔上への引き上げ、設置作業が極めて煩雑な手段を用いない限り、安定した作業性を確保することが難しいという問題があった。
また、特許文献2、3のように軽量な足場手段も提案されてはいるが、何れもネット状の足場を電線に吊り下げたり、取り外すための作業が繁雑である、という欠点を有している。
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、碍子連よりも先にある電線部位に対する取り付け、取外しが極めて容易であり、しかも当該電線上への移行に際して安定した足場を確保することができる送電線宙乗り用足場を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上のように請求項1の発明は、可撓性を有した絶縁性シート材から成り二つ折りにすることによって送電線上に設置される足場シートと、該足場シートの対向する両端縁に近い部位に夫々貫通形成した足係止部と、二つ折りにした前記足場シートの折り返し部の内面を送電線上に乗せた状態で垂れ下がった2つのシート部分を連結する連結部材と、前記足場シートに一部を固定され他部を送電鉄塔側に対して着脱自在に係止される落下防止手段と、を備えたことを特徴とする。
送電線宙乗り用足場は、可撓性を有し、コンパクト化することができるため、山岳地帯での運搬、鉄塔上への引き上げ、鉄塔への固定等々に便利である。また、送電線上に送電背用足場を設置したり、取り外す際の作業性がよい。
請求項2の発明は、前記足場シートは、皮革、樹脂、或いは天然繊維から構成されていることを特徴とする。
請求項3の発明は、前記足場シートは、少なくともその一部がネット状に構成されていることを特徴とする。
請求項4の発明は、前記送電線と接する前記足場シートの裏面に、滑り止め材、或いは/及び、クッション材を配置したことを特徴とする。
請求項5の発明は、前記足係止部の周縁、及び/又は、前記足場シートの前記対向する両端縁に沿って補強部材を固定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の送電線宙乗り用足場は、可撓性を有し、且つ軽量な皮革、樹脂、天然繊維等の絶縁性シートから構成されているため、コンパクト化することができ、運搬、鉄塔上への引き上げ、鉄塔への固定等々に便利である。また、送電線上に送電背用足場を設置する作業としては、落下防止手段を鉄塔側に固定する作業と、足場シートを送電線上に被せる作業と、連結部材によりシート部分を連結する作業が求められるのみであるため、作業性がよい。勿論、取外し作業も容易である。
送電線上に設置された送電線宙乗り用足場を利用して送電線上に移動して宙乗りする際には、予めロープから成る乗り出し具を碍子連に沿った下方に配置しておく。作業員は一方の足を乗り出し具上に載せた状態で他方の足を足係止部に差し込むことにより、バランスよく電線側に身を乗り出して足場シート上に跨ることにより宙乗りに移行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)(b)及び(c)は本発明の一実施形態に係る送電線宙乗り用足場の構成を示す展開図、送電線上に送電線宙乗り用足場を取り付けた状態を示す説明図、及び乗り出し具と送電線足場を利用して送電線上に宙乗りする手順を示す図である。
【図2】(a)及び(b)は本発明の他の実施形態に係る送電線宙乗り用足場の構成を示す展開図、及び設置状態を示す斜視図である。
【図3】従来例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を図面に示した実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1(a)(b)及び(c)は本発明の一実施形態に係る送電線宙乗り用足場の構成を示す展開図、送電線上に送電線宙乗り用足場を取り付けた状態を示す説明図、及び乗り出し具と送電線足場を利用して送電線上に宙乗りする手順を示す図である。
この送電線宙乗り用足場1は、可撓性を有した絶縁性シート材から成り二つ折りにして送電線20上に被せることによって設置される足場シート2と、足場シート2の対向する両端縁2a、2aに近い部位に夫々貫通形成した足係止部5と、U字、或いはV字状に二つ折りにした足場シート2の折り返し部2bの内面を送電線上に乗せた状態で垂れ下がった2つのシート部分2Aを連結する連結部材10と、足場シート2に一部を固定され他部を送電鉄塔側に対して着脱自在に係止される落下防止手段15と、を備えている。
【0011】
足場シート2は、皮革、樹脂、天然繊維等の軽量、且つ強度の高い絶縁材料から構成され、運搬時には折り畳んだり、ロール状に丸めることによってコンパクト化できる程度に可撓性を有する一方で、図1(b)のように送電線20やジャンパー線21の接続金具21a上に被せた状態で作業員が乗って体重を掛けたとしても破れたり変形することがない程度の強度を有している。また、工具等を保持した作業員からの重量によって接続金具21a等を傷つけることがない程度に軟質であることが好ましい。足場シートとして使用可能な絶縁樹脂としては、例えばナイロン(登録商標)、ビニロン(登録商標)、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンを挙げることができる。天然繊維としては、マニラ麻、サイザル麻、木綿等を挙げることができる。
足場シートは送電線上で二つ折りでき、かつ運搬時にロール状に丸めることができる程度に可撓性を有すればよいので極端に柔軟である必要はない。
なお、接続金具等と接触する足場シートの裏面にクッション材(スポンジ、軟質樹脂、天然繊維)を固定することによって、接続金具等を損傷することがないように構成しても良い。また、電線、接続金具等と接する足場シートの裏面に滑り止め材を配置することにより、足場シートが電線上でずれることを防止するようにしてもよい。この滑り止め材とクッション材を兼用するようにしてもよい。
【0012】
本例に係る足係止部5は、足場シート2の両端縁2a近傍の面内に形成した貫通穴5aであり、貫通穴5aの周縁には金属、或いは樹脂の枠材から成る補強部材6を固定して貫通穴5a内に作業員が靴を差し込んで体重をかけた場合にも過度に変形しないように構成されている。足場シートを図1(b)のように送電線20上に二つ折りにして掛けた時に、足係止部としての貫通穴5a同士が連通し、両貫通穴に跨って作業員の靴を差し込むことができるように、各貫通穴は足場シートの長手方向中心部に対して対称となるように配置する。
補強部材6としては、例えば貫通穴5aの内周縁に沿って一体化される金属枠体が好ましい。
また、補強部材6を足場シートの両端縁2aに沿って固定することにより、足場としての安定性を高めることができる。或いは、足場シートを二つ折りすることの障害とならないように2つのシート部分2Aの両側端縁に沿って補強部材6を固定しても良い。
【0013】
連結部材10としては、例えば永久磁石を用いる。例えば、一方の補強部材6を鉄等の磁性体から構成し、他方の補強部材6側に永久磁石を設けて両者を吸着、分離自在に構成する。或いは、図1(b)のように足場シート2を二つ折りにして送電線に被せたときに対面する各シート部分2Aの適所に夫々永久磁石と磁性体を固定して両者を吸着させるように構成しても良い。連結部材10によってシート部分2A同士を吸着させることにより、送電線上における足場シートの設置安定性を高めると共に、貫通穴5a同士を接近させて作業員の靴を差込み易くすることができる。
なお、永久磁石に代えてベルベットクロス(マジックテープ(登録商標))、その他の連結部材を用いてもよいことは勿論である。
【0014】
落下防止手段15は、足場シート2の長辺の中間部位に一端部を固定され、且つ他端部に係止具15aを備えた絶縁ワイヤーであり、係止具15aを例えば碍子連22の端部に位置するアークホーン等の金具に係止することにより、電線からの足場シートの落下を防止するものである。
この送電線宙乗り用足場1を碍子連22よりも先にある送電線20上に設置するには、予め落下防止手段15の係止具15aをアークホーンの金具等に係止させた状態で、送電線を跨ぐように足場シート2を送電線上に掛ければよい。
碍子連22の長手方向両端部に位置する金具に両端部31を係止することによって、ロープから成る乗り出し具30を碍子連22に沿った下方に配置しているため、作業員は図1(c)に示すように一方の足を乗り出し具30上に載せた状態で他方の足を足係止部5に差し込むことにより、バランスよく電線側に身を乗り出して足場シート上に跨ることにより宙乗りに移行することができる。
【0015】
次に、図2(a)及び(b)は本発明の他の実施形態に係る送電線宙乗り用足場の構成を示す展開図、及び設置状態を示す斜視図である。
この実施形態に係る送電線宙乗り用足場1は、足場シート2の少なくとも一部がネット状(メッシュ状)に構成されている点が特徴的である。
足場シート2は、外周縁40と、送電線と接する中間部41に夫々幅広の帯状部を備えると共に、外周縁40と中間部41との間に形成される2つの空間内に夫々ネット部42を備えている。ネット部42は、外周縁及び中間部の各内周縁と一体化されている。
このような構成を備えた足場シート2は、前記した如き樹脂材料から構成するのが好ましい。
外周縁40及び中間部41は十分な厚み及び強度を備えたシート材で構成し、ネット部42は十分な太さと強度を有した縦線材42a、及び横線材42bから一体的に構成されている。ネット部42を構成する各開口は足場(足係止部5)となる部位であるため、その開口面積、形状、及び強度は、作業員が靴を開口内に差し込んだときに安定して体重を乗せることができるように設定される。また、図1の実施形態と異なり、靴先を差し込むことができる開口が縦横に複数箇所設けられているため、選択の自由度が広がっており、作業員が乗り出し具から送電線上に移動する際の動作が楽になる。また、当然のことながら軽量化することができる。
【0016】
また、ネット部42の外周に帯状の外周縁と中間部が一体化されて補強されているため、ネット部の保形性を高めることができ、ネット部に作業員の体重が加わったときにおけるネット部の変形量を低減することができる。
ネット部42の外周縁に沿って補強部材6を配置することにより、強度を高めることができる。また、図1の実施形態と同様に磁石、マジックテープ(登録商標)、その他の連結部材10を用いることにより、シート部分2Aを一体化することができる。
なお、接続金具等と接触する中間部41の裏面にクッション材を固定することによって、接続金具等を損傷することがないように構成したり、滑り止め材を固定して足場シートの位置ずれを防止するようにしてもよい。
【0017】
以上のように本発明に係る送電線宙乗り用足場1は、可撓性を有し、且つ軽量な皮革、樹脂、天然繊維等の絶縁性シートから構成されているため、コンパクト化することができ、運搬、鉄塔上への引き上げ、鉄塔への固定等々に便利である。また、送電線上に送電線用足場を設置する作業としては、落下防止手段15を鉄塔側に固定する作業と、足場シートを送電線上に被せる作業と、連結部材10によりシート部分2Aを連結する作業が求められるのみであるため、作業性がよい。勿論、取外し作業も容易である。
送電線宙乗り用足場1は、例えばジャンパー線と送電線との接続部にある接続金具21a上に被せることにより、乗り出し具30から送電線上に乗り出す際の最適な足場となる。
即ち、送電線上に設置された送電線宙乗り用足場1を利用して送電線上に移動して宙乗りする際には、予め乗り出し具30を碍子連22に沿った下方に配置しておく。作業員は一方の足を乗り出し具30上に載せた状態で他方の足を足係止部5に差し込むことにより、バランスよく電線側に身を乗り出して足場シート上に跨ることにより宙乗りに移行することができる。
【符号の説明】
【0018】
1…送電線宙乗り用足場、2…足場シート、5…足係止部、5a…貫通穴、6…補強部材、10…連結部材、15…落下防止手段、15a…係止具、20…送電線、21…ジャンパー線、21a…接続金具、22…碍子連、2A…シート部分、2A…シート部分、2a…両端縁、30…乗り出し具、31…ロープ両端部、40…外周縁、41…中間部、42…ネット部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有した絶縁性シート材から成り二つ折りにすることによって送電線上に設置される足場シートと、該足場シートの対向する両端縁に近い部位に夫々貫通形成した足係止部と、二つ折りにした前記足場シートの折り返し部の内面を送電線上に乗せた状態で垂れ下がった2つのシート部分を連結する連結部材と、前記足場シートに一部を固定され他部を送電鉄塔側に対して着脱自在に係止される落下防止手段と、を備えたことを特徴とする送電線宙乗り用足場。
【請求項2】
前記足場シートは、皮革、樹脂、或いは天然繊維から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の送電線宙乗り用足場。
【請求項3】
前記足場シートは、少なくともその一部がネット状に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の送電線宙乗り用足場。
【請求項4】
前記送電線と接する前記足場シートの裏面に、滑り止め材、或いは/及び、クッション材を配置したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の送電線宙乗り用足場。
【請求項5】
前記足係止部の周縁、及び/又は、前記足場シートの前記対向する両端縁に沿って、補強部材を固定したことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の送電線宙乗り用足場。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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