説明

逆開きスライドファスナー

【課題】蝶棒をスライダーから抜き取って開離させた状態において、スライダーを箱棒の下端に保持する逆開きスライドファスナーを提供。
【解決手段】逆開きスライドファスナーにおいて、右ファスナーストリンガーの一側縁に配された右務歯列の下端に連設した箱棒と、左ファスナーストリンガーの一側縁に配された左務歯列の下端に連設した蝶棒と、上開き逆開きを行う上下スライダーを有する開離嵌挿具を備え、箱棒の下端には下スライダーの脱落を防止するストッパーを有し箱棒の蝶棒と相対する対向側縁には第1係止部を形成し蝶棒の箱棒と相対する対向側縁には、前記第1係止部と係合して蝶棒の下方向への位置決めを行う第2係止部を形成し、箱棒の上スライダーの翼片の内面と相対する表側面及び裏側面のうちの少なくともいずれか一方に上スライダーの翼片の内面と接触して、上スライダーの自由な摺動を抑制する突出部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上開き及び逆開きが可能で、かつ開離嵌挿が可能な逆開きスライドファスナーに関する。
【背景技術】
【0002】
衣類における左右前身頃の開閉を行うためのスライドファスナーとして、務歯列の下端に箱棒及び蝶棒を備えた開離嵌挿式のスライドファスナーが用いられている。
【0003】
一般の開離嵌挿具付きのスライドファスナーでは、一方の務歯列の下端に蝶棒を形成し、他方の務歯列の下端には箱棒を介して固設された前記蝶棒を嵌挿するための箱体が連設されている。この開離嵌挿具付きのスライドファスナーでは、スライダーを箱体と当接する最下位まで下げた状態において、蝶棒が箱体及びスライダーに対して挿抜自在となるように構成されており、左右のファスナーストリンガーを分離することが可能となっている。
【0004】
米国特許第2,157,381号明細書(特許文献1)には、通常のスライドファスナー用の開離嵌挿具において、蝶棒をスライダーから抜き取った状態にあるときのスライダーのエレメント上における自由な摺動を抑制することを目的とした発明が記載されている。
【0005】
特許文献1に記載されている開離嵌挿具は、第1ファスナーストリンガーにおける務歯列の下端に箱棒を備え、当該箱棒には、第2ファスナーストリンガーにおける務歯列の下端に連設した蝶棒を嵌挿する箱体が固定されている。第1ファスナーストリンガーの務歯列には、双方の務歯列を挿通しながら摺動させることにより、スライドファスナーの左右務歯列同士を噛合状態又は離間状態に操作する単一のスライダーが挿通されている。
【0006】
特許文献1に記載されている開離嵌挿具の箱棒には、スライダーのフランジ内面と相対する表裏両側面に、スライダーのフランジ内面に形成された凹部(ノッチ部)と係合することにより、スライダーの自由な摺動を抑制する突起部が形成されている。
【0007】
着衣者が、双方のファスナーストリンガー同士を分離した状態から結合させる際において、スライダーの開口部に対する蝶棒の嵌挿操作をより容易にするために、務歯列の下方を着衣者から見て前方に屈曲させてゆき、着衣者が見易い位置まで持ち上げた状態にしてから蝶棒をスライダーの開口部に嵌挿する場合がある。特に、下端が足元付近まで延びているような、丈の長い衣服の下端に開離嵌挿具が取り付けられている場合に、この方法がよく用いられる。
【0008】
このように、務歯列の下端を前方に屈曲させて持ち上げると、スライドファスナーの下端において上下関係が逆さになるので、箱体が上方に位置し、スライダーがその下方に位置することになる。すると、重力によりスライダーが箱棒から離間する方向に下がってしまうことがある。スライダーが箱棒から離間してしまうと、嵌挿しようとしている蝶棒が、箱棒に連なっている務歯列と干渉してしまい、蝶棒を嵌挿することができないという不具合を生じていたが、特許文献1に記載されているスライドファスナーによれば、箱棒の表裏側面に形成されている突起部が、スライダーのフランジ内面に形成された凹部と係合することにより、スライダーが箱体から離間しないように構成されている。
【0009】
なお、特開2005−245859号公報(特許文献2)には、2つのスライダーの後ろ口を尻合わせに配置することにより、上方及び下方の両方からの両開きを可能とした逆開きスライドファスナー用の開離嵌挿具も提案されている。
【0010】
特許文献2に記載されている逆開きスライドファスナーは、上方及び下方の両方からの開閉を可能にするための上スライダーと下スライダーとを備え、上スライダーと下スライダーとの後ろ口同士を尻合わせに当接させた状態において、上スライダー及び下スライダーに対して挿抜可能な蝶棒が、一方の務歯列の下端に取り付けられている。また、他方の務歯列の下端には、下スライダーを最下位にて係止させるための抜け止めストッパーが形成された箱棒が取り付けられている。
【特許文献1】米国特許第2,157,381号明細書
【特許文献2】特開2005−245859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献2に記載されている開離嵌挿具を備えた逆開きスライドファスナーを、衣服の左右前身頃の開閉用に用いた場合における操作について考察する。先ず、左右のファスナーストリンガー同士を全て噛合させた状態で上スライダーを下方へ摺動させると、衣類の上方から左右前身頃を開くことができる。また、スライドファスナーが開いた状態で下スライダーを上スライダーとともに下から上方に向けて摺動させると、左右前身頃を下方から開くことができる。
【0012】
衣類を脱ぐ場合には、上スライダー及び下スライダーの後ろ口同士を尻合わせに当接させた後に、最下位まで下げる。そして、務歯列の下端に取り付けられている蝶棒を、上スライダー及び下スライダーから抜き取る操作を行う。これにより、左右のファスナーストリンガーが開離するので、左右の前身頃を分離させて、衣類を脱ぎやすい状態にすることができる。
【0013】
ところが、蝶棒を上スライダー及び下スライダーから抜き取るためには、完全に左右の務歯列同士の噛合を外した状態に維持しておかなければならない。そのためには、上スライダー及び下スライダーの後ろ口同士を尻合わせに当接させた状態を維持し、かつ、ファスナーストリンガーの下端まで下げておく必要がある。
【0014】
また、衣服を着る場合には、開離している左右の務歯列同士を噛合させるために、蝶棒を上スライダー及び下スライダーの開口部に嵌挿させる必要がある。この場合にも、上スライダー及び下スライダーの後ろ口同士を尻合わせに当接させた状態を維持しておくとともに、ファスナーストリンガーの下端まで下げた状態を維持しておかないと、嵌挿する蝶棒が務歯列と干渉してしまい、蝶棒の嵌挿が困難になってしまう。
【0015】
更に、務歯列の下方を着衣者から見て前方に屈曲させ、着衣者が見易い位置まで持ち上げた状態にしてから蝶棒を嵌挿する場合には、重力により上スライダーが単独で、或いは上下のスライダーが一緒になってが箱棒から離間する方向に下がることが多い。特に、上のスライダーが離間した状態で箱棒から離れると、各スライダーの間でストリンガーが折れ曲がり、各スライダーに挿入しようとしている蝶棒が一気に挿入できず、箱棒に連なっている務歯列と干渉してしまい、蝶棒の挿入操作が煩雑化してしまうという不具合を生じていた。
【0016】
本発明は、こうした従来技術のもつ問題点を解決するために創出されたもので、上スライダーと下スライダーとの後ろ口を尻合わせに組み合わせたことにより逆開きが可能で、かつ開離嵌挿が可能なスライドファスナーにおいて、蝶棒を上スライダー及び下スライダーから抜き取って開離させた状態においても、上スライダー及び下スライダーを箱棒の下端にしっかりと保持しておくことが可能な逆開きスライドファスナーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前述の目的を達成すべく、本発明に係る逆開きスライドファスナーは、第1ファスナーストリンガーの一側縁に配された第1務歯列の下端に連設した箱棒と、第2ファスナーストリンガーの一側縁に配された第2務歯列の下端に連設した蝶棒と、後ろ口同士が対向して配置され、上開きを可能にする上スライダー、及び逆開きを可能にする下スライダーとを有する開離嵌挿具を備え、前記箱棒における前記第1務歯列とは反対側の端部には、前記下スライダーの脱落を防止するストッパーを有し、前記箱棒の前記蝶棒と相対する対向側縁には、第1係止部を有し、前記蝶棒の前記箱棒と相対する対向側縁には、前記第1係止部と係合することにより、前記蝶棒の下方向への位置決めを行う第2係止部を有し、前記上スライダー及び下スライダーは、前記第1務歯列及び第2務歯列を挿通する務歯列案内通路を形成する表裏翼片を有する、逆開きスライドファスナーにおいて、前記箱棒における前記上スライダーの表裏翼片の内面と相対する表側面及び裏側面の少なくとも一方に、前記表裏翼片の内面と接触して、上スライダーの自由な摺動を抑制する突出部を有していることを特徴とする。
【0018】
また、前記突出部として、長円形、円錐台形状及び円柱形状のうちの少なくとも一の突出部を複数配置することが好ましい。
また、上記発明に加えて、前記上スライダーにおける表翼片内面と裏翼片内面との間の内側高さよりも、前記下スライダーにおける表翼片内面と裏翼片内面との間の内側高さを高く設定することが好ましい。
また、前記箱棒における前記下スライダー翼片の内面と相対する表側面及び裏側面の少なくともいずれか一方に、前記下スライダー翼片の内面と接触して、下スライダーの自由な摺動を抑制する突出部を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、逆開きスライドファスナーにおける箱棒の表側面及び裏側面の少なくともいずれか一方に突出部を形成したので、上スライダー及び下スライダーの後ろ口同士を接触させて箱棒の下端まで下げた状態において、上スライダー翼片内面と前記突出部とを接触させることにより、上スライダーの自由な摺動を抑制することができる。したがって、蝶棒を上スライダー及び下スライダーから抜き取って開離させた状態においても、上スライダー及び下スライダーを箱棒の下端に保持しておくことが容易となり、蝶棒の嵌入操作が容易となる。
【0020】
更に、接触面積の少ない突出部を複数配置することによって、突出部と翼片内面と間の間隔が一律とならない場合であっても、突出部と翼片内面との間に生ずる摩擦力を所定の範囲内に維持することができる。例えば、表側面及び裏側面に突出部が形成されている箱棒は、その表裏の側面を用いてスライドファスナーの芯紐を加締めることによって、芯紐を挟み込む形で固定している。芯紐を加締めた後における箱棒の表側面と裏側面の突出部間の厚さは、常に一定とはならないので、突出部とスライダーの翼片内面との間隔の許容寸法の範囲を広く設計しておく必要がある。そこで、突出部の高さを高くしてスライダーの翼片内面との接触を確実に行ってスライダーの保持力を確保するとともに、突出部の面積を減少させておくことで、突出部とスライダーの翼片内面との間の押圧力が強くても、スライダーを摺動させる際の摩擦力が大きくなりすぎないようにすることができる。
【0021】
更に、前記上スライダーにおける表裏翼片の前記各内面間の間隔よりも、前記下スライダーにおける表裏翼片の内面間の間隔を大きく設定することによって、下スライダーと箱棒との間では保持力を無くし、下スライダーを下端から上方に向けて摺動する際の始動抵抗を減少させて、操作感を向上させることができる。
【0022】
更に、前記箱棒における前記下スライダーの表裏翼片の内面と相対する表側面及び裏側面の少なくとも一方に、下スライダー翼片の内面と接触して、下スライダーの自由な摺動を制限する突出部を形成することによって、上スライダー及び下スライダーを箱棒の下端に保持しておくことがより確実となり、蝶棒の嵌入操作が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る逆開きスライドファスナーの代表的な実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【実施例1】
【0024】
図1は、逆開きスライドファスナー10全体の外観図であり、上スライダー50を上止具18,18の当接位置から下方に少し下げ、下スライダー60を開離嵌挿具である蝶棒30及び箱棒40の挿入位置から上方に少し上げて、上下端部を開いた状態を示す正面図である。また、図2は、箱棒40が連設されている右ファスナーストリンガー17(第1ファスナーストリンガー)の箱棒取付端に隣接する部位を切断して示す部分斜視図であり、図3は、蝶棒30が連設されている左ファスナーストリンガー16(第2ファスナーストリンガー)の蝶棒取付端に隣接する部位を切断して示す部分斜視図である。
【0025】
図1に示すように、逆開きスライドファスナー10は、例えばロングコートなどの左前身頃と右前身頃との開閉を可能にする開閉具である。左ファスナーストリンガー16及び右ファスナーストリンガー17と、左ファスナーストリンガー16及び右ファスナーストリンガー17の対向する側縁部に沿って配された左右の芯紐14と、それぞれの芯紐14を挟持するように所定の間隔をおいて多数の務歯12a,13aを列設した左務歯列12(第2務歯列)及び右務歯列13(第1務歯列)とを備えている。
【0026】
また、逆開きスライドファスナー10は、左務歯列12及び右務歯列13を挿通して上開きを可能にする上スライダー50、及び逆開きを可能にする下スライダー60を備えている。上スライダー50の後ろ口と下スライダー60の後ろ口とが対向するように配置している。左務歯列12及び右務歯列13の上方の芯紐14部分には、左務歯列12及び右務歯列13から上スライダー50が脱落することを防止するための上止具18が固着してある。なお、本発明は、逆開きが可能な隠しスライドファスナーに適用することも可能である。
【0027】
図1及び図2に示すように、右ファスナーストリンガー17下端の表裏には、樹脂製フィルムなどによる補強フィルム24を貼着してある。この補強フィルム24及び芯紐14を共に挟み込む形で箱棒40を連設してある。
【0028】
箱棒40下端の端部にはフック状のストッパー46が形成され、下スライダー60を最下位まで下げた際において、下スライダー60の肩口部分と当接することにより、下スライダー60が下方に脱落することを防止する。図1及び図2に示した実施例では、ストッパー46を、箱棒40の下端から噛合軸線とは反対側の外側に向けて突出させることによって、下スライダー60の肩口に係合させる実施例を示してある。本発明に係るストッパー46の形状は、図1及び図2に示したストッパー46の形状に限定するものではなく、ストッパーを箱棒下端部からスライドファスナーの表方向又は裏方向に突出させることによって、下スライダーにおける表翼片52の端面又は裏翼片54の端面と当接させて、下スライダーが下方に脱落することを防止してもよい。
【0029】
箱棒40の蝶棒30と相対する対向側面には、図1及び図2に示すように、右務歯列13が存在する側に向けた平面からなる第1係止部44と、下スライダー60の内部に形成されている連結柱66(図4〜図6参照。)が案内されて左務歯列12と右務歯列13との噛合解除を容易にするための案内面43とを有する三角片状の第1係止案内片42が突出されている。第1係止部44は、後述する蝶棒30の第2係止部34と係合する部分である。
【0030】
箱棒40上方における上スライダー50の表翼片52(図7参照。)の平坦な内面と相対する表側面には、上スライダー50の表翼片52の内面と接触することにより、上スライダー50を最下位まで下げた状態において、上スライダー50の自由な摺動を抑制する本発明の特徴部である突出部48が形成されている。
【0031】
また、図1及び図3に示すように、左ファスナーストリンガー16下端の表裏にも、樹脂製フィルムなどによる補強フィルム24が貼着されている。この補強フィルム24及び芯紐14を共に挟み込む形で蝶棒30を連設している。
【0032】
蝶棒30において、箱棒40と相対する対向側面には、係止面を下方(図2の奥行き方向)に向けた平板状の第2係止部34が形成されている。この第2係止部34は、下スライダー60に箱棒20と蝶棒30とを挿入したとき、前述の箱棒40の第1係止部44と係合する部分である。第2係止部34の箱棒対向側の端縁には、同第2係止部34から屈曲して下方に向けて延び、下スライダー60内部の連結柱66(図4〜図6参照。)に案内される案内面33を有する第2係止案内片32が立設されている。なお、第2係止案内片32は、蝶棒30から立設する第2係止部34を補強する役目も果たしている。
【0033】
箱棒40と相対する対向側面には、第2係止案内片32と第2係止部34とで囲まれる部分に、箱棒40の対向側縁から突出する第1係止部44との干渉を避けるための逃げ溝36が開口している。また、左務歯列12側の第2係止部34の上部には、右務歯列13の最下位にある務歯13aの噛合頭部の谷部に噛合する噛合突起38を形成している。
【0034】
次に、図1に示す状態から下スライダー60を最下位に引き下ろした状態について、図4に示す断面図を用いて説明する。
図4は、逆開きスライドファスナー10の下スライダー60のみを最下位まで下げた状態を示す図であり、図7のIV−IV矢視断面図である。
下スライダー60及び上スライダー50は、その内部に各スライダー50,60を前後方向に貫通する務歯案内通路を有している。務歯案内通路は、スライダーの前端側に設けられた肩口と、後端側に設けられた後ろ口とを有し、肩口は、分離した左右務歯を務歯案内通路へ導入又は排出し、後ろ口は、噛合した左右務歯を務歯案内通路へ導入又は排出する。
【0035】
下スライダー60を下げると、下スライダー60の後ろ口からは、分離状態にある左右の噛合列12,13が噛合状態となって出てくる。更に下スライダー60を下げてゆくと、箱棒40と蝶棒30とが下スライダー60の肩口から挿入され、箱棒40下端の端部に形成されているストッパー46が下スライダー60の肩口部分に当接して停止する。この位置が下スライダー60の最下位となる。
【0036】
この状態では、下スライダー60の後ろ口と上スライダー50の後ろ口との間の部分では、左務歯列12及び右務歯列13が噛合した状態となっている。また、右務歯列13の最下位にある務歯13aの下面谷部には、蝶棒30上端に上向きに突出する噛合突起38が係合している。
【0037】
蝶棒30の上部に設けられた第2係止案内片32の奥側には、箱棒40から突出している第1係止案内片42が存在しており、蝶棒30の対向側縁部に形成されている逃げ溝36に入り込んだ状態となっている。
【0038】
次に、図4に示す状態から上スライダー50を下げたときの状態を、図5を参照して説明する。
図5は、下スライダー60と接触する最下位まで上スライダー50を下げた状態を示す図であり、図7のIV−IV線に沿った矢視断面図である。
【0039】
上スライダー50を引き下げると、噛合状態にある左右の務歯列12,13が分離した状態で、上スライダー50の肩口から出てくる。そして、更に上スライダー50を引き下げてゆくと、上スライダー50の後ろ口部分が下スライダー60の後ろ口部分に当接して停止する。この位置が上スライダー50の最下位となる。
【0040】
この状態では、左務歯列12及び右務歯列13における全ての務歯が分離した状態となるので、着衣者は、左ファスナーストリンガー16下端部の比較的剛性が高い補強フィルム24の部分を摘んで、矢印PO方向に引き上げることにより、蝶棒30を下スライダー60及び上スライダー50から引き抜くことができる。こうして、衣服の右前身頃と左前身頃とが開くので脱衣及び着衣が容易に行える。
【0041】
なお、蝶棒30を図5に示す状態から矢印PO方向に引き抜くことは可能であるが、逆に蝶棒30を上下のスライダー50,60に対して逆な矢印PI方向に押し下げようとしても、箱棒40の第1係止部44と蝶棒30の第2係止部34とが当接するために、図5に示す位置から蝶棒30は単独で下方に移動することができないように構成されている。
【0042】
次に、図5に示す状態から左ファスナーストリンガー16を引き上げたときの状態を、図6を参照して説明する。
図6は、左ファスナーストリンガー16の蝶棒30の先が、上スライダー50の図面左側の肩口に嵌挿されている状態を示す図であり、図7のIV−IV線に沿った矢視断面図である。
【0043】
この図6に示す状態まで左ファスナーストリンガー16が引き上げられると、以降は抵抗なく上スライダー50から矢印PO方向に蝶棒30を抜き取ることができる。また、完全に上スライダー50から蝶棒30を抜き取った状態から、改めて蝶棒30を上スライダー50の左肩口に挿入すると、図6に示す状態を経て、図5に示し先に説明したとおり、第1係止部44に第2係止部34が当接する位置まで蝶棒30を挿入することができる。この状態で、上スライダー50を上方に向けて引き上げると、左務歯列12と右務歯列13とが噛合して、衣服の左前身頃と右前身頃が閉じて、双方の前身頃同士を結合させることができる。
【0044】
次に、箱棒40の表側側面及び裏側側面に形成した突出部48の構造とその機能について、図7を参照して説明する。図7は、図6のVII−VII線に沿った矢視断面図である。なお、図7に示す実施例では、箱棒40の表側側面及び裏側側面の両側面に突出部48を形成した実施例を示してあるが、箱棒40の表側側面及び裏側側面のいずれか一方にのみ突出部48を形成してもよい。
【0045】
図7に示すように、上スライダー50の表面側には表翼片52を有しており、裏面側に裏翼片54を有している。なお、表裏翼片52,54は、上スライダー50における両肩口の中央部に配置されている連結柱56(図4〜図6参照。)によって、互いに連結されている。また、表裏翼片52、54の左右両側縁に沿って、対向状に突出する表裏フランジ52a、54aが設けられており、表裏翼片52,54、連結柱56、左右の表裏フランジ52a,54aによって囲まれる空間が務歯案内通路となる。箱棒40の表側側面及び裏側側面に形成した突出部48は、表翼片52の平坦な内面と裏翼片54の平坦な内面に対して、締まりばめ又は中間ばめにて接触するように構成する。なお、突出部48と、表翼片52の内面及び裏翼片54の内面とを、締まりばめにて接触させる場合には、C形断面を有する箱棒40を薄肉にしておき、突出部48が、表翼片52の内面と裏翼片54の内面との間の内側高さに倣って弾性変形が容易となるように構成してもよい。
【0046】
このように、突出部48を、上スライダー50の表翼片52内面と裏翼片54内面とに接触した状態にしておくことにより、この接触部にて生ずる摩擦力により、上スライダー50の自由な摺動を抑制することができる。したがって、蝶棒30を上スライダー50及び下スライダー60から抜き取って開離させた状態においても、上スライダー50及び下スライダー60を箱棒40の下端に保持しておくことが可能となり、蝶棒30の抜き取り操作や挿入操作を容易に行うことができる。
【0047】
次に、左前身頃及び右前身頃の丈が裾の方向に長く、下端が足元付近まで延びているような衣服の下端に、逆開きスライドファスナー用の開離嵌挿具22を用いた場合であって、上スライダー50及び下スライダー60に蝶棒30を挿入する際の操作について説明する。
【0048】
この例のように、足元付近に存在する上スライダー50及び下スライダー60に蝶棒30を挿入するのは容易ではないので、右ファスナーストリンガー17の下方を着衣者から見て前方に屈曲させてゆき、着衣者が見易い位置まで持ち上げた状態にしてから蝶棒30を挿入することになる。このように、右ファスナーストリンガー17の下端を前方に屈曲させて持ち上げると、逆開きスライドファスナー10の下端において上下関係が逆さになるので、下スライダー60が上方に位置するとともに、上スライダー50がその下方に位置することになる。すると、重力により上スライダー50が単独で、又は上スライダー50及び下スライダー60が同時に、箱棒40から離間する方向に滑り落ちる不具合が生じる。このように上スライダー50が箱棒40から離間してしまうと、挿入しようとしている蝶棒30が箱棒40側の右務歯列13と干渉してしまい、蝶棒30を挿入することができなくなる。
【0049】
本実施形態によれば、箱棒40の上部に突出部48を形成して、この突出部48を上スライダー50の表翼片52の内面と裏翼片54の内面とに接触させるように構成しているため、上スライダー50の自由な摺動を抑制し、上スライダー50の後ろ口部分と箱棒40のストッパー46との間に下スライダー60を挟み込んで状態で静止させておくことができる。その結果、右務歯列13と蝶棒30との干渉が防止され、蝶棒30の挿入作業を容易に行うことができるようになる。
【0050】
また、本発明によれば、特許文献1に記載されているスライダーのように、箱棒40上方に形成した突出部48と相対する表翼片52内面と裏翼片54内面とに凹部を形成する必要が無いので、製造が簡単で安価な上スライダー50を用いることができ、逆開きスライドファスナー用の開離嵌挿具22としても安価に提供することができる。
【0051】
なお、上スライダー50における表翼片52の内壁面と裏翼片54内壁面との間の間隔よりも、下スライダー60における表翼片54の内壁面と裏翼片64の内壁面との間の間隔を大きく設定することによって、箱棒40と上スライダー50との間で所定の摩擦力を発生させつつ、箱棒40と下スライダー60との間では接触を無くして摩擦力を発生させないようにすることができる。このように構成することによって、上スライダー50の自由な摺動を抑制しつつ、下スライダー60の始動時の摺動抵抗を低減して、スライドファスナーの開閉操作感を向上させることができる。
【実施例2】
【0052】
次に、箱棒の側面に形成する突出部の配置に関する他の実施例について説明する。
図8は、箱棒140の上部表側面(図面手前側)に本発明の特徴部である突出部48を形成するとともに、箱棒140の中央部表側面(図面手前側)にも突出部149を形成した状態を示す断面図である。この図8は、図6に示した断面図と同様に、上スライダー50及び下スライダー160とを最下位まで引き下げ、蝶棒30を完全に引き抜いた状態を示す図である。なお、図6に示したものと同一の機能を奏する部品、又は部分については、同一の記号を付して、その説明を省略する。
【0053】
図8に示すように、箱棒140の上部における、上スライダー50の表翼片52(図7参照。)の内面と相対する表側面には、上スライダー50の表翼片52の内面と接触することにより、上スライダー50を最下位まで引き下げた状態において、上スライダー50の自由な摺動を抑制する突出部48を形成してある。同様に、箱棒140の中央部における下スライダー160の表翼片内面と相対する表側面には、下スライダー160の表翼片内面と接触することにより、下スライダー160を最下位まで引き下げた状態において、下スライダー160の自由な摺動を抑制する突出部149を形成してある。
【0054】
このように構成することにより、上スライダー50及び下スライダー160の双方を最下位まで下げた状態において、上部及び中央部の2箇所において箱棒140が上スライダー50及び下スライダー60の摺動を抑制することにより、より確実に上スライダー50を最下位に保持しておくことができるので、逆開きスライドファスナーの下端部において上下関係を逆さにした場合であっても、蝶棒30を上スライダー50及び下スライダー60に挿入する際の操作性を向上させることができる。
【実施例3】
【0055】
次に、箱棒の側面に形成する突出部の形状に関する他の実施例について説明する。
図9は、箱棒240の上部の表裏側面に長円形の突出部248を複数形成した実施例を示す斜視図である。なお、図2に示したものと同一の機能を奏する部品、又は部分については、同一の記号を付して、その説明を省略する。
【0056】
図9に示すように、箱棒240における上スライダー50の表翼片52(図7参照。)の内面と相対する表側面に、上スライダー50の表翼片52内面と複数の位置で接触することにより、上スライダー50を最下位まで下げた状態において、上スライダー50の自由な摺動を抑制する長円形の突出部248を複数形成している。
【0057】
このように、箱棒240に長円形の突出部248を構成することによって、上スライダー50の表翼片52及び裏翼片54のうちの少なくともいずれか一方の内面に、少ない面積で接触して、上スライダー50を最下位に保持することができる。したがって、逆開きスライドファスナー10の下端において、上下関係を逆さにした場合であっても、蝶棒30を上スライダー50に挿入する際の操作性を向上させることができる。また、突出部248と上スライダー50の表裏内面との間隔の許容寸法の範囲を広くするために、突出部248の高さを高くした場合であっても、上スライダー50を最下位に保持しておくための保持力を、所定の範囲内に維持しておくことができる。
【実施例4】
【0058】
次に、箱棒の側面に形成する突出部の形状に関する他の実施例について説明する。
図10は、箱棒340の上方側面に円錐台形状の突出部348を複数形成した実施例を示す斜視図である。なお、図2に示したものと同一の機能を奏する部品、又は部分については、同一の記号を付して、その説明を省略する。
【0059】
図10に示すように、箱棒340における上スライダー50の表翼片52(図7参照。)の内面と相対する表側面には、上スライダー50の表翼片52の内面と接触することにより、上スライダー50を最下位まで引き下げた状態において、上スライダー50の自由な摺動を抑制する円錐台形状の突出部348が複数形成されている。この円錐台形の突出部348に代えて、円柱形状の突出部を用いることもできる。
【0060】
このように、箱棒340に円錐台形状及び/又は円柱形状の突出部348を構成することによって、上スライダー50の表翼片52及び裏翼片54のうちの少なくともいずれか一方の内面に、少ない接触面積で接触して、上スライダー50を最下位に保持することができる。したがって、逆開きスライドファスナーの下端側において同ファスナーを折り返すことにより上下関係を逆にした場合であっても、蝶棒30を上スライダー50に挿入する際の操作性を向上させることができる。また、突出部348と上スライダー50の表裏内面との間隔の許容寸法の範囲を広くするために、突出部348の高さを高くした場合であっても、上スライダー50を最下位に保持しておくための保持力を、所定の範囲内に維持しておくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】逆開きスライドファスナー全体を一部省略して示す外観正面図である。
【図2】箱棒が連設されている右ファスナーストリンガー下端の断面斜視図である。
【図3】蝶棒が連設されている左ファスナーストリンガー下端の断面斜視図である。
【図4】下スライダーのみを最下位まで引き下げたときの、図7のIV−IV線に沿った矢視断面図である。
【図5】下スライダーと接触する最下位まで上スライダーを引き下げたときの、図7のIV−IV矢視断面図である。
【図6】左ファスナーストリンガーの蝶棒の先が、上スライダーの左側の肩口部分に挿入されているときの、図7のIV−IV矢視断面図である。
【図7】箱棒の表側面及び裏側面に形成した突出部の構造とその機能を説明する説明図である。
【図8】箱棒の側面に形成する突出部の配置に関する他の実施例について説明する斜視図である。
【図9】箱棒の側面に長円形の突出部を複数形成した実施例について説明する斜視図である。
【図10】箱棒の側面に円錐台形状の突出部を複数形成した実施例について説明する斜視図である。
【符号の説明】
【0062】
10 逆開きスライドファスナー
12 左務歯列
13 右務歯列
14 芯紐
16 左ファスナーストリンガー
17 右ファスナーストリンガー
18 上止具
22 開離嵌挿具
24 補強フィルム
30 蝶棒
32 第2係止案内片
33,43 案内面
34 第2係止部
36 逃げ溝
38 噛合突起
40,140,240,340 箱棒
42 第1係止案内片
44 第1係止部
46 ストッパー
48,149,248,348 突出部
50 上スライダー
52 表翼片
54,64 裏翼片
56,66 連結柱
60,160 下スライダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ファスナーストリンガー(17)の一側縁に配された第1務歯列(13)の下端に連設した箱棒(40)と、
第2ファスナーストリンガー(16)の一側縁に配された第2務歯列(12)の下端に連設した蝶棒(30)と、
後ろ口同士が対向して配置され、上開きを可能にする上スライダー(50)、及び逆開きを可能にする下スライダー(60)と、
を有する開離嵌挿具(22)を備え、
前記箱棒(40)における前記第1務歯列(13)とは反対側の端部に、前記下スライダー(60)の脱落を防止するストッパー(46)を有し、
前記箱棒(40)の前記蝶棒(30)と相対する対向側縁に、第1係止部(44)を有し、
前記蝶棒(30)の前記箱棒(40)と相対する対向側縁に、前記第1係止部(44)と係合することにより、前記蝶棒(30)の下方向への位置決めを行う第2係止部(34)を有し、
前記上スライダー(50)及び下スライダー(60)は、前記第1務歯列(13)及び第2務歯列(12)を挿通する務歯列案内通路を形成する表裏翼片(52,54;62,64)を有する、逆開きスライドファスナーにおいて、
前記箱棒(40)における前記上スライダー(50)の表裏翼片(52,54)の内面と相対する表側面及び裏側面の少なくとも一方に、前記表裏翼片(52,54)の内面と接触して、上スライダー(50)の自由な摺動を抑制する突出部(48,248,348)を有してなることを特徴とする逆開きスライドファスナー。
【請求項2】
前記突出部(248,348)が複数配置されてなることを特徴とする請求項1に記載の逆開きスライドファスナー。
【請求項3】
前記上スライダー(50)における表裏翼片(52,54)の前記各内面間の間隔よりも、前記下スライダー(60)における表裏翼片(62,64)の内面間の間隔が大きく設定されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の逆開きスライドファスナー。
【請求項4】
前記箱棒(40)における前記下スライダー(60)の表裏翼片(62,64)の内面と相対する表側面及び裏側面の少なくとも一方に、前記表裏翼片(62,64)の内面と接触して、下スライダー(60)の自由な摺動を抑制する突出部(149)を有してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の逆開きスライドファスナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−95425(P2009−95425A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268150(P2007−268150)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000006828)YKK株式会社 (263)
【Fターム(参考)】