説明

通信システム

【課題】作業機械において、通信線の切断等の破損時に、人手による通信線の交換を要することなく、所望の通信を可能にさせることができる通信システムの提供。
【解決手段】油圧ショベルに備えられ、駆動系通信線10及び情報系通信線11のそれぞれに接続される第1コントローラとして、車体コントローラ12とモニタコントローラ13を設け、通信線10,11のいずれか1つに接続される第2コントローラとしてエンジンコントローラ14を設け、車体コントローラ12とエンジンコントローラ14との間に位置する駆動系通信線10の部分に破損箇所Aが発生して、車体コントローラ12とエンジンコントローラ14との間の通信が不能となったときに、破損を生じていない情報通信線11、及びモニタコントローラ13を介して通信を迂回させて、車体コントローラ12とエンジンコントローラ14との間の通信を可能にさせるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信線と複数のコントローラとによって通信ネットワークを形成するようにした通信システムに係り、特に油圧ショベル等の作業機械に備えられる通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
通信線と複数のコントローラとによって通信ネットワークを形成するようにした従来の通信システムが、特許文献1に開示されている。この従来技術は、船舶等に搭載されるネットワーク通信線が示され、このネットワーク通信線は、2つの通信線と、これらの通信線のそれぞれに接続される第1コントローラすなわちノードAと、通信線のいずれか1つに直接的に接続される第2コントローラすなわちノードE,B,Cとを備えた構成になっている。また、通信線に接続され、この通信線の切断を検出する専用コントローラ、すなわちノードDも備えられている。
【0003】
この従来技術では、第2コントローラであるノードBと、第1コントローラであるノードAとを接続する通信線の部分に切断を生じてノードBとノードAとの間の通信が不能となったことが専用コントローラであるノードDで検出されると、このノードDの検出信号に応じて、切断を生じていない方の通信線を介して通信を迂回させて、ノードBとノードAとの間の通信を可能にさせるようにしてある。
【特許文献1】特許第3630418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に示される発明は、船舶等に関する発明であるが、昨今では油圧ショベル等の作業機械においても、通信線と複数のコントローラとによって通信ネットワークを形成することが行なわれている。このような作業機械の分野にあっては、複数のコントローラを接続する通信線の部分に切断等の破損が生じたときには、その通信線を人手によって交換することが従来から行なわれていた。しかし、作業機械では構造上、通信線が長くなることからこの通信線の交換は煩雑なものとなり、多大な作業時間を要しやすい。これに伴って、作業機械によって実施される各種の作業の停止を余儀なくされ、この作業機械の作業効率が低下してしまう。
【0005】
本発明は、上述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、作業機械において、通信線の切断等の破損時に、人手による通信線の交換を要することなく、所望の通信を可能にさせることができる通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために、本発明に係る通信システムは、少なくとも2つの通信線と、これらの通信線のそれぞれに接続される第1コントローラと、上記通信線のうちのいずれか1つに接続される第2コントローラとによって通信ネットワークが形成され、上記通信線のいずれかの部分に破損が生じて上記第1コントローラと上記第2コントローラとの間の通信が不能となったときに、上記第1コントローラが接続される上記通信線のうちの破損を生じていない通信線を介して通信を迂回させて、上記第1コントローラと上記第2コントローラとの間の通信を可能にさせるようにした通信システムにおいて、作業機械に備えられ、上記第1コントローラを少なくとも2つ有し、これらの第1コントローラを互いに接続するいずれかの通信線の部分に上記第2コントローラを接続し、上記第1コントローラのいずれかと上記第2コントローラとの間に位置する通信線の部分に破損が生じて該当する第1コントローラと上記第2コントローラとの間の通信が不能となったときに、上記該当する第1コントローラと他の第1コントローラとを接続する破損を生じていない通信線、及び上記他の第1コントローラを介して通信を迂回させて、上記該当する第1コントローラと上記第2コントローラとの間の通信を可能にさせるようにしたことを特徴としている。
【0007】
このように構成した本発明は、例えば作業機械の駆動中等に行なわれる少なくとも2つの通信線のそれぞれに接続される第1コントローラと、いずれかの通信線に接続される第2コントローラとの通信は、これらの第1コントローラと第2コントローラとが接続される通信線を介して支障なく行なわれる。
【0008】
例えば、このような正常な通信が行なわれている状況にあって、少なくとも2つの第1コントローラのうちのいずれか該当する第1コントローラと、第2コントローラとの間に位置する通信線の部分に、経年劣化した状態において与えられる大きな振動などにより切断等の破損が生じ、該当する第1コントローラと第2コントローラとの間の通信が不能となったときには、該当する第1コントローラと他のコントローラとを接続する破損を生じていない通信線、及び他のコントローラを迂回させて、該当する第1コントローラと第2コントローラとの間の通信が可能となる。すなわち、作業機械において、通信線の切断等の破損時に、人手による通信線の交換を要することなく、短時間のうちに一時的に通信が不能となった該当する第1コントローラと第2コントローラとの間の所望の通信を可能にさせることができる。
【0009】
また、本発明に係る通信システムは、上記発明において、上記第1コントローラのそれぞれ、及び上記第2コントローラは、上記作業機械の制御に係る制御信号を通信するものから成ることを特徴としている。
【0010】
また、本発明に係る通信システムは、上記発明において、上記第2コントローラは、上記第1コントローラからの上記作業機械の制御に係る制御信号を受信した際に、その制御信号に応じて上記作業機械に備えられる装置を制御することを特徴としている。
【0011】
また、本発明に係る通信システムは、上記発明において、上記作業機械が、走行体、旋回体、及びフロント作業機を有する油圧ショベルから成り、上記少なくとも2つの通信線が、上記作業機械の駆動に関係する駆動系通信線と、上記作業機械に備えられるモニタに関係する情報系通信線とを含み、上記少なくとも2つの第1コントローラが、車体コントローラとモニタコントローラとを含み、上記第2コントローラがエンジンコントローラから成ることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の通信システムは、作業機械に備えられるとともに、第1コントローラを少なくとも2つ有し、これらの第1コントローラにそれぞれ接続される複数の通信線のうちのいずれかの通信線の部分に第2コントローラを接続し、第1コントローラのいずれかと第2コントローラとの間に位置する通信線の部分に破損が生じて該当する第1コントローラと第2コントローラとの間の通信が不能となったときに、該当する第1コントローラと他の第1コントローラとを接続する破損を生じていない通信線、及び他の第1コントローラを介して通信を迂回させて、該当する第1コントローラと第2コントローラとの間の通信を可能にさせるようにしたことから、作業機械において、通信線の切断等の破損時に、人手による通信線の交換を要することなく、所望の通信を可能にさせることができ、通信線の切断等の破損時であっても当該建設機械の作業を継続させることができ、従来に比べて作業効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下,本発明に係る通信システムを実施するための最良の形態を図に基づいて説明する。
【0014】
図1は本発明に係る通信システムの一実施形態が備えられる作業機械の一例として挙げた油圧ショベルを示す側面図である。
【0015】
この図1に示す油圧ショベルは、走行体1と、この走行体1上に配置される旋回体2と、この旋回体2に上下方向の回動可能に取り付けられ、土砂等の掘削作業などを行なうフロント作業機3とを備えている。フロント作業機3は、旋回体2に上下方向の回動可能に取り付けられるブーム4と、このブーム4の先端に取り付けられ、上下方向に回動可能なアーム5と、このアーム5の先端に取り付けられ、上下方向に回動可能なバケット6とを備えている。また、旋回体2の前側位置にはフロント作業機3等を駆動する操作装置が備えられる運転室7が設けられ、後側位置には重量バランスを確保するカウンタウエイト8が設けられている。
【0016】
図2は本実施形態に係る通信システムの要部構成を示す図である。本実施形態に係る通信システムは、図2に示すように、少なくとも2つの通信線、例えば駆動系の制御信号が送信される駆動系通信線10と、情報系の制御信号が送信される情報系通信線11を備えている。また、駆動系通信線10と情報系通信線11のそれぞれに接続される第1コントローラと、通信線10,11のうちのいずれか1つ、例えば駆動系通信線10に接続される第2コントローラとを備えている。これらの駆動系通信線10、情報系通信線11、第1コントローラ及び第2コントローラによって通信ネットワークが形成されている。
【0017】
本実施形態は、上述した第1コントローラを少なくとも2つ有しており、これらの2つの第1コントローラは、例えばこの油圧ショベルの駆動制御に関係する車体コントローラ12と、図1に示す運転室7に配置されるモニタの表示処理に関係するモニタコントローラ13とから成っている。車体コントローラ12は配線15を介して駆動系通信線10に接続してあり、配線16を介して情報系通信線11に接続してある。モニタコントローラ13は、配線17を介して駆動系通信線10に接続してあり、配線18を介して情報系通信線11に接続してある。これらの車体コントローラ12及びモニタコントローラ13は、駆動系通信線10及び情報系通信線11のいずれに対しても通信が可能になっており、共に例えば図1に示す運転室7に配置してある。
【0018】
上述した第2コントローラは、例えばこの油圧ショベルに備えられる装置の一つであるエンジンを制御するエンジンコントローラ14から成り、図2に示すように、第1コントローラを構成する車体コントローラ12とモニタコントローラ13とを互いに接続するいずれかの通信線10,11の部分に、例えば駆動系通信線10の部分に、配線19を介して接続してある。このエンジンコントローラ14は例えば、運転室7とカウンタウエイト8との間に設けられる機械室内に配置してある。
【0019】
なお、車体コントローラ12からエンジンコントローラ14へは、送信される制御信号として例えばエンジン目標回転数信号が送信される。エンジンコントローラ14から車体コントローラ12へは、送信される制御信号として例えばエンジン実回転数信号が送信される。
【0020】
図3は本実施形態に備えられる車体コントローラ、モニタコントローラ、及びエンジンコントローラのそれぞれにおける処理手順を示すフローチャートである。
【0021】
このように構成した本実施形態に係る通信システムは、例えばフロント作業機3の駆動による掘削作業中に行なわれる駆動系通信線10及び情報系通信線11に接続される第1コントローラである車体コントローラ12と、第2コントローラであるエンジンコントローラ14との通信は、これらの車体コントローラ12とエンジンコントローラ14とが接続される駆動系通信線10を介して支障なく行なわれる。
【0022】
すなわち、図3に示すように、車体コントローラ12においてなされる、駆動系通信線10よりエンジンコントローラ14のデータを受信できたかどうかの判断はイエスとなり(手順S1)、車体コントローラ12から配線15を介して駆動系通信線10へデータが送信され(手順S2)、エンジンコントローラ14は駆動系通信線10より配線19を介して車体コントローラ12のデータを受信する(手順S3)。
【0023】
例えば、このように正常な通信が行なわれているときに、車体コントローラ12とエンジンコントローラ14との間に位置する駆動系通信線10の部分に、経年劣化した状態において与えられるフロント作業機3による作業等に伴う大きな振動などにより、切断等の破損箇所Aが発生し、車体コントローラ12とエンジンコントローラ14との間の通信が不能となったときには、車体コトンローラ12と、第1コントローラを構成する他のコントローラ、すなわちモニタコントローラ13とを接続する破損を生じていない通信線である情報系通信線11、及び他のコントローラであるモニタコントローラ13を迂回させて、車体コントローラ12とエンジンコントローラ14との間の通信が可能となる。
【0024】
すなわち、図3に示すように、駆動系通信線10に発生した破損箇所Aのために、車体コントローラ12において、駆動系通信線10によりエンジンコントローラ14のデータを受信できないと判断されると(手順S1)、この車体コントローラ12から配線16を介して情報系通信線11へデータが送信され(手順S4)、モニタコントローラ13は、情報系通信線11より配線18を介して車体コントローラ12のデータを受信して、そのデータを配線17を介して駆動系通信線10へ送信し(手順S5)、エンジンコントローラ14は、駆動系通信線10より配線19を介して車体コントローラ12のデータを受信することができる(手順S3)。
【0025】
以上のように、本実施形態に係る通信システムによれば、油圧ショベルにおいて、例えば駆動系通信線10の切断等の破損時に、人手による駆動系通信線10の交換を要することなく、短時間のうちに一時的に通信が不能となった車体コントローラ12とエンジンコントローラ14の間の所望の通信を可能にさせることができる。したがって、このような駆動系通信線10の切断等の破損時であっても、この油圧ショベルの作業を継続させることができ、作業効率を向上させることができる。
【0026】
なお、上記では車体コントローラ12とエンジンコントローラ14との間に位置する駆動系通信線10の部分の破損を例に挙げて説明したが、モニタコントローラ13とエンジンコントローラ14間に位置する駆動系通信線10の部分に破損を生じた場合にも、上述と同様に、モニタコントローラ13から情報系通信線11、車体コントローラ12、駆動系通信線10を迂回させてエンジンコントローラ14にデータを送信することができる。
【0027】
車体コントローラ12とモニタコントローラ13との間に位置する情報系通信線11の部分に破損を生じた場合には、駆動系通信線10を介してこれらの車体コントローラ12とモニタコントローラ13間の通信を行なうことができる。
【0028】
なお、上記では、駆動系通信線10と情報系通信線11のそれぞれに接続される第1コントローラとして、車体コントローラ12とモニタコントローラ13の2つのコントローラを設けたが、駆動系通信線10と情報系通信線11のそれぞれに接続される第1コントローラを3つ以上設けるようにしてもよい。
【0029】
また、第2コントローラとしてエンジンコントローラ14を設けたが、この第2コントローラとして、例えばエンジンコントローラ14に加えて、情報処理を行なう情報コントローラを備え、この情報コントローラを情報系通信線11に接続した構成にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る通信システムの一実施形態が備えられる作業機械の一例として挙げた油圧ショベルを示す側面図である。
【図2】本実施形態に係る通信システムの要部構成を示す図である。
【図3】本実施形態に備えられる車体コントローラ、モニタコントローラ、及びエンジンコントローラのそれぞれにおける処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0031】
1 走行体
2 旋回体
3 フロント作業機
4 ブーム
5 アーム
6 バケット
7 運転室
8 カウンタウエイト
10 駆動系通信線
11 情報系通信線
12 車体コントローラ(第1コントローラ)
13 モニタコントローラ(第1コントローラ)
14 エンジンコントローラ(第2コントローラ)
15 配線
16 配線
17 配線
18 配線
19 配線
A 破損箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの通信線と、これらの通信線のそれぞれに接続される第1コントローラと、上記通信線のうちのいずれか1つに接続される第2コントローラとによって通信ネットワークが形成され、上記通信線のいずれかの部分に破損が生じて上記第1コントローラと上記第2コントローラとの間の通信が不能となったときに、上記第1コントローラが接続される上記通信線のうちの破損を生じていない通信線を介して通信を迂回させて、上記第1コントローラと上記第2コントローラとの間の通信を可能にさせるようにした通信システムにおいて、
作業機械に備えられ、
上記第1コントローラを少なくとも2つ有し、これらの第1コントローラを互いに接続するいずれかの通信線の部分に上記第2コントローラを接続し、
上記第1コントローラのいずれかと上記第2コントローラとの間に位置する通信線の部分に破損が生じて該当する第1コントローラと上記第2コントローラとの間の通信が不能となったときに、上記該当する第1コントローラと他の第1コントローラとを接続する破損を生じていない通信線、及び上記他の第1コントローラを介して通信を迂回させて、上記該当する第1コントローラと上記第2コントローラとの間の通信を可能にさせるようにしたことを特徴とする通信システム。
【請求項2】
上記請求項1記載の通信システムにおいて、
上記第1コントローラのそれぞれ、及び上記第2コントローラは、上記作業機械の制御に係る制御信号を通信するものから成ることを特徴とする通信システム。
【請求項3】
上記請求項1記載の通信システムにおいて、
上記第2コントローラは、上記第1コントローラからの上記作業機械の制御に係る制御信号を受信した際に、その制御信号に応じて上記作業機械に備えられる装置を制御することを特徴とする通信システム。
【請求項4】
上記請求項1記載の通信システムにおいて、
上記作業機械が、走行体、旋回体、及びフロント作業機を有する油圧ショベルから成り、
上記少なくとも2つの通信線が、上記作業機械の駆動に関係する駆動系通信線と、上記作業機械に備えられるモニタに関係する情報系通信線とを含み、
上記少なくとも2つの第1コントローラが、車体コントローラとモニタコントローラとを含み、上記第2コントローラがエンジンコントローラから成ることを特徴とする通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−41305(P2010−41305A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200801(P2008−200801)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】