通電加熱方法
【課題】複数の電極対を使用せずにワークを均一に加熱することができる、通電方法を提供する。
【解決手段】一方向に沿う単位長さあたりの抵抗が一方向に沿って変化するよう加熱領域を有するワークwに対して、一方の電極11と他方の電極12とを間隔をおいてワークwの加熱すべき領域に横断させて配置する。通電状態のまま一方の電極11と他方の電極12の何れか一方又は双方を移動させる。その際、単位長さあたりの抵抗の変化に応じて、加熱領域の各部に供給される通電の時間を調整する。
【解決手段】一方向に沿う単位長さあたりの抵抗が一方向に沿って変化するよう加熱領域を有するワークwに対して、一方の電極11と他方の電極12とを間隔をおいてワークwの加熱すべき領域に横断させて配置する。通電状態のまま一方の電極11と他方の電極12の何れか一方又は双方を移動させる。その際、単位長さあたりの抵抗の変化に応じて、加熱領域の各部に供給される通電の時間を調整する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材などのワークを通電する通電加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の構造物、例えばセンターピラー、リィンフォースメントなどの強度を必要とする部材には、熱処理が施されている。熱処理の種類としては間接加熱と直接加熱とがある。間接加熱には、ワークを炉に収容して炉の温度を制御することで加熱する、いわゆる炉加熱などがある。直接加熱には、ワークに渦電流を流すことで加熱する、いわゆる誘電加熱と、ワークに直接電流を流すことによって加熱する、いわゆる通電加熱がある。
【0003】
特許文献1では、難加工性の金属材を塑性加工する加工手段の前段において、加熱手段によって金属材を通過する中に、誘導加熱又は通電加熱を施すことが開示されている。それによれば、カッタ装置を備えた加工手段の前段に、誘導加熱用コイル又は電極ローラからなる加熱手段を配置し、電極ローラによって金属材を連続搬送しながら通電加熱している。
【0004】
奥行き幅が左右方向でほぼ等しい平板状の鋼材を通電により熱処理するには、鋼材の左端部、右端部にそれぞれ一つの電極を配置し、電極間に電圧を印加すればよい。鋼材には一様な電流が流れるので、発熱量は鋼材の部位に依らず均一となる。
【0005】
しかしながら、奥行き幅が左右方向で異なる板状の鋼材にあっては、鋼材の左端部に複数の電極を並べて配置し、鋼材の右端部に複数の電極を並べて配置し、鋼材の左右端部に配置した電極で対を構成し、各電極対間に等しい電流を流すことにより、鋼材を一様な温度に加熱している。このような技術は例えば特許文献2に開示されている。
【0006】
板状の鋼材ではないが、鋼棒材を通電加熱する技術が特許文献3に開示されており、それによると、鋼棒材の一端に一方の電極を固定し、鋼棒材のうち加熱を必要とする部分と必要としない部分との境にクランプ型の電極を挟持せしめることにより、鋼棒材を部分的に加熱することが可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3587501号公報
【特許文献2】特開平06-79389号公報
【特許文献3】特開昭53-7517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ワークの中でも奥行き幅が左右方向で異なっている鋼材を熱処理する場合には、炉加熱のように鋼材の単位体積当たりに加える熱量が鋼材の場所毎で異ならないことが望ましい。しかしながら、炉などの加熱装置を用いた場合には、加熱炉のため設備が大掛かりとなるばかりでなく、炉の温度制御が難しい。
【0009】
そのため、特許文献1〜3に開示されているように、通電によって加熱することが生産コスト上好ましい。しかしながら、特許文献1のように、複数の電極対を設け、それぞれの電極対への通電量を制御するためには、電極対毎に通電量を制御しなければならず、設備コストの上で好ましくない。また、一つのワークに対して複数の電極対を配置する必要があるため、生産性も悪くなる。
【0010】
そこで、本発明においては、ワークを均一に加熱する際、複数の電極対を用いる必要性が乏しい、通電加熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、一方向に沿う単位長さあたりの抵抗が一方向に沿って変化するような加熱領域を備えたワークを、加熱領域の各部が所定の加熱温度範囲となるように加熱する通電加熱方法であって、一方の電極と他方の電極とを間隔をおいて加熱領域に横断させて配置し、通電状態のまま一方の電極と他方の電極の何れか一方又は双方を移動させることにより、単位長さあたりの抵抗の変化に応じて、加熱領域の各部に供給される通電の時間を調整することを特徴とする。
上記構成において、一方の電極と他方の電極には、給電部から一定の電流を流す。
ワークの加熱領域は、一方向に断面積が減少する形状を呈しており、その一方向の断面積の減少に応じて一方の電極、他方の電極のうち何れかを移動する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ワークの加熱すべき領域の一方向に沿う単位長さ当たりの抵抗が左右で変化しており、例えば一方向に断面積が増加又は減少している場合には、左右に一方の電極と他方の電極とを配置して通電状態で一方向に沿う単位長さ当たりの抵抗が減少する方向に少なくとも一つの電極を移動させる。その際、一方向に沿う単位長さ当たりの抵抗の減少に応じて電極の移動速度を調整する。これにより、移動方向に向けて短冊状に仮想的に分割された領域毎の電気量を、各領域によらず同一性のある範囲とする。その結果、例えば断面積が左右方向で異なっている場合など一方向に沿う単位長さ当たりの抵抗が変化している場合であっても、多数の電極対を配置せずに、各領域に加える熱量を等しくすることができ、加熱領域をほぼ均一加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
【図2】直接通電における基本的な関係式を説明するための図である。
【図3】図1に示す通電加熱装置の具体的な構成を示す正面図である。
【図4】図1に示す通電加熱装置の具体的な構成を示す左側面図である。
【図5】図1に示す通電加熱装置の具体的な構成の一部を示す平面図である。
【図6】図1に示す通電加熱装置の具体的な構成を示す右側面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電中の状態の平面図、(d)は通電中の状態の正面図、(e)は通電後の状態の平面図、(f)は通電後の状態の正面図である。
【図9】本発明の第4実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
【図10】本発明の第5実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
【図11】本発明の第6実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の幾つかの実施形態を説明する。本発明において通電加熱方法は、厚みが一定で奥行き幅が左右方向に沿って変化していないワークであっても当然適用できるが、ワークの加熱すべき領域(以下、「加熱領域」という。)の左右の何れかの一方向に沿って奥行き幅や厚みが変化していることにより断面積が減少しているワーク、加熱領域中に開口や切り欠いた領域が存在して、左右の何れかの方向でそれに直交する断面の寸法が減少しているようなワークにも適用可能である。ワークの材質は例えば電流を流して通電加熱される鋼材であり、一つの部材からなっていたり、或いは抵抗率の異なる部材同士を溶接加工などにより一体物にしたものも含まれる。また、ワークには加熱領域が一領域だけ設定されている場合のみならず複数の領域が設定されていてもよい。その場合、複数の領域は隣接していても、隣接せず離れていてもよい。
【0015】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
【0016】
本発明の第1実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置10は、給電部1に電気的に接続され、一方の電極11及び他方の電極12からなる電極対13と、一方の電極11、他方の電極12の何れか一方又は双方を移動する移動機構15と、を備える。
【0017】
移動機構15は、一方の電極11及び他方の電極12をワークwに接触した状態でかつ給電部1から電極対13を経由してワークwに通電している状態で、一方の電極11を移動して一方の電極11と他方の電極12との間隔を変化させる。よって、ワークの加熱領域を電極の移動方向に沿って短冊状に仮想的に分割した際、その分割した領域に加える熱量を電極の移動方向に沿って減少させることができる。
【0018】
図1に示す態様では、移動機構15が一方の電極11を移動させているので、一方の電極11を移動電極といい、他方の電極12はワークwに接触したままであるので、他方の電極12を固定電極という。なお、他方の電極12を移動電極とし、一方の電極11を固定電極としてもよいし、一方の電極11及び他方の電極12の何れも移動電極としてもよい。
【0019】
ワークwの加熱領域は、電極対13に給電部11から、通電開始から停止するまでに移動電極(図1では一方の電極11)を移動することにより、電極の移動方向に従って短冊状に仮想的に分割した領域毎の熱量を制御することができる。
【0020】
図1に示す態様では、ワークwの全体領域は加熱領域と一致しており、電極の移動方向に従って徐々に奥行き幅が狭くなっている。したがって、給電部1から電極対13を経由してワークwに一定電流を流しながら、一方の電極11の移動速度を調整することにより、分割した領域毎の熱量を制御することができる。
【0021】
移動機構15は、一方の電極11及び他方の電極12のうち移動すべき電極の移動速度を制御する調整部15aと、調整部15aによって前記移動すべき電極を移動させる駆動機構15bとを備える。調整部15aは、ワークwの形状及び寸法に関するデータから移動すべき電極の移動速度を求め、駆動機構15bがその求めた移動速度により移動すべき電極を移動させる。調整部15aで求める移動速度について以下説明する。
【0022】
図2に示すように、単位長さの断面積A0に電流Iをt0(sec)時間流したときの昇温は次式から求まる。
θ0=ρe/(ρ・c)×(I2×t0)/A02 (℃) (式1)
ただし、ρeは抵抗率(Ω・m)、ρは密度(kg/m3)、cは比熱(J/kg・℃)。
単位長さの断面積Anに電流Iをtn(sec)時間流したときの昇温は次式から求まる。
θn=ρe/(ρ・c)×(I2×tn)/An2 (℃) (式2)
ここで、電流Iを一定にして、昇温θ0=θnとして、次の関係式が成り立つ。
t0/A02=tn/An2 (式3)
よって、一定の電流を流して、異なる断面を同じ温度に加熱する時間は断面積比の2乗に比例する。
移動電極の速度ΔVを次のようにすればよい。
ΔV=ΔL/(t0‐tn) (式4)
ただし、ΔLはワークの左右方向の長さである。
従って、調整部15aによって、鋼材などのワークwの形状及び寸法のデータと、給電部1から供給される電流量、所定の加熱温度から、移動速度を求めることができる。
【0023】
例えば、図1に示すように、ワークwの厚みが一定の等脚台形状であって、左右方向に沿って奥行き幅が変化している場合には、左右方向たる一方向に沿って単位当たりの抵抗が変化している。このようなワークw全体を加熱すべき領域とした場合には、一方の電極11と他方の電極12とを間隔をおいて加熱領域に横断させて配置しておき、給電部1から通電状態のまま一方の電極11と他方の電極12の何れか一方又は双方を移動させる。すると、電極の移動方向に沿ってワークwの奥行き幅が変化しても、例えば一方の電極11を移動する速度を、単位長あたりの抵抗の変化に応じて、この場合には奥行き幅の変化に対応して、加熱領域の各部に供給される通電の時間を調整することができる。
【0024】
ワークwの電極移動方向に沿って奥行き幅単位で短冊状に仮想的に分割したとすると、上述のように通電の時間を調整することで、その分割した領域の抵抗の値に見合った通電量を確保することができ、ワークwの加熱領域を一定の幅の温度範囲で加熱することができる。
【0025】
例えば図1のように、wが左方向に奥行き幅が狭くなっている平板形状を有している場合には、移動させる電極がワークwの加熱領域に接触している幅の変化に基いて、その移動速度を調整する。移動速度は、上記式4から、断面積の変化率の2乗に比例した関数で規定される。
【0026】
ここで、給電部1は直流電源である場合のみならず、交流電源であってもその一定周期の平均電流が変化していなければ、断面積が異なるワークwの場合には、通電時間を調整することによって、通電による温度上昇幅を、ワークwの加熱領域の部位によらず同一性の範囲とすることができる。その際、何れの電極も、ワークwの加熱領域を横断する寸法を有する必要がある。仮想的に短冊状に分割した領域に跨るようにしなければ、領域毎に奥行き方向で電気量が異なるため、均一に加熱することができない。
【0027】
このように、本発明の第1実施形態に係る通電加熱方法によれば、ワークwの奥行き幅が左右方向で変化している場合には、一つの電極対13のうち少なくとも一方の電極11を移動することにより、ワークwを均一加熱することができる。従来のように、ワークwの加熱領域の相対する両端部に対をなすように電極を配置し、その電極の対を複数設け、各電極対によらず電流が流れるように、供給量を制御する必要がなくなる。
【0028】
図3〜図6は、図1に示す通電加熱装置の具体的な構造を示し、図3は正面図、図4は左側面図、図5は平面図、図6は右側面図である。図3〜図6に示すように、通電加熱装置20は、ワークwを上下方向から挟む電極部21a,22aと補助電極部21b,22bとにより各電極21,22が構成されている。
【0029】
図3において、移動電極21が向かって左側に配置され、固定電極22が向かって右側に配置されている。移動電極21、固定電極22の何れも、対をなすリード部21c,22cと、ワークwに接触する電極部21a,22aと、ワークwを電極部21a,22a側に押圧する補助電極部21b,22bと、を備えている。
【0030】
図3に示すように、移動機構25として、ガイドレール25aが左右方向に延設され、その上方に、ねじ軸からなる移動制御棒25bが左右方向に延設され、ガイドレール25a上をスライドするスライダー25cに移動制御棒25bが螺合しており、移動制御棒25bをステップモータ25dにより速度調整して回転することで、スライダー25cが左右へ移動する。
【0031】
移動電極用のリード部21cが、絶縁板21dを介在してスライダー25c上に配置され、給電部1に電気的に接続された配線2aが移動電極用のリード部21cの一端部に固定され、移動用の電極部21aが移動電極用のリード部21cの他端部に固定されており、移動用の補助電極部21bを上下動可能に配置する吊り下げ機構26が配設されている。
【0032】
吊り下げ機構26が、ステージ26a,壁部26b,26c及び橋部26d等で構成された架台に設けられている。即ち、ステージ26aの他端部に奥行き方向に離隔して設けられた対の壁部26b,26cと、壁部26b,26c上端に架け渡された橋部26dと、橋部26dの軸上に取り付けられたシリンダーロッド26eと、シリンダーロッド26eの先端部に取り付けられる挟持部26f(固定具と呼んでもよい。)と、補助電極部21bを絶縁して保持する保持プレート26gと、を備える。シリンダーロッド26eの先端が挟持部26fの上端に固定され、壁部26b,26cのそれぞれ対向面に支持部26iが設けられ保持プレート26gを連結軸26hで揺動可能な状態でガイドする。シリンダーロッド26eが上下動することにより、挟持部26f、連結軸26h、保持プレート26c及び補助用電極部21bが上下動する。その際、ワークwの加熱領域を横断するように固定用の電極部21a及び補助用電極部21bが延びているので、連結軸26hで揺動されることにより、固定用の電極部21aの上面と補助用電極21bの下面の各全面をワークwに押し当てることができる。
【0033】
吊り下げ機構26及び移動電極用のリード部21cが移動機構25により左右に移動しても、移動用の電極部21aと移動用の補助電極部21bとが平板状のワークwに接触したまま挟持するように、移動用の電極部21a、移動用の補助電極部21bでは、何れも、ワークwの奥行き方向にワークwを横断するように転動ローラ27a,27bが配置され、転動ローラ27a,27bを一対の軸受28a,28bで転動自在にしている。移動機構25が移動用の電極部21a及び移動用の補助電極部26bを左右に移動しても、一対の軸受28a,28b及び転動ローラ27aを経由してワークwに通電した状態を維持することができる。なお、移動電極は、ワークの加熱すべき領域に接触しつつ転動又は摺動をする手段を有し、その具体的な形態として転動ローラ27a,27bを採用している。
【0034】
通電加熱装置20の他方側には固定電極22が設置されている。図3に示すように、固定電極用の引っ張り手段29がステージ29a上に配置されている。固定電極用のリード部22cが固定電極用の引っ張り手段29上に絶縁板29bを介在して配置されている。給電部1に電気的に接続された配線2bが固定電極用のリード部22cの一端部に固定されている。固定用の電極部22aは固定電極用のリード部22cの他端部に固定されている。固定用の補助電極部22bを上下動可能に配置する吊り下げ機構31が固定用の電極部22aを覆うように配置される。
【0035】
固定電極用の引っ張り手段29は、絶縁板29bの下面に接続されてステージ29aを左右に移動させる移動手段29cと、絶縁板26bを直接左右にスライドするためのスライダー29d,29eと、スライダー29d,29eをガイドするガイドレール29fとを有しており、移動手段29cによって、補助電極部22b、電極部22a及び固定電極用のリード部22cを左右にスライドして位置調整する。通電加熱装置20にこのような引っ張り手段29を設けていることにより、ワークwが通電加熱により膨張しても平坦化することができる。
【0036】
吊り下げ機構31は、ステージ31aの他端部に奥行き方向に離隔して立設した対の壁部31b,31cと、壁部31b,31c上端に架け渡された橋部31dと、橋部31dの軸上に取り付けられたシリンダーロッド31eと、シリンダーロッド31eの先端部に取り付けられる挟持部31fと、補助電極部22bを絶縁して保持する保持プレート31gと、を備える。保持プレート31gは連結軸31hを介して挟持部31fで挟持される。シリンダーロッド31eの先端が挟持部31fの上端に固定され、吊り下げ機構26と同様に、壁部31b,31cのそれぞれ対向面に設けた支持部によって保持プレートを揺動自在に支持する。シリンダーロッド31eが上下動することにより、挟持部31f、連結軸31h、保持プレート31g及び補助用電極部22bが上下動する。その際、ワークwの加熱領域を横断するように固定用の電極部22a及び補助用電極部22bが延びているので、連結軸31hで揺動することにより、固定用の電極部22aの上面と補助用電極部22bの下面の各全面をワークwに押し当てることができる。
【0037】
図3乃至図6に示さないが、水平支持手段によってワークwを水平に支持しておき、固定用電極21と補助用電極22でワークwを挟んで固定し、移動用電極21と補助電極22とでワークwを挟み、移動機構25が移動用電極21及び補助電極22を移動する。速度調整部15bによって移動速度を制御しながら、移動機構25により移動用電極21を移動する。よって、速度調整部15bによりワークwの形状に応じて、移動用電極21及び補助電極22の移動速度を調整することによって、ワークwの加熱領域を均一に加熱することができる。
【0038】
このように、通電加熱装置20では、ワークwを上下で挟むように電極部21aと補助用電極部21bとを配置する。ワークwの加熱領域を横断する形状を有する中実の電極部21aが、電極移動方向に沿って敷設された一対のリード部21c(ブスバーと呼んでもよい。)に横断して設けられる。電極部21aと補助用電極部21b及び一対のリード部21cが駆動機構25によって電極移動方向に沿って移動する手段に取り付けられている。電極部21a及び補助用電極部21bの少なくとも何れか一方が押圧手段としてのシリンダーロッド26eによって上下動して、電極部21aと補助用電極部21bとでワークwを挟んだまま、ワークw上を走行することにより、ブスバー21cを経由して電極部21bからワークwに通電しながら移動する。
【0039】
なお、図3乃至図6に示した形態のみならず、電極部21a及び補助用電極部21bの少なくとも何れか一方が押圧手段としてのシリンダーロッド26eによって上下動して、電極部21aと補助用電極部21bとでワークwを挟んだまま、電極部21aが一対のブスバー上を走行することによりブスバーを経由して電極部21bからワークwに通電しながら移動できるように設計変更してもよい。
【0040】
(第2実施形態)
図7は、本発明の第2実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
【0041】
本発明の第2実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置40は、図7に示すように、給電部1に電気的に接続され、一方の電極41及び他方の電極42からなる電極対43と、一方の電極41、他方の電極42の双方を移動する移動機構44,45と、を備える。
【0042】
各移動機構44,45は、一方の電極41,他方の電極42をワークwに接触した状態でかつ給電部1から電極対43を経由してワークwに通電している状態で、互いに接触しないように配置された一方の電極41,他方の電極42をそれぞれ移動して一方の電極41と他方の電極42との間隔を広げる。
【0043】
図7に示すように、ワークwが、平面視でひし形の形状を有しており、一定の均一厚みである場合には、奥行き幅が中央部で最も長く、左右の両端部で徐々に短くなる。このようなワークwを同一の温度範囲となるように加熱するためには、一方の電極41及び他方の電極42をワークwの中央部に短い間隔を隔ててワークwを横切るように配置して給電部1から一定電流を流しながら、一方の電極41と他方の電極42とを互いに逆方向に同じ速度で移動すればよい。
【0044】
第2実施形態において使用される具体的な装置構成については、図3〜図6に示す第1実施形態の構成のうち、左側に配置されている移動電極を右側にも配置すればよい。
【0045】
(第3実施形態)
図8は、本発明の第3実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電中の状態の平面図、(d)は通電中の状態の正面図、(e)は通電後の状態の平面図、(f)は通電後の状態の正面図である。
【0046】
第3実施形態では、ワークwは、図8に示すように、平面視で一方の等脚台形の領域と他方の等脚台形の領域とに対称に仮想的に区分し得るものであって、各領域のうち互いに平行な辺部の対のうち長辺部を外側に配置して短辺部同士を連続してなるものである。つまり、第1実施形態の図1において示したワークwを二つ連結したようなものである。その場合には、第1実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置10を次のように改良することにより、本発明を適用することができる。
【0047】
本発明の第3実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置50は、電極対53a及び移動機構56aを備える通電ユニット50aと、電極対53b及び移動機構56bを備える通電ユニット50bとを、それぞれ左右に配置する。ワークwの平面視で左側に配置される電極対53aは一方の電極51aと他方の電極52aとからなる。
【0048】
左側の通電ユニット50aでは、固定電極として、一方の電極51aが平面視でワークwの左端部に配置され、移動電極として他方の電極52aが平面視で一方の電極51aの右側に僅かな間隔を開けて配置され、移動機構56aにより移動する。
【0049】
右側の通電ユニット50bでは、固定電極として、一方の電極51bが平面視でワークwの右端部に配置され、移動電極として他方の電極52bが平面視で一方の電極51bの左側に僅かな間隔を開けて配置され、移動機構55bにより移動する。
【0050】
各移動機構55a,55bは、第1実施形態、第2実施形態と同様、移動電極の移動速度を制御する調整部54a,54bと、調整部54a,54bによって移動電極を移動させる駆動機構55a,55bとを備える。調整部54a,54bは、ワークwの形状及び寸法に関するデータから移動電極の移動速度を求め、駆動機構55a,55bがその求めた移動速度により移動電極を移動させる。
【0051】
図8(a),(b)のように各電極が配置され、給電部1により各電極対53a,53bを経由してワークwに給電されている状態で、図8(c),(d)に示すように移動機構56a,56bにより他方の電極52a、52bをそれぞれ移動して、一方の電極51a,51bからそれぞれ遠ざける。その後、図8(e),(f)に示すように他方の電極52a,52bを何れもワークwから非接触となるように上下方向に移動する。その際、給電部1から各電極対53a,53bに通電を停止して、図示しない切替器を用いて回路を切り替え、電極51aと電極51bとの間に給電部1から通電を再開する。これにより、ワークwのうち他方の電極52aと他方の電極52bとの間の部位を通電して加熱することができる。
【0052】
第3実施形態においても、移動機構56a,56bで移動電極としての他方の電極52a,52bをワークwの形状及び寸法に基づいて移動速度を制御して移動することにより、電極対53aにより一方の電極51aと他方の電極52aとの間で通電し、電極対53bにより一方の電極51bと他方の電極52bとの間で通電することにより、ワークwの部位毎の熱量を等しくして、均一加熱することができる。
【0053】
なお、通電ユニット50a,50bの各構成については第1実施形態と同様の構成を適用することができ、具体的な構成としては図3〜図6に示すものを挙げられる。
【0054】
(第4実施形態)
図9は、本発明の第4実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
【0055】
図9に示す通電加熱装置10の構成は図1に示す通電加熱装置10と同じである。つまり、本発明の第4実施形態に係る通電加熱方法の実施に使用される通電加熱装置10は、給電部1に電気的に接続され、一方の電極11及び他方の電極12からなる電極対13と、一方の電極11、他方の電極12の何れか一方又は双方を移動する移動機構15と、を備える。移動機構15は、一方の電極11及び他方の電極12をワークwに接触した状態でかつ給電部1から電極対13を経由してワークwに通電している状態で、一方の電極11を移動して一方の電極11と他方の電極12との間隔を変化させる。
【0056】
第4実施形態は、第1実施形態とワークwの形状が異なっている。即ち、ワークwが平面視において左右方向に沿って奥行き幅が変化しておらず、厚みが一方向に減少している。これにより一方向に断面積が減少している。
【0057】
第4実施形態においても、ワークwの加熱領域は、電極対13に給電部11により、通電開始から停止するまでに移動電極(図9では一方の電極11)を移動することで、電極の移動方向に従って短冊状に仮想的に分割した領域毎の熱量を制御することができる。
【0058】
例えば図1のように、ワークwが左方向に厚みが小さくなっている場合においても、移動速度を、上記式4から、断面積の変化率の2乗に比例した関数で規定される。
【0059】
(第5実施形態)
図10は、本発明の第5実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
【0060】
図10に示す通電加熱装置10は図1に示す通電加熱装置10と構成は同じである。ワークwにおいて加熱領域がワークwの全体ではなく、左右何れかの一方の領域である点において異なる。つまり、ワークwの全体領域が、加熱領域w1と非加熱領域w2の2つの領域に区分される点である。これは、加熱領域w1の素材と非加熱領域w2の素材とが異なっており、両者を溶接によって接続して一体化したものである。このようなワークwの使用例としては、加熱領域w1の硬度と増加させて非加熱領域w2を衝撃等によって変形し易くして衝撃を吸収する部材が挙げられる。この場合には、加熱領域w1のうち一方向と直交する方向に沿う断面積が大きい側に一方の電極11と他方の電極12とを配置して、その断面積が小さくなる方向に移動する。移動速度については、式4に基づいて設定すればよい。これにより、第5実施形態においても、ワークwの加熱領域w1は、電極対13に給電部11により通電開始から停止するまでに移動電極(図10では一方の電極11)を移動することで、電極の移動方向に従って短冊状に仮想的に分割した領域毎の熱量を制御することができる。
【0061】
(第6実施形態)
図11は、本発明の第6実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
【0062】
図11に示す通電加熱装置40は図7に示す通電加熱装置40と構成は同じである。異なるのは、ワークwの左右一方は熱間加工温度にほぼ均一に加熱する領域w1であり、他方が焼入れ温度よりも低い温間加工温度に均一に加熱する領域w2の点である。このワークwの全体領域が、異なる温度にそれぞれ加熱される領域w1,w2からなっている点である。このワークwは、第5実施形態と同様、領域w1の素材と領域w2の素材とが異なっており、両者を溶接によって接続して一体化したものである。この場合には、何れも移動電極41,42がそれぞれ移動機構44,45によって移動される。左側の領域w1は熱間加工温度に均一に加熱されるのに対して、右側の領域w2は温間加工温度に加熱され、後工程でプレスされやすくする。そのため、移動電極41,42の間に一定電流を流しながら、移動機構44が移動電極41を式4の関係を満たすように移動して領域w1を均一の熱間加工温度に加熱し、領域w2が所定の温間加熱温度に加熱されるよう移動機構45が移動電極42を移動する。その際、移動電極41,42のそれぞれの移動開始時間及び移動終了時間については各領域w1,w2の左右方向の寸法、熱間加工温度、温間加工温度に応じて適宜設定すればよい。
【0063】
以上、複数の実施形態を説明したが、本発明は、ワークwの形状及び寸法に応じて適宜変更して実施することができる。ワークwは図示した形状に限定されず、ワークwが、一方向に沿う断面積が小さくなるなどして単位長さ当たりの抵抗が小さくなる領域を含んでいれば、その方向に電極を移動させることによりその領域を均一加熱することができる。なお、ワークwは、外周辺のうち左右端をつなぐ横辺は直線である必要はなく湾曲していてもよいし、横辺が複数の直線や曲率の異なる曲線をつなげて構成されていてもよい。
【0064】
また、上述の説明では、ワークw全体が加熱領域である場合、ワークwの一部が加熱領域である場合、ワークwが複数の領域に分けられており各領域が加熱領域である場合について説明しているが、それ以外にも、ワークwに対して間隔をおいて配置される一方及び他方の電極の何れかの移動電極の移動方向に対して交差する方向に、つまりワークwの左右方向ではなく奥行き方向に加熱領域が分かれており、その各加熱領域毎に移動電極を配置するようにしてもよい。その際、加熱領域は奥行き方向に隣接して分かれていてもよいし、奥行き方向に分離して設定されていてもよい。
【0065】
このように、ワークwの形状及び寸法並びにワークwにおける加熱領域に応じて移動すべき電極を一又は複数設けてワークwを通電加熱するように適宜設計変更することも、本発明の範囲に含まれる。その際、固定電極を必要に応じて用いてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1:給電部
2a,2b:配線
5L,5R:電極
10,20,40,50:通電加熱装置
11:一方の電極(移動電極)
12:他方の電極(固定電極)
13:電極対
15:移動機構
15a:調整部
15b:駆動機構
21:電極(移動電極)
22:電極(固定電極)
21a,22a:電極部
21b,22b:補助電極部
21c,22c:リード部
21d:絶縁板
25:移動機構
25a:ガイドレール
25b:移動制御棒
25c:スライダー
25d:ステップモータ
26,31:吊り下げ機構
26a,31a:ステージ
26b,26c,31b,31c:壁部
26d,31d:橋部
26e,31e:シリンダーロッド
26f,31f:挟持部
26g,31g:保持プレート
26h,31h:連結軸
26i:支持部
27a,27b:転動ローラ
28a,28b:軸受
29:引っ張り手段
29a:ステージ
29b:絶縁板
29c:移動手段
29d,29e:スライダー
29f:ガイドレール
41:一方の電極(移動電極)
42:他方の電極(移動電極)
43:電極対
44,45:移動機構
44a,45a:調整部
44b,45b:駆動機構
50a,50b:通電ユニット
51a,51b:一方の電極(固定電極)
52a,52b:他方の電極(移動電極)
53a,53b:電極対
54a,54b:駆動機構
55a,55b:調整部
56a,56b:移動機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材などのワークを通電する通電加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の構造物、例えばセンターピラー、リィンフォースメントなどの強度を必要とする部材には、熱処理が施されている。熱処理の種類としては間接加熱と直接加熱とがある。間接加熱には、ワークを炉に収容して炉の温度を制御することで加熱する、いわゆる炉加熱などがある。直接加熱には、ワークに渦電流を流すことで加熱する、いわゆる誘電加熱と、ワークに直接電流を流すことによって加熱する、いわゆる通電加熱がある。
【0003】
特許文献1では、難加工性の金属材を塑性加工する加工手段の前段において、加熱手段によって金属材を通過する中に、誘導加熱又は通電加熱を施すことが開示されている。それによれば、カッタ装置を備えた加工手段の前段に、誘導加熱用コイル又は電極ローラからなる加熱手段を配置し、電極ローラによって金属材を連続搬送しながら通電加熱している。
【0004】
奥行き幅が左右方向でほぼ等しい平板状の鋼材を通電により熱処理するには、鋼材の左端部、右端部にそれぞれ一つの電極を配置し、電極間に電圧を印加すればよい。鋼材には一様な電流が流れるので、発熱量は鋼材の部位に依らず均一となる。
【0005】
しかしながら、奥行き幅が左右方向で異なる板状の鋼材にあっては、鋼材の左端部に複数の電極を並べて配置し、鋼材の右端部に複数の電極を並べて配置し、鋼材の左右端部に配置した電極で対を構成し、各電極対間に等しい電流を流すことにより、鋼材を一様な温度に加熱している。このような技術は例えば特許文献2に開示されている。
【0006】
板状の鋼材ではないが、鋼棒材を通電加熱する技術が特許文献3に開示されており、それによると、鋼棒材の一端に一方の電極を固定し、鋼棒材のうち加熱を必要とする部分と必要としない部分との境にクランプ型の電極を挟持せしめることにより、鋼棒材を部分的に加熱することが可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3587501号公報
【特許文献2】特開平06-79389号公報
【特許文献3】特開昭53-7517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ワークの中でも奥行き幅が左右方向で異なっている鋼材を熱処理する場合には、炉加熱のように鋼材の単位体積当たりに加える熱量が鋼材の場所毎で異ならないことが望ましい。しかしながら、炉などの加熱装置を用いた場合には、加熱炉のため設備が大掛かりとなるばかりでなく、炉の温度制御が難しい。
【0009】
そのため、特許文献1〜3に開示されているように、通電によって加熱することが生産コスト上好ましい。しかしながら、特許文献1のように、複数の電極対を設け、それぞれの電極対への通電量を制御するためには、電極対毎に通電量を制御しなければならず、設備コストの上で好ましくない。また、一つのワークに対して複数の電極対を配置する必要があるため、生産性も悪くなる。
【0010】
そこで、本発明においては、ワークを均一に加熱する際、複数の電極対を用いる必要性が乏しい、通電加熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、一方向に沿う単位長さあたりの抵抗が一方向に沿って変化するような加熱領域を備えたワークを、加熱領域の各部が所定の加熱温度範囲となるように加熱する通電加熱方法であって、一方の電極と他方の電極とを間隔をおいて加熱領域に横断させて配置し、通電状態のまま一方の電極と他方の電極の何れか一方又は双方を移動させることにより、単位長さあたりの抵抗の変化に応じて、加熱領域の各部に供給される通電の時間を調整することを特徴とする。
上記構成において、一方の電極と他方の電極には、給電部から一定の電流を流す。
ワークの加熱領域は、一方向に断面積が減少する形状を呈しており、その一方向の断面積の減少に応じて一方の電極、他方の電極のうち何れかを移動する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ワークの加熱すべき領域の一方向に沿う単位長さ当たりの抵抗が左右で変化しており、例えば一方向に断面積が増加又は減少している場合には、左右に一方の電極と他方の電極とを配置して通電状態で一方向に沿う単位長さ当たりの抵抗が減少する方向に少なくとも一つの電極を移動させる。その際、一方向に沿う単位長さ当たりの抵抗の減少に応じて電極の移動速度を調整する。これにより、移動方向に向けて短冊状に仮想的に分割された領域毎の電気量を、各領域によらず同一性のある範囲とする。その結果、例えば断面積が左右方向で異なっている場合など一方向に沿う単位長さ当たりの抵抗が変化している場合であっても、多数の電極対を配置せずに、各領域に加える熱量を等しくすることができ、加熱領域をほぼ均一加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
【図2】直接通電における基本的な関係式を説明するための図である。
【図3】図1に示す通電加熱装置の具体的な構成を示す正面図である。
【図4】図1に示す通電加熱装置の具体的な構成を示す左側面図である。
【図5】図1に示す通電加熱装置の具体的な構成の一部を示す平面図である。
【図6】図1に示す通電加熱装置の具体的な構成を示す右側面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電中の状態の平面図、(d)は通電中の状態の正面図、(e)は通電後の状態の平面図、(f)は通電後の状態の正面図である。
【図9】本発明の第4実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
【図10】本発明の第5実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
【図11】本発明の第6実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の幾つかの実施形態を説明する。本発明において通電加熱方法は、厚みが一定で奥行き幅が左右方向に沿って変化していないワークであっても当然適用できるが、ワークの加熱すべき領域(以下、「加熱領域」という。)の左右の何れかの一方向に沿って奥行き幅や厚みが変化していることにより断面積が減少しているワーク、加熱領域中に開口や切り欠いた領域が存在して、左右の何れかの方向でそれに直交する断面の寸法が減少しているようなワークにも適用可能である。ワークの材質は例えば電流を流して通電加熱される鋼材であり、一つの部材からなっていたり、或いは抵抗率の異なる部材同士を溶接加工などにより一体物にしたものも含まれる。また、ワークには加熱領域が一領域だけ設定されている場合のみならず複数の領域が設定されていてもよい。その場合、複数の領域は隣接していても、隣接せず離れていてもよい。
【0015】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
【0016】
本発明の第1実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置10は、給電部1に電気的に接続され、一方の電極11及び他方の電極12からなる電極対13と、一方の電極11、他方の電極12の何れか一方又は双方を移動する移動機構15と、を備える。
【0017】
移動機構15は、一方の電極11及び他方の電極12をワークwに接触した状態でかつ給電部1から電極対13を経由してワークwに通電している状態で、一方の電極11を移動して一方の電極11と他方の電極12との間隔を変化させる。よって、ワークの加熱領域を電極の移動方向に沿って短冊状に仮想的に分割した際、その分割した領域に加える熱量を電極の移動方向に沿って減少させることができる。
【0018】
図1に示す態様では、移動機構15が一方の電極11を移動させているので、一方の電極11を移動電極といい、他方の電極12はワークwに接触したままであるので、他方の電極12を固定電極という。なお、他方の電極12を移動電極とし、一方の電極11を固定電極としてもよいし、一方の電極11及び他方の電極12の何れも移動電極としてもよい。
【0019】
ワークwの加熱領域は、電極対13に給電部11から、通電開始から停止するまでに移動電極(図1では一方の電極11)を移動することにより、電極の移動方向に従って短冊状に仮想的に分割した領域毎の熱量を制御することができる。
【0020】
図1に示す態様では、ワークwの全体領域は加熱領域と一致しており、電極の移動方向に従って徐々に奥行き幅が狭くなっている。したがって、給電部1から電極対13を経由してワークwに一定電流を流しながら、一方の電極11の移動速度を調整することにより、分割した領域毎の熱量を制御することができる。
【0021】
移動機構15は、一方の電極11及び他方の電極12のうち移動すべき電極の移動速度を制御する調整部15aと、調整部15aによって前記移動すべき電極を移動させる駆動機構15bとを備える。調整部15aは、ワークwの形状及び寸法に関するデータから移動すべき電極の移動速度を求め、駆動機構15bがその求めた移動速度により移動すべき電極を移動させる。調整部15aで求める移動速度について以下説明する。
【0022】
図2に示すように、単位長さの断面積A0に電流Iをt0(sec)時間流したときの昇温は次式から求まる。
θ0=ρe/(ρ・c)×(I2×t0)/A02 (℃) (式1)
ただし、ρeは抵抗率(Ω・m)、ρは密度(kg/m3)、cは比熱(J/kg・℃)。
単位長さの断面積Anに電流Iをtn(sec)時間流したときの昇温は次式から求まる。
θn=ρe/(ρ・c)×(I2×tn)/An2 (℃) (式2)
ここで、電流Iを一定にして、昇温θ0=θnとして、次の関係式が成り立つ。
t0/A02=tn/An2 (式3)
よって、一定の電流を流して、異なる断面を同じ温度に加熱する時間は断面積比の2乗に比例する。
移動電極の速度ΔVを次のようにすればよい。
ΔV=ΔL/(t0‐tn) (式4)
ただし、ΔLはワークの左右方向の長さである。
従って、調整部15aによって、鋼材などのワークwの形状及び寸法のデータと、給電部1から供給される電流量、所定の加熱温度から、移動速度を求めることができる。
【0023】
例えば、図1に示すように、ワークwの厚みが一定の等脚台形状であって、左右方向に沿って奥行き幅が変化している場合には、左右方向たる一方向に沿って単位当たりの抵抗が変化している。このようなワークw全体を加熱すべき領域とした場合には、一方の電極11と他方の電極12とを間隔をおいて加熱領域に横断させて配置しておき、給電部1から通電状態のまま一方の電極11と他方の電極12の何れか一方又は双方を移動させる。すると、電極の移動方向に沿ってワークwの奥行き幅が変化しても、例えば一方の電極11を移動する速度を、単位長あたりの抵抗の変化に応じて、この場合には奥行き幅の変化に対応して、加熱領域の各部に供給される通電の時間を調整することができる。
【0024】
ワークwの電極移動方向に沿って奥行き幅単位で短冊状に仮想的に分割したとすると、上述のように通電の時間を調整することで、その分割した領域の抵抗の値に見合った通電量を確保することができ、ワークwの加熱領域を一定の幅の温度範囲で加熱することができる。
【0025】
例えば図1のように、wが左方向に奥行き幅が狭くなっている平板形状を有している場合には、移動させる電極がワークwの加熱領域に接触している幅の変化に基いて、その移動速度を調整する。移動速度は、上記式4から、断面積の変化率の2乗に比例した関数で規定される。
【0026】
ここで、給電部1は直流電源である場合のみならず、交流電源であってもその一定周期の平均電流が変化していなければ、断面積が異なるワークwの場合には、通電時間を調整することによって、通電による温度上昇幅を、ワークwの加熱領域の部位によらず同一性の範囲とすることができる。その際、何れの電極も、ワークwの加熱領域を横断する寸法を有する必要がある。仮想的に短冊状に分割した領域に跨るようにしなければ、領域毎に奥行き方向で電気量が異なるため、均一に加熱することができない。
【0027】
このように、本発明の第1実施形態に係る通電加熱方法によれば、ワークwの奥行き幅が左右方向で変化している場合には、一つの電極対13のうち少なくとも一方の電極11を移動することにより、ワークwを均一加熱することができる。従来のように、ワークwの加熱領域の相対する両端部に対をなすように電極を配置し、その電極の対を複数設け、各電極対によらず電流が流れるように、供給量を制御する必要がなくなる。
【0028】
図3〜図6は、図1に示す通電加熱装置の具体的な構造を示し、図3は正面図、図4は左側面図、図5は平面図、図6は右側面図である。図3〜図6に示すように、通電加熱装置20は、ワークwを上下方向から挟む電極部21a,22aと補助電極部21b,22bとにより各電極21,22が構成されている。
【0029】
図3において、移動電極21が向かって左側に配置され、固定電極22が向かって右側に配置されている。移動電極21、固定電極22の何れも、対をなすリード部21c,22cと、ワークwに接触する電極部21a,22aと、ワークwを電極部21a,22a側に押圧する補助電極部21b,22bと、を備えている。
【0030】
図3に示すように、移動機構25として、ガイドレール25aが左右方向に延設され、その上方に、ねじ軸からなる移動制御棒25bが左右方向に延設され、ガイドレール25a上をスライドするスライダー25cに移動制御棒25bが螺合しており、移動制御棒25bをステップモータ25dにより速度調整して回転することで、スライダー25cが左右へ移動する。
【0031】
移動電極用のリード部21cが、絶縁板21dを介在してスライダー25c上に配置され、給電部1に電気的に接続された配線2aが移動電極用のリード部21cの一端部に固定され、移動用の電極部21aが移動電極用のリード部21cの他端部に固定されており、移動用の補助電極部21bを上下動可能に配置する吊り下げ機構26が配設されている。
【0032】
吊り下げ機構26が、ステージ26a,壁部26b,26c及び橋部26d等で構成された架台に設けられている。即ち、ステージ26aの他端部に奥行き方向に離隔して設けられた対の壁部26b,26cと、壁部26b,26c上端に架け渡された橋部26dと、橋部26dの軸上に取り付けられたシリンダーロッド26eと、シリンダーロッド26eの先端部に取り付けられる挟持部26f(固定具と呼んでもよい。)と、補助電極部21bを絶縁して保持する保持プレート26gと、を備える。シリンダーロッド26eの先端が挟持部26fの上端に固定され、壁部26b,26cのそれぞれ対向面に支持部26iが設けられ保持プレート26gを連結軸26hで揺動可能な状態でガイドする。シリンダーロッド26eが上下動することにより、挟持部26f、連結軸26h、保持プレート26c及び補助用電極部21bが上下動する。その際、ワークwの加熱領域を横断するように固定用の電極部21a及び補助用電極部21bが延びているので、連結軸26hで揺動されることにより、固定用の電極部21aの上面と補助用電極21bの下面の各全面をワークwに押し当てることができる。
【0033】
吊り下げ機構26及び移動電極用のリード部21cが移動機構25により左右に移動しても、移動用の電極部21aと移動用の補助電極部21bとが平板状のワークwに接触したまま挟持するように、移動用の電極部21a、移動用の補助電極部21bでは、何れも、ワークwの奥行き方向にワークwを横断するように転動ローラ27a,27bが配置され、転動ローラ27a,27bを一対の軸受28a,28bで転動自在にしている。移動機構25が移動用の電極部21a及び移動用の補助電極部26bを左右に移動しても、一対の軸受28a,28b及び転動ローラ27aを経由してワークwに通電した状態を維持することができる。なお、移動電極は、ワークの加熱すべき領域に接触しつつ転動又は摺動をする手段を有し、その具体的な形態として転動ローラ27a,27bを採用している。
【0034】
通電加熱装置20の他方側には固定電極22が設置されている。図3に示すように、固定電極用の引っ張り手段29がステージ29a上に配置されている。固定電極用のリード部22cが固定電極用の引っ張り手段29上に絶縁板29bを介在して配置されている。給電部1に電気的に接続された配線2bが固定電極用のリード部22cの一端部に固定されている。固定用の電極部22aは固定電極用のリード部22cの他端部に固定されている。固定用の補助電極部22bを上下動可能に配置する吊り下げ機構31が固定用の電極部22aを覆うように配置される。
【0035】
固定電極用の引っ張り手段29は、絶縁板29bの下面に接続されてステージ29aを左右に移動させる移動手段29cと、絶縁板26bを直接左右にスライドするためのスライダー29d,29eと、スライダー29d,29eをガイドするガイドレール29fとを有しており、移動手段29cによって、補助電極部22b、電極部22a及び固定電極用のリード部22cを左右にスライドして位置調整する。通電加熱装置20にこのような引っ張り手段29を設けていることにより、ワークwが通電加熱により膨張しても平坦化することができる。
【0036】
吊り下げ機構31は、ステージ31aの他端部に奥行き方向に離隔して立設した対の壁部31b,31cと、壁部31b,31c上端に架け渡された橋部31dと、橋部31dの軸上に取り付けられたシリンダーロッド31eと、シリンダーロッド31eの先端部に取り付けられる挟持部31fと、補助電極部22bを絶縁して保持する保持プレート31gと、を備える。保持プレート31gは連結軸31hを介して挟持部31fで挟持される。シリンダーロッド31eの先端が挟持部31fの上端に固定され、吊り下げ機構26と同様に、壁部31b,31cのそれぞれ対向面に設けた支持部によって保持プレートを揺動自在に支持する。シリンダーロッド31eが上下動することにより、挟持部31f、連結軸31h、保持プレート31g及び補助用電極部22bが上下動する。その際、ワークwの加熱領域を横断するように固定用の電極部22a及び補助用電極部22bが延びているので、連結軸31hで揺動することにより、固定用の電極部22aの上面と補助用電極部22bの下面の各全面をワークwに押し当てることができる。
【0037】
図3乃至図6に示さないが、水平支持手段によってワークwを水平に支持しておき、固定用電極21と補助用電極22でワークwを挟んで固定し、移動用電極21と補助電極22とでワークwを挟み、移動機構25が移動用電極21及び補助電極22を移動する。速度調整部15bによって移動速度を制御しながら、移動機構25により移動用電極21を移動する。よって、速度調整部15bによりワークwの形状に応じて、移動用電極21及び補助電極22の移動速度を調整することによって、ワークwの加熱領域を均一に加熱することができる。
【0038】
このように、通電加熱装置20では、ワークwを上下で挟むように電極部21aと補助用電極部21bとを配置する。ワークwの加熱領域を横断する形状を有する中実の電極部21aが、電極移動方向に沿って敷設された一対のリード部21c(ブスバーと呼んでもよい。)に横断して設けられる。電極部21aと補助用電極部21b及び一対のリード部21cが駆動機構25によって電極移動方向に沿って移動する手段に取り付けられている。電極部21a及び補助用電極部21bの少なくとも何れか一方が押圧手段としてのシリンダーロッド26eによって上下動して、電極部21aと補助用電極部21bとでワークwを挟んだまま、ワークw上を走行することにより、ブスバー21cを経由して電極部21bからワークwに通電しながら移動する。
【0039】
なお、図3乃至図6に示した形態のみならず、電極部21a及び補助用電極部21bの少なくとも何れか一方が押圧手段としてのシリンダーロッド26eによって上下動して、電極部21aと補助用電極部21bとでワークwを挟んだまま、電極部21aが一対のブスバー上を走行することによりブスバーを経由して電極部21bからワークwに通電しながら移動できるように設計変更してもよい。
【0040】
(第2実施形態)
図7は、本発明の第2実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
【0041】
本発明の第2実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置40は、図7に示すように、給電部1に電気的に接続され、一方の電極41及び他方の電極42からなる電極対43と、一方の電極41、他方の電極42の双方を移動する移動機構44,45と、を備える。
【0042】
各移動機構44,45は、一方の電極41,他方の電極42をワークwに接触した状態でかつ給電部1から電極対43を経由してワークwに通電している状態で、互いに接触しないように配置された一方の電極41,他方の電極42をそれぞれ移動して一方の電極41と他方の電極42との間隔を広げる。
【0043】
図7に示すように、ワークwが、平面視でひし形の形状を有しており、一定の均一厚みである場合には、奥行き幅が中央部で最も長く、左右の両端部で徐々に短くなる。このようなワークwを同一の温度範囲となるように加熱するためには、一方の電極41及び他方の電極42をワークwの中央部に短い間隔を隔ててワークwを横切るように配置して給電部1から一定電流を流しながら、一方の電極41と他方の電極42とを互いに逆方向に同じ速度で移動すればよい。
【0044】
第2実施形態において使用される具体的な装置構成については、図3〜図6に示す第1実施形態の構成のうち、左側に配置されている移動電極を右側にも配置すればよい。
【0045】
(第3実施形態)
図8は、本発明の第3実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電中の状態の平面図、(d)は通電中の状態の正面図、(e)は通電後の状態の平面図、(f)は通電後の状態の正面図である。
【0046】
第3実施形態では、ワークwは、図8に示すように、平面視で一方の等脚台形の領域と他方の等脚台形の領域とに対称に仮想的に区分し得るものであって、各領域のうち互いに平行な辺部の対のうち長辺部を外側に配置して短辺部同士を連続してなるものである。つまり、第1実施形態の図1において示したワークwを二つ連結したようなものである。その場合には、第1実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置10を次のように改良することにより、本発明を適用することができる。
【0047】
本発明の第3実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置50は、電極対53a及び移動機構56aを備える通電ユニット50aと、電極対53b及び移動機構56bを備える通電ユニット50bとを、それぞれ左右に配置する。ワークwの平面視で左側に配置される電極対53aは一方の電極51aと他方の電極52aとからなる。
【0048】
左側の通電ユニット50aでは、固定電極として、一方の電極51aが平面視でワークwの左端部に配置され、移動電極として他方の電極52aが平面視で一方の電極51aの右側に僅かな間隔を開けて配置され、移動機構56aにより移動する。
【0049】
右側の通電ユニット50bでは、固定電極として、一方の電極51bが平面視でワークwの右端部に配置され、移動電極として他方の電極52bが平面視で一方の電極51bの左側に僅かな間隔を開けて配置され、移動機構55bにより移動する。
【0050】
各移動機構55a,55bは、第1実施形態、第2実施形態と同様、移動電極の移動速度を制御する調整部54a,54bと、調整部54a,54bによって移動電極を移動させる駆動機構55a,55bとを備える。調整部54a,54bは、ワークwの形状及び寸法に関するデータから移動電極の移動速度を求め、駆動機構55a,55bがその求めた移動速度により移動電極を移動させる。
【0051】
図8(a),(b)のように各電極が配置され、給電部1により各電極対53a,53bを経由してワークwに給電されている状態で、図8(c),(d)に示すように移動機構56a,56bにより他方の電極52a、52bをそれぞれ移動して、一方の電極51a,51bからそれぞれ遠ざける。その後、図8(e),(f)に示すように他方の電極52a,52bを何れもワークwから非接触となるように上下方向に移動する。その際、給電部1から各電極対53a,53bに通電を停止して、図示しない切替器を用いて回路を切り替え、電極51aと電極51bとの間に給電部1から通電を再開する。これにより、ワークwのうち他方の電極52aと他方の電極52bとの間の部位を通電して加熱することができる。
【0052】
第3実施形態においても、移動機構56a,56bで移動電極としての他方の電極52a,52bをワークwの形状及び寸法に基づいて移動速度を制御して移動することにより、電極対53aにより一方の電極51aと他方の電極52aとの間で通電し、電極対53bにより一方の電極51bと他方の電極52bとの間で通電することにより、ワークwの部位毎の熱量を等しくして、均一加熱することができる。
【0053】
なお、通電ユニット50a,50bの各構成については第1実施形態と同様の構成を適用することができ、具体的な構成としては図3〜図6に示すものを挙げられる。
【0054】
(第4実施形態)
図9は、本発明の第4実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
【0055】
図9に示す通電加熱装置10の構成は図1に示す通電加熱装置10と同じである。つまり、本発明の第4実施形態に係る通電加熱方法の実施に使用される通電加熱装置10は、給電部1に電気的に接続され、一方の電極11及び他方の電極12からなる電極対13と、一方の電極11、他方の電極12の何れか一方又は双方を移動する移動機構15と、を備える。移動機構15は、一方の電極11及び他方の電極12をワークwに接触した状態でかつ給電部1から電極対13を経由してワークwに通電している状態で、一方の電極11を移動して一方の電極11と他方の電極12との間隔を変化させる。
【0056】
第4実施形態は、第1実施形態とワークwの形状が異なっている。即ち、ワークwが平面視において左右方向に沿って奥行き幅が変化しておらず、厚みが一方向に減少している。これにより一方向に断面積が減少している。
【0057】
第4実施形態においても、ワークwの加熱領域は、電極対13に給電部11により、通電開始から停止するまでに移動電極(図9では一方の電極11)を移動することで、電極の移動方向に従って短冊状に仮想的に分割した領域毎の熱量を制御することができる。
【0058】
例えば図1のように、ワークwが左方向に厚みが小さくなっている場合においても、移動速度を、上記式4から、断面積の変化率の2乗に比例した関数で規定される。
【0059】
(第5実施形態)
図10は、本発明の第5実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
【0060】
図10に示す通電加熱装置10は図1に示す通電加熱装置10と構成は同じである。ワークwにおいて加熱領域がワークwの全体ではなく、左右何れかの一方の領域である点において異なる。つまり、ワークwの全体領域が、加熱領域w1と非加熱領域w2の2つの領域に区分される点である。これは、加熱領域w1の素材と非加熱領域w2の素材とが異なっており、両者を溶接によって接続して一体化したものである。このようなワークwの使用例としては、加熱領域w1の硬度と増加させて非加熱領域w2を衝撃等によって変形し易くして衝撃を吸収する部材が挙げられる。この場合には、加熱領域w1のうち一方向と直交する方向に沿う断面積が大きい側に一方の電極11と他方の電極12とを配置して、その断面積が小さくなる方向に移動する。移動速度については、式4に基づいて設定すればよい。これにより、第5実施形態においても、ワークwの加熱領域w1は、電極対13に給電部11により通電開始から停止するまでに移動電極(図10では一方の電極11)を移動することで、電極の移動方向に従って短冊状に仮想的に分割した領域毎の熱量を制御することができる。
【0061】
(第6実施形態)
図11は、本発明の第6実施形態に係る通電加熱方法を実施する際に使用される通電加熱装置のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
【0062】
図11に示す通電加熱装置40は図7に示す通電加熱装置40と構成は同じである。異なるのは、ワークwの左右一方は熱間加工温度にほぼ均一に加熱する領域w1であり、他方が焼入れ温度よりも低い温間加工温度に均一に加熱する領域w2の点である。このワークwの全体領域が、異なる温度にそれぞれ加熱される領域w1,w2からなっている点である。このワークwは、第5実施形態と同様、領域w1の素材と領域w2の素材とが異なっており、両者を溶接によって接続して一体化したものである。この場合には、何れも移動電極41,42がそれぞれ移動機構44,45によって移動される。左側の領域w1は熱間加工温度に均一に加熱されるのに対して、右側の領域w2は温間加工温度に加熱され、後工程でプレスされやすくする。そのため、移動電極41,42の間に一定電流を流しながら、移動機構44が移動電極41を式4の関係を満たすように移動して領域w1を均一の熱間加工温度に加熱し、領域w2が所定の温間加熱温度に加熱されるよう移動機構45が移動電極42を移動する。その際、移動電極41,42のそれぞれの移動開始時間及び移動終了時間については各領域w1,w2の左右方向の寸法、熱間加工温度、温間加工温度に応じて適宜設定すればよい。
【0063】
以上、複数の実施形態を説明したが、本発明は、ワークwの形状及び寸法に応じて適宜変更して実施することができる。ワークwは図示した形状に限定されず、ワークwが、一方向に沿う断面積が小さくなるなどして単位長さ当たりの抵抗が小さくなる領域を含んでいれば、その方向に電極を移動させることによりその領域を均一加熱することができる。なお、ワークwは、外周辺のうち左右端をつなぐ横辺は直線である必要はなく湾曲していてもよいし、横辺が複数の直線や曲率の異なる曲線をつなげて構成されていてもよい。
【0064】
また、上述の説明では、ワークw全体が加熱領域である場合、ワークwの一部が加熱領域である場合、ワークwが複数の領域に分けられており各領域が加熱領域である場合について説明しているが、それ以外にも、ワークwに対して間隔をおいて配置される一方及び他方の電極の何れかの移動電極の移動方向に対して交差する方向に、つまりワークwの左右方向ではなく奥行き方向に加熱領域が分かれており、その各加熱領域毎に移動電極を配置するようにしてもよい。その際、加熱領域は奥行き方向に隣接して分かれていてもよいし、奥行き方向に分離して設定されていてもよい。
【0065】
このように、ワークwの形状及び寸法並びにワークwにおける加熱領域に応じて移動すべき電極を一又は複数設けてワークwを通電加熱するように適宜設計変更することも、本発明の範囲に含まれる。その際、固定電極を必要に応じて用いてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1:給電部
2a,2b:配線
5L,5R:電極
10,20,40,50:通電加熱装置
11:一方の電極(移動電極)
12:他方の電極(固定電極)
13:電極対
15:移動機構
15a:調整部
15b:駆動機構
21:電極(移動電極)
22:電極(固定電極)
21a,22a:電極部
21b,22b:補助電極部
21c,22c:リード部
21d:絶縁板
25:移動機構
25a:ガイドレール
25b:移動制御棒
25c:スライダー
25d:ステップモータ
26,31:吊り下げ機構
26a,31a:ステージ
26b,26c,31b,31c:壁部
26d,31d:橋部
26e,31e:シリンダーロッド
26f,31f:挟持部
26g,31g:保持プレート
26h,31h:連結軸
26i:支持部
27a,27b:転動ローラ
28a,28b:軸受
29:引っ張り手段
29a:ステージ
29b:絶縁板
29c:移動手段
29d,29e:スライダー
29f:ガイドレール
41:一方の電極(移動電極)
42:他方の電極(移動電極)
43:電極対
44,45:移動機構
44a,45a:調整部
44b,45b:駆動機構
50a,50b:通電ユニット
51a,51b:一方の電極(固定電極)
52a,52b:他方の電極(移動電極)
53a,53b:電極対
54a,54b:駆動機構
55a,55b:調整部
56a,56b:移動機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に沿う単位長さあたりの抵抗が該一方向に沿って変化するよう加熱領域を備えたワークを、上記加熱領域の各部が所定の加熱温度範囲となるように加熱する通電加熱方法であって、
一方の電極と他方の電極とを間隔をおいて上記加熱領域に横断させて配置し、通電状態のまま上記一方の電極と上記他方の電極の何れか一方又は双方を移動させることにより、
単位長さあたりの抵抗の変化に応じて、上記加熱領域の各部に供給される通電の時間を調整する、通電加熱方法。
【請求項2】
前記一方の電極と前記他方の電極に、給電部から一定の電流を流す、請求項1に記載の通電加熱方法。
【請求項3】
前記ワークの加熱領域は、一方向に断面積が減少する形状を有しており、その一方向の断面積の減少に応じて前記一方の電極、前記他方の電極のうち何れかを移動する、請求項1に記載の通電加熱方法。
【請求項1】
一方向に沿う単位長さあたりの抵抗が該一方向に沿って変化するよう加熱領域を備えたワークを、上記加熱領域の各部が所定の加熱温度範囲となるように加熱する通電加熱方法であって、
一方の電極と他方の電極とを間隔をおいて上記加熱領域に横断させて配置し、通電状態のまま上記一方の電極と上記他方の電極の何れか一方又は双方を移動させることにより、
単位長さあたりの抵抗の変化に応じて、上記加熱領域の各部に供給される通電の時間を調整する、通電加熱方法。
【請求項2】
前記一方の電極と前記他方の電極に、給電部から一定の電流を流す、請求項1に記載の通電加熱方法。
【請求項3】
前記ワークの加熱領域は、一方向に断面積が減少する形状を有しており、その一方向の断面積の減少に応じて前記一方の電極、前記他方の電極のうち何れかを移動する、請求項1に記載の通電加熱方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−114942(P2013−114942A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261077(P2011−261077)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]