説明

連続鋳造方法および連続鋳造装置

【課題】凝固膜の上昇による鋳片の表面の品質の低下を防止できるとともに、中空状の鋳片を鋳造する場合における鋳造設備の稼動停止を防止できる連続鋳造装置を提供する。
【解決手段】連続鋳造装置1は、鋳片12の鋳造時に、溶湯11の流れ方向における、溶湯11と鋳片12との境界部に形成される凝固膜12aの位置を検出する検出機構60と、検出した凝固膜12aの溶湯11の流れ方向の位置に応じて鋳造条件を変更し、凝固膜12aの溶湯11の流れ方向の位置を制御する制御機構70とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型に供給された溶湯を冷却して鋳片を形成し、該鋳片を鋳型から引き抜くことで、連続して鋳片を鋳造する連続鋳造方法および連続鋳造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、連続鋳造方法を用いてスラブ等の鋳片を鋳造している。連続鋳造方法では、鋳型に供給される溶湯を冷却して凝固させることにより鋳片を形成し、当該鋳片を鋳型から引き抜くことで連続して鋳造を行う。
【0003】
このような連続鋳造方法は、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された連続鋳造方法は、中空状の鋳片を連続して鋳造する技術であり、鋳型の内側に配置される水冷式柱状中子等を用いる。水冷式柱状中子の凝固定数、メニスカスから中子の最下端までの距離等が所定の条件を満たすように、連続鋳造方法に用いる装置を構成する。
【0004】
特許文献1に開示された連続鋳造方法のように、中子を用いて連続鋳造を行う場合には、図9に示すように、溶湯111は、凝固するときに中子140側へ向かって凝固収縮する。
このため、鋳片112を引抜機構150で引き抜く際に発生する抵抗(鋳片112の離型抵抗)は、中子140を用いずに中実状の鋳片を引き抜く際の鋳片の離型抵抗と比較して増大する。
【0005】
例えば、図9および図10に示すように、冷却過剰等によって鋳片112の上流側端部に形成される凝固膜112aがホットトップ130の中途部の位置P100まで上昇した場合、中子140と鋳片112との接触範囲が大きくなる(図9に示す符号L101および図10に示す符号L102参照)。従って、鋳片112の離型抵抗は凝固膜112aの上昇前と比較してさらに増大する。
つまり、凝固膜112aの上昇に伴って鋳片112の離型抵抗は増大するため、鋳片112を引き抜く際に必要となる力が大きくなる。一方、凝固したばかりの鋳片112は、高温であるため、その強度が低くなっている。
【0006】
従って、凝固膜112aが所定の高さ(例えば位置P100)まで上昇している状態で鋳片112を引き抜いた場合、鋳片112を引き抜く力と鋳片112の離型抵抗とによって鋳片112が破損してしまう可能性がある(図10に示す符号C参照)。
このとき、連続鋳造方法を用いる所定の鋳造装置100(鋳造設備)の稼動を停止して、鋳片112を取り除く等の復旧作業を行って、鋳造装置100の再稼動を行う必要がある。
【0007】
また、耐熱レンガ等で構成されるホットトップ130の中途部まで凝固膜112aが上昇した場合、鋳片112の外周表面112bがホットトップ130の内周面131に接触する。この場合、鋳片112の外周表面112bの形状が、ホットトップ130の内周面131に沿った形状となってしまう。つまり、ホットトップ130は耐熱レンガ等で構成されていて、その表面粗さが大きいため、鋳片112の外周表面112bの品質が低下してしまう。
また、ホットトップ130と同じ高さに配置される中子140の上流部141が、耐熱レンガ等で構成されている場合、同様に鋳片112の内周表面112cの品質が低下してしまう。
【0008】
つまり、特許文献1に開示された連続鋳造方法では、凝固膜112aの上昇によって、鋳造装置100の稼動停止が発生する可能性があるとともに、鋳片112の外周表面112bおよび内周表面112cの品質が低下する可能性があるという点で不利であった。
【0009】
また、中実状の鋳片112を鋳造する場合においては、中子140を用いないため、凝固膜112aの上昇によって鋳片112の離型抵抗は増大しない。つまり、凝固膜112aの上昇に起因する鋳造設備の稼動停止は発生しない。しかし、凝固膜112aの上昇によって鋳片112の外周表面112bがホットトップ130の外周面131に接触するため、鋳片112の外周表面112bの品質が低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−304702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、凝固膜の上昇による鋳片の表面の品質の低下を防止できるとともに、中空状の鋳片を鋳造する場合における鋳造設備の稼動停止を防止できる連続鋳造方法および連続鋳造装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1においては、鋳型に供給される溶湯を冷却して凝固させることにより鋳片を形成し、前記鋳片を前記鋳型から引き抜くことで、連続して前記鋳片を鋳造する連続鋳造方法であって、前記鋳片の鋳造時に、前記溶湯の流れ方向における、溶湯と鋳片との境界部の位置を検出する検出工程と、検出した前記境界部の前記溶湯の流れ方向の位置に応じて鋳造条件を変更し、前記境界部の前記溶湯の流れ方向の位置を制御する制御工程とを含む、ものである。
【0013】
請求項2においては、前記検出工程では、前記境界部の検出位置を、正常な鋳片を前記鋳型から連続的に引抜可能となる前記境界部の位置範囲である引抜可能位置の範囲内に設定し、前記検出工程において、前記境界部の位置が前記溶湯の流れ方向における上流側へ移動して、前記検出位置にまで達したことを検出すると、前記制御工程において、鋳造条件を変更して、前記境界部の位置を前記検出位置よりも前記溶湯の流れ方向における下流側に移動させる、ものである。
【0014】
請求項3においては、鋳型に供給される溶湯を冷却して凝固させることにより鋳片を形成し、前記鋳片を前記鋳型から引き抜くことで、連続して前記鋳片を鋳造する連続鋳造装置であって、前記鋳片の鋳造時に、前記溶湯の流れ方向における、前記溶湯と前記鋳片との境界部の位置を検出する検出手段と、検出した前記境界部の前記溶湯の流れ方向の位置に応じて鋳造条件を変更し、前記境界部の前記溶湯の流れ方向の位置を制御する制御手段とを具備する、ものである。
【0015】
請求項4においては、前記検出手段においては、前記境界部の検出位置が、正常な鋳片を前記鋳型から連続的に引抜可能となる前記境界部の位置範囲である引抜可能位置の範囲内に設定され、前記検出手段により、前記境界部の位置が前記溶湯の流れ方向における上流側へ移動して、前記検出位置にまで達したことを検出すると、前記制御手段により、鋳造条件を変更して、前記境界部の位置を前記検出位置よりも前記溶湯の流れ方向における下流側に移動させる、ものである。
【0016】
請求項5においては、前記連続鋳造装置は、前記鋳型の内側に配置されるとともに、前記鋳片の中空部を形成する中子を具備し、前記検出手段は、前記中子側の前記検出位置に対応する位置で前記溶湯あるいは前記鋳片と接触するとともに、前記溶湯あるいは前記鋳片に対して通電する第一電極と、前記鋳型側の前記検出位置に対応する位置で前記溶湯と接触するとともに、前記溶湯あるいは前記鋳片に対して通電する第二電極と、前記第一電極および第二電極に接続され、前記第一電極と第二電極との間に電圧を印加する電気回路と、前記電気回路の電流値を測定し、該電流値に基づいて前記境界部が前記検出位置にまで到達したことを検出する電流センサと、を備える、ものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、凝固膜が検出位置まで上昇したことを検出できるとともに、凝固膜を引抜可能位置の上流側端部よりも上流側まで上昇することを防止できるため、凝固膜の上昇による鋳片の表面の品質の低下を防止できるという効果を奏する。また、中空状の鋳片を形成するときに、凝固膜の上昇による鋳造設備の稼動停止を防止できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態の連続鋳造装置の全体的な構成を示す説明図。
【図2】図1におけるA−A´矢視断面図。
【図3】凝固膜が検出位置よりも下流側にある場合の連続鋳造装置を示す説明図。
【図4】凝固膜が検出位置よりも下流側にある場合の連続鋳造方法を示すフロー図。
【図5】凝固膜が引抜可能位置の上流側端部にある場合の連続鋳造装置を示す説明図。
【図6】凝固膜が検出位置にある場合の連続鋳造方法を示すフロー図。
【図7】連続鋳造装置の別実施形態を示す説明図。
【図8】連続鋳造装置の別実施形態を示す説明図。
【図9】従来の連続鋳造装置を示す説明図。
【図10】同じく凝固膜が上昇している状態の連続鋳造装置を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る連続鋳造方法が用いられて鋳造を行う連続鋳造装置について、図面を参照して説明する。
【0020】
連続鋳造装置1は、鋳型20に供給された溶湯11を冷却して凝固させることにより鋳片12を形成し、当該鋳片12を鋳型20から引き抜くことで、連続して鋳片12を鋳造するものである。本実施形態の連続鋳造装置1は、円筒状の鋳片12を鋳造する。
【0021】
なお、以下では、説明の便宜上、溶湯11が流れる方向(図1に示す矢印B方向)を基準として、「連続鋳造装置1の上流側」および「連続鋳造装置1の下流側」を規定する。
また、連続鋳造装置1は、上下方向に沿って鋳片12を引き抜くものとするが、これに限定されるものでなく、水平方向に沿って鋳片12を引き抜く構成とすることも可能である。
【0022】
図1および図2に示すように、連続鋳造装置1は、主として鋳型20、ホットトップ30、中子40、搬送機構50、検出機構60、および制御機構70等を具備する。
【0023】
鋳型20は、溶湯11を冷却するとともに、鋳片12の外形を形成するものである。鋳型20は、略リング状に形成され、その内部に断面形状が略四角形状の冷却通路21が形成される。冷却通路21は、配管等を介して冷却水の供給源に連結され、当該供給源から冷却水が供給される。このような鋳型20は本実施形態では銅合金で構成されており、その内周面22は滑らかに形成されていて、表面粗さは小さくなっている。
【0024】
ホットトップ30は、検出機構60を介して鋳型20の上流側(図1においては上方)に取り付けられており、鋳型20の断面形状と同様の断面形状を有している。
また、ホットトップ30は所定の溶湯供給経路に連通され、ホットトップ30には当該溶湯供給経路から溶湯11が供給される。このようなホットトップ30は本実施形態では耐熱レンガで構成されている。つまり、ホットトップ30の内周面31は、鋳型20の内周面22に比べて大きな表面粗さを有する面に形成されており、鋳型20の内周面22とは異なる表面形状を有している。
【0025】
中子40は、鋳片12の中空部を形成するためのものである。中子40は、略円柱状に形成され、鋳型20の内側、より詳細には、鋳型20の略中央部に配置される。つまり、鋳型20と中子40とは、互いに同心上に配置される。また、中子40は、ホットトップ30よりも上方に突出する。
【0026】
中子40は、ホットトップ30と同じ高さに配置される部分およびホットトップ30よりも高い位置に配置される部分を、中子40の上流部41として形成する。中子40の上流部41は、ホットトップ30と同様に耐熱レンガで構成されている。つまり、中子40の上流部41の外周面41aは表面粗さが大きく、表面粗さが小さな鋳型20の内周面22とは異なる表面形状を有している。
【0027】
また、中子40は、鋳型20と同じ高さに配置される部分を、中子40の下流部42として形成する。中子40の下流部42は、鋳型20と同様に銅合金で構成されている。つまり、中子40の下流部42の外周面42aは、鋳型20の内周面22と同様に表面粗さが小さく滑らかな面に形成されており、鋳型20の内周面22と同じ表面形状を有している。
このような中子40の上流部41と下流部42とは、検出機構60を介して連結される。
【0028】
搬送機構50は、鋳片12を引き抜くものである。搬送機構50は、鋳型20の下流側端部から下流側へ所定の間隔を空けた状態で、鋳型20よりも下流側に設けられる。搬送機構50が駆動することで鋳片12は、鋳型20より下流側に引き抜かれる。
【0029】
検出機構60は、鋳型20および中子40の内部において鋳片12の上端の上昇を検出するものである。検出機構60は、第一電極61、第二電極62、電気回路63、および電流センサ64を備える。
【0030】
第一電極61は、第一絶縁体61a・61aを介して中子40の上流部41と中子40の下流部42との間に設けられる。第一電極61は、中子40と同一の外径を有する略円盤状に形成される。第一電極61は、電気伝導率の高い部材、本実施形態では、銅によって構成されている。
また、第一電極61の外周面は、鋳型20の内周面22と同じ表面形状に形成される。つまり、第一電極61の外周面は、鋳型20の内周面22と同様の、表面粗さが小さく滑らかな面に形成されている。
【0031】
第一絶縁体61a・61aは、中子40と同一の外径を有する略円盤状に形成され、第一電極61の上流側および第一電極61の下流側で第一電極61を挟む。従って、第一電極61は、中子40の上流部41および下流部42に対して絶縁された状態で、前記上流部41と下流部42との間に配置されている。第一電極61は、その外周面が中子40の上流部41と下流部42との間で外部に露出する。第一絶縁体61a・61aは、溶湯11によって溶解または溶融しないような耐熱性を有する適宜の絶縁体によって構成されている。
また、第一絶縁体61a・61aの外周面は、鋳型20の内周面22と同じ表面形状に形成される。つまり、第一絶縁体61a・61aの外周面は、鋳型20の内周面22と同様の、表面粗さが小さく滑らかな面に形成されている。
【0032】
第二電極62は、第二絶縁体62aを介して鋳型20とホットトップ30との間に設けられる。第二電極62は、鋳型20の外径よりも小さい外径を有するとともに、鋳型20の内径と同一の内径を有する略リング状に形成される。第二電極62と鋳型20とは、互いに同心上に配置される。このような第二電極62は、電気伝導率の高い部材、本実施形態では、銅によって構成される。
また、第二電極62の内周面は、鋳型20の内周面22と同じ表面形状に形成される。つまり、第二電極62の内周面は、鋳型20の内周面22と同様の、表面粗さが小さく滑らかな面に形成されている。
【0033】
第二絶縁体62aは、鋳型20と同一の外径を有するとともに、鋳型20と同一の内径を有する略リング状に形成される。第二絶縁体62aと鋳型20とは、互いに同心上に配置される。第二絶縁体62aの内周の中途部には、第二電極62を収容可能な収容部が形成され、当該収容部に第二電極62が収容される。従って、第二電極62は、鋳型20およびホットトップ30に対して絶縁された状態で、鋳型20とホットトップ30との間に配置されている。第二電極62の内周面は、ホットトップ30と鋳型20との間で外部に露出する。第二絶縁体62aは、溶湯11によって溶解または溶融しないような耐熱性を有する適宜の絶縁体によって構成されている。
また、第二絶縁体62aの内周面は、鋳型20の内周面22と同じ表面形状に形成される。つまり、第二絶縁体62aの内周面は、鋳型20の内周面22と同様の、表面粗さが小さく滑らかな面に形成されている。
【0034】
電気回路63は、第一電極61および第二電極62と接続される電源63aを有する。電気回路63には、電源63aより一定の電圧が印加されている。
【0035】
電流センサ64は、本実施形態では、制御機構70に接続される電流計によって構成され、電気回路63に流れる電流を測定する。当該測定した電流値は、電流センサ64に電気的に接続される制御機構70に送信される。
【0036】
このような検出機構60の第一電極61と第二電極62とは、互いに同じ高さ位置に配置されるとともに、互いに外部に露出して向き合った状態で配置される。
本実施形態では、第一電極61および第二電極62と同じ高さの位置が検出位置Pとして設定される(図3参照)。
【0037】
制御機構70は、電流センサ64から送信される電流値に基づいて所定の演算処理を行うとともに、鋳造条件を変更可能に構成される。
すなわち、制御機構70は、溶湯11を生成する溶解炉等に電気的に接続され、鋳型20に供給される溶湯11の温度を調整可能に構成される。また、制御機構70は、鋳型20に流れる冷却水の供給源等に電気的に接続され、鋳型20の冷却通路21を流れる冷却水の流量等を変更可能に構成される。そして、制御機構70は、搬送機構50等に電気的に接続され、搬送機構50による鋳片12の搬送速度を変更可能に構成される。
【0038】
このように構成される連続鋳造装置1は、以下のようにして連続鋳造を行う。
まず、連続鋳造装置1のホットトップ30に、前記溶解炉で生成された溶湯11が、取鍋およびタンディッシュ等を通って介在物が除かれた状態で供給される。そして、溶湯11は、ホットトップ30を通じて鋳型20に進入し、鋳型20で冷却されることで凝固して鋳片12となる。このとき、溶湯11と鋳片12との境界部となる鋳片12の上流側端部には、凝固膜12aが形成される。鋳片12の上流側では溶湯11が鋳片12を加圧する。
【0039】
鋳型20にて生成した鋳片12が搬送機構50により引き抜かれると、鋳片12は下降する(下流側へ向かって移動する)。このとき凝固膜12aも下降する(凝固膜12aの位置が溶湯11の流れ方向における下流側へ向かって移動する)。これに伴って、溶湯11の下流側端部も下降する。
一方、溶湯11は、鋳型20で冷却されることにより鋳片12となる。つまり、鋳片12の生成に伴って凝固膜12aは上昇する(凝固膜12aの位置が溶湯11の流れ方向における上流側へ向かって移動する)。
従って、連続鋳造装置1では、凝固膜12aの上昇速度および下降速度をつりあわせることで凝固膜12aの位置を所定の高さ位置に維持しながら、連続して鋳造を行う。
【0040】
ここで、鋳型20で冷却された溶湯11は、中子40の下流部42(つまり内周側)に向かって凝固収縮する。従って、鋳片12を引き抜く際に発生する抵抗(鋳片12の離型抵抗)は、中子40を用いずに中実状の鋳片を引き抜く際の鋳片の離型抵抗と比較して増大する。
また、図3および図5に示すように、凝固膜12aが上昇すると、その上昇に伴い鋳片12と中子40との接触範囲が増大するため、鋳片12の離型抵抗は凝固膜12aの上昇前と比較してさらに増大する(図3に示す符号L1および図5に示す符号L2参照)。つまり、鋳片12を引き抜く際に必要となる力が大きくなる。一方、鋳型20で形成されたばかりの鋳片12は、高温であるため、その強度が低くなっている。
【0041】
従って、鋳片12の生成による凝固膜12aの上昇速度が、鋳片12の引き抜きによる凝固膜12aの下降速度よりも速くなり、凝固膜12aが大きく上昇している状態で鋳片12を引き抜いた場合、鋳片12が破損してしまう可能性がある。本実施形態では、凝固膜12aがホットトップ30の中途部の位置P1よりも上流側まで上昇したときに、鋳片12が破損してしまう可能性がある。
このように、凝固膜12aがホットトップ30の位置P1よりも上流側まで上昇して鋳片12が破損したときには、連続鋳造装置1(鋳造設備)の稼動を停止して、鋳片12を取り除く等の復旧作業を行って、連続鋳造装置1の再稼動を行う必要がある。
【0042】
また、凝固膜12aがホットトップ30と接触するまで上昇した場合、鋳片12の外周表面12bは、鋳型20、第二電極62、第二絶縁体62a、およびホットトップ30と接触する。
第二電極62の内周面および第二絶縁体62aの内周面は、前述のように、鋳型20の内周面22と同じ表面形状に形成されている。一方、ホットトップ30の内周面31は、鋳型20の内周面22とは異なる粗い表面形状に形成されているため、ホットトップ30と接触する部分において、鋳片12の外周表面12bの品質が低下してしまう。
【0043】
そして、凝固膜12aが中子40の上流部41と接触するまで上昇した場合、鋳片12の内周表面12cは、中子40の下流部42、第一電極61、第一絶縁体61a・61a、中子40の上流部41と接触する。
中子40の下流部42の外周面42a、第一電極61の外周面、および第一絶縁体61a・61aの外周面は、前述のように、鋳型20の内周面22と同じ表面形状に形成されている。一方、中子40の上流部41の外周面41aは、鋳型20の内周面22とは異なる粗い表面形状に形成されているため、中子40の上流部41と接触する部分において、鋳片12の内周表面12cの品質が低下してしまう。
【0044】
つまり、本実施形態では、凝固膜12aが、第一電極61の上下に配置される第一絶縁体61a・61aのうちの上流側の第一絶縁体61a、および第二絶縁体62aの上流側端部の位置P2よりも上流側まで上昇したときに、鋳片12の外周表面12bおよび内周表面12cの品質が低下してしまう。
【0045】
このように、連続鋳造装置1では、凝固膜12aが位置P2よりも上流側まで上昇すると鋳片12の品質低下が生じるため、当該凝固膜12aが位置P2を超えて上流側まで上昇することを防止する必要がある。
【0046】
次に、連続鋳造装置1を用いて行われる連続鋳造方法について説明する。
本連続鋳造方法は、凝固膜12aの上昇を検出したとき、上昇した凝固膜12aを下降させるものである。連続鋳造方法は、凝固膜12aの位置を検出する検出工程と、凝固膜12aの溶湯11の流れ方向の位置を制御する制御工程とを含む。
【0047】
まず、図3に示すように、検出工程で凝固膜12aを検出する位置である検出位置Pを設定する。本実施形態の検出位置Pは、前述のように、第一電極61および第二電極62と同じ高さの位置、つまり鋳型20とホットトップ30との間の高さ位置に設定されている。
【0048】
連続鋳造方法では、凝固膜12aが検出位置Pまで上昇していない場合と、凝固膜12aが検出位置Pまで上昇した場合(あるいは検出位置Pよりも上流側まで上昇した場合)とで、その動作が異なる。このため、まず、凝固膜12aが検出位置Pまで上昇していない場合の動作について説明する。
【0049】
図2、図3、および図4に示すように、凝固膜12aが検出位置Pまで上昇していない場合(凝固膜12aが鋳型20の下部の位置P3にある場合)、凝固膜12aは、検出位置Pよりも下流側に位置する(S110)。このとき、各電極61・62の間は、溶湯11で満たされる(S120)。つまり、各電極61・62の間には、溶湯11が介在している。
【0050】
第一電極61は、第一絶縁体61a・61aおよび溶湯11と接触している。また、第二電極62は、第二絶縁体62aおよび溶湯11と接触している。溶湯11は導電性を有するため、電気回路63に流れる電流は第一電極61から溶湯11を介して第二電極62に流れる。言い換えれば、各電極61・62の間は、溶湯11で電気的に接続され、溶湯11に対して通電する。
【0051】
ここで、溶湯11は、鋳片12と比較して、その電気伝導率が低い。従って、各電極61・62の間に介在する溶湯11は、各電極61・62の間に流れる電流に対して、鋳片12よりも大きな電気抵抗として作用する(S130)。
【0052】
従って、電流センサ64で測定される電流値は小さくなる(図3に示す符号i参照)(S140)。
【0053】
この場合、本連続鋳造方法では、各電極61・62の間に溶湯11が介在している場合に電流センサ64で測定される電流値と、各電極61・62の間に鋳片12が介在している場合に電流センサ64で測定される電流値との間の電流値を閾値として凝固膜12aの高さ位置を判別するようにしている。これにより、電流センサ64で測定される電流値が前記閾値よりも小さい場合に、凝固膜12aが検出位置Pまで上昇していないと判定する。つまり、凝固膜12aが正常な位置にあると判定する(S150)。
【0054】
S150にて凝固膜12aが正常な位置にあると判定した場合、連続鋳造装置1は、そのままの鋳造条件で鋳造を行う(S160)。
【0055】
次に、冷却過剰等によって凝固膜12aが検出位置Pまで上昇した場合、あるいは凝固膜12aが検出位置Pよりも上流側まで上昇した場合における連続鋳造装置1の動作について説明する。
本実施形態では、説明の便宜上、凝固膜12aが検出位置Pよりも上流側(検出位置Pを上流側に超えて)、より詳細には図5に示すような第二絶縁体62aの上流側端部まで上昇したものとして説明を行うが、凝固膜12aが検出位置Pと同じ高さまで上昇した場合の動作も同様である。
【0056】
図5および図6に示すように、検出位置Pよりも上流側、本実施形態では第二絶縁体62aの上流側端部まで上昇した場合、凝固膜12aは、検出位置Pよりも上流側に位置する(S210)。このとき、各電極61・62の間は、鋳片12で満たされる(S220)。つまり、各電極61・62の間には、鋳片12が介在している。
【0057】
第一電極61および第二電極62は、それぞれ鋳片12と接触している。鋳片12は導電性を有しているため、電気回路63に流れる電流は第一電極61から鋳片12を介して第二電極62に流れる。言い換えれば、各電極61・62の間は、鋳片12で電気的に接続され、鋳片12に対して通電する。
【0058】
ここで、鋳片12は、溶湯11と比較して、その電気伝導率が高い。従って、各電極61・62の間に介在する鋳片12は、各電極61・62の間に流れる電流に対して、溶湯11よりも小さな電気抵抗として作用する(S230)。
【0059】
従って、電流センサ64で測定される電流値は大きくなる(図5に示す符号i参照)(S240)。
【0060】
この場合、電流センサ64で測定される電流値は前記閾値よりも大きくなるため、本連続鋳造方法では、凝固膜12aが検出位置Pよりも上流側まで上昇したと判定する。つまり、凝固膜12aが異常な位置にあると判定する(S250)。このように、検出機構60は、検出位置Pで凝固膜12aを検出する。
【0061】
このような判定としては、電気回路63の電源63aより印加される電圧、溶湯11の電気伝導率、および鋳片12の電気伝導率等に基づいて、各電極61・62の間に溶湯11および鋳片12が介在している場合の電流値を計算する。そして、当該計算結果に基づいて、電流センサ64で測定される電流値に、前述のように閾値を設定する。
電流センサ64で測定される電流値が設定した閾値を超えたときに、連続鋳造装置1は、凝固膜12aが検出位置Pよりも上流側まで上昇した(あるいは凝固膜12aが検出位置Pまで上昇した)と判定する。
【0062】
また、例えば、図5において凝固膜12aの右側だけが検出位置Pまで上昇した場合、各電極61・62の間は、その右側で鋳片12と接触するとともに、左側で溶湯11と接触する。このとき、電気回路63を流れる電流値は、各電極61・62の間が全て溶湯11で満たされている場合に比べて大きくなる。このため、電流センサ64で測定される電流値の前記閾値を各電極61・62の間が全て溶湯11で満たされている場合の値に対して若干大きな値に設定することで、凝固膜12aの一部だけが検出位置Pまで上昇した場合でも、当該凝固膜12aの上昇を検出できる。
【0063】
このように、検出工程(S210〜S250)および検出手段としての検出機構60は、鋳片12の鋳造時に、溶湯11の流れ方向における、溶湯11と鋳片12との境界部である凝固膜12aの位置を検出する。
【0064】
S250にて凝固膜12aが異常な位置にあると判定した場合、連続鋳造装置1は、凝固膜12aを下降させる鋳造条件に変更して鋳造を行う(S260)。つまり、制御機構70は、凝固膜12aの上昇速度が凝固膜12aの下降速度よりも遅くなるように、鋳造条件を変更する。このとき、制御機構70は、凝固膜12aの上昇速度を遅くするような鋳造条件の変更、および凝固膜12aの下降速度を速くするような鋳造条件の変更のうち、少なくともいずれか一方を行う。
【0065】
凝固膜12aの上昇速度を遅くする鋳造条件の変更としては、例えば、鋳型20に供給する溶湯11の温度を上昇させる、および鋳型20の冷却通路21を流れる冷却水の流量を減らす等がある。
凝固膜12aの下降速度を速くする鋳造条件の変更としては、例えば、搬送機構50による鋳片12の搬送速度を速くする等がある。
これにより、連続鋳造装置1は、凝固膜12a(境界部)の溶湯11の流れ方向の位置を制御する。
【0066】
また、、電気センサ64で測定される電流値の変化度合に応じて、S260にて行われる鋳造条件の変更内容を適宜設定しても構わない。例えば、電流値が急上昇した場合、凝固膜12aが速い速度で上昇している可能性がある。
この場合、前述したような鋳造条件を全て変更する、あるいは鋳造条件の変更値を大きくすることで、当該凝固膜12aの上昇速度に応じて凝固膜12aの上昇を規制できる。
【0067】
鋳造条件の変更によって、凝固膜12aが検出位置Pよりも下流側まで下降したとき、電流センサ64で測定する電流値が小さくなる。これにより、凝固膜12aが検出位置Pよりも下流側に下降したことがわかる。
このように、制御手段70は、鋳造条件を変更して、凝固膜12a(境界部)の位置を検出位置Pよりも溶湯11の流れ方向における下流側に移動させる。
【0068】
これにより、鋳片12の外周表面12bおよび内周表面12cの品質の低下を防止できる。また、鋳片12を引き抜く際に鋳片12が破損することを防止できる。
【0069】
ここで、溶湯11を十分に凝固できない位置、例えば、鋳型20の下流側端部を検出位置Pとして設定した場合、検出位置Pよりも下流側に凝固膜12aを下降させたときに、溶湯11が凝固することなく鋳型20の下流側に流れてしまう。本実施形態では、図3および図5に示すように、鋳型20の下部の位置P3よりも上流側に凝固膜12aが位置する場合において、溶湯11を十分に凝固できる。
従って、溶湯11を十分に凝固できる位置である鋳型20の下部の位置P3は、鋳片12を鋳型20から連続的に引抜可能な凝固膜12aの位置である引抜可能位置の下流側端部となる。逆にいえば、凝固膜12aが位置P3よりも下流側に位置している場合には、鋳型20の下端から溶湯11が漏れ出してしまい、正常な鋳片12を連続的に引き抜くことができない場合がある。
このように、検出位置Pは、鋳型20の下部の位置P3よりも上流側に設定する必要があり、この位置P3が前記引抜可能位置の下流側端部P3となる。
【0070】
また、S260にて鋳造条件を変更した後で、引抜可能位置の下流側端部P3よりも下流側に凝固膜12aが下降する可能性がある場合、連続鋳造装置1は、再び鋳造条件を変更する。このような場合としては、例えば、前述したような鋳造条件を全て変更した場合、あるいは、鋳造条件の変更値を大きくした場合等がある。
【0071】
この場合、連続鋳造装置1は、S260にて鋳造条件を変更し、凝固膜12aが検出位置Pよりも下流側まで下降したことを検出してから所定の時間経過した後に、鋳造条件を変更する前の鋳造条件に戻す。あるいは、変更する前の鋳造条件よりもやや凝固膜12aの下降速度が速くなるように鋳造条件を変更する(例えば、変更する前の溶湯11の温度よりもやや高い温度に設定する等)。
【0072】
本実施形態のように中空状の鋳片12を鋳造する場合においては、鋳片12の離型抵抗で鋳片12が破損する可能性がある位置、例えば、位置P1よりも上流側の所定の位置を検出位置Pとして設定した場合、検出位置Pまで凝固膜12aが上昇したときに、鋳片12が破損する可能性がある。
つまり、位置P1は、鋳片12を破損させずに鋳型20から連続的に引抜可能な凝固膜12aの位置の上流側端部となる。逆にいえば、凝固膜12aが位置P1よりも上流側へ位置している場合には、鋳片12が破損してしまい、正常な鋳片12を連続的に引き抜くことができない場合がある。
このように、検出位置Pは、鋳片12を破損させずに連続的に引抜可能な凝固膜12aの位置の上流側端部となる位置P1、あるいは位置P1よりも下流側に設定する必要がある。
【0073】
鋳片12の外周表面12bおよび内周表面12cのうち少なくともいずれか一方の品質が低下する位置、例えば、第一絶縁体61aおよび第二絶縁体62aの上流側端部の位置P2よりも上流側の所定の位置を検出位置Pとして設定した場合、検出位置Pまで凝固膜12aが上昇したときに、鋳片12の外周表面12bおよび内周表面12cの品質が低下してしまう。
このような位置P2よりも上流側に設定された検出位置Pまで凝固膜12aが上昇している状態で、鋳片12の離型抵抗によって鋳片12が破損しない場合、鋳片12を引き抜くことは可能であるが、製品として求められる品質の鋳片12を鋳造できない。
つまり、位置P2は、製品として求められる品質を保持したまま鋳片12を鋳型20から連続的に引抜可能な凝固膜12aの位置の上流側端部となる。逆にいえば、凝固膜12aが位置P2よりも上流側へ位置している場合には、鋳片12の外周表面12bおよび内周表面12cの品質が低下してしまい、正常な鋳片12を連続的に引き抜くことができない。
このように、検出位置Pは、鋳片12の外周表面12bおよび内周表面12cの品質が低下しない凝固膜12aの位置の上流側端部となる位置P2、あるいは位置P2よりも下流側に設定する必要がある。
【0074】
つまり、検出位置Pは、位置P1と位置P2とのうち、下流側に位置する一方の位置P1・P2よりも下流側に設定する必要があり、この下流側の位置P1・P2が、前記引抜可能位置の上流側端部となる。
本実施形態の場合は、前記引抜可能位置の上流側端部が位置P2となり、検出位置Pは、引抜可能位置の上流側端部となる位置P2、あるいは前記位置P2よりも下流側に設定する必要がある。
【0075】
このように、凝固膜12aが引抜可能位置の上流側端部となる位置P2と下流側端部となる位置P3との間の範囲に位置しているときに、製品として求められる品質を有した正常な鋳片12を破損させずに連続的に引き抜くことが可能となっている。つまり、製品として求められる品質を有した正常な鋳片12を連続的に引き抜くことができる凝固膜12aの位置である引抜可能位置は、上流側端部P2と下流側端部P3との間の範囲にある。
従って、連続鋳造方法および連続鋳造装置1において検出位置Pは、鋳片12を鋳型20から連続的に引抜可能となる凝固膜12a(境界部)の位置範囲である引抜可能位置の範囲内に設定される。
【0076】
本実施形態では、ホットトップ30と鋳型20との間に検出位置Pを設定したが、鋳片12の形状等によっては、引抜可能位置の上流側端部となる位置P2および下流側端部となる位置P3が、それぞれ鋳型20の上部および下部となることが考えられる。この場合、検出機構60は、鋳型20の上部から下部までの範囲内における適宜の位置を検出位置Pとして、鋳型20の検出位置Pに対応する位置に取り付ける。そして、検出位置Pで凝固膜12aの上昇を検出する構成となる。
【0077】
なお、検出位置Pは、引抜可能位置の上流側端部となる位置P2よりもやや下流側に設定することが好ましい。これにより、速い速度で凝固膜12aが上昇した場合においても、検出位置Pから引抜可能位置の上流側端部となる位置P2まで凝固膜12aが上昇するまでの間は、鋳片12を引抜可能な状態を維持できる。
【0078】
本実施形態の連続鋳造方法を用いて中実状の鋳片12を鋳造する場合、連続鋳造装置1は、例えば、以下のように構成される。
図7に示すように、第一電極61および第二電極62は、鋳型20の軸心を中心とした円周方向に等しい間隔を空けた状態で、第二絶縁体62aを介して鋳型20の上面に取り付けられる。本実施形態では、二対の第一電極61および第二電極62が設けられており、各対における第一電極61と第二電極62とは互いに対向する位置(すなわち位相が180°ずれた位置)に配置されており、一方の対の第一・第二電極61・62と他方の対の第一・第二電極61・62とは、互いに位相を90°ずらした位置に配置されている。また、第一電極61と第二電極62とは同じ高さ位置に配置されている。
また、各対の第一電極61および第二電極62には、それぞれ電気回路63が接続され、当該電気回路63上には電流センサ64が接続される。電流センサ64は、それぞれ制御機構70に接続される。
これによれば、第一電極61および第二電極62が配置される高さ位置が検出位置Pとして設定され、当該検出位置Pまで凝固膜12aが上昇したときに、各対の第一電極61と第二電極62との間に鋳片12が介在することとなり、電流センサ64で測定する電流値が上昇するため、凝固膜12aの上昇を検出できる。
【0079】
中実状の鋳片12を鋳造する場合には、中子40を用いないため、中空状の鋳片12にあるような離型抵抗の増大は発生しない。従って、鋳片12の外周表面12bの品質が低下しない位置の上流側端部が、引抜可能位置の上流側端部となる。
【0080】
このように、制御工程(S260)は、検出した凝固膜12a(境界部)の溶湯11の流れ方向の位置に応じて鋳造条件を変更し、凝固膜12aの溶湯11の流れ方向の位置を制御する。また、検出工程(S210〜S250)において、凝固膜12aの位置が溶湯11の流れ方向における上流側へ移動して、検出位置Pにまで達したことを検出すると、鋳造条件を変更して、凝固膜12aの位置を検出位置Pよりも溶湯11の流れ方向における下流側に移動させる。
【0081】
また、制御手段としての制御機構70は、検出した凝固膜12a(境界部)の溶湯11の流れ方向の位置に応じて鋳造条件を変更し、凝固膜12aの溶湯11の流れ方向の位置を制御する。また、検出機構60により、凝固膜12aの位置が溶湯11の流れ方向における上流側へ移動して、検出位置Pにまで達したことを検出すると、鋳造条件を変更して、凝固膜12aの位置を検出位置Pよりも溶湯11の流れ方向における下流側に移動させる。
【0082】
また、検出手段としての検出機構60は、中子40側の検出位置Pに対応する位置で溶湯11あるいは鋳片12と接触するとともに、溶湯11あるいは鋳片12に対して通電する第一電極61と、鋳型20側の検出位置Pに対応する位置で溶湯11あるいは鋳片12と接触するとともに、溶湯11あるいは鋳片12に対して通電する第二電極62と、第一電極61および第二電極62に接続され、第一電極61と第二電極62との間に電圧を印加する電気回路63と、電気回路63の電流値を測定し、該電流値に基づいて凝固膜12aが検出位置Pにまで到達したことを検出する電流センサ64と、を備える、ものである。
【0083】
これによれば、凝固膜12aが検出位置Pまで上昇したことを検出したときに、当該凝固膜12aが引抜可能位置の上流側端部となる位置P2よりも上流側まで上昇することを防止できる。
このため、中空状の鋳片12を鋳造するときに、鋳片12の表面(外周表面12bおよび内周表面12c)の品質の低下を防止できる。また、鋳片12を引き抜くときに鋳片12が破損することを防止できるため、凝固膜12aの上昇による連続鋳造装置1(鋳造設備)の稼動停止を防止できる。
また、中実状の鋳片12を鋳造するときに、鋳片12の表面(外周表面12b)の品質の低下を防止できる。
【0084】
なお、本実施形態では、電流センサ64を電流計によって構成したが、これに限定されるものでない。すなわち、電流センサ64は、制御機構70に電気回路63を流れる電流値の変化を伝えることができればよく、例えば、前述した閾値よりも大きな電流が流れた場合に当該電流を切断するブレーカーのようなものを用いても構わない。
【0085】
第一電極61の形状と第二電極62の形状は、本実施形態に限定されるものでない。すなわち、第一電極61と第二電極62とは、第一電極61が中子40の周方向において一部だけ露出するとともに、第二電極62が鋳型20の周方向において一部だけ露出する構成であってもよい。
【0086】
中実状の鋳片12を鋳造する場合、図7に示すように、複数対の第一電極61および第二電極62を互いに離間して配置しているが、複数対の第一電極61および第二電極62を設ける場合、鋳型20内における、第一電極61および第二電極62による凝固膜12aの上昇を検出する範囲を複数の範囲に分割することができる。
この場合、凝固膜12aを下降させる精度を向上できる。
【0087】
具体的には、図8に示すように、複数の第一電極61および第二電極62を、鋳型20の軸心を中心とした円周方向に間隔を空けた状態で、交互に鋳型20の上面に取り付ける。つまり、第一電極61と第二電極62とが円周方向へ交互に配置されるように設ける。
そして、隣接する第一電極61および第二電極62を電気回路63の電源63aに接続することで、検出機構60A・60B・60C・60Dを構成する。
これにより、鋳型20内における凝固膜12aの上昇を検出する範囲が、各検出機構60A・60B・60C・60Dにより周方向に4分割される。
また、鋳型20の冷却機構を、検出機構60A・60B・60C・60Dの凝固膜12aの上昇検出範囲に対応するように分割する。つまり、鋳型20内を流れる冷却水を、検出機構60A・60B・60C・60Dの前記検出範囲毎に独立して制御できるように構成する。
【0088】
これにより、例えば、検出機構60Dの第一電極61と第二電極62との間で凝固膜12aが上昇した場合には、第一電極61と第二電極62とが鋳片12にて接続されて、検出機構60Dの電流センサ64において電流値が上昇する。一方、検出機構60A・60B・60Cにおいては第一電極61と第二電極62とが溶湯11にて接続されたままであるので、検出機構60A・60B・60Cの電流センサ64では、電流値が上昇しない。
この場合、制御機構70は、検出機構60Dに対応する部分だけ凝固膜12aが上昇したと判断し、検出機構60Dが配置されている部分に対応する鋳型20の部分だけ冷却水の流量を減らす。
これによれば、より精度よく凝固膜12aの上昇を検出できるとともに、より精度よく凝固膜12aを下降できる。
【0089】
本実施形態では、検出機構60の第一電極61と第二電極62とを同じ高さの位置に配置して、溶湯11の上昇を検出する構成としたが、これに限定されるものでない。すなわち、第一電極61を第二電極62よりも上流側に配置して、第一電極61と第二電極62とが互いに傾斜するように配置して、凝固膜12aの上昇を検出しても構わない。
これによれば、凝固膜12aが鋳型20の径方向に対して傾斜した状態で上昇することが想定される場合において、想定される凝固膜12aの傾斜に対して平行に凝固膜12aの上昇を検出できる。このような場合としては、例えば、水平方向に沿って鋳片12を引き抜く場合等がある。
【0090】
また、本実施形態では、凝固膜12aの上昇を検出するために、第一電極61および第二電極62に電流を流したが、これに限定されるものでない。すなわち、凝固膜12aの上昇を検出するために、超音波を用いても構わない。この場合、例えば、鋳型20側の検出位置Pに対応する位置で所定の超音波発信装置で超音波を発信するとともに、中子40側の検出位置Pに対応する位置で所定の超音波受信装置で超音波を受信する。
【0091】
凝固膜12aが正常な位置にある場合、つまり、超音波発信装置と超音波受信装置との間が溶湯11で満たされている場合、超音波の横波は透過しない。一方、超音波発信装置と超音波受信装置との間が鋳片12で満たされている場合、超音波の横波は透過する。
つまり、超音波受信装置で超音波の横波を受信したとき、凝固膜12aが検出位置Pまで上昇したことを検出できる。
また、溶湯11の温度および鋳片12の温度を予め測定し、検出位置Pにおける温度を測定することでも、凝固膜12aの上昇を検出できる。
【0092】
溶湯11は、例えば鉄によって構成してもよく、この場合、第一電極61および第二電極62は溶湯11によって溶解または溶融しないような耐熱性を有する部材、例えば、黒鉛等によって構成すればよい。また、第一絶縁体61a・61aおよび第二絶縁体62aも同様に、溶湯11によって溶解または溶融しないような耐熱性を有する適宜の絶縁体によって構成すればよい。
【0093】
本発明は、本実施形態に限定されるものではない。つまり、連続鋳造方法および連続鋳造装置に限定されるものではなく、DC鋳造、すなわち、半連続鋳造方法および半連続鋳造装置をはじめ、他の鋳造方案にも適用できることは、いうまでもないことである。
【0094】
所定の形状の金型に溶湯を供給し、当該溶湯を金型で冷却するような閉塞鋳造においても、本実施形態の検出機構60および制御機構70を用いることができる。このような閉塞鋳造では、湯面に対して平行に溶湯を凝固させる。
複数(例えば三つ)の検出機構を金型の左右両端部、中央部に取り付ける。このとき、検出機構は、金型の同じ高さ位置に取り付ける。この場合、金型の右側の凝固膜だけが先に上昇したときに、当該右側の凝固膜の上昇を検出できる。つまり、湯面に対して平行に溶湯が凝固していないことを検出できる。
このような上昇を検出したとき、制御機構70で鋳造条件を変更することで、右側の凝固膜の溶湯の流れ方向の位置を制御できる。つまり、湯面に対して平行に溶湯を凝固できる。
【符号の説明】
【0095】
1 連続鋳造装置
11 溶湯
12 鋳片
12a 凝固膜(境界部)
20 鋳型
40 中子
60 検出機構(検出手段)
70 制御機構(制御手段)
P 検出位置
P2 引抜可能位置の上流側端部となる位置
P3 引抜可能位置の下流側端部となる位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型に供給される溶湯を冷却して凝固させることにより鋳片を形成し、前記鋳片を前記鋳型から引き抜くことで、連続して前記鋳片を鋳造する連続鋳造方法であって、
前記鋳片の鋳造時に、前記溶湯の流れ方向における、前記溶湯と前記鋳片との境界部の位置を検出する検出工程と、
検出した前記境界部の前記溶湯の流れ方向の位置に応じて鋳造条件を変更し、前記境界部の前記溶湯の流れ方向の位置を制御する制御工程とを含む、
連続鋳造方法。
【請求項2】
前記検出工程では、前記境界部の検出位置を、正常な鋳片を前記鋳型から連続的に引抜可能となる前記境界部の位置範囲である引抜可能位置の範囲内に設定し、
前記検出工程において、前記境界部の位置が前記溶湯の流れ方向における上流側へ移動して、前記検出位置にまで達したことを検出すると、
前記制御工程において、鋳造条件を変更して、前記境界部の位置を前記検出位置よりも前記溶湯の流れ方向における下流側に移動させる、
請求項1に記載の連続鋳造方法。
【請求項3】
鋳型に供給される溶湯を冷却して凝固させることにより鋳片を形成し、前記鋳片を前記鋳型から引き抜くことで、連続して前記鋳片を鋳造する連続鋳造装置であって、
前記鋳片の鋳造時に、前記溶湯の流れ方向における、前記溶湯と前記鋳片との境界部の位置を検出する検出手段と、
検出した前記境界部の前記溶湯の流れ方向の位置に応じて鋳造条件を変更し、前記境界部の前記溶湯の流れ方向の位置を制御する制御手段とを具備する、
連続鋳造装置。
【請求項4】
前記検出手段においては、前記境界部の検出位置が、正常な鋳片を前記鋳型から連続的に引抜可能となる前記境界部の位置範囲である引抜可能位置の範囲内に設定され、
前記検出手段により、前記境界部の位置が前記溶湯の流れ方向における上流側へ移動して、前記検出位置にまで達したことを検出すると、
前記制御手段により、鋳造条件を変更して、前記境界部の位置を前記検出位置よりも前記溶湯の流れ方向における下流側に移動させる、
請求項3に記載の連続鋳造装置。
【請求項5】
前記連続鋳造装置は、
前記鋳型の内側に配置されるとともに、前記鋳片の中空部を形成する中子を具備し、
前記検出手段は、
前記中子側の前記検出位置に対応する位置で前記溶湯あるいは前記鋳片と接触するとともに、前記溶湯あるいは鋳片に対して通電する第一電極と、
前記鋳型側の前記検出位置に対応する位置で前記溶湯と接触するとともに、前記溶湯あるいは前記鋳片に対して通電する第二電極と、
前記第一電極および第二電極に接続され、前記第一電極と第二電極との間に電圧を印加する電気回路と、
前記電気回路の電流値を測定し、該電流値に基づいて前記境界部が前記検出位置にまで到達したことを検出する電流センサと、
を備える、
請求項3または請求項4に記載の連続鋳造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−200876(P2011−200876A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68340(P2010−68340)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】