説明

遊星歯車機構を用いた増速装置および電動トリマ

【課題】木材の縁取り加工等に用いる電動トリマやルーターにおいては、電動モータの出力回転を増速して先端工具を高速回転させるため、出力軸の軸振れが問題となる。本発明では、軸振れを大幅に低減できる増速装置を提供する。
【解決手段】増速装置10として遊星歯車機構を用いるとともに、出力軸17を二つのボールベアリング21,22により両持ち支持する構成とする。また、この二つのボールベアリング21,22の内輪21a,22aと外輪21b,22bを同じ方向へ相対回転させることにより、その実質的な回転数を低下させて出力軸17の軸振れを抑制するとともにその耐久性を上げる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えば木材の縁取り加工に用いるトリマ、あるいは木材の打ち抜き部の縁取り加工に用いるルーター等の加工工具に好適な遊星歯車機構を用いた増速装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、上記木材加工用のトリマやルーターは、その作業の性質上比較的小径の先端工具を用いて加工を行うため、この先端工具を取り付けた出力軸を内蔵した電動モータの出力回転を直結あるいは増速して高速回転(約20000〜30000rpm)させることにより先端工具に加工に必要な一定以上の周速を与える構成となっている。
また、電動モータの出力回転を増速するための増速装置としては、歯数の異なる平歯車を適切に組み合わせることにより一定の増速比を得ることができるギヤ列を用いた構成、あるいは径の異なる滑車をベルト掛けしたベルト伝達機構を用いた構成等が用いられていた。
【0003】
【特許文献1】
特開平10−217203号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このように出力軸を高速回転させて加工を行うトリマ、ルーター等の加工工具においては、出力軸の振れ(振動、軸心が径方向に振れること)が問題となる。従来、この種の加工工具における軸振れの問題を解消するための技術が提供されていなかった。一方で、工具をコンパクト化しつつ大きな減速比を得ることができる遊星歯車機構を減速側で用いた電動工具が提供されているが、これらの電動工具は出力回転数が比較的低いネジ締め機や孔あけドリル等であり、高速回転時における出力軸の振れが問題となることは比較的少なかった。
本発明は、電動トリマ等の増速装置として好適であり、遊星歯車機構を用いて装置のコンパクト化を図りつつ大きな増速比を得ることができ、しかも出力軸の振れを大幅に低減することができる増速装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
このため、本発明は前記請求項に記載した構成の増速装置とした。
請求項1記載の増速装置または請求項2記載の電動トリマによれば、出力軸は第1および第2の軸受けにより両持ち支持されているので、従来遊星歯車機構において出力軸が片持ち支持された構成に比して当該出力軸の軸振れを抑制することができる。
また、第1軸受けは出力軸を補助キャリアに対して回転支持し、補助キャリアはキャリアと一体で回転する構成となっている。ここで、遊星歯車機構の性質からキャリアと出力軸の回転方向は一致するので、キャリアと一体で回転する補助キャリアの回転方向も出力軸と一致する。このことから、第1軸受けの内輪と外輪は同じ方向に相対回転し、従って第1軸受けの外輪に対する内輪の相対回転数(実質的な回転数)は、出力軸の実際の回転数よりも外輪の回転数(キャリアの回転数)だけ小さくなる。
すなわち、第1軸受けを例えば工具のハウジングに直接装着した構成(外輪が回転しない構成)に比して、内輪の外輪に対する回転数を小さくすることができるので、実質的に当該第1軸受けの回転数を小さくすることができ、これにより出力軸の軸振れを低減して高速回転に耐え得る耐久性の高い増速装置とすることができる。
また、第1軸受けの実質的な回転数を小さくすることができるので、この第1軸受けとして許容回転数の低いより小型の軸受けを用いることができ、これにより当該増速装置のコンパクト化および低コスト化を図ることができる。
【0006】
請求項2記載の増速装置によれば、第1軸受けと第2軸受けの間隔を大きくして出力軸の支持スパンを大きくとることができるので、その軸振れを一層確実に抑制することができる。
請求項3記載の電動トリマによれば、出力軸を高速回転させつつその軸振れを大幅に低減することができる。
請求項4記載の電動トリマによれば、機器のコンパクト化を図りつつ大きな増速比を得ることができるので、小型でより高速回転を出力することができる。
請求項5記載の増速装置によれば、出力軸を回転支持する軸受けが、出力軸と同じ方向に回転する部材との間に介装した軸受けを介して支持されているので、軸受けの実質的な回転数を低下させることができ、これにより出力軸を高速回転させつつその振動を低減することができるとともに、当該軸受けひいては当該増速装置の耐久性を高めることができる。軸受けには、ボールベアリング等の転がり軸受け、メタル等の滑り軸受けを用いることができる。また、遊星歯車機構を構成する部材であって、出力軸と同じ方向に回転する部材には、キャリア、サンギヤあるいはインターナルギヤを用いることができる。
【0007】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施形態を図1および図2に基づいて説明する。図1は、以下説明する本実施形態の増速装置10を備えた電動トリマ1を示している。この電動トリマ1は、ハウジング2に電動モータ3を内装した本体4と、本体4の先端側(図では下側)に装着されたアタッチメント5を備えている。この点については、従来構成と同様であり、特に変更を要しないので説明を省略する。
本実施形態の増速装置10は遊星歯車機構を主体とするもので、本体4の先端部に取り付けたギヤケース11内に組み込まれている。本実施形態の増速装置10の詳細が図2に示されている。電動モータ3の出力軸(増速装置10の入力軸に相当するので、以下の説明では入力軸6という)の前端側は、軸受け7を介してハウジング2に回転可能に支持されている。なお、図示は省略されているが、入力軸6の後端側もボールベアリングを介してハウジング2に回転可能に支持されている。
入力軸6の端面には軸心に沿った支持孔6aが一定の深さで形成されている。この支持孔6aに増速装置10のキャリア12の支持軸部12aが差し込まれており、これによりキャリア12が入力軸6の先端に一体に取り付けられている。このため、キャリア12は入力軸6と一体で回転する。キャリア12は、ギヤケース11内に入り込んでいる。
【0008】
キャリア12の下面には、2本の支持軸13,13が下方へ突き出す状態で固定されている(図では1本だけが示されている)。この両支持軸13,13は、相互に平行で、キャリア12の周方向二等分位置に固定されている。この両支持軸13,13にそれぞれプラネタリギヤ14が回転可能に支持されている。両プラネタリギヤ14,14は、ギヤケース11の内周に沿って取り付けたインターナルギヤ15に噛み合わされている。また、両プラネタリギヤ14,14は一つのサンギヤ16にそれぞれ噛み合わされている。サンギヤ16は、出力軸17に固定されている。
出力軸17は、第1および第2軸受け21,22を介して回転可能に支持されている。図示するように両軸受け21,22には、内輪21a,22aと外輪21b,22bを有するボールベアリングが用いられている。第1軸受け21は、出力軸17の先端側であって補助キャリア20の内周側に装着されている。補助キャリア20は、円筒形状のボス部20aとその端縁から側方へ張り出すフランジ部20bを有している。ボス部20aの内周側に上記第1軸受け21が装着されている。補助キャリア20のフランジ部20bには、上記支持軸13,13の先端部が挿入されている。このため、補助キャリア20はキャリア12と一体で回転する。また、この補助キャリア20は、軸受け23を介してギヤケース11に回転可能に支持されている。
【0009】
出力軸17は、キャリア12の軸心に沿って形成した挿通孔12bに挿通され、その後端側(図では上端側)は、入力軸6の軸心に沿って形成した支持孔6a内に進入している。この支持孔6aの奥部に上記第2軸受け22が装着されている。出力軸17の後端部は、この支持孔6a内に装着した第2軸受け22により回転可能に支持されている。
出力軸17の先端側は、ギヤケース11から前方(図では下方)へ突き出されており、この突き出し部分の先端部には先端刃具19を装着するためのチャック装置18が取り付けられている。このチャック装置18は従来と同様のもので足り、本実施形態において特に変更を要しない。
【0010】
以上の構成によれば、電動モータ3が起動すると、入力軸6と一体でキャリア12が回転する。キャリア12が回転すると、プラネタリギヤ14,14がインターナルギヤ15との噛み合い状態を保持したまま出力軸17の回りを公転し、従って両プラネタリギヤ14,14がそれぞれ支持軸13回りに自転する。両プラネタリギヤ14,14が自転することによりサンギヤ16が回転し、従って出力軸17が一体で回転する。
また、キャリア12が回転すると、補助キャリア20が一体で回転する。ここで、遊星歯車機構の性質上キャリア12の回転方向と、出力軸17の回転方向は一致している。従って、補助キャリア20の回転方向も出力軸17の回転方向に一致している。また、電動モータ3の出力回転数すなわちキャリア12の回転は、一定の増速比αで増速されて出力軸17に伝達される。以上のことから、補助キャリア20と一体で回転する第1軸受け21の外輪21bと、出力軸17と一体で回転する第1軸受け21の内輪21aは、同じ方向へ回転し、かつ上記増速比αに基づく比率で相対回転する。内輪21aと外輪21bが相互に同じ方向へ異なる回転数で相対回転するので、内輪21aの外輪21bに対する回転数は出力軸17の回転数に比して大幅に小さくなる。
【0011】
また、キャリア12の回転方向と出力軸17の回転方向が一致し、かつ増速比αに基づいて異なる回転数で相対回転することから、第2軸受け22の内輪22aと外輪22bも同じ方向へ一定の回転数差を伴って相対回転する。従って、第2軸受け22において、内輪22aの外輪22bに対する回転数は出力軸17の回転数に比して大幅に小さくなる。なお、第1軸受け21の内輪21aと第2軸受け22の内輪22aの回転数(出力軸17の回転数)は相互に一致し、また第1軸受け21の外輪21bと第2軸受け22の外輪22bの回転数(キャリア12の回転数)は相互に一致している。
なお、入力軸6の回転を、増速比αで増速して出力軸17に伝達し、これにより先端刃具19を40000rpm以上で高速回転させることができる。増速比αは、プラネタリギヤ14とインターナルギヤ15の歯数比およびプラネタリギヤ14とサンギヤ16の歯数比によって定まる。一般に、例示した電動トリマやルーターでは、主として微細加工をするために小径の先端刃具19を加工部位に対して横方向から押し付けて加工を行うため、先端刃具19に対して一定以上の周速を与える必要があり、そのために出力軸17を高速回転させる必要がある。
【0012】
以上のように構成した本実施形態の増速装置10およびこれを備えた電動トリマ1によれば、出力軸17が第1軸受け21と第2軸受け22により両持ち状態で回転可能に支持されているため、40000rpm以上の高速回転を達成しつつ、従来片持ち支持した場合に比してその軸振れを大幅に抑制することができる。例示した電動トリマ1あるいはルーターにおいては、電気ドリルやネジ締め機等のように出力軸に対して軸方向の加工力が付加される形態の加工工具とは異なって、先端刃具19に対してその径方向に加工力Fが付加される(加工部位に対して先端刃具19を横から押し付けて加工する)ため、また上記のように高速回転させるため、特に軸振れが発生しやすいのであるが、上記のように両持ち支持する構成とすることにより、この軸振れを効果的に抑制することができる。
しかも、第1および第2軸受け21,22において、それぞれの内輪21a,22aに対してそれぞれの外輪21b、22bが同じ方向へ異なる回転数で相対回転するので、実質的な両軸受け21,22の回転数を出力軸17の回転数よりも大幅に小さくすることができ、この点でも出力軸17の軸振れを低減することができる。
さらに、上記のことから両軸受け21,22において、内輪21a,22aの外輪21b,22bに対する回転数を小さくすることができるので、仮に外輪21b,22bを直接ギヤケース11に固定して実質的な回転数が出力軸17の回転数に一致する構成に比してより許容回転数の小さな軸受けを用いることができ、同等の高速回転を達成しつつ当該増速装置のコンパクト化を図るとともに低コスト化を図ることができる。
【0013】
また、両軸受け21,22において、外輪21b,22bに対する内輪21a,22aの相対回転数(実質的な回転数)を大幅に低減することができるので、両軸受け21,22の耐久性ひいては当該増速装置10の耐久性を高めることができる。
さらに、出力軸17はキャリア12の挿通孔12bを経て入力軸6に形成した支持孔6a内に至っている。また、前記したように出力軸17は二つの軸受け21,22により両持ち状態で支持されており、第1軸受け21は補助キャリア20の内周側に装着され、第2軸受け22は支持孔6aの奥部に装着されている。このため、図示するように本実施形態では出力軸17が長くなっており、かつ第1軸受け21と第2軸受け22との間隔が大きく設定されている。これによっても、出力軸17の軸振れが抑制されている。
また、例示した電動トリマ1では、遊星歯車機構を用いて先端刃具19を高速回転させる構成であるので、ベルト伝達機構等により増速させる構成とした従来の電動トリマに比して、コンパクトな構成で大きな増速比αを得ることができる。
さらに、遊星歯車機構を用いて増速する構成であるので、モータ軸(入力軸6)と出力軸17が同軸となり、この点でも当該電動トリマ1をコンパクトに構成することができる。一般に、電動トリマ1は、作業者が手に握って用いる小型の工具であるので(モータハウジング2の全体がハンドル部となる)、当該電動トリマ1をコンパクトにすることにより作業者は握りやすくなり、この点で作業性の向上を図ることができる。
【0014】
以上例示した実施形態には、種々変更を加えることができる。例えば、電動トリマ1を例示したが本発明に係る増速装置はルーターの増速装置として用いることもできる。
また、第1および第2軸受け21,22としてボールベアリングを用いる構成を例示したが、円筒コロ軸受け、円錐コロ軸受けあるいはニードルベアリング等の他の転がり軸受けであって、相互に回転可能な内輪と外輪を有する転がり軸受けを用いることができる。
また、転がり軸受けを用いる場合であっても、内輪または外輪の一方または双方を省略することができる。すなわち、出力軸17と補助キャリア20との間に鋼球、円筒コロあるいはニードル等を介装して、出力軸17が内輪の機能を有し、あるいは補助キャリア20が外輪の機能を有する構成としてもよい。
さらに、第1または第2軸受けには上記転がり軸受けに限らずいわゆるメタル等の滑り軸受けを用いることもできる。第1または第2軸受けに滑り軸受けを用いた場合であっても、補助キャリア20が出力軸17と同じ方向に回転することにより、当該滑り軸受け自体が同方向に回転することにより出力軸17に対するその実質的な回転数を低下させることができるので転がり軸受けを用いた場合と同様の作用効果を得ることができる。これらの構成は、すべて請求項5記載の発明の実施形態に該当する。
また、軸受け23は、補助キャリア20の回転動作を安定させる機能を有しているが省略することもできる。
さらに、先端刃具19に代えて先端砥石を用いる場合にも同様に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態を示す図であり、電動トリマの全体側面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る増速装置の縦断面図である。
【符号の説明】
1…電動トリマ
2…ハウジング
3…電動モータ
5…アタッチメント
6…入力軸(電動モータ3の出力軸)、6a…支持孔
10…増速装置
12…キャリア
14…プラネタリギヤ
15…インターナルギヤ
16…サンギヤ
17…出力軸
19…先端刃具
20…補助キャリア
21…第1軸受け、21a…内輪、21b…外輪
22…第2軸受け、22a…内輪、22b…外輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星歯車機構を経て入力回転を増速して出力する装置であって、入力軸と一体で回転するキャリアと、該キャリアに設けた支持軸部に回転可能に支持されてインターナルギヤに噛み合わされた複数のプラネタリギヤと、該複数のプラネタリギヤが噛み合わされたサンギヤと、該サンギヤと一体で回転する出力軸と、相互に回転する内輪と外輪を有し、該出力軸を内輪の内周側に挿入した状態で回転可能に支持する第1軸受けと、内周側に前記第1軸受けが装着され、前記支持軸部を介して前記キャリアと一体で回転する補助キャリアと、相互に回転する内輪と外輪を有し、前記第1軸受けと対をなして前記出力軸を内輪の内周側に挿入した状態で回転可能に支持する第2軸受けを備えた増速装置。
【請求項2】
請求項1記載の増速装置であって、出力軸はキャリアに設けた挿通孔を経て入力軸に設けた支持孔に進入し、該支持孔に第2軸受けを装着した構成とした増速装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の増速装置を備えた電動トリマ。
【請求項4】
内蔵した電動モータの出力回転を遊星歯車機構を経て増速して出力する構成とした電動トリマ。
【請求項5】
遊星歯車機構を経て入力回転を増速して出力する装置であって、出力軸が、該出力軸と同じ方向に回転する部材との間に介装した軸受けを介して回転可能に支持された構成とした増速装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2004−169822(P2004−169822A)
【公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−336805(P2002−336805)
【出願日】平成14年11月20日(2002.11.20)
【出願人】(000137292)株式会社マキタ (1,210)
【Fターム(参考)】