説明

過給機

【課題】過給機において、シャフトに設けられたシールリングとハウジングとが圧接されて形成されるシール部からの潤滑油の漏出を防止する。
【解決手段】潤滑油供給領域10に配置されると共にシール部20へ向かって噴出した潤滑油を遮蔽する遮蔽部材30を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過給機は、一端にコンプレッサインペラが固定され、他端にタービンインペラが固定されたシャフトを備えている。
このシャフトは、ハウジングによって囲まれると共にハウジングに固定された軸受によって軸支されている。
そして、シャフトの円滑な回転を実現するために、過給機では、シャフトの周囲には潤滑油が供給されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−228647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
なお、コンプレッサインペラが収容される空間やタービンインペラが収容される空間に潤滑油が存在すると、コンプレッサインペラやタービンインペラの回転が阻害される。
このため、過給機では、コンプレッサインペラやタービンインペラの近傍において、シャフトに設けられたシールリングがハウジングと摺動可能に圧接されるシール部を設け、当該シール部から外側(すなわちインペラ側)に潤滑油が漏出しないように構成されている。
【0005】
ところで、潤滑油が供給される領域では、ハウジングの形状や、配置される部品等に起因して隙間が形成され、潤滑油の供給圧等によって当該隙間から潤滑油が噴出している。
このように潤滑油を噴出させることによって、潤滑油をより広い範囲に付着させることができ、過給機のスムーズな動作を実現することができる。
【0006】
しかしながら、従来の過給機においては、上記隙間から噴出した潤滑油が、上述のシール部(シャフトに設けられたシールリングとハウジングとが圧接された部位)に直接噴き付けられる場合がある。
このようにシール部に対して直接潤滑油が噴き付けられると、噴き付けられた際の勢いにより、潤滑油がシール部からインペラ側に漏出する可能性がある。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、過給機において、シャフトに設けられたシールリングとハウジングとが圧接されて形成されるシール部からの潤滑油の漏出を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0009】
第1の発明は、インペラが連結されたシャフトに設けられるシールリングと当該シャフトを囲うハウジングとが摺動可能に圧接されたシール部と、上記シール部に隣接して上記インペラと反対側に設けられる潤滑油供給領域とを備える過給機であって、上記潤滑油供給領域に配置されると共に上記シール部へ向かって噴出された潤滑油を遮蔽する遮蔽部材を備えるという構成を採用する。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記遮蔽部材が、上記シャフトの周面に取り付けられる環状のつば部であるという構成を採用する。
【0011】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記つば部の上記シャフトの周面からの高さが、上記シール部が設けられる高さと同一に設定されているという構成を採用する。
【0012】
第4の発明は、上記第1〜第3いずれかの発明において、上記インペラが、タービンインペラであるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、遮蔽部材によって、シール部へ向かって噴出された潤滑油が遮蔽される。
このため、本発明によれば、シール部に対して潤滑油が直接噴き付けられることを防ぐことができる。
したがって、本発明によれば、過給機において、シャフトに設けられるシールリングとハウジングとが圧接されて形成されるシール部からの潤滑油の漏出を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態における過給機の概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態における過給機を用いたシミュレーションの結果を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明に係る過給機の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0016】
本実施形態の過給機は、車両や船舶の内燃機関から排出される排気ガスに含まれるエネルギを回転動力として回収すると共に、当該回転動力によって上記内燃機関に供給する空気を圧縮するものである。
図1は、本実施形態の過給機1の概略構成を示す断面図である。この図に示すように、本実施形態の過給機1は、コンプレッサ2と、タービン3と、軸部4とを備えている。
【0017】
コンプレッサ2は、空気を圧縮して内燃機関に圧送するものであり、コンプレッサインペラ2aと、当該コンプレッサインペラ2aを囲うコンプレッサハウジング2bとを備えている。
【0018】
タービン3は、内燃機関から供給される排気ガスに含まれるエネルギを回転動力として回収するものであり、タービンインペラ3a(本発明のインペラ)と、当該タービンインペラ3aを囲うタービンハウジング3bとを備えている。
【0019】
軸部4は、コンプレッサ2とタービン3とを接続するものであり、シャフト4aと、当該シャフト4aを囲う軸部ハウジング4b(本発明のハウジング)とを備えている。
【0020】
シャフト4aは、コンプレッサ2のコンプレッサインペラ2aとタービン3のタービンインペラ3aとを接続する棒状部材であり、一端にコンプレッサインペラ2aが固定され、他端にタービンインペラ3aが固定されている。
そして、シャフト4aは、図1に示すように、軸部ハウジング4bに固定される軸受4cによって軸支されている。
【0021】
軸部ハウジング4bは、シャフト4aを囲うと共にコンプレッサ2のコンプレッサハウジング2bとタービン3のタービンハウジング3bとを連結している。
この軸部ハウジング4bの内部には、シャフト4a周りに潤滑油を供給するための潤滑油供給空間10が設けられている。
そして、軸部ハウジング4bには、上記潤滑油供給空間10に潤滑油を供給するための供給配管Y1と、潤滑油供給空間10から潤滑油を排出するための排出配管Y2とが接続されている。
【0022】
なお、図1の拡大図に示すように、本実施形態の過給機1においては、軸受2cとシャフト4aとの間に僅かな隙間Sが設けられており、当該隙間Sからタービンインペラ3a側に向けて潤滑油が噴出する構成を採用している。
隙間Sとタービンインペラ3aとの間には、潤滑油供給空間10の一部であり、シャフト4aを囲む環状領域10aが設けられている。そして、隙間Sを介して環状領域10aに潤滑油が供給されることによって、環状領域10a全体にミスト状の潤滑油が充満するように構成されている。この環状領域10aにミスト状の潤滑油が充満することによって、シャフト4aのタービンインペラ3a側における摺動が滑らかとなる。
【0023】
また、図1の拡大図に示すように、本実施形態の過給機1においては、シャフト4aの一部が回転軸の外側に向かって張り出しており、この張出部4a1が軸部ハウジング4bと近接されている。
また、張出部4a1と軸部ハウジング4bとが近接している部位には、シールリング5が設けられており、当該シールリング5が軸部ハウジング4bと摺動可能に圧接されている。
このように、シールリング5と軸部ハウジング4bとが圧接されることによって、潤滑油供給空間10からタービンインペラ3a側に流体が抜けることを防止するためのシール部20が形成される。
【0024】
なお、図1の拡大図に示すように、張出部4a1は、潤滑油供給空間10に隣接してタービンインペラ3a側に設けられている。この結果、潤滑油供給空間10は、シール部20に隣接し、当該シール部20に対してタービンインペラ3aの反対側に設けられている。
また、本実施形態の過給機1においては、張出部4a1がシャフト4a全体において最も外側(回転軸から遠い側)に位置している。このため、上記隙間Sは、シール部20よりも内側(回転軸側)に位置している。
【0025】
そして、本実施形態の過給機1は、上記隙間Sからシール部20に向かって噴出する潤滑油を遮蔽するためのつば部30(遮蔽部材)を備えている。
このつば部30は、シャフト4aの周面に環状に取り付けられており、環状領域10aにおいて、隙間Sとシール部20との間に配置されている。
また、つば部30は、自らが取り付けられるシャフト4aの周面からの高さが、図1の拡大図に示すように、シール部20が設けられる高さと同じ高さに設定されている。
【0026】
このような構成を採用する本実施形態の過給機1では、内燃機関からタービンに排気ガスが供給されると、タービンインペラ3aが排気ガスを受けて回転することによって回転動力を得る。
この回転動力は、シャフト4aを介してコンプレッサインペラ2aに伝達されてコンプレッサインペラ2aが回転する。
この結果、コンプレッサ2に取り込まれた空気が圧縮されて内燃機関に圧送されて供給される。
【0027】
一方、本実施形態の過給機1では、過給機1が稼動されている間、潤滑油が供給配管Y1から軸部ハウジング4bの内部に供給される。
軸部ハウジング4bの内部に供給された潤滑油は、潤滑油供給空間10を介してシャフト4aや軸受2cに供給され、その後、排出配管Y2から外部に排出される。
【0028】
ここで、潤滑油供給空間10において、潤滑油は、図1の拡大図に示す隙間Sからシール部20に向けて噴出する。
これに対して、本実施形態の過給機1は、潤滑油供給空間10に配置されると共にシール部20へ向かって噴出した潤滑油を遮蔽するつば部30を備えている。
このような本実施形態の過給機1によれば、つば部30によって、シール部20へ向かって噴出された潤滑油が遮蔽される。
このため、本実施形態の過給機1によれば、シール部20に対して潤滑油が直接噴き付けられることを防ぐことができる。
したがって、本実施形態の過給機1によれば、シールリング5と軸部ハウジング4bとが圧接されて形成されるシール部20からの潤滑油の漏出を防止することが可能となる。
【0029】
また、本実施形態の過給機1において、つば部30は、シャフト4aの周面に環状に取り付けられている。
このため、複雑な形状を有する軸部ハウジング4bに対して、つば部30を設ける必要がなく、軸部ハウジング4bの製造を困難にすることなく、潤滑油の漏出を防止することが可能となる。
このようなつば部30は、例えば、シャフト4aの製造時に、張出部4a1と同様にシャフト4aに対して一体的に形成することができるため、容易に形成することが可能となっている。
【0030】
また、本実施形態の過給機1においては、つば部30の高さが、シール部20が設けられる高さと同じ高さに設定されている。つまり、本実施形態の過給機1においては、つば部30の高さが、張出部4a1と同じに設定されている。
このため、従来から張出部4a1を持つシャフトを挿入可能に構成された軸部ハウジングに対して、つば部30が取り付けられたシャフト4aを容易に挿入することができる。
つまり、本実施形態の過給機1によれば、軸部ハウジング4bの形状を変化させることなく、潤滑油の漏出を防止することができる。
【0031】
また、本実施形態の過給機1においては、つば部30がタービンインペラ3a側にのみ設けられた構成を採用している。
タービンインペラ3a側は、タービンインペラ3aが収容された空間が負圧となるため、僅かな隙間であっても、潤滑油供給空間10内の空気がタービンインペラ3a側に流れ込み易くなっており、潤滑油の漏出が起こりやすい。
このため、本実施形態の過給機1によれば、つば部30をタービンインペラ3a側にのみ設けることによって、効率的に潤滑油の漏出を防止することが可能となる。
【0032】
図2は、つば部30を持たない従来の過給機と本実施形態の過給機1とにおける環状領域10aでの潤滑油の挙動をシミュレーションした結果であり、(a)が従来過給機の結果、(b)が本実施形態の過給機の結果を示している。
この図に示すように、本実施形態の過給機1によれば、シール部20に当たる潤滑油量が減少し、シール部20から潤滑油が漏出することを防げることが分かった。
なお、つば部30に当たった潤滑油は、シャフト4aの周方向に飛散することとなる。このため、つば部30がない場合に潤滑油が当たり難い箇所に潤滑油を運ぶことができる。また、潤滑油が付着することによる冷却効果も期待できるため、つば部30がない場合に潤滑油が当たり難い箇所に潤滑油を運ぶことによって、冷却効率を高めることも可能となる。
【0033】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0034】
例えば、上記実施形態においては、シール部20が、シールリング5と軸部ハウジング4bとが圧接されることによって形成される構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、シール部がシールリング5とタービンハウジング3bとが圧接されることによって形成される構成を採用することも可能である。
【0035】
また、上記実施形態においては、つば部30をタービン3側のみに設ける構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、つば部をコンプレッサ側のみ、あるいはタービン側及びコンプレッサ側の両方に設けるようにしても良い。
つば部をコンプレッサ側に設けることにより、コンプレッサ側のシール部において潤滑油が漏出することを防止することができる。なお、この場合には、コンプレッサインペラ2aが本発明のインペラとなる。
【0036】
また、上記実施形態においては、本発明における遮蔽部材がつば部30である構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、他の部材を本発明の遮蔽部材とすることも可能である。
例えば、張出部4a1をつば部30の位置までコンプレッサ2側に突出させ、張出部4a1の一部を本発明の遮蔽部材として用いることも可能である。
【0037】
また、つば部30の形状は、上記実施形態に限られるものではない。
例えば、潤滑油を所望の位置に飛散させるために、つば部30の先端を傾斜させるようにしても良い。
【符号の説明】
【0038】
1……過給機、2……コンプレッサ、2a……コンプレッサインペラ、2b……コンプレッサハウジング、3……タービン、3a……タービンインペラ、3b……タービンハウジング、4……軸部、4a……シャフト、4b……軸部ハウジング、5……シールリング、10……潤滑油供給空間(潤滑油供給領域)、10a……環状領域(潤滑油供給領域)、20……シール部、30……つば部(遮蔽部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インペラが連結されたシャフトに設けられたシールリングと当該シャフトを囲うハウジングとが摺動可能に圧接されたシール部と、前記シール部に隣接して前記インペラと反対側に設けられる潤滑油供給領域とを備える過給機であって、
前記潤滑油供給領域に配置されると共に前記シール部へ向かって噴出した潤滑油を遮蔽する遮蔽部材を備えることを特徴とする過給機。
【請求項2】
前記遮蔽部材は、前記シャフトの周面に取り付けられる環状のつば部であることを特徴とする請求項1記載の過給機。
【請求項3】
前記つば部の前記シャフトの周面からの高さは、前記シール部が設けられる高さと同一に設定されていることを特徴とする請求項2記載の過給機。
【請求項4】
前記インペラは、タービンインペラであることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の過給機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−62781(P2012−62781A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205647(P2010−205647)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】