説明

遮熱用防水シート及びその製造方法

【課題】熱エネルギーを受ける位置に配置されると、温度上昇が抑えられる遮熱用防水シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基材の防水シートの表面又は裏面のいずれか一方の面あるいは表面と裏面の両面に、N型半導体1を付着させてなる遮熱用防水シート10。基材2の防水シートとしては、アスファルトルーフィングフェルト、改質アスファルトルーフィングフェルトが挙げられる。アスファルトルーフィングフェルト、改質アスファルトルーフィングフェルト等の基材2の防水シートとアスファルト層との間にN型半導体1を介在させてもよい。本発明の遮熱用防水シートは日光が直接当たる面に施工しなくてもよいため、遮熱効果は長期間持続する。表面に汚れがあっても効果は低減しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遮熱用防水シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の内部環境、特に温度環境を保つため、さまざまな遮熱対策がとられている。
例えば、(1)屋上や壁面を緑化し、植物の水分の蒸散作用により室内の温度上昇を抑える。(2)屋上/屋根/外壁に日光反射型塗料仕上げを行う。(3)外壁材、屋根材の表面に光触媒塗料処理を行い、水分を表面に補給し蒸発熱により室内の温度上昇を抑える。などの方法がとられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来技術には以下の列記する問題点があった。
(1)前記の緑化による方法は、植物の維持管理に多大な費用と労力を必要とする。また、屋上では、土壌の重量、防水層の耐久性、防水の改修時における土壌の撤去等に多くの問題があった。
(2)塗料による方法は、塗料の耐久性により、数年に一度の塗り替えが必要、汚れの付着により効果が低減する。
(3)光触媒による方法は、水分の薄膜を全体に均一に形成するのが困難かつ多大な費用と装置が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は前記従来技術の問題点を解決するものであり、N型半導体、特に焼成して得られた焼成N型半導体が熱エネルギーを受けたとき、半導体が金属に近い性質を有するようになる現象を利用して開発されたものであって、下記構成の遮熱用防水シート及びその製造方法である。
(1)基材の防水シートの表面又は裏面のいずれか一方の面あるいは表面と裏面の両面に、N型半導体を付着させてなることを特徴とする遮熱用防水シート。
(2)基材の防水シートが、アスファルトルーフィングフェルト、改質アスファルトルーフィングフェルトであることを特徴とする前項(1)記載の遮熱用防水シート。
(3)アスファルトルーフィングフェルト、改質アスファルトルーフィングフェルト等の基材の防水シートとアスファルト層との間にN型半導体を介在させてなることを特徴とする前項(1)又は(2)に記載の遮熱性防水シート。
(4)N型半導体を含む塗料が、予め工場で防水シートに塗布乾燥されたものであることを特徴とする前項(1)〜(3)のいずれか1項に記載の遮熱性防水シート。
(5)砂付き防水シートの砂粒が、N型半導体付着処理を施したものであることを特徴とする前項(1)〜(4)のいずれか1項に記載の遮熱性防水シート。
(6)基材の防水シートが、アスファルトフェルト、加硫ゴムシート、TPE(熱可塑性エラストマー)シート、あるいはTPO(熱可塑性ポリオレフィン)シートから選ばれたいずれか1種であることを特徴とする前項(1)〜(5)のいずれか1項に記載の遮熱性防水シート。
(7)遮熱用防水シートが、防水シートを施工した後にN型半導体を混入した塗料を現場で塗布したものであることを特徴とする前項(1)〜(6)のいずれか1項に記載の遮熱用防水シート。
(8)N型半導体が防水シートを構成する素材に混入されてなることを特徴とする前項(1)〜(7)のいずれか1項に記載の遮熱用防水シート。
(9)N型半導体が、焼成N型半導体であることを特徴とする前項(1)〜(8)のいずれか1項に記載の遮熱用防水シート。
【発明の効果】
【0005】
本発明の遮熱性防水シートは、従来の遮熱材が日光が直接当たる面へ施工しなければならないことに対して、熱エネルギーを受ける位置であれば何処に施工してもよいものである。
一般住宅を例にとれば、住宅の屋根は通常合板下地に、アスファルトルーフィングが貼り付けられ、その上に屋根材(瓦、セメント成型板、金属瓦など)が施される。
本発明の遮熱性防水シートをアスファルトルーフィングの代わりに貼り付けることにより、遮熱効果が得られる。
また、陸屋根には、アスファルト防水、シート防水など、各種の防水が施工されるが、これらの防水材に、本発明の遮熱性防水シートを用いれば、防水シートの温度上昇が抑えられ、防水シートの寿命が延びるばかりでなく、建物内部の温度上昇が抑えられる。
いずれも、日光が直接当たる面に施工しなくてもよいため、効果は長期間持続する。もちろん直射日光に当たる面でも同様の効果が得られ、その場合汚れがあっても効果は低減しない。
表面に使用する必要がなく、屋根葺き材の下側に通常の下葺き材の施工のみで、また壁材の内側に通常の下張り材の施工のみで遮熱性のある屋根あるいは壁とすることができる。
また、塗料として表面にある必要がないので防水層の耐久性と同様の遮熱効果の維持性がある。
塗料として使用する場合は、熱反射用の白色塗料にする必要がなく、カラー塗料が採用でき、また汚れによる効果の低減がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の遮熱用防水シートの構成は、基材の防水シートの表面又は裏面のいずれか一方の面あるいは表面と裏面の両面に焼成N型半導体を付着させてなるものであるが、
本発明の遮熱性防水シートが遮熱効果を発揮する理由を説明する。
その理由は完全に解明されてはいないが、以下のように考えられる。
N型半導体、特に焼成N型半導体を防水シートに付着させることにより、照射された熱に対して防水シートに電気抵抗が生じ、電気抵抗が下がるため、熱エネルギー波長をより長い波長に変えることができる。波長を長く変えることにより熱エネルギーが緩和され、一般の防水シートに対し、表面温度、裏面温度の差をつけることが可能となる。
【0007】
本発明のN型半導体は、粒径0.1〜10μmの粉黛が好ましく、防水シート表面等に付着させる手段は、予め半導体粉黛を分散させた合成樹脂エマルジョン塗料を、防水シート製造時に塗布乾燥させる。
半導体の粒径は0.1μm未満ではその製造コストが高く不経済であり、10μmを越えると大きすぎて遮熱効果が低下することと、塗料に分散させた場合、沈降分離しやすくなる。よって、半導体の粒径は0.1〜10μm、特に0.5〜3μmが好ましい。
本発明で用いられるN型半導体としては、焼成により不純物をドーピングして得られた焼成N型半導体が特に好ましいものである。
なお、本発明の実施に当たっては、建築物等の大面積のものに適用するにはコスト面の考慮が必要である。また、空気中へ曝されるため毒性のない材料が好ましい。
【0008】
アスファルトルーフィングの製造を例にとり説明すると、アスファルトルーフィングは、基材(紙と繊維の混合原紙、合成樹脂不織布、合成繊維メッシュ、紙)へ、アスファルトを浸透させ、この後アスファルトを表裏面へ塗覆し、アスファルトの付着を防ぐため鉱物質粉粒体を散布付着させて製造される。
本発明は、鉱物質粉粒体を付着後、N型半導体を含む合成樹脂エマルジョン塗料を通常の印刷機で所定量塗布し乾燥させる。
塗布量は、半導体の粉黛が、好ましくはルーフィングシート1m2当たり1〜5gの半導体が付着するように調節される。
1g/m2未満では効果が少なく、5g/m2を越えると、経済性が悪くなる。
浸透用や塗覆用に使用するアスファルトが改質アスファルトの場合、改質アスファルトルーフィングシートであり、一般に厚さは1.5〜4mm程度の製品である。
製造方法はアスファルトルーフィングと同様である。
前記製造工程中、アスファルトを基材に浸透後、N型半導体粉黛をそのまま散布し、この後アスファルトを塗覆することにより遮熱性防水シートが製造される。N型半導体の散布量は前記と同様に1m2当たり1〜5gが最適である。
また、前記製造工程中の鉱物質粉粒体を付着させる場合、予め鉱物質粉粒体にN型半導体を含む塗料を塗布乾燥させ、それを鉱物質粉粒体として使用してもよい。
【0009】
本発明の具体例としての、遮熱用ルーフィング材の断面構造としては、図1〜図3に示す断面のものが例示される。
すなわち、図1に示すものは、基材2を夾んで表裏にアスファルト層3,3’が形成され、上面のアスファルト層3の表面にN型半導体1層が着設されて構成されている。
図2に示すものは、基材2の表裏面にN型半導体を混入させたアスファルト4を着設させた構成のものである。
図3に示すものは、基材1の表裏面にN型半導体を着設し、それらの表面にアスファルト層3,3’を着設した構成したものである。
N型半導体は粉黛(粉墨)で粒子の大きさは、0.1〜10μm程度が好ましい。
N型半導体の付着量は多いほど好ましいが、0.8g/m2以上であれば、遮熱効果が発現される。
各種熱エネルギーをN型半導体のエネルギー拡散作用により減衰させるため、直射日光が当たらなくとも遮熱効果が発揮される。
本発明の遮熱用ルーフィングを適用する具体例として下記が挙げられる。
(1)図5に斜視図を示す、戸建て住宅の屋根葺き材(瓦、金属瓦、スレート瓦など)5の下に、本発明の遮熱性防水シート10を敷き込む下葺用ルーフィングとしての使用。
(2)集合住宅、事務所などの非住宅用ビルの防水用ルーフィングとしての使用。
【実施例】
【0010】
本発明の実施例を説明する。
実施例1(工場ライン):焼成N型半導体を混入した塗料を予め工場でルーフィングへ塗布し、それを施工する。
190g/m2の基材(ラグ原紙)にアスファルト(ストレートアスファルト)を200mg/m2含浸させてアスファルトフェルトを製造した後、その面にブロンアスファルトをコーティングし、さらに表裏面に珪砂を付着させて砂付きアスファルトルーフィングを製造した。
次に、得られたアスファルトルーフィングの表面に焼成N型半導体を混合したエマルジョン型塗料をロールコーターにより転写(11g/m2)した。なお、焼成N型半導体の混合量はエマルジョン型塗料の固形分に対し20%添加混合したものと、40%を添加混合したものを用意した。
図4Aに示す断面のごとき構造の、焼成N型半導体混入のエマルジョンを塗布したアスファルトルーフィング10上に屋根葺き材のカラー鉄板5を密着させた試験体を屋外に暴露し日射を当て、カラー鉄板5表面の測定点aとアスファルトルーフィング下面の測定点bで温度を測定した。
結果は、表1に示すとおりであった。
【0011】
【表1】

表1に示すごとく、焼成N型半導体混入のエマルジョンを塗布により、アスファルトルーフィング下面の温度低下(約10%以上)効果が認められた。
【0012】
実施例2(手作り):
実施例1のアスファルトフェルトに70μmの目開きの篩を用いて、焼成N型半導体を表面に散布した。焼成N型半導体の散布量は2g/m2のものと、4g/m2のものを用意した。
手作りしたアスファルトルーフィング10上にカラー鉄板5を密着させた図4Aに示す断面のごとき構造の試験体を屋外に暴露し日射を当て、カラー鉄板5表面の測定点aとアスファルトルーフィング下面の測定点bで温度を測定した。
結果は表2に示すとおりであった。
【0013】
【表2】

4mg/m2以上の付着量が必要であることが解った。
以上のように、防水用ルーフィングに焼成N型半導体を予め混入したエマルジョンを工場ラインで付着(焼成N型半導体量は1g/m2)させたものを、カラー鉄板の下葺き材として使用した場合、通常の防水用ルーフィングを使用したものに比べて室内側で約7℃低くなった。
【0014】
実施例3(工場ライン):
(1)実施例1のアスファルトフェルトの表面にパウダースプレーノズルを用いて4g/mの焼成N型半導体を噴霧し、直後にブロンアスファルトをコーティングし、表裏面に珪砂を付着させアスファルトルーフィングを製造した。
図4Aに示す断面のごとき構造で、温度測定した結果は、表3−1に示すとおりであった。
【0015】
【表3−1】

【0016】
(2)3枚の140g/m2の合成繊維不織布に、防水工事用アスファルト3種を各々含浸(200g/m2)させたアスファルトフェルトに、(1)と同様に焼成N型半導体を噴霧し、直後に防水工事用アスファルト3種をコーティングし、かつその表面(焼成N型半導体を噴霧した側)に1〜1.7mmの大きさの砕石を圧着させ、また裏面に珪砂を付着させて砂付きストレッチルーフィングを製造した。
(3)155g/m2の合成繊維不織布にブロンアスファルトを含浸(250g/m2)させたアスファルトフェルトに、(1)と同様に焼成N型半導体を噴霧し、直後に改質アスファルト(ストレートアスファルトにスチレンブタジエンスチレンブロック共重合体を混合したもの)をコーティングし、かつその表面(焼成N型半導体を噴霧した側)に1〜3mmのスレートチップを隙間なく圧着させ、裏面にポリプロピレンフィルム(厚さ7μm)を貼り付けて、改質アスファルトルーフィングシート(厚さ4mm)を製造した。
【0017】
実施例3の(2)及び(3)の場合の断面図を示す構造の図4Bの試験体に熱照射し、砂6表面の測定点aとアスファルトルーフィング下面の測定点bで温度を測定した。すなわち、工場ラインでアスファルトルーフィング基材上に、4mg/m2の割合で焼成N型半導体を付着させ、直後にアスファルトコーティングし表面に砂等を圧着させたアスファルトルーフィング(砂付アスファルトルーフィング)である。
結果は表3−2、及び表3−3に示すとおりであった。
【0018】
【表3−2】

【0019】
【表3−3】

室内試験は、熱源をナローテランプ(National RS110V100W)とし、室内試験体から150mmの距離から照射し、アスファルトルーフィング下面の温度を測定、アスファルトルーフィングの場合は直接砂の面から照射した。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の遮熱性防水シートは、屋根葺き用のアスファルトルーフィングや、外壁用の遮熱性防水シート、その他に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】基材を夾んで表裏にアスファルト層が形成され、上面のアスファルト層の表面にN型半導体層が着設されてなる本発明の遮熱性防水シートの断面図。
【図2】基材の表裏面にN型半導体を混入させたアスファルトを着設させた本発明の遮熱性防水シートの断面図。
【図3】基材の表裏面にN型半導体を着設し、それらの表面にアスファルト層を着設した本発明の遮熱性防水シートの断面図。
【図4】本発明の遮熱性防水シートの試験体の断面構造及び温度測定点を示す断面図。
【図5】戸建て住宅の屋根葺き材(瓦、金属瓦、スレート瓦など)に本発明の遮熱性防水シートを適用した斜視図。
【符号の説明】
【0022】
1:焼成N型半導体、
2:基材、
3,3’:アスファルト層、
4,4’:焼成N型半導体を混入したアスファルト層、
5:屋根葺き材、
6:砂、
10:本発明の遮熱性防水シート(遮熱用ルーフィング)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の防水シートの表面又は裏面のいずれか一方の面あるいは表面と裏面の両面に、N型半導体を付着させてなることを特徴とする遮熱用防水シート。
【請求項2】
基材の防水シートが、アスファルトルーフィングフェルト、改質アスファルトルーフィングフェルトであることを特徴とする請求項1記載の遮熱用防水シート。
【請求項3】
アスファルトルーフィングフェルト、改質アスファルトルーフィングフェルト等の基材の防水シートとアスファルト層との間にN型半導体を介在させてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の遮熱性防水シート。
【請求項4】
N型半導体を含む塗料が、予め工場で防水シートに塗布乾燥されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の遮熱性防水シート。
【請求項5】
砂付き防水シートの砂粒が、N型半導体付着処理を施したものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の遮熱性防水シート。
【請求項6】
基材の防水シートが、アスファルトフェルト、加硫ゴムシート、TPE(熱可塑性エラストマー)シート、あるいはTPO(熱可塑性ポリオレフィン)シートから選ばれたいずれか1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の遮熱性防水シート。
【請求項7】
遮熱用防水シートが、防水シートを施工した後にN型半導体を混入した塗料を現場で塗布したものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の遮熱用防水シート。
【請求項8】
N型半導体が防水シートを構成する素材に混入されてなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の遮熱用防水シート。
【請求項9】
N型半導体が、焼成N型半導体であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の遮熱用防水シート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−57359(P2006−57359A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−241602(P2004−241602)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(504318326)有限会社 エヌ・ティー・エス (5)
【出願人】(301056845)三信建材工業株式会社 (1)
【出願人】(000226714)日新工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】