説明

遷移金属を含有する光ファイバー増幅器

【課題】 300nmの増幅周波数帯域を有し、光ファイバー全体が低損耗の通信周波数帯1300nmから1600nmをカバー可能である遷移金属を含有する光ファイバー増幅器を提供する。
【解決手段】 光ファイバー60を有する。光ファイバー60は、遷移金属イオンを含有する芯部61と、芯部61の外層を被覆する少なくとも一層の被覆部62とを含む。光ファイバー増幅器は、遷移金属イオン含有の光ファイバー60により300nmの増幅周波数帯域を有し、光ファイバー60全体が低損耗の通信周波数帯1300nmから1600nmをカバーすることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバー増幅器に関し、特に、遷移金属を含有する光ファイバー増幅器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現今の光ファイバー増幅器は、多様な種類があり、異なる光ファイバー通信波域に適用可能である。以下、例を挙げて説明する。
エルビウムを含有するブロードバンド光ファイバー増幅器は、二段のエルビウムを含有する光ファイバーが直列に繋がることでブロードバンド増幅器の目的を達成するものである(特許文献1参照)。第一段のエルビウムを含有する光ファイバーは、980nmの半導体レーザーを励起光源としてC波域(1530nm−1560nm)の入力信号光を増幅する。第二段のエルビウムを含有する光ファイバーは、1480nmの半導体レーザーを励起光源としてL波域(1570nm−1600nm)の入力信号光を増幅する。
【0003】
しかし、信号光の周波数帯のうち増幅可能なものはC波域とL波域のみであり、かつこの周波数帯域は80nm以下で、光通信の伝送可能な総周波数帯300nmのごく一部分を占めるに過ぎないことが主な欠点である。また、二つのエルビウムを含有する光ファイバーを直列に繋げることにより波長が異なる励起レーザーを二つ使用することが必要であるため、システムのコストが高くなる。
【0004】
ツリウムを含有するブロードバンド光ファイバー増幅器は、ホウ素ガラスを被覆部とし、かつゲルマニウムの酸化物を含有する芯部にツリウムイオンを含有するものである(特許文献2参照)。また、励起光源の下で1400nm−1540nmの信号光を増幅することが可能である。この増幅器の励起光源は、波長780nm−800nmの半導体レーザーである。
【0005】
しかし、光ファーバーを被覆するホウ素ガラスの軟化点は約800℃で、現有のfused silica光ファイバーの軟化点は約1600℃であるため、これらを溶接するにはほかの光学ユニットまたは機械構造を光連結する必要があり、かつシステムのコストが高くなることが主な欠点である。また、増幅可能な信号光の周波数帯は約160nmで、光通信の伝送可能な総周波数帯300nmをカバーすることは不可能である。
【0006】
プラセオジムを含有するブロードバンド光ファイバー増幅器は、fused silicaを被覆部とし、ジルコニウムの酸化物を含有する芯部にプラセオジムイオンを含有するものである(特許文献3参照)。また、励起光源の下で1300nmの信号光を増幅することが可能である。この増幅器の励起光源の波長は、1000nm前後である。
プラセオジムを含有する光ファイバーにより増幅可能な信号光の周波数帯は1300nm前後で、光通信の伝送可能な総周波数帯をカバーできないことが主な欠点である。
【0007】
【特許文献1】アメリカ合衆国特許第6,646,796号
【特許文献2】アメリカ合衆国特許第6,515,795号
【特許文献3】アメリカ合衆国特許第5,805,332号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主な目的は、300nmの増幅周波数帯域を有し、光ファイバー全体が低損耗の通信周波数帯1300nmから1600nmをカバーすることが可能である遷移金属を含有する光ファイバー増幅器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するために、本発明による遷移金属を含有する光ファイバー増幅器は、光ファイバーが遷移金属イオンを含有する芯部と、少なくとも一層のガラス成分を含有する被覆部とを含むものである。本発明による光ファイバー増幅器は、遷移金属イオン含有光ファイバーにより300nmの増幅周波数帯域を有し、光ファイバー全体が低損耗の通信周波数帯1300nmから1600nmをカバーすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の構造と特徴を実施例と図面に基づいて説明する。まず、図面の説明は下記の通りである。
図1は、本発明の一実施例による遷移金属を含有する光ファイバー増幅器のクロムイットリウムアルミニウムガーネット含有結晶光ファイバーがLHPG法により成長する状態を示す模式図である。
【0011】
図2は、本発明の一実施例による遷移金属を含有する光ファイバー増幅器の子結晶を延伸すると同時に棒状結晶を押し出す状態を示す模式図である。
図3は、本発明の一実施例による遷移金属を含有する光ファイバー増幅器の二重の被覆部を有する結晶光ファイバーの成長溶融区を示す模式図である。
【0012】
図4は、本発明の一実施例による遷移金属を含有する光ファイバー増幅器の二重の被覆部を有する結晶光ファイバーを示す断面図である。
図5は、異なる入力信号光効率の下での本発明の一実施例による遷移金属を含有する光ファイバー増幅器の光増幅と励起効率を示すグラフを示す図である。
図6は、本発明の一実施例による遷移金属を含有する光ファイバー増幅器の異なる入力信号光波長の増幅とASE周波数スペクトルを示すグラフを示す図である。
【0013】
本発明の一実施例による遷移金属を含有する光ファイバー増幅器は、主に、遷移金属イオン(例えば、Cr4+イオン、V3+イオンまたはNi2+イオン)含有光ファイバーを有する。本実施例では、光ファイバーは二重の被覆部を有するクロム含有結晶光ファイバーである。二重の被覆部を有するクロム含有結晶光ファイバーの成長方法は、レーザー加熱基座成長方法(laser-heated pedestal growth、LHPG)により直径68μmのクロムイットリウムアルミニウムガーネット(Cr4+(YAG))含有光ファイバーを成長させ、そののち、共延伸レーザー加熱基座成長方法によりfused silicaで二重の被覆部を形成する結晶光ファイバーを成長させることである。
【0014】
図1に示すのは、LHPG法により結晶を成長させる方法と装置である。まず二酸化炭素レーザーにより連続発射されるレーザー光11を拡大して入射させた後、1セットの円錐面鏡12により平行光を環状光に変換し、反射鏡13により環状光を抛物面鏡14に反射し、焦点を原始結晶棒20の一端に位置付ける。このとき、原始結晶棒20はCr4+(YAG)である。図2に示すように、結晶棒20の一端を加熱して熔融させて熔融区21を形成する。続いて、子結晶30を熔融区21に接触させ、そののち、子結晶30をゆっくり上に延伸すると同時に結晶棒20を押し出すことで子結晶30の結晶方向と同じ結晶光ファイバー40を成長させることが可能である。子結晶を延伸する速度と結晶棒20を押し出す速度との比が異なることにより、異なる直径の比を得ることが可能である。例えば、子結晶30を延伸する速度と結晶棒20を押し出す速度の比が16対1である場合、成長した結晶光ファイバー40と結晶棒の直径の比は1対4である。
【0015】
図3に示すように、本実施例による二重の被覆部を有するクロム含有結晶光ファイバーの成長方法は、前述の成長方法により成長した直径68μmのCr4+(YAG)結晶光ファイバー40を内径76μmの石英毛細管50内に詰めた後、LHPG成長システム機構の下で、毛細管を下に成長させるように加熱し、本実施例の二重の被覆部を有する結晶光ファイバー60を形成することである。この方法は、共延伸レーザー加熱基座成長方法(codrawing laser-heated pedestal growth method、CDLHPG)である。適切なCDLHPG成長パラメーターによりfused-silicaで二重の被覆部を形成する結晶光ファイバーを成長させることが可能である。芯部61、内層被覆部62、外層被覆部63の直径は、25μm、100μm、320μmである。その構造は、図4に示す通りである。
【0016】
利得を測定するには、Yb-fiber laserを励起光源ユニットとする。励起光源の波長は、1064nmである。まず透光鏡の連結によりYb-fiber laserを単一光ファイバーに入れ、そののち、分波複合連結器(WDM coupler)などの光連結ユニットによりYb-fiber laserと波長を調整可能なレーザーの信号光源を合併して二重の被覆部を有する結晶光ファイバーに入れる。信号光の波長は、1.52μmである。結晶光ファイバーの出力端は焦点距離10mmの透光鏡により励起光源を収集し、1064nmを濾過するフィルターにより吸収されていない励起光源を濾過し、続いて、異なる信号光強度の下での利得(gross gain)を測定する。このとき、利得は、出力信号光が励起と未励起の時の倍率があり、ASE(Amplified Spontaneous Emission)の信号光波長に対する役割が除かれた下で定義される。
【0017】
実際に増幅器を使用する場合、励起光源の進行方向と出力される増幅信号光源の方向を同方向または逆方向に制御することが可能である。信号光または励起光を単一方向に伝送するか、ユニットとの間に連接するときに形成する反射光が信号光または励起光に影響することを防止するために遷移金属を含有し、かつ信号光を出力する光ファイバーまたは光連結ユニット前端の結晶光ファイバーに光隔離ユニットを配置することで、信号光を透過させることが可能である。光隔離ユニットは特に制限されていないため、光隔離ユニットとして周知のファラデー回転型アイソレーターを採用することが可能である。
【0018】
また、図6に示すように、励起効率を1W以下に固定し、異なる入力信号光波長に対して利得を測定する。入力信号が1.47μmである場合、16dbの利得を得ることが可能である。測定により得られた利得とASE周波数スペクトルを比較して推算すると、本実施例の増幅器の周波数帯域は、約270nmである。
【0019】
上述の実施例では、クロムイットリウムアルミニウムガーネット(Cr4+(YAG))含有結晶光ファイバーは強い自発輻射光源を発生する特性を有し、スペクトルの範囲は光ファイバー全体の伝送上の低損耗窓口をカバーする程度であり、その3−db周波数帯域は270nmで、6−db周波数帯域は400nmに達するため、光通信のO波域、E波域、S波域、C波域及びL波域を含み、従来のエルビウムを含有する光ファイバー増幅器の周波数帯域を遥かに超えることが可能である。また、吸収される周波数スペクトルは0.9μmから1.2μmの波長の範囲内であるため、汎用されているエルビウムを含有する光ファイバー増幅器の0.98μmの励起光源に対応することが可能である。
【0020】
現今、光通信の全体波域1.3μm−1.6μmをカバー可能な単一増幅器はないため、多数個の増幅器を直列に繋げることにより、周波数大域を増幅するほかない。また、高密度分波複合モジュールシステム(dense wavelength division multiplex、DWDM)は、制限されている周波数帯域の下でチャネルを持続的に増加させても、ボトルネックを生じる。したがって、製造過程が困難になり、良品の率が低下する。本実施例による遷移金属を含有する光ファイバー増幅器は、従来のエルビウムを含有する光ファイバー増幅器と比べて増幅周波数帯域を10倍近く増加させ、かつ一つの遷移金属含有光ファイバー増幅器ユニットにより周波数帯域全段1.3μm−1.6μmを使用し、1.4μm前後の低損耗波域を含むことが可能であるため、多数個の増幅器を直列に繋げることによって波域全体を増幅するという不都合な点を改善することが可能である。また、二重の被覆部を有する結晶光ファイバーの材質は、主に、fused silicaである。したがって、本実施例による光ファイバーは、現有の光ファイバーと直接溶接されて結合することが可能であるため、ほかの光連結ユニットを必要とするという不都合な点を解消することを可能にして、現有のシステムの代わりになり、実用価値がかなり高い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例による遷移金属を含有する光ファイバー増幅器のクロムイットリウムアルミニウムガーネット結晶含有光ファイバーがLHPG法により成長する状態を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施例による遷移金属を含有する光ファイバー増幅器の子結晶を延伸すると同時に棒状結晶を押し出す状態を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施例による遷移金属を含有する光ファイバー増幅器の二重の被覆部を有する結晶光ファイバーの成長溶融区を示す模式図である。
【図4】本発明の一実施例による遷移金属を含有する光ファイバー増幅器の二重の被覆部を有する結晶光ファイバーを示す断面図である。
【図5】異なる入力信号光効率の下での本発明の一実施例による遷移金属を含有する光ファイバー増幅器の光増幅と励起効率を示すグラフを示す図である。
【図6】本発明の一実施例による遷移金属を含有する光ファイバー増幅器の異なる入力信号光波長の増幅とASE周波数スペクトルを示すグラフを示す図である。
【符号の説明】
【0022】
11 レーザー光、12 円錐面鏡、13 反射鏡、14 抛物面鏡、20 結晶棒、21 熔融区、30 子結晶、40 結晶光ファイバー、50 石英毛細管、60 二重の被覆部を有する結晶光ファイバー、61 芯部、62 内層被覆部、63 外層被覆部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバーを有し、
光ファイバーが、遷移金属イオンを含有する芯部と、芯部の外層を被覆する少なくとも一層の被覆部と、
を含むことを特徴とする遷移金属を含有する光ファイバー増幅器。
【請求項2】
被覆部は、ガラスまたはガラスとほかの材質の化合物から製作されることを特徴とする請求項1に記載の遷移金属を含有する光ファイバー増幅器。
【請求項3】
芯部は、Cr4+の単結晶または多結晶を含有する材質であることを特徴とする請求項1に記載の遷移金属を含有する光ファイバー増幅器。
【請求項4】
芯部は、Cr4+の結晶または多結晶構造を含有するガラスであることを特徴とする請求項1に記載の遷移金属を含有する光ファイバー増幅器。
【請求項5】
芯部は、V3+の単結晶または多結晶を含有する材質であることを特徴とする請求項1に記載の遷移金属を含有する光ファイバー増幅器。
【請求項6】
芯部は、V3+の単結晶または多結晶構造を含有するガラスであることを特徴とする請求項1に記載の遷移金属を含有する光ファイバー増幅器。
【請求項7】
芯部は、Ni2+の単結晶または多結晶を含有する材質であることを特徴とする請求項1に記載の遷移金属を含有する光ファイバー増幅器。
【請求項8】
芯部は、Ni2+の単結晶または多結晶構造を含有するガラスであることを特徴とする請求項1に記載の遷移金属を含有する光ファイバー増幅器。
【請求項9】
芯部は、Cr4+、V3+またはNi2+のうちの少なくとも一種の単結晶または多結晶を含有する材質であることを特徴とする請求項1に記載の遷移金属を含有する光ファイバー増幅器。
【請求項10】
芯部は、Cr4+、V3+またはNi2+のうちの少なくとも一種の単結晶または多結晶構造を含有するガラスであることを特徴とする請求項1に記載の遷移金属を含有する光ファイバー増幅器。
【請求項11】
波長範囲が0.8μmから1.2μmである励起光源を含むことを特徴とする請求項1に記載の遷移金属を含有する光ファイバー増幅器。
【請求項12】
3dbの増幅周波数帯域は、1.2μmから1.65μmの間であることを特徴とする請求項1に記載の遷移金属を含有する光ファイバー増幅器。
【請求項13】
励起光源の進行方向と出力される増幅信号光源の方向は、同方向また逆方向であることを特徴とする請求項11に記載の遷移金属を含有する光ファイバー増幅器。
【請求項14】
遷移金属を含有する光ファイバーは、一端に光連結ユニット及び他端に光隔離器を有することを特徴とする請求項1に記載の遷移金属を含有する光ファイバー増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−319054(P2006−319054A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138765(P2005−138765)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(505171997)國立中山大學 (5)
【Fターム(参考)】