説明

選択的なアミノ置換基導入法

ジフルオロ安息香酸類に対し位置選択的にアミノ基を導入する技術を開発し、抗菌剤であるキノロンカルボン酸誘導体の新しい製造方法およびその製造中間体(6)等を提供する。下記式(6)
【化1】


で表される化合物を含水溶液中、塩基で処理することを特徴とする、式(1):
【化2】


で表される化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた医薬、農薬、動物用薬等として期待されるキノロンカルボン酸系合成抗菌剤の製造法、および新規なその製造中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
キノロンカルボン酸誘導体は合成抗菌剤として医療に汎用されているが、MRSAに代表される耐性菌が出現し、治療上の大きな障害になっている。下記式(1’):
【0003】

【0004】
で表されるキノロンカルボン酸誘導体は、MRSAに対して優れた効果を示すばかりでなく、耐性グラム陽性菌にも抗菌活性を示し、各種耐性菌の問題を解決できる化合物である。そして、この化合物を得る製法としては、次の反応式で示される製法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】


【特許文献1】国際公開WO 02/040478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、ジフルオロ安息香酸類に対し位置選択的にアミノ基を導入する技術がなく、従ってキノロン母核を製造した後、キノロン母核の7位へアミノ基を導入する反応が実施されていた。しかし、従来法では母核製造に高額な(1R,2S)−2−フルオロシクロプロピルアミン・トシル酸塩を工程の初期段階において使用するため、製造コストが極めて高額になるという問題があった。
従って、本発明の目的は、ジフルオロ安息香酸類に対し位置選択的にアミノ基を導入する技術を開発し、新しいキノロン製造方法およびその製造中間体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は種々検討した結果、2,4−ジフルオロ−3−アルコキシ安息香酸エステルにアミノ置換基、特に環状アミノ置換基、を導入する反応は、反応溶媒を選択することにより位置選択的な制御が可能であることを見出した。キノロン化合物を製造するために必要な4位にアミノ置換基を導入した化合物、例えば下記式(3)の化合物、の製造には、反応溶媒としてジメチルスルホキシドの使用が最も効果的であり、4位アミノ置換基が導入された化合物を選択的に製造して、これを鍵中間体に用いる事で、新規なキノロン製法を完成させた。本発明の製造工程の例を以下の反応式で示す。
【0008】

【0009】
(式中、R、R及びRはそれぞれ独立して低級アルキル基を示し、Aはアミノ基の保護基を示す)。
【0010】
即ち、本発明によって、下記式(6):
【0011】

【0012】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して低級アルキル基を示し、Aはアミノ基の保護基を示す)で表される化合物を含水溶媒中、塩基で処理することを特徴とする、式(1):
【0013】

【0014】
(式中、R及びAは前記の通りである)で表される化合物の製造方法が提供される。
【0015】
前記式(6)で表される化合物は、式(5):
【0016】

【0017】
(式中、R、R及びAは前記の通りである)で表される化合物とオルトエステルを反応させた後、(1R,2S)−2−フルオロシクロプロピルアミン又はその塩と反応させて製造することができる。
【0018】
前記式(5)で表される化合物は、式(4):
【0019】

【0020】
(式中、R及びAは前記の通りである)で表される化合物をハロゲン化剤で酸ハライドに変換するか又はカルボニルジイミダゾール縮合剤でアシルイミダゾールに変換後、マロン酸モノ低級アルキルエステルのマグネシウム塩と反応させるか、又は塩基の存在下にマロン酸モノ低級アルキルエステルと反応させて製造することができる。
【0021】
前記式(4)で表される化合物は、式(3):
【0022】

【0023】
(Rは低級アルキル基を示し、R及びAは前記の通りである)で表される化合物を加水分解して製造することができる。
【0024】
前記式(3)で表される化合物は、式(2):
【0025】

【0026】
(式中、R及びRは前記の通りである)で表される化合物を、式(2)の化合物が溶解する溶媒中で、下記式:
【0027】

【0028】
(式中、Aは前記の通りである)で表される(3R)−3−(1−アミノシクロプロピル)−ピロリジンと反応させて製造することができる。
【0029】
前記式(2)で表される化合物は、2,4−ジフルオロ−3−アルコキシ安息香酸を塩化チオニル、オギザリルクロリドのようなハロゲン化剤を用いて酸ハライド、特に酸塩化物、に変換した後、アルキルアルコールを添加することによって製造し得る。この他、通常行われるアルコール中において酸触媒を使用した方法によっても得ることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の製法によると、ジフルオロ安息香酸類に対し位置選択的にアミノ基を導入するので、母核製造に高額な(1R,2S)−2−フルオロシクロプロピルアミン・トシル酸塩を工程の初期段階において使用する必要がないため、製造コストが低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
式(1)〜(6)中のRとしては、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルのような炭素数1乃至3個を有する直鎖状若しくは分枝鎖状の低級アルキル基が好ましく、特に好ましいのはメチル基である。
【0032】
式(5)及び(6)中のRとしては、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、イソペンチル、ネオペンチルのような炭素数1乃至6個を有する直鎖状若しくは分枝鎖状の低級アルキル基が好ましく、更に好ましいのはメチル基又はエチル基、特にエチル基である。
【0033】
式(2)及び(3)中のRとしては、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、イソペンチル、ネオペンチルのような炭素数1乃至6個を有する直鎖状若しくは分枝鎖状の低級アルキル基が好ましく、更に好ましいのはメチル基又はエチル基である。
【0034】
式(1)、(3)、(4)、(5)及び(6)中のAで表されるアミノ基の保護基としては、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アシル基、アラルキル基、アルキル基、置換シリル基等が挙げられる。好ましいアミノ基の保護基としては、炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基、或はアラルキルオキシカルボニル基が挙げられ、特に好ましいのは第三級ブトキシカルボニル(Boc)基、ベンジルオキシカルボニル(Cbz)基である。
【0035】
式(6)の化合物は新規化合物である。式(6)における特に好適な化合物としては、Rがメチル基、Rがエチル基、そしてAが第三級ブトキシカルボニル基を示す化合物が挙げられる。
【0036】
式(5)の化合物は新規化合物である。式(5)における特に好適な化合物としては、Rがメチル基、Rがエチル基、そしてAが第三級ブトキシカルボニル基を示す化合物が挙げられる。
【0037】
式(4)の化合物は新規化合物である。式(4)における特に好適な化合物としては、Rがメチル基、そしてAが第三級ブトキシカルボニル基を示す化合物が挙げられる。
【0038】
式(3)の化合物は新規化合物である。式(3)における特に好適な化合物としては、Rがメチル基、Rがメチル又はエチル基、そしてAが第三級ブトキシカルボニル基を示す化合物を挙げることができる。
【0039】
置換安息香酸から、キノロンカルボン酸系抗菌剤の前駆物質である式(1)の化合物を得るまでの反応工程を以下に詳述する。
【0040】
置換安息香酸→化合物(2)
化合物(2)を製造するには、2,4−ジフルオロ−3−アルコキシ安息香酸を、塩化チオニル、オギザリルクロリドのようなハロゲン化剤を用いて酸ハロゲン化物、特に酸塩化物、に変換した後、アルキルアルコール(ROH)を添加すればよい。酸ハライドに変換する溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル系化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物、塩化メチレン、クロロホルム等の塩素系化合物、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル化合物、又はアセトニトリル等のニトリル化合物が使用できる。反応温度は−30〜170℃、好ましくは0〜110℃の範囲である。添加するアルキルアルコールは一級、又は二級アルコールが使用でき、特にエタノールが好ましい。反応終了後、生成物を得る方法としては、反応混合物を濃縮後、又は濃縮せずに水に加え、生成した塩を除いた後、非水溶性有機溶媒で抽出するという一般的方法を適用することができる。抽出液から溶媒を除くことにより、目的物は高い純度で得られるが、さらに精製する場合には、カラムクロマトグラフィーにより純品として単離できる。化合物(2)の他の製造法としては、通常実施される、アルコール中で酸触媒存在下での方法を挙げることができる。
【0041】
化合物(2)→化合物(3)
化合物(3)を製造するには、化合物(2)に対し、アミノ基が保護された(3R)−3−(1−アミノシクロプロピル)−ピロリジンを好ましくは1〜2倍モル用いて、特に約1:1の化学量論量(モル比)で反応させればよい。このピロリジン化合物の反応は、カルボキシル基のオルト位(2位)またはパラ位(4位)で置換反応が起きるが、驚くべきことに、使用する溶媒によって上記のピロリジン化合物の反応する部位が異なり、溶媒の使い分けによって反応部位の異なる化合物を選択的に得ることができることを本発明者は見出したのである。
この置換反応に使用できる溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル系化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物、塩化メチレン、クロロホルム等の塩素系化合物、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル化合物、アセトニトリル等のニトリル化合物、N,N−ジメチルアセトホルムアミド、ジメチルスルホキシド、イオン性液体等の、式(2)の化合物が溶解する溶媒を挙げることができる。本工程においては使用する溶媒の極性が重要であり、4位置換体である化合物(3)をより効率的に得るためには、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、イオン性液体等の高極性溶媒が好ましいことが明らかとなった。これらの高極性溶媒のうち特に好ましいのはジメチルスルホキシドである。
反応温度は0〜170℃でよいが、好ましくは0〜100℃の範囲である。
この反応は塩基の存在下で実施するのが好ましく、添加する塩基は有機又は無機のいずれでもよいが、好ましくは三級アミンである。このアミンは芳香族であっても非芳香族であってもいずれでもよいが、トリアルキルアミンが好適であり、トリエチルアミンを使用すればよい。塩基は式(2)の化合物に対して1〜5当量、好ましくは1〜2当量用いるのがよい。
反応終了後、生成物を得る方法としては、反応混合物を濃縮後、又は濃縮せずに水に加え生成した無機塩を除去し、非水溶性有機溶媒にて抽出するとの一般的方法を適用することができる。抽出液から溶媒を除去することにより目的物は高い純度で得られるが、さらに精製する場合には、カラムクロマトグラフィーや再結晶などの方法によって純品として単離することができる。
本願発明者の見出したこの選択的なアミノ置換基導入反応は、公知のキノロン化合物でのアミノ置換基の構築(導入)に使用される環状アミン化合物であれば同様にして選択的反応が進行すると考える。このような環状アミン化合物としては、例えば5員環や6員環の環状アミノ化合物や、双環性の環状アミノ化合物を挙げることができる。具体的には、ピロリジン、3−アミノピロリジン、2−メチル−4−アミノピロリジン、3−アミノ−4−メチルピロリジン、7−アミノ−5−アザスピロ[2.4]ヘプタン、1−アミノ−5−アザスピロ[2.4]ヘプタン、1−アミノ−3−アザビシクロ[3.1.0]ヘキサン、3−ヒドロキシピロリジン、ピペラジン、3−メチルピペラジン、4−メチルピペラジン、3,5−ジメチルピペラジン、2,8−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナン、2−オキサ−5,8−アザビシクロ[4.3.0]ノナン等であり、これらは光学活性体であってもよい。また、環上にさらに置換基としてアミノ基やヒドロキシル基を有する場合、これらは保護されたアミノ基、保護された水酸基となっていてもよい。
【0042】
化合物(3)→化合物(4)
化合物(3)から化合物(4)を製造するには、化合物(3)のエステルを加水分解すればよい。このエステルの加水分解は通常使用される条件下で実施すればよいが、アミノ基の保護基が脱離しない条件であれば特に制限はない。本工程の加水分解は、塩基条件下で実施するのが好ましい。使用される塩基としては無機塩基が好ましく、水酸化ナトリウムあるいは水酸化カリウム等を挙げることができる。塩基は、式(3)の化合物に対して1〜50当量、好ましくは1〜20当量用いるのがよい。反応は、室温〜300℃の範囲で実施すればよいが、好ましくは室温〜100℃程度である。反応時間は反応温度によっても異なるが、1〜48時間程度でよく、通常は1〜24時間で完了する。反応終了後は反応液を酸性化し、非水溶性有機溶媒で抽出するあるいは固体を分離するなどの方法によって化合物(4)を得ることができる。酸性化のために使用する酸としては、アミノ基の保護基が脱離しないものであれば特に制限はないが、クエン酸が好ましい。
【0043】
化合物(4)→化合物(5)
化合物(5)を製造するには、化合物(4)を塩化チオニルなどのハロゲン化剤と、好ましくは約1:1の化学量論量(モル比)で反応させて酸ハロゲン化物、特に酸塩化物に変換するか、又は1,1’−カルボニルジイミダゾールのような縮合剤を、好ましくは化合物(4)1モルに対して1〜2モル添加してアシルイミダゾールに変換後、マロン酸モノ低級アルキルエステルのマグネシウム塩を好ましくは化合物(4)1モルに対して1〜3モル添加して反応させて得る方法を挙げることができる。これ以外の方法として、特開平1−100166に記載されているように、マグネシウム塩の代わりに塩基、例えばアルキルリチウム或は水素化ナトリウムの存在下にマロン酸モノ低級アルキルエステルを反応させる方法もある。ここで低級アルキルとは、炭素数1〜6、好ましくは1〜3のアルキルを云う。これらの反応において用いる溶媒はテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル系化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物、塩化メチレン、クロロホルム等の塩素系化合物、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル化合物、アセトニトリル等のニトリル化合物、N,N−ジメチルアセトホルムアミド、ジメチルスルホキシド、又はイオン性液体が使用できるが、特にエーテル系化合物が好ましい。反応温度は0〜170℃、好ましくは室温である。反応終了後、生成物を得る方法としては、反応混合物を濃縮後、又は濃縮せずに水に加え、非水溶性有機溶媒で抽出するという一般的方法を適用することができる。抽出液から溶媒を除くことにより目的物は高い純度で得られるが、さらに精製する場合には、カラムクロマトグラフィーにより純品として単離できる。
【0044】
化合物(5)→化合物(6)
化合物(6)は、化合物(5)に無水酢酸中でオルトギ酸メチルまたはオルトギ酸エチルなどのオルトエステル類を反応させた後、反応液を濃縮した後、残留物を溶媒に溶かし、(1R,2S)−2−フルオロシクロプロピルアミン又はその塩、特にトシル酸塩、を作用させることにより得ることができる。使用する(1R,2S)−2−フルオロシクロプロピルアミン又はその塩の量は、化合物(5)1モルに対して1〜1.5モル、特に1:1の化学量論量(モル比)であるのが好ましい。このとき使用できる溶媒は反応を阻害するものでなければいずれの溶媒でもよい。反応温度は0〜170℃、好ましくは室温である。反応終了後、生成物を得る方法としては、反応混合物を濃縮後、又は濃縮せずに水に加え、非水溶性有機溶媒で抽出するという一般的方法を適用することができる。抽出液から溶媒を除くことにより目的物は高い純度で得られるが、さらに精製する場合には、カラムクロマトグラフイーにより純品として単離できる。
【0045】
化合物(6)→化合物(1)
化合物(1)を得るには、水に混和する溶媒に化合物(6)を溶かし、水の存在下、塩基で処理すればよい。この条件下においては、キノリン環への閉環反応とエステルの加水分解反応とが進行し、化合物(1)を得ることができる。水に混和する溶媒としては反応を阻害しないものであれば特に制限はなく、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール等のアルコール系溶媒、ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル系化合物を挙げることができる。使用する塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の無機塩基を挙げることができる。使用する溶媒量は化合物(6)に対し、重量で1から100倍量の範囲であり、好ましくは3倍量から10倍量である。また使用する塩基量は化合物(6)1モルに対し2モル以上であればよい。塩基は水に溶解し、水溶液として使用する。水の量は溶解した塩基が0.5規定から10規定程度になるように調整すればよいが、好ましくは2規定から5規定程度である。反応温度は室温〜300℃、好ましくは室温〜100℃の範囲である。反応時間は反応温度によっても異なるが、1〜48時間程度でよく、通常は1〜5時間で完了する。反応終了後は反応液を酸性化し、非水溶性有機溶媒で抽出するか、あるいは固体を分離するなどの方法によって化合物(1)を得ることができる。酸性化のために使用する酸としては、アミノ基の保護基が脱離しないものであれば特に制限はないが、クエン酸を使用するのが好ましい。
なお、この工程の反応は、水と混和しない有機溶媒と、水性塩基、そして相間移動触媒を使用したいわゆる二層反応の条件下においても同様に実施することができる。
【0046】
このようにして得られた化合物(1)のアミノ基の保護基を脱離させれば、前記式(1’)で表されるような、抗菌剤として有用なキノロンカルボン酸誘導体が得られる。脱保護は、使用した保護基に適した条件下で実施すればよいが、例えば塩酸等を用いて加水分解することにより行われる。なお、この化合物(1’)は酸付加塩又はその水和物として単離することもできる。
【実施例1】
【0047】
本発明の化合物及びそれらの化合物を中間体とするキノロンカルボン酸誘導体の製造工程を具体例で以下に示す。
参考例1:2,4−ジフルオロ−3−メトキシ安息香酸エチル
2,4−ジフルオロ−3−メトキシ安息香酸(18.8g)を反応容器に入れ、室温下トルエン100mLを加えて懸濁した。N,N−ジメチルホルムアミド0.5mLを滴下後、塩化チオニル14.6mLを滴下し、60℃で加熱攪拌した。7時間後、エタノール50mLを加え、不溶物を濾去した。濾液を水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。溶媒を留去し、淡黄色油状物として標記化合物(21.4g)を得た。
【0048】
実施例1:
(3R)−3−(1−第三級ブトキシカルボニルアミノシクロプロピル)−ピロリジン(64mg,85%含量)を溶媒(0.45mL,下記表1参照)に溶解し、2,4−ジフルオロ−3−メトキシ安息香酸エチル(45mg)、さらにトリエチルアミン(0.04mL)を添加した後、75℃で攪拌した。18時間後、放冷し、10%クエン酸水溶液で分液し、AcOEtで抽出を行った。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過後、溶媒を留去した。残留物をH−NMRで測定し、芳香族へのアミノ基の位置選択性を求めた。

2−[(3R)−3−(1−第三級ブトキシカルボニルアミノシクロプロピル)−ピロリジン−1−イル]−4−フルオロ−3−メトキシ安息香酸エチル(2位導入体)
無色油状;H−NMR(400MHz,CDCl)δ0.73−0.85(m,4H),1.36(t,J=6.8Hz,3H),1.42(s,9H),1.66−1.72(m,1H),1.92−2.05(m,1H),2.28−2.43(m,1H),3.26−3.34(m,3H),3.47−3.53(m,1H),3.82(s,3H),4.10(q,J=6.8Hz,2H),4.99(br s,1H),6.63(t,J=9.0Hz,1H),7.19(dd,J=9.0,6.4Hz,1H).
4−[(3R)−3−(1−第三級ブトキシカルボニルアミノシクロプロピル)−ピロリジン−1−イル]−2−フルオロ−3−メトキシ安息香酸エチル(4位導入体)
白色結晶;H−NMR(400MHz,CDCl)δ0.76−0.88(m,4H),1.37(t,J=7.3Hz,3H),1.41(s,9H),1.70−1.79(m,1H),1.95−2.05(m,1H),2.28−2.38(m,1H),3.30−3.38(m,1H),3.45−3.60(m,3H),3.78(s,3H),4.33(q,J=7.3Hz,2H),4.90(br s,1H),6.31(d,J=9.0Hz,1H),7.19(t,J=9.0,1H).
【0049】
実施例2:4−[(3R)−3−(1−第三級ブトキシカルボニルアミノシクロプロピル)−ピロリジン−1−イル]−2−フルオロ−3−メトキシ安息香酸エチル
(3R)−3−(1−第三級ブトキシカルボニルアミノシクロプロピル)−ピロリジン(4.75g,85%含量)をジメチルスルホキシド(30mL)に溶解し、2,4−ジフルオロ−3−メトキシ安息香酸エチル(3.2g)、さらにトリエチルアミン(3.1mL)を添加した後、75℃で攪拌した。18時間後、放冷し、10%クエン酸水溶液を加え、AcOEtで抽出を行った。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過後、溶媒を留去した。得られた残留物結晶6.22g(2位:4位=17:83)をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)に付し、標記化合物を白色結晶(4.75g)として得た。
【0050】
実施例3:4−[(3R)−3−(1−第三級ブトキシカルボニルアミノシクロプロピル)−ピロリジン−1−イル]−2−フルオロ−3−メトキシ安息香酸
4−[(3R)−3−(1−第三級ブトキシカルボニルアミノシクロプロピル)−ピロリジン−1−イル]−2−フルオロ−3−メトキシ安息香酸エチル(3.61g)をエタノール28mLに溶かし、1規定の水酸化ナトリウム水溶液(34.5mL)を加え、50℃で加熱攪拌した。反応終了後、10%クエン酸水溶液を加え、クロロホルムで抽出を行った。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過後、溶媒を留去した。標記化合物を残留物結晶4.45gとして得た。該結晶は精製することなく次工程に用いた。
【0051】
実施例4:{4−[(3R)−3−(1−第三級ブトキシカルボニルアミノシクロプロピル)−ピロリジン−1−イル]−2−フルオロ−3−メトキシベンゾイル}酢酸エチル
4−[(3R)−3−(1−第三級ブトキシカルボニルアミノシクロプロピル)−ピロリジン−1−イル]−2−フルオロ−3−メトキシ安息香酸の粗体(2.0g)を室温下テトラヒドロフラン10mLに溶解し、ここに1,1’−カルボニルジイミダゾール(0.97g)を加えて2時間攪拌した。一方、マロン酸モノエチルエステル(1.59g)を水浴で冷却しつつテトラヒドロフラン245mLを加えた。滴下終了後、マグネシウムエトキシド(0.69g)を加え、2時間攪拌した。2時間後この反応液を前者の反応液に加え、さらに2時間攪拌した。反応液に水102mLを加えて酢酸エチルで抽出した。有機層を炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥し、ろ過後、ろ液を減圧濃縮して残留油状物2.6gを得た。得られた残留油状物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)に付し、標記化合物を淡黄色油状物(1.24g)として得た。
淡黄色油状;H−NMR(400MHz,CDCl)δ0.73−0.88(m,4H),1.37(t,J=6.8Hz,3H),1.41(s,9H),1.66−1.80(m,1H),1.95−2.05(m,1H),2.20−2.44(m,1H),3.25−3.40(m,1H),3.50−3.65(m,3H),3.77(s,3H),3.90(d,J=3.6Hz,keto),4.23(q,J=6.8Hz,2H),4.92(br s,1H),5.73(s,enol),6.31(d,J=9.0Hz,1H),7.58(t,J=9.0,1H),12.77(br s,enol).
【0052】
実施例5:(EアンドZ)−2−{4−[(3R)−3−(1−第三級ブトキシカルボニルアミノシクロプロピル)−ピロリジン−1−イル]−2−フルオロ−3−メトキシベンゾイル}−3−[(1R,2S)−2−フルオロ−1−シクロプロピルアミノ]アクリル酸エチル
{4−[(3R)−3−(1−第三級ブトキシカルボニルアミノシクロプロピル)−ピロリジン−1−イル]−2−フルオロ−3−メトキシベンゾイル}酢酸エチル(0.79g)に無水酢酸(0.48mL)およびオルトギ酸エチル(0.71mL)を室温下で加えて溶解した。反応液を加熱(内温120℃)して3時間攪拌した後、反応液を減圧濃縮した。濃縮残留物をトルエンに溶解してトルエンを減圧留去し、残留物に酢酸エチル8.0mLを加えて溶解し、水浴下で(1R,2S)−2−フルオロシクロプロピルアミン・トシル酸塩(0.46g)、及びトリエチルアミン(0.36mL)を加えて2時間攪拌した。反応液の不溶物をろ去し、濾液を水および飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムにて乾燥し、ろ過後、ろ液を減圧濃縮してE体とZ体の混合物である標記化合物の粗体(1.11g)を赤色油状物として得た。
【0053】
実施例6:7−[(3R)−3−(1−第三級ブトキシカルボニルアミノシクロプロピル)−ピロリジン−1−イル]−1−[(1R,2S)−2−フルオロ−1−シクロプロピルアミノ]−1,4−ジヒドロ−8−メトキシ−4−オキソキノリン−3−カルボン酸
(EアンドZ)−2−{4−[(3R)−3−(1−第三級ブトキシカルボニルアミノシクロプロピル)−ピロリジン−1−イル]−2−フルオロ−3−メトキシベンゾイル}−3−[(1R,2S)−2−フルオロ−1−シクロプロピルアミノ]アクリル酸エチルの粗体(1.08g)をエタノール5mLに溶かし、3規定水酸化カリウム水溶液10mLを加えて50℃で加熱攪拌した。2時間後、反応液を氷冷し、10%クエン酸水溶液で酸性にし、クロロホルムで抽出を行った。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過後、溶媒を留去した。得られた残留物0.89mgをシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、標記の化合物を淡褐色結晶として得た。
淡褐色結晶;H−NMR(270MHz,CDCl)δ0.68−0.95(m,4H),1.30−1.60(m,2H),1.43(s,9H),1.72−1.90(m,1H),2.05−2.15(m,1H),2.23−2.40(m,1H),3.37−3.71(m,4H),3.53(s,3H),3.80−3.90(m,1H),4.75−5.05(md,J=51.9Hz,1H),4.98(brs,1H),6.94(d,J=9.2Hz,1H),8.07(d,J=9.2Hz,1H),8.66(d,J=3.1Hz,1H),15.20(br s,1H).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(6):

(式中、R及びRはそれぞれ独立して低級アルキル基を示し、Aはアミノ基の保護基を示す)で表される化合物を含水溶媒中、塩基で処理することを特徴とする、式(1):

(式中、R及びAは前記の通りである)で表される化合物の製造方法。
【請求項2】
前記式(6)で表される化合物が、式(5):

(式中、R、R及びAは前記の通りである)で表される化合物とオルトエステルとを反応させた後、(1R,2S)−2−フルオロシクロプロピルアミン又はその塩と反応させて製造されるものである、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記式(5)で表される化合物が、式(4):


(式中、R及びAは前記の通りである)で表される化合物をハロゲン化剤で酸ハライドに変換するか又はカルボニルジイミダゾール縮合剤でアシルイミダゾールに変換後、マロン酸モノ低級アルキルエステルのマグネシウム塩と反応させるか、又は塩基の存在下にマロン酸モノ低級アルキルエステルと反応させて製造されるものである、請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記式(4)で表される化合物が、式(3):

(Rは低級アルキル基を示し、R及びAは前記の通りである)で表される化合物を加水分解して製造されるものである、請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
前記式(3)で表される化合物が、式(2):

(式中、R及びRは前記の通りである)で表される化合物を、上記式(2)の化合物が溶解する溶媒中で、下記式:

(式中、Aは前記の通りである)で表される化合物と反応させて製造されるものである、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
溶媒が高極性溶媒である、請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
高極性溶媒が、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、及びイオン性液体から選ばれる高極性溶媒である、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
溶媒がジメチルスルホキシドである請求項5記載の製造方法。
【請求項9】
式(6):

(式中、R及びRはそれぞれ独立して低級アルキル基を示し、Aはアミノ基の保護基を示す)で表される化合物。
【請求項10】
式(5):

(式中、R及びRはそれぞれ独立して低級アルキル基を示し、Aはアミノ基の保護基を示す)で表される化合物。
【請求項11】
式(4):

(式中、Rは低級アルキル基を示し、Aはアミノ基の保護基を示す)で表される化合物。
【請求項12】
式(3):

(Rは及びRはそれぞれ独立して低級アルキル基を示し、Aはアミノ基の保護基を示す)で表される化合物。

【国際公開番号】WO2004/113321
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【発行日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507237(P2005−507237)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008607
【国際出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】