説明

避難誘導機能を有する階段ブロック

【課題】傘等から落下する水分や日光の照射等に曝されたり、歩行者の通行量が多いといった厳しい環境下であっても、長期間に亘って優れた蓄光性能を発揮することができ、停電等の非常時に歩行者を円滑に避難させることのできる階段を、容易にかつ迅速に作製しうる階段ブロックを提供する。
【解決手段】コンクリート成形体である階段ブロック本体2の表面に、(a)蓄光顔料の表面が高分子樹脂の皮膜によってコーティングされた蓄光粒子体と、(b)液体との接触によって膨潤する性質を有するハニカム構造の有機高分子であって、ポリグルタミン酸、または、長鎖型アミノ酸を化学反応によって高分子化及びハニカム構造化した物質である有機高分子と、(c)多孔質の無機粉体とが、ビヒクルに混合されてなる蓄光性組成物の硬化体を含む避難誘導用の蓄光体6、7、8を設けてなる階段ブロック。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、停電等の非常時における歩行者の誘導のために用いられる、コンクリートまたはモルタルを主体とする階段ブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多数の者が利用する雑居ビル、デパート、駅、公共施設等において、停電等の非常事態が発生した場合に、避難者は、非常灯等を誘導手段として避難している。
しかし、非常灯等の誘導手段は、単に、避難者を出口に誘導するためのものにすぎず、例えば、多数の避難者が、階段を転倒せずに円滑に昇降することに役立つものとは言い難い。
一方、光の照射によって蓄光した後、暗闇で光を発することのできる蓄光性組成物が知られている。例えば、蓄光顔料の表面が高分子樹脂の皮膜によってコーティングされた蓄光粒子体と、液体との接触によって膨潤する性質を有したハニカム構造の有機高分子と、多孔質の無機粉体とがビヒクルに混合されて構成されており、前記ハニカム構造の有機高分子はポリグルタミン酸、又は長鎖型アミノ酸を化学反応によって高分子化及びハニカム構造化した物質であることを特徴とするインキ及び塗料用の蓄光性組成物が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4071821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、消防法の改正等の中で、停電等の非常時に多数の歩行者が円滑に昇降することのできる階段が求められている。
このような階段として、例えば、蓄光性組成物を塗布し、この蓄光性組成物が暗闇の中で発光することによって避難誘導手段として機能するようにした階段が考えられる。
しかし、階段に塗布した蓄光性組成物は、一般に、傘等から落下する水分や日光の照射などによって劣化しやすいという問題がある。
また、既設の階段に蓄光性組成物を塗布する場合、塗布作業が煩雑なことに加えて、歩行者の靴等との摩擦によって、塗布した蓄光性組成物が剥落しやすいという問題もある。
そこで、本発明は、傘等から落下する水分や日光の照射等に曝されたり、歩行者の通行量が多いといった厳しい環境下であっても、長期間に亘って優れた蓄光性能を発揮することができ、停電等の非常時に歩行者を円滑に避難させることのできる階段を、容易にかつ迅速に作製しうる階段ブロックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の蓄光性組成物を用い、かつ、特定の構造を有する階段ブロックによれば、前記の課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[4]を提供するものである。
[1] コンクリートまたはモルタルの成形体である階段ブロック本体の表面に、蓄光性組成物の硬化体を含む避難誘導用の蓄光体を設けてなる階段ブロックであって、前記蓄光性組成物は、(a)蓄光顔料の表面が高分子樹脂の皮膜によってコーティングされた蓄光粒子体と、(b)液体との接触によって膨潤する性質を有するハニカム構造の有機高分子であって、ポリグルタミン酸、または、長鎖型アミノ酸を化学反応によって高分子化及びハニカム構造化した物質である有機高分子と、(c)多孔質の無機粉体とが、ビヒクルに混合されてなる組成物であることを特徴とする避難誘導機能を有する階段ブロック。
[2] 前記避難誘導用の蓄光体が、蓄光性組成物の硬化体からなる塗膜と基材とからなりかつ前記階段ブロック本体の踏み面上の段鼻に沿った溝の中に配設されている蓄光部材を含む、前記[1]に記載の階段ブロック。
[3] 上記蓄光部材の上面が、上記階段ブロック本体の踏み面よりも低い位置にある、前記[2]に記載の階段ブロック。
[4] 前記避難誘導用の蓄光体が、前記階段ブロック本体の踏み面の左右両端にて段鼻と垂直の方向に延びる踏み面用蓄光体、及び、前記階段ブロック本体の蹴上げ面の左右両端にて段鼻と垂直の方向に延びる蹴上げ面用蓄光体、のいずれか一方または両方を含む、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の階段ブロック。
【発明の効果】
【0006】
本発明の階段ブロックは、特定の蓄光性組成物が暗闇の中で発光し避難誘導手段として機能するため、火災等によって停電した場合などにおいて、避難者を階段に沿って円滑に避難させることができる。特に、火災時には、煙が屋内の上部空間に主に充満することから、非常灯を視認することができないことが多く、この場合、本発明の階段ブロックは、床面のみを見て避難する者にとって、避難誘導手段として非常に役立ち得るものである。
本発明の階段ブロックは、特定の蓄光性組成物を用いているため、傘等から落下する水分や日光の照射等に曝されても、長期間に亘って優れた蓄光性能を発揮することができる。
本発明の階段ブロックは、工場内で蓄光体を備えた製品として製造することができ、施工現場において階段を容易にかつ迅速に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の階段ブロックの一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示す階段ブロックを階段幅の中央部で鉛直方向に切断した状態を示す断面図である。
【図3】図1に示す階段ブロックの構成部材である蓄光部材を部分的に示す斜視図である。
【図4】図1に示す階段ブロック同士を連結させてなる階段を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[蓄光性組成物]
本発明の階段ブロックの構成部分である避難誘導用の蓄光体に用いられる蓄光性組成物について説明する。
本発明で用いる蓄光性組成物は、(a)蓄光顔料の表面が高分子樹脂の皮膜によってコーティングされた蓄光粒子体と、(b)液体との接触によって膨潤する性質を有するハニカム構造の有機高分子であって、ポリグルタミン酸、または、長鎖型アミノ酸を化学反応によって高分子化及びハニカム構造化した物質である有機高分子と、(c)多孔質の無機粉体とが、ビヒクルに混合されてなる組成物である。
【0009】
(a)成分である蓄光粒子体は、蓄光顔料の表面を高分子樹脂の皮膜によってコーティングされることにより作製される。蓄光顔料は、光の吸収に基づいて発光を繰り返す顔料であり、例えば、アルミン酸ストロンチウム、アルミン酸カルシウム、アルミン酸マグネシウム、アルミン酸バリウム等のアルカリ土類金属のアルミン酸塩が挙げられる。中でも、アルミン酸ストロンチウムは、本発明において好ましく用いられる。アルミン酸ストロンチウムは、高い残光輝度及び長い残光時間を有する蛍光体である。例えば、200ルクス程度の低照度の光照射でも、実用的な視認度を維持した状態で一晩中発光を継続する特性を有している。
蓄光顔料の表面をコーティングするための高分子樹脂としては、透明性を有し、且つビヒクルに対して安定な樹脂を用いることができ、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0010】
高分子樹脂を用いて蓄光顔料の表面をコーティングすることによって、アルミン酸ストロンチウム等の蓄光顔料を、水や炭酸ガスに対して安定した状態に保つことができる。
高分子樹脂を用いて蓄光顔料の表面をコーティングする方法の一例として、高分子樹脂を溶融して融液とし、この融液中に蓄光顔料を投入して混合する方法が挙げられる。
高分子樹脂を用いて蓄光顔料の表面をコーティングする方法の他の例として、高分子樹脂を有機溶剤に溶解した溶液中に蓄光顔料を投入して混合する方法が挙げられる。なお、有機溶剤としては、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサン等が挙げられる。
これらの方法における混合によって、蓄光顔料の表面の全体に皮膜が形成されて、蓄光粒子体となる。皮膜の形成の後、蓄光粒子体を融液または溶液から取り出して分離し、蓄光性組成物の原料として用いる。
蓄光顔料の表面に高分子樹脂の皮膜を形成させてなる蓄光粒子体は、適宜粉砕して用いることもできる。粉砕後の蓄光粒子体の粒径は、例えば、1〜200μmである。該粒径を1〜200μmにすれば、例えば、蓄光性組成物を基材上にスクリーン印刷することが可能となる。
【0011】
(b)成分であるハニカム構造の有機高分子は、ポリグルタミン酸、または、長鎖型アミノ酸を化学反応によって高分子化及びハニカム構造化した物質である。
ポリグルタミン酸は、アミノ酸の一種であるグルタミン酸を高分子化することによりハニカム構造となった化合物である。ポリグルタミン酸は、一般に保湿剤として汎用されているので、容易に入手することができる。
長鎖型アミノ酸としては、L−バリン、L−フェニルアラニン、L−リシン酸、L−メチオニン、L−アスパラギン酸、L−イソロイシン、L−アラニン、L−アルギニン、L−グルタミン酸、L−グルタミン酸−L−リジン複合体、L−セリン等が挙げられる。これらの長鎖型アミノ酸は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
長鎖型アミノ酸を化学反応によって高分子化及びハニカム構造化した物質と、ポリグルタミン酸は、組み合わせて用いることもできる。
(b)成分は、水または有機溶剤(例えば、酢酸エチル)に分散させることによって膨潤する性質を有し、ビヒクル中に分散している蓄光粒子体を良好に捕捉する。
水または有機溶剤1重量部に対する(b)成分の量は、良好に膨潤させる観点から、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.01〜1.0重量部である。
(a)成分100重量部に対する(b)成分の量は、好ましくは0.02〜10重量部、より好ましくは0.02〜1.0重量部、特に好ましくは0.02〜0.1重量部である。
【0012】
(c)成分である多孔質の無機粉体は、多孔質であるため極めて軽量であり、ビヒクルに混合した場合に、自らがビヒクル内で良好に分散した状態となる。また、ビヒクル内で多孔質の無機粉体が分散することによって、ビヒクルの粘度が増大する。さらに、ビヒクル内で分散している多孔質の無機粉体は、他の粒子((a)成分、(b)成分)が沈殿せずに浮遊した状態を安定的に維持するように作用する。
多孔質の無機粉体としては、酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化亜鉛(ZnO)と銅(Cu)との混合物、白艶華(膠質炭酸カルシウムの微粉末)、石炭灰等が挙げられる。これらの無機粉体は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
多孔質の無機粉体の嵩比重は、好ましくは0.05〜0.4、より好ましくは0.05〜0.2である。嵩比重が0.05未満では、ビヒクルとの濡れ性が小さくなって、ビヒクルへの分散が難しくなる。嵩比重が0.4を超えると、上述の作用が極端に小さくなる。
(a)成分100重量部に対する(c)成分の量は、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは0.1〜10重量部である。
【0013】
ビヒクルは、蓄光性組成物のベースを構成するための成分である。ビヒクルとしては、樹脂、溶媒、補助剤、その他の材料が用いられる。
樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、エステル樹脂、PVC樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、水性、エマルジョンなどの形態で使用することもできる。
溶媒は、樹脂の溶解、濡れの向上、乾燥性の向上、その他のために使用される。溶媒としては、水、トルエン、キシレン、アセトン、酢酸エチル等が挙げられる。
補助剤としては、消泡剤、はじき防止剤、流動性調整剤、顔料分散剤、艶消し剤等が挙げられる。
ビヒクル100重量部に対する(a)成分(蓄光粒子体)の量は、好ましくは1〜65重量部、より好ましくは40〜60重量部である。該量が1重量部未満では、蓄光粒子体の発光が肉眼で視認し難くなる。該量が65重量部を超えると、蓄光性組成物の流動性が小さくなり、塗布等の作業が困難となる。
【0014】
本発明では、(a)成分〜(c)成分、及び、ビヒクルに加えて、紫外線硬化性樹脂組成物を用いることができる。紫外線硬化性樹脂組成物は、例えば、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート等のオリゴマーと、ラジカル反応基を有するモノマーと、光重合開始剤と、増感剤と、その他の配合剤とによって構成することができる。紫外線硬化性樹脂組成物は、紫外線を照射することによって短時間で硬化する。紫外線硬化樹脂を配合することによって、蓄光性組成物を短時間で硬化させると共に、蓄光性組成物からなる塗膜と基材とを強固に固着させることができる。
本発明で用いる蓄光性組成物の上述以外の詳細(例えば、蛍光灯の消灯後の経過時間と、蓄光性組成物の残光輝度の関係)は、特許第4071821号公報に記載されている。
【0015】
[階段ブロックの構造]
本発明の階段ブロックの一例を図1に示す。
本発明の階段ブロック1は、階段ブロック本体2の表面に、避難誘導用の蓄光体として、段鼻用蓄光部材6、踏み面用蓄光体7、蹴上げ面用蓄光体8を配設してなる。
階段ブロック本体2は、コンクリートまたはモルタルの成形体であり、段鼻用蓄光部材6を配設するための溝9(図2参照)を有する。
段鼻用蓄光部材6は、歩行者が踏み面3を踏み外すことのないように、踏み面3上の段鼻5(具体的には、踏み面3上の縁の近傍領域)に配設されている。
段鼻用蓄光部材6は、通常、図3に示すように、蓄光性組成物の硬化体からなる塗膜6aと基材6bとからなる、断面が矩形の棒状体として形成される。段鼻用蓄光部材6は、階段の幅に合わせた長尺の棒状体でもよいし、あるいは、階段の幅に対して複数の短尺の棒状体を間欠的に配設するように構成してもよい。
段鼻用蓄光部材6は、接着剤、両面テープ等の固着手段を用いて、階段ブロック本体2の溝9に固着されている。
段鼻用蓄光部材6の矩形の断面の幅(例えば、図2に示す段鼻用蓄光部材6の上辺または下辺の幅)は、発光時の視認性、蓄光部材の製造コスト等の観点から、好ましくは1〜100mm、より好ましくは5〜15mmである。
段鼻用蓄光部材6の矩形の断面の高さ(例えば、図2に示す段鼻用蓄光部材6の右辺または左辺の高さ)は、特に限定されないが、通常、1〜30mmである。
【0016】
段鼻用蓄光部材6を構成する基材6bとしては、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート等の合成樹脂や、アルミニウム、鉄等の金属や、セラミック等が挙げられる。
基材6bの表面に蓄光性組成物を塗布する方法としては、スクリーン印刷、刷毛塗り、スプレー塗装、ローラー等が挙げられる。
段鼻用蓄光部材6の上面は、図2に示すように、階段ブロック本体の踏み面3よりも低い位置にあることが望ましい。この場合、歩行者の靴等と段鼻用蓄光部材6との接触による、蓄光性組成物からなる塗膜の摩耗を避けることができる。
段鼻用蓄光部材6の上面と踏み面3との高さの差は、好ましくは、0.1mm以上、より好ましくは0.5mm以上である。該高さの差の上限は、通常、3mmである。
段鼻用蓄光部材6は、平行な2本以上の棒状体として構成してもよい。例えば、階段の幅に合わせた長尺の棒状体を段鼻5に2本、平行に配設すれば、歩行者は、段鼻5の位置を容易に視認することができる。
また、段鼻用蓄光部材6は、階段の幅の左右両端または左右一端のみを、それ以外の部分と区別しうるように、例えば、蓄光性組成物からなる塗膜の線を太くして構成することができる。この場合、避難者は、踏み面用蓄光体7及び蹴上げ面用蓄光体8が設けられていなくても、階段の幅の端部の位置を容易に視認することができる。
本発明においては、段鼻用蓄光体として、段鼻用蓄光部材6に代えて、後述の踏み面用蓄光体7等と同様のフィルムや、階段ブロック本体2(踏み面上の段鼻)への蓄光性組成物の直接の塗布を採用することもできる。
【0017】
踏み面用蓄光体7は、踏み面3の左右両端にて段鼻5と垂直の方向に水平に延びている。踏み面用蓄光体7を設けることによって、階段の幅の左右両端の位置、及び踏み面3の奥行を容易に視認することができる。
なお、踏み面用蓄光体7は、踏み面3の左右両端以外の位置(例えば、中央付近)に設けることもできる。この場合、踏み面3の奥行を容易に視認することができる。
蹴上げ面用蓄光体8は、蹴上げ面4の左右両端にて段鼻5と垂直の方向に鉛直に延びている。蹴上げ面用蓄光体8を設けることによって、階段の幅の左右両端の位置、及び階段の段差の高さを容易に視認することができる。
なお、蹴上げ面用蓄光体8は、踏み面3の左右両端以外の位置(例えば、中央付近)に設けることもできる。この場合、階段の段差の高さを容易に視認することができる。
踏み面用蓄光体7及び蹴上げ面用蓄光体8の形態の例としては、基材である塩ビフィルム等のフィルム本体の片面に蓄光性組成物の硬化体からなる塗膜を形成させてなるフィルムが挙げられる。
なお、踏み面用蓄光体7及び蹴上げ面用蓄光体8がフィルムである場合、蓄光性組成物の硬化体からなる塗膜と反対側の面に、粘着層を設けることができる。粘着層を設けない場合、フィルムは、例えば接着剤を用いて踏み面3または蹴上げ面4に固着される。フィルム本体に蓄光性組成物を塗布する方法としては、スクリーン印刷、刷毛塗り、スプレー塗装、ローラー等が挙げられる。
本発明においては、踏み面用蓄光体7及び蹴上げ面用蓄光体8に代えて、上述の段鼻用蓄光部材6と同様の棒状体や、階段ブロック本体2(踏み面、蹴上げ面)への蓄光性組成物の直接の塗布を採用することもできる。踏み面用蓄光体7及び蹴上げ面用蓄光体8に代えて、段鼻用蓄光部材6と同様の棒状体を用いた場合、階段ブロック本体2の表面に溝を形成させる必要性は、小さい。蓄光体7、8が階段の左右両端に位置するため、蓄光性組成物からなる塗膜の摩耗のおそれが少ないからである。
【0018】
本発明において、避難誘導用の蓄光体として、段鼻用蓄光部材6、踏み面用蓄光体7、蹴上げ面用蓄光体8のいずれか1つのみを用いてもよいが、避難者を安全に避難誘導させるためには、少なくとも、段鼻用蓄光部材6を設けることが望ましく、段鼻用蓄光部材6、踏み面用蓄光体7、及び蹴上げ面用蓄光体8の3種を組み合わせることが、最も望ましい。
本発明において、段鼻用蓄光部材6、踏み面用蓄光体7、蹴上げ面用蓄光体8のいずれか1つ以上について、発光領域を矢印状にしたり、他と異なる発光色にすることなどによって、避難すべき方向を示すなど、避難誘導機能を高めることもできる。
【実施例】
【0019】
[実施例1]
加熱によって溶融した飽和ポリエステル樹脂に、蓄光顔料としてアルミン酸ストロンチウム粉体を70重量%となるように混合して攪拌し、冷却した後、粉砕して粒径10μmの蓄光粒子体を得た。蓄光粒子体400gに対して、ポリグルタミン酸を10g、嵩密度0.1の多孔質のSiOを10g秤量し、市販の水性エマルジョンからなるインキ基材1000gに混入し、攪拌して分散させて蓄光性組成物を調製した。
この蓄光性組成物を耐熱塩ビフィルム上に120μmの厚さでスクリーン印刷し、蓄光体を得た。
この蓄光体に対して、以下のように、耐水性試験および耐候性試験を行なった。
なお、この蓄光体が日光の照射によっても劣化し難いことは、本発明者による実験で確認されている。
(1)耐水性試験
JIS Z 9107の「安全標識板における耐水性試験」に準じて、24時間の耐水性試験を行った。その結果、目視による外観の異常は認められなかった。
(2)耐酸性及び耐アルカリ性の試験
平成11年消防庁告第2号「誘導灯及び誘導標識の基準」に規定する高輝度蓄光式誘導標識に関する8時間の耐酸性及び耐アルカリ性の試験を行った。その結果、試験後の試料の表示面の文字等が目視により判別可能であった。
【符号の説明】
【0020】
1 階段ブロック
2 階段ブロック本体
3 踏み面
4 蹴上げ面
5 段鼻
6 段鼻用蓄光部材
7 踏み面用蓄光体
8 蹴上げ面用蓄光体
9 溝(凹部)
6a 蓄光性組成物からなる塗膜
6b 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートまたはモルタルの成形体である階段ブロック本体の表面に、蓄光性組成物の硬化体を含む避難誘導用の蓄光体を設けてなる階段ブロックであって、前記蓄光性組成物は、(a)蓄光顔料の表面が高分子樹脂の皮膜によってコーティングされた蓄光粒子体と、(b)液体との接触によって膨潤する性質を有するハニカム構造の有機高分子であって、ポリグルタミン酸、または、長鎖型アミノ酸を化学反応によって高分子化及びハニカム構造化した物質である有機高分子と、(c)多孔質の無機粉体とが、ビヒクルに混合されてなる組成物であることを特徴とする避難誘導機能を有する階段ブロック。
【請求項2】
前記避難誘導用の蓄光体が、蓄光性組成物の硬化体からなる塗膜と基材とからなりかつ前記階段ブロック本体の踏み面上の段鼻に沿った溝の中に配設されている蓄光部材を含む、請求項1に記載の階段ブロック。
【請求項3】
上記蓄光部材の上面が、上記階段ブロック本体の踏み面よりも低い位置にある、請求項2に記載の階段ブロック。
【請求項4】
前記避難誘導用の蓄光体が、前記階段ブロック本体の踏み面の左右両端にて段鼻と垂直の方向に延びる踏み面用蓄光体、及び、前記階段ブロック本体の蹴上げ面の左右両端にて段鼻と垂直の方向に延びる蹴上げ面用蓄光体、のいずれか一方または両方を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の階段ブロック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−231569(P2011−231569A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104826(P2010−104826)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(300082335)太平洋プレコン工業株式会社 (14)