説明

還元末端にアルドン酸残基を有しα1→6グルコシド結合またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖の製造方法

【課題】本発明の目的は、α1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖類のヘミアセタール性水酸基を、安全性が高い微生物の菌体を用い、安全かつ容易に酸化することにより、対応する還元末端にアルドン酸を有するオリゴ糖を効率よく生産する方法を提供することである。
【解決手段】ヘミアセタール性水酸基を有し、且つα1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖類に、酢酸菌に属する微生物の菌体を接触させることにより、安全にかつ効率的に、対応する元末端にアルドン酸を有するオリゴ糖を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸菌に属する微生物の菌体を用いた還元末端にアルドン酸残基を有しα1→6グルコシド結合またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、還元末端にアルドン酸残基を有する二糖類であるラクトビオン酸はビフィズス菌選択増殖活性を有することや(特許文献1)、ミネラル吸収促進効果を有すること(特許文献2)が知られている。一方、イソマルトビオン酸(α-D-glucopyranosyl-(1→6)-D-gluconic acid)、イソマルトトリオン酸(α-D-glucopyranosyl-(1→6)-α-D-glucopyranosyl-(1→6)-D-gluconic acid)、パノトリオン酸α-D-glucopyranosyl-(1→6)-α-D-glucopyranosyl-(1→4)-D-gluconic acid)、ゲンチオビオン酸(β-D-glucopyranosyl-(1→6)-D-gluconic acid)などの、還元末端にアルドン酸残基をもち1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖類も知られており、食品、医薬、香粧品、飼料等の分野で使用される添加剤として有用であることが分かっている。
【0003】
イソマルトビオン酸などの、還元末端にアルドン酸残基をもちα1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖を得るための具体的な方法としては、ヘミアセタール性水酸基を有するオリゴ糖を臭化ナトリウムとともに電気印加する方法や、臭素水(臭化水素酸)を用いた化学的酸化法などが知られている。また、シュードモナス属に属する微生物の菌体を用いることにより、ラクトースやマルトースなどの二糖類を酸化して得られることが報告されており(非特許文献1)、更に、シュードモナス・ティートレンスの休止菌体を用いることにより、イソマルトースよりイソマルトビオン酸を生産できることも報告されている(非特許文献2)。
【0004】
しかしながら、化学合成によって得られた、あるいは、病原菌であるシュードモナス属に属する微生物の菌体により調製された、還元末端にアルドン酸残基をもちα1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖は、食品や飼料用途に使用することができないものであった。
【0005】
一方、糖質を酸化する菌として知られているアセトバクター(Acetobacter)属、グルコノバクター(Gluconobacter)属およびグルコンアセトバクター(Gluconacetobacter)属などに属する微生物の菌体である酢酸菌は、食酢やナタデココ等、食品生産に広く使用されていることから、食品や飼料用途の還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖の生産に適していると考えられる。しかしながら、これら酢酸菌類は、単糖類を比較的効率よく酸化することができるものの、ラクトースやマルトース等の二糖類を酸化することが困難であることが知られている。または、酸化したとしても、酸化されうる基質としてはβ1→4グルコシド結合を有する二糖類のみが知られている。さらに、その反応効率(反応速度)はグルコースの10%程度以下と、低いものであることが報告されている(非特許文献3、4)。
【0006】
また、酢酸菌を用いてラクトースなどの二糖類のヘミアセタール性水酸基を酸化させることにより、ラクトビオン酸をはじめとする還元末端にアルドン酸残基を有する二糖類を生成する方法が知られている(例えば、特許文献3、4参照)。これらの方法で調製された還元末端にアルドン酸残基を有する二糖類は、酢酸菌を用いて生成されているため、食品や飼料用途への使用に適している。
【0007】
しかしながら、特許文献3および4の場合は、生成可能な還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖としては、α1→4またはβ1→4グルコシド結合を有する、ラクトビオン酸、セロビオン酸、マルトビオン酸、マルトトリオン酸、マルトテトラオン酸、マルトペンタオン酸、メリビオン酸のみしか記載されていない。さらに、従来、還元末端にアルドン酸残基を有しα1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖の、酢酸菌を用いた製造に関する報告は一切ない。α1→4またはβ1→4グルコシド結合を有するオリゴ糖と、α1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖では、立体構造が大きく異なり、それに伴って酵素による反応性も大きく相違する。そのため、酢酸菌が、α1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖のヘミアセタール性水酸基を酸化できるかについては、全く類推できないのが現状である。
【0008】
このように、安全性の高い微生物を利用して、還元末端にアルドン酸残基を有しα1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖を効率よく製造する技術の開発が望まれているものの、その具体的手法については従来技術からは見当すらできていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3559063号公報
【特許文献2】特許第3501237号公報
【特許文献3】特開2007−28917号公報
【特許文献4】特開2008−173065号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Agric. Biol. Chem. 44(7), 1505-1512頁 (1980)
【非特許文献2】Journal of Bacteriol. Vol99, 623頁 (1969)
【非特許文献3】Agric. Biol. Chem. 45(4), 851-861頁 (1981)
【非特許文献4】J. Dairy Sci. 92, 25-34頁 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明の目的は、これらの問題に鑑み、α1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖類のヘミアセタール性水酸基を、安全性が高い微生物の菌体を用い、安全かつ容易に酸化することにより、還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖を効率よく生産する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ヘミアセタール性水酸基を有し、且つα1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖類に、安全性が担保された菌体である酢酸菌に属する微生物の菌体を接触させることにより、安全にかつ効率的に、還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖を製造できることを見出した。
【0013】
さらに、従来技術からは、特許文献3および4の実施例にて挙げられている糖の中でも、ラクトースは、酢酸菌に属する微生物の菌体により、最も効率的に酸化されるオリゴ糖類のひとつであると考えられている。本発明者らは、このラクトースに対しての酢酸菌の作用と、イソマルトースおよびゲンチオビオースに対しての酢酸菌の作用の比較を行った。その結果、イソマルトースおよびゲンチオビオースの酸化反応効率は、ラクトースの酸化反応効率の15〜240倍以上であることがわかった。そして、イソマルトビオン酸およびゲンチオビオン酸は、ラクトビオン酸をはじめ、特許文献3および4に記載されているどの糖よりも、酢酸菌に属する微生物の菌体により、効率よく生産可能であることを見出した。
【0014】
本発明は、これらの知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
(1)ヘミアセタール性水酸基を有し、且つα1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖類に、酢酸菌に属する微生物の菌体を接触させ、該オリゴ糖類のヘミアセタール性水酸基を酸化することを特徴とする、還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖の製造方法。
(2)酢酸菌に属する微生物が、アセトバクター属、グルコノバクター属またはグルコンアセトバクター属に属する微生物である、(1)の製造方法。
(3)前記オリゴ糖に対する前記菌体の接触が、D-グルコース濃度が3質量%以下の条件下で行われる、(1)または(2)の製造方法。
(4)前記オリゴ糖類が、イソマルトースおよび/またはイソマルトトリオースである、(1)〜(3)いずれかの製造方法。
(5)前記オリゴ糖類が、イソマルトース、イソマルトトリオース、およびイソマルトテトラオース、イソマルトペンタオースよりなる群から選択される2種以上を含有するイソマルトオリゴ糖である、(1)〜(3)いずれかの製造方法。
(6)前記オリゴ糖類が、ゲンチオビオースおよび/またはゲンチオトリオースである、(1)〜(3)いずれかの製造方法。
(7)前記オリゴ糖類が、パノースである、(1)〜(3)いずれかの製造方法。
(8)ヘミアセタール性水酸基を有し、且つα1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖類と、エタノールを含有する発酵原料に、酢酸菌を添加して酢酸発酵を行うことにより得られることを特徴とする、還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖を含有する醸造酢。
(9)ヘミアセタール性水酸基を有し、且つα1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖類と、エタノールを含有する発酵原料に、酢酸菌を添加して酢酸発酵を行うことを特徴とする、還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖を含有する醸造酢の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、α1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖類に、古くから食品製造に使用され安全性の担保された酢酸菌に属する微生物の菌体を用いることにより、還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖を安全にかつ効率よく製造することができる。
【0016】
さらに、原料として用いるα1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖類に対して、酢酸菌に属する微生物の菌体を接触させる際に、D-グルコース濃度を、十分に低減させた場合には、還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖の生成効率を飛躍的に増大させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】イソマルトース、イソマルトトリオース、パノース、ゲンチビオースおよびゲンチトリオースが、ヘミアセタール性水酸基が酸化されることにより、それぞれ、イソマルトビオン酸、イソマルトトリオン酸、パノトリオン酸、ゲンチオビオン酸およびゲンチオトリオン酸が生成されることを示す図である。
【図2】実施例3において、アセトバクター・オリエンタリスFERM P-21150を用いた反応液をTLCに供して、イソマルトビオン酸およびラクトビオン酸の生成の有無を確認した結果である。
【図3】実施例7において、ルコノバクター・セリヌスNBRC3267を用いた反応液をTLCに供して、パノトリオン酸、イソマルトビオン酸およびラクトビオン酸の生成の有無を確認した結果である。
【図4】実施例5において、酢酸菌の菌体の調製において得られたグルコノバクター・フラテウリ IFO3285の反応液を、質量分析計で分析した結果である。
【図5】実施例12において、各グルコース濃度の存在下、グルコノバクター・フラテウリIFO3285をイソマルトース接触させた場合に、生成するイソマルトビオン酸量を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖の製造方法は、ヘミアセタール性水酸基を有し、且つα1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖類に、酢酸菌に属する微生物の菌体を接触させ、該オリゴ糖類のヘミアセタール性水酸基を酸化することを特徴とする。以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下、本明細書において、「ヘミアセタール性水酸基を有し、且つα1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖類」を「原料オリゴ糖類」と略記し、「還元末端にアルドン酸残基を有し、且つα1→6グルコシド結合またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖」を「目的オリゴ糖」と略記することもある。
【0019】
原料オリゴ糖類及び目的オリゴ糖
本発明においては、原料として、ヘミアセタール性水酸基を有し、且つα1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖類(原料オリゴ糖類)が用いられる。該原料オリゴ糖類を構成する単糖の数(モノマー数)については、特に制限されないが、例えば2〜5、好ましくは2〜3が挙げられる。α1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖類としては、例えば、イソマルトース、イソマルトトリオース、イソマルトテトラオース、イソマルトペンタオース、イソマルトオリゴ糖、パノースなどが挙げられる。β1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖類としては、例えば、ゲンチオビオース、ゲンチオトリオースなどが挙げられる。なお、パノースは、D−グルコースの3分子が、α1→4グルコシド結合およびα1→6グルコシド結合1個ずつで結合した三糖類である。これらの原料オリゴ糖類の中でも、一層効率的に目的オリゴ糖を製造するという観点から、好ましくは、イソマルトース、ゲンチオビオースが挙げられる。これらのオリゴ糖類は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
ここで、イソマルトオリゴ糖とは、イソマルトース、イソマルトトリオースおよびイソマルトテトラオース、イソマルトペンタオースから選択される2種以上を成分として含むものであり、それらより鎖長の長いイソマルトオリゴ糖が含まれていてもよい。該イソマルトオリゴ糖を用いることにより生産される目的オリゴ糖は、該イソマルトオリゴ糖に対応する還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖であり、イソマルトビオン酸、イソマルトトリオン酸、およびイソマルトテトラオン酸、イソマルトペンタオン酸から選ばれる2種以上を含有するものである。なお、原料となるイソマルトオリゴ糖の生産方法は、α-グルコシダーゼの転移反応、デキストリン・デキストラナーゼでの加水分解反応、または、デキストラン・スクラーゼによる転移反応などがあるが、これらの調製方法に限定されるものではない。
【0021】
本発明では、原料として使用される原料オリゴ糖類のヘミアセタール水酸基が酸化され、該ヘミアセタール水酸基が結合している炭素原子がカルボキシル基に変換されて、該原料オリゴ糖類に対応する目的オリゴ糖が生成する。具体的には、本発明によって、図1にて示されるように、例えば、イソマルトース、イソマルトトリオース、イソマルトオリゴ糖、パノースまたはゲンチオビオースに代表されるα1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖類のヘミアセタール性水酸基が酸化されることにより、それぞれイソマルトビオン酸、イソマルトトリオン酸、イソマルトオリゴアルドン酸、パノトリオン酸またはゲンチオビオン酸を生成することができる。
【0022】
本発明によって、酢酸菌の作用を受けて、前記原料オリゴ糖類から目的オリゴ糖が遊離の状態で生成するが、生成した目的オリゴ糖のアルドン酸残基は、反応条件によっては、塩の形態になったり、カルボキシル基と水酸基が脱水縮合してラクトンの形態になることもある。即ち、本発明によって製造される目的オリゴ糖には、イソマルトビオン酸、イソマルトトリオン酸、イソマルトオリゴアルドン酸、パノトリオン酸、ゲンチオビオン酸などの遊離の還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖のみならず、イソマルトビオン酸塩、イソマルトトリオン酸塩、イソマルトオリゴアルドン酸塩、パノトリオン酸塩、ゲンチオビオン酸塩などの還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖の塩、またはイソマルトビオノラクトン、イソマルトトリオノラクトン、イソマルトオリゴアルドノラクトン、パノトリオノラクトン、ゲンチオビオノラクトンなどのラクトンが含まれ得る。
【0023】
酢酸菌に属する微生物の菌体
本発明においては、酢酸菌に属する微生物の菌体を用いることを必須とする。なお、従来技術においては、酢酸菌に属する微生物の菌体が、α1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖類(原料オリゴ糖類)を酸化させることについては知られていなかった。酢酸菌に属する微生物の菌体としては、例えば、アセトバクター属、グルコノバクター属、グルコンアセトバクター属、アディシフィラム属、アシドモナム属に属する微生物の菌体や、該微生物の突然変異体及び変異株などが挙げられる。
【0024】
アセトバクター属に属する微生物としては、具体的には、アセトバクター・パステリアヌス(Acetobacter pasteurianus)、アセトバクター・アセチ(Acetobacter aceti)、アセトバクター・オリエンタリス(Acetobacter orientalis)、アセトバクター・インドネシエンシス(Acetobacter indonesiensis)、アセトバクター・シンビノゲンシス(Acetobacter cibinongensis)などが挙げられる。これらのアセトバクター属のなかでも、好ましくはアセトバクター・パステリアヌス、アセトバクター・アセチ、アセトバクター・インドネシエンシスが挙げられる。
【0025】
グルコノバクター属に属する微生物としては、具体的には、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydance)、グルコノバクター・スファエリカス(Gluconobacter sphaericus)、グルコノバクター・フラテウリ(Gluconobacter frateurii)、グルコノバクター・セリヌス(Gluconobacter cerinus)、グルコノバクター・アサイ(Gluconobacter asaii)、グルコノバクター・タイランディカス(Gluconobacter thailandicus)、グルコノバクター・ロセウス(Gluconobacter roseus)、グルコノバクター・アルビダズ(Gluconobacter albidus)などが挙げられる。これらのグルコノバクター属のなかでも、好ましくは、グルコノバクター・オキシダンス、グルコノバクター・スファエリカス、グルコノバクター・フラテウリ、グルコノバクター・アサイ、グルコノバクター・セリヌス、グルコノバクター・アルビダズ;更に好ましくはグルコノバクター・オキシダンス、グルコノバクター・スファエリカス、グルコノバクター・アサイが挙げられる。
【0026】
グルコンアセトバクター属に属する微生物としては、具体的には、グルコンアセトバクター・キシリヌス(Gluconacetobacter xylinus)、グルコンアセトバクター・ハンセニ(Gluconacetobacter hansenii)、グルコンアセトバクター・リクエファシエンス(Gluconacetobacter liquefacience)などが挙げられる。これらのグルコンアセトバクター属のなかでも、好ましくは、グルコンアセトバクター・ハンセニ、グルコンアセトバクター・キシリヌスが挙げられる。
【0027】
アディシフィラム属に属する微生物としては、具体的には、アディシフィラム・アングスタム(Acidiphilium angustum)、アディシフィラム・オルガノボラム(Acidiphilium organovorum)、アディシフィラム・クリプタム(Acidiphilium cryptum)、アディシフィラム・ルブラム(Acidiphilium rubrum)、アディシフィラム・マルチボラム(Acidiphilium multivorum)などが挙げられる。
【0028】
アシドモナム属に属する微生物としては、具体的には、アシドモナス・メタノリカス(Acidomonas methanolicus)などが挙げられる。
【0029】
これらの酢酸菌に属する微生物のなかでも、目的オリゴ糖を一層効率的に製造させるという観点から、好ましくはアセトバクター属、グルコノバクター属、グルコンアセトバクター属;更に好ましくはグルコノバクター属、グルコンアセトバクター属;より好ましくはグルコノバクター・オキシダンス、グルコノバクター・スファエリカス、グルコノバクター・フラテウリ、グルコノバクター・アサイ、グルコノバクター・フラテウリ、グルコノバクター・セリヌス、グルコンアセトバクター・ハンセニ、グルコンアセトバクター・キシリヌス;特に好ましくはグルコノバクター・オキシダンス、グルコノバクター・スファエリカス、グルコノバクター・アサイ、グルコノバクター・セリヌス、グルコンアセトバクター・ハンセニ、グルコンアセトバクター・キシリヌスが挙げられる。
【0030】
これらの酢酸菌に属する微生物は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
上記酢酸菌に属する微生物の菌体を得るための菌株としては、自然界および酢酸菌を使用する食品やその生産現場から分離した酢酸菌を用いることができる。また、東京大学・分子細胞生物学研究所、独立行政法人製品評価技術基盤機構や独立行政法人・理化学研究所 バイオリソースセンターなどの様に、いずれの人の要求に対しても分譲できるような、公的な寄託機関によって保存されている菌株を使用することもできる。
【0032】
グルコノバクター属の属する微生物の内、公的な寄託機関によって保存されている菌株としては、例えば、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydance)IFO 3292、グルコノバクター・オキシダンスIFO 3293、グルコノバクター・オキシダンスIFO 3189、グルコノバクター・オキシダンスIFO 3244、グルコノバクター・オキシダンスIFO 3294、グルコノバクター・オキシダンスIFO 3462、グルコノバクター・オキシダンスIFO 3130、グルコノバクター・オキシダンスNBRC 3287、グルコノバクター・スファエリカス(Gluconobacter sphaericus) NBRC 12467、グルコノバクター・フラテウリ(Gluconobacter frateurii)IFO 3285、グルコノバクター・フラテウリNBRC 3171、グルコノバクター・セリヌス(Gluconobacter cerinus)NBRC 3267、グルコノバクター・セリヌIAM 1829、グルコノバクター・アサイ(Gluconobacter asaii)IAM 14721、グルコノバクター・タイランディカス(Gluconobacter thailandicus)NBRC 3256、グルコノバクター・ロセウス(Gluconobacter roseus)NBRC 3990、グルコノバクター・アルビダズ(Gluconobacter albidus)NBRC 3250などが挙げられる。これらの菌株のなかでも、好ましくは、グルコノバクター・オキシダンス IFO 3292、グルコノバクター・オキシダンス IFO 3244、グルコノバクター・スファエリカス NBRC 12467、グルコノバクター・アサイ IAM 14721が挙げられる。
【0033】
アセトバクター属の内、公的な寄託機関によって保存されている菌株としては、例えば、アセトバクター パステリアヌス(Acetobacter pasteurianus) NBRC 3283、アセトバクター・アセチ(Acetobacter aceti) NBRC 3281、アセトバクター・オリエンタリス(Acetobacter orientalis) KYG-22( FERM P-21150)、アセトバクター・インドネシエンシス(Acetobacter indonesiensis)NBRC 16471、アセトバクター・シンビノゲンシス(Acetobacter cibinongensis)NBRC16605などが挙げられる。これらの菌株のなかでも、好ましくは、アセトバクター パステリアヌスNBRC 3283、アセトバクター・アセチNBRC 3281、アセトバクター・インドネシエンシスNBRC 16471が挙げられる。
【0034】
グルコンアセトバクター属の内、公的な寄託機関によって保存されている菌株としては、例えば、グルコンアセトバクター・キシリヌス(Gluconacetobacter xylinus) NBRC 3288、グルコンアセトバクター・キシリヌスNBRC 13693、グルコンアセトバクター・ハンセニ(Gluconacetobacter hansenii)NBRC 14816、グルコンアセトバクター・リクエファシエンス(Gluconacetobacter liquefacience)IAM 1836などが挙げられる。これらの菌株のなかでも、好ましくは、グルコンアセトバクター・ハンセニ NBRC 14816、グルコンアセトバクター・キシリヌス NBRC 3288、グルコンアセトバクター・キシリヌスNBRC 13693が挙げられる。
【0035】
なお、酢酸菌に属する微生物により、ヘミアセタール性水酸基を酸化する際には、該微生物の菌体が作用する環境中に、一定濃度以上のD-グルコースが含有されている場合は、目的オリゴ糖の生成を阻害し、生成反応が遅延するという問題を引き起こす場合があることが、本発明者よって明らかにされている。
【0036】
これを防いで効率的に目的オリゴ糖を生成させるためには、酢酸菌に属する微生物の菌体を作用させる環境中のD-グルコースを除去、または低減させることが好ましい。詳しくは、後述する。また、D-グルコースが混在する、またはD-グルコースが混在する惧れがある環境中で、前記原料オリゴ糖に酢酸菌に属する微生物を接触させる場合には、該微生物として、D-グルコースの存在下でも原料オリゴ糖の還元末端の酸化が可能な酢酸菌を選択して使用することが望ましい。このような酢酸菌としては、例えば、グルコノバクター属、グルコンアセトバクター属;好ましくはグルコノバクター・アサイ、グルコノバクター・フラテウリ、グルコンアセトバクター・キシリヌス;更に好ましくはグルコノバクター・アサイが挙げられる。このような酢酸菌の具体例としては、グルコノバクター・アサイIAM 14721、グルコノバクター・フラテウリIFO 3285、グルコンアセトバクター・キシリヌスNBRC 3288;好ましくはグルコノバクター・アサイIAM 14721が挙げられる。
【0037】
反応条件
本発明の還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖の製造方法は、前記原料オリゴ糖類に対して、前記酢酸菌に属する微生物の菌体を接触させることにより行われる。前記オリゴ糖が前記酢酸菌に属する微生物の菌体と接触すると、該原料オリゴ糖類のヘミアセタール性水酸基が酸化され、目的物である還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖(目的オリゴ糖)が生成する。
【0038】
前記原料オリゴ糖類に対して、前記酢酸菌に属する微生物の菌体を接触させる方法については、特に制限されないが、例えば、休止菌体法、発酵生産法が挙げられる。以下、休止菌体法と発酵生産法に分けて、その具体的手法について説明する。
【0039】
<休止菌体法>
休止菌体法は、原料である前記原料オリゴ糖類に酢酸菌の菌体を接触させ、菌体中または細胞膜上の酵素によってそれぞれの原料オリゴ糖類のヘミアセタール性水酸基を酸化し、それぞれ対応する目的オリゴ糖を生成する方法であり、酢酸菌に属する微生物の菌体の培養と、ヘミアセタール性水酸基の酸化を別々に行なうものである。
【0040】
休止菌体法で用いられる酢酸菌に属する微生物の菌体としては、酢酸菌の生菌体そのまま、あるいは菌体処理物又はそれらを担体に固定化したものが挙げられる。
【0041】
酢酸菌の菌体の培養について、以下に述べる。
培養基としては、通常の微生物と同様に培養しうるものであれば、特に限定されず、微生物が通常資化しうる炭素源、窒素源、ビタミン、ミネラルなどの成分を適宜配合したものが用いられる。炭素源としては、グルコース、果糖などの単糖類、ショ糖、麦芽糖などのオリゴ糖類、多糖類、糖アルコール、グリセロールなどが挙げられ、一般的な炭水化物としては、トウモロコシ澱粉、モルトなどがあり、さらには、オリーブ油、コーン油などの植物油も炭素源に含められる。また、CSL(コーンスティーブリカー)や、大豆フレークを用いてもよい。その他、アルコール、有機酸、アルカンの様な炭素化合物でもよい。
【0042】
窒素源としては、無機、有機どちらの窒素も利用できる。無機態の窒素としては、通常、アンモニア塩、硝酸体などが用いられる。有機窒素は、通常、アミノ酸、たんぱく質または尿素の形で与えられる。その他にも、天然の有機窒素複合体として、CSL、大豆や、大豆フレーク、ピーナッツミール、綿花ミール、ディスティラーズソルブル(Distillers' solubles)、カゼイン水解物、屠殺場廃棄物、魚粉、酵母エキスなどを使用することもできる。
【0043】
ビタミンに関して、天然の炭素源、窒素源を用いることで微生物の生育にとって必要なビタミン類は十分に補給できるが、パントテン酸カルシウムや、ビオチン、ビタミンB1などを必要に応じて添加してもよい。
【0044】
ミネラルとしては、マグネシウム、カリウム、カルシウム、コバルト、銅、鉄、マンガン、モリブデン、亜鉛などが挙げられる。
【0045】
その他の成分として、pHのコントロールのために、培養液中に炭酸カルシウムを添加したり、緩衝作用を持たせるために、リン酸塩などを加えたりしてもよい。また、培養系のpHを制御するために、アンモニアや、苛性ソーダ、塩酸、硫酸などを添加してよい。
【0046】
培養条件は、使用する菌株の種類にもよるが、一般的に、20〜35℃の温度で、pH4〜8の条件が好ましい。pHを調整するためには、塩酸、水酸化ナトリウム水溶液や炭酸カルシウムなどが用いられる。
【0047】
休止菌体法における培養方法としては静置培養、振とう培養、深部通気撹拌培養などが挙げられる。なかでも、酢酸菌の菌体を大量に培養しうる観点から、深部通気撹拌培養が好ましい。深部通気撹拌培養としては、回分法、逐次添加培養法、連続培養法が挙げられる。このような条件で培養を行うと、培養から15〜168時間で十分な量の生菌体が得られる。
【0048】
上記のようにして得られた酢酸菌の生菌体を、回収、洗浄した後、そのまま用いることができる。
【0049】
酢酸菌の菌体を、菌体処理物として用いることもできる。すなわち、アセトン、第四アンモニウム化合物、硫酸ラウリルソーダ、Tweenまたは、微生物の細胞壁の特異的な結合を分解する酵素などで処理した菌体;凍結した菌体を減圧下で水分を昇華することで得られる凍結乾燥菌体;ホモジナイザーやガラスビーズを用い、物理的に破砕した菌体破砕物や菌体膜画分;さらには菌体破砕物の上清である無細胞抽出物やこれらから酵素を抽出した粗酵素液などを用いることができる。
【0050】
酢酸菌の菌体あるいは処理物を担体に固定化するには、セルロース担体、セラミック担体、ガラスビーズ担体のような物質に吸着させる方法;格子構造を持つゲル状物質(たとえば、寒天、アルギン酸カルシウム、カラギーナンや、公知のポリマー)に包括する方法などが挙げられる。これらの方法により、糖酸化活性を有する酢酸菌の菌体や菌体処理物を繰り返し使用することができる。
【0051】
前記原料オリゴ糖類を反応溶媒に溶解し、上記のように培養して得られた酢酸菌に属する微生物の菌体を加え、必要により反応温度、反応液のpHを制御しながら反応させて、該オリゴ糖類のヘミアセタール性水酸基を酸化し、それぞれ対応する目的オリゴ糖を生成させる。
【0052】
休止菌体法による目的オリゴ糖の生成は、前記原料オリゴ糖類のヘミアセタール性水酸基の酸化反応が可能な溶媒中で行われる。休止菌体法に使用可能な溶媒としては、水、緩衝液等の水性溶媒が挙げられる。
【0053】
また、休止菌体法により目的オリゴ糖を生成させる際のpH条件については、使用するオリゴ糖や菌体の種類等に応じて適宜設定されるが、例えばpH3〜9、好ましくは4〜6が挙げられる。
【0054】
休止菌体法により目的オリゴ糖を生成させる際の反応条件については、使用する前記原料オリゴ糖類や菌体の種類等に応じて適宜設定すればよい。該反応条件として、例えば、前記原料オリゴ糖が、0.5質量%以上が好ましく、10〜60質量%がより好ましく、さら好ましくは20〜50質量%であり、前記酢酸菌の菌体は、OD660nm換算で、0.1以上が好ましく、1〜500がより好ましく、10〜100がさらに好ましい条件で、通常20〜60℃、好ましくは25〜45℃で、3〜120時間、好ましくは12〜96時間、さらに好ましくは24〜72時間が挙げられる。
【0055】
上述のように、酢酸菌の菌体を用いてヘミアセタール性水酸基を酸化する際には、反応効率の観点から、これらの反応液中にD−グルコースを含まない、または含んでもできるだけ少量に抑えることが望ましい。反応液中にD−グルコースなどの単糖類が混在すると、これらの単糖類が酸化反応を阻害し、反応速度が遅くなることがあるからである。
【0056】
特に、食品として流通しているイソマルトオリゴ糖は、グルコースを40質量%程度含む場合が多い。上述のように、グルコースの存在はイソマルトオリゴ糖の酸化反応を阻害することから、グルコースを含まない、もしくはグルコース含量の少ないイソマルトオリゴ糖を選択し、基質(原料オリゴ糖類)として使用することが好ましい。
【0057】
上記の観点から、前記原料オリゴ糖に対する前記酢酸菌の菌体の接触は、D−グルコース濃度が3質量%以下の環境下で(即ち、反応液中のD−グルコース濃度が3質量%以下)行われることが好ましく、D-グルコースが含まれない環境下で行われることが最も好ましい。
【0058】
原料に含まれるD-グルコースを除去したり低減させたりするためには、該原料にクロマトグラフィー等の物理的処理を行って精製してもよいし、あるいは酵母、酢酸菌、乳酸菌などの微生物を接触させることでD-グルコースのみを資化させ、その濃度を低減させてもよい。
【0059】
さらに、グルコースを除去する方法の他に、予めD-グルコース含量が低減されている原料を使用してもよい。例えば、前記原料オリゴ糖類としてイソマルトオリゴ糖を使用する場合であれば、デキストランのデキストリン・デキストラナーゼによる加水分解、またはデキストラン・スクラーゼによる転移反応などの、グルコースが生成しにくい条件で調製したイソマルトオリゴ糖を用いればよい。
【0060】
なお、D-グルコースの除去・低減の工程は、ヘミアセタール性水酸基の酸化反応前に、あらかじめ行ってもよいし、酸化反応と同時に行ってもよい。
【0061】
また、前記酢酸菌の菌体による前記原料オリゴ糖類の酸化は、アルコール存在下(例えば、7質量%程度以下のエタノール濃度の条件下)でも進行するので、アルコール発酵後に得られた発酵物に前記原料オリゴ糖類と前記酢酸菌の菌体を添加して目的オリゴ糖の生成を行うことができ、またアルコール発酵前またはアルコール発酵中に前記原料オリゴ糖類と前記酢酸菌の菌体を添加することにより、アルコール発酵の進行と同時に目的オリゴ糖を生成させることもできる。斯してアルコール発酵物中で目的オリゴ糖を生成させることにより、目的オリゴ糖含有発酵物を製造することができる。このように目的オリゴ糖を含有させ得るアルコール発酵物としては、例えば、ビール、焼酎、日本酒、ワイン、ウイスキーなどが挙げられる。
【0062】
<発酵生産法>
発酵生産法について、以下に述べる。
発酵生産法は、酸化反応に用いる微生物である酢酸菌の培養を行いながら、同時に酸化を行うことで、目的オリゴ糖を製造する方法である。発酵生産法を用いると、培養時にD-グルコースが、酢酸菌の作用により代謝分解されるため、D-グルコースの低減・除去と、酸化触媒として働く酢酸菌の菌体の調製を、一段階、同一培養槽で行うことが可能である。その結果、製造工程の簡略化・効率化が可能である。
【0063】
また、発酵生産法は、炭素源、窒素源などの栄養源を添加した培養基中で還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖の生成が行われる。該培養基に添加される栄養源の種類等については、前記休止菌体法において酢酸菌の菌体の培養に使用されるものと同様である。発酵生産法で使用される培養基は、液状、固体状のいずれであってもよいが、還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖を効率的に製造するという観点から、好ましくは液状が挙げられる。
【0064】
発酵生産法は、前記原料オリゴ糖類を添加し培養基に、前記酢酸菌の種菌又は前培養物の適量を添加して培養することにより行われる。
【0065】
発酵生産法において、培養基に添加される前記原料オリゴ糖類の濃度は、特に制限されないが、生産性などを考慮すると、通常0.5質量%以上、好ましくは10〜60質量%、更に好ましくは20〜50質量%が挙げられる。
【0066】
発酵生産法において、その培養条件としては、特に限定されないが、好気的に反応でき目的オリゴ糖の収量を上げる観点から、静置、振とう、深部通気撹拌が好ましい。発酵生産法において、その反応時間に特に制限はないが、通常6〜24時間、好ましくは6〜12時間で反応が終了する条件を選択することが好ましい。また、培養時のpHとしては、用いられる酢酸菌の酵素に適するpHを適宜選択すればよいが、一般的には、pH4〜8の範囲であることが好ましく、特に5〜7が好ましい。また、培養温度は酢酸菌の酵素が失活しない条件であれば特に制限されないが、20〜60℃が好ましく、25〜45℃がより好ましい。このような条件で反応を行うと、6〜24時間で十分な量の生産物が得られる。
【0067】
また、本発明で使用される酢酸菌は、酢酸発酵を行うこともできることに加えて、エタノール存在下でも、目的オリゴ糖を生成させることできるので、醸造酢の製造工程に、本発明の還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖の製造方法(発酵生産法)を組み込むことにより、目的オリゴ糖を含有する醸造酢を製造することが可能になる。すなわち、エタノール及び前記原料オリゴ糖類を含有する発酵原料に酢酸菌を添加して酢酸発酵を行うことにより、目的オリゴ糖含有醸造酢を製造することができる。
【0068】
前記発酵原料におけるエタノールの含有量は、特に制限されないが、例えば、1〜10質量%、好ましくは3〜7質量%が挙げられる。
【0069】
また、前記発酵原料における前記原料オリゴ糖類の含有量は、特に制限されないが、例えば、0.5質量%以上、好ましくは10〜60質量%、更に好ましくは20〜50質量%が挙げられる。醸造酢は、通常、糖化工程、アルコール発酵工程、酢酸発酵工程を経て製造されるので、目的オリゴ糖含有醸造酢を製造する場合、糖化工程の前、糖化工程中、アルコール発酵工程の前、アルコール発酵工程中、酢酸発酵工程の前、酢酸発酵工程中のいずれかのタイミングで、前記原料オリゴ糖類を原料中に添加すればよい。
【0070】
また、該酢酸発酵の条件などについては、通常の醸造酢の製造で採用されている酢酸発酵と同様に設定すればよい。
【0071】
このように目的オリゴ糖を含有させ得る醸造酢としては、例えば、各種の穀物酢や果実酢が挙げられる。また、該醸造酢中の目的オリゴ糖の濃度については、発酵原料中の前記原料オリゴ糖類の濃度、酢酸発酵の条件などにより変わり得るため、一律に規定することはできないが、例えば、0.25質量%以上、好ましくは1〜55質量%、更に好ましくは5〜45質量%が挙げられる。
【0072】
目的オリゴ糖の分離、回収
前記原料オリゴ糖類に前記酢酸菌の菌体を接触させることにより生成した目的オリゴ糖は、必要に応じて、分離、精製処理に供される。分離、回収は、公知の方法に従って行うことができる。具体的には、目的オリゴ糖の生成後に、必要に応じて、遠心分離、濾過等により、酢酸菌の菌体の除去工程に供し、更に必要に応じて、目的オリゴ糖を沈殿回収する方法、活性炭や多孔性有機樹脂粒子を用いた吸着クロマトグラフィー、ゲルろ過、イオン交換樹脂クロマトグラフィーなどの精製工程に供することにより、目的オリゴ糖が回収される。
【0073】
目的オリゴ糖の用途
本発明の製造方法により製造された還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖(目的オリゴ糖)は、医薬品、飲食品や、飼料として有用である。上記の目的オリゴ糖、なかでもイソマルトビオン酸を医薬品として用いる場合は、当該分野で常套的に用いられている賦形剤、潤沢剤、希釈剤、pH調節剤、防腐剤、甘味剤、芳香剤、乳化分散剤などを用いて錠剤、粉剤、水和剤、乳化剤の形態として、経口的にまたは非経口的に投与することができる。また、イソマルトビオン酸を飲食品や、飼料として用いる場合、そのままで、または他の飲食品や飼料に添加もしくは混合して使用することができる。
【0074】
また、醸造酢の製造工程に本発明の還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖の製造方法(発酵生産法)を組み込むことにより製造された目的オリゴ糖含有醸造酢は、目的オリゴ糖により機能性が高められているので、調味料や食品添加剤などとして有用である。
【実施例】
【0075】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中、%は、質量%を表す。
本発明の分析、同定方法について、以下に述べる。
【0076】
電気化学検出器付高速陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC-PAD)
実施例において、イソマルトビオン酸、イソマルトトリオン酸、パノトリオン酸およびゲンチオビオン酸、ラクトビオン酸の定量は、HPAEC-PADを用い以下の条件により行なった。イソマルトビオン酸、イソマルトトリオン酸、パノトリオン酸およびゲンチオビオン酸生成量はラクトビオン酸量から換算して表記した。
【0077】
(HPAEC-PAD分析条件)
システム:ダイオネックス DX−500(ダイオネックス社製)
カラム :Carbopac PA−1(ダイオネックス社製)
溶離液 :100mMの水酸化ナトリウムと1.0M酢酸ナトリウムを含む100mMの水酸化ナトリウムの直線的濃度勾配法
条件 :温度:35℃
流速 :1.0mL/分
検出器 :ダイオネックス モデル PADII 電気化学検出器 (ダイオネックス社製)
【0078】
実施例において、生成物の同定は、薄層クロマトグラフィー、質量分析計および核磁気共鳴装置を用い、下記の条件で行った。
【0079】
〔質量分析計〕
質量分析計 :API 2000 質量分析計(アプライドバイオシステム社製)
イオン化法 :ESI(Electoron−spray ionization)法
イオンスプレー電圧:5,000V
検出 :ネガティブイオンモード
【0080】
〔核磁気共鳴装置(NMR)〕
核磁気共鳴装置: AL-FT NMR装置(日本電子社製)
溶媒 : D2
【0081】
〔薄層クロマトグラフィー〕
プレート:シリカゲル60(メルク社製)
展開溶媒:酢酸エチル:酢酸:水=3:1:1またはピリジン:酢酸:酢酸エチル:水=5:5:1:3
発色 :硫酸:メタノール=1:1
【0082】
酢酸菌の菌体の調製−1
実施例1、2、4−6、8、10において、酢酸菌の菌体は以下に示す方法で調製した。試験管(18mm×200mm)に、ラクトース0.5質量%、D−グルコース0.5質量%、粉末酵母エキスD−3(日本製薬社製、和光コードNo.390−00531)0.5質量%、ポリペプトン(日本製薬社製、和光コードNo.394−00115)0.5質量%、硫酸マグネシウム・無水和物0.1質量%を含む培地A10mLを分注し、121℃で20分間殺菌した。その試験管に酢酸菌(財団法人発酵研究所、独立行政法人製品評価技術基盤機構や東京大学分子細胞生物学研究所などから入手)の一白金耳を植菌し、27℃で3日間振とう培養(240往復/分)した。その後、培養液を遠心分離することにより菌体を回収した。なお、培地AのpHは6.0−7.0とした。培地Aの組成を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
酢酸菌の菌体の調製−2
実施例3において、アセトバクター・オリエンタリスの菌体は以下に示す方法で調製した。試験管(18mm×200mm)に、下記組成の培地C10mlを分注し、121℃で20分間殺菌した。その試験管にアセトバクター・オリエンタリス FERM P-21150の一白金耳を植菌し、27℃、240往復/分で3日間振とう培養した(前培養)。次いで、500ml容の坂口フラスコに培地C100mlを入れ、これに前記で得られた前培養液1.0mlを添加し、27℃、120往復/分で3日間振とう培養した。培養後、遠心分離にて菌体を回収し、滅菌した生理食塩水で2回洗浄後、菌体(湿菌体)を回収した。
【0085】
【表2】

【0086】
酢酸菌の菌体の調製−3
実施例7において、グルコノバクター・セリヌスの菌体は以下に示す方法で調製した。試験管(18mm×200mm)に、前記組成の培地C10mlを分注し、121℃で20分間殺菌した。その試験管にグルコノバクター・セリヌス NBRC3267の一白金耳を植菌し、27℃、240往復/分で2日間振とう培養した(前培養)。次いで、500ml容の坂口フラスコに培地C100mlを入れ、これに前記で得られた前培養液1.0mlを添加し、27℃、120往復/分で2日間振とう培養した。培養後、遠心分離にて菌体を回収し、滅菌した生理食塩水で2回洗浄後、菌体(湿菌体)を回収した。
【0087】
酢酸菌の菌体の調製−4
実施例9、11、12において、各酢酸菌の菌体は以下に示す方法で調製した。試験管(18mm×200mm)に、前記組成の培地A10mlを分注し、121℃で20分間殺菌した。その試験管に酢酸菌(財団法人発酵研究所、独立行政法人製品評価技術基盤機構や東京大学分子細胞生物学研究所などから入手)の一白金耳を植菌し、27℃で3日間振とう培養(240往復/分)した(前培養)。次いで、別途、試験管(18mm×200mm)に前記組成の培地A10mLを入れ、これらに前記で得られた前培養液1.0mlを添加し、27℃、240往復/分で3日間振とう培養した。培養後、遠心分離にて菌体を回収し、滅菌した生理食塩水で2回洗浄後、菌体を回収した。
【0088】
イソマルトビオン酸、イソマルトトリオン酸、パノトリオン酸およびゲンチオビオン酸の同定
培養したアセトバクター・オリエンタリス FERM P−21150の培養液10mLから遠心分離により菌体を回収した。該菌体を、14mgの炭酸カルシウムを含む滅菌水4.5mlに懸濁した、さらに、基質として、それぞれ10%イソマルトース、10%イソマルトトリオース、10%パノース、10%ゲンチオビオースを0.5ml加え、27℃で3日間振とう(240往復/分)し、次いで、5分間煮沸した。この反応液を、弱イオン交換樹脂であるIRA−93ZU(オレガノ社製)(1N塩酸で平衡化)を充填したカラムに供し、生成物をカラムに吸着させた。該カラムを十分に脱イオン水で洗浄したのち、0−500mMの塩化ナトリウムの直線濃度勾配法で溶出し、それぞれイソマルトビオン酸、イソマルトトリオン酸、パノトリオン酸およびゲンチオビオン酸を精製した。精製したオリゴアルドン酸をTLC分析や質量分析に付することにより、それぞれイソマルトビオン酸、イソマルトトリオン酸、パノトリオン酸およびゲンチオビオン酸であることを確認した。
【0089】
得られたイソマルトース酸化生成物の核磁気共鳴分析結果(13C-および1H-NMR)から、炭素原子の帰属を行った。この結果から、イソマルトース酸化物がイソマルトビオン酸であることを確認した。イソマルトビオン酸のグルコース残基(C-1〜C-6)およびグルコン酸残基(C'-1〜C'-6)を、13C−NMR(D20, δ in ppm) 179.2(C'-1)、98.7(C-1)、74.7(C'-2)、73.7(C-3)、72.6(C'-4)、72.4(C−5)、72.2(C-2)、71.6(C'-3)、70.2(C-4)、70.0(C'-5)、68.7(C'-6)、61.1(C-6)と同定した。
【0090】
実施例1
〔様々な酢酸菌を用いたイソマルトビオン酸およびラクトビオン酸の生産〕
上記の「酢酸菌の菌体の調製−1」で得られたそれぞれの菌体(アセトバクター・アセチ NBRC3281、アセトバクター・パステリアヌス NBRC3283、アセトバクター・オリエンタリス FERM P-21150、グルコノバクター・オキシダンス IFO3292、グルコノバクター・オキシダンス IFO3293、グルコノバクター・オキシダンス IFO3189、グルコノバクター・オキシダンス IFO3244、グルコノバクター・オキシダンス IFO3294、グルコノバクター・オキシダンス IFO3462、グルコノバクター・スファエリカス NBRC12467、グルコノバクター・ロセウス NBRC3990、グルコノバクター・アサイ IAM14721、グルコノバクター・フラテウリ NBRC3171、グルコノバクター・フラテウリ IFO3285、グルコノバクター・タイランディカス NBRC3256、グルコノバクター・アルビダス NBRC3250、グルコノバクター・セリヌス NBRC3267、グルコンアセトバクター・ハンセニ NBRC14816、グルコンアセトバクター・キシリヌス NBRC3288、グルコンアセトバクター・リクエファシエンス IAM1836)の1/10量を、1.0mlの1%イソマルトース(東京化成社製、「Code No.I0231)、または1%ラクトース(和光純薬工業社製、試薬特級Code No.128-00095)を含む100mMの酢酸バッファー(pH5.5)に再懸濁し、240往復/分、27℃で反応させた。イソマルトビオン酸については24時間振とう後の、ラクトビオン酸については72時間振とう後の反応液中の生成量を、HPAEC-PADを用いてそれぞれ測定した。反応24時間後のイソマルトビオン酸生成量を表3に示す。この結果から、酢酸菌の菌体を使用することにより、イソマルトースを原料としてイソマルトビオン酸を製造できることが明らかとなった。
【0091】
【表3】

【0092】
なお、上述のうち一部の酢酸菌(アセトバクター・アセチ NBRC3281、アセトバクター・パステリアヌス NBRC3283、グルコノバクター・オキシダンス IFO3292、グルコノバクター・アサイ IAM14721、グルコノバクター・フラテウリ IFO3285、グルコノバクター・セリヌス NBRC3267、グルコンアセトバクター・ハンセニ NBRC14816、グルコンアセトバクター・キシリヌス NBRC3288)については反応24時間後のイソマルトビオン酸生成量と、反応72時間後のラクトビオン酸生成量との比較を行った。その結果を表4に示す。表4から明らかなように、酢酸菌によるイソマルトビオン酸の生成量は、同一条件下でのラクトビオン酸の生成量に比べて格段に高いことが分かった。
【0093】
【表4】

【0094】
さらに、上記の一部の酢酸菌において、反応72時間後のラクトビオン酸生成量から24時間当たりのラクトビオン酸生成量を計算し、反応24時間後のイソマルトビオン酸生成量と比較したところ、試験した酢酸菌は、ラクトビオン酸と比較すると、イソマルトビオン酸を15倍〜240倍以上の効率で生成することが分かった。その結果を表5に示す。すなわち、本酢酸菌を用いた単位時間当たりのイソマルトビオン酸の生成効率は、同一条件下でのラクトビオン酸の生成効率に比べて格段に優れていた。
【0095】
【表5】

【0096】
さらに、グルコノバクター属やグルコンアセトバクター属よりイソマルトビオン酸の生産量の少ないアセトバクター属において、菌体の調製時の培地Aを培地Bに代えて、上記の一部の酢酸菌を培養した。上記と同様の方法で1%イソマルトースの酸化を行うと、アセトバクター・アセチ NBRC3281では0.1g/L、アセトバクター・パステリアヌス NBRC3283では0.4g/Lだったイソマルトビオン酸生産量が、それぞれ1.8g/Lと4.4g/Lに増加した。つまり、培地中のグルコースをグリセリンに代え、グルコースの含有量を低減させると、生成効率が向上した。なお、培地Bの組成は表1に示す通りであり、そのpHは6.0−7.0とした。
【0097】
実施例2
〔様々な酢酸菌を用いたイソマルトビオン酸およびラクトビオン酸の生産〕
上記の「酢酸菌の菌体の調製−1」で得られたそれぞれの菌体(アセトバクター・オリエンタリス FERM P-21150、アセトバクター・インドネシエンシス NBRC16471、アセトバクター・シンビノンゲンシス NBRC16605、グルコノバクター・オキシダンス IFO3130、グルコノバクター・オキシダンス NBRC3287、グルコノバクター・オキシダンス IFO 3292、グルコノバクター・フラウテウリ IFO3171、グルコノバクター・セリヌ IAM1829、グルコノバクター・アルビダス NBRC3250、グルコノバクター・ロセウス NBRC 3990、グルコンアセトバクター・キシリヌス NBRC13693、グルコンアセトバクター・リウエファシエンス IAM1836)の1/50量を、1%イソマルトースまたは1%ラクトースを含む100mM酢酸バッファー(pH5.5)200μlに再懸濁し、240往復/分、27℃で反応させた。反応24時間後に、反応液を煮沸し、反応を停止させた。反応液をTLCプレート(シリカゲル60、メルク社製)にスポットし、酢酸エチル:酢酸:水=3:1:1の展開溶媒で展開させた。その後、TLCプレートを乾燥し、硫酸とメタノールの混合液(硫酸:メタノール=1:1)を噴霧し、150℃で加熱して発色させ、イソマルトビオン酸およびラクトビオン酸の生成の有無を目視により確認した。
【0098】
得られた結果を表6に示す。この結果からも、酢酸菌を使用することにより、イソマルトースからイソマルトビオン酸を生成できることが確認され、また、前記実施例1の場合と同様、イソマルトビオン酸の生成量は、同一条件下でのラクトビオン酸の生成量に比べて明らかに高いことが確認された。
【0099】
【表6】

【0100】
実施例3
〔アセトバクター・オリエンタリスを用いたイソマルトビオン酸およびラクトビオン酸の生産〕
1%イソマルトースまたは1%ラクトースを含む100mMの酢酸バッファー(pH5.5)1mlに、上記の「酢酸菌の菌体の調製−2」で上記培地Cを用いた方法で得られたアセトバクター・オリエンタリス FERM P-21150の菌体101.9mg(湿重量)を無菌的に添加し、240往復/分、27℃で24時間振とうし、反応を行った。反応開始から5、24、29および48時間後に反応液の一部をサンプリングした。サンプリングした反応液は、5分間の煮沸処理に供して反応を停止させた。その後、各反応液をTLCプレート(シリカゲル60、メルク社製)にスポットし、酢酸エチル:酢酸:水=3:1:1の展開溶媒で展開させた。その後、TLCプレートを乾燥し、硫酸とメタノールの混合液(硫酸:メタノール=1:1)を噴霧し、150℃で加熱して発色させ、イソマルトビオン酸およびラクトビオン酸の生成の有無を確認した。
【0101】
得られた結果を図2に示す。図2中、Isoはイソマルトース、IsoAはイソマルトビオン酸、Lacはラクトース、LacAはラクトビオン酸と推測されるスポットを示す。この結果からも、アセトバクター・オリエンタリスには、イソマルトースを酸化してイソマルトビオン酸を生成する作用があることが確認された。また、実施例1の結果と同様に、イソマルトビオン酸の生成量は、同一条件下でのラクトビオン酸の生成量に比べて明らかに高いことも確認された。
【0102】
実施例4
〔様々な酢酸菌を用いたイソマルトリオン酸の生産〕
上記の「酢酸菌の菌体の調製−1」で得られた一部の菌体の、それぞれ1/10量を、1.0mlの1%イソマルトトリオース(生化学工業社製、Code No.400473)を含む100mMの酢酸バッファー(pH5.5)に再懸濁し、240往復/分、27℃で24時間振とう後、反応液中のイソマルトトリオン酸をHPAEC-PADを用いて測定した。結果を表7に示す。この結果から、酢酸菌の菌体を使用することにより、イソマルトトリオースを原料としてイソマルトトリオン酸を製造できることが確認された。
【0103】
【表7】

【0104】
実施例5
〔様々な酢酸菌の菌体を接触させることによるイソマルトオリゴ糖混合物の酸化〕
上記の「酢酸菌の菌体の調製−1」で得られた一部の菌体の、それぞれ1/10量を、1.0mlの3%イソマルトオリゴ糖(和光純薬工業社製、生化学用試薬Code No.090-03485を含む100mMの酢酸バッファー(pH5.5)に再懸濁し、27℃で24時間振とう後、反応液中のイソマルトビオン酸およびイソマルトトリオン酸量をHPAEC-PADで定量した。結果を表8に示す。この結果から、酢酸菌の菌体は、イソマルトオリゴ糖に含まれるイソマルトースとイソマルトトリオースを酸化して、イソマルトビオン酸とイソマルトトリオン酸に変換できることが確認された。
【0105】
【表8】

【0106】
実施例6
〔様々な酢酸菌を用いたパノトリオン酸の生産〕
上記の「酢酸菌の菌体の調製−1」で得られた一部の菌体の、それぞれ1/10量を、1.0mlの1%パノース(林原生物化学研究所製、試薬)を含む100mMの酢酸バッファー(pH5.5)に再懸濁し、27℃で振とう反応を行った。反応72時間後の反応液中のパノトリオン酸の量をHPAEC-PADを用いて測定した。パノトリオン酸生成量を表9に示す。この結果から、酢酸菌の菌体は、パノースを酸化して、パノトリオン酸に変換できることが確認された。
【0107】
【表9】

【0108】
実施例7
〔グルコノバクター・セリヌスを用いた各種糖カルボン酸の生産〕
1%パノース、1%イソマルトース、または1%ラクトースを含む100mMの酢酸バッファー(pH5.5)0.5mlに、上記の「酢酸菌の菌体の調製−3」で得られたグルコノバクター・セリヌス NBRC3267の菌体8.6mg(湿重量)を無菌的に添加し、240往復/分、27℃で24時間振とうし、反応を行った。反応開始から8、24、48、72および92時間後に反応液の一部をサンプリングした。サンプリングした反応液は、5分間の煮沸処理に供して反応を停止させた。その後、各反応液をTLCプレート(シリカゲル60、メルク社製)にスポットし、酢酸エチル:酢酸:水=3:1:1の展開溶媒で展開させた。その後、TLCプレートを乾燥し、硫酸とメタノールの混合液(硫酸:メタノール=1:1)を噴霧し、150℃で加熱して発色させ、パノトリオン酸、イソマルトビオン酸およびラクトビオン酸の生成の有無を確認した。
【0109】
得られた結果を図3に示す。図3中、Paはパノース、PaAはパノトリオン酸、Isoはイソマルトース、IsoAはイソマルトビオン酸、Lacはラクトース、LacAはラクトビオン酸と推測されるスポットを示す。この結果からも、グルコノバクター・セリヌスには、パノース、イソマルトースなどのオリゴ糖を酸化してパノトリオン酸、イソマルトビオン酸などの糖カルボン酸を生成する作用があることが確認された。また、図3からは、パノトリオン酸とイソマルトビオン酸の生成量は、同一条件下でのラクトビオン酸の生成量に比べて明らかに高いことも確認された。
【0110】
実施例8
〔様々な酢酸菌を用いたゲンチオビオン酸の生産〕
上記の「酢酸菌の菌体の調製−1」で得られた一部の菌体の、それぞれ1/10量を、1.0mlの3%ゲンチオオリゴ糖(和光純薬工業社製、生化学用Code No.079-03791)を含む100mMの酢酸バッファー(pH5.5)に再懸濁し、27℃で振とう反応を行った。反応24時間後の反応液のゲンチオビオン酸量をHPAEC-PADを用いて測定した。ゲンチオビオン酸生成量を表10に示す。この結果から、酢酸菌の菌体は、ゲンチオビオースを酸化して、ゲンチオビオン酸に変換できることが確認された。
【0111】
【表10】

【0112】
さらに、前述の酢酸菌の菌体の調製において得られたグルコノバクター・フラテウリ IFO3285の反応液を、質量分析計で分析した結果を図4に示す。図4にて示されるように、ゲンチオビオン酸由来のシグナル〔m/z=357〕の他に、ゲンチオトリオン酸由来のシグナル〔m/z=519〕が確認された。さらに、グルコノバクター・フラテウリ IFO3285以外の表10に示した菌株の反応液についても、同様に質量分析計で分析した。その結果、アセトバクター・アセチ NBRC3281を除くすべての菌株の反応液中にゲンチオトリオン酸由来のシグナル〔m/z=519〕が確認された。なお、アセトバクター・アセチ NBRC3281でも、ゲンチオビオン酸の生成が認められていることから、反応時間の延長、使用菌体濃度の増加等により、ゲンチオトリオン酸も生成し得ると考えられる。
【0113】
実施例9
〔様々な酢酸菌を用いた還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖生産における反応特異性〕
上記の「酢酸菌の菌体の調製−4」で得られた菌体(グルコノバクター・フラテウリ IFO3285、グルコノバクター・オキシダンス IFO3292、グルコノバクター・アサイ IAM14721、アセトバクター・オリエンタリス FERM P-21150、グルコノバクター・タイランディカス IFO3172)を、生理食塩水0.5mlに懸濁した。この酢酸菌懸濁液を1〜10倍に生理食塩水で希釈し、その希釈液5μlと、0.5Mの糖質溶液(D−グルコース、イソマルトース、イソマルトトリオース、イソマルトテトラオース、イソマルトペンタオース、ゲンチオビオース、ラクトース)20μlを、表11に示す組成の反応液Aに添加し、40℃で反応させた。なお、反応時間は、菌体毎に2〜10分の間で統一した。反応後、フォトメーターUV−160A(島津製作所社製)で530nmの吸収を測定し、各糖質の酸化により還元される2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(ε530=7500M-1cm-1)の減少量を測定した。吸収の減少値から各酢酸菌の各基質に各糖質に対する酸化活性を算出した後に、その値からD−グルコースに対する酸化活性を100として、各糖質の酸化活性の相対値を算出した。
【0114】
【表11】

【0115】
得られた結果を表12に示す。この結果から、酢酸菌は、α1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖類の中でも、イソマルトース及びゲンチオビオースに対する、酸化する活性が強いことが明らかとなった。また、この結果からも、酢酸菌は、ラクトースを酸化する作用が微弱であることも確認された。
【0116】
【表12】

【0117】
実施例10〔様々な酢酸菌を用いたイソマルトビオン酸生産におけるグルコースの影響〕
上記の「酢酸菌の菌体の調製−1」で得られた菌体(アセトバクター・アセチ NBRC3281、グルコノバクター・オキシダンス IFO3292、グルコンアセトバクター・キシリヌス NBRC3288)の、それぞれ1/10量を、1.0mlの3質量%イソマルトオリゴ糖(和光純薬工業社製、生化学用試薬Code No.090-03485)を含む100mMの酢酸バッファー(pH5.5)に再懸濁した。さらにD−グルコースを、終濃度が0質量%、3質量%、5質量%、10質量%または20質量%になるように添加し、27℃で24時間振とう後、反応液中のイソマルトビオン酸量をHPAEC-PADで定量した。結果を表13に示す。表13から明らかなように、D-グルコース濃度が増加すると、イソマルトビオン酸の生成は抑制されるものであった。なお、D−グルコースが含有されていない場合、およびD−グルコースの含有量が3質量%である場合は、いずれの菌株においてもイソマルトビオン酸の生成が確認された。一方、D-グルコース濃度が5質量%、10質量%および20質量%の場合は、いずれの菌株でもイソマルトビオン酸の生成は確認できなかった。
【0118】
【表13】

【0119】
実施例11
〔様々な酢酸菌を用いたイソマルトビオン酸生産におけるグルコースの影響〕
上記の「酢酸菌の菌体の調製−4」で得られた菌体(グルコノバクター・フラテウリ IFO3285、グルコノバクター・オキシダンス IFO3292、グルコノバクター・アサイ IAM14721、グルコンアセトバクター・キシリヌス NBRC3288)を、生理食塩水0.5mlに懸濁し、酢酸菌懸濁液(×20)を調製した。次いで、得られた酢酸菌懸濁液(×20)が最終的に10倍希釈された状態で含まれ、且つ1質量%のイソマルトースまたは1質量%のイソマルトトリオースと、0質量%、1質量%、3質量%、または5質量%のD−グルコースを含む100mM酢酸バッファー(pH5.5)(反応液)を調製し、240往復/分、27℃で6時間振とうした。振とう後、反応液中のイソマルトビオン酸またはイソマルトトリオン酸量をHPAEC-PADで定量した。
【0120】
得られた結果を表14に示す。この結果から、グルコノバクター・フラテウリ、グルコノバクター・オキシダンス、グルコノバクター・アサイ、およびグルコンアセトバクター・キシリヌスでは、D-グルコース濃度が増加するとイソマルトビオン酸またはイソマルトトリオン酸の生成量は減少する傾向を示すものの、イソマルトビオン酸またはイソマルトトリオン酸の生成は認められた。とりわけ、グルコノバクター・アサイ、グルコノバクター・フラテウリおよびグルコンアセトバクター・キシリヌスでは、D-グルコース存在下でも、イソマルトビオン酸またはイソマルトトリオン酸の生成量が比較的高い値を維持できていた。
【0121】
【表14】

【0122】
実施例12
〔グルコノバクター・フラテウリを用いたイソマルトビオン酸生産におけるグルコースの影響〕
上記の「酢酸菌の菌体の調製−4」で得られたグルコノバクター・フラテウリ IFO3285の菌体を、生理食塩水0.5mlに懸濁し、酢酸菌懸濁液(×20)を調製した。次いで、得られた酢酸菌懸濁液(×20)が最終的に10倍希釈された状態で含まれ、且つ1質量%のイソマルトースと、0質量%、1質量%、3質量%、または5質量%のD−グルコースを含む500mM酢酸バッファー(pH5.5)(反応液)を調製し、240往復/分、27℃で1時間振とうした。振とう後、反応液中のイソマルトビオン酸量をHPAEC-PADで定量した。また、各反応後の反応液のpHについても測定した。
【0123】
得られた結果を図5に示す。各反応後の反応液のpHは、いずれも5.5であり、反応前からは変化していなかった。図5に示されるように、実施例11の場合と同様に、D−グルコースの濃度が高まるに伴って、生成するイソマルトビオン酸量が減少していた。つまり、本試験結果から、D−グルコースの存在によって生じるイソマルトビオン酸の生成阻害は、pHが影響していないことが分かった。
【0124】
実施例13
〔様々な酢酸菌を用いた発酵生産法によるイソマルトビオン酸生産〕
イソマルトオリゴ糖(和光純薬工業社製、生化学用試薬Code No.090-03485)2.0質量%、ラクトース0.5質量%、D−グルコース0.5質量%、粉末酵母エキスD−3(日本製薬社製、和光Code No.390−00531)0.5質量%、ポリペプトン(日本製薬社製、和光Code No.394−00115)0.5質量%、硫酸マグネシウム・無水和物0.1質量%に、グリセロールストックで凍結保存した酢酸菌(アセトバクター・アセチ NBRC3281、アセトバクター・オリエンタリス FERM P-21150、グルコノバクター・オキシダンス IFO3292、グルコノバクター・アサイ IAM14721、グルコノバクター・フラテウリ IFO3285、グルコンアセトバクター・ハンセニ NBRC14816)の一白金耳を接種した。接種後27℃で振とう培養(240往復/分)で培養した。発酵3日目および7日目の発酵液中のイソマルトビオン酸濃度をHPAEC-PADで測定した。それぞれの酢酸菌のイソマルトビオン酸量を表15に示す。
【0125】
【表15】

【0126】
実施例14
〔酢酸発酵によるイソマルトビオン酸生産〕
粉末酵母エキスD−3(日本製薬社製、和光Code No.390−00531)1質量%、ポリペプトン(日本製薬社製、和光Code No.394−00115)1質量%、およびエタノール2質量%を含む液体培地10mlに、グリセロールストックで凍結保存した酢酸菌(アセトバクター・アセチ NBRC3281、アセトバクター・パステリアヌス NBRC3283)の一白金耳を接種し、27℃で3日間静置し、前々培養を行った。更に、得られた前々培養液1mlを、粉末酵母エキスD−3(日本製薬社製、和光Code No.390−00531)0.2質量%、ポリペプトン(日本製薬社製、和光Code No.394−00115)0.2質量%、D−グルコース0.2質量%、エタノール6質量%、および酢酸1質量%を含む液体培地10mlに植菌し、27℃で31時間振とう培養(240往復/分)し、前培養を行った。次いで、得られた前培養液50μlを、イソマルトース2質量%、D−グルコース0.2質量%、エタノール5質量%、及び酢酸1質量%を含む液体培地に植菌し、27℃で12日間、静置し、酢酸発酵を行った。12日間の酢酸発酵で得られた発酵液中のイソマルトビオン酸濃度をHPAEC-PADで測定した。
【0127】
その結果、アセトバクター・アセチ NBRC3281を使用した場合には、発酵液中に0.0044質量%のイソマルトビオン酸が生成しており、アセトバクター・パステリアヌス NBRC3283を使用した場合には、発酵液中に0.0033質量%のイソマルトビオン酸が生成していることが確認された。この結果から、アルコールの存在下でも、酢酸菌は、イソマルトビオン酸の生成が可能であることが明らかとなった。即ち、酢酸発酵などの発酵工程中に、本発明の糖アルドン酸の製造方法を行うこともでき、これによって、イソマルトビオン酸含有発酵製品を直接的に製造可能になることも明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘミアセタール性水酸基を有し、且つα1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖類に、酢酸菌に属する微生物の菌体を接触させ、該オリゴ糖類のヘミアセタール性水酸基を酸化することを特徴とする、還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖の製造方法。
【請求項2】
酢酸菌に属する微生物が、アセトバクター属、グルコノバクター属またはグルコンアセトバクター属に属する微生物である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記オリゴ糖に対する前記菌体の接触が、D-グルコース濃度が3質量%以下の条件下で行われる、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
前記オリゴ糖類が、イソマルトースおよび/またはイソマルトトリオースである、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記オリゴ糖類が、イソマルトース、イソマルトトリオース、およびイソマルトテトラオースよりなる群から選択される2種以上を含有するイソマルトオリゴ糖である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記オリゴ糖類が、ゲンチオビオースおよび/またはゲンチオトリオースである、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記オリゴ糖類が、パノースである、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
ヘミアセタール性水酸基を有し、且つα1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖類と、エタノールを含有する発酵原料に、酢酸菌を添加して酢酸発酵を行うことにより得られることを特徴とする、還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖を含有する醸造酢。
【請求項9】
ヘミアセタール性水酸基を有し、且つα1→6またはβ1→6グルコシド結合を有するオリゴ糖類と、エタノールを含有する発酵原料に、酢酸菌を添加して酢酸発酵を行うことを特徴とする、還元末端にアルドン酸残基を有するオリゴ糖を含有する醸造酢の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate