説明

部品組立体

【課題】電磁弁やポンプなどをハウジングに組み付けて構成される部品組立体において、ハウジングをかしめ変形させるときの力による他部品用部品組み付け穴の変形を、かしめ固定部から他部品用部品組み付け穴までのハウジング肉厚を増やさずに抑制できるようにすることを課題としている。
【解決手段】第1の部品組み付け穴3に挿入された装置構成部品(弁ハウジング12)のハウジング2に対する固定がハウジングの座面5を変形させてかしめ固定部6を形成する方法によってなされ、さらに、かしめ固定部6の近傍に設けられた第2の部品組み付け穴4に他部品を組み付けて構成される部品組立体を改善の対象にして、前記座面5に支持される着座部12aの側面に、ハウジング2の座面陥没部8の側面8aが入り込む逃げ部7を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルミ合金などで形成されるハウジングに液圧路を開閉する電磁弁やポンプなどの装置構成部品を組み付けて構成される液圧ユニットなどの部品組立体、特に、弁部品などの装置構成部品を、高精度に加工された部品組み付け穴の近くに配置してハウジングに対してそのハウジングの一部を塑性変形させて固定する構造の部品組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のブレーキ装置に採用されるブレーキ液圧制御用の液圧ユニットは、少なくとも、動力駆動のポンプと、液圧制御用の電磁弁をハウジングに組み込んで構成されるものが主流をなしている。この液圧ユニットは、車両の各車輪に設けたホイールシリンダの液圧を必要に応じて前記電磁弁で制御する。また、ハウジングの一面に装着したモータで前記ポンプを駆動して液圧を発生させ、その液圧を減圧後の再加圧用として、あるいは自動ブレーキ制御時の制動液圧としてホイールシリンダに供給する。
【0003】
この種の装置において、電磁弁などの部品を液圧ユニットのハウジングに固定する方法として、ハウジングを塑性変形させて部品を固定する、いわゆるかしめ固定法がある。その具体例として、例えば下記特許文献1は、液圧制御ユニットのハウジング(弁収容ボディと称している)にそのハウジングを変形させて電磁弁の弁ハウジングを固定している。
【特許文献1】特許第3281385号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したブレーキ液圧制御用の液圧ユニットは、小型化が目覚しく進展しているが、さらなる小型化が強く望まれている。また、一方で、軽量化のために、ハウジングの素材としてアルミ合金を採用することが一般化している。
【0005】
上記の小型化の要求に応えるには、部品の高密度配置が不可欠であり、その高密度配置のために、ハウジングにかしめ固定される部品の近くに他部品用の部品組み付け穴を設けざるを得ないケースが生じてくる。
【0006】
ところが、ハウジングをかしめ変形させると、そのときにハウジングに加えられた力がかしめ固定部に近接した他部品用の部品組み付け穴部に伝播してその部品組み付け穴が変形する。鉄系部品に比べて強度の低いアルミ合金製のハウジングではその現象が特に顕著である。この変形が大きいと、変形した部品組み付け穴に対する部品の組み付けに支障がでることが考えられる。また、他部品用部品組み付け穴に摺動部品(例えば、ピストンポンプのピストンなど)が組み付けられる場合には、穴に挿入した部品の円滑な摺動の阻害要因となる懸念が生じる。
【0007】
現状技術では、その不具合を回避するために、ハウジングのかしめ固定部から他部品用部品組み付け穴までの距離(その間のハウジング肉厚)を十分に確保しており、このためにハウジングの体格が増し、このことが、製品のさらなる小型化を図る上でのネックになっている。
【0008】
この発明は、電磁弁やポンプなどをハウジングに組み付けて構成される液圧ユニットなどの部品組立体のさらなる小型化を図るために、ハウジングをかしめ変形させるときの力による他部品用部品組み付け穴の変形を、かしめ固定部から他部品用部品組み付け穴までのハウジング肉厚を増やさずに抑制できるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明においては、ハウジングに第1の部品組み付け穴が設けられ、その第1の部品組み付け穴に挿入された装置構成部品の前記ハウジングに対する固定がハウジングの座面を変形させてかしめ固定部を形成する方法(かしめ固定)によってなされ、さらに、前記かしめ固定部の近傍に設けられた第2の部品組み付け穴に他部品を組み付けて構成される部品組立体を改善の対象にして、前記装置構成部品において前記ハウジングの座面に支持される着座部は、その径方向外側を臨む側面に、ハウジングの座面陥没部におけるその径方向内側を臨む側面が入り込む逃げ部を有する構造にした。
【0010】
前記逃げ部は、以下に記すものが考えられる。
(1)前記装置構成部品の前記着座部の前記側面の少なくとも一部を、反着座側が着座側よりも第1の部品組み付け穴の軸心に近づく方向に傾斜させて作り出したもの。
(2)前記装置構成部品の前記着座部をフランジで構成し、その着座部の前記側面を、反着座側端部のフランジ径D1が着座側端部のフランジ径D2よりも小径になるテーパ面にして作り出したもの。
(3)前記装置構成部品の前記着座部の前記側面に凹部を設けてこの凹部で構成したもの。
【0011】
なお、この発明を適用する部品組立体は、第1の部品組み付け穴に液圧路を開閉する電磁弁が組み付けられ、第2の部品組み付け穴にモータによって駆動されるピストンポンプが組み付けられ、ブレーキ液圧制御用の液圧ユニットとして構成されたものが考えられる。ただし、ブレーキ以外の機器用の部品組立体に適用しても発明の効果が期待できる。
【0012】
液圧ユニットのほかに、空気圧制御用のユニットなども考えられる。また、第1の部品組み付け穴
に組み付ける装置構成部品は、電磁弁のほかに、液流に方向性を与えるチェック弁や、第1の部品組み付け穴の入口を塞ぐ封止栓などもあり、これらの部品もハウジングにかしめ固定することがある。従って、「ハウジングにかしめ固定する部品がある」、「その部品の近くに摺動部品などを挿入する第2の部品組み付け穴がある」の2つの条件が成立する部品組立体が、この発明の適用対象となる。
【発明の効果】
【0013】
図8に従来構造の一部を拡大して示す。図のように、かしめ固定部6を生じさせる目的でハウジング2の座面5を装置構成部品の着座部12aで加圧すると、ハウジング2の被加圧部が塑性変形して座面5が陥没し、このとき、ハウジング2の一部が弾性変形して座面5の周囲の肉部が図8に示すように膨らむ。この膨らみ部9には弾性復元力が残留しており、その力が第2の部品組み付け穴側に伝播して第2の部品組み付け穴を変形させる。
これに対し、この発明の部品組み立て体は、装置構成部品の着座部においてその径方向外側を臨む側面に逃げ部を設けており、その逃げ部にハウジングの座面陥没部におけるその径方向内側を臨む側面が弾性復元して入り込む。そのために、かしめ固定部の近傍に残留する応力が小さくなり、ハウジングの座面から第2の部品組み付け穴に伝播する力が少なくなって近傍でハウジングをかしめることに起因した第2の部品組み付け穴の変形が抑制されるようになる。
【0014】
なお、前記逃げ部を、装置構成部品の着座部の前記側面を特定の方向に傾斜させて作り出したもの、中でも、前記着座部をフランジで構成し、そのフランジの前記側面を、反着座側のフランジ径D1が着座側のフランジ径D2よりも小径になるテーパ面にして作り出したものは、着座部の形状が複雑にならず、逃げ部の加工が簡単である。また、ハウジングの一部が弾性復元して着座部の着座面の外端よりも内側(第1の部品組み付け穴の中心側)に入り込んで装置構成部品の着座部に係止するため、かしめ固定も強化される。
【0015】
着座部の前記側面に凹部を設けてその凹部で逃げ部を構成するものも、凹部を着座部の着座面よりも反着座側に偏らせて設けると、ハウジングの弾性復元部が係止してかしめ固定が強化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面の図1〜図7に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。図1は、この発明を適用したブレーキ液圧制御用の液圧ユニットの要部を示している。図示の液圧ユニット1は、ハウジング2と、液圧制御用の電磁弁10と、ピストンポンプ20を組み合わせて構成されている。
【0017】
ハウジング2には、第1の部品組み付け穴3と第2の部品組み付け穴4が設けられ、第1の部品組み付け穴3に電磁弁10が、第2の部品組み付け穴4にピストンポンプ20がそれぞれ組み付けられている。
【0018】
電磁弁10は、弁スリーブ11と、その弁スリーブ11の外周に装着される励磁用のコイル(図示せず)と、そのコイルを覆うヨーク(これも図示せず)と、固定鉄心を兼用した弁ハウジング12と、一体の弁棒13を有する可動鉄心14と、弁ハウジング12の内部に設けられた弁部15及びチェック弁16と、弁棒13に復帰力を加える復帰スプリング17と、フィルタ18を組み合わせて構成されている。
【0019】
図示の電磁弁10は、コイルに通電して磁力を発生させると可動鉄心14が弁ハウジング12側に吸引され、弁棒13で保持した弁体15aが弁座15bに接触して弁部15が閉ざされる。この電磁弁は周知の弁であるので、詳細説明は省く。
【0020】
図2のピストンポンプ20は、第2の部品組み付け穴4に摺動自在に挿入したピストン21と、吸入弁22と吐出弁23を組み合わせて構成されている。ピストン21は、モータ(図示せず)の出力軸に取り付けたカム24(偏心したベアリング)に駆動されて往復運動し、その運動でポンプ室25にブレーキ液が吸入され、さらに吸入されたブレーキ液が圧縮されて吐出される。このピストンポンプ20も周知であるので、詳細説明は省く。
【0021】
電磁弁10のハウジング2に対する組み付けは、弁ハウジング12を第1の部品組み付け穴3に挿入してハウジング2に固定する方法でなされる。このときの固定は、第1の部品組み付け穴3の入口部の縁に設けられたハウジング2の座面5(図1に一点鎖線で示す部分)を、弁ハウジング12に設けられた着座部12aで加圧して変形させ、塑性変形した部分を弁ハウジング12の外周の溝などに係止させる方法が採られる。
【0022】
このとき、座面5が陥没し、同時にハウジング2の一部が弾性変形する。その弾性変形によって生じる弾性復元力がハウジング2に残留し、その力が、座面5の近傍に設けられた第2の部品組み付け穴4に向って伝播される。その力の伝播を減少させるために、図1の液圧ユニット1においては、装置構成部品である弁ハウジング12に設けられた着座部12aの径方向外側を臨む側面を反着座側が着座側よりも第1の部品組み付け穴3の軸心に近づく方向に傾斜させて着座部12aの周囲に逃げ部7を作り出している。
【0023】
なお、図示の着座部12aは、弁ハウジング12の外周に形成されたフランジで構成されている。ここでは、着座部12aの側面を、図3に示すように、反着座側端部のフランジ径D1が着座側端部のフランジ径D2よりも小径になるテーパ面にして逃げ部7を作り出している。
【0024】
座面5は、弁ハウジング12により図1のA方向に加圧されて変形し、塑性変形した部分が第1の部品組み付け穴3の中心側に突出してかしめ固定部6が形成される。このときに出来る座面陥没部8の径方向内側を臨む側面8aには径方向内向きに弾性復元しようとする力が生じ、その側面8aが、図4に示すように、着座部12aの側面に設けた逃げ部7に弾性復元して逃げる。そのために、座面陥没部8の周辺における応力の残留がなくなり、かしめ固定部6から第2の部品組み付け穴4に向けて伝播される力が小さくなって第2の部品組み付け穴4の要求精度を損なうような変形が回避される。また、弾性復元した部分が着座部12aの着座面12bの径方向外径よりも内径側に入り込んで着座部12aに係止するため、かしめ固定そのものも強化される。
【0025】
図1、図3の逃げ部7は、上述したように、反着座側端部のフランジ径D1が着座側端部のフランジ径D2よりも小径になるテーパ面にして作り出しているので、形状が複雑にならず、旋削加工などによって簡単に形成することができる。
【0026】
図5は、逃げ部7の変形例である。この図5の逃げ部7は、着座部12aの側面に凹部7aを設けて作り出している。凹部7aは、図のように、着座部12aの側面の反着座側に偏った位置(着座面12bよりも図において上側)に設けてもよいし、着座面12bに接する位置に設けてもよい。また、第2の部品組み付け穴が設けられる側のみに凹部7aを設置する構造でも発明の効果を期待することができる。
【0027】
なお、かしめ固定によって第1の部品組み付け穴3に組み付けられる装置構成部品は、上述した電磁弁10のほかに、図6に示すチェック弁26や図7に示す封止栓32なども考えられる。
【0028】
図6のチェック弁26は、弁体27、弁座28aを有するシート部品28、弁体27に閉弁力を加えるスプリング29、シート部品28に固定される弁ホルダ30及び内部を通過する液体を濾過するフィルタ31とで構成され、ハウジング2に形成された第1の部品組み付け穴3の入口部にシート部品28がかしめ固定して取り付けられる。
【0029】
これらの装置構成部品も、かしめ固定部6の近くに高精度が要求される第2の部品組み付け穴が設けられる場合には、逃げ部7の有効性が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明を適用したブレーキ液圧制御用液圧ユニットの要部を示す断面図
【図2】図1のX−X線に沿った断面図
【図3】図1の弁ハウジングの着座部を拡大して示す断面図
【図4】ハウジングの逃げ部に逃げた状態を示す部分拡大断面図
【図5】逃げ部の他の例を示す断面図
【図6】ハウジングにかしめ固定する装置構成部品がチェック弁である例を示す断面図
【図7】ハウジングにかしめ固定する装置構成部品が封止栓である例を示す断面図
【図8】従来構造で起こる着座面陥没部周辺の膨らみ状態を示す断面図
【符号の説明】
【0031】
1 液圧ユニット
2 ハウジング
3 第1の部品組み付け穴
4 第2の部品組み付け穴
5 座面
6 かしめ固定部
7 逃げ部
7a 凹部
8 陥没部
8a 側面
9 膨らみ部
10 電磁弁
11 弁スリーブ
12 弁ハウジング
12a 着座部
12b 着座面
13 弁棒
14 可動鉄心
15 弁部
15a 弁体
15b 弁座
16 チェック弁
17 復帰スプリング
18 フィルタ
20 ピストンポンプ
21 ピストン
22 吸入弁
23 吐出弁
24 カム
25 ポンプ室
26 チェック弁
27 弁体
28 シート部品
28a 弁座
29 スプリング
30 弁ホルダ
31 フィルタ
32 封止栓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(2)に第1の部品組み付け穴(3)が設けられ、その第1の部品組み付け穴(3)に挿入された装置構成部品の前記ハウジング(2)に対する固定が、当該ハウジング(2)の座面(5)を陥没するように変形させてかしめ固定部(6)を形成する方法でなされ、さらに、前記かしめ固定部(6)の近傍に設けられた第2の部品組み付け穴(4)に他部品を組み付けて構成される部品組立体であって、
前記装置構成部品において前記ハウジングの座面(5)に支持される着座部(12a)は、その径方向外側を臨む側面に、ハウジング(2)の座面陥没部(8)におけるその径方向内側を臨む側面(8a)が入り込む逃げ部(7)を有することを特徴とする部品組立体。
【請求項2】
前記装置構成部品の着座部(12a)の前記側面の少なくとも一部を、反着座側が着座側よりも第1の部品組み付け穴(3)の軸心に近づく方向に傾斜させて前記逃げ部(7)を作り出したことを特徴とする請求項1に記載の部品組立体。
【請求項3】
前記装置構成部品の着座部(12a)をフランジで構成し、その着座部(12a)の前記側面を、反着座側端部のフランジ径D1が着座側端部のフランジ径D2よりも小径になるテーパ面にして前記逃げ部(7)を作り出したことを特徴とする請求項2に記載の部品組立体。
【請求項4】
前記装置構成部品の着座部(12a)の前記側面に凹部(7a)を設け、この凹部(7a)で前記逃げ部(7)を構成したことを特徴とする請求項1に記載の部品組立体。
【請求項5】
前記凹部(7a)を、前記着座部(12a)の前記側面の着座面(12b)よりも反着座側に偏った位置に設けたことを特徴とする請求項4に記載の部品組立体。
【請求項6】
前記第1の部品組み付け穴(3)に液圧路を開閉する電磁弁(10)が組み付けられ、前記第2の部
品組み付け穴(4)にモータによって駆動されるピストンポンプ(20)が組み付けられ、ブレーキ液
圧制御用の液圧ユニットとして構成されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の部品組立体。
【請求項7】
前記装置構成部品が、液圧制御用の電磁弁(10)、液流に方向性を与えるチェック弁(26)、又は前記第1の部品組み付け穴(3)の入口を塞ぐ封止栓(32)である請求項1〜5のいずれかに記載の部品組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−233736(P2009−233736A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86645(P2008−86645)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】