説明

部材の取付方法

【課題】設計上の制約となるような突起物の張り出し及び緩みや脱落等の心配がなくて済む部材の取付方法を提供する。
【解決手段】第一材料1の取付孔3に、これより大きな外径のフランジ部4を基端側に備えたボルト5の先端側を挿通し、第一材料1に第二材料2を重ね合わせ、フランジ部4より大きな内径の凹部7を備えた逆U字断面の接合ツール8を回転しながら第二材料2に押し付け、その摩擦熱でフランジ部4周囲の第二材料2を固相状態のまま局所的に軟化させて接合ツール8を沈降せしめ、接合ツール8を第一材料1にも押し付けることで該第一材料1を軟化させて該第一材料1と第二材料2との境界部分9を撹拌すると共に、接合ツール8の凹部7における内側面全体で該凹部7内の第二材料2を軟化させてフランジ部4を埋没せしめ、然る後、接合ツール8を引き抜いて境界部分9を硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材の取付方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車業界においては、燃費向上等を目指した車両の軽量化を図る観点からアルミ材等の軽量素材が積極的に採用されており、これによりアルミ材と鉄材等といった溶接が困難な異種材料同士を取り付けて固定する技術への重要性が高まってきている。
【0003】
例えば、図5に示す如く、従来において、アルミ製の母材aに鉄製(スチール製)のボルトbを取り付けようとした場合には、該ボルトbを鉄製(スチール製)のセッティングプレートcに溶接した上で、該セッティングプレートcを前記アルミ製の母材aに対しボルトd及びナットeで締結するといった手段を講じなければならなかった。
【0004】
尚、後述する本発明の部材の取付方法に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【特許文献1】特開2004−136365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の如きセッティングプレートcを介在させたボルト締結を採用した場合には、母材aの表裏面にボルトdやナットeが突起物として張り出すため、これらの突起物の占有スペースを設計上で確保しなければならないという制約があり、しかも、ボルトdやナットeによる締結では緩みや脱落等の心配もあった。
【0006】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、設計上の制約となるような突起物の張り出し及び緩みや脱落等の心配がなくて済む部材の取付方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第一材料に予め穿設してある取付孔に対し、該取付孔より大きな外径のフランジ部を基端側に備えた被取付部材の先端側を挿通し、第一材料に前記フランジ部を被覆するように第二材料を重ね合わせ、該第二材料側への対峙面に前記フランジ部より大きな内径の凹部を備えた逆U字断面の接合ツールを前記フランジ部と同心状に配置して回転しながら第二材料に押し付け、該第二材料と接合ツールとの間に生じた摩擦熱で前記フランジ部周囲の第二材料を固相状態のまま局所的に軟化させて前記接合ツールを第一材料に到達するまで沈降せしめ、前記接合ツールを第一材料にも押し付けることで該第一材料を摩擦熱により固相状態のまま局所的に軟化させて該第一材料と前記第二材料との境界部分を撹拌すると共に、前記接合ツールの凹部における内側面全体で該凹部内の第二材料を摩擦熱により固相状態のまま軟化させて前記フランジ部を埋没せしめ、然る後、前記接合ツールを引き抜いて前記境界部分を硬化させることで被取付部材を第一材料及び第二材料に対し固定することを特徴とする部材の取付方法、に係るものである。
【0008】
而して、このようにすれば、フランジ部周囲の第二材料が第一材料に対し摩擦撹拌接合(Friction Stir Welding:略称FSW)されることになり、これら第一材料と第二材料との間に埋没したフランジ部が強固に挾持されて被取付部材の第一材料及び第二材料に対する良好な固定が実現される一方、前記被取付部材の先端側が第一材料の取付孔から張り出して部材として使用可能な状態となる。
【0009】
この際、被取付部材のフランジ部は、第一材料と第二材料との間に埋没して固定されることになり、ボルト締結の場合におけるボルトやナットの如き突起物が第一材料及び第二材料から張り出すことがないため、この種の突起物の占有スペースを確保するといった設計上の制約がかからなくて済み、しかも、ボルト締結を採用した場合のような緩みや脱落等の心配もなくなる。
【0010】
また、本発明においては、フランジ部の第一材料側への対峙面に突起部を予め形成しておき、該突起部を摩擦熱により軟化した第一材料側に嵌入せしめることが好ましく、このようにすれば、前記突起部の第一材料側への嵌入によりフランジ部の軸心回りの動きが規制され、第一材料及び第二材料に対し被取付部材の回り止めの効果が奏されることになる。
【発明の効果】
【0011】
上記した本発明の部材の取付方法によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0012】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、ボルト締結の場合におけるボルトやナットの如き突起物の張り出しがないことから設計上の制約を大幅に緩和することができると共に、ボルト締結の場合の如き緩みや脱落等の心配も解消することができる。
【0013】
(II)本発明の請求項2に記載の発明によれば、第一材料及び第二材料に対し被取付部材の確実な回り止めを図ることができるので、被取付部材がボルトやナット等であっても十分なトルク強度を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0015】
図1〜図4は本発明を実施する形態の一例を示すもので、本形態例においては、アルミ製の第一材料1及び第二材料2を母材として、これら二枚重ねの母材に対し鉄製(スチール製)のボルト5(被取付部材)を取り付ける場合を例示している。
【0016】
図1に示す如く、第一材料1には、その厚さ方向に貫通する取付孔3が穿設され、該取付孔3より大きな外径のフランジ部4を基端側に備えたボルト5の先端側が前記取付孔3に対し挿通されており、前記フランジ部4を被覆するように第二材料2が第一材料1の上に重ね合わせてあり、第一材料1の下面側(反第二材料2側)には、前記ボルト5の先端側を収容可能なピット部6aを有する治具6が配置されている。
【0017】
尚、ここに図示している例においては、ボルト5のフランジ部4における下面(第一材料1側への対峙面)に、その周方向に所要間隔を隔てて複数の突起部5aが形成されている。
【0018】
更に、前記第二材料2の上側には、前記ボルト5のフランジ部4より大きな内径の凹部7を下面(第一材料1側への対峙面)に形成した逆U字断面の接合ツール8が前記フランジ部4と同心状に配置されており、図示しない接合装置により回転可能且つ昇降可能に支持されるようになっている。
【0019】
そして、このように重ね合わせた第一材料1及び第二材料2に対しボルト5を取り付けるにあたっては、図1の状態から図2に示すように接合ツール8を回転しながら下降して下端部を第二材料2に押し付け、該第二材料2と接合ツール8との間に生じた摩擦熱で前記フランジ部4周囲の第二材料2を固相状態のまま局所的に軟化させて前記接合ツール8を第一材料1に到達するまで沈降せしめる。
【0020】
次いで、図3に示す如く、前記接合ツール8の下端部を第一材料1にも押し付けることで該第一材料1を摩擦熱により固相状態のまま局所的に軟化せしめると、該第一材料1と前記第二材料2との境界部分9が撹拌され、しかも、これと同時に前記接合ツール8の凹部7における内側面全体で該凹部7内の第二材料2が摩擦熱により固相状態のまま軟化されて前記フランジ部4が埋没されることになり、また、摩擦熱により軟化した第一材料1側に対しフランジ部4の下面の各突起部5aが嵌入されることになる。
【0021】
然る後に、図4に示す如く、前記接合ツール8を上方へ引き抜いて前記境界部分9を硬化させると、フランジ部4周囲の第二材料2が第一材料1に対し摩擦撹拌接合(Friction Stir Welding:略称FSW)されることになり、これら第一材料1と第二材料2との間に埋没したフランジ部4が強固に挾持されてボルト5の第一材料1及び第二材料2に対する良好な固定が実現される一方、前記ボルト5の先端側が第一材料1の取付孔3から張り出して使用可能な状態となる。
【0022】
この際、ボルト5のフランジ部4は、第一材料1と第二材料2との間に埋没して固定されることになり、ボルト締結の場合におけるボルトやナットの如き突起物が第一材料1及び第二材料2から張り出すことがないため、この種の突起物の占有スペースを確保するといった設計上の制約がかからなくて済み、しかも、ボルト締結を採用した場合のような緩みや脱落等の心配もなくなる。
【0023】
また、フランジ部4の下面の各突起部5aが第一材料1側に嵌入されることによって、フランジ部4の軸心回りの動きが規制され、第一材料1及び第二材料2に対しボルト5の回り止めの効果が奏されることになる。
【0024】
従って、上記形態例によれば、ボルト締結の場合におけるボルトやナットの如き突起物の張り出しがないことから設計上の制約を大幅に緩和することができると共に、ボルト締結の場合の如き緩みや脱落等の心配も解消することができ、しかも、第一材料1及び第二材料2に対しボルト5の確実な回り止めを図ることができるので、該ボルト5に対し十分なトルク強度を付与することができる。
【0025】
尚、本発明の部材の取付方法は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、第一材料及び第二材料は必ずしも同種材料でなくても良く、異種材料であっても良いこと、更に、被取付部材は必ずしもボルトでなくても良く、ソケット型のナット等であっても良いこと、また、第一材料及び第二材料は摩擦熱で固相状態のまま局所的に軟化させられるものであれば良く、金属材料以外に高分子材料等を適宜に採用し得ること、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す断面図である。
【図2】図1の接合ツールを回転しながら下降した状態を示す断面図である。
【図3】図2の状態から更に接合ツールを下降した状態を示す断面図である。
【図4】図3の状態から接合ツールを引き上げた状態を示す断面図である。
【図5】従来例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 第一材料
2 第二材料
3 取付孔
4 フランジ部
5 ボルト(被取付部材)
5a 突起部
6 治具
6a ピット部
7 凹部
8 接合ツール
9 境界部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一材料に予め穿設してある取付孔に対し、該取付孔より大きな外径のフランジ部を基端側に備えた被取付部材の先端側を挿通し、第一材料に前記フランジ部を被覆するように第二材料を重ね合わせ、該第二材料側への対峙面に前記フランジ部より大きな内径の凹部を備えた逆U字断面の接合ツールを前記フランジ部と同心状に配置して回転しながら第二材料に押し付け、該第二材料と接合ツールとの間に生じた摩擦熱で前記フランジ部周囲の第二材料を固相状態のまま局所的に軟化させて前記接合ツールを第一材料に到達するまで沈降せしめ、前記接合ツールを第一材料にも押し付けることで該第一材料を摩擦熱により固相状態のまま局所的に軟化させて該第一材料と前記第二材料との境界部分を撹拌すると共に、前記接合ツールの凹部における内側面全体で該凹部内の第二材料を摩擦熱により固相状態のまま軟化させて前記フランジ部を埋没せしめ、然る後、前記接合ツールを引き抜いて前記境界部分を硬化させることで被取付部材を第一材料及び第二材料に対し固定することを特徴とする部材の取付方法。
【請求項2】
フランジ部の第一材料側への対峙面に突起部を予め形成しておき、該突起部を摩擦熱により軟化した第一材料側に嵌入せしめることを特徴とする請求項1に記載の部材の取付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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