説明

配管のフランジ構造

【課題】高温流体を流す配管のフランジにおける温度差に起因する応力集中を低減し、割れや塑性歪みの漸増を防止し得るようにする。
【解決手段】高温ガス(高温流体)を内部に流す配管1のフランジ構造に関し、前記配管1のフランジ3の外周部に、該フランジ3の半径方向内側に向けて窪む複数の切欠部4を前記フランジ3の周方向に間隔Pを隔てて形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管のフランジ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高温機器に用いられる配管で内部に高温ガスを流すようにしたものでは、配管を接続しているフランジに応力集中が起こり易く、これまでは600〜620℃程度までの高温ガスを流すのが温度的な限界となっていた。
【0003】
即ち、配管の内部に流す高温ガスの温度条件が厳しくなるに従い配管をステンレス系の材質にせざるを得なくなるが、一般的にステンレス系の材質のものは、熱膨張量が大きく且つ熱伝導率が悪いという性質がある。
【0004】
このため、高温ガスから直接的に熱を受けて温度が高くなる配管の円筒部と、高温ガスからの熱が伝わり難くて相対的に温度が低くなるフランジとの間で大きな温度差が生じ、この温度差に起因する熱膨張差により応力集中が起こり易くなっていた。
【0005】
尚、本発明に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−199019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このため、650℃を超えるような高温ガスを流す配管が要求された場合には、いくら耐熱性に優れた材質を選定しても、配管の円筒部とフランジとの間の温度差が大きくなってフランジが半径方向内側に変形し、該フランジに応力集中による割れが生じたり、長時間経過した後で弾性歪みの一部がクリープ変形を起こして完全に元に戻らない状態となることでフランジが支持部から外れたりする虞れがあった。
【0008】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、高温ガス等の高温流体を流す配管のフランジにおける温度差に起因する応力集中を低減し、割れや塑性歪みの漸増を防止し得るようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、高温流体を内部に流す配管のフランジ構造であって、前記配管のフランジの外周部に、該フランジの半径方向内側に向けて窪む複数の切欠部を前記フランジの周方向に間隔を隔てて形成したことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明においては、フランジの半径方向の幅寸法に対し各切欠部の間口寸法を2から3倍とし、各切欠部相互の間隔を前記フランジの幅寸法以下とし、前記各切欠部におけるフランジの外周部から半径方向内側へ入り込む深さ寸法を前記フランジの幅寸法の2分の1以上とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
上記した本発明の配管のフランジ構造によれば、配管のフランジの外周部に複数の切欠部を形成したことにより、配管の円筒部とフランジとの間の温度差を小さくすることができ、フランジの変位を切欠部で生じるようにすることができるので、熱応力を従来よりも著しく低減して該熱応力による割れの発生やフランジの変形を大幅に抑制することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1−a】本発明の一実施例を示す断面図である。
【図1−b】図1−aのX−X方向の矢視図である。
【図2】現状モデルのフランジの変形の様子を示す断面図である。
【図3】改善モデルのフランジの変形の様子を示す断面図である。
【図4−a】本発明の別の実施例を示す断面図である。
【図4−b】図4−aのY−Y方向の矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0014】
図1−a及び図1−bは本発明の一実施例を示すもので、図中1は650℃を超える高温ガスを内部に流すための配管を示し、該配管1の管路を成す円筒部2の端部には、図示しない支持部への接続を図るためのフランジ3が設けられている。
【0015】
ここで、本実施例においては、前記配管1のフランジ3の外周部に、該フランジ3の半径方向内側に向けて窪む複数の切欠部4を前記フランジ3の周方向に間隔Pを隔てて形成しており、前記切欠部4を形成するにあたっては、フランジ3の半径方向の幅寸法Bに対し各切欠部4の間口寸法Wを2から3倍とし、各切欠部4相互の間隔Pを前記フランジ3の幅寸法B以下とし、前記各切欠部4におけるフランジ3の外周部から半径方向内側へ入り込む深さ寸法Dを前記フランジ3の幅寸法Bの2分の1以上としている。
【0016】
而して、このようにすれば、配管1のフランジ3の外周部に複数の切欠部4を形成したことにより、配管1の円筒部2とフランジ3との間の温度差が小さくなり、フランジ3の変位が切欠部4で生じるため、熱応力が低減されて該熱応力による割れの発生やフランジ3の変形が抑制されることになる。
【0017】
尚、各切欠部4の間口寸法Wを前記フランジ3の幅寸法Bの2から3倍とし、各切欠部4相互の間隔Pを前記フランジ3の幅寸法B以下とし、前記各切欠部4におけるフランジ3の外周部から半径方向内側へ入り込む深さ寸法Dを前記フランジ3の幅寸法Bの2分の1以上としているのは、本発明者が鋭意研究の末に最適な設定範囲を見いだしたものである。
【0018】
例えば、各切欠部4の間口寸法Wが前記フランジ3の幅寸法Bの2から3倍の範囲を超えて大きくなれば、前記フランジ3に実用面から見て容認できない強度的な脆弱化を招く虞れが生じ、各切欠部4の間口寸法Wが前記範囲を下まわれば、実用面から見て満足できるほどの十分な熱応力の低減効果が得られなくなる虞れが生じる。
【0019】
また、各切欠部4相互の間隔Pが前記フランジ3の幅寸法Bを超えて大きくなったり、前記各切欠部4におけるフランジ3の外周部から半径方向内側へ入り込む深さ寸法Dが前記フランジ3の幅寸法Bの2分の1より少なくなったりした場合にも、やはり実用面から見て満足できるほどの十分な熱応力の低減効果が得られなくなる虞れが生じる。
【0020】
即ち、これらの数値的な設定範囲は、互いに影響し合っているため、何れかの数値が設定範囲に入っていれば良いというものではなく、全てが最適な設定範囲に入っている時に、フランジ3の強度をより高く保ち且つ熱応力をより低く下げられる作用が効果的に得られる。
【0021】
事実、前述した如き最適な設定範囲でフランジ3に切欠部4を形成した改善モデルと、従来のフランジ3に切欠部4を形成しない現状モデルとをミーゼス応力について解析したところ、改善モデルにおけるフランジ3側の最大熱応力は、現状モデルにおけるフランジ3側の最大熱応力の約40.7%まで低減され、また、改善モデルにおける円筒部2側の最大熱応力は、現状モデルにおける円筒部2側の最大熱応力の約44.9%まで低減されることが確認され、しかも、改善モデルに関して強度的な問題を招くことはなかった。
【0022】
更に付言しておくと、図2に示す如く、現状モデルのフランジ3の半径方向内側への変位がΔR1であった場合、図3に示す如く、改善モデルのフランジ3の半径方向内側への変位は、現状モデルのΔR1の23.8%に過ぎないΔR2まで低減できるという解析結果も得られている。
【0023】
従って、上記実施例によれば、配管1のフランジ3の外周部に複数の切欠部4を形成したことにより、配管1の円筒部2とフランジ3との間の温度差を小さくすることができ、フランジ3の変位を切欠部4で生じるようにすることができるので、熱応力を従来よりも著しく低減して該熱応力による割れの発生やフランジ3の変形を大幅に抑制することができる。
【0024】
また、切欠部4を形成するにあたり、最適な寸法設定で切欠部4を形成するようにしているので、前記フランジ3に複数の切欠部4を形成しても、強度的な問題を招くことなく実用面から見て十分な熱応力の低減効果を得ることができる。
【0025】
図4−a及び図4−bは本発明の別の実施例を示すもので、特にシール性を重要視しない配管系に適用したものであり、ここに図示している例では、前述の如き切欠部4をフランジ3に形成することに加え、フランジ3の周方向複数箇所に、配管1の軸心方向に延びて円筒部2の所要範囲まで到るスリット5を形成している。
【0026】
本実施例においては、前記スリット5の長さ寸法Lが、2.5√(RT)(ただし、R:配管1の円筒部2における肉厚中心半径、T:配管1の円筒部2の肉厚)以上となっており、前記スリット5の先端(図示する例では下端)には、適当な径のストップホール6が形成されている。ただし、前記各スリット5相互の間隔p(フランジ3の周方向ピッチ)は、該スリット5の長さ寸法L以下に設定してある。
【0027】
このようにスリット5を形成すれば、フランジ3が円筒部2を半径方向に拘束しようとする力がスリット5により解放され、フランジ3側の最大熱応力を先の実施例の場合よりも更に低減することができる。
【0028】
例えば、本発明者による解析結果では、従来の切欠部4もスリット5も形成していない現状モデルと比較して、フランジ3側の最大熱応力が約18.5%まで低減されることが確認されている。因みに、配管1の円筒部2側の最大熱応力については、スリット5を形成した場合と、スリット5を形成しなかった場合とで格別顕著な相違は確認されなかった。
【0029】
尚、本発明の配管のフランジ構造は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、例えば、加圧流動層ボイラにおける圧力の高い高温ガスをガスタービンへ導く系統における二重管の内管等への適用も可能であること、また、気相以外の高温流体を流す配管への適用も可能であること、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0030】
1 配管
3 フランジ
4 切欠部
B フランジの幅寸法
D 切欠部の深さ寸法
L スリットの長さ寸法
P 切欠部相互の間隔
W 切欠部の間口寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温流体を内部に流す配管のフランジ構造であって、前記配管のフランジの外周部に、該フランジの半径方向内側に向けて窪む複数の切欠部を前記フランジの周方向に間隔を隔てて形成したことを特徴とする配管のフランジ構造。
【請求項2】
フランジの半径方向の幅寸法に対し各切欠部の間口寸法を2から3倍とし、各切欠部相互の間隔を前記フランジの幅寸法以下とし、前記各切欠部におけるフランジの外周部から半径方向内側へ入り込む深さ寸法を前記フランジの幅寸法の2分の1以上としたことを特徴とする請求項1に記載の配管のフランジ構造。

【図1−a】
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【図1−b】
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【図2】
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【図3】
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【図4−a】
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【図4−b】
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【公開番号】特開2012−21618(P2012−21618A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161478(P2010−161478)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】