説明

酵素処理した大豆を用いた納豆

【課題】
本発明の課題は、納豆製造における大豆の浸漬工程において酵素処理することによって、軟らかな納豆を提供することにある。
【解決手段】
本発明は、納豆の製造方法であって、大豆をセルラーゼおよびペクチナーゼを含有する酵素液に17℃〜24℃で浸漬する工程を含む、前記方法に関する。また、本発明は、かかる製造方法によって製造された納豆に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素処理した大豆およびそれを用いた納豆に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、納豆は、原料となる大豆を選別する選別工程、選別された大豆を洗浄する洗浄工程、洗浄された大豆を水に浸漬する浸漬工程、浸漬した大豆を蒸し煮する蒸煮工程、蒸し煮された大豆に納豆菌を接種する接種工程、納豆菌が接種された大豆を納豆容器に充填し、たれ、からし等の添付品を添付する充填工程、容器に充填された大豆を発酵させ、納豆を形成する発酵工程、形成された納豆を熟成させる熟成工程、包装する包装工程を経て製造され出荷される。
【0003】
従来、例えば、選別工程における原料大豆品種の選択、浸漬工程における浸漬条件の変更(例えば、特許文献1)、蒸煮工程における蒸煮条件の変更(例えば、特許文献2)、または、接種工程における納豆菌の選択(例えば、特許文献3)などによって、納豆の軟らかさを調整することが試みられてきた。
【0004】
一方、食品の軟化を目的に酵素処理することが試みられており、例えば、玄米(特許文献4)や米菓(特許文献5)の軟化にセルラーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼなどの酵素を用いた例や、梅やアンズの果実組織の軟化にペクチン質分解酵素を用いた例(特許文献6)が知られている。
【0005】
大豆を酵素処理した例としては、例えば、蒸煮時間の短縮のために、大豆をセルラーゼ含有水溶液中に浸漬した後、水切り放置し、次いで蒸煮後乾燥した例(特許文献7)、豆腐の製造においてオカラの発生の低減を目的とし、大豆をセルラーゼおよびペクチナーゼで処理した例(非特許文献1)、納豆製造において大豆の種皮を脱皮するために、原料大豆をセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼを混合した水溶液に浸漬した例(特許文献8)が挙げられるが、納豆用大豆の軟化を目的として酵素処理した例は見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−177860号公報
【特許文献2】特開2007−135406号公報
【特許文献3】特開2009−39080号公報
【特許文献4】特開平10−94368号公報
【特許文献5】特開平9−205992号公報
【特許文献6】特開2002−2384890号公報
【特許文献7】特開昭59−113864号公報
【特許文献8】特開昭48−77053号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】馬場紀子、堤智博、「酵素を利用した大豆加工技術」、福岡県農業総合試験場研究報告26、13〜17頁、2007年。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、納豆製造における大豆の浸漬工程において酵素処理することによって、脱皮させることなく軟らかな納豆を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、研究を重ねる中で、セルラーゼとペクチナーゼとを組み合わせて、低温で酵素処理することによって、納豆用大豆に適した浸漬時間を確保しながら、軟らかな納豆を製造することができることを見出し、さらに鋭意研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、納豆を製造する方法であって、大豆をセルラーゼおよびペクチナーゼを含有する酵素液に17℃〜24℃で浸漬する工程を含む、前記方法に関する。
また本発明は、製造される納豆が脱皮していない、前記の方法に関する。
さらに本発明は、浸漬温度が、18℃〜22℃である、前記の方法に関する。
また本発明は、浸漬時間が、12時間〜14時間である、前記の方法に関する。
さらに本発明は、前記の方法によって製造された納豆に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、納豆製造時に新たに特別な酵素処理工程を必要とすることなく、浸漬工程において酵素処理することができ、通常の硬さの原料大豆を用いた場合は、通常よりも軟らかい納豆を製造することができる。また、通常は納豆製造用としては用いられない硬度の高い大豆を原料に用いた場合であっても、適度な軟らかさの納豆を製造することができ、原料大豆の硬度によらず、安定した軟らかさの納豆を提供することができる。
【0012】
また本発明によれば、酵素処理が浸漬工程において行われるため、用いた酵素が浸漬工程後の蒸煮工程において高温に曝されるため失活し、後の納豆菌による発酵工程等に悪影響を及ぼすことなく、納豆の軟化を実現することができる。さらに本発明による軟化は、単に酵素によって軟化したものではなく、大豆種皮を酵素処理したことによって納豆菌の豆への侵入が容易になり、納豆菌による発酵によって起きる軟化が相乗的に作用したものであり、軟化にムラが生じることなく豆全体に亘って適切に軟化したものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の納豆の製造方法は、浸漬工程において酵素処理する以外は、通常の製造方法と同じであってよく、用いる原料大豆の品種も、とくに限定されない。
本発明において用いるセルラーゼは、とくに限定されず、市販の各種セルラーゼを用いることができるが、作用温度とpHの観点から、セルラーゼXP−425(ナガセケムテックス株式会社製)、セルラーゼSS(ナガセケムテックス株式会社製)、セルラーゼXL−531(ナガセケムテックス株式会社製)が好ましく、とくにセルラーゼXP−425(ナガセケムテックス株式会社製)が好ましい。
また、セルラーゼの添加量は、とくに限定されないが、本発明における作用温度、pH条件では、原料大豆に対して0.02〜1%の添加量で軟化効果が得られ、0.02%で十分な軟化効果が得られた。
【0014】
本発明において用いるペクチナーゼは、とくに限定されず、市販の各種ペクチナーゼを用いることができるが、作用温度とpHの観点から、ペクチナーゼXP−534NEO(ナガセケムテックス株式会社製)が好ましい。
また、ペクチナーゼの添加量は、とくに限定されないが、本発明における温度、pH条件では、原料大豆に対して0.008〜1%の添加量で軟化効果が得られ、0.008%で十分な軟化効果が得られた。
【0015】
本発明の納豆の製造方法において、浸漬温度は、17℃〜24℃、好ましくは、18℃〜22℃、とくに好ましくは、18℃〜20℃である。浸漬温度が17℃未満では酵素が働くなくなり、所望の軟らかさにならない。また浸漬温度が高いと、大豆の吸水が比較的短時間で起こってしまい、十分な酵素処理時間を確保できない傾向がある。すなわち、25℃〜30℃程度とすると、浸漬時間が約6時間程度で大豆の吸水が終わり、酵素反応時間としては短く、所望の軟らかさにならない。また30℃を超えると、納豆用大豆としては利用できなくなる。
【0016】
本発明の納豆の製造方法において、酵素処理時間は浸漬時間と等しく、浸漬温度などに応じて適宜調整することが可能であるが、典型的には、12〜16時間、とくに好ましくは、12〜14時間である。
また浸漬工程は、静置で行うのが好ましい。振盪して行うと、液中へ栄養分が流出し、また、大豆サポニンなどの成分により泡立ってしまい、品質の劣化を起こす虞がある。なお、酵素液が大豆に十分に馴染むように、浸漬工程の最初にバブリングを行うことが好ましい。このようにすることで、酵素反応のムラを無くして、一様に均質な軟らかさの納豆を製造することができる。
【0017】
本発明の納豆の製造方法において、大豆を浸漬させる酵素液のpHは、好ましくは、6.0〜8.0であり、とくに好ましくは6.5〜7.5である。pHが低いと、納豆菌による発酵に悪影響を及ぼす虞がある。
【0018】
以下に、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の各例に限定されるものではない。
【0019】
〔実験例1〕 酵素の組合せ
最初に(1)酵素無添加、(2)セルラーゼ単独(2%)、(3)ペクチナーゼ単独(2%)、(4)酵素混合(セルラーゼ1%+ペクチナーゼ1%)の各浸漬液(いずれもpH=約7.0)を用意した。いずれもセルラーゼは、セルラーゼXP−425(ナガセケムテックス株式会社製)を用い、ペクチナーゼは、ペクチナーゼXP−534NEO(ナガセケムテックス株式会社製)を用いた。次に、前記(1)〜(4)の各浸漬液に、大豆(小粒)を20℃〜22℃で14時間浸漬した後、常法に従って納豆を製造した。室出し1日後において納豆の硬度を測定した(表1)。また納豆の硬度は、各処理区の納豆から任意に12粒の豆を採取し、その夫々の硬度をFUDOHレオメーター(株式会社レオテック)によって測定し、最大、最小硬度を除く10粒の平均を結果とした。
【表1】

【0020】
セルラーゼとペクチナーゼとを組み合わせることにより、低温であっても安定して納豆硬度が低減され、軟らかい納豆を製造することができた。また(4)酵素混合の納豆は、外観、糸引き、香り、味のいずれにおいても(1)酵素無添加のものと同等に良好であり、脱皮もみられなかった。種皮は煮豆の潰れを防ぐ役割があり、また種皮がないものは、あるものに比べて納豆菌による発酵が進み品質の劣化が早くなるので、酵素添加によって脱皮することなく納豆を製造できたことは、納豆の品質上好ましい結果となった。
【0021】
〔実験例2〕 大豆品種
小粒および極小粒の大豆を用いて納豆硬度を測定した(表2)。酵素は実験例1と同じ酵素を用い、酵素混合(セルラーゼ0.02%+ペクチナーゼ0.008%)浸漬液にて大豆を温度17〜22℃で14時間30分浸漬した後、常法に従って納豆を製造した。硬度測定は室出し2日後に各処理区の納豆から任意に24粒の豆を採取し、その夫々の硬度をFUDOHレオメーター(株式会社レオテック)によって測定し、最大、最小硬度各2粒を除く20粒の平均を結果とした。
【表2】

【0022】
いずれの大豆品種においても、セルラーゼとペクチナーゼとを組み合わせたことによる納豆の軟化効果が得られることがわかった。また酵素の添加量は原料大豆に対してセルラーゼ0.02%、ペクチナーゼ0.008%で十分に効果があることがわかった。
【0023】
〔実験例3〕 浸漬条件(温度および時間)
浸漬工程を、(A)温度15.5℃〜16.5℃で14時間行った場合、(B)温度18℃〜20℃で14時間行った場合、及び(C)25℃〜26℃で5時間行った場合の納豆硬度を測定した(表3)。なお、大豆(極小粒)を用い、浸漬工程の温度、時間条件、および酵素混合(セルラーゼ0.02%+ペクチナーゼ0.008%)浸漬液以外は、実験例1と同じ条件で行った。
【表3】

【0024】
浸漬温度が17℃未満であると、酵素活性の作用温度としては低く、納豆硬度の軟化は見られなかった。また浸漬温度を25℃以上にすると、約5時間〜6時間程度で大豆の吸水が十分となってしまい、酵素処理時間としては短すぎ、納豆硬度の軟化は見られなかった。浸漬温度が18℃〜20℃で14時間浸漬すると、納豆硬度の軟化が見られ、この温度条件が納豆硬度の軟化に適していることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
納豆を製造する方法であって、大豆をセルラーゼおよびペクチナーゼを含有する酵素液に17℃〜24℃で浸漬する工程を含む、前記方法。
【請求項2】
製造される納豆が脱皮していない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
浸漬温度が、18℃〜22℃である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
浸漬時間が、12時間〜14時間である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法によって製造された納豆。