説明

酸化またはアンモ酸化用触媒の製造方法

【課題】 目的物の選択率が高い、不飽和酸または不飽和ニトリルの製造に用いる、酸化物触媒の製造方法であって、溶液またはスラリーを大量に調合および/または保存するための新規な製造方法を提供すること。
【解決手段】 下記の一般組成式(1)で表される成分組成となるように原料を調合および/または保存する工程において、SbまたはTeから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む溶液またはスラリーを、気相酸素濃度が5000ppm未満の雰囲気で調合および/または保存することを特徴とする酸化物触媒の製造方法;
Mo1 a Nbb c n ・・・(1)
(式中、XはSbまたはTeから選ばれる少なくとも1種以上の元素、a、b、c、nはMo1原子当たりの原子比を表し、aは0.1≦a≦1、bは0.01≦b≦1、cは0.01≦c≦1、そしてnは構成金属の原子価によって決まる数である。)

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化または気相接触アンモ酸化反応に用いる酸化物触媒の製造方法、および該酸化物触媒を用いる不飽和酸または不飽和ニトリルの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、プロピレンまたはイソブチレンを気相接触酸化または気相接触アンモ酸化して対応する不飽和カルボン酸または不飽和ニトリルを製造する方法が良く知られているが、近年、プロピレンまたはイソブチレンに替わってプロパンまたはイソブタンを気相接触酸化または気相接触アンモ酸化によって対応する不飽和カルボン酸または不飽和ニトリルを製造する方法が着目されており、種々の触媒製造方法および反応方法が提案されている。例えば、Mo−V−Nb−SbまたはMo−V−Nb−Teを含む酸化物触媒の製造方法が、特開平6−285372号公報、特開平6−227819号公報、特開平7−144132号公報、特開平7−289907号公報、特開平7−315842号公報、特開平10−28862号公報、特開平11−42434号公報、特開平11−43314号公報、特開平10−57479号公報、特開2000−70714号公報、特開2000−143244号公報、特開2001−58827号公報などに開示されている。
【0003】また、Mo−V−Sbを含む触媒の製造方法が、特開2000−334303号公報、特開2000−354765号公報、特開2000−317309号公報、特開2000−254496号公報、特開2000−256257号公報、特開2000−246108号公報、特開2000−51693号公報、特開平11−285636号公報、特開平11−285637号公報、特開平10−230164号公報などに開示されており、反応液中の酸化還元反応を促進する目的で、窒素ガス雰囲気下の反応器内に酸素ガス含有気体を吹き込む方法が示されている。特に、酸素ガス含有気体の酸素ガス濃度は0.5vol%以上であると明記されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記の公報などに開示された酸化物調製法により得られた触媒を、プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化または気相接触アンモ酸化反応に用いるとき、未だ目的物の選択率は不十分である。特に、流動床反応に好適な担持触媒は、目的物の選択率が低下しがちである。また、触媒を大量に製造するとき、調合した溶液またはスラリーが長時間安定であることが好ましいが、従来技術では調合液を安定に保存することができず、触媒製造工程における操作が非常に煩雑となる。
【0005】特開2000−334303号公報などで言及されている方法は、酸素ガスを容器内に導入することが狙いであり、酸素ガスを導入しないことが狙いの本件特許とは、酸素ガス濃度を規定する目的が大きく異なる。その他の公報においても、原料を調合する容器内が、酸素ガスの希薄な雰囲気であること、具体的には、容器内の酸素濃度については詳細には言及されておらず、具体例も記載されていない。特に、調合した溶液またはスラリーの保存時における容器内の気相酸素濃度については、全く言及されていない。以上の点から、本発明者らは該酸化物触媒製造時の調合した溶液またはスラリーの調合時及び/または保存時の雰囲気中の酸素濃度を研究する内、該酸素濃度が一定条件を満たした時、目的物の選択率が高い、気相接触酸化または気相接触アンモ酸化用触媒を大量に製造することができることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0006】本発明の第1の目的は、目的物の選択率が高い、不飽和酸または不飽和ニトリルの製造に用いる、酸化物触媒の製造方法であって、溶液またはスラリーを大量に調合および/または保存するための新規な製造方法を提供することである。第2の目的は、上記の製造方法により得られる酸化物触媒を用いて、プロパンまたはイソブタンを気相接触酸化または気相接触アンモ酸化反応させ、対応する不飽和酸または不飽和ニトリルを製造する方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化または気相接触アンモ酸化反応に用いる触媒の製造方法について鋭意検討した結果、溶液またはスラリー中にSbまたはTeから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含み、気相酸素濃度が5000ppm未満の雰囲気下で得られる触媒を用いることにより、上記課題が解決されることを見出し、以下の1.〜11.の発明をなすに至った。
【0008】即ち、本発明は、1.プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応に用いる触媒の製造方法であって、下記の一般組成式(1)で表される成分組成となるように原料を調合および/または保存する工程において、SbまたはTeから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む溶液またはスラリーを、気相酸素濃度が5000ppm未満の雰囲気で調合および/または保存することを特徴とする酸化物触媒の製造方法;
Mo1 a Nbb c n ・・・(1)
(式中、XはSbまたはTeから選ばれる少なくとも1種以上の元素、a、b、c、nはMo1原子当たりの原子比を表し、aは0.1≦a≦1、bは0.01≦b≦1、cは0.01≦c≦1、そしてnは構成金属の原子価によって決まる数である。)
【0009】2.該溶液またはスラリーが、70℃以上であることを特徴とする、1.に記載の酸化物触媒の製造方法、3.該溶液またはスラリーが、SbまたはTeから選ばれる少なくとも1種以上の元素、Moおよび/またはVを含むことを特徴とする、1.または2.のいずれかに記載の酸化物触媒の製造方法、4.該気相酸素濃度が、1時間平均値であることを特徴とする1.〜3.のいずれかに記載の酸化物触媒の製造方法、5.XがSbであることを特徴とする1.〜4.のいずれかに記載の酸化物触媒の製造方法、6.該酸化物触媒が、触媒構成元素の酸化物とシリカの全重量に対し、SiO2 換算で20〜60重量%のシリカに担持されていることを特徴とする、1.〜5.のいずれかに記載の酸化物触媒の製造方法、7.該ニオブの原料が、ジカルボン酸とニオブの化合物を含み、ジカルボン酸/ニオブのモル比が1〜4のニオブ含有液であることを特徴とする、1.〜6.のいずれかに記載の酸化物触媒の製造方法、
【0010】8.該ニオブ含有液が、更に過酸化水素を含有し、過酸化水素/ニオブのモル比が0.5〜10であることを特徴とする1.〜7.のいずれかに記載の酸化物触媒の製造方法、9.プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応に用いる触媒の製造方法であって、(I)原料を調合および/または保存する工程、(II)乾燥工程、(III)焼成工程から成ることを特徴とする1.〜8.のいずれかに記載の酸化物触媒の製造方法、10.1.〜9.のいずれか1項に記載の酸化物触媒の製造方法により製造したことを特徴とするプロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応に用いる酸化物触媒、11.プロパンまたはイソブタンを気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応させて、対応する不飽和酸または不飽和ニトリルを製造するにあたり、10項に記載の酸化物触媒を用いることを特徴とする不飽和酸または不飽和ニトリルの製造方法、に関するものである。
【0011】以下、本発明を詳細に説明する。本発明の製造方法により得られる触媒は下記の一般組成式(1)で示される酸化物触媒である。
Mo1 a Nbb c n ・・・(1)
(a、b、c、nはMo1原子当たりの原子比を表し、aは0.1≦a≦1、bは0.01≦b≦1、cは0.01≦c≦1、そしてnは構成金属の原子価によって決まる数である。)
成分XはSbであることが好ましい。また、Mo1原子当たりの原子比a〜cは、それぞれ、0.1〜0.4、0.01〜0.2、0.1〜0.5が好ましい。
【0012】本発明の製造方法により得られる酸化物触媒は、シリカ担持触媒が好ましい。酸化物触媒がシリカ担持触媒の場合、高い機械的強度を有するので、流動床反応器を用いた気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応に好適である。シリカ担体の含有量は、触媒構成元素の酸化物とシリカ担体から成るシリカ担持酸化物触媒の全重量に対して、SiO2 換算で20〜60重量%であることが好ましく、より好ましくは25〜55重量%である。本発明の酸化物触媒の製造方法は、一般的な方法で調製することができる。
(I)原料を調合および/または保存する工程、(II)工程(I)で得られた原料調合液を乾燥し、触媒前駆体を得る工程、(III)工程(II)で得られた触媒前駆体を焼成する工程の3つの工程を経て製造することができる。
【0013】本発明における調合とは、水性溶媒に、触媒構成元素の原料を溶解または分散させることである。保存とは、調合の任意の段階中に得られる溶液またはスラリーを、3時間以上保持することを言う。保存方法は特に限定されないが、攪拌、温度調整をしてもよい。調合の少なくとも任意の段階中の温度、および/または保存温度は70℃以上が好ましく、70℃以上100℃未満が更に好ましい。調合の少なくとも任意の段階中の容器内、および/または保存中の容器内は、気相酸素濃度が5000ppm未満であることが好ましく、特に1000ppm以下であることがより好ましい。酸素濃度を低下させる方法は特に限定されないが、窒素ガス、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス流通下とすることが好ましい。気相酸素濃度は、溶液またはスラリーの保存中、5分以内に一度は測定を行い、各測定結果の1時間加重平均値を算出して決定することが好ましい。また気相酸素濃度を測定する場所は、溶液またはスラリーと気相との界面近傍であることが好ましい。
【0014】原料とは、工程(I)で用いるものである。本発明の調製方法で用いる金属の原料は特に限定されないが、例えば、下記の化合物を用いることができる。MoとVの原料は、それぞれ、ヘプタモリブデン酸アンモニウム[(NH4 6 Mo7 24・4H2 O]とメタバナジン酸アンモニウム[NH4 VO3 ]を好適に用いることができる。Nbの原料としては、ニオブ酸、ニオブの無機酸塩およびニオブの有機酸塩を用いることができる。特にニオブ酸が良い。ニオブ酸はNb2 5 ・nH2 Oで表され、ニオブ水酸化物または酸化ニオブ水和物とも称される。更にジカルボン酸/ニオブのモル比が1〜4のNb原料液として用いることが好ましい。ジカルボン酸はシュウ酸が好ましい。Sbの原料としては三酸化二アンチモン〔Sb2 3 〕が好ましい。Teの原料としてはテルル酸〔H6 TeO6 〕が好ましい。シリカの原料はシリカゾルが好ましい。
【0015】以下に、工程(I)〜(III)からなる本発明の好ましい触媒調製例を説明する。
(工程I:原料を調合および/または保存する工程)先に述べた原料を用い、原料調合液を得る。以下に一例を示す。ヘプタモリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、三酸化二アンチモンを水に添加し、容器内を十分に窒素置換した後、70℃以上に加熱して混合液(A)を調製する。この時の容器内雰囲気は低酸素濃度下であることが好ましく、特に気相酸素濃度が5000ppm未満であることが好ましい。また、混合液(A)を保存している間も、容器内は低酸素濃度下であることが好ましく、特に気相酸素濃度が5000ppm未満であることが好ましい。
【0016】ニオブ酸とシュウ酸を水中で加熱撹拌して混合液(B)を調製する。混合液(B)は特開平11−253801号公報に教示されている方法で得られるニオブ混合液を用いることもできる。更に、混合液(B)に、過酸化水素を添加し、混合液(B’)を調製する。この時、H2 2 /Nb(モル比)は0.5〜10、特に、1〜5が好ましい。目的とする組成に合わせて、混合液(A)、混合液(B’)を好適に混合して、原料調合液を得る。本発明のアンモ酸化用触媒がシリカ担持触媒の場合、シリカゾルを含むように原料調合液が調製される。シリカゾルは適宜添加することができる。また、アンチモンを用いる場合は、混合液(A)、または、調合途中の混合液(A)の成分を含む液に、過酸化水素を添加することが好ましい。この時、H22 /Sb(モル比)は0.01〜5、特に1〜3が好ましい。また、この時、30℃〜70℃で、30分〜2時間撹拌を続けることが好ましい。
【0017】(工程II:乾燥工程)工程(I)で得られた原料調合液を噴霧乾燥法によって乾燥させ、乾燥粉体を得る。噴霧乾燥法における噴霧化は遠心方式、二流体ノズル方式または高圧ノズル方式を採用することができる。乾燥熱源は、スチーム、電気ヒーターなどによって加熱された空気を用いることができる。熱風の乾燥機入口温度は150〜300℃が好ましい。
(工程III:焼成工程)乾燥工程で得られた乾燥粉体を焼成することによって酸化物触媒を得る。焼成は窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの実質的に酸素を含まない不活性ガス雰囲気下、好ましくは、不活性ガスを流通させながら、500〜800℃、好ましくは600〜700℃で実施する。焼成時間は0.5〜20時間、好ましくは1〜8時間である。焼成は、回転炉、トンネル炉、管状炉、流動焼成炉等を用いて行うことができる。焼成は反復することができる。焼成工程の前に、乾燥粉体を大気雰囲気下または空気流通下で200〜400℃、1〜5時間で前焼成することも好ましい。
【0018】このようにして製造された酸化物触媒の存在下、プロパンまたはイソブタンを気相接触酸化または気相接触アンモ酸化反応させて、対応する不飽和酸または不飽和ニトリルを製造する。プロパンまたはイソブタンとアンモニアの供給原料は必ずしも高純度である必要はなく、工業グレードのガスを使用できる。供給酸素源として空気、酸素を富化した空気または純酸素を用いることができる。更に、希釈ガスとしてヘリウム、アルゴン、炭酸ガス、水蒸気、窒素などを供給してもよい。
【0019】プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化は以下の条件で行うことが出来る。反応に供給する酸素のプロパンまたはイソブタンに対するモル比は0.1〜6、好ましくは0.5〜4である。反応温度は300℃〜500℃、好ましくは350℃〜450℃である。反応圧力は5×104 〜5×105 Pa、好ましくは1×105 〜3×105Paである。接触時間は0.1〜10(sec・g/cc)、好ましくは0.5〜5(sec・g/cc)である。本発明において、接触時間は次式で決定される。
接触時間(sec・g/cc)=(W/F)×273/(273+T)
ここでW=充填触媒量(g)
F=標準状態(0℃、1.013×105 Pa)での原料混合ガス流量(Ncc/sec)
T=反応温度(℃)
である。
【0020】プロパンまたはイソブタンの気相接触アンモ酸化は以下の条件で行うことが出来る。反応に供給する酸素のプロパンまたはイソブタンに対するモル比は0.1〜6、好ましくは0.5〜4である。反応に供給するアンモニアのプロパンまたはイソブタンに対するモル比は0.3〜1.5、好ましくは0.8〜1.0である。反応温度は350℃〜500℃、好ましくは380℃〜470℃である。反応圧力は5×104 〜5×105 Pa、好ましくは1×105 〜3×105Paである。接触時間は0.1〜10(sec・g/cc)、好ましくは0.5〜5(sec・g/cc)である。反応方式は、固定床、流動床、移動床など従来の方式を採用できるが、反応熱の除去が容易な流動床反応器が好ましい。また、本発明の反応は、単流式であってもリサイクル式であってもよい。
【0021】
【発明の実施の形態】以下に本発明の製造方法により得られた酸化物触媒について、触媒の調製実施例およびプロパンの気相接触アンモ酸化反応によるアクリロニトリルの製造実施例を用いて説明するが、本発明はその要旨を越えない限りこれら実施例に限定されるものではない。プロパンのアンモ酸化反応の成績は反応ガスを分析した結果を基に、次式で定義されるプロパン転化率およびアクリロニトリル選択率を指標として評価した。
プロパン転化率(%)=(反応したプロパンのモル数)/(供給したプロパンのモル数)×100アクリロニトリル選択率(%)=(生成したアクリロニトリ ルのモル数)/(反応したプロパンのモル数)×100
【0022】(ニオブ原料液の調製)特開平11−253801号公報に倣って、以下の方法でニオブ原料液を調製した。水9570gにNb2 5 として80.2重量%を含有するニオブ酸1320gとシュウ酸二水和物〔H2 2 4 ・2H2 O〕5040gを混合した。仕込みのシュウ酸/ニオブのモル比は5.1、仕込みのニオブ濃度は0.500(mol−Nb/Kg−液)である。この混合液を95℃で1時間加熱撹拌することによって、ニオブが溶解した水溶液を得た。この水溶液を静置、氷冷後、固体を吸引濾過によって濾別し、均一なニオブ含有液を得た。このニオブ含有液のシュウ酸/ニオブのモル比は下記の分析により2.40であった。るつぼにこのニオブ含有液10gを精秤し、95℃で一夜乾燥後、600℃で1時間熱処理し、Nb2 5 0.824gを得た。この結果から、ニオブ濃度は0.62(mol−Nb/Kg−液)であった。
【0023】300mlのガラスビーカーにこのニオブ含有液3gを精秤し、約80℃の熱水200mlを加え、続いて1:1硫酸10mlを加えた。得られた溶液をホットスターラー上で液温70℃に保ちながら、攪拌下、1/4規定KMnO4 を用いて滴定した。KMnO4 によるかすかな淡桃色が約30秒以上続く点を終点とした。シュウ酸の濃度は、滴定量から次式に従って計算した結果、1.488(mol−シュウ酸/Kg)であった。
2KMnO4 +3H2 SO4 +5H2 2 4 →K2 SO4 +2MnSO4 +10CO2 +8H2 O得られたニオブ含有液は、シュウ酸/ニオブのモル比を調整することなく、下記の触媒調製のニオブ原料液(B−1)として用いた。
【0024】
【実施例1】(触媒の調製)仕込み組成式がMo1 0.21Nb0.10Sb0.28n /45.0wt%−SiO2 で示される酸化物触媒を次のようにして製造した。水9844gにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH4 6 Mo7 24・4H2 O〕を1964.9g、メタバナジン酸アンモニウム〔NH4 VO3 〕を273.4g、三酸化二アンチモン〔Sb2 3 〕を454.2g加え、容器内に窒素ガスを流通させ、攪拌しながら90℃で2時間30分間加熱して混合液A−1を得た。更に、この混合液A−1を90℃で168時間、窒素気流下で攪拌しながら保存し、混合液A’−1を得た。混合液A−1を保存している間、容器内の気相酸素濃度は30ppmであった。
【0025】ニオブ原料液(B−1)1795.0gに、H2 2 として15wt%を含有する過酸化水素水を504.7g添加し、室温で10分間攪拌混合して、混合液B’−1を調製した。得られた混合液A’−1を70℃に冷却した後にSiO2 として30.6wt%を含有するシリカゾル6461.3gを添加した。更に、H2 2 として15wt%を含有する過酸化水素水1059.8gを添加し、50℃で1時間撹拌を続けた。次に混合液B’−1を添加して原料調合液を得た。得られた原料調合液を、遠心式噴霧乾燥器に供給して乾燥し、微小球状の乾燥粉体を得た。乾燥機の入口温度は210℃、そして出口温度は120℃であった。得られた乾燥粉体480gを直径3インチのSUS製焼成管に充填し、1800Ncc/minの窒素ガス流通下、管を回転させながら、640℃で2時間焼成して触媒を得た。
【0026】(プロパンのアンモ酸化反応)内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に調製して得られた触媒を45g充填し、反応温度440℃、反応圧力常圧下にプロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:0.6:1.5:5.6のモル比の混合ガスを接触時間3.0(sec・g/cc)で供給した。得られた結果を表1に示す。
【0027】
【実施例2】(触媒の調製)仕込み組成式がMo1 0.21Nb0.10Sb0.28n /45.0wt%−SiO2 で示される酸化物触媒を次のようにして製造した。実施例1で混合液A−1の保存を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして製造した。得られた触媒を用いて、実施例1と同様な方法でアンモ酸化反応を行った。結果を表1に示す。
【実施例3】(触媒の調製)仕込み組成式がMo1 0.21Nb0.10Sb0.28n /45.0wt%−SiO2 で示される酸化物触媒を次のようにして製造した。実施例1で混合液A−1を保存している間、容器内の気相酸素濃度を1000ppmとしたこと以外は実施例1と同様にして製造した。得られた触媒を用いて、実施例1と同様な方法でアンモ酸化反応を行った。結果を表1に示す。
【0028】
【比較例1】(触媒の調製)仕込み組成式がMo1 0.21Nb0.10Sb0.28n /45.0wt%−SiO2 で示される酸化物触媒を次のようにして製造した。実施例1で混合液A−1を保存している間、容器内の気相酸素濃度を10000ppmとしたこと以外は実施例1と同様にして製造した。得られた触媒を用いて、実施例1と同様な方法でアンモ酸化反応を行った。結果を表1に示す。
【比較例2】(触媒の調製)仕込み組成式がMo1 0.21Nb0.10Sb0.28n /45.0wt%−SiO2 で示される酸化物触媒を次のようにして製造した。実施例1で混合液A−1を保存している間、容器内を大気雰囲気下としたこと以外は実施例1と同様にして製造した。得られた触媒を用いて、実施例1と同様な方法でアンモ酸化反応を行った。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】


【0030】
【発明の効果】本発明の触媒製造方法により、原料調合液を安定に保存することが出来る。また、得られる触媒を用いることによって、高い選択率で不飽和ニトリルを製造することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応に用いる酸化物触媒の製造方法であって、下記の一般組成式(1)で表される成分組成となるように原料を調合および/または保存する工程において、SbまたはTeから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む溶液またはスラリーを、気相酸素濃度が5000ppm未満の雰囲気で調合および/または保存することを特徴とする酸化物触媒の製造方法;
Mo1 a Nbb c n ・・・(1)
(式中、XはSbまたはTeから選ばれる少なくとも1種以上の元素、a、b、c、nはMo1原子当たりの原子比を表し、aは0.1≦a≦1、bは0.01≦b≦1、cは0.01≦c≦1、そしてnは構成金属の原子価によって決まる数である。)
【請求項2】 該溶液またはスラリーが、70℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物触媒の製造方法。
【請求項3】 該溶液またはスラリーが、SbまたはTeから選ばれる少なくとも1種以上の元素、Moおよび/またはVを含むことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の酸化物触媒の製造方法。
【請求項4】 該気相酸素濃度が、1時間平均値であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸化物触媒の製造方法。
【請求項5】 XがSbであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸化物触媒の製造方法。
【請求項6】 該酸化物触媒が、触媒構成元素の酸化物とシリカの全重量に対し、SiO2 換算で20〜60重量%のシリカに担持されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸化物触媒の製造方法。
【請求項7】 該ニオブの原料が、ジカルボン酸とニオブの化合物を含み、ジカルボン酸/ニオブのモル比が1〜4のニオブ含有液であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の酸化物触媒の製造方法。
【請求項8】 該ニオブ含有液が、更に過酸化水素を含有し、過酸化水素/ニオブのモル比が0.5〜10であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の酸化物触媒の製造方法。
【請求項9】 プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応に用いる酸化物触媒の製造方法であって、(I)原料を調合および/または保存する工程、(II)乾燥工程、(III)焼成工程から成ることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の酸化物触媒の製造方法。
【請求項10】 請求項1〜9のいずれか1項に記載の酸化物触媒の製造方法により製造したことを特徴とするプロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応に用いる酸化物触媒。
【請求項11】 プロパンまたはイソブタンを気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応させて、対応する不飽和酸または不飽和ニトリルを製造するにあたり、請求項10に記載の酸化物触媒を用いることを特徴とする不飽和酸または不飽和ニトリルの製造方法。

【公開番号】特開2003−93873(P2003−93873A)
【公開日】平成15年4月2日(2003.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−13675(P2002−13675)
【出願日】平成14年1月23日(2002.1.23)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】