説明

酸化グラフェンシート分散体およびその製造方法

【課題】幅の均一性に優れたリボン状酸化グラフェンシートおよびそのような酸化グラフェンシートを大量生産することが可能な製造方法を提供する。
【解決手段】酸化グラフェンシート分散体は、リボン状酸化グラフェンシートを含む。最大幅の変動係数が、0.35以下であるリボン状グラファイトを酸化してリボン状酸化グラファイトを得、媒体中で該リボン状酸化グラファイトから酸化グラフェンシートを剥離して分散体を得ることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リボン状の形態を有する酸化グラフェンシート分散体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンシートは、炭素原子からなる六員環が二次元的に配列したシート状物質であり、グラファイトの単層に相当する。グラフェンシートは、軽く薄いにもかかわらず、高い機械的強度、高い電子移動度、高熱伝導性を有するため、透明導電膜、半導体電子回路、高感度センサ等への応用が期待され、活発な研究開発が行われている。特に、タッチパネル、薄型ディスプレイ、太陽電池、電子ペーパー等の透明電極に適用される透明導電膜に対しては、フレキシブルさが求められている。現在、単層カーボンナノチューブ、導電性ポリマー、金属ナノワイヤー等がフレキシブルな導電材料として検討されているが、透明性および高い電子移動度からグラフェンシートが注目されている。
【0003】
一般的なグラフェンシートの作製方法としては、大別して、(i)金属箔上に化学気相成長(CVD)でグラフェンシートを作製する方法と、(ii)グラフェンシートが複数枚積層してできているグラファイトを酸化し、生成した酸化グラフェンシート(水溶性)を超音波処理等で1枚単位で剥離し、これを還元してグラフェンシートに戻す方法との2つがある。後者の方法では、酸化グラフェンシート分散液を基板上に塗布して還元するという簡便なウエットプロセスで電極材を作製できるため、コスト的に有利である。ただし、通常のグラファイトを用いる場合、得られる酸化グラフェンの形状およびサイズが不揃いであるため、電極材としたときに折り曲げ等で断線する可能性やグラフェンシート間の接触抵抗の発生が懸念される。そのため、不定形であればできるだけ面積の大きな酸化グラフェンシートの作製が、面積が小さいのであればサイズが揃っており、長さ/幅比が大きい酸化グラフェンシート(以下、リボン状酸化グラフェンシートとする)の作製が求められている。
【0004】
また、リボン状グラフェンシート、特に幅が10nm未満のリボン状グラフェンシートは、別の局面で、金属または半導体的物性を持つ単層カーボンナノチューブ(CNT)の代わりとして注目されている。これは、金属または半導体的物性を持つ単層カーボンナノチューブの金属または半導体的物性がキラリティ依存性を持つので、利用するためにはキラリティに基づいた分離が必要となるためである。
【0005】
リボン状グラフェンシートを作製する方法としては、リソグラフィーを用いる方法、CNTを酸化またはエッチングにより切開する方法(例えば、非特許文献1および2)、多環芳香族化合物を特定の基板に蒸着し、当該蒸着した化合物を化学反応により結合する方法(例えば、非特許文献3)が知られている。これらの方法は得られるグラフェンシートの形状を制御することに成功しているが、何れの方法も原料が高価であったり、工程が複雑で高価な装置が必要であったりして大量生産に向かない。
【0006】
以上のように、リボン状で、サイズ(特に、幅)の揃ったグラフェンシートが求められているにもかかわらず、その大量生産は未だ実現されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nature,Vol.458,pp.872−876(2009)
【非特許文献2】Nature,Vol.456,pp.877−880(2009)
【非特許文献3】Nature,Vol.466,pp.470−473(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、酸化グラフェンを還元することによってグラフェンが得られることが知られている。本発明者らは、幅の均一性に優れたリボン状酸化グラフェンシートを大量生産することができれば、幅の均一性に優れたリボン状グラフェンシートの大量生産に有用となり得るとの着想を得、該着想の下に検討を行った。すなわち、本発明は、幅の均一性に優れたリボン状酸化グラフェンシートおよびそのような酸化グラフェンシートを大量生産することが可能な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の酸化グラフェンシート分散体は、リボン状酸化グラフェンシートを含む。当該リボン状酸化グラフェンシートの最大幅の変動係数は、0.35以下である。
好ましい実施形態によれば、上記リボン状酸化グラフェンシートの最小幅の最大幅に対する比が、0.75〜1である。
本発明の別の局面によれば、酸化グラフェンシート分散体の製造方法が提供される。当該製造方法は、最大幅の変動係数が、0.35以下であるリボン状グラファイトを酸化してリボン状酸化グラファイトを得ること、および媒体中で該リボン状酸化グラファイトから酸化グラフェンシートを剥離して分散体を得ることを含む。
好ましい実施形態によれば、上記リボン状グラファイトが、長さ100nm〜10000nmであり、2〜15層のグラフェンシートからなるグラファイトである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、幅の均一性に優れたリボン状酸化グラフェンシートおよびその製造方法が提供される。当該製造方法によれば、幅および厚みの均一性に優れたリボン状グラファイトを用いることにより、幅の均一性に優れたリボン状酸化グラフェンシートを、大量生産可能な方式で、さらには、簡便かつ安価に分散体の形態で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例で得られたリボン状酸化グラフェンシートの原子間力顕微鏡(AFM)画像(a)と該画像中でリボン状酸化グラフェンシートをトレースした図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
A.酸化グラフェンシート分散体
本発明の酸化グラフェンシート分散体は、最大幅の変動係数が0.35以下であるリボン状酸化グラフェンシートを含む。当該分散体において、リボン状酸化グラフェンシートは、媒体中に分散しており、その一部は溶解していてもよい。当該分散体におけるリボン状酸化グラフェンシートの含有量は、安定に分散され得る限り、特に制限はない。当該含有量は、例えば、0.001重量%〜5重量%であり得る。
【0013】
A−1.リボン状酸化グラフェンシート
上記リボン状酸化グラフェンシートは、単一のシート内における幅の均一性および複数のシート間における幅の均一性の双方に優れている。具体的には、分散体に含まれる個々の酸化グラフェンシートの最小幅の最大幅に対する比は、好ましくは0.75〜1、より好ましくは0.8〜1、さらに好ましくは0.85〜1である。また、分散体に含まれる複数の酸化グラフェンシートの最大幅の変動係数は、0.35以下、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.25以下である。このようにシート内およびシート間における幅の均一性に優れたリボン状酸化グラフェンシートが実際に得られたことが、本発明の成果の1つである。なお、本明細書において「変動係数」とは、標準偏差を平均値で割った値である。また、「リボン状」とは、平たくて細長い形態(例えば、長さ/幅比が5以上)を意味し、「帯状」ともいうことができる。
【0014】
上記リボン状酸化グラフェンシートの最大幅の平均値は、例えば、5nm〜250nm、好ましくは7nm〜200nm、より好ましくは10nm〜150nmの範囲である。
【0015】
上記リボン状酸化グラフェンシートの長さは、目的に応じて適切に設定され得る。長さは、好ましくは0.05μm〜10μmであり、さらに好ましくは0.1μm〜10μmである。
【0016】
上記リボン状酸化グラフェンシートの厚みは、代表的には、酸化グラフェン1層分である。しかしながら、本発明においては、透明性に優れることから、10層以下、好ましくは5層以下、より好ましくは3層以下の酸化グラフェンが積層したシートも酸化グラフェンシートに含むものとする。この場合、10層以下の複数の層の一部がグラフェンシートであってもよい。
【0017】
上記酸化グラフェンシートの幅、厚み、および長さは、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、原子間力顕微鏡(AFM)等の顕微鏡観察によって測定することができる。なお、本明細書において、平均値および変動係数は、10個以上の試料の測定結果に基づいて求められた値をいう。
【0018】
A−2.媒体
上記媒体としては、上記酸化グラフェンシートが安定に分散し得る限り特に制限はなく、任意の適切な媒体が使用され得る。媒体としては、例えば、水;エタノール、ジメチルアセトアミド等の親水性有機溶媒;水と親水性有機溶媒との混合液;等が挙げられる。なかでも水が好ましい。
【0019】
B.酸化グラフェンシート分散体の製造方法
本発明の酸化グラフェンシート分散体の製造方法は、最大幅の変動係数が0.35以下であるリボン状グラファイトを酸化してリボン状酸化グラファイトを得ること(酸化工程)、および、媒体中で該リボン状酸化グラファイトから酸化グラフェンシートを剥離して分散体を得ること(剥離工程)を含む。本発明の分散体の製造方法は、必要に応じて、透析等の精製工程をさらに含み得る。精製工程は、剥離工程と同時に行われてもよい。当該製造方法によれば、上記A項に記載の酸化グラフェンシート分散体が、大量生産可能な方式で、さらには、簡便かつ安価に得られ得る。
【0020】
B−1.酸化工程
酸化工程において用いるリボン状グラファイトは、幅および厚みの均一性に優れている。具体的には、当該リボン状グラファイトの最小幅の最大幅に対する比は、好ましくは0.75〜1であり、より好ましくは0.8〜1であり、さらに好ましくは0.85〜1である。また、最小厚みの最大厚みに対する比は、好ましくは0.85〜1であり、より好ましくは0.9〜1であり、さらに好ましくは0.95〜1である。
【0021】
上記リボン状グラファイトの最大幅の平均値は、好ましくは5nm〜250nm、より好ましくは7nm〜200nm、さらに好ましくは10nm〜150nmであり、最大幅の変動係数は、0.35以下、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.25以下である。
【0022】
上記リボン状グラファイトの最大厚みの平均値は、好ましくは25nm以下、より好ましくは20nm以下、さらに好ましくは15nm以下であり、最大厚みの変動係数は、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.18以下、さらに好ましくは0.15以下である。厚みの下限は、好ましくはグラフェンシート2枚分であり得る。1つの好ましい実施形態においては、上記リボン状グラファイトは、2層〜15層のグラフェンシートからなる。このようなグラファイトであれば、後述の剥離工程において、酸化グラフェンシートの剥離が容易に行われ得る。
【0023】
上記リボン状グラファイトの長さは、目的に応じて適切に設定され得る。長さは、好ましくは100nm〜10000nmであり、より好ましくは100nm〜5000nmである。
【0024】
上記リボン状グラファイトは、例えば、最小幅の最大幅に対する比が0.6〜1であり、最小厚みの最大厚みに対する比が0.7〜1であり、最大幅が5nm〜250nmの範囲内で変動係数0.35以下の平均値を有し、最大厚みが1〜30nmの範囲内で変動係数0.25以下の平均値を有するベルト状の結晶性ポリイミドをグラファイト化することによって得られ得る。このような結晶性ポリイミドは、例えば、ポリイミド合成時に合成条件を制御することにより結晶化させる方法および合成したポリイミドを任意の適切な方法で配向処理する方法のいずれかにより調製することができる。以下に、このようなベルト状の結晶性ポリイミドおよびリボン状グラファイトの作製方法の一例を示すが、これに限定されるものではない。
【0025】
B−1−1.合成による結晶性ポリイミドの調製
上記リボン状グラファイトの作製に用いられる結晶性ポリイミドは、好ましくは、下記式(I)で示される化合物(以下、化合物Iとする)を所定の溶媒中で重合(当該化合物を縮合重合)することにより得られ得る。重合生成物(すなわち、上記結晶性ポリイミド)は、好ましくは固体として析出する。結晶性ポリイミドは、好ましくは、下記式(II)で示される繰り返し単位を有する。
【化1】

【0026】
式(I)中、XおよびXのうちいずれか一方は水素原子であり、他方は水素原子、アルキル基またはアリール基であり、好ましくはアルキル基である。アルキル基は、炭素数が好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜6個の直鎖状または分岐状のアルキル基であり、具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−へキシル基が挙げられる。アルキル基は、好ましくはメチル基またはエチル基である。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基が挙げられる。また、Xは水素原子またはアシル基である。アシル基はRCO−(ただし、Rはアルキル基またはアリール基である)として示される。置換基Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、フェニル基が挙げられ、好ましくはメチル基である。Xは好ましくは水素原子である。
【0027】
上記化合物Iは、任意の適切な方法により調製され得る。例えば、Xが水素原子の場合であれば、4−ニトロ無水フタル酸(4−ニトロ−1,2−ベンゼンカルボン酸無水物:4NPAH)にアルコールを付加させることで、4NPAHの5員環を開環させた後、ニトロ基を還元してアミノ基とすればよい。この場合、XおよびXのうちいずれが水素原子となるかにより2種の構造異性体が生じるので、これら2種の構造異性体をそれぞれ分離精製するようにしてもよい。なお、特段問題がなければ(例えば、2種の構造異性体各々によって生成するポリイミドの組織や収率等があまり変わらない場合)、2種の構造異性体を分離精製することなく混合物として用いてもよい。
【0028】
上記化合物Iを重合させる際に用いられる溶媒としては、化合物Iを溶解可能であり、化合物Iと不要な反応を起こさず、化合物Iの重合条件(例えば、重合温度)下にて安定であり、重合にて生成したポリイミドを固体(例えば、粉体、粒体)として析出させることができるものであれば、任意の適切な溶媒が用いられ得る。より詳細には、当該溶媒は、高沸点の有機溶媒が好ましく、芳香族化合物を含むものであることがさらに好ましい。溶媒の具体例としては、ジイソプロピルナフタレン、ジエチルナフタレン、エチル−イソプロピルナフタレン、シクロヘキシルジフェニル、ジエチルビフェニル、トリエチルビフェニル、ジベンジルトルエンが挙げられる。溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に好ましい溶媒は、ジベンジルトルエンである。
【0029】
上記結晶性ポリイミドの調製は、好ましくは、上記化合物Iを上記溶媒に完全に溶解する溶解工程と、該溶解工程の後、上記式(II)で示される繰り返し単位を有するポリイミドを溶液中から固体として析出させる析出工程と、を含み得る。より詳細には、溶媒に完全に溶解した(すなわち、溶液状態における)化合物Iの重合により、上記式(II)で示される繰り返し単位を有するポリイミドが溶液から固体で析出する。その作用や機構は明らかではないが、ポリイミドを所定の溶媒中の溶液から固体で析出させることにより、細長い帯状体が集合した微粒子状のポリイミドを得ることができる。さらに、このようにして得られるポリイミドは、有利なことに、細長い帯状体の形状およびサイズ(特に、幅および厚み)の均一性に非常に優れている。このようなポリイミドを原材料として用いることにより、幅および厚みの均一性に非常に優れたリボン状グラファイトを得ることができる。析出工程においては、上記溶液はあまり流動させない方が好ましく、撹拌は行わないことがさらに好ましい。このようにすれば、幅および厚みの均一性に優れた細長い帯状体が集合した微粒子状のポリイミドを得ることができる。
【0030】
上記化合物Iの重合温度の下限は、好ましくは240℃以上であり、より好ましくは260℃以上であり、最も好ましくは280℃以上である。一方、上限は、好ましくは350℃以下であり、より好ましくは340℃以下であり、最も好ましくは330℃以下である。重合温度がこのような範囲であれば、化合物Iおよび/または溶媒の熱分解を生じさせることなく、適切な重合時間でポリイミドを得ることができる。
【0031】
上記化合物Iの重合時間の下限は、好ましくは1時間以上であり、より好ましくは2時間以上であり、最も好ましくは3時間以上である。一方、上限は、好ましくは48時間以下であり、より好ましくは36時間以下であり、最も好ましくは24時間以下である。重合時間が短すぎると、重合反応がうまく進まず十分なポリイミドを得ることができない場合がある。重合時間が長すぎても得られるポリイミド量はあまり増加しないので、経済的に不利である。
【0032】
重合の際の溶液中の化合物Iの濃度は、溶媒1ml中の重量(g/ml)として、好ましくは0.5〜12.0であり、より好ましくは0.8〜11.0であり、さらに好ましくは1.0〜10.0である。濃度が高すぎると、得られるポリイミドの形状を十分に制御できない場合がある。濃度が低すぎると、ポリイミドが十分に析出しない場合がある。
【0033】
得られるポリイミドのサイズ(細長い帯状体の幅、厚みおよび長さ)は、好ましくは、得られるリボン状グラファイトのサイズに対応する。例えば、得られるポリイミドは、最小幅の最大幅に対する比が好ましくは0.6〜1であり、より好ましくは0.7〜1であり、さらに好ましくは0.8〜1であり、最小厚みの最大厚みに対する比が好ましくは0.7〜1であり、より好ましくは0.8〜1であり、さらに好ましくは0.9〜1である。上記最大幅は、好ましくは5nm〜250nm、より好ましくは10nm〜200nm、さらに好ましくは15nm〜150nmの範囲内で変動係数が好ましくは0.35以下、より好ましくは0.3以下、さらに好ましくは0.25以下の平均値を有し、上記最大厚みは好ましくは1〜30nm、より好ましくは2nm〜25nm、さらに好ましくは5nm〜20nmの範囲内で変動係数が好ましくは0.25以下、より好ましくは0.2以下、さらに好ましくは0.17以下の平均値を有する。
【0034】
得られるポリイミドの幅および/または厚みは、重合の際の熱力学的環境を調整することにより制御され得る。例えば、得られるポリイミドの幅および/または厚みは、重合の際の溶媒中に貧溶媒を用いることで減少させることができる。すなわち、より貧溶媒中で重合することで、析出するポリイミドの過飽和度が増大し、小さな結晶核が多数生成することで、幅および/または厚みが減少し得る。
【0035】
なお、合成による結晶性ポリイミドの調製については、その詳細が特開2008−274103号公報に記載されており、当該記載は本明細書に参考として援用される。
【0036】
リボン状グラファイトの製造に用いられるポリイミドの長さは、好ましくは0.05μm〜15μmであり、より好ましくは0.1μm〜10μmである。長さは、例えば、ポリイミドの結晶成長を継続させるような条件を採用すれば増加する(具体的には、モノマーやオリゴマーを重合系(上記溶媒)内に添加して結晶成長を継続させるようにしてもよい)。
【0037】
上記細長い帯状体が集合した微粒子の直径は、好ましくは0.1μm〜100μmであり、より好ましくは0.5μm〜50μmであり、さらに好ましくは1μm〜10μmである。
【0038】
リボン状グラファイトの製造に用いられるポリイミドは、結晶性であり、好ましくは高結晶性である。通常、ポリイミドの結晶性は、示差熱分析(DSC)の融解エンタルピーから算出、または完全アモルファス状のサンプルを作製してX線回折強度から算出することが行われているが、溶融しないポリイミドはどちらの方法も適用できない。こうしたポリイミドの結晶性を評価する方法として、X線回折におけるピークを用いた結晶子の大きさから評価する方法がある。この方法では、以下の式により結晶子の大きさを算出することができる。
【0039】
【数1】

【0040】
この式によると、半値幅が小さい程、結晶子が大きく、結晶性が高いことがわかる。本明細書においては、上記結晶子の大きさを算出する方法により結晶性を評価する方法を採用し、任意の結晶面における回折ピークの半値幅により結晶性を規定する。これは、実際の結晶子の大きさを算出する場合、半値幅は測定装置による誤差を考慮して補正される必要があるためである。以上より、上記リボン状グラファイトの製造に用いられ得るポリイミドは、配向処理をしない場合、任意の回折ピークの半値幅が好ましくは2°以下、より好ましくは1.5°以下、さらに好ましくは1°以下である。配向処理をした場合、(00l)面の回折ピークの半値幅が好ましくは2°以下、より好ましくは1.5°以下、さらに好ましくは1°以下である。ポリイミドが上記のような回折ピークの半値幅を有することにより、後述のグラファイト化が可能となる。
【0041】
B−1−2.結晶性ポリイミドのグラファイト化
上記結晶性ポリイミドは、任意の適切な方法によりグラファイト化され得る。結晶性ポリイミドをグラファイト化する方法としては、例えば、結晶性ポリイミドに光(例えば、レーザー光)、X線、電子線、プラズマおよび/またはイオンビームを照射する方法、結晶性ポリイミドを加熱処理する方法、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0042】
上記光を照射する方法においては、好ましくはレーザー光が使用され得る。レーザー光の波長は好ましくは300nm〜1200nm程度、より好ましくは400nm〜800nm程度であり、出力は好ましくは0.1mJ/cm〜10mJ/cm程度、より好ましくは0.5mJ/cm〜5mJ/cm程度である。レーザー光の種類は、特に限定されない。例えば、Nd:YAGレーザー、Ti:Saレーザー、Dyeレーザー、Dye+SHGレーザー、Ar+レーザー、Kr+レーザーが挙げられる。
【0043】
上記電子線を照射する方法においては、電子線照射は、好ましくは10−2〜10−7torr程度の減圧下にて、好ましくは加速電圧1〜2000kV程度(より好ましくは50〜1000kV程度)で行われる。
【0044】
上記イオンビームを照射する方法においては、上記結晶性ポリイミドを減圧チャンバー(通常100〜10−4torr程度)内に配置し、例えば電離させたHeイオンまたはArイオンを用いて、好ましくは加速電圧100V〜10kV程度(より好ましくは200V〜1kV程度)およびイオン電流0.01〜100mA/cm程度(より好ましくは0.1〜10mA/cm程度)の条件下に照射を行う。
【0045】
上記プラズマを照射する方法(プラズマによる励起を行う方法)においては、上記結晶性ポリイミドを不活性ガス雰囲気下あるいは還元性ガス雰囲気下に置き、これを高エネルギー状態のプラズマ流体に接触させる。プラズマ流体を発生させるためには、電磁気的な励起源を使用する。プラズマの発生の条件は、気体の種類、気体圧力、励起電圧、励起電流、励起電源周波数、電極形状などに応じて適切に選択することができる。気体に関しては、その特性によりプラズマ状態を形成し難いものがある。この様な場合にも、励起電磁気の投入量を増加させることにより、プラズマ状態を形成することが可能である。本発明において使用され得る気体としては、Ar、He、Kr、Nが挙げられる。ArおよびHeがより好ましい。
【0046】
気体圧力は、投入する励起電磁気量との関連で選択する必要がある。すなわち、気体圧力が高い程、気体分子数が多くなり、個々の気体分子を励起するための必要エネルギーも大きくなるので、大きな励起電磁気量が必要となる。例えば、気体圧力が10気圧以上の条件下においてもプラズマを発生させることは可能であるが、大電力電源が必要となり、設備コストが著しく高くなる。また、励起電圧および励起電流が高い程、多くのプラズマを発生させることができるが、投入する電気エネルギーが高すぎる場合あるいは圧力が低すぎる場合には、気体への電磁エネルギーの伝達が円滑に行われ難くなって、電極間での放電が起こり、十分なプラズマ粒子が発生しなくなる。一方、気体圧力が低い場合には、比較的小さな投入励起電磁気量でプラズマが発生するが、圧力が低すぎる場合には、十分な量のプラズマが得られなくなる。これらの諸要因を考慮して、本発明においては、プラズマ発生時の気体圧力は、10−3torr〜大気圧(1気圧)程度の範囲とすることが好ましい。
【0047】
電磁気は、直流および交流のどちらであってもよく、電極の材質、形状などは、投入される電磁気の形態に応じて選択される。交流としては、通常、50〜60Hz程度または1〜10KHz程度の低周波、あるいは、10〜100GHz程度の高周波が使用される。工業的な高周波としては、13.56MHz、40MHz、915MHz、2.45GHzなどが一般的に使用される。電極材料しては、通常、ステンレス鋼、アルミニウムおよびその合金、普通鋼などが使用され、その形状は、容量結合型、平行平板型、ホローカソードタイプ、コイル状などから選択される。
【0048】
低コストで簡便にプラズマを発生させる方法の一例として、Ar、He、Kr、Nなどの不活性ガス、水素などの還元性ガスあるいはこれらの混合ガスを1×10−3〜600torr程度の減圧状態とし、13.56MHzの高周波電源を使用して100〜900W程度の電力をコイル状電極に投入することにより、所望のプラズマを形成させることができる。
【0049】
上記照射処理における照射時間は、リボン状グラファイトが生成する限り特に限定されない。例えば、照射時間は、照射処理の種類にかかわらず、所定の照射条件に達してから、通常1秒〜100時間程度であり、好ましくは1分〜200分程度である。
【0050】
上記結晶性ポリイミドを加熱処理する方法においては、通常、不活性ガス雰囲気下、100kg/cm〜10−2torr程度、好ましくは760〜10−6torr程度の常圧〜減圧下(より好ましくは10−1〜10−3torr程度の圧力下)において、通常500〜1100℃程度、好ましくは700〜1000℃程度で熱処理を行ないカーボン化する。処理時間は、例えば10℃/分の速度で昇温した場合は、900〜1000℃の温度領域で1〜30分程度の保持を行なうことが望ましい。次いで、カーボン化したポリイミドを、超高温炉を用いてグラファイト化する。グラファイト化は、不活性ガス雰囲気下、100kg/cm〜10−8torr程度、好ましくは760〜10−6torr程度の常圧〜減圧下中で行なう。不活性ガスとしてはアルゴンが好ましい。熱処理温度としては、好ましくは2000℃以上、より好ましくは2400℃以上、さらに好ましくは2700℃以上である。
【0051】
上記加熱処理における加熱時間は、リボン状グラファイトが生成する限り特に限定されない。加熱時間は、加熱温度などに応じて適切に設定することができる。例えば、加熱時間は、所定の加熱条件に達してから、通常1秒〜100時間程度であり、好ましくは1分〜200分程度である。
【0052】
上記照射処理の少なくとも1つと加熱処理とを併用してもよい。照射処理と加熱処理とを併用する場合の処理時間は、リボン状グラファイトが生成する限り特に限定されない。処理時間は、照射手段、加熱温度などに応じて適切に設定することができる。例えば、処理時間は、所定の条件に達してから、通常1秒〜100時間程度であり、好ましくは1分〜200分程度である。
【0053】
以上のようにして、結晶性ポリイミドのサイズに対応したサイズを有するリボン状グラファイトを得ることができる。しかも、結晶性ポリイミドは、幅および厚みの均一性が高いので、このような結晶性ポリイミドを用いることにより、幅および厚みの均一性に優れたリボン状グラファイトを得ることができる。
【0054】
上記リボン状グラファイトを酸化する方法としては、Hummer法、改良Hummer法等の公知の方法を用いることができる。
【0055】
B−2.分散工程
分散工程では、媒体中、上記酸化工程で得られたリボン状酸化グラファイトからリボン状酸化グラフェンシートを剥離する。これにより、幅の均一性に優れたリボン状酸化グラフェンシートが分散体の形態で得られ得る。剥離は、機械的撹拌、超音波処理等によって行われ得るが、リボン状の形態を維持する観点から、できるだけマイルドな条件で行うことが好ましい。例えば、リボン状酸化グラファイトの分散体を透析膜に入れてイオン交換水中で透析処理を行うことにより、リボン状の形態を維持しつつ、剥離工程と精製工程とを同時に行うことができる。剥離した酸化グラフェンシートの形態は、上記A−1項で記載した通りである。使用可能な媒体としては、上記A−2項で記載した通りである。
【0056】
C.酸化グラフェンシート分散体の用途
本発明の酸化グラフェンシート分散体または当該分散体を塗布して得られる膜を公知の方法によって還元することによって、幅の均一性に優れたリボン状グラフェンシートまたはグラフェン薄膜を得ることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。特に明記しない限り、実施例における「部」および「%」は重量基準である。
【0058】
[実施例1]
1.結晶性ポリイミドの調製
特開2008−274103号公報の実施例および図9の実験番号2の手順にしたがって、結晶性ポリイミドを調製した。得られたポリイミドに対して走査型電子顕微鏡(SEM)観察およびX線回折分析を行った。得られた結晶性ポリイミドは、細長い帯状体が集合した微粒子状であった。SEM観察より、帯状体の最大幅の平均値は110nm、最大厚みの平均値は8nm、長さは1〜8μm、幅の変動係数は0.32、厚みの変動係数は0.17であった。X線回折パターンより、ピーク1(010)面の半値幅は0.53°であった。
【0059】
2.リボン状グラファイトの製造
管状炉を用いて、上記で得られた結晶性ポリイミドを加熱処理した。具体的には、大気圧の窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で900℃まで加熱し、900℃で1分間保持して加熱処理を行った。その結果、結晶性ポリイミドがカーボン化し、リボン状をしたカーボンが得られた。SEM観察より、得られたリボン20本の最大幅の平均値は100nm、最大厚みの平均値は8nm、長さは1〜5μm、幅の変動係数は0.25、厚みの変動係数は0.15であった。
【0060】
次に、このリボン状をしたカーボンをグラファイト化炉に入れ、アルゴン雰囲気下、2800℃で30分熱処理を行った。得られた試料は、リボン状の形態を維持しており、SEM観察より、リボン20本の最大幅の平均値は94nm、最大厚みの平均値は7.1nm、長さは1〜5μm、幅の変動係数は0.23、厚みの変動係数は0.12であった。さらにX線回折を測定したところ、層面間距離が3.37Åのグラファイトであることがわかった。
【0061】
3.酸化グラフェンシート分散体の作製
硝酸ナトリウム0.3gおよび過マンガン酸カリウム1.8gを濃硫酸14mlに溶解させ、これに上記リボン状グラファイト0.2gを加えて室温で攪拌した。7日間攪拌後、反応液を冷却して5%硫酸水50mlをゆっくりと加え、さらに30%過酸化水素水10mlを加えて1時間室温で攪拌した。次いで、過酸化水素濃度0.5%および硫酸濃度3%となるように調整した混合液100mlで希釈して、酸化したグラファイトを遠心沈降させた。沈殿物を再び0.5%の過酸化水素と3%の硫酸を含む混合液100mlに分散させ、次いで遠心沈降させることにより、酸化グラファイトを得た。
【0062】
次いで、遠心沈降物を0.5%の過酸化水素と3%の硫酸を含む混合液100mlに分散させ、これを透析膜に入れてイオン交換水に漬け、イオン交換水を交換しながら7日間透析を行った。この間に、透析膜中の液の濁りが消え褐色透明液になった。
【0063】
4.酸化グラフェンシート分散体中の酸化グラフェンシートの原子間力顕微鏡(AFM)観察
上記透析後の褐色透明液をシリコン基板上にスピンコートしてAFMで観察したところ、長いリボン状の物体が観察された。視野中の10本の物体の最大幅、長さおよび厚さを計測したところ、最大幅の平均値は121nmで変動係数は0.06、長さは2.3〜3.1μm、厚さは0.5〜0.65nmであった。この厚さから、当該リボン状の物体は単層の酸化グラフェンシートと考えられる。また、計測した物体における最小幅の最大幅に対する比は、0.75以上であった。なお、AFMによる観察画像を図1に示す。
【0064】
以上のように、本発明によれば、幅の分布が狭いリボン状酸化グラフェンシートを実際に製造することができた。しかも、実施例の手順から明らかなように、簡便で大量生産可能な製造手順により、上記のようなリボン状酸化グラフェンシートを製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のリボン状酸化グラフェンシート分散体は、代表的には、ナノカーボン材料として好適に用いられ得る。具体的には、本発明のリボン状酸化グラフェンシート分散体は、フレキシブルな透明導電膜、電極材料、熱伝導材料、コンポジット材料等に好適に用いられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リボン状酸化グラフェンシートを含む、酸化グラフェンシート分散体であって、
該リボン状酸化グラフェンシートの最大幅の変動係数が、0.35以下である、酸化グラフェンシート分散体。
【請求項2】
前記リボン状酸化グラフェンシートの最小幅の最大幅に対する比が、0.75〜1である、請求項1に記載の酸化グラフェンシート分散体。
【請求項3】
最大幅の変動係数が、0.35以下であるリボン状グラファイトを酸化してリボン状酸化グラファイトを得ること、および
媒体中で該リボン状酸化グラファイトから酸化グラフェンシートを剥離して分散体を得ること
を含む、酸化グラフェンシート分散体の製造方法。
【請求項4】
前記リボン状グラファイトが、長さ100nm〜10000nmであり、2〜15層のグラフェンシートからなるグラファイトである、請求項3に記載の酸化グラフェンシート分散体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−82566(P2013−82566A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221735(P2011−221735)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】