説明

酸化性物質の総濃度測定方法、酸化性物質の総濃度測定用濃度計およびそれを用いた硫酸電解装置

【課題】過硫酸や過硫酸塩、過酸化水素などの多成分を含有する評価液であっても、簡便な操作で、一度の測定で総濃度を得ることができる酸化性物質の総濃度測定方法、簡易かつ安価な酸化性物質の総濃度測定用濃度計およびそれを用いた硫酸電解装置を提供する。
【解決手段】酸化性物質を少なくとも一種含有する評価液中の酸化性物質の総濃度を測定する方法である。評価液を50〜135℃で熱処理する熱処理工程と、熱処理された該評価液中の過酸化水素を検出する過酸化水素検出工程と、を少なくとも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化性物質の総濃度測定方法、酸化性物質の総濃度測定用濃度計(以下、単に「測定方法」および「濃度計」とも称する)およびそれを用いた硫酸電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルオキソ二硫酸およびペルオキソ一硫酸を総称する過硫酸や過酸化水素は、優れた酸化力を有する。そのため、硫酸と過酸化水素水溶液との混合溶液や、硫酸を直接電気分解により酸化させ、その溶液中に過硫酸や過酸化水素を含有させた溶液は、金属の電解めっきの前処理剤やエッチング剤、半導体デバイス製造における化学的機械的研磨処理における酸化剤、湿式分析における有機物の酸化剤、シリコンウェハの洗浄剤等の、様々な製造プロセスや検査プロセスに用いる薬剤として、利用されている。
【0003】
ここで、本発明において「酸化性物質」とは、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ一硫酸を総称する過硫酸や、過酸化水素などを意味する。また、本発明において「SPM」とは、硫酸と過酸化水素水溶液との混合溶液を意味する。
【0004】
さらに、本発明において「硫酸電解装置」とは、硫酸を直接電気分解により酸化させ、過硫酸や過酸化水素を含有させた溶液を製造する装置を意味する。さらにまた、本発明において「電解硫酸溶液」とは、硫酸を直接電気分解により酸化させて、その溶液中に過硫酸や過酸化水素を含有させた溶液を意味する。
【0005】
さらにまた、本発明において「酸化性物質の総濃度測定用濃度計」とは、酸化性物質を少なくとも一つ含有する溶液の酸化性物質の総濃度を測定する濃度計を意味する。このとき、含有する酸化性物質が一成分であっても多成分であっても、その総濃度が測定結果として表される。
【0006】
酸化性物質を部材の洗浄や表面処理等に使用する場合には、ペルオキソ二硫酸やペルオキソ一硫酸、過酸化水素などの濃度によって処理効果が異なるものとなるため、目的とする処理効果を得るためには、SPMや電解硫酸溶液中の各酸化性物質濃度を監視することが必要となる。一方で、多成分の濃度を個々に監視しようとすると、機器が複雑かつ高価となるため、全成分の総濃度を監視することで、代替することが考えられる。
【0007】
酸化性物質に関連する従来技術として、例えば、特許文献1には、硫酸の電解によってペルオキソ二硫酸を生成し、加水分解によってペルオキソ二硫酸を過酸化水素と硫酸へと転化する過酸化水素の合成方法が開示されている。しかし、特許文献1には、ペルオキソ二硫酸を含有する溶液が開示されているのみであり、酸化性物質を多成分にて含有する溶液に関しては記載がなく、また、処理に関しても、温度および時間の関連性については記載がない。また、この技術を用いた濃度測定方法に関する記載もない。
【0008】
また、特許文献2には、酸化性物質を含有する試料液に、ヨウ化カリウム水溶液を加え、酸化性成分との反応によって遊離したヨウ素をチオ硫酸ナトリウム溶液にて滴定を行う、全酸化性物質濃度の算出方法が開示されている。しかし、特許文献2に記載された定量方法では、滴定を行う作業者が必要となる。また、作業者が不要となるよう全自動滴定装置を用いる場合、試料液の計量注入作業や、試料液に対する希釈液ないしヨウ化カリウム水溶液の添加作業、チオ硫酸ナトリウム溶液による滴定作業等が必要となり、測定・定量作業が複雑なものとなってしまう。さらに、構造が複雑であるため、設備が高価となるという難点もあった。さらにまた、測定後の廃液にはヨウ化カリウムおよびチオ硫酸ナトリウムが含まれるため、その廃液処理作業も別途行わなくてはならなかった。
【0009】
また、非特許文献1には、レーザーラマンスペクトル法を用いた、硫酸溶液中のペルオキソ二硫酸、ペルオキソ一硫酸、過酸化水素の定性・定量方法が開示されている。しかし、非特許文献1に記載されたレーザーラマンスペクトル法を用いた定性・定量方法では、成分ごとに定性・定量されるため、各成分の波数毎に強度を測定して、各々の成分の検量線に基づいて濃度換算を行うことが必要となり、測定・定量作業が複雑なものとなってしまう。また、構造が複雑であるため、設備が高価となるという難点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2008−514541号公報
【特許文献2】特開2008−164504号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】田坂明政,電気化学,9,745(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のように、従来の技術においては、多成分の酸化性物質で構成された酸化性物質の総濃度を、簡便な操作で、一度に測定することができるものではなかった。また、従来の濃度計は、構成が複雑であって高価であり、より簡易かつ安価な濃度計が求められていた。
【0013】
そこで本発明の目的は、上記従来技術における問題を解消して、過硫酸や過硫酸塩、過酸化水素などの多成分を含有する評価液であっても、簡便な操作で、一度の測定により総濃度を得ることができる酸化性物質の総濃度測定方法、簡易かつ安価な酸化性物質の総濃度測定用濃度計、および、それを用いた硫酸電解装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、酸化性物質を含有する評価液に対して熱処理を施すことで、他の酸化性物質を過酸化水素に転化させることができ、その過酸化水素の濃度を測定することで、酸化性物質の総濃度を一度に測定することが可能となることを見出して、上記課題を解決するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の酸化性物質の総濃度測定方法は、酸化性物質を少なくとも一種含有する評価液中の酸化性物質の総濃度を測定する方法であって、
前記評価液を50〜135℃で熱処理する熱処理工程と、熱処理された該評価液中の過酸化水素を検出する過酸化水素検出工程と、を少なくとも含むことを特徴とするものである。
【0016】
本発明の測定方法においては、前記評価液が、前記酸化性物質として、ペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素のうちの少なくとも一種を含有することが好ましい。また、前記評価液中の酸濃度は、好適には6〜24mol/lであり、前記熱処理工程における熱処理時間は、前記評価液の温度が所定温度に達してから2〜70分とすることが好ましい。
【0017】
さらに、前記過酸化水素検出工程における過酸化水素の検出は、吸光度、電気化学的方法、超音波、密度および屈折率から選ばれるいずれかを用いて行うことができる。特には、前記過酸化水素検出工程における過酸化水素の検出は、波長220〜290nmにおける吸光度を測定することにより行うことが好ましく、カーボン材料または白金を作用極として用いた電気化学的方法により行うことも好ましい。また、前記過酸化水素検出工程における過酸化水素の検出を、前記電気化学的方法を用いて行い、該電気化学的方法における作用極の保持電位を、水の電解反応が進行せず、かつ、過酸化水素の酸化または還元反応のみが進行する電位に保持することも好ましい。
【0018】
また、本発明の酸化性物質の総濃度測定用濃度計は、酸化性物質を少なくとも一種含有する評価液中の酸化性物質の総濃度の測定に用いられる濃度計であって、
前記評価液を収納する収納部と、該収納部内の該評価液を所定温度に加熱する熱処理部と、熱処理された該評価液中の過酸化水素を検出する過酸化水素検出部と、を備えたことを特徴とするものである。
【0019】
本発明の濃度計においては、前記過酸化水素検出部が、吸光度計、電気化学的測定機器、超音波計、密度計および屈折計から選ばれるいずれかを備えることが好ましい。また、前記過酸化水素検出部は、発光波長220〜290nmの光源を有する吸光度計を備えることが好ましく、カーボン材料または白金を作用極として用いた電気化学的測定機器を備えることも好ましい。さらに、前記過酸化水素検出部が前記電気化学的測定機器を備え、該電気化学的測定機器で使用される作用極が、水の電解反応が進行せず、過酸化水素の酸化もしくは還元反応のみが進行する電位に保持されていることも好ましい。
【0020】
さらに、本発明の硫酸電解装置は、上記本発明の酸化性物質の総濃度測定用濃度計を搭載したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ペルオキソ二硫酸イオンやペルオキソ一硫酸イオン、過酸化水素などの多成分の酸化性物質を含有する評価液であっても、簡便な操作で、一度の測定で総濃度を得ることができる酸化性物質の総濃度測定方法、簡易かつ安価な酸化性物質の総濃度測定用濃度計およびそれを用いた硫酸電解装置を実現することが可能となった。
【0022】
本発明の測定方法においては、酸化性物質が一成分の場合でも、多成分の場合でも、総濃度の測定が可能である。また、本発明の濃度計においては、多成分の総濃度を一度で測定することが可能であるので、測定に必要な構成機器を減らすことができ、小型で安価に作製することができるため、一般家庭用や業務用として適している。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の酸化性物質の総濃度測定方法の一例を示すフロー図である。
【図2】本発明の酸化性物質の総濃度測定方法の他の例を示すフロー図である。
【図3】本発明の酸化性物質の総濃度測定方法のさらに他の例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明は、酸化性物質を少なくとも一種含有する評価液中の酸化性物質の総濃度を測定する方法の改良に係るものである。本発明においては、かかる評価液を50〜135℃で熱処理した後(熱処理工程)、熱処理された評価液中の過酸化水素を検出する(過酸化水素検出工程)ことで、酸化性物質濃度の定量性が得られることを見出したものである。
【0025】
具体的には、本発明においては、評価液を、上記温度条件下で熱処理した後、冷却して、過酸化水素の検出を行う。評価液は、作製後、評価液タンクに貯蔵しておくことができ、評価液タンクから所定量を取り出して、測定に用いることができる。
【0026】
測定は、例えば、図1のフロー図に示すように、評価液タンクに、ポンプを介して収納セル1、収納セル2および測定セルを順次接続して、評価液タンクから流出させた評価液を、収納セル1内で加熱手段により熱処理した後、収納セル2内で冷却手段により冷却し、測定セル内で検出手段により過酸化水素を検出することで、行うことができる。
【0027】
また、図2のフロー図に示すように、評価液タンクに、ポンプを介して収納セルおよび測定セルを順次接続して、評価液タンクから流出させた評価液を、収納セル内で加熱手段により熱処理した後、冷却手段により冷却し、測定セル内で検出手段により過酸化水素を検出することで、測定を行うこともできる。
【0028】
さらに、図3のフロー図に示すように、評価液タンクに、ポンプを介して収納セル兼測定セルを接続して、評価液タンクから流出させた評価液を、収納セル兼測定セル内で加熱手段により熱処理した後、冷却手段により冷却し、さらに、検出手段により過酸化水素を検出することで、測定を行うこともできる。
【0029】
本発明において、測定時における評価液の冷却の有無については限定されず、加熱状態でも測定することはできるが、加熱によって評価液の体積変化等が生ずる場合は、温度補正を行うことが好ましい。
【0030】
本発明において、酸化性物質としては、ペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素のうちの少なくとも一種を含有するものとすることができる。本発明におけるペルオキソ二硫酸、ペルオキソ一硫酸および過酸化水素は、各々の水溶液および塩などを溶解したものでもよく、硫酸と過酸化水素水溶液との混合によって得られるものであってもよく、硫酸の電解によって得られるものであってもよい。
【0031】
ここで、酸化性物質の自己分解反応を以下に示す。
+HO→HSO+HSO ・・・(1)
SO+HO→H+HSO ・・・(2)
ペルオキソ二硫酸およびペルオキソ一硫酸は、経時的に分解して、最終的に過酸化水素へと転化する。このとき、熱処理を施すことで、反応を速やかに進行させることができる。また、上記式(1),(2)からも明らかなように、自己分解反応によって生じた過酸化水素の濃度は元のペルオキソ二硫酸およびペルオキソ一硫酸の濃度と同じであるので、上記式(1),(2)に従う反応で生じた過酸化水素の濃度は、自己分解前の酸化性物質の総濃度を示していることになる。
【0032】
本発明における熱処理の温度は50〜135℃であることが必要であり、好ましくは90〜125℃である。熱処理温度が50℃よりも低い場合は、上記式(1),(2)の反応の進行が遅いものとなってしまう。熱処理温度の上限は、各評価液の沸点によっても変わるが、熱処理温度が135℃よりも高い場合は、上記式(1),(2)の反応に加えて、下記式(3)の反応が速やかに進行して酸化性物質が消失してしまうため、酸化性物質の総濃度が低くなり、正確な濃度が測定できない。
→1/2O+HO ・・・(3)
【0033】
本発明において、酸化性物質を少なくとも一種含有する評価液中の酸濃度は、6〜24mol/lであることが好ましく、7〜18mol/lであることがより好ましい。これは、上記式(1),(2),(3)で表されるペルオキソ二硫酸およびペルオキソ一硫酸の過酸化水素転化と、酸化性物質の消失速度とが、評価液中の酸濃度と密接な関係があることを見出して得られた値である。この酸濃度範囲においては、上記式(1),(2)の反応が進行しやすく、熱処理による過酸化水素転化効果が高くなる。酸濃度が6mol/lよりも小さいときは、上記式(1),(2)の反応が進行しにくく、熱処理時間を長くすると、過酸化水素転化率は高くなるものの、測定するまでの時間が長くなってしまうため、測定方法ないし濃度計として好ましくない。一方、酸濃度が24mol/lよりも高いときは、上記式(2)の反応が進行しにくく、かつ上記式(3)の反応が進行しやすくなるため、正確な酸化性物質総濃度が測定できない。
【0034】
また、このことは、酸濃度が6〜24mol/lである溶液中では、上記式(1),(2)の反応が進行しやすいために、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ一硫酸および過酸化水素が共存しやすいということも意味している。例えば、ペルオキソ二硫酸ナトリウム塩を水に溶解させた場合、溶液中では主にペルオキソ二硫酸イオンの状態で存在する。この場合、熱処理を施さなくても、一成分のみを検出すればよいので、吸光度計、電気化学的測定機器、超音波計、密度計、屈折計などの任意の方法で定量性が得られる。一方、ペルオキソ二硫酸ナトリウム塩を酸濃度が6〜24mol/lの溶液中に溶解させた場合、溶液中では上記式(1),(2)の反応が進行し、その結果、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ一硫酸および過酸化水素が共存した状態となりやすい。このときの各成分の割合は、液の温度、溶解させてから経過した時間および各成分濃度によって異なる。この場合、測定対象成分は多成分となるため、各成分を定性・定量できる測定装置(ラマン分光法など)で評価を行う必要がある。しかし、測定対象成分として多成分を含有する溶液であっても、本発明に係る熱処理を施し、上記式(1),(2)の反応を加速させて過酸化水素の割合を高めることで、吸光度計、電気化学的測定機器、超音波計、密度計、屈折計などの任意の方法で、定量性が得られるものとなる。これは、本発明は、従来は定量が困難であった酸濃度が6〜24mol/lである溶液にも、有効に利用できることを意味している。したがって、特に、評価液中の酸濃度が6〜24mol/lである場合に、本発明は有用である。
【0035】
本発明において、熱処理工程における熱処理時間は、評価液の温度が所定温度に達してから2〜70分であることが好ましく、2〜50分であることがより好ましい。熱処理時間が2分よりも短いと、上記式(1),(2)の反応の進行が不十分となり、過酸化水素転化率が低いものとなって、定量性が得られない。一方で、70分より長時間熱処理を行うと、上記式(3)の反応が進行して、過酸化水素濃度が低いものとなってしまうため、正確な濃度が測定できない。したがって、本発明における熱処理時間は2〜70分であることが好ましい。
【0036】
本発明において、熱処理工程で利用される熱処理方法については限定されず、抵抗発熱体を用いる方法や、マイクロ波加熱等の誘電加熱方法、光加熱方法等の任意の方法を選択することができる。熱処理の際には、水の蒸発によって評価液が濃縮されて、評価液の濃度が変化することを防ぐために、密閉状態で熱を与えることが好ましい。
【0037】
また、上述したように、本発明に係る過酸化水素検出工程においては、吸光度、電気化学的方法、超音波、密度、屈折率から選ばれるいずれかの過酸化水素検出方法を、好適に利用することができる。
【0038】
中でも、本発明に係る過酸化水素検出工程においては、波長220〜290nm、特には240〜280nmにおける吸光度を測定することにより、過酸化水素の検出を行うことが好ましい。過酸化水素の吸光ピークの波長は約190nmである。したがって、本来であれば、この波長を利用することが一般的であるが、本発明者らは、上記範囲の波長における吸光度を用いることで、測定精度が高く、評価液の流量依存性が低く、より安価な部材を利用できるためにコスト的にも良好に検出を行うことが可能となることを見出した。波長が220nmより短いと、評価液に硫酸が含まれる場合、硫酸の吸光が酸化性物質の吸光と重なってしまうため、硫酸濃度によって、測定結果が異なるものとなってしまう。一方で、波長が290nmよりも長いと、過酸化水素の吸光が小さいものとなってしまうため、測定精度が低いものとなってしまう。
【0039】
また、利用する波長を過酸化水素の吸光ピーク波長とした場合、評価液中の過酸化水素は光によって分解するため、経時により評価液中の過酸化水素濃度が低くなってしまう。よってこの場合、吸光度を利用した過酸化水素検出工程に、評価液を一定以上の流速で供給しなくてはならない。これに対し、利用する波長を過酸化水素の吸光ピークの波長からずらすことで、吸光セル内の評価対象物の分解が抑制されて、測定中の評価液の濃度変化が起こりにくいものとなり、測定結果の評価液の流量依存性が低いものとなる。さらに、220nmより短波長の光を利用する場合、測定セルとして短波長の光を透過できる石英を利用しなくてはいけなくなるため、高価となる。したがって、本発明における、吸光度を利用した過酸化水素検出方法で利用する発光波長は、220〜290nmであることが好ましい。
【0040】
なお、吸光度を利用した過酸化水素検出工程で用いられる測定セルのセル長については、評価したい酸化性物質の濃度に合わせて任意に設定することができ、特に制限されるものではない。
【0041】
本発明において、過酸化水素検出方法として電気化学的方法を利用した過酸化水素検出工程においては、定電位電解法や電位走査法などを利用することができるが、定電位電解法を用いると、関数発生器が不要となり、構造が簡易となるため、より好ましい。
【0042】
上記定電位電解法とは、所定の電位もしくは電圧に作用極電位を保持して、そのときの作用極に流れる電流値を検出する方法である。評価液の流速を一定にすると、その電流値は反応物濃度、すなわち、過酸化水素濃度に比例するため、濃度計として利用できる。測定を連続的に行うことで、反応物濃度を連続的に監視することが可能である。
【0043】
本発明において、定電位電解法で作用極に印加される電位もしくは電圧は、過酸化水素が酸化もしくは還元される電位もしくは電圧であって、水の電解電位(酸素発生電位または水素発生電位)でないことが好ましい。すなわち、過酸化水素の酸化反応を利用して検出を行う場合、酸素発生は起こらず、かつ過酸化水素の酸化は起こる電位に保持することが好ましい。また、過酸化水素の還元反応を利用して検出する場合、水素発生が起こらず過酸化水素の還元反応は起こる電位に保持することが好ましい。これは、酸素発生もしくは水素発生が過酸化水素の酸化または還元反応と同時に発生した場合、その検出された電流値が、過酸化水素の電気化学的反応によって生じたものか、水の電解反応によって生じたものか、それらの混合によって生じたものか判断することができず、測定精度が低いものとなってしまうためである。
【0044】
上記定電位電解法で電位を所定の電位に保持する場合には、電解セルとしては、作用極、対極および参照電極を保有する3極式セルを利用することができる。また、電圧を所定の電圧に保持する場合には、電解セルとしては、作用極および対極を保有する2極式セルを利用することができる。この際、対極については任意のものを利用でき、例えば、白金、カーボン材料等が好適である。参照電極についても任意のものを利用でき、例えば、銀塩化銀電極等が好適である。
【0045】
上記定電位電解法で用いられる作用極としては、特に限定されないが、白金や、導電性ダイヤモンド、グラファイトなどのカーボン材料が好ましく、特に、白金および導電性ダイヤモンド電極がより好ましい。白金および導電性ダイヤモンド電極は耐久性が高いため、濃度計の寿命が長くなり、電気二重層容量が小さいため、測定精度が高いものとなる。また、カーボン材料は触媒活性が低く、酸化性物質の自己分解を促進しにくいために、電気化学的に酸化もしくは還元反応を進行させる以外で、酸化性物質総濃度の変化が起こりにくいので、測定精度が高いものとなる。
【0046】
また、上記電位走査法とは、作用極の電位を走査して、過酸化水素の酸化もしくは還元の電流値のピーク値を読み取るものである。この場合、電解セルとしては、作用極、対極および参照電極を保有する3極式セルを利用することができる。電位走査には、関数発生器が一体化したポテンショスタットが必要となる。
【0047】
本発明の酸化性物質の総濃度測定用濃度計は、酸化性物質を少なくとも一種含有する評価液中の酸化性物質の総濃度の測定に用いられるものであり、評価液を収納する収納部と、収納部内の評価液を所定温度に加熱する熱処理部と、熱処理された評価液中の過酸化水素を検出する過酸化水素検出部と、を備えるものである。
【0048】
本発明の濃度計において、評価液を収納する収納部は、評価液を収納する空間を内部に備えるとともに、評価液を供給・排出するための流路を備え、外部もしくは内部空間内に、評価液を加熱するための加熱手段を備えていることが好ましい。この加熱手段は、後述する熱処理部の一部を構成する。収納部の形状は、特に限定されない。また、その構成材料についても、特に限定されないが、耐硫酸性や耐熱性、耐酸化性等を兼ね備えるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素樹脂や、ガラス、石英等を用いることが好ましい。
【0049】
本発明において、収納部は、収納セル兼測定セルとして、測定セルと一体化されていてもよく、また、別個の部材として設けられていてもよいが、収納部と測定セルとが一体化されており、過酸化水素検出工程において吸光度を利用する場合には、測定波長の光を透過できるガラスや石英からなることが好ましい。
【0050】
また、本発明の濃度計において、熱処理部は、収納部に収納された評価液を加熱するための加熱手段と、評価液の温度を制御する温度制御手段とを備えるものであり、さらに、収納部に収納された評価液を冷却するための冷却手段を備えてもよい。ここで、加熱手段としては、前述したように、任意の熱処理方法を適用することができ、温度制御手段についても、公知の手法を適宜用いることができ、特に制限はない。例えば、熱電対やサーミスタ等の測温センサーを熱処理部に接続して、所定温度以上となった場合に加熱手段の加熱電力をOFF制御し、所定温度以下となった場合に加熱手段の加熱電力をON制御するシステム等を、温度制御手段として使用することができる。このとき、熱処理部の温度と評価液の実際の温度との相関関係をあらかじめ実験的に調べておき、評価液に対する熱処理時には、この相関関係を参照しつつ、温度制御を行うことが好ましい。
【0051】
さらに、本発明の濃度計において、過酸化水素検出部は、検出手段として、吸光度計、電気化学的測定機器、超音波計、密度計および屈折計から選ばれるいずれかを備えることが好ましい。これら各検出機器については、汎用の装置を適宜使用することができ、特に制限されるものではない。
【0052】
本発明の濃度計は、評価する溶液の上流側では、評価液を流通させる工場配管や装置配管等に接続し、また、下流側では、廃液する配管に接続することで、装置付属の濃度計として利用できる。配管への接続方法については任意に設定できるが、例えば、工場配管や装置配管等から分岐させた配管を濃度計に接続し、その後、廃液する配管に接続することができる。
【0053】
本発明の硫酸電解装置は、上記本発明の酸化性物質の総濃度測定用濃度計を搭載したものである。本発明において、濃度計を硫酸電解装置に接続して利用する場合には、評価液を連続的に濃度計に流通させて、濃度を連続的に監視することが可能であり、所定時間毎に、または最終濃度確認のためなどに、必要に応じて非連続的に濃度測定を行ってもよい。
【0054】
本発明の硫酸電解装置においては、特に限定されないが、硫酸電解槽として、陽極および陰極に導電性ダイヤモンドを用い、隔膜として多孔質PTFEからなる隔膜を用いた電解槽を好適に用いることができる。かかる硫酸電解装置における電解工程では、まず、第1工程として、陽極液タンクに、濃硫酸供給ラインおよび超純水供給ラインを介して濃硫酸と超純水とをそれぞれ供給し、陽極液タンク内にて硫酸の濃度調整を行う。ここで、硫酸の濃度調整を陽極液タンク内で行うことは必須ではなく、あらかじめ濃度調整した硫酸を陽極液タンクに供給してもよい。このときの硫酸溶液の濃度は、任意に調整することができる。次に、第2工程では、陽極液タンク内の硫酸溶液を、陽極循環ポンプにて電解槽内の陽極室に圧送し、電解を行う。この工程によって陽極では酸化性物質を有する電解硫酸を作製する。さらに、第3工程では、電解液を、発生した陽極ガスとともに、陽極循環ポンプにて、陽極液供給ライン、陽極室、陽極液循環ラインおよび陽極液タンクを循環させて、十分に攪拌しながら、電解を続けて行う。ここで、電解液の循環を行わずに、電解液を電解セルに一度だけ流通させる、いわゆるワンパスの方法を用いてもよい。このとき陽極ガスは、陽極液タンクで気液分離し、装置外へ排出する。なお、陰極液タンク側においても、記載はしないが、同様の機構により、同様に循環、攪拌を行うことができる。
【0055】
本発明において、濃度計を硫酸電解装置に接続して利用する場合、濃度計の接続箇所は特に限定されず、任意の位置に設置できるが、陽極タンクもしくは電解セル直後の陽極液循環ラインに接続することが好ましい。このとき、評価液は、上記硫酸電解装置の陽極タンクや循環ライン等から酸化性物質の総濃度測定用濃度計に直接供給するよう設置してもよいし、上記循環ラインや陽極タンクから一度評価液用タンクに供給後、濃度計に供給してもよい。
【0056】
また、本発明において、濃度計を硫酸電解装置に接続して利用する場合には、濃度計で測定した結果に基づき、所定の酸化性物質の総濃度を目的値として、硫酸電解装置の電解時間や電流値、温度、液滞留時間などを制御しつつ、運転することができる。
【実施例】
【0057】
次に、本発明を実施例および比較例を挙げて、具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
本発明における、評価液の作製、作製した評価液中のラマン分光法におけるペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素の濃度測定、並びに、吸光度法ないし定電位法による熱処理後の評価液中の酸化性物質の濃度測定は、以下に従い行った。また、下記の表1,3,5,7に、各実施例および比較例における電解、熱処理および過酸化水素検出の条件をまとめて示す。
【0059】
<評価液の作製(硫酸溶液)>
1lの評価液を作製するために必要な98%硫酸の重量を、下記式(4)に基づき算出し、1lメスフラスコに、98%硫酸(HSO:関東化学(株)製)を採取して、超純水を加えて全1lの評価液とした。

(式中、A(g)は1lの評価液の作製に必要な98%硫酸の重量を示す)
【0060】
<評価液の作製(電解硫酸溶液)>
電解面積1.000dmの導電性ダイヤモンド電極を陽極および陰極に用いた隔膜付き電解セルを用いて、陽極液および陰極液をそれぞれ循環しながら硫酸を電解し、以下の条件に従い、電解硫酸溶液の製造を行った。評価液は、上記式(4)に基づき1l調製し、そのうち300mlを陽極液、残りの300mlを陰極液として使用した。電解時間は、酸化性物質の総濃度に合わせて調整した。
・セル電流:100A
・電流密度:100A/dm
・陽極液量:300ml
・液温度:28℃
・陽極液流量:1l/min
・陰極液流量:1l/min
・陽極液:硫酸溶液
・陰極液:硫酸溶液
・隔膜:(住友電工ファインポリマー(株)製のポアフロン(登録商標))
【0061】
<評価液の作製(ペルオキソ二硫酸アンモニウム硫酸溶液)>
1lの評価液を作製するために必要な98%硫酸の重量を上記式(4)に基づき算出し、ペルオキソ二硫酸アンモニウムの重量を下記式(5)に基づき算出して、1lメスフラスコに、98%硫酸(関東化学(株)製)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム((NH:和光純薬工業(株)製)および超純水を加えて、全1lの評価液とした。なお、評価液の作製は、評価液の温度が上昇しないように、メスフラスコの底を冷却水で冷やしながら行った。

(式中、B(g)は1lの評価液を調整するために必要なペルオキソ二硫酸アンモニウムの重量を示す)
【0062】
<評価液の作製(ペルオキソ一硫酸塩硫酸溶液)>
1lの評価液を作製するために必要な98%硫酸の重量を上記式(4)に基づき算出し、オキソン(登録商標)一過硫酸塩化合物の重量を下記式(6)に基づき算出して、1lメスフラスコに、98%硫酸(関東化学(株)製)、オキソン(登録商標)一過硫酸塩化合物(2KHSO・KHSO・KSO:和光純薬工業(株)製)および超純水を加えて、全1lの評価液とした。電解液の作製は、電解液の温度が上昇しないように、メスフラスコを冷却水で冷やしながら行った。

(式中、C(g)は1lの電解液を作製するために必要なオキソン(登録商標)一過硫酸塩の重量を示す)
【0063】
<評価液の作製(過酸化水素硫酸溶液)>
1lの評価液を作製するために必要な98%硫酸の重量を上記式(4)に基づき算出し、35%過酸化水素の重量を下記式(7)に基づき算出して、1lメスフラスコに、98%硫酸(関東化学(株)製)、35%過酸化水素(H:和光純薬工業(株)製)および超純水を加えて、全1lの電解液とした。電解液の作製は、電解液の温度が上昇しないように、メスフラスコを冷却水で冷やしながら行った。

(式中、D(g)は1lの電解液を作製するために必要な過酸化水素の重量を示す)
【0064】
<評価液中の酸濃度評価>
100mlメスフラスコ内に評価液を0.4ml加え、100mlとなるよう超純水で調整した。ビーカーに、調整した液5mlおよびフェノールフタレイン1滴を加え、和光純薬工業(株)製の0.1M NaOHにて、着色するまで滴定を行った。酸濃度は、下記式(8)に基づき算出した。

【0065】
<ラマン分光法における評価液中のペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素の濃度測定>
作製した評価液中のペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオン、過酸化水素の濃度測定を、ラマン分光法を用いて行った。測定条件および測定方法は以下に示すとおりである。濃度が既知のペルオキソ二硫酸アンモニウム溶液、ペルオキソ一硫酸溶液および過酸化水素溶液を、上記(5),(6),(7)式に基づき作製・測定し、仕込みの酸化性物質総濃度とラマン分光結果から検量線を作成して、濃度換算に利用した。
・測定装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製ラマン分光光度計
・型式:AlMEGA XR
・レーザー光:532nm
・露光時間:2.00秒
・露光回数:20
・バックグラウンド露光回数:20
・グレーティング:672lines/mm
・測定幅:700〜1500cm−1
・分光器アパーチャ:25μmスリット
・マクロ試験室にて低分解能測定
・スペクトル補正:全範囲の強度から、710cm−1と1140cm−1の強度を直線で結んだベースライン値を差し引いた。
・ペルオキソ二硫酸濃度測定には832cm−1のときの強度を利用した。
・ペルオキソ一硫酸濃度測定には770cm−1のときの強度を利用した。
・過酸化水素濃度測定には872cm−1のときの強度を利用した。
【0066】
<吸光度法による熱処理後の評価液中の酸化性物質の総濃度測定>
吸光度法による熱処理後の評価液中の酸化性物質の総濃度測定は、以下に示す条件および方法に従い行った。評価液(ペルオキソ二硫酸アンモニウム硫酸溶液)の作製方法に基づき、酸化性物質の総濃度の異なる、酸濃度14.24質量%のペルオキソ二硫酸アンモニウム硫酸溶液を作製し、105℃、20分の熱処理を施した後、測定波長毎に測定を行い、仕込みの酸化性物質総濃度と吸光度測定結果から検量線を作成して、濃度換算に利用した。なお、ブランク測定には超純水を利用した。
・測定装置:日本分光(株)製 紫外可視分光光度計
・型式:V−650
・測定波長:190.0,253.7,300.0nm
・測光モード :Abs
・レスポンス :Medium
・繰り返し回数:3回
・セル長:0.05mm(波長190.0nm),0.2mm(波長253.7、300.0nm)
【0067】
<定電位法による熱処理後の評価液中の酸化性物質の総濃度測定>
定電位法による熱処理後の評価液中の酸化性物質の総濃度測定は、100mlガラスビーカーセルに50ml評価液を採取して、以下の条件にて行った。評価液は、アズワン(株)製のパソリナミニスターラーCT−1Aを用いて、500rpmで攪拌した。なお、評価液(ペルオキソ二硫酸アンモニウム硫酸溶液)の作製方法に基づき、酸化性物質の総濃度の異なる、酸濃度14.24質量%のペルオキソ二硫酸アンモニウム硫酸溶液を作製して、105℃、20分の熱処理を施した後、電位毎に電流値を測定し、仕込みの酸化性物質総濃度と電流値から検量線を作成して、濃度換算に利用した。
・作用極:各作用極材料
・作用極面積:0.03mm
・対極:白金メッシュ
・参照極:Ag/AgCl(飽和KCl内部液)
・測定装置:北斗電工(株)製 HABF−5001
・サンプリング周期:50ms
【0068】
<再現性評価>
上記吸光度法および定電位法における熱処理後の評価液中の酸化性物質の総濃度測定を3回繰り返して、再現性を確認した。その結果につき、以下の式に基づく指標を示す。
(吸光度もしくは電流値の最小値−最大値)/(吸光度もしくは電流値の平均値)×100(%)
・3%以内・・・◎
・3%を超え5%以内・・・○
・5%を超え10%以内・・・△
・10%を超える・・・×
【0069】
<実施例1>
1lメスフラスコに、98%硫酸(関東化学(株)製)を上記式(4)に基づき712g採取し、超純水を加えて全1lに希釈し、硫酸濃度7.12mol/lを含む電解液を作製した。この電解液のうち300mlを陽極液、残り300mlを陰極液として使用し、評価液(電解硫酸溶液)の作製方法に基づき、評価液を作製した。
【0070】
作製した評価液を、ラマン分光法による評価液中のペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素の濃度測定方法に基づき評価したところ、ペルオキソ二硫酸濃度は0.23mol/l、ペルオキソ一硫酸濃度は0.67mol/l、過酸化水素濃度は0.10mol/lであり、評価液中の酸濃度評価方法に基づき測定したところ、酸濃度は14.24mol/lであった。
【0071】
この評価液を、作製から10分後に、周囲を熱処理手段としてのラバーヒーターで覆った収納部としての容量20mlのバイアル瓶に10ml採取して、105℃で20分間熱処理した。その後、ラマン分光法による評価液中の過酸化水素濃度および酸化性物質総濃度の測定方法、および、0.2mm長の測定セルを用いた吸光度法による酸化性物質総濃度の評価方法に基づき、評価を行った。その結果を、下記の表2中に示す。
【0072】
ここで、熱処理前後の酸化性物質濃度変化は、10%以内であれば、測定精度の観点から、良好といえる。また、熱処理後の過酸化水素の割合は、測定精度の観点から、60%以上であれば良好といえ、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である。さらに、(総濃度−熱処理前の濃度)/熱処理前の総濃度変化は、測定精度の観点から、10%以内であれば良好といえ、より好ましくは5%以内である。さらにまた、再現性については、測定精度の観点から、×の場合は不良と判定する。
【0073】
<実施例2,3>
実施例2,3として、電解硫酸溶液中の酸化性物質総濃度、および、評価液作製から測定開始までの時間を変えることにより、評価液中の酸化性物質総濃度および酸化性物質成分の割合を変えた液を評価液として用いた以外は実施例1と同様にして、評価液中の酸化性物質の総濃度を測定した。その結果を、下記の表2中に示す。
【0074】
<実施例4>
評価液として、1lメスフラスコに、98%硫酸(関東化学(株)製)を上記式(4)に基づき712g採取し、上記式(5)に基づきペルオキソ二硫酸アンモニウム((NH:和光純薬工業(株)製)を採取して、超純水を加えて全1lに希釈し、硫酸濃度7.12mol/lおよびペルオキソ二硫酸濃度0.3mol/lを含む液を使用した以外は実施例1と同様にして、評価液中の酸化性物質の総濃度を測定した。その結果を、下記の表2中に示す。
【0075】
<実施例5>
上記式(4)に基づき硫酸濃度3.00mol/lを含む電解液を作製し、評価液中の酸濃度・熱処理温度を表中に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、評価液中の酸化性物質の総濃度を測定した。その結果を、下記の表2中に示す。
【0076】
<実施例6〜8>
上記式(4)に基づき硫酸濃度3.50,8.11,9.17mol/lを含む電解液を作製し、評価液中の酸濃度を表中に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、評価液中の酸化性物質の総濃度を測定した。その結果を、下記の表2中に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
実施例1において、熱処理後の評価液中の酸化性物質総濃度に占める過酸化水素の割合は、90%と非常に高いものであった。また、熱処理前後の評価液中の酸化性物質総濃度変化は1%と低く、熱処理による自己分解で酸化性物質総濃度が減少していないことが確認できた。さらに、吸光度法で求めた吸光度は0.350、それから算出した濃度は1.01mol/lであった。酸化性物質総濃度は、吸光度法で得られた結果と熱処理前に行ったラマン分光法で得られた結果との差が小さく、測定精度が高いことがわかった。再現性評価については、測定2回目が0.351、測定3回目が0.350と、再現性の高いものであった。
【0080】
また、実施例1〜4より、酸化性物質の成分・各成分濃度が異なる評価であっても、本発明の酸化性物質の総濃度測定方法を用いることで、酸化性物質の総濃度を精度良く測定でき、その再現性も良好であることがわかった。
【0081】
実施例5より、評価液中の酸濃度が6.00mol/lでは、熱処理前後の酸化性物質総の濃度変化および再現性は良好であるものの、熱処理後の過酸化水素割合が36%、酸化性物質総濃度は、吸光度法で得られた結果と熱処理前に行ったラマン分光法で得られた結果との差が−13%で、測定精度が低めであった。これは、熱処理が不十分で、上記式(1),(2)の反応が十分進行しなかったためであると考えられる。
【0082】
実施例7,8より、評価液中の酸濃度が16.22,18.34mol/lと高くなると、再現性が良好で、酸化性物質総濃度についても吸光度法で得られた結果と熱処理前に行ったラマン分光法で得られた結果との差が小さく、測定精度が高いものの、実施例1と比べて熱処理前後の酸化性物質濃度変化が大きくなることがわかった。これは、酸濃度が高いほど、上記式(2)により生成した過酸化水素が、上記式(3)に基づく自己分解反応によって即座に消滅してしまうためであると考えられる。
以上から、測定精度を高めるためには、評価液中の酸濃度に最適値が存在することがわかった。
【0083】
<実施例9,10>
上記式(4)に基づき硫酸濃度9.17mol/lを含む電解液を作製して、評価液中の酸濃度および熱処理温度を表中に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、評価液中の酸化性物質の総濃度を測定した。その結果を、下記の表4中に示す。
【0084】
<実施例11,12>
評価液中の熱処理温度を表中に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、評価液中の酸化性物質総濃度を測定した。その結果を、下記の表4中に示す。
【0085】
<実施例13〜15>
上記式(4)に基づき硫酸濃度9.17mol/lを含む電解液を作製し、評価液中の酸濃度および熱処理時間を表中に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、評価液中の酸化性物質総濃度を測定した。その結果を、下記の表4中に示す。
【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【0088】
実施例9,10より、酸濃度が18.34mol/lの評価液の場合、熱処理温度が高くなると、熱処理前後の酸化性物質濃度変化が大きいものとなった。また、これにより、熱処理温度124℃において、酸化性物質の総濃度は、吸光度法で得られた結果と熱処理前に行ったラマン分光法で得られた結果との差が大きいものとなった。
【0089】
実施例11,12より、酸濃度が14.24mol/lの評価液の場合、熱処理温度が81℃では、熱処理後の過酸化水素割合が40%と低くなることがわかった。これは、熱処理が不十分で(1)、(2)式の反応が十分進行しなかったためであると考えられる。これによって酸化性物質総濃度は吸光度法で得られた結果と熱処理前に行ったラマン分光法で得られた結果の差が大きいものとなった。
【0090】
また、実施例9〜12の評価の再現性はいずれも高いものとなった。
以上から、熱処理温度は酸濃度と密接な関係があり、最適値が存在することが明らかになった。
【0091】
実施例13より、熱処理時間が1分では、熱処理後の過酸化水素割合が60%と低くなることがわかった。これは、熱処理が不十分で、上記式(1),(2)の反応が十分進行しなかったためであると考えられる。これにより、酸化性物質総濃度については、吸光度法で得られた結果と熱処理前に行ったラマン分光法で得られた結果との差が大きいものとなった。
【0092】
実施例14,15より、熱処理時間が長くなると、再現性は高いものの、熱処理前後の酸化性物質濃度変化が大きくなることがわかった。これは、熱処理によって上記式(3)の反応が進行したためと考えられる。これにより、熱処理時間75分において、酸化性物質総濃度は、吸光度法で得られた結果と熱処理前に行ったラマン分光法で得られた結果との差が大きいものとなった。
【0093】
<実施例16>
上記式(4)に基づき硫酸濃度3.50mol/l含む電解液を作製して、評価液として使用し、吸光度法で用いる測定波長を表中に示すように変え、測定セル長を0.05mmに変えた以外は実施例1と同様にして、評価液中の酸化性物質総濃度を測定した。その結果を、下記の表6中に示す。
【0094】
<実施例17>
吸光度法で用いる測定波長を表2のように変え、測定セル長を0.05mmに変えた以外は実施例1と同様にして、評価液中の酸化性物質総濃度を測定した。その結果を、下記の表6中に示す。
【0095】
<実施例18>
吸光度法で用いる測定波長を表中に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、評価液中の酸化性物質総濃度を測定した。その結果を、下記の表6中に示す。
【0096】
【表5】

【0097】
【表6】

【0098】
実施例16,17より、測定波長を190nmとすると、ラマン分光法から算出した酸化性物質総濃度が同じ液であっても、硫酸濃度によって吸光度法の酸化性物質総濃度は異なることがわかった。これは、硫酸が190nmの光を吸光するため、硫酸濃度の異なる評価液では、硫酸の吸光度が異なり、測定結果が異なるものとなったものと考えられる。また、再現性は低めであった。これは、測定波長が190nmでは過酸化水素の吸光度が高くなることから、セル長が0.05mmと非常に短いものを利用したため、セル精度が低くなったものと考えられる。
【0099】
実施例18より、測定波長を300nmとすると、吸光度が低いものとなった。これにより、再現性は低い結果となった。
【0100】
<実施例19>
過酸化水素検出方法として定電位法を用いて、評価を行った。評価液については、実施例1と同様のものを使用した。作用極材料には導電性ダイヤモンドを用い、作用極の保持電位は2.4Vとし、測定開始から30秒後の電流値を記録した。その結果を、下記の表8中に示す。
【0101】
<実施例20>
定電位法で用いる作用極の保持電位を3.2Vに変えた以外は実施例19と同様にして、評価液中の酸化性物質総濃度を測定した。その結果を、下記の表8中に示す。
【0102】
<実施例21>
定電位法で用いる作用極材料をグラッシーカーボン(GC)とし、作用極の保持電位を1.5Vに変えた以外は実施例19と同様にして、評価液中の酸化性物質総濃度を測定した。その結果を、下記の表8中に示す。
【0103】
<実施例22>
定電位法で用いる作用極材料を白金とし、作用極の保持電位を0.4Vに変えた以外は実施例19と同様にして、評価液中の酸化性物質総濃度を測定した。その結果を、下記の表8中に示す。
【0104】
【表7】

【0105】
【表8】

【0106】
実施例19については、電流値は27μA、電流値から算出した濃度は0.93mol/lであり、ラマン分光法と吸光度法各々から算出した総酸化性物質濃度との差は小さく、すなわち精度の高いものとなった。また、再現性評価結果は、測定2回目が28μA、測定3回目が27μAと再現性の高いものであり、精度および再現性ともに良好な結果が得られた。
【0107】
実施例20については、電流値は150μA、電流値から算出した濃度は2.46mol/lであり、ラマン分光法と定電位法で算出した総酸化性物質濃度との差は大きく、すなわち精度の低いものとなった。これは、過酸化水素の酸化と同時に水の酸化反応も進行したためであると考えられる。
【0108】
実施例21については、電流値は35μA、電流値から算出した濃度は1.06mol/lであり、ラマン分光法と定電位法から算出した総酸化性物質濃度との差は小さく、すなわち精度の高いものとなった。
【0109】
実施例22については、電流値は400μA、電流値から算出した濃度は1.04mol/lであり、ラマン分光法と電気化学的方法各々から算出した総酸化性物質濃度との差は小さく、すなわち精度の高いものとなった。
【0110】
<比較例1〜3>
比較例1〜3として、上記式(4)に基づき硫酸濃度3.5,9.17mol/lを含む電解液を作製し、評価液中の酸濃度、熱処理温度および熱処理時間を表中に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、評価液中の酸化性物質総濃度を測定した。その結果を、下記の表10中に示す。
【0111】
【表9】

【0112】
【表10】

【0113】
比較例1,2から、熱処理温度が40℃の場合、熱処理後の過酸化水素割合が低い結果となった。これは、熱処理が不十分で、上記式(1),(2)の反応が十分進行しなかったことによるものと考えられる。これにより、酸化性物質総濃度は、吸光度法で得られた結果と熱処理前に行ったラマン分光法で得られた結果との差が大きいものとなった。
【0114】
比較例3から、熱処理温度が140℃の場合、熱処理前後の酸化性物質濃度変化が大きいものとなった。これは、上記式(3)の反応が進行したためと考えられる。これにより、酸化性物質総濃度は、吸光度法で得られた結果と熱処理前に行ったラマン分光法で得られた結果との差が大きいものとなった。
【0115】
比較例1〜3より、熱処理温度が40℃または140℃の場合、酸化性物質の総濃度測定方法として利用できなくなることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、ペルオキソ二硫酸イオンやペルオキソ一硫酸イオン、過酸化水素などの多成分の酸化性物質を高濃度に含有する評価液中の酸化性物質の総濃度測定方法として、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化性物質を少なくとも一種含有する評価液中の酸化性物質の総濃度を測定する方法であって、
前記評価液を50〜135℃で熱処理する熱処理工程と、熱処理された該評価液中の過酸化水素を検出する過酸化水素検出工程と、を少なくとも含むことを特徴とする酸化性物質の総濃度測定方法。
【請求項2】
前記評価液が、前記酸化性物質として、ペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素のうちの少なくとも一種を含有する請求項1記載の酸化性物質の総濃度測定方法。
【請求項3】
前記評価液中の酸濃度が6〜24mol/lである請求項1または2記載の酸化性物質の総濃度測定方法。
【請求項4】
前記熱処理工程における熱処理時間を、前記評価液の温度が所定温度に達してから2〜70分とする請求項1〜3のうちいずれか一項記載の酸化性物質の総濃度測定方法。
【請求項5】
前記過酸化水素検出工程における過酸化水素の検出を、吸光度、電気化学的方法、超音波、密度および屈折率から選ばれるいずれかを用いて行う請求項1〜4のうちいずれか一項記載の酸化性物質の総濃度測定方法。
【請求項6】
前記過酸化水素検出工程における過酸化水素の検出を、波長220〜290nmにおける吸光度を測定することにより行う請求項5記載の酸化性物質の総濃度測定方法。
【請求項7】
前記過酸化水素検出工程における過酸化水素の検出を、カーボン材料または白金を作用極として用いた電気化学的方法により行う請求項5記載の酸化性物質の総濃度測定方法。
【請求項8】
前記過酸化水素検出工程における過酸化水素の検出を、前記電気化学的方法を用いて行い、該電気化学的方法における作用極の保持電位を、水の電解反応が進行せず、かつ、過酸化水素の酸化または還元反応のみが進行する電位に保持する請求項5記載の酸化性物質の総濃度測定方法。
【請求項9】
酸化性物質を少なくとも一種含有する評価液中の酸化性物質の総濃度の測定に用いられる濃度計であって、
前記評価液を収納する収納部と、該収納部内の該評価液を所定温度に加熱する熱処理部と、熱処理された該評価液中の過酸化水素を検出する過酸化水素検出部と、を備えたことを特徴とする酸化性物質の総濃度測定用濃度計。
【請求項10】
前記過酸化水素検出部が、吸光度計、電気化学的測定機器、超音波計、密度計および屈折計から選ばれるいずれかを備える請求項9記載の酸化性物質の総濃度測定用濃度計。
【請求項11】
前記過酸化水素検出部が、発光波長220〜290nmの光源を有する吸光度計を備える請求項10記載の酸化性物質の総濃度測定用濃度計。
【請求項12】
前記過酸化水素検出部が、カーボン材料または白金を作用極として用いた電気化学的測定機器を備える請求項10記載の酸化性物質の総濃度測定用濃度計。
【請求項13】
前記過酸化水素検出部が前記電気化学的測定機器を備え、該電気化学的測定機器で使用される作用極が、水の電解反応が進行せず、過酸化水素の酸化もしくは還元反応のみが進行する電位に保持されている請求項10記載の酸化性物質の総濃度測定用濃度計。
【請求項14】
請求項9〜13のうちいずれか一項記載の酸化性物質の総濃度測定用濃度計を搭載したことを特徴とする硫酸電解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−184951(P2012−184951A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46625(P2011−46625)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000105040)クロリンエンジニアズ株式会社 (48)
【Fターム(参考)】