説明

酸素酸イオン収着材、該収着材の製造方法および該収着材を使用した処理原液の酸素酸イオン収着処理方法

【課題】酸素酸イオン収着材において希薄な酸素酸溶液に対しても容易にかつ迅速に収着し、さらに収着材全体の特性を変えることなくイオン収着容量を大幅に向上させ得、しかも、収着したイオンを脱離、回収することができ、さらには再生して使用することが可能な酸素酸イオン収着材、その製造方法およびその使用方法の提供。
【解決手段】ポリアミン化合物が基材に固定支持されてなる酸素酸イオン収着材であって、上記ポリアミン化合物は、その構造中のアミノ基を介して、遷移金属のイオンおよびアルミニウムイオンからなる群から選ばれる1種以上の金属イオンを上記基材に固定化しており、該金属イオンの残基によって、或いは、該金属イオンの残基と上記アミノ基によって酸素酸イオンを収着する機能を発現するものであることを特徴とする酸素酸イオン収着材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸素酸イオン収着材、その製造方法およびその使用方法に関する。詳しくは、特に富栄養塩の1つであるリン酸イオンや重金属系酸素酸イオンなどの酸素酸イオンの収着性に優れる酸素酸イオン収着材、該収着材の製造方法および該収着材を使用した処理原液の酸素酸イオン収着処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃液中の重金属イオンの回収にあたっては、イオン濃度の希薄な大量の溶液を迅速に処理して、収率よく重金属イオンを回収する必要がある。従来、この回収操作は、重金属イオンを不溶の水酸化物や塩に変換して沈殿分別した後、捕集し切れなかったイオンをイオン交換樹脂やリガンド形成剤を用いて行ってきた。この沈殿分別処理には、大規模の沈降槽と、遠心分離機、ろ過機などの大型分別装置を必要とする。また、次の段階で使用されるMR型イオン交換樹脂やリガンド形成剤は、それらの形態に由来して、大量の希薄なイオン溶液の迅速な処理には適さないものであった。しかも、収着条件が限定される不便や、価格が高い等の問題もあった。
【0003】
一方、生活、畜産、水産、農業、流通などの分野で排出される有機物含有廃水は、大型処理施設では、活性汚泥処理とエア曝気、浮遊懸濁物の凝集分離、砂地ろ過等の通常の処理をした後に放流するか、或いは、廃水中のリン酸根を不溶のカルシウム塩に変えて大型槽で沈降分離するという煩雑かつ不完全な処理の後に放流している。上記した方法の多くの場合、捕集除去されない、或いは、除去し切れなかった希薄なリン酸根が存在し、これらのリン酸根は、放流先で藻類の異常増殖を引き起こし、それに伴う環境悪化をもたらしている。固着藻類の生育によって捕集する生物学的方法も行われているが、捕集能の不安定さ、生育した藻の処理等、この方法には問題が多く、さらに優れた希薄な富栄養塩溶液の処理技術が要望されている。このように、廃水中の重金属イオンを含むリン酸イオン等の酸素酸イオンを処理するに当たり、大規模な沈殿槽や回収設備を必要とせず、また希薄な酸素酸溶液に対しても容易にしかも経済的に処理する方法が必要とされてきた。
【0004】
発明者らは、既に、特に富栄養塩の1つであるリン酸イオンや重金属系酸素酸イオンなどの酸素酸イオンの収集に有用な酸素酸イオン収着材、その製造方法およびその使用について提案している(特許文献1、2参照)。具体的には、酸素酸イオン収着するカチオン性基を有し、3次元網目構造を有する高分子からなるアニオン収着部を、支持基材に固定支持させた酸素酸イオン収着材を提案した。該酸素酸イオン収着材は、アニオン収着部中の酸素酸イオン収着性基の密度が高く、この収着部中におけるイオン溶液の拡散が容易でアニオン収着部へイオン溶液の接近が容易であり、さらに収着材全体の特性を変えることなくイオン交換容量を大幅に向上させ得るものであり、従来達成されていなかった低濃度のイオンであっても収着でき、特に、リン酸イオン、クロム酸イオン、ホウ酸イオン、ヒ酸イオンなどの収着に好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−253453号公報
【特許文献2】特開2010−253454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らは、上記した従来技術の酸素酸イオン収着材は、例えば、廃水中のリン酸根に代表される酸素酸イオンを回収する際に使用すれば、低濃度までのイオンの除去を迅速に行うことができ有用であるが、収着したイオンを脱離、回収することが容易ではなく、さらには、再生して繰り返し使用する場合に、性能が激しく劣化してしまい、繰り返し使用することが難しいという課題があることを認識するに至った。すなわち、このことは、使用後の酸素酸イオン収着材について二次処理の問題が生じることを意味しているが、二次処理を必要とすることは廃水処理等においては極めて大きな問題であり、上記課題を解決することは、上記した有用な酸素酸イオン収着材の利用を図るためには非常に有用である。また、上記に加えて、種々の酸素酸イオンの中から特定の酸素酸イオンを選択的に収着、脱離、回収できる酸素酸イオン収着材が実現できれば、資源の有効活用も可能になり、非常に有効である。
【0007】
したがって、本発明の目的は、酸素酸イオン収着材において、希薄な酸素酸溶液に対しても容易にかつ迅速に収着し、さらに収着材全体の特性を変えることなくイオン収着容量を大幅に向上させ得、しかも、収着したイオンを脱離、回収することができ、さらには再生して使用することも可能な酸素酸イオン収着材、その製造方法およびその使用方法を提供することにある。さらに、本発明の目的は、種々の酸素酸イオンの中から所望する特定の酸素酸イオンを選択的に収着、脱離、回収することができる酸素酸イオン収着材、その製造方法およびその使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記本発明の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、下記のことを見出して本発明に至った。支持基材にポリアミン化合物が固定支持されており、さらにポリアミン化合物のアミノ基によって支持基材に金属イオンが固定化された構造を有する酸素酸イオン収着材が、アミノ基および/又は金属イオン残基によって希薄な酸素酸溶液に対しても、容易にかつ迅速に酸素酸イオンを収着し得ることを見出した。また、これに加えて、上記構成の酸素酸イオン収着材は、酸素酸イオン収着材に収着したイオンを塩基性溶液又は中性塩溶液で処理することで脱離、回収することが可能であり、さらには、イオン収着材は弱酸性溶液又は中性塩溶液で処理することで再生され、繰り返し使用することが可能であることを見出した。また、特定の金属イオンを固定化させることで、酸素酸イオンを含む複数のイオン溶液から特定の酸素酸イオンを選択的に収着させることが可能であることを見出した。
【0009】
上記した課題は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、ポリアミン化合物が基材に固定支持されてなる酸素酸イオン収着材であって、上記ポリアミン化合物は、その構造中のアミノ基を介して、遷移金属のイオンおよびアルミニウムイオンからなる群から選ばれる1種以上の金属イオンを上記基材に固定化しており、該金属イオンの残基によって、或いは、該金属イオンの残基と上記アミノ基によって酸素酸イオンを収着する機能を発現するものであることを特徴とする酸素酸イオン収着材を提供する。
【0010】
本発明の好ましい形態としては、下記の事項が挙げられる。
前記遷移金属のイオンが、銅イオン、亜鉛イオン、鉄イオン、コバルトイオンおよびニッケルイオンからなる群から選ばれる1種以上の金属イオンであること。
前記のポリアミン化合物が、ポリアリルアミン、ポリN−アルキルアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリN−アルキルビニルアミンおよびポリエチレンイミンからなる群から選ばれるポリアミン化合物、上記のポリアミン化合物と、ポリエポキシ化合物、ポリイソシアネート化合物又はポリカルボン酸とのアミノ基を有する縮合物、からなる群から選ばれる1種以上のポリアミン化合物であること。
前記基材が、天然繊維系素材、合成繊維系素材、合成樹脂系素材、無機材料又は金属質素材の少なくともいずれかを含む材料で形成されてなる、単繊維(フィブリル)、わた、糸、織布、不織布、フィルム、成形体、連続多孔質体、粒状体および粉状体から選ばれる少なくともいずれかの形状の基材であること。
前記の酸素酸イオンが、リン酸イオン、亜リン酸イオン、ヒ酸イオン、亜ヒ酸イオン、ホウ酸イオン、メタホウ酸イオン、クロム酸イオン、二クロム酸イオン、モリブデン酸イオン、タングステン酸イオン、マンガン酸イオンおよび過マンガン酸イオン、チタン酸から選ばれる1種以上の酸素酸イオンであること。
【0011】
また本発明の別の実施形態は、上記いずれかの酸素酸イオン収着材を製造する製造方法であって、前記ポリアミン化合物を基材に固定支持させる方法が、
(1)アミノ基と化学反応し得る官能基を基材に予め導入し、該官能基とポリアミン化合物のアミノ基との反応によって化学結合を生じさせ、ポリアミン化合物を基材に固定支持させる方法か、
(2)基材の形成材料の存在下で、ポリアミン化合物と、分子中にアミノ基と化学反応し得る官能基を2個以上有する化合物とを化学反応させ、ポリアミン化合物を3次元網目構造として基材に固定支持させる方法、のいずれかであることを特徴とする酸素酸イオン収着材の製造方法を提供する。
その好ましい形態としては、前記のアミノ基と化学反応し得る官能基が、エポキシ基、カルボキシル基、ハロアルキル基、ハロヒドリン基、酸無水物基および酸ハライド基からなる群から選ばれる少なくともいずれかであることが挙げられる。
【0012】
また本発明の別の実施形態は、上記いずれかの酸素酸イオン収着材を製造する製造方法であって、前記金属イオンの基材への固定化させる方法が
(1)ポリアミン化合物が固定支持された基材と、金属の塩或いは水酸化物を水系溶剤中で混合させ、ポリアミン化合物の構造中のアミノ基を介して金属イオンを基材に固定化させる方法か、
(2)基材の形成材料の存在下、ポリアミン化合物と、金属の塩或いは水酸化物とを水系溶剤中で混合させ、金属イオンを含むポリアミン化合物の3次元網目構造として、金属イオンを基材に固定化させる方法、のいずれかであることを特徴とする酸素酸イオン収着材の製造方法を提供する。
【0013】
本発明の好ましい形態としては、前記の金属の塩或いは水酸化物が、銅、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケルおよびアルミニウムから選ばれる1種以上の金属の、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、炭酸塩、炭酸水素塩および水酸化物からなる群から選ばれる少なくともいずれかであることが挙げられ、より好ましくは、該水系溶剤が、水又はアルコールと水との混合溶剤であることである。
【0014】
また本発明は、別の実施形態として、酸素酸イオンを含む処理原液から酸素酸イオンを除去処理する処理原液のイオン収着処理方法において、酸素酸イオン収着材を処理原液に接触させて、該処理原液に含まれる酸素酸イオンを収着させて除去処理する際に、上記いずれかの酸素酸イオン収着材を使用することを特徴とする処理原液の酸素酸イオン収着処理方法を提供する。
【0015】
上記処理原液の酸素酸イオン収着処理方法において好ましい形態としては、下記のことが挙げられる。上記処理原液が、リン酸イオン、亜リン酸イオン、ヒ酸イオン、亜ヒ酸イオン、ホウ酸イオン、メタホウ酸イオン、クロム酸イオン、二クロム酸イオン、モリブデン酸イオン、タングステン酸イオン、マンガン酸イオン、過マンガン酸イオンおよびチタン酸からなる群から選ばれる1種以上の酸素酸イオンと、硫酸イオンとを含むこと。上記酸素酸イオン収着材を処理原液に接触させる方法が、原液処理装置中に前記酸素酸イオン収着材を充填し、処理原液を、その上部から流入させて充填物中を流下させその下部から流出させる方法および/又はその下部から注入させて充填物中を上昇させその上部からオーバーフローさせる方法であることである。
【0016】
上記処理原液の酸素酸イオン収着処理方法において、さらに、前記酸素酸イオン収着材に収着した酸素酸イオンを該収着材から脱離、回収する工程を有し、該工程で、塩基性溶液又は中性塩溶液で酸素酸イオン収着材を処理することで酸素酸イオンを脱離させて回収することが挙げられる。
【0017】
そして、この場合に好ましい形態としては下記のことが挙げられる。前記塩基性溶液又は中性塩溶液での酸素酸イオン収着材の処理を、酸素酸イオン収着材を処理装置中に充填し、塩基性溶液又は中性塩溶液を処理装置の上部から流入させ充填物中を流下し下部から流出させるか、塩基性溶液又は中性塩溶液を処理装置の下部から注入して充填物中を上昇し、上部からオーバーフローさせるかの少なくともいずれかの方法で行うこと。さらに、酸素酸イオン収着材に収着した酸素酸イオンを該収着材から脱離、回収した後の酸素酸イオン収着材を、弱酸性溶液又は中性塩溶液で処理することで酸素酸イオン収着材を再生し、再利用すること。前記弱酸性溶液又は中性塩溶液での酸素酸イオン収着材の処理を、前記酸素酸イオンを該収着材から脱離、回収した後の酸素酸イオン収着材を処理装置中に充填し、弱酸性溶液又は中性塩溶液を上部から流入させ充填物中を流下し下部から流出させるか、塩基性溶液又は中性塩溶液を処理装置の下部から注入して充填物中を上昇し、上部からオーバーフローさせるかの少なくともいずれかの方法で行うことである。
【発明の効果】
【0018】
本発明で提供される酸素酸イオン収着材を用いれば、重金属溶液、富栄養塩などの酸素酸イオン溶液処理において、大規模な処理設備、装置の一部の設置が不要となり、容易にかつ迅速に従来達成されなかった低濃度までのイオンの除去を行うことができる。また、本発明で提供される酸素酸イオン収着材は、酸素酸イオン収着材に収着した酸素酸イオンを、塩基性溶液又は中性塩溶液で処理することで回収することができ、また、弱酸性溶液又は中性塩溶液で処理することで酸素酸イオン収着材を再生、再利用することも可能であるので、資源の有効活用が図れる。さらに本発明で提供される酸素酸イオン収着材は、その構造中に特定の金属イオンを使用することで、酸素酸イオンを含む複数のイオン溶液から特定の酸素酸イオンを選択的に収着させることができるので、所望する酸素酸イオンを選択的に収着、脱離、回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、好ましい実施の形態を挙げて本発明について詳細に説明する。まず、本発明を特徴づける酸素酸イオン収着材について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。ここに、「収着」とは、収着と吸収とを含む概念である(化学大辞典4(縮刷版)、p664右欄7〜9行)。
【0020】
<酸素酸イオン収着材>
まず、本発明の酸素酸イオン収着材を構成する材料および収着の対象となる酸素酸イオンについて説明する。本発明の酸素酸イオン収着材は、ポリアミン化合物が基材に固定支持されてなることを基本構成とし、該ポリアミン化合物の構造中のアミノ基を介して、特定の金属イオンを上記基材に固定化していることを特徴とするが、これらの形成材料についてそれぞれ説明する。
【0021】
〔支持基材〕
支持基材としては、天然繊維系素材、合成繊維系素材、合成樹脂系素材、無機材料或いは金属質素材を使用することができる。またその形状としては、繊維(フィブリル)、わた、糸、織布、不織布、フィルム、成形体、連続多孔質体、粒状体、粉状体のものを使用することができる。本発明の酸素酸イオン収着材は、主に水処理用として用いられるため、支持基材は水中で溶出しないものを用いることが好ましい。
【0022】
〔ポリアミン化合物〕
本発明の酸素酸イオン収着材は、上記したような支持基材にポリアミン化合物が固定支持された構造を有するが、ポリアミン化合物としては下記のものが挙げられる。例えば、ポリアリルアミン、ポリN−アルキルアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリN−アルキルビニルアミン、ポリエチレンイミンを用いることができる。また、上記のポリアミン化合物と、ポリエポキシ化合物、ポリイソシアネート化合物又はポリカルボン酸とのアミノ基を有する縮合物も用いることができる。
【0023】
〔金属イオン〕
本発明における酸素酸イオン収着材は、上記したようなポリアミン化合物の構造中のアミノ基を介して、遷移金属のイオンおよびアルミニウムイオンからなる群から選ばれる1種以上の金属イオンを支持基材に固定化してなる構造を有する。支持基材に固定化された金属イオンの具体的なものとしては、銅イオン、亜鉛イオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、アルミニウムイオンを挙げることができる。また、これら金属イオンの導入に金属の塩又は水酸化物を使用するが、その金属の塩又は水酸化物としては、例えば、銅、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウムから選ばれる1種以上の金属の、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物を使用することができる。
【0024】
<収着の対象となる酸素酸イオン>
上記構成を有する本発明の酸素酸イオン収着材が収着する対象にできる酸素酸イオンとしては、例えば、リン酸イオン、亜リン酸イオン、ヒ酸イオン、亜ヒ酸イオン、ホウ酸イオン、メタホウ酸イオン、クロム酸イオン、二クロム酸イオン、モリブデン酸イオン、タングステン酸イオン、マンガン酸イオン、過マンガン酸イオン、チタン酸などが挙げられる。
【0025】
<その他の材料>
後述する酸素酸イオン収着材の製造方法および該収着材を使用した処理原液のイオン収着処理方法において用いる材料としては、例えば、下記に挙げるような材料をそれぞれ用いることが好ましい。
【0026】
〔水系溶剤〕
本発明において使用する水系溶剤としては、水又はアルコール−水混合溶剤を挙げることができる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどを使用することができる。
【0027】
〔塩基性溶液〕
本発明において使用する塩基性溶液としては、下記のような一般的な塩基性溶液を挙げることができる。例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水などを使用することができる。
【0028】
〔中性塩溶液〕
本発明において使用する中性塩溶液としては、下記のような一般的な中性塩溶液を挙げることができる。例えば、塩化ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液などを使用することができる。また、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウムなどのアンモニウム塩溶液も使用することができる。
【0029】
〔弱酸性溶液〕
本発明において使用する弱酸性溶液としては、例えば、塩酸、硫酸、酢酸の高希釈水溶液などを挙げることができる。pH値としては4−6の範囲のものであることが好ましい。
【0030】
次に、上記した本発明の酸素酸イオン収着材の構造、その製造方法、該収着材の使用方法について詳細に説明する。
<酸素酸イオン収着材の構造>
本発明の酸素酸イオン収着材は、支持基材にポリアミン化合物が固定支持されており、さらにポリアミン化合物のアミノ基によって支持基材に金属イオンが固定化された構造を有し、アミノ基および/又は金属イオン残基によって酸素酸イオンを収着することを特徴とする。支持基材にポリアミン化合物が固定支持される構造としては、支持基材とポリアミン化合物が化学結合を形成していてもよいが、必ずしも化学結合を形成しなくてもよく、支持基材表面でポリアミン化合物が3次元網目構造を形成することで、支持基材に固定支持された構造であってもよい。
【0031】
<酸素酸イオン収着材の製造方法>
本発明の酸素酸イオン収着材の製造方法について説明する。まず、本発明における支持基材へのポリアミン化合物の固定支持方法としては、以下の二通りの方法を用いることができる。一つは、アミノ基と化学反応し得る官能基を支持基材に予め導入し、前記官能基とポリアミン化合物のアミノ基の反応によって化学結合を生じさせ、ポリアミン化合物を支持基材に固定支持させる方法である。もう一つは、支持基材存在下で、ポリアミン化合物と分子中にアミノ基と化学反応し得る官能基を2個以上有する多官能性化合物を化学反応させ、ポリアミン化合物を3次元網目構造として支持基材に固定支持させる方法である。
【0032】
以上の方法におけるアミノ基と化学反応し得る官能基としては、エポキシ基、カルボキシル基、ハロアルキル基、ハロヒドリン基、酸無水物基、酸ハライド基等を用いることができる。また、前者の方法でアミノ基と化学反応し得る官能基を支持基材に導入する方法としては、例えば、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸、クロロメチルスチレン等のモノマーを支持基材にグラフト重合させる方法、また支持基材に水酸基を有するものであれば、エポキシ基、カルボキシル基、ハロアルキル基、ハロヒドリン基、酸無水物基、酸ハライド基等を分子中に複数個有する多官能性化合物と水酸基を反応させて前記官能基を支持基材に導入する方法などを挙げることができる。一方、後者の方法においても支持基材にポリアミン化合物を固定支持させることができ、支持基材表面でポリアミン化合物が3次元網目構造を形成することで支持基材にポリアリルアミンが固定支持された構造となる。よって、支持基材表面でポリアミン化合物と分子中にアミノ基と化学反応し得る官能基を2個以上有する多官能性化合物を化学反応させることで、ポリアミン化合物が3次元網目構造を形成して、支持基材にポリアミン化合物を固定支持させることができる。
【0033】
また、本発明の酸素酸イオン収着材は、ポリアミン化合物の構造中のアミノ基によって支持基材に金属イオンが固定化された構造を有するが、支持基材への金属イオンの固定化方法としては以下の二通りの方法を用いることができる。一つは、ポリアミン化合物が固定支持された支持基材と、金属の塩又は水酸化物を水系溶剤中で混合させ、支持基材へ金属イオンを固定化させる方法である。もう一つは、支持基材の形成材料の存在下で、ポリアミン化合物および金属の塩又は水酸化物を水系溶剤中で混合させ、金属イオンを含むポリアミン化合物の3次元網目構造として支持基材に固定化させる方法である。
【0034】
前者の方法では、支持基材に固定支持されたポリアミン化合物のアミノ基と金属の塩又は水酸化物に由来する金属イオンが錯体化等の相互作用を起こし、化学的に結合することによって支持基材に金属イオンが固定化された構造となる。一方で、後者の方法によっても支持基材に金属イオンを固定化させることができる。ポリアミン化合物と金属の塩又は水酸化物を混合すると、ポリアミン化合物のアミノ基と金属イオンが錯体化等の相互作用を起こし、金属イオンを含むポリアミン化合物の3次元網目構造が形成される。この金属イオンを含むポリアミン化合物の3次元網目構造が支持基材によって固定支持されれば、支持基材に金属イオンが固定化された構造となる。よって、支持基材存在下でポリアミン化合物および金属の塩又は水酸化物を水系溶剤中で混合することで、支持基材表面で金属イオンを含むポリアミン化合物の3次元網目構造が形成され、金属イオンを支持基材に固定化させることができる。
【0035】
<酸素酸イオン収着材の収着材の使用方法>
〔酸素酸イオンの収着〕
本発明者らは、本発明の酸素酸イオン収着材が酸素酸イオンを収着する理由を、酸素酸イオン収着材に固定化された金属イオンおよび/又はポリアミン化合物のアミノ基の作用によるものであると考えている。まず、金属イオンの作用については、支持基材に固定化された金属イオンは陽イオンであり、カウンターイオンである陰イオンと対となっており、酸素酸イオン収着材の陰イオンがこれまた陰イオンである酸素酸イオンによって置換されることで酸素酸イオンが収着されると考えられる。よって、不溶性の塩を形成する金属イオンと酸素酸イオンの組み合わせを選択すれば、酸素酸イオンによる置換が起こりやすく、効率よく酸素酸イオンを収着することが可能であると考えられる。一方でポリアミン化合物のアミノ基の作用については、アミノ基はカチオン性基であるため、金属イオン同様に陰イオンである酸素酸イオンと対となることで酸素酸イオンが収着されると考えられる。上記した理由から、酸素酸イオンの収着は、金属イオンおよび/又はポリアミン化合物のアミノ基の作用によるものと考えられる。
【0036】
本発明の酸素酸イオン収着材は、酸素酸イオンを含む溶液に接触させることで、容易にかつ迅速に酸素酸イオンを収着させることができる。その接触方法としては、例えば、酸素酸イオン溶液に酸素酸イオン収着材を添加し、撹拌、拡散させて接触させる方法、または、酸素酸イオン収着材をカラムに充填し、酸素酸イオン溶液をカラムに通水させて接触させる方法を挙げることができる。また、収着の対象とする酸素酸イオンの濃度としては、極低濃度から高濃度のイオンであっても収着させることができる。具体的には、例えば、0.01〜100ppmの広範囲にわたっての適用が可能である。本発明の酸素酸イオン収着材の具体的な使用場面としては特に限定するわけではないが、例えば、工場などから排出される廃液中の有害なイオンなどの有毒イオンを除去する用途のほか、酸素酸イオンを含む溶液中の酸素酸イオンの濃度調整の用途への適用も可能である。
【0037】
〔酸素酸イオンの脱離・回収〕
また、本発明の酸素酸イオン収着材は、塩基性溶液又は中性塩溶液で処理することにより収着させた酸素酸イオンを脱離させることができる。これは、収着された酸素酸イオンが塩基性溶液の水酸化物イオン又は中性塩溶液中の陰イオンにより置換されることにより、酸素酸イオンが脱離するためである。すなわち、陰イオンの置換によって酸素酸イオン収着材に収着した酸素酸イオンを、陰イオンの置換によって脱離させることが可能である。そして、脱離した酸素酸イオンは不溶性塩として沈殿させて回収することも可能である。
【0038】
〔酸素酸イオン収着材の再生〕
さらに、本発明の酸素酸イオン収着材は、弱酸性溶液又は中性塩溶液で再生処理をすることにより、繰り返し使用することが可能となる。酸素酸イオンの脱離において塩基性溶液を使用した場合、収着材に水酸化物イオンが含まれることとなるので、酸で処理して中和反応させる、または中性塩溶液で処理して水酸化物イオンを中性塩溶液中の陰イオンによって置換させることで、再び酸素酸イオンを収着し得る収着材となる。一方、酸素酸イオンの脱離において中性塩溶液を使用した場合は、酸で処理してもよいが、そのままでも再び酸素酸イオンを収着し得る収着材となる。ただ、酸を使用する場合、pH値の低い強酸性溶液を使用すると、支持基材に固定されている金属イオンが流れ出てしまうために、pH値が中性に近い弱酸性溶液を使用する必要がある。酸で処理する場合は、金属の流出を防ぐためにpH値のコントロールが必要となる。
【0039】
〔酸素酸イオン収着材を用いた処理原液のイオン収着処理方法〕
本発明の酸素酸イオン収着材は、弱酸性から塩基性の領域の廃水等の処理原液において使用することができる。強酸性領域の処理原液では、支持基材に固定化された金属イオンが流出してしまうため使用することは難しいが、その他の領域では使用することは可能である。より具体的には、pH値として、4から11の領域の処理原液に適用することが好ましく、5から9の領域の処理原液に適用することがさらに好ましい。処理原液の塩基性が強くなると、使用することはできるが、水酸化物イオンが置換され、対象となる酸素酸イオンの収着力が低下してしまうため、中性付近で使用することが好ましい。
【0040】
本発明の酸素酸イオン収着材を用いることで、複数の陰イオンを含む溶液から特定の酸素酸イオンを選択的に収着させ除去することができる。亜鉛イオンが固定化され、そのカウンターアニオンが塩化物イオンである構成の本発明の酸素酸イオン収着材を使用したリン酸廃水の処理を例にとって説明する。リン酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオンを含む処理原液に前記酸素酸イオン収着材を接触させると、処理原液中のリン酸イオンが選択的に収着される。これは、上記酸素酸イオン収着材を構成している亜鉛イオンと、処理原液中のリン酸イオンが形成する塩の水溶解性が低く、カウンターアニオンである塩化物イオンとリン酸イオンとの置換が起きやすかったためと考えられる。このように、本発明の酸素酸イオン収着材の機能として、複数の陰イオンが含有されている溶液からリン酸イオンを選択的に収着させることが可能であるといえる。
【0041】
また、リン酸イオンを包含する廃水(処理原液)の処理を例にとると、従来の処理方法では、例えば、廃水のpHを調整した後に凝集を加えてフロックを形成させ、さらにpH調整した後に凝集剤を加えて沈殿を生ぜしめ、最後に固液分離により沈殿物を除去するというプロセスを採用しており、処理が多工程に亘って非常に煩雑で大規模な装置を必要とする。これに対して、本発明の処理方法では、リン酸廃水を貯蔵した貯蔵槽中の廃水を、本発明の酸素酸イオン収着材を充填したイオン捕集槽へと導入すれば、通過後に、酸素酸イオンが除去された溶液をそのまま放流することができる。両方法を対比すれば明らかなように、本発明の酸素酸イオン収着材を用いれば、処理が簡素化でき、装置も小規模とすることができる。さらに、本発明の酸素酸イオン収着材を用いた方法では、リン酸イオンは荷電により酸素酸イオン収着材に収着されているため、化学的洗浄により簡易に収着材を再生し、かつ、リン酸を回収することができる点において、経済的・環境的にも、イオンを凝集沈殿させて分離除去する従来法にはない利点を有する。
【実施例】
【0042】
次に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、文中、「%」とあるのは質量基準である。
[実施例1]
まず、支持基材として、充分に叩解した含水状態の針葉樹セルロースパルプを純分で10部(含水状態で40部)小型攪拌機に仕込み、これにメタクリル酸グリシジル2部のメタノール溶液40部を添加した。これを攪拌しながら、0.5%の硝酸アンモニウムセリウム水溶液20部を滴下することにより、セルロースパルプにメタクリル酸グリシジルをグラフト重合させた。このグラフト重合により、支持基材であるセルロースパルプに、メタクリル酸グリシジル由来のエポキシ基を導入した。25℃、3時間反応後、攪拌を続けながら前記グラフト反応物に、20%ポリアリルアミン水溶液(重量平均分子量:3,000)10部を添加して、先に導入したエポキシ基と、ポリアリルアミン由来のアミノ基との反応により、セルロースパルプにポリアリルアミンを導入した。25℃、20時間反応後、反応物を水で十分に洗浄して、ポリアリルアミンが固定支持されたセルロースパルプを、含水状態で40部得た。得られたセルロースパルプを攪拌機に仕込み、攪拌しながら5%塩化亜鉛(II)水溶液40部を添加して、該パルプ中のアミノ基に亜鉛イオンを導入した。25℃、1時間反応後、反応物を水で十分に洗浄し、乾燥させることで、本実施例の亜鉛イオンが固定化されたセルロースパルプを得た。以下、これを酸素酸イオン収着材−1とする。
【0043】
[実施例2]
実施例1において、5%塩化亜鉛(II)水溶液の代わりに、5%塩化銅(II)水溶液を使用したこと以外は実施例1と同様に実施し、本実施例の銅イオンが固定化されたセルロースパルプを得た。以下、これを酸素酸イオン収着材−2とする。
【0044】
[実施例3]
実施例1において、5%塩化亜鉛(II)水溶液の代わりに、5%塩化鉄(II)水溶液を使用したこと以外は実施例1と同様に実施し、本実施例の鉄イオンが固定化されたセルロースパルプを得た。以下、これを酸素酸イオン収着材−3とする。
【0045】
[実施例4]
まず、支持基材として、充分に叩解した含水状態の針葉樹セルロースパルプを純分で10部(含水状態で40部)小型攪拌機に仕込み、これにメタクリル酸グリシジル2部のメタノール溶液40部を添加した。これを攪拌しながら、0.5%の硝酸アンモニウムセリウム水溶液20部を滴下することにより、セルロースパルプにメタクリル酸グリシジルをグラフト重合させた。このグラフト重合により、支持基材であるセルロースパルプに、メタクリル酸グリシジル由来のエポキシ基を導入した。25℃、3時間反応後、攪拌しながら前記グラフト反応物に20%ポリエチレンイミン水溶液(平均分子量:1,800)10部を添加して、先に導入したエポキシ基と、ポリエチレンイミン由来のアミノ基との反応により、セルロースパルプにポリアリルアミンを導入した。25℃、20時間反応後、反応物を水で十分に洗浄して、ポリエチレンイミンが固定支持されたセルロースパルプを、含水状態で40部得た。得られたセルロースパルプを攪拌機に仕込み、攪拌しながら5%塩化亜鉛(II)水溶液40部を添加して、該パルプ中のアミノ基に亜鉛イオンを導入した。25℃、1時間反応後、反応物を水で十分に洗浄し、乾燥させることで、本実施例の亜鉛イオンが固定化されたセルロースパルプを得た。以下、これを酸素酸イオン収着材−4とする。
【0046】
[実施例5]
実施例4において、5%塩化亜鉛(II)水溶液の代わりに5%塩化銅(II)水溶液を使用したこと以外は実施例4と同様に実施し、本実施例の銅イオンが固定化されたセルロースパルプを得た。以下、これを酸素酸イオン収着材−5とする。
【0047】
[実施例6]
まず、支持基材として充分に叩解した含水状態の針葉樹セルロースパルプを純分で10部(含水状態で40部)小型攪拌機に仕込み、触媒として5%水酸化ナトリウム水溶液20部を添加、撹拌し、セルロース中に含有する水酸基を活性化させた。これに、多官能のエポキシ化合物であるソルビトールポリグリシジルエーテル(エポキシ当量:167)の20%水溶液10部を攪拌しながら添加し、水酸基と一部のエポキシ基を反応させ、セルロースパルプにエポキシ基を導入した。25℃、5時間反応後、攪拌しながら反応物に20%ポリアリルアミン水溶液(重量平均分子量:3,000)10部を添加して、先に導入したエポキシ基と、ポリアリルアミン由来のアミノ基との反応により、セルロースパルプにポリアリルアミンを導入した。25℃、20時間反応した後、反応物を水で十分に洗浄して、ポリアリルアミンが固定支持されたセルロースパルプを含水状態で40部得た。得られたセルロースパルプを攪拌機に仕込み、攪拌しながら5%塩化亜鉛(II)水溶液40部を添加して、該パルプ中のアミノ基に亜鉛イオンを導入した。25℃、1時間反応した後、反応物を水で十分に洗浄し、乾燥させることで、本実施例の亜鉛イオンが固定化されたセルロースパルプを得た。以下、これを酸素酸イオン収着材−6とする。
【0048】
[実施例7]
実施例6において、5%塩化亜鉛(II)水溶液の代わりに5%塩化銅(II)水溶液を使用したこと以外は実施例6と同様に実施し、本実施例の銅イオンが固定化されたセルロースパルプを得た。以下、これを酸素酸イオン収着材−7とする。
【0049】
[実施例8]
まず、支持基材として充分に叩解した含水状態の針葉樹セルロースパルプを純分で10部(含水状態で40部)小型攪拌機に仕込み、これに20%ポリアリルアミン水溶液(重量平均分子量:3,000)10部を添加して十分に攪拌させた。次に、ソルビトールポリグリシジルエーテル(エポキシ当量:167)の20%水溶液10部を攪拌しながら少しずつ添加することで、アミノ基とエポキシ基との反応によって形成するポリアリルアミンの3次元網目構造をセルロースパルプに導入した。ポリアリルアミンは3次元網目構造を形成することで、セルロースパルプに固定支持された構造となる。25℃、5時間反応後、反応物を水で十分に洗浄して、ポリアリルアミンが固定支持されたセルロースパルプを、含水状態で40部得た。得られたセルロースパルプを攪拌機に仕込み、攪拌しながら5%塩化亜鉛(II)水溶液40部を添加して、該パルプ中のアミノ基に亜鉛イオンを導入した。25℃、1時間反応後、反応物を水で十分に洗浄し、乾燥させることで、本実施例の亜鉛イオンが固定化されたセルロースパルプを得た。以下、これを酸素酸イオン収着材−8とする。
【0050】
[実施例9]
まず、支持基材としてポリプロピレン繊維からなる多孔質な不織布10部を、ポリアリルアミン(重量平均分子量:3,000)10%水溶液に浸し、液を適度に絞り含浸状態の不織布30部とした。次に、これを120℃、30分乾燥させて水分を蒸発させた後、得られた不織布をソルビトールポリグリシジルエーテル(エポキシ当量:167)の5%水溶液に浸し、液を適度に絞り含浸状態の不織布30部とした。この不織布表面では、アミノ基とエポキシ基との反応が進行し、ポリアリルアミンの3次元網目構造が形成される。ポリアリルアミンは3次元網目構造を形成することで不織布に固定支持された構造となる。アミノ基とエポキシ基との反応は、120℃、1時間行い、反応させた不織布は水で十分に洗浄した。得られた不織布を10%塩化亜鉛(II)水溶液に浸して、含浸液を十分に絞り、水で十分に洗浄した。そして乾燥させることで、本実施例の亜鉛イオンが固定化されたポリプロピレン繊維からなる多孔質な不織布を得た。以下、これを酸素酸イオン収着材−9とする。
【0051】
[実施例10]
まず、支持基材として合成非晶質シリカ(平均粒径:230μm、吸油量:2ml/g)50gを粉体混合機中に仕込み、ポリアリルアミン(重量平均分子量:3,000)20%水溶液50部を添加し、十分に混合させた。次に、ソルビトールポリグリシジルエーテル(エポキシ当量:167)の5%水溶液50部を少量ずつ添加し、アミノ基とエポキシ基との反応によって形成するポリアリルアミンの3次元網目構造をシリカ表面に導入した。ポリアリルアミンは3次元網目構造を形成することでシリカに固定支持された構造となる。60℃、2時間反応後、反応物を水で十分に洗浄して乾燥させた。得られたシリカを混合機に仕込み、10%塩化亜鉛(II)水溶液100部を添加して、サンプル中のアミノ基に亜鉛イオンを導入した。25℃、1時間混合して反応後、反応物を水で十分に洗浄し乾燥させることで、本実施例の亜鉛イオンが固定化された合成非晶質シリカを得た。以下、これを酸素酸イオン収着材−10とする。
【0052】
[実施例11]
まず、支持基材として充分に叩解した含水状態の針葉樹セルロースパルプを純分で10部(含水状態で40部)小型攪拌機に仕込み、これに20%ポリアリルアミン水溶液(重量平均分子量:3,000)10部を添加して十分に攪拌させた。次に、5%塩化亜鉛(II)水溶液40部を攪拌しながら少量ずつ添加していき、アミノ基と亜鉛イオンの錯体化等の相互作用によって形成する亜鉛イオンを含むポリアリルアミンの3次元網目構造をセルロースパルプに導入した。25℃、1時間反応後、本実施例の反応物を水で十分に洗浄して乾燥させ、亜鉛イオンが固定化されたセルロースパルプを得た。以下、これを酸素酸イオン収着材−11とする。
【0053】
[実施例12]
実施例11において、5%塩化亜鉛(II)水溶液の代わりに5%塩化銅(II)水溶液を使用したこと以外は、実施例11と同様に実施し、本実施例の銅イオンが固定化されたセルロースパルプを得た。以下、これを酸素酸イオン収着材−12とする。
【0054】
[実施例13]
まず、支持基材としてポリプロピレン繊維からなる多孔質な不織布10部を、ポリアリルアミン(重量平均分子量:3,000)10%水溶液に浸した後、液を適度に絞り含浸状態の不織布30部とした。120℃、30分乾燥させて水分を蒸発させた後、得られた不織布を5%塩化銅(II)水溶液に浸した後、液を適度に絞り含浸状態の不織布30部とした。この不織布表面では、アミノ基と銅イオンの錯体化等の相互作用により、銅イオンを含むポリアリルアミンの3次元網目構造が形成される。反応は120℃、1時間行い、反応させた不織布を水で十分に洗浄し乾燥させることで、本実施例の銅イオンが固定化されたポリプロピレン繊維からなる多孔質な不織布を得た。以下、これを酸素酸イオン収着材−13とする。
【0055】
[実施例14]
まず、支持基材として合成非晶質シリカ(平均粒径:230μm、吸油量:2ml/g)50gを粉体混合機中に仕込み、ポリアリルアミン(重量平均分子量:3,000)20%水溶液50部を添加し、十分に混合させた。次に、10%塩化銅(II)水溶液50部を少量ずつ添加し、アミノ基と銅イオンの錯体化等の相互作用によって形成する銅イオンを含むポリアリルアミンの3次元網目構造をシリカ表面に導入した。60℃、2時間反応後、反応物を水で十分に洗浄して乾燥させることで、本実施例の銅イオンが固定化された合成非晶質シリカを得た。以下、これを酸素酸イオン収着材−14とする。
【0056】
[比較例1]
実施例1において、5%塩化亜鉛(II)水溶液の代わりに10%塩化カルシウム(II)水溶液を使用したこと以外は、実施例1と同様に実施し、金属イオンとしてカルシウムイオンを使用した本比較例のセルロースパルプを得た。以下、これを酸素酸イオン収着材−15とする。
【0057】
[実施例15]
(アニオン収着試験)
実施例1で得られた酸素酸イオン収着材−1を用いて、アニオン収着試験を行った。具体的には、1.0gの酸素酸イオン収着材−1を、F-、Cl-、Br-、NO3-、SO42-、PO43-をそれぞれ10ppmずつ含む混合イオン水溶液1L(pH8.0)に加えて、5分間撹拌した後、各イオンの濃度を測定した。その結果を表1に示した。PO43-は0.5ppmと大幅に減少したのに対し、Cl-を除く他のイオンはほぼ初期濃度のままであった。また、Cl-は初期濃度に比べて増加した。Cl-が増加した理由は、酸素酸イオン収着材−1中の銅イオンのカウンターアニオンであるCl-が、PO43-の収着によって放出されたためと考えられる。上記した結果から、酸素酸イオン収着材−1はPO43-を迅速かつ選択的に収着することを確認した。
【0058】

【0059】
[実施例16]
(リン酸イオン収着試験)
0.02gの酸素酸イオン収着材−1を直径15mmのカラムに詰めて、pH9.0の条件で、PO43-100ppmの水溶液を1ml/minの速度で流し、上記カラムを通じて流れた水溶液について継続的にPO43-の濃度を測定した。上記収着試験の結果、流し始めの段階ではカラム中の酸素酸イオン収着材−1がPO43-を収着し、カラムを通じて流れた水溶液中にPO43-はしばらく検出されなかった。そして、500秒後に初めてPO43-が検出された。上記収着試験の結果から、酸素酸イオン収着材−1のリン酸イオン捕集量は、酸素酸イオン収着材1g当たり41.7mgであることが分かった。
同様の収着試験を、実施例の酸素酸イオン収着材−2〜−14および比較例1の酸素酸イオン収着材−15についても実施し、リン酸イオン捕集量を算出した。その結果を表2に示した。表2から明らかなように、実施例の酸素酸イオン収着材は、捕集量に程度の差があるものの、いずれのものも、比較例1の酸素酸イオン収着材−15に比べて明らかに高いリン酸イオン捕集量を示すことが確認された。
【0060】

【0061】
[実施例17]
(クロム酸イオン収着試験)
0.02gの酸素酸イオン収着材−1を直径15mmのカラムに詰めて、CrO42-10ppmの水溶液(pH6.0)を1ml/minの流速で流し、上記カラムを通じて流れた水溶液について継続的にCrO42-の濃度を測定した。上記収着試験の結果、CrO42-濃度は、10ppmから0.03ppmに減少した。
また、同様の試験を実施例2の酸素酸イオン収着材−2および実施例4の酸素酸イオン収着材−4を用いて実施した。この結果、カラム通過後の溶液中のCrO42-濃度は、それぞれ酸素酸イオン収着材−2を用いた場合は0.05ppmに減少し、酸素酸イオン収着材−4を用いた場合は0.10ppmに減少した。
【0062】
[実施例18]
(リン酸イオン脱離試験1)
実施例16におけるリン酸イオン収着試験後の、リン酸イオンを収着した酸素酸イオン収着材−1の詰まったカラムにイオン交換水を通して十分に洗浄した。その後、0.02mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液5mlを1ml/minの流速で流し、この際に流した液を回収液とした。得られた回収液中のリン酸イオン濃度を測定したところ、120ppmであった。
上記と同様の試験を、実施例16におけるリン酸イオン収着試験後の酸素酸イオン収着材−2および4についても実施した。この結果、回収液のリン酸イオン濃度はそれぞれ120ppmおよび80ppmであった。
【0063】
[実施例19]
(リン酸イオン脱離試験2)
実施例16におけるリン酸イオンを収着した酸素酸イオン収着材−6の詰まったカラムにイオン交換水を通して十分に洗浄した。その後、1mol/Lの塩化ナトリウム水溶液5mlを1ml/minの流速で流し、この際に流した液を回収液とした。得られた回収液中のリン酸イオン濃度を測定したところ、50ppmであった。
上記と同様の試験を酸素酸イオン収着材−7についても実施した結果、回収液のリン酸イオン濃度は40ppmであった。
【0064】
[実施例20]
(酸素酸イオン収着材再生試験)
実施例18において、リン酸イオンを0.02mol/L水酸化ナトリウム水溶液で脱離した後の酸素酸イオン収着材−1の詰まったカラムに、イオン交換水を通して十分に洗浄した後、1mol/Lの塩化ナトリウム水溶液60mlを1ml/minの流速で流した。その後、pH8.0の条件で、PO43-100ppmの水溶液を1ml/minの速度で流し、リン酸イオンの再収着試験を実施し、カラムを通じて流れた水溶液について継続的にPO43-の濃度を測定した。その結果、流し始めの段階ではカラム中の酸素酸イオン収着材−1がPO43-を収着し、カラムを通じて流れた水溶液中にPO43-はしばらく検出されなかった。そして、470秒後に初めてPO43-が検出された。上記収着試験の結果から、再生処理した酸素酸イオン収着材−1のリン酸イオンの再捕集量は、酸素酸イオン収着材1g当たり39.2mgであることが分かった。
同様の試験を酸素酸イオン収着材−2および4についても実施し、リン酸イオンの再捕集量は、それぞれ35.8mgおよび24.2mgであった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の活用例としては、本発明の酸素酸イオン収着材を、生活廃水、農業廃水、水処理施設等の高栄養塩廃水等の処理原液からリン酸イオンを除去することに用いることで、処理水を放流した場合にリン酸根に起因して生じる藻類や微小生物の異常繁殖を抑制でき、環境保全に役立つのみならず、新しいリン資源回収法へも利用可能である。また、希薄溶液中の酸素酸イオンや重金属系の酸素酸イオンなどの有害イオンを多種に亘って捕捉・除去することで環境保全の有効な手段となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミン化合物が基材に固定支持されてなる酸素酸イオン収着材であって、上記ポリアミン化合物は、その構造中のアミノ基を介して、遷移金属のイオンおよびアルミニウムイオンからなる群から選ばれる1種以上の金属イオンを上記基材に固定化しており、該金属イオンの残基によって、或いは、該金属イオンの残基と上記アミノ基によって酸素酸イオンを収着する機能を発現するものであることを特徴とする酸素酸イオン収着材。
【請求項2】
前記の遷移金属のイオンが、銅イオン、亜鉛イオン、鉄イオン、コバルトイオンおよびニッケルイオンからなる群から選ばれる1種以上の金属イオンである請求項1に記載の酸素酸イオン収着材。
【請求項3】
前記のポリアミン化合物が、ポリアリルアミン、ポリN−アルキルアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリN−アルキルビニルアミンおよびポリエチレンイミンからなる群から選ばれるポリアミン化合物、上記のポリアミン化合物と、ポリエポキシ化合物、ポリイソシアネート化合物又はポリカルボン酸とのアミノ基を有する縮合物、からなる群から選ばれる1種以上のポリアミン化合物である請求項1又は2に記載の酸素酸イオン収着材。
【請求項4】
前記基材が、天然繊維系素材、合成繊維系素材、合成樹脂系素材、無機材料又は金属質素材の少なくともいずれかを含む材料で形成されてなる、単繊維(フィブリル)、わた、糸、織布、不織布、フィルム、成形体、連続多孔質体、粒状体および粉状体から選ばれる少なくともいずれかの形状の基材である請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸素酸イオン収着材。
【請求項5】
前記の酸素酸イオンが、リン酸イオン、亜リン酸イオン、ヒ酸イオン、亜ヒ酸イオン、ホウ酸イオン、メタホウ酸イオン、クロム酸イオン、二クロム酸イオン、モリブデン酸イオン、タングステン酸イオン、マンガン酸イオンおよび過マンガン酸イオン、チタン酸から選ばれる1種以上の酸素酸イオンである請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸素酸イオン収着材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸素酸イオン収着材を製造する製造方法であって、前記ポリアミン化合物を基材に固定支持させる方法が、
(1)アミノ基と化学反応し得る官能基を基材に予め導入し、該官能基とポリアミン化合物のアミノ基との反応によって化学結合を生じさせ、ポリアミン化合物を基材に固定支持させる方法か、
(2)基材の形成材料の存在下で、ポリアミン化合物と、分子中にアミノ基と化学反応し得る官能基を2個以上有する化合物とを化学反応させ、ポリアミン化合物を3次元網目構造として基材に固定支持させる方法、
のいずれかであることを特徴とする酸素酸イオン収着材の製造方法。
【請求項7】
前記のアミノ基と化学反応し得る官能基が、エポキシ基、カルボキシル基、ハロアルキル基、ハロヒドリン基、酸無水物基および酸ハライド基からなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項6に記載の酸素酸イオン収着材の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸素酸イオン収着材を製造する製造方法であって、前記金属イオンの基材への固定化させる方法が
(1)ポリアミン化合物が固定支持された基材と、金属の塩或いは水酸化物を水系溶剤中で混合させ、ポリアミン化合物の構造中のアミノ基を介して金属イオンを基材に固定化させる方法か、
(2)基材の形成材料の存在下、ポリアミン化合物と、金属の塩或いは水酸化物とを水系溶剤中で混合させ、金属イオンを含むポリアミン化合物の3次元網目構造として、金属イオンを基材に固定化させる方法、
のいずれかであることを特徴とする酸素酸イオン収着材の製造方法。
【請求項9】
前記の金属の塩或いは水酸化物が、銅、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケルおよびアルミニウムから選ばれる1種以上の金属の、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、炭酸塩、炭酸水素塩および水酸化物からなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項8に記載の酸素酸イオン収着材の製造方法。
【請求項10】
前記水系溶剤が、水又はアルコールと水との混合溶剤である請求項8又は9に記載の酸素酸イオン収着材の製造方法。
【請求項11】
酸素酸イオンを含む処理原液から酸素酸イオンを除去処理する処理原液のイオン収着処理方法において、酸素酸イオン収着材を処理原液に接触させて、該処理原液に含まれる酸素酸イオンを収着させて除去処理する際に、請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸素酸イオン収着材を使用することを特徴とする処理原液の酸素酸イオン収着処理方法。
【請求項12】
処理原液が、リン酸イオン、亜リン酸イオン、ヒ酸イオン、亜ヒ酸イオン、ホウ酸イオン、メタホウ酸イオン、クロム酸イオン、二クロム酸イオン、モリブデン酸イオン、タングステン酸イオン、マンガン酸イオン、過マンガン酸イオンおよびチタン酸からなる群から選ばれる1種以上の酸素酸イオンと、硫酸イオンとを含む請求項11に記載の処理原液の酸素酸イオン収着処理方法。
【請求項13】
前記酸素酸イオン収着材を処理原液に接触させる方法が、原液処理装置中に前記酸素酸イオン収着材を充填し、処理原液を、その上部から流入させて充填物中を流下させその下部から流出させる方法および/又はその下部から注入させて充填物中を上昇させその上部からオーバーフローさせる方法である請求項11又は12に記載の処理原液の酸素酸イオン収着処理方法。
【請求項14】
さらに、前記酸素酸イオン収着材に収着した酸素酸イオンを該収着材から脱離、回収する工程を有し、該工程で、塩基性溶液又は中性塩溶液で酸素酸イオン収着材を処理することで酸素酸イオンを脱離させて回収する請求項11〜13のいずれか1項に記載の処理原液の酸素酸イオン収着処理方法。
【請求項15】
前記塩基性溶液又は中性塩溶液での酸素酸イオン収着材の処理を、酸素酸イオン収着材を処理装置中に充填し、塩基性溶液又は中性塩溶液を処理装置の上部から流入させ充填物中を流下し下部から流出させるか、塩基性溶液又は中性塩溶液を処理装置の下部から注入して充填物中を上昇し、上部からオーバーフローさせるかの少なくともいずれかの方法で行う請求項14に記載の処理原液の酸素酸イオン収着処理方法。
【請求項16】
さらに、酸素酸イオン収着材に収着した酸素酸イオンを該収着材から脱離、回収した後の酸素酸イオン収着材を、弱酸性溶液又は中性塩溶液で処理することで酸素酸イオン収着材を再生し、再利用する請求項14又は15に記載の処理原液の酸素酸イオン収着処理方法。
【請求項17】
前記弱酸性溶液又は中性塩溶液での酸素酸イオン収着材の処理を、前記酸素酸イオンを該収着材から脱離、回収した後の酸素酸イオン収着材を処理装置中に充填し、弱酸性溶液又は中性塩溶液を上部から流入させ充填物中を流下し下部から流出させるか、塩基性溶液又は中性塩溶液を処理装置の下部から注入して充填物中を上昇し、上部からオーバーフローさせるかの少なくともいずれかの方法で行う請求項16に記載の処理原液の酸素酸イオン収着処理方法。

【公開番号】特開2013−78724(P2013−78724A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219990(P2011−219990)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(591039425)高知県 (51)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】