説明

金型分流子及びその冷却構造

【課題】 分流子の冷却穴内に供給された冷媒との間で効率良く熱交換することが可能であると共に、冷却が必要な部分をほぼ均等に冷却することが可能であり、しかも簡単安価に製造できる金型分流子及び分流子の冷却構造を提供すること。
【解決手段】 内部に冷却室5が形成され、冷媒流入口61と冷媒流出口62を備え前記冷却室5の開口を封止する封止壁部材6に、その外周面が冷却室5の内周面と接触し且つ当該冷却室の内奥との間で冷媒貯留部8を画成する画成部63を突設せしめ、該画成部63の外周面に冷媒流入口61から上記冷媒貯留部8に至る往路用冷却溝64と冷媒貯留部8から冷媒流出口62に至る復路用冷却溝64をそれぞれ螺旋状に形成してなり、封止壁部材6に設けられた冷媒流入口61と冷媒流出口62を通して冷却室5内に流動性を有する冷媒を流通させることにより当該冷却室周辺を冷却するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカスト鋳造等に用いられる金型分流子、詳しくは射出スリーブ内を前進して溶湯を押圧するプランジャチップの前進対向位置に設けられ、該プランジャチップで押圧された溶湯をランナーへと導くための金型分流子及びその金型分流子の冷却構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト鋳造では、射出スリーブ内に注湯された溶湯をプランジャチップで金型キャビティ内に射出充填した後に引き続きプランジャチップを前進させてキャビティ内の溶湯に対する増圧を行い、これにより、溶湯が凝固する際の引け巣等の鋳造欠陥の発生を防いでいる。
【0003】
この際、金型分流子とプランジャチップとの間でビスケットと称される円盤状の凝固片が形成されるが、このビスケットは比較的厚いので、凝固に時間がかかり鋳造サイクルを長引かせる原因の一つになっている。
そこで従来から、当該ビスケットの凝固に要する時間を短縮させる工夫がいろいろとなされている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。
これらの先行技術は、金型分流子の内部に冷却空間を形成し、その空間内に冷却水を供給して金型分流子を冷却することによりビスケットの凝固に要する時間を短縮させようとするものである。
【0004】
【特許文献1】特許第3097515号公報
【特許文献2】特開2005−74445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
然しながら、上記した従来の金型分流子の冷却構造では実際問題として、金型分流子の冷却穴内に供給された冷却水が十分な熱交換がなされないまま冷却水復路から排出されてしまい、その結果、供給される冷却水の量の割には冷却効果が低く、効率が悪かった。
【0006】
本発明はこの様な現状に鑑みてなされたものであり、金型分流子の冷却穴内に供給された冷媒との間で効率良く熱交換することが可能であると共に、冷却が必要な部分をほぼ均等に冷却することが可能であり、しかも簡単安価に製造できる金型分流子及び該分流子の冷却構造を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この種の冷却構造では、内部に形成された冷却室内に存在する冷媒に熱を奪われることにより当該冷却室周辺が冷却されるので、冷却室内において冷媒を留め置くことなく流通させた方が良いし、しかも冷媒を金型分流子の被冷却面に接触させて流し、その流速を速くした方が良い。そうすれば、金型分流子の熱を奪った冷媒の入れ替わりが速くなることで金型分流子との熱交換率がよく金型分流子(の冷却室周辺)からの奪取熱量が多くなり、その分金型分流子(の冷却室周辺)の冷却効果を高めることが出来るようになる。
【0008】
本発明はこの様な知見に基づいてなされたものであり、本発明に係る金型分流子は、射出スリーブ内を前進して溶湯を押圧するプランジャチップの前進対向位置に設けられその内部を背後側からえぐりその開口を封止壁部材で封止することにより冷却室が画成され、該冷却室内に流動性を有する冷媒を前記封止壁部材に設けられた冷媒流入口と冷媒流出口を通して流通させることにより冷却される金型分流子であって、前記冷却室の開口を封止する封止壁部材に、その外周面が前記冷却室の内周面と接触し且つ当該冷却室の内奥との間で冷媒貯留部を画成する画成部を突設せしめ、該画成部の外周面に前記冷媒流入口から上記冷媒貯留部に至る往路用冷却溝と上記冷媒貯留部から前記冷媒流出口に至る復路用冷却溝をそれぞれ螺旋状に形成してなることを特徴としたものである(請求項1)。
また、本発明に係る金型の冷却構造は、射出スリーブ内を前進して溶湯を押圧するプランジャチップの前進対向位置に設けられる金型分流子の内部に形成された冷却室内に流動性を有する冷媒を前記冷却室の開口を封止する封止壁部材に設けられた冷媒流入口と冷媒流出口を通して流通させることにより当該冷却室周辺を冷却する分流子の冷却構造であって、前記封止壁部材に、その外周面が前記冷却室の内周面と接触した状態で当該冷却室の内奥まで至り該冷却室の内奥との間で冷媒貯留部を画成する画成部を突設せしめ、該画成部の外周面に前記冷媒流入口から上記冷媒貯留部に至る往路用冷却溝と上記冷媒貯留部から冷媒流出口に至る復路用冷却溝をそれぞれ螺旋状に形成し、前記冷媒流入口から導入した冷媒を往路用冷却溝と冷媒貯留部と復路用冷却溝を順に流通させて前記冷媒流出口から排出することにより冷却室周辺を冷却することを特徴としたものである(請求項2)。
ちなみに、冷媒としては、通常使用されている冷却水や冷却オイルなどを使用することが出来る。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る金型分流子及びその冷却構造によれば、冷媒流入口から冷却室内に導入された冷媒は、往路用冷却溝を通って冷却室の内奥の貯留部に至るまでの間ずっと冷却室の内周面とは接触しながら流通し、更に貯留部から冷媒流出口に至る復路用冷却溝においても冷却室の内周面とは接触しながら流通するようになる。従って、金型分流子の冷却穴内に供給された冷媒との間で効率良く熱交換することが可能となる。
【0010】
しかも、往路用冷却溝及び復路用冷却溝は共に、その外周面が冷却室の内周面と接触している画成部の外周に螺旋状に形成され、且つ両冷却溝は冷却室内奥に形成された貯留部で繋がっているので、金型分流子として冷却が必要な部分、すなわち溶湯と直接接触する先端面部分(プランジャチップと対向する面部分)並びにランナー直下部分などをほぼ均等に冷却することが出来るだけでなく、金型分流子ないしはその近傍に配置された押出しピン付近も同時に冷却することが可能となる。
【0011】
加えて、金型分流子の必要な部分を均等に冷却することが出来るので、金型分流子全体の温度バランスがよくなり、金型分流子全体に及ぼす熱応力による歪を最小限に抑制することが可能となる。その結果、金型分流子自体の割れを防止できる共に、冷却室の開口を封止している封止壁部材との間の封止機能(例えば溶接による封止等)を損なう虞が長期にわたってなくなる。
また、押出しピン付近を冷却することが可能になったことにより、押出しピンのかじり発生を抑制する事が出来る。
【0012】
更に、本発明の金型分流子は、冷却室の開口を封止する封止壁部材に略円柱形状をした画成部を突設せしめてその外周に往路用冷却溝及び復路用冷却溝を形成するだけで済むので、製造が簡単で安価に提供することが出来る。
【0013】
また、本金型分流子は、冷媒流入口から冷媒流出口まで一連に比較的狭い溝状の通路で連通しているので、鋳造終了後に冷媒流入口から圧搾エアーを吹き込むことにより内部に残留している冷媒(水分)を容易に除去することが出来る。よって、水残りによる錆びの発生を防止し得、長期にわたって良好に使用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な好適実施例を、図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は図示した実施例のものに限定されるものではなく、その要旨を越えない範囲において自由に変更可能である。
なお、全図面を通して同様の構成部材には同一の符号を付してある。
【0015】
図1は本発明に係る金型分流子の冷却構造が適用される横射出式のダイカストマシンを模式的に現した断面図であり、図中の符号1aは固定型を、符号1bは可動型を、符号2は射出スリーブを、そして符号3はプランジャチップをそれぞれ示し、射出スリーブ2内を前進して溶湯を押圧するプランジャチップ3の前進対向位置に金型分流子Aが設けられている。
【0016】
そして、注湯口2aから射出スリーブ2内に給湯された後、プランジャチップ3で押圧された溶湯は、金型分流子Aの前方壁A’正面部から上壁部A”の上面部を通り、固定型1aと可動型1bの間に形成されたランナー1cを経てキャビティ1d内に充満加圧されて製品となる。
なお、図中の符号4は製品と一緒に鋳造されるランナー部を押出すための押出しピンを示す。
【0017】
金型分流子Aの内部には、冷却水やオイルなどの冷媒を流通させてその周辺を冷却するための冷却室5が軸方向に抉るように形成される。従って、この冷却室5の前方壁A’及び反対側の開口は、別形成された封止壁部材6でもって、溶接等の後加工により水密状に封止される。
【0018】
そして封止壁部材6には、金型の外部に通じている連通管7,7を接続する冷媒流入口61及び冷媒流出口62が形成されると共に、その外周面が冷却室5の内周面と接触し且つ当該冷却室5の内奥との間で冷媒貯留部8を画成する画成部63を突設せしめ、更にその画成部63の外周面に、冷媒流入口61から上記冷媒貯留部8に至る往路用冷却溝64と、冷媒貯留部8から冷媒流出口62に至る復路用冷却溝65がそれぞれ螺旋状に形成される。
【0019】
すなわち、封止壁部材6は、冷却室5の開口を封止する封止部60と、冷却室5の内周面に接触する略円柱形状の画成部63とで構成され、封止部60に金型の外部に通じている連通管7,7を接続する冷媒流入口61と冷媒流出口62が形成され、画成部63の外周面に往路用冷却溝64と復路用冷却溝65とが形成される。
【0020】
封止壁部材6の画成部63は、その先端部を除く外周面が全周にわたって冷却室5の内周面に緊密に接触するように略円柱形状に形成されると共に、その先端部と冷却室5の前方壁A’の内側との間で冷媒貯留部8を画成し得る長さに形成される。
【0021】
そして、封止壁部材6の画成部63の外周面には、封止部60に形成された冷媒流入口61から画成部63の先端部(冷媒貯留部8)に至る往路用冷却溝64と、画成部63の先端部(冷媒貯留部8)から封止部60の冷媒流出口62に至る復路用冷却溝65が、それぞれを当該画成部63の外周面に沿って螺旋状に形成される。
この際、往路用冷却溝64を流通する冷媒と復路用冷却溝65を流通する冷媒とが流通過程で混ざらないように、画成部63の外周面が全周にわたって冷却室5の内周面に緊密に接触するように形成することが好ましい。
【0022】
而して、冷媒流入口61から導入された冷媒は、往路用冷却溝64と冷媒貯留部8及び復路用冷却溝65を順に流通して冷媒流出口62から排出されるが、この流通過程の間ずっと冷却室5の内周面と流通しながら接触し、もって金型分流子Aの冷却室5周辺が冷却される。
なお、往路用冷却溝64及び復路用冷却溝65を流通する冷媒の流れを、図2に矢印で表してある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る金型分流子の冷却構造を適用したダイカストマシンの要部を示す模式図断面。
【図2】(a)は本発明の実施に一例を示す断面図、(b)は冷媒貯留部をY方向から見た矢視図。
【符号の説明】
【0024】
A:金型分流子
1a:固定型 1b:可動型
1c:ランナー 1d:キャビティ
2:射出スリーブ 2a:注湯口
3:プランジャチップ 4:押出しピン
5:冷却室
6:封止壁部材 60:封止部
61:冷媒流入口 62:冷媒流出口
63:画成部 64:往路用冷却溝
65:復路用冷却溝
7:連通管 8:冷媒貯留部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出スリーブ内を前進して溶湯を押圧するプランジャチップの前進対向位置に設けられその内部を背後側からえぐりその開口を封止壁部材で封止することにより冷却室が画成され、該冷却室内に流動性を有する冷媒を前記封止壁部材に設けられた冷媒流入口と冷媒流出口を通して流通させることにより冷却される金型分流子であって、
前記冷却室の開口を封止する封止壁部材に、その外周面が前記冷却室の内周面と接触し且つ当該冷却室の内奥との間で冷媒貯留部を画成する画成部を突設せしめ、該画成部の外周面に前記冷媒流入口から上記冷媒貯留部に至る往路用冷却溝と上記冷媒貯留部から前記冷媒流出口に至る復路用冷却溝をそれぞれ螺旋状に形成してなることを特徴とする金型分流子。
【請求項2】
射出スリーブ内を前進して溶湯を押圧するプランジャチップの前進対向位置に設けられる金型分流子の内部に形成された冷却室内に流動性を有する冷媒を前記冷却室の開口を封止する封止壁部材に設けられた冷媒流入口と冷媒流出口を通して流通させることにより当該冷却室周辺を冷却する分流子の冷却構造であって、
前記封止壁部材に、その外周面が前記冷却室の内周面と接触した状態で当該冷却室の内奥まで至り該冷却室の内奥との間で冷媒貯留部を画成する画成部を突設せしめ、該画成部の外周面に前記冷媒流入口から上記冷媒貯留部に至る往路用冷却溝と上記冷媒貯留部から前記冷媒流出口に至る復路用冷却溝をそれぞれ螺旋状に形成し、前記冷媒流入口から導入した冷媒を往路用冷却溝と冷媒貯留部と復路用冷却溝を順に流通させて前記冷媒流出口から排出することにより冷却室周辺を冷却することを特徴とする分流子の冷却構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−137022(P2008−137022A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323853(P2006−323853)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000005256)株式会社アーレスティ (44)