説明

金属ケース被覆耐火物

【課題】本発明の目的は、常温から熱間までの全温度域で耐火物本体と金属ケースとの間に隙間が生ずることを防止し、ガスリークによる背圧低下が生じない金属ケース被覆耐火物を提供することにある。
【解決手段】本発明の金属ケース被覆耐火物は、耐火物本体とその外面に嵌合される金属ケースとを耐火モルタルを介して接合してなる金属ケース被覆耐火物において、金属ケースが成形加工後、100℃以上の温度で熱処理されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属の精錬や連続鋳造に使用される金属ケース被覆耐火物に関し、特に、タンディッシュ用ガス吹き上ノズルに使用される金属ケース被覆耐火物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶鋼などの溶融金属の精錬や連続鋳造において、溶融金属の攪拌による成分の均一化、非金属介在物の浮上分離促進、非金属介在物の耐火物への付着防止などを目的として、溶融金属容器の底部からガス吹き耐火物を通してArガスなどのガス吹きが実施されている。
【0003】
ガス吹き耐火物のうち、特に、溶鋼の連続鋳造で使用されているタンディッシュ用ガス吹き上ノズルは、3〜25NL/分の流量で使用されている。このガス流量は、常温では0.1kgf/cm以下の低い圧力で確保することができる。しかし、実際の使用時には、熱間でのガス動粘度係数の増加と、溶融金属の圧力に打ち勝ってガス吐出するために、0.5〜2.0kgf/cmの圧力を必要とする。そのため、実際に使用する際には、製品段階(常温)の検査よりもガスリーク防止の点で厳しい条件となる。
【0004】
上述のようなガス吹き耐火物は、ポーラス材料または貫通孔をもつ耐火物の外面をモルタルを介して金属ケースで被覆することで、外部へガスリークしないように製造されている。しかし、製品段階で外部へガスリークしないように金属ケースをセットしても、金属ケースは耐火物に比べて熱膨張率が大きいため、熱間では金属ケースと耐火物との間に隙間が生じ、外部へのリークが生じやすい問題がある。また、耐火物本体に比べて金属ケースは熱膨張係数が大きいため、熱間では耐火物本体と金属ケースとの間の密着性が低下し、ガスリークが生じやすい。実使用時のガス吐出圧力は背圧として測定され、ガスリークが生じた場合、初期から背圧が低い、または使用途中から背圧が低下するといった現象が生じる問題があった。
【0005】
例えば、特許文献1には、耐火物本体とその外面に嵌合されるメタルケースとの間にシール層を形成したガス吹き込み耐火物のシール構造において、耐火材を基材とするシール材に同シール材の加熱硬化時に熱膨張する発泡材を配合したシール材によってシール層を形成したガス吹き込み耐火物のシール構造が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、ガス吹き込み機能を有するノズル本体とそれを覆うメタルケース間からのガス漏れを防止するための耐火性シール材として、粒径1μm以下のSiO質超微粉末が1質量%以上30質量%以下、残部が耐火性骨材からなる耐火物粉末100部に対し、SiO/RO(R:アルカリ金属)のモル比が1.90以上3.30以下の珪酸アルカリ溶液を外掛けで20質量%以上50質量%以下添加してなるものが開示されている。この耐火性シール材においては、SiO/ROのモル比が1.90以上3.30以下の珪酸アルカリ溶液は、熱間で収縮傾向を示すが、それを膨張傾向に転換するためにSiO質超微粉末が配合されている。
【0007】
更に、特許文献3ないし7には、本体外周部が鉄皮で包囲され、かつその本体内部のガス吹き込み個所にポーラス質耐火物を設置し、その外周面をガス導入パイプと直結するガスプールを介して鉄皮で被覆したガス吹き込み機能をもつダンディッシュ上部ノズルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−192763号公報
【特許文献2】特開2006−175482号公報
【特許文献3】特開平7−256415号公報
【特許文献4】特開2004−223560号公報
【特許文献5】特開平4−274864号公報
【特許文献6】実開平6−19966号公報
【特許文献7】特開平7−290422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1及び2のように、加熱膨張性を付与した耐火材を用いてノズル本体とメタルケースとの間をシールすれば、耐火モルタルの加熱膨張後には熱間でのガスリークは抑制される。しかし、耐火モルタルの膨張特性が発現する温度よりも低い温度域では一時的にガスリークを生ずることがあり、ガスリークの問題は依然として解決していない。また、特許文献3ないし7に開示されたノズルでは、鉄皮とノズル本体とのシールに耐火材を用いていないため、鉄皮とノズル本体間のガスリークは低減しているが、構造が複雑でガスプールを構成する鉄皮の変形により、ガスリークの発生を完全に抑えることができなかった。
【0010】
従って、本発明の目的は、常温から熱間までの全温度域で耐火物本体と金属ケースとの間に隙間が生ずることを防止し、ガスリークによる背圧低下が生じない金属ケース被覆耐火物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、実験室でガスリークが発生した金属ケース被覆ノズルを観察したところ、金属ケースの外観が青色に変色している現象を生じていた。これは表面酸化によるものであり、普通鋼を大気雰囲気で200〜400℃に加熱すると発生する。この温度はガスリークが発生する時の金属ケース温度と一致しており、当該ノズルにおいて発生するガスリークの原因は耐火モルタルの膨張特性が発現する温度よりも低い温度での金属ケースの変形にあると考え、金属ケースを予め熱処理することにより、金属ケースの変形を抑制できることを見出し、本発明に至ったものである。
【0012】
即ち、本発明の金属ケース被覆耐火物は、耐火物本体とその外面に嵌合される金属ケースとを耐火モルタルを介して接合してなる金属ケース被覆耐火物において、金属ケースが成形加工後、100℃以上の温度で熱処理されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の金属ケース被覆耐火物は、金属ケースの熱処理温度が150〜300℃であることを特徴とする。
【0014】
更に、本発明の金属ケース被覆耐火物は、耐火物本体の少なくとも一部に通気性を有する耐火物を配設してなることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の金属被覆耐火物は、鋼の連続鋳造用タンディッシュのガス吹き上ノズルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、常温から熱間までの全温度域で耐火物本体と金属ケースとの間に隙間を生ずることがなく、ガスリークによる背圧低下を生ずることがない金属ケース被覆耐火物を提供することができ、実機使用時におけるガス吹き状態を安定(背圧を安定)とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】タンディッシュ用ガス吹き上ノズルの一実施態様を示す概略図である。
【図2】タンディッシュ用ガス吹き上ノズルの昇温中のガスリークの有無を観察するために使用した試験方法を示す概略図である。
【図3】従来品のタンディッシュ用ガス吹き上ノズルについてのガスリーク試験における金属ケース外表面の温度と背圧の関係を示すグラフである。
【図4】本発明品のタンディッシュ用ガス吹き上ノズルについてのガスリーク試験における金属ケース外表面の温度と背圧の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の金属ケース被覆耐火物は、耐火物本体とその外面に嵌合される金属ケースとを耐火モルタルを介して接合してなる構成を有するものである。ここで、円筒形の金属ケースは、通常、鋼板をプレス加工またはへら絞り加工して製造されており、金属ケースには、加工時の残留応力が蓄積されている。この残留応力が金属ケース被覆耐火物使用時の加熱により解放されて金属ケースの変形を生ずるものと考えられ、予め熱処理を施すことにより残留応力を除去すれば、金属ケースの変形を防止することができる。しかし、従来の技術では、このような残留応力の除去には、かなり高温での熱処理が必要であるとされてきた。しかしながら、本発明者らの知見では、金属ケースを100℃以上、好ましくは150℃以上という熱処理温度で、熱処理を施せば残留応力を除去できる。なお、原理的に、熱処理は、金属ケースが著しく酸化しない範囲で高温処理することが好ましいが、150〜300℃の加熱処理で充分な効果を上げることができる。
【0019】
なお、プレス加工やへら絞り加工した金属ケースの表面には、加工性を良くするために塗布された油が付着しており、油が多量に付着していると、金属ケースを配設した時の耐火モルタルと金属ケースの接着性が低下するが、上述のように100℃以上で熱処理を施すと、油が完全に除去され、変形防止対策だけではなく、耐火モルタルとの接着性を改善する上でも有効である。
【0020】
金属ケースの素材は、普通鋼板(SPCC)、絞り用鋼板(SPCD)、深絞り用鋼板(SPCE)などの冷間圧延鋼板が一般的であるが、耐熱性を要求される場合には、ステンレス鋼板を使用することもでき、鋼材の種類は特に限定されるものではない。金属ケースの厚みは0.5〜3mm程度である。また、金属ケースの加工方法は特に限定されるものではないが、プレス加工による深絞り、へら絞り、薄板の溶接などが使用可能である。
【0021】
なお、所定の形状に加工された金属ケース内部の残留応力は、X線応力測定法によって調べることが可能であり、金属ケースの品質管理に利用することができる。
【0022】
また、耐火物本体の構成は特に限定されるものではなく、耐火物本体が通気性を要求される場合には、ポーラス質耐火物及び非ポーラス質耐火物を適宜配設した構成のものとすることができる。
【0023】
更に、金属ケースを耐火物本体の外面に嵌合するために使用される耐火モルタルは特に限定されるものではないが、接着強度が高く、加熱膨張性を示す材料が好ましい。例えば、ハイアルミナ質、アルミナ質、シリカ質などが利用できる。
【0024】
本発明の金属ケース被覆耐火物の使用形態としては、鋼の連続鋳造用タンディッシュのガス吹き上ノズルが代表的であるが、取鍋ポーラスプラグ、取鍋上ノズル、取鍋下ノズル、タンディッシュ下ノズル(整流ノズル)など金属ケースを被せる耐火物に広く適用可能である。特に、取鍋やタンディッシュの下ノズルでは、スライドプレートによる絞り鋳造の直下で使用されるためノズル内が負圧状態となり、亀裂からの吸気が問題となり易い。これらの下ノズルに本発明の金属ケースを適用することは吸気対策として効果がある。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を挙げて本発明の金属ケース被覆耐火物を更に説明する。
図1は、本発明の金属ケース被覆耐火物の一実施態様であるタンディッシュ用ガス吹き上ノズルの一例を示す概略図である。図1において、1aは上部ポーラス質耐火物を、1bは下部ポーラス質耐火物を、2は非ポーラス質耐火物、3は金属ケースを、4aは上部耐火モルタルを、4bは下部耐火モルタルを、5はガスプールを、6a、6bはガス導入管をそれぞれ示す。
この実施態様では、金属ケース(3)は、上部金属ケースと下部金属ケースから構成されている。なお、上部金属ケース及び下部金属ケースは、SPCE鋼板を用いてへら絞り加工によって厚さ1.0mmで所定の形状に成形加工した後、電気抵抗炉にて300℃で10分間加熱処理した後、電気抵抗炉から取り出して自然冷却することにより作製した。
次に、上部ポーラス質耐火物(1a)、非ポーラス質耐火物(2)、下部ポーラス質耐火物(1b)用の練土を金型に分割投入し、プレスによって一体成形することによって得られた耐火物本体の上部外周に、上部耐火モルタル(4a)を塗布した後、上部金属ケースを被せて上部金属ケースと耐火物本体の間を封止した。更に、耐火物本体の下部外周に、下部耐火モルタル(4b)を塗布した後、上部ポーラス質耐火物(1a)にガスを供給するための上部ガス導入管(6a)と、下部ポーラス質耐火物(1b)にガスを供給するための下部ガス導入管(6b)を接続した下部金属ケースを被せ、上部金属ケースと下部金属ケースを溶接することにより金属ケース(3)を形成した。
【0026】
また、上部金属ケース及び下部金属ケースとして加熱処理を施していない部材を使用する以外は上記と同様の構成にて従来品のタンディッシュ用ガス吹き上ノズルを作製した。
【0027】
上述のようにして得られた本発明品のタンディッシュ用ガス吹き上ノズルと従来品のタンディッシュ用ガス吹き上ノズルについて、昇温中のガスリークの有無を観察した。図2は、ガスリークの有無を確認するための試験方法を示す概略図である。タンディッシュ用ガス吹き上ノズル(11)を実機とは上下逆の方向に設置台(23)に設置し、上部ガス導入管(6a)には、上部ポーラス質耐火物に接続した配管内の圧力を測定するために、背圧計(13)、流量計(14)、流量調整弁(15)及び一次圧力計(16)が、下部ガス導入管(6b)には、下部ポーラス質耐火物に接続した配管内の圧力を測定するために、背圧計(17)、流量計(18)、流量調整弁(19)及び一次圧力計(20)が、それぞれ設置されている。また、タンディッシュ用ガス吹き上ノズル(11)の内孔部、即ち、溶鋼通過部には、溶鋼の通過を模擬するためにバーナー(12)が設置されており、また、金属ケース外表面の温度を測定するために、熱電対(21)が設置され、温度記録計(22)により温度を記録できる構成となっている。
【0028】
まず、タンディッシュ用ガス吹き上ノズル(11)の内孔部をガスバーナー(12)で1600℃に加熱し、金属ケース外表面の温度が350℃に到達するまでの間、背圧を連続的に測定した。この間空気流量は、流量調整弁(15、19)によって10.0NL/分にコントロールした。また、金属ケース外表面の温度を熱電対(21)により測定し、金属ケース外表面の温度と背圧の関係を図3(従来品)及び図4(本発明従来品)に示した。なお、図3及び4において、実線は、上部ポーラス質耐火物に接続した配管内の背圧を、点線は下部ポーラス質耐火物に接続した配管内の背圧をそれぞれ示す。
【0029】
タンディッシュ用ガス吹き上ノズル(11)の内孔部を加熱すると、熱伝導によって金属ケース外表面の温度が上昇する。ガス流量が一定の条件下ではガス圧力は温度に比例するので、温度が上昇すると背圧が上昇する。また、温度が上昇すると、ガスの動粘度係数増大に伴って通気抵抗が大きくなることも背圧上昇に影響する。
図3及び4ともに金属ケース外表面の温度が上昇するに従い、背圧が増加する。但し、図3(従来品)では、200〜300℃において背圧が一時的に低下してガスリークが発生しているのに対し、図4(本発明品)では、全温度域にわたって背圧の低下は見られず、即ち、ガスリークは生じていないことが判る。
【0030】
次に、金属ケースの加熱処理温度を100℃(本発明品2)または200℃(本発明品3)とした以外は上述と同様の操作にて、タンディッシュ用ガス吹き上ノズルを作製した。
【0031】
実機タンディシュにて、上記従来品、本発明品、本発明品2及び本発明品3のタンディッシュ用ガス吹き上ノズルを使用して鋳造を行った。途中で背圧が低下する現象を示したものはガスリークが発生したと判断した。鋳造終了までガスリークが発生しなかったものを「○」、鋳造途中でガスリークが発生したものを「△」、鋳造初期にガスリークが発生したものを「×」と判定し、使用したロットのタンディッシュ用ガス吹き上ノズル総数(個)に対する、それぞれの判定結果が得られたタンディッシュ用ガス吹き上ノズルの個数を百分率で表1に示した。
【0032】
【表1】

【0033】
表1から明らかなように、従来品に比べて本発明品、本発明品2、本発明品3の方がガスリークの発生が少なく良好であり、特に、金属ケースを200℃で熱処理を施した本発明品3及び金属ケースを300℃で熱処理を施した本発明品は極めて良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の金属ケース被覆耐火物は、溶融金属の精錬や連続鋳造に使用される耐火物、特に、タンディッシュ用ガス吹き上ノズルに好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1a:上部ポーラス質耐火物、1b:上部ポーラス質耐火物、2:非ポーラス質耐火物、3:金属ケース、4a:上部耐火モルタル、4b:下部耐火モルタル、5:ガスプール、6a:上部ガス導入管、6b:下部ガス導入管、11:タンディッシュ用ガス吹き上ノズル、12:バーナー、13:背圧計、14:流量計、15:流量調整弁、16:一次圧力計、17:背圧計、18:流量計、19:流量調整弁、20:一次圧力計、21:熱電対、22:温度記録計、23:設置台。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火物本体とその外面に嵌合される金属ケースとを耐火モルタルを介して接合してなる金属ケース被覆耐火物において、金属ケースが成形加工後、100℃以上の温度で熱処理されていることを特徴とする金属ケース被覆耐火物。
【請求項2】
金属ケースの熱処理温度が150〜300℃である、請求項1記載の金属ケース被覆耐火物。
【請求項3】
耐火物本体の少なくとも一部に通気性を有する耐火物を配設してなる、請求項1または2記載の金属ケース被覆耐火物。
【請求項4】
金属被覆耐火物が、鋼の連続鋳造用タンディッシュのガス吹き上ノズルである、請求項1ないし3のいずれか1項記載の金属ケース被覆耐火物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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