説明

金属加工廃液の処理方法

【課題】水を含む金属加工油の廃液の処理方法の提供であって、上記廃液から水分と油分とを簡便に且つ短時間に分離、回収する金属加工廃液の処理方法を提供すること。
【解決手段】本発明によって提供される廃液処理方法は、水を含む金属加工油の廃液に、柿渋、または柿の果実から得られる柿抽出物を添加すること、および上記柿渋または柿抽出物添加後の廃液を少なくとも水成分と油成分とに分離し、該各成分を回収すること、を包含する。また、より好ましくは、上記柿渋または上記柿抽出物を上記廃液に添加する前に、酢酸、または酢酸塩を添加すること、をさらに包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば切削等の金属加工時に用いられる金属加工油(例えば切削油であり、典型的には水溶性切削油)の廃液処理方法に関する。詳しくは、金属加工用油の廃液中に含まれる水分と油分とを分離、回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切断、切削、研削等、金属を所定の加工機械を用いて加工する際には、金属加工油(例えば切削油)を使用する。かかる金属加工油は、加工される金属材料と工具との間あるいは工具と切屑の間に発生する摩擦熱や、金属材料のせん断熱を吸収することにより金属材料を冷却する冷却作用、金属材料と工具との間または工具と切屑の間に浸透して境界面の摩擦を減少させることにより工具の摩耗を減少させる潤滑作用、金属材料と工具の間または工具と切屑との間の溶着や構成刃先の生成を防止することにより加工された金属材料の仕上げ面粗さの悪化および寸法精度のばらつきを防止する反溶着作用等を有している。このような種々の作用(性質)を有することにより、金属加工油は、加工性能の向上や工具の摩耗防止を目的として好適に使用されている。
【0003】
上記のような作用を有する金属加工油(例えば切削油や研削油)は、大別すると2種類、すなわち、典型的には原液のまま使用されるもの(例えば不水溶性切削油)と、水(典型的には工業用水)に希釈して例えば1質量%〜10質量%の水溶液または乳濁液(水溶性クーラント、あるいはクーラント液と呼ばれる。)として使用されるもの(例えば水溶性切削油)に分けられる。例えば、上記不水溶性切削油は上記潤滑作用を主目的とする場合に使用されることが多く、一方、上記水溶性切削油は上記冷却作用を主目的とする場合に使用されることが多い。
かかる金属加工油は、金属加工油を金属材料の加工部位に供給する供給システムにおいて、上記加工部位に該加工油を供給(典型的には噴霧または滴下)する供給部と、貯留槽等の該加工油を保持しておく保持部との間を循環させることにより、再利用することができる。しかし、金属加工油を長期間繰り返し使用していると、機械油や作動油を含む他種類の油剤が混入したり、切屑やスラッジ等が堆積したりすることによって、次第に劣化していく。その結果、上記作用や、防錆性、防腐性等の種々の機能が低下する。このように各機能の低下した金属加工油は、廃液として処分される。
【0004】
金属加工工場等から排出される金属加工油の廃液のほとんどは、典型的には産業廃棄物として回収(処理)業者によって回収、処理されることにより処分されている。ここで、水を含む金属加工油の廃液、例えば上記水溶性クーラントの廃液を、産業廃棄物として回収する場合、該クーラント廃液の構成成分のうち凡そ90質量%は水分(工業用水)であるので、専門的・本格的な廃棄物処理を要するのは、残りの10質量%程度に過ぎない。このような組成からなる廃液全体を産業廃棄物として処分するのは多額の費用がかかる。かかる費用は、金属加工業者にとって大きな負担である。このため、経費削減等を目的として、上記水を含む金属加工油の廃液を、例えば自社工場や作業場等において比較的容易に浄化処理できるような成分(例えば水成分)と、専門の回収業者に処分を依頼しなければならない実質的な産業廃棄物成分(例えば油成分および切屑等の金属を含む残渣等)とに分離、回収し、実質的な廃液処分量を軽減することが求められている。このため、大規模で本格的な処理設備等を用いることなく、上記廃液の各成分を容易に、短時間で分離、回収できる方法が望まれている。
【0005】
ところで、従来における一般的な金属加工油(例えば水溶性切削油)の廃液処理方法としては、種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1〜3に示されるように、沈降分離、浮上分離、濾過分離、遠心分離等の物理的処理方法が挙げられる。また、特許文献4〜8に示されるように、凝集法、酸化および還元法、吸着法、イオン交換法等の化学的処理が挙げられる。さらに、例えば、特許文献9〜11に示されるような活性汚泥法、また散水濾床法等の生物処理方法や、焼却処理方法等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−245471号公報
【特許文献2】特開平5−245489号公報
【特許文献3】特開2004−98044号公報
【特許文献4】特開2004−181342号公報
【特許文献5】特開2008−173610号公報
【特許文献6】特開2009−28616号公報
【特許文献7】特開平11−207362号公報
【特許文献8】特開平6−154508号公報
【特許文献9】特開平7−303894号公報
【特許文献10】特開2000−271589号公報
【特許文献11】特開2000−301196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、水溶性切削油に代表されるような水に希釈して(クーラント液として)用いる金属加工油は、主に3種類に分類され得る。すなわち、かかる金属加工油は、水に希釈すると白濁して乳濁液となるエマルション型、半透明の水溶液となるソリュブル型、および透明な水溶液となるソリューション型の3種類に分類され得る。したがって、使用済みのクーラント廃液も、典型的には切屑やスラッジ等からなる多量の金属微粒子が混入した乳濁液あるいは水溶液となっている。このため、例えば上記のような物理的な処理方法では、かかるクーラント廃液を水分と油分とに完全に分離することは難しい。また、上記金属微粒子は油分の浮力により沈殿し難いので、上記のような水分と油分とが共存する液相(廃液)から該金属微粒子を沈殿物として分離、回収することも困難である。
また、凝集剤や吸着剤等の化学薬品を廃液に添加して化学的に処理する方法では、上記化学薬品を含む凝集物(沈殿物)を安全に、環境に優しく処理することが困難となる虞がある。さらに、生物的な処理方法では、活性汚泥槽を含む処理システムの配設等、ある程度大規模な設備を要し、設備投資も大きくなる虞がある。また、生物的な処理(浄化処理)をするのに数週間〜数か月と長期間を要する。このような処理方法は、金属加工業者が自社工場や作業場等で実施可能な廃液処理としては、現実的ではない。
【0008】
そこで本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、例えば水溶性切削油等の水を含む金属加工油の廃液の処理方法の提供であって、上記廃液から水分と油分とを簡便に且つ短時間に分離、回収する金属加工廃液の処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現するべく、本発明によって、水を含む金属加工油の廃液を処理する方法が提供される。かかる処理方法は、上記水を含む金属加工油の廃液に、柿渋、または柿の果実から得られる柿抽出物を添加すること、および上記柿渋または柿抽出物添加後の廃液を、少なくとも水成分と油成分とに分離し、該各成分を回収すること、を包含する。
本発明に係る廃液処理方法は、水を含む金属加工油の廃液に柿渋、または柿の果実から得られる柿抽出物を添加する(典型的には、添加後に上記廃液を攪拌する)ことにより、上記廃液を、少なくとも水成分と油成分とに好適に分離(相分離)することができる。典型的には、不溶の固体成分(例えば加工により生じた切屑等の金属を含む残渣等)が上記2成分からさらに分離され得る。
ここで、このように分離された廃液を、例えばろ過することにより水成分(水相)から油成分(典型的には固体成分を含む)を容易に回収することができる。かかる処理方法によって分離された水相(廃水)は、この時点ですでに種々の水質指標(例えば浮遊物質量、生物学的および/または化学的酸素要求量)が大幅に改善される程度の高いレベルにまで浄化され得る。このため、かかる廃水は、専門の処理技術を要することなく、例えば自社工場や作業場等において実施可能な簡便な浄化処理(例えば浄化槽を用いた処理)によって、排水基準を満たす程度のさらに高いレベルにまで浄化することができる。一方、上記回収された固体成分を含む油成分は、実質的な産業廃棄物として廃棄すればよい。したがって、本発明に係る廃液処理方法によると、上記柿渋または柿抽出物の添加という簡便な処理を行うことによって水を含む金属加工油の廃液を、少なくとも水成分と油成分(典型的にはさらに固体成分)とに容易に且つ好適に分離、回収することができ、産業廃棄物としての実質的な廃棄量を大幅に軽減させることができる。
【0010】
ここで開示される廃液処理方法の好ましい一態様では、上記柿渋または上記柿抽出物を上記廃液に添加する前に、酢酸、または酢酸塩を添加すること、をさらに包含する。
かかる構成の廃液処理方法によると、上記水を含む金属加工油の廃液に酢酸、または酢酸塩を添加した後に、柿渋または柿抽出物を添加することにより、より高いレベルで水成分と油成分(典型的にはさらに固体成分)とに分離できるとともに、上記回収された水成分の水質レベルを向上させることができる。
【0011】
上記酢酸または酢酸塩を添加することをさらに包含する廃液処理方法のより好ましい一態様では、上記酢酸塩として、2価以上の金属の酢酸塩を用いる。より好ましくは、上記2価以上の金属の酢酸塩として、酢酸ジルコニウムを用いる。
かかる構成の廃液処理方法によると、このような化合物は、水を含む金属加工油の廃液を上記各成分に分離する能力が高く、かかる化合物を添加することにより、より一層高いレベルで水成分と油成分(典型的にはさらに固体成分)とに分離できるとともに、上記回収された水成分の水質レベルをさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例における柿渋を添加する前の廃液の状態を示す図である。
【図2】実施例における酢酸ジルコニウムおよび柿渋を添加して攪拌した後の廃液の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、廃液に柿渋を添加した際に行う攪拌の方法や、分離した固体成分および油成分を回収する方法)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0014】
本発明に係る廃液処理方法は、水を含む金属加工油の廃液を処理する方法であって、かかる水を含む金属加工油の廃液に、柿渋、または柿の果実から得られる柿抽出物を添加すること、および上記柿渋または柿抽出物添加後の廃液を水成分、油成分および固体成分に分離し、該各成分を回収すること、を包含することにより特徴づけられるものである。したがって、上記目的を達成し得る限りにおいて、その他の付加的な構成の内容については、種々の基準に照らして任意に決定することができる。
【0015】
ここで開示される廃液処理方法によって処理される廃液としては、水を含む金属加工油(典型的には鉱物油)の廃液をいう。かかる金属加工油としては、例えば切削油に代表されるように、工作機械を用いて金属を加工する際に、加工性能の向上や工具の摩耗防止を目的として使用(典型的には再利用により繰り返し使用)される金属加工油であれば特に制限はない。また、このような金属加工油の廃液とは、使用によって機械油や作動油を含む他種類の油剤が混入したり、切屑やスラッジ等が堆積したりすることによって変質、劣化したために廃棄処理され得る金属加工油のことをいう。また、ここで開示される廃液処理方法を適用できる対象(廃液)として、(例えば油成分よりも多量の)水を含むために油成分が分散して乳化していたり、および/または油成分の浮力により切屑やスラッジ等の固体成分が該廃液中を浮遊したりすることによって、水成分と油成分と固体成分とを分離することが困難であるような廃液を、特に好ましく挙げることができる。
【0016】
また、上記廃液に含まれる水の割合としては、上記のような性質を有し得るような廃液であれば特に限定されない。例えば、かかる廃液の含水率としては、50質量%以上が適当であり、好ましくは70質量%以上、例えば90質量%〜99質量%であり、あるいは95質量%〜98質量%である。このような含水率を有する金属加工油の廃液としては、例えばクーラント液のように、使用にあたり予め水で希釈された金属加工油(例えば水溶性切削油)の廃液を好ましく挙げることができる。しかし、水を含む金属加工油の廃液としては、希釈等によって使用前(金属加工時に使用される前)に予め水が添加されていた金属加工油の廃液に限定されない。例えば、繰り返し使用される過程で少しずつ水が混入したために、最終的に水成分を含むようになった金属加工油の廃液であってもよい。また、上記クーラント液のような水で希釈された金属加工油は、加工性や防錆性、耐腐敗性等の要求性能を高く維持するために種々の添加剤(安定剤等)を含み得る。例えば腐食防止のために防腐剤を添加することにより上記クーラント液の液性はアルカリ性となり得る。このように、種々の薬剤が添加されていたり、液性がアルカリ性(場合によっては酸性)に偏っていたりする廃液であってもよい。
【0017】
上記のような金属加工油の廃液には、該廃液を各成分に分離するために(いわゆる分離剤として)、柿渋または柿の果実から得られる柿抽出物が添加される。
柿渋は、柿(典型的には渋柿)の果実を原料とし、該果実の搾汁を発酵させたものであり、柿タンニンを主成分とする典型的には赤褐色半透明の液体である。タンニンとは、植物界に広く分布する物質で、多数のフェノール性ヒドロキシル基(水酸基)をもつ芳香族化合物の総称である。タンニンを大別すると加水分解型タンニンと縮合型タンニンに分けられる。柿タンニンは、縮合型タンニンの一つであるが、かかる柿タンニンの構造内に没食子酸(3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸)がエステル結合で含まれるので、加水分解され水溶性であり得る。かかる柿渋は、典型的には、柿(典型的には渋柿品種、例えば豆柿、天王柿、山柿等)の果実(典型的にはまだ青い未熟果実であって、例えば最も渋みの強い8月頃に収穫した未熟果実)を粉砕、および圧搾し(あるいはすり潰してろ過し)、得られた絞り汁(ろ液)を所定期間(例えば一カ月程度)発酵させ(さらに長期間、例えば数年間熟成させてもよい)、得られた発酵物の上澄み液を採取することによって得られるものである。
なお、本明細書中において、柿とは一般に果樹の柿として把握されるものであればよく、特定の種や品種に限定されない。
【0018】
また、ここでいう柿の果実から得られる柿抽出物とは、柿の果実(典型的にはその果汁)に含まれる成分(主として柿タンニン)を含むものであればよく、かかる成分を水またはエタノール等で抽出する方法を用いて得られるものをいう。例えば、未熟な青い状態の柿の果実を潰して絞ることにより得られる果汁は、上記柿抽出物の一好適例である。また、ここで開示される廃液処理方法において用いられる柿渋については、柿渋として一般的に市販されているもの(例えば、株式会社トミヤマにて購入可能な商品名「柿渋」)を好ましく用いることができる。
【0019】
上記水を含む金属加工油の廃液に上記柿渋または柿の果実から得られる柿抽出物を添加する量としては、上記廃液の全体量、上記金属加工油の種類、上記廃液の組成(該廃液に占める水成分、油成分および固体成分の各割合)、等によって適宜設定することができる。特に制限はないが、かかる添加量として、例えば上記廃液の全質量に対して10質量%〜30質量%に相当する量が適当であり、好ましくは15質量%〜25質量%であり、例えば20質量%±2質量%である。
【0020】
上記水を含む金属加工油の廃液に対して、上記のような添加量で柿渋または柿抽出物を添加する際には、上記廃液を攪拌しながら添加を行うことが好ましい。攪拌の方法については、特に制限されない。かかる方法として、一般的な攪拌方法(例えば、棒・板・プロペラ状の攪拌子を槽内で一定速度・一方向に回転させるような構成の攪拌装置を用いる方法)を、典型的には廃液の量に応じて好適な方法を適宜採用することができる。また、攪拌速度については、添加した柿渋または柿抽出物が十分に上記廃液中に拡散し、効率よく混合させることができる限りにおいて特に制限されない。かかる攪拌速度としては、例えば200rpm〜600rpmが適当であり、好ましくは300rpm〜500rpmである。また、攪拌時間についても特に制限されず、上記廃液における各成分の分離状況に応じて適宜設定することができるが、例えば、1分間〜60分間が適当であり、5分間〜30分間程度が好ましく、より好ましくは10分間〜20分間程度であり、例えば15分間±2分間である。
【0021】
上記水を含む金属加工油の廃液に上記柿渋または柿抽出物を添加し、攪拌すると、かかる廃液中で水成分、油成分および固体成分の分離が起こる。典型的には、上記廃液の液相部分は水相と油相の2相に分かれるとともに、廃液が収容されている容器の底部には固体成分が沈殿する。
このように上記各成分を十分に分離させた後、上記沈殿物(固体成分)および油成分を上記水成分から取り出し、回収する。かかる回収方法については、沈殿物を液相から取り出す一般的な方法、または異なる液相同士を分離する一般的な方法と同様の方法を用いることができ、特に限定されない。ここで、上記沈殿物(固体成分)および油成分は、例えば一般的なろ材(例えば紙、セルロース、ガラス繊維フィルタ、メンブレンフィルタ等からなるろ紙)およびろ過装置(漏斗)を用いたろ過を行うことにより、ろ物(または残渣)として共に回収することができる。かかる回収物は、専門的な処理が必要な廃棄物として廃棄され得る。あるいは、かかる回収物は、さらに上記油成分から上記固体成分(沈殿物)を取り除き、かかる回収された油成分を燃料(例えば鉱物油燃料)として再利用してもよい。
【0022】
また、上述のように、上記水成分(典型的には、上記廃液をろ過してろ液として得られた水成分)は、水に不溶で沈殿物としての上記固体成分、および金属加工油由来の油成分が上記廃液から除去されて得られたものである。このことにより、かかる水成分を高い水準で改善、向上した水質の状態で得る(回収する)ことができる。
【0023】
ここで開示される廃液処理方法では、上記廃液に柿渋または柿抽出物を添加する前に、酢酸、または酢酸塩を添加することが好ましい。上記廃液に、まず酢酸または酢酸塩を添加し、その後に柿渋または柿抽出物を添加すると、かかる酢酸または酢酸塩は、上記柿渋または柿抽出物の分離剤としての機能を促進する(あるいは該機能を高いレベルで維持する)ための分離促進剤(または工程剤)として機能し得る。このことにより、上記廃液に単に柿渋または柿抽出物を添加するのみの場合と比較して、より一層高い分離レベルで上記廃液を各成分に分離することができる。したがって、このようにして分離、回収された水成分は、より一層高い水準で改善、向上した水質状態を有し得る。
【0024】
上記酢酸としては、純度99%以上の純酢酸(氷酢酸ともいう。CHCOOH;CAS No.64−19−7)や、該純酢酸を水で希釈した(例えば濃度20%〜40%程度の)希酢酸を用いてもよい。
また、上記酢酸塩として、好ましくは2価以上の金属の酢酸塩を用いる。かかる2価の金属の好適例として、アルミニウム(Al)、およびジルコニウム(Zr)が挙げられる。上記酢酸塩として、Alの酢酸塩については、酢酸アルミニウム(Al(CHCOO);CAS No.139−12−8)、酸や水酸化アルカリに可溶の塩基性酢酸アルミニウム(典型的には水和物、Al(CHCOO)・nHO;CAS No.142−03−0)、上記酢酸アルミニウムに硫酸アルミニウムが添加されて「可溶性酢酸アルミニウム」として市販されているもの等を用いてもよい。また、Zrの酢酸塩である酢酸ジルコニウムについては、上記分離促進剤として特に好ましく、例えば酢酸ジルコニウム(CAS No.7585−20−8)、二酢酸ジルコニウム(II)(Zr(CHCOO);CAS No.3227−63−2)、四酢酸ジルコニウム(IV)(Zr(CHCOO);CAS No.3227−63−2)等が挙げられる。
かかる酢酸または酢酸塩の添加量としては、上記金属加工油の種類、上記廃液の組成(該廃液に占める水成分、油成分および固体成分の各割合)、柿渋または柿抽出物の添加量等によって適宜設定することができる。特に制限はないが、かかる添加量として、例えば上記廃液の全質量に対して0.1質量%〜5質量%に相当する量が適当であり、好ましくは0.5質量%〜2質量%であり、例えば1質量%±0.2質量%である。
【0025】
以上のように、水を含む金属加工油の廃液に柿渋または柿抽出物(好ましくはさらに酢酸または酢酸塩)を添加することにより、該廃液を水成分、油成分、および固体成分に好ましく分離、回収することができる。ここで、上記油成分および固体成分が除去されて回収された水成分の水質は、例えば水質汚濁防止法(第三条第一項)の規定に基づいた環境省令(排水基準を定める省令第一条)に記載される排水基準の各項目を測定することによって、評価することができる。また、かかる項目の測定方法については、例えば、日本工業規格K0102の規格名称「工場排水試験方法」や、環境庁告示第64号「排水基準を定める省令の規定に基づく環境大臣が定める排水基準に係る検定方法」に記載される方法を好ましく採用することができる。
ここで、上記回収された水成分の水質として、上記環境省令に基づく排水基準の項目のうち、例えば、水中に浮遊する粒径2mm以下の不溶解性物質の存在量から水質の汚染状況(典型的には水の濁り)を評価する浮遊物質量(suspended solids;SS)、および主として無機性および有機性の油分(典型的には揮発しにくい鉱物油)による汚染の指標となるノルマルヘキサン抽出物質(量)について挙げてみる。上記回収された水成分の浮遊物質量は、上記廃液の汚染状況にも左右するが、例えば廃液処理前(の廃液)の約1500分の1〜約6000分の1程度にまで低下し、例えば水質汚濁防止法第三条第一項に基づく排水基準の基準値200(日間平均150)mg/lを十分に満たし得る。また、上記水成分のノルマルヘキサン抽出物質量については、廃液処理前の約1000分の1〜約100分の1程度にまで低下し、上記排水基準値5mg/lを十分に満たし得る。
【0026】
以上、説明してきたように、ここで開示される廃液処理方法によると、水を含む金属加工油の廃液を水成分、油成分、および固体成分に好ましく分離、回収することができる。このことにより、分離、回収された後の固体成分を含む油成分のみを廃棄処分することができる。また、上記回収された水成分からは、上記油成分および固体成分が不溶性(非水溶性)物質として好ましく分離、除去されているので、上記水成分の水質は排水基準レベルに接近し得る(もしくは排水基準の項目のいずれかを十分にクリアし得る)。したがって、上記回収された水成分の水質を排水基準に到達するレベルにまでさらに改善、向上させるための浄化(廃水)処理については、専門の廃水処理設備を備えていない金属加工工場や作業所等においても容易に実施可能となり得る。
【0027】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0028】
<例1:サンプルの用意>
以下のような手順でサンプル1〜3を用意した。
まず、市販の水溶性切削油(大同化学工業株式会社製の商品名「シミロンEX−125H」)を用意し、この水溶性切削油を水で希釈して、油成分の濃度が4.0質量%程度の水溶液(乳濁液)を調製した。これをクーラント液とした。なお、かかるクーラント液の液性は、腐食防止のためにアルカリ性(pH9.8程度)となっている。
上記クーラント液を所定期間にわたり使用し、廃棄処理となる程度まで繰り返し再利用した。
廃棄処理対象となった上記クーラント液(以下、「クーラント廃液」という。)を用いて以下のサンプル1〜3を調製した。なお、上記廃液処理前のクーラント廃液の外観は、図1に示されるように白濁しており、黒色の固体成分が浮遊していた。
【0029】
まず、上記クーラント廃液3Lを量り取った。これをサンプル1とした。
【0030】
次に、サンプル1と同様に上記クーラント廃液3Lを量り取った。
次いで、分離剤として、市販の柿渋(株式会社トミヤマ製の商品名「柿渋」)を用意した。次いで、上記量り取ったクーラント廃液の20質量%に相当する質量(すなわち600g)の柿渋を上記クーラント廃液に添加した。そして、攪拌速度約200rpmで15分間程度攪拌した。その後、上記クーラント廃液が油成分と水成分と沈殿物(固体成分)とに分離するまで静置した。
各成分に分離した上記クーラント廃液をろ過して、ろ液として水成分を回収した。このようにして得られた水成分をサンプル2とした。
【0031】
次に、サンプル1と同様に上記クーラント廃液3Lを量り取った。
次に、分離促進剤として、市販の酢酸ジルコニウム(日本軽金属株式会社製の商品名「酢酸ジルコニウム」)を用意した。次いで、かかる酢酸ジルコニウムを上記クーラント廃液の1質量%に相当する質量(すなわち、30g)量り取り、上記クーラント廃液に添加し、攪拌速度約200rpmで10分間程度攪拌した。
【0032】
次に、上記サンプル1と同じ柿渋を用意し、上記酢酸ジルコニウム添加前のクーラント廃液の20質量%に相当する質量(すなわち600g)の柿渋を上記クーラント廃液に添加した。そして、攪拌速度約200rpmで15分間程度攪拌した。その後、上記クーラント廃液が油成分と水成分と沈殿物(固体成分)とに分離するまで静置した。
ここで、静置後の上記クーラント廃液の外観を図2に示した。図2に示されるように、上層には固体成分が一部含まれ得る黒色の油相と、その下層には透明度が増した水相と、底部に沈殿物(残りの固体成分)とが存在しており、上記油相と水相とは明確に分離されていることが確認された。なお、図2における下層の水相部分は、沈降している固体成分の存在によりその底部付近が褐色に色づき、さらに2相に分離していた。
次に、各成分に分離した上記クーラント廃液をろ過して、ろ液として水成分を回収した。このようにして得られた水成分をサンプル3とした。
【0033】
<例2:サンプル1〜3の水質分析>
上記のようにして用意したサンプル1〜3のぞれぞれの水質分析を実施した。分析項目は、(1)水素イオン濃度(pH)、(2)浮遊物質量(SS)、(3)化学的酸素要求量(COD)、(4)生物化学的酸素要求量(BOD)、(5)ノルマルヘキサン抽出物質(量)、および(6)塩素イオン濃度の6項目である。また、(1)水素イオン濃度については、日本工業規格K0102規格名称「工場排水試験方法」における12.1「ガラス電極法」に準じて測定した。(2)浮遊物質量については、環境庁告示第59号付表8に準じて測定した。(3)化学的酸素要求量については、日本工業規格K0102規格名称「工場排水試験方法」における17「100℃における過マンガン酸カリウムによる酸素消費量(CODMn)」に準じて測定した。(4)生物化学的酸素要求量については、日本工業規格K0102規格名称「工場排水試験方法」における21「生物化学的酸素消費量(BOD)」に準じて測定した。(5)ノルマルヘキサン抽出物質(量)については、環境庁告示第64号付表4に準じて測定した。(6)塩素イオン濃度については、下水試験方法2.2.31.1に準じて測定した。
上記各分析項目(1)〜(6)の測定結果を表1に示した。
【0034】
【表1】

【0035】
上記測定の結果、表1に示されるように、(1)水素イオン濃度(pH)については、全く廃液処理をしていないサンプル1ではアルカリ性であったが、柿渋を添加したサンプル2では、pH約6程度の酸性に変化した。また、酢酸ジルコニウムと柿渋を添加したサンプル3では、酢酸ジルコニウムの添加によりさらに酸性が進んだ。
(2)浮遊物質量(SS)については、サンプル1に比べてサンプル2およびサンプル3では、激減した。このことから、柿渋の添加により、不溶性物質(油成分および固体成分を含む)が水成分から好ましく分離され、かかる水成分の水質が、大幅に向上したことが確認された。また、サンプル2とサンプル3とを比較することにより、分離促進剤としての酢酸ジルコニウムの添加によって柿渋の分離性能が向上し、不溶性物質と水成分との分離がより高いレベルで行われたことが確認された。
また、(3)化学的酸素要求量については、サンプル2および3はいずれも、サンプル1に比べて低減し、またサンプル3はサンプル2よりも低減した。
(4)生物化学的酸素要求量については、サンプル2および3はいずれも、サンプル1に比べて10分の1近く〜5分の1程度まで低下した。一方、サンプル2とサンプル3とでは、サンプル3の方がサンプル2よりも増加していた。(5)ノルマルヘキサン抽出物質量についても、サンプル2および3は、サンプル1に比べて100分の1程度以下にまで激減した。このことにより、かかるサンプル2および3では、油成分(鉱油類、すなわちここでは上記水溶性切削油)が水成分から好ましく分離、除去されていることが確認された。
(6)塩素イオン濃度については、サンプル2および3は、いずれもサンプル1よりも2倍程度まで増加していた。これはサンプル2および3に含まれる柿渋に由来し得る塩素イオンが原因と考えられた。
【0036】
ここで、例えば水質汚濁防止法第三条第一項に基づく排水基準は、(1)水素イオン濃度(pH)の基準値は5.8〜8.6(海域以外に排出されるもの)であり、(2)浮遊物質量(SS)の基準値は200(日間平均150)mg/lであり、(3)化学的酸素要求量(COD)および(4)生物化学的酸素要求量(BOD)の基準値は160(日間平均120)mg/lであり、(5)ノルマルヘキサン抽出物質量(鉱油類含有量)の基準値は5mg/lである。上記サンプル2および3では、(2)浮遊物質量および(5)ノルマルヘキサン抽出物質量については上記排水基準レベルにほぼ到達しており、それ以外の項目について上記排水基準を満たすようにさらなる浄化を実施すればよい。したがって、上記廃液処理が施されたサンプル2および3の水質を、専門的な廃水処理設備を備えていない金属加工工場等においても容易に改善、向上させ得ることが示唆された。
【0037】
また、上記例1におけるサンプル3の調製手順において、分離促進剤としての酢酸ジルコニウムを酢酸(キシダ化学株式会社製品、純度99%)、酢酸アルミニウム(関東化学株式会社製品)、および塩基性酢酸アルミニウム(関東化学株式会社製品)のそれぞれに替えて上記サンプル3と同様の手順で、上記クーラント廃液から水成分を回収した。このようにして得られた各水成分について、上記と同様の測定を実施したところ、上記3種類のいずれの分離促進剤を用いても、柿渋のみを添加した場合(すなわち分離促進剤を添加しない場合)に比べて、水成分の水質の向上が認められたが、酢酸ジルコニウムを添加したサンプル3の水質が最も改善されていた。したがって、上記3種類のいずれも分離促進剤として効果があることが確認されたが、酢酸ジルコニウムが分離促進剤として最も効果が高いことがわかった。
【0038】
以上より、本実施例によると、クーラント廃液のように水を含む金属加工油の廃液に柿渋を添加することにより、かかる廃液中の水成分を油成分や固体成分から好ましく分離することができるとともに、回収された上記水成分の水質を向上させることができた。また、上記廃液に柿渋を添加する前に酢酸または2価以上の金属の酢酸塩(特に好ましくは酢酸ジルコニウム)を添加することにより、廃液をより一層高いレベルで各成分に分離することができた。また、上記回収された水成分の水質を、排水基準に接近させることができるので、上記排水基準を満たすためのさらなる浄化処理については、専門的な廃水処理設備を備えていない金属加工工場等においても容易に実施することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を含む金属加工油の廃液を処理する方法であって、
前記水を含む金属加工油の廃液に、柿渋、または柿の果実から得られる柿抽出物を添加すること、および
前記柿渋または柿抽出物添加後の廃液を、少なくとも水成分と油成分とに分離し、該各成分を回収すること、
を包含する、廃液処理方法。
【請求項2】
前記柿渋または前記柿抽出物を前記廃液に添加する前に、酢酸、または酢酸塩を添加すること、をさらに包含する、請求項1に記載の廃液処理方法。
【請求項3】
前記酢酸塩として、2価以上の金属の酢酸塩を用いる、請求項2に記載の廃液処理方法。
【請求項4】
前記2価以上の金属の酢酸塩として、酢酸ジルコニウムを用いる、請求項3に記載の廃液処理方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−98404(P2011−98404A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253652(P2009−253652)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(505382113)株式会社サシュウ産業 (6)
【Fターム(参考)】