説明

金属化フィルムコンデンサおよびその製造方法

【課題】メタリコン電極とコンデンサ素子端面との接合強度を向上させ、大電流用端子に接続しても安定したコンデンサ特性を得ることができる金属化フィルムコンデンサおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】誘電体フィルムの表面に絶縁マージンを残して金属蒸着電極が形成された一対の金属化フィルムが、前記金属化フィルムの絶縁マージンが互いに幅方向反対側に位置するように対向配置され、積層または巻回されてなるコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子の両端面に形成されたメタリコン電極とを備え、前記メタリコン電極は、少なくとも錫、亜鉛、およびビスマスを含む合金からなり、前記合金は、亜鉛を6.0〜10.0wt%、ビスマスを1.0〜5.0wt%、残部を錫とした組成からなることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックフィルムに蒸着電極を形成した金属化フィルムを巻回または積層してなるコンデンサ素子を有する金属化フィルムコンデンサおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン(PP:polypropylene)フィルムやポリエチレンテレフタレート(PET:Polyethylene terephthalate)フィルムにアルミニウムや亜鉛を蒸着した金属化フィルムを巻回または積層した金属化フィルムコンデンサは電子機器、電気機器用等に数多く使用されている(例えば、特許文献1)。これら金属化フィルムコンデンサは誘電体に絶縁欠陥を含んでいても、自己回復性能を有しているために、高電位傾度設計により小形化できる特徴を有している。
【0003】
これに対して、産業機器用コンデンサ、特に自動車用等のフィルタ回路に使用されるコンデンサは通電電流が大きいために耐電流性の向上が必要である。この金属化フィルムコンデンサは極薄の蒸着電極とメタリコン電極の接触により引出電極を形成しており、耐電流性は電極箔を用いた非自己回復性コンデンサよりも劣る。この改善として蒸着電極のメタリコン電極と接触する部分の厚みを容量形成部よりも厚くする方法が採用されている。
【0004】
また、金属化フィルムコンデンサのメタリコン電極としては、亜鉛や亜鉛・錫合金等が採用されており、当該メタリコン電極に端子等をはんだ接続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-080908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、メタリコン電極として亜鉛または亜鉛・錫合金を用いるとこれらメタリコン電極の融点が高いため、バスバ等の大電流用端子接続時の熱でメタリコン電極と金属化フィルムコンデンサ端面との接合強度が低下することがある。これにより、メタリコン電極接続部の接触が悪くなり、メタリコン電極と金属化フィルム間で放電が発生して、コンデンサ端面近傍の蒸着金属が飛散し、コンデンサ特性が低下する問題が発生していた。
【0007】
本発明は、上記技術的課題に鑑みなされたもので、大電流用端子に接続しても安定したコンデンサ特性を得ることができる金属化フィルムコンデンサおよびそれの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の金属化フィルムコンデンサは、誘電体フィルムの表面に絶縁マージンを残して金属蒸着電極が形成された一対の金属化フィルムが、前記金属化フィルムの絶縁マージンが互いに幅方向反対側に位置するように対向配置され、積層または巻回されてなるコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子の両端面に形成されたメタリコン電極とを備え、前記メタリコン電極は、少なくとも錫、亜鉛、およびビスマスを含む合金からなることを特徴とする(第1の発明)。
【0009】
本発明の金属化フィルムコンデンサの製造方法は、誘電体フィルムの表面に絶縁マージンを残して金属蒸着電極が形成された一対の金属化フィルムを、前記金属化フィルムの絶縁マージンが互いに幅方向反対側に位置するように対向配置して積層または巻回してコンデンサ素子を形成する素子形成工程と、前記コンデンサ素子の両端面に、少なくとも錫、亜鉛、およびビスマスを含む合金からなるメタリコン電極を形成する電極形成工程とを備えることを特徴とする(第6の発明)。
【0010】
この構成によると、メタリコン電極の融点が低く、メタリコン電極とコンデンサ素子端面との接合強度が向上し、大電流用端子に接続しても、メタリコン電極が剥がれたり断線したりすることが抑制され、安定したコンデンサ特性を得ることができる。
【0011】
本発明の金属化フィルムコンデンサにおいては、前記合金が、亜鉛を6.0〜10.0wt%、ビスマスを1.0〜5.0wt%、残部を錫とした組成からなることが好ましい(第2の発明)。
【0012】
本発明の金属化フィルムコンデンサにおいては、前記合金が、アンチモンをさらに含んでいることが好ましい(第3の発明)。
【0013】
このとき、前記合金が、亜鉛を6.0〜10.0wt%、ビスマスを1.0〜5.0wt%、アンチモンを1.0%以下、残部を錫とした組成からなることがより好ましい(第4の発明)。
【0014】
本発明の金属化フィルムコンデンサにおいては、前記メタリコン電極が、前記コンデンサ素子の両端面上に溶射された亜鉛からなる第1メタリコン層と、該第1メタリコン層上に溶射された前記合金からなる第2メタリコン層とを有することが好ましい(第5の発明)。
本発明の金属化フィルムコンデンサの製造方法においては、前記電極形成工程が、前記コンデンサ素子の両端面上に亜鉛を溶射して第1メタリコン層を形成する第1工程と、前記第1メタリコン層上に前記合金を溶射して第2メタリコン層を形成する第2工程とを有することが好ましい(第7の発明)。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、メタリコン電極とコンデンサ素子端面との接合強度が向上するため、大電流用端子に接続しても、メタリコン電極が剥がれたり断線したりすることが抑制され、安定したコンデンサ特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に関する金属化フィルムコンデンサの外観斜視図である。
【図2】図1に示すコンデンサ素子の外観斜視図である。
【図3】図1に示す金属化フィルムの部分断面図である。
【図4】図2に示すコンデンサ素子の製造方法を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の金属化フィルムコンデンサ1は、コンデンサ素子6と、このコンデンサ素子6を収納するプラスチックケース7と、プラスチックケース7内のコンデンサ素子6を封止するエポキシ樹脂8とから構成されている。
【0018】
図2および図3に示すように、コンデンサ素子6は、巻回された2枚(一対)の金属化フィルム3と、巻回された金属化フィルム3の各端面に形成されたメタリコン電極5と、各メタリコン電極5に接続されたリード線9とを有している。
金属化フィルム3は、厚さ4μmの長尺のPPフィルム11と、PPフィルム11の長手方向の一方端部に絶縁マージン13が残るようにPPフィルム11上に形成されたアルミニウム蒸着電極12とを有している。
【0019】
コンデンサ素子6においては、上述のような2枚の金属化フィルム3が、一方の金属化フィルム3のアルミニウム蒸着電極12が形成されている側の面と、他方の金属化フィルム3のアルミニウム蒸着電極12が形成されている側の面と反対側の面とが互いに当接するように、かつ、2枚の金属化フィルムの絶縁マージン13が互いに幅方向反対側に位置するように重ね合わされた状態で、長手方向に沿って巻回されている。
【0020】
メタリコン電極5は、巻回された一対の金属化フィルム3の各端面に亜鉛を溶射した後に、
(a)亜鉛を6.0〜10.0wt%、ビスマスを1.0〜5.0wt%、残部を錫とした組成の合金、または、
(b)亜鉛を6.0〜10.0wt%、ビスマスを1.0〜5.0wt%、アンチモンを1.0wt%以下、残部を錫とした組成の合金
を溶射することによって、形成される。
【0021】
リード線9は、その一端が各メタリコン電極5の中央付近に接続されていると共に、巻回されてなるコンデンサ素子の長径方向に沿って延伸している。
【0022】
次に、図4を参照しつつ、金属化フィルムコンデンサ1の製造方法について説明する。
厚さ4μmの長尺のPPフィルム11に上述した方法により、金属化フィルム3を作製し、2枚の金属化フィルムの絶縁マージン13が互いに幅方向反対側に位置するように互いに重ね合わせた状態で、長手方向に沿って巻回する(素子形成工程)。
【0023】
巻回されてなるコンデンサ素子の両端面に亜鉛を溶射する(電極形成工程における第1工程)。
さらに、溶射された亜鉛の表面に、(a)亜鉛を6.0〜10.0wt%、ビスマスを1.0〜5.0wt%、残部を錫とした組成の合金、または、(b)亜鉛を6.0〜10.0wt%、ビスマスを1.0〜5.0wt%、アンチモンを1.0wt%以下、残部を錫とした組成の合金を溶射する(電極形成工程における第2工程)。
【0024】
なお、上記のように、溶射された亜鉛の表面に、メタリコン電極5を形成するのではなく、巻回されてなるコンデンサ素子の両端面に、直接、上記(a)または(b)に記載した合金を溶射することによって、メタリコン電極5を形成してもよい。
【0025】
各メタリコン電極5にリード線9を接続することによって、コンデンサ素子6を形成する(リード線接続)。
【0026】
以上の工程により得られたコンデンサ素子6を、プラスチックケース7に収納した後、該ケース内にエポキシ樹脂8を充填・硬化させて、金属化フィルムコンデンサ1を完成させる。
【0027】
次に、本発明による実施例を従来例と比較して説明する。なお、以下に説明する実施例および従来例1では、メタリコン電極の組成(電極形成工程)のみが異なっており、その他の工程は全て同じである。また、試料数はそれぞれ10個とし、定格10V−10μFの金属化フィルムコンデンサを作製した。
【0028】
[実施例1〜9] 亜鉛4.0〜12.0wt%、ビスマス0.5〜7.0wt%、錫残部の組成比較
上記仕様のコンデンサ素子を用い、その両端面に亜鉛を溶射した後、表1に示す組成のとおり、亜鉛を4.0〜12.0wt%、ビスマスを0.5〜7.0wt%、残部を錫とした組成の合金によりメタリコン電極を形成した。
【0029】
(従来例1)
上記実施例と同じ仕様のコンデンサ素子を用い、その両端面に、亜鉛を溶射した後、錫50.0wt%、亜鉛50.0wt%からなる合金を溶射することによってメタリコン電極を形成した。
【0030】
上記実施例1〜9、および従来例の各10個の金属化フィルムコンデンサについて、−40℃〜120℃の温度サイクル試験を2000サイクル実施し、それぞれについてtanδおよび断線の発生数を測定した。その結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1より明らかなように、亜鉛4.0〜12.0wt%、ビスマス0.5〜7.0wt%、錫残部の組成の合金を用いた実施例1〜9では、温度サイクル試験2000サイクル後の断線発生数が従来例に比べて減少し、tanδ変化も小さい。その中でも、亜鉛を6.0〜10.0wt%、ビスマスを1.0〜5.0wt%、残部を錫とした組成の合金を用いた実施例2、4〜6、8では、断線の発生がなく、しかもtanδ変化がより小さく、好適である。
これに対して、従来例では、10個中6個の金属化フィルムコンデンサに断線不良が発生し、残りの4個の金属化フィルムコンデンサについてもtanδ増加が大きかった。
【0033】
[実施例10〜22] 亜鉛4.0〜12.0wt%、ビスマス0.5〜7.0wt%、アンチモン1.2wt%以下、錫残部の組成比較
次に、上記実施例と同じ仕様のコンデンサ素子を用い、その両端面に亜鉛を溶射した後、表2に示す組成のとおり、亜鉛を4.0〜12.0wt%、ビスマスを0.5〜7.0wt%、アンチモンを1.2wt%以下、残部を錫とした組成の合金によりメタリコン電極を形成した。
【0034】
上記実施例10〜22の各10個の金属化フィルムコンデンサについて、−40℃〜120℃の温度サイクル試験を2000サイクル実施し、それぞれについてtanδおよび断線の発生数を測定した。その結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
表2より明らかなように、亜鉛を4.0〜12.0wt%、ビスマスを0.5〜7.0wt%、アンチモンを1.2wt%以下、残部を錫とした組成の合金を用いた実施例10〜22では、温度サイクル試験2000サイクル後の断線発生数が従来例に比べて減少し、tanδ変化も小さい。その中でも、亜鉛を6.0〜10.0wt%、ビスマスを1.0〜5.0wt%、アンチモンを1.0wt%以下、残部を錫とした組成の合金を用いた実施例11、13〜17、19、21では、断線の発生がなく、しかもtanδ変化がより小さく、好適である。
【0037】
なお、上記実施例では、溶射された亜鉛の表面に、錫、亜鉛、ビスマス、アンチモンの重量比率を変えた合金メタリコン電極5を形成したが、溶射された亜鉛を用いずに、コンデンサ素子の両端面に、直接、上記のメタリコン合金を溶射した場合も、上記実施例と同様に良好な結果が得られた。
【符号の説明】
【0038】
1 金属化フィルムコンデンサ
3 金属化フィルム
5 メタリコン電極
6 コンデンサ素子
7 プラスチックケース
8 エポキシ樹脂
9 リード線
11 PPフィルム
12 アルミニウム蒸着電極
13 絶縁マージン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体フィルムの表面に絶縁マージンを残して金属蒸着電極が形成された一対の金属化フィルムが、前記金属化フィルムの絶縁マージンが互いに幅方向反対側に位置するように対向配置され、積層または巻回されてなるコンデンサ素子と、
前記コンデンサ素子の両端面に形成されたメタリコン電極と
を備え、
前記メタリコン電極は、少なくとも錫、亜鉛、およびビスマスを含む合金からなることを特徴とする金属化フィルムコンデンサ。
【請求項2】
前記合金は、亜鉛を6.0〜10.0wt%、ビスマスを1.0〜5.0wt%、残部を錫とした組成からなる請求項1記載の金属化フィルムコンデンサ。
【請求項3】
前記合金は、アンチモンをさらに含む請求項1記載の金属化フィルムコンデンサ。
【請求項4】
前記合金は、亜鉛を6.0〜10.0wt%、ビスマスを1.0〜5.0wt%、アンチモンを1.0%以下、残部を錫とした組成からなる請求項3記載の金属化フィルムコンデンサ。
【請求項5】
前記メタリコン電極は、
前記コンデンサ素子の両端面上に溶射された亜鉛からなる第1メタリコン層と、
該第1メタリコン層上に溶射された前記合金からなる第2メタリコン層と
を有する請求項1ないし4のいずれかに記載の金属化フィルムコンデンサ。
【請求項6】
誘電体フィルムの表面に絶縁マージンを残して金属蒸着電極が形成された一対の金属化フィルムを、前記金属化フィルムの絶縁マージンが互いに幅方向反対側に位置するように対向配置して積層または巻回してコンデンサ素子を形成する素子形成工程と、
前記コンデンサ素子の両端面に、少なくとも錫、亜鉛、およびビスマスを含む合金からなるメタリコン電極を形成する電極形成工程と
を備えることを特徴とする金属化フィルムコンデンサの製造方法。
【請求項7】
前記電極形成工程は、
前記コンデンサ素子の両端面上に亜鉛を溶射して第1メタリコン層を形成する第1工程と、
前記第1メタリコン層上に前記合金を溶射して第2メタリコン層を形成する第2工程とを有する請求項6記載の金属化フィルムコンデンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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