説明

金属材及びこれを用いた鉄道車両構体

【課題】接合部分の密着性を容易に確保できる金属材、及びこれを用いた鉄道車両構体を提供する。
【解決手段】骨部材30では、フランジ部33を骨部材30の断面方向から見たときの断面形状が、外板20側に向かって凸となるように円状に湾曲している。このため、骨部材30のフランジ部33を外板20に重ね合わせると、フランジ部33の先端部分が線状に外板20に当接すると共に、フランジ部33と外板20との当接部分の両脇には、許容ギャップ量以下となる重ね合わせ部分が一定の幅で存在することとなる。したがって、従来の骨部材のようにフランジ部の平面部分を外板の平面部分に当接させる場合では、許容ギャップ量を超えてしまう箇所の制御が困難であるのに対し、骨部材30では、フランジ部33を外板20に重ね合わせるだけで、フランジ部33と外板20との当接部分の密着性を容易に確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材及びこれを用いた鉄道車両構体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば鉄道車両構体の製造にあたって、例えば断面ハット型の骨部材をレーザ溶接等で外板の内側に接合したものがある。例えば特許文献1に記載の鉄道車両の外板・付帯物の溶接方法では、外板と骨部材等の付帯物との研磨目を一方向に揃え、この研磨目の方向にレーザ溶接部を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−341300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したような外板及び骨部材といった金属材の接合では、接合強度を確保する観点から、接合を行う際の各金属材における接合部分の密着性が重要となっている。そのため、一般的な方法としては、溶接ヘッドに取り付けた加圧ローラなどで骨部材のフランジ部を外板に押し付ける方法や、拘束治具を用いて骨部材のフランジ部と外板とを挟み込んで固定する方法が採用されている。しかしながら、前者の場合には、加圧ローラの配置によって溶接部の形成箇所が制限されてしまうことがあり、後者の場合には、装置の大型化が問題となる。
【0005】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、接合部分の密着性を容易に確保できる金属材、及びこれを用いた鉄道車両構体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決のため、本発明に係る金属材は、鉄道車両構体における外板に接合される骨部材として用いられ、外板の一面側に重ね合わせ可能なフランジ部を有する金属材であって、フランジ部を金属材の断面方向から見たときの断面形状が、外板側に向かって凸となるように円状に湾曲していることを特徴としている。
【0007】
この金属材では、フランジ部を金属材の断面方向から見たときの断面形状が、外板側に向かって凸となるように円状に湾曲している。このため、当該金属材のフランジ部を外板の一面側に重ね合わせると、円状に湾曲したフランジ部の先端部分が線状に当接すると共に、フランジ部と外板との当接部分の両脇には、接合時において外板との間で許容されるギャップ量(以下「許容ギャップ量」と称す)以下となる重ね合わせ部分が一定の幅で存在することとなる。したがって、従来の金属材のようにフランジ部の平面部分を外板の平面部分に当接させる場合では、許容ギャップ量を超えてしまう箇所の制御が困難であるのに対し、この金属材では、フランジ部を外板に重ね合わせるだけでフランジ部と外板との当接部分の密着性を容易に確保できる。
【0008】
また、フランジ部において金属材の断面方向から見た接合予定領域の幅をW、金属材の板厚をT、接合時において前記外板との間で許容されるギャップ量を板厚のA倍としたときに、フランジ部における断面形状の曲率半径Rが、式(1)を満たすことが好ましい。この条件を満たすことにより、接合予定領域の全幅において、フランジ部と外板との重ね合わせ部分のギャップ量を許容ギャップ量以下とすることが可能となる。
【0009】
また、本発明に係る鉄道車両構体は、外板と、フランジ部が外板の一面側に当接するように重ね合わされた上記金属材とを備え、外板とフランジ部との当接部分に沿って溶接部が形成されていることを特徴としている。
【0010】
この鉄道車両構体では、金属材のフランジ部を金属材の断面方向から見たときの断面形状が、外板側に向かって凸となるように円状に湾曲している。このため、当該金属材のフランジ部を外板の一面側に重ね合わせると、円状に湾曲したフランジ部の先端部分が確実に当接すると共に、フランジ部と外板との当接部分の両脇には、許容ギャップ量以下となる重ね合わせ部分が一定の幅で存在することとなる。外板とフランジ部との当接部分に沿って形成された溶接部は、適切にギャップ量が抑えられた状態で健全に形成されるので、外板及び骨部材の接合強度が十分に確保される。
【0011】
また、溶接部は、レーザ溶接部であることが好ましい。フランジ部と外板との当接部分のギャップ量を抑えることにより、健全なレーザ溶接部が得られる。レーザ溶接を用いる場合、金属材及び外板への入熱が抑えられ、変形の小さい鉄道車両構体を得られる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る金属材によれば、接合部分の密着性を容易に確保できる。これにより、外板及び骨部材の接合強度が十分に確保された鉄道車両構体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る鉄道車両構体の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】側構体の構成を示す斜視図である。
【図3】骨部材の構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る金属材及び鉄道車両構体の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明に係る鉄道車両構体の一実施形態を示す斜視図である。同図に示すように、鉄道車両構体1は、床構体2と、側構体3と、屋根構体4と、妻構体5とを備え、これらの各構体が相互に接合されることにより、乗客を収容する空間を内部に有する箱型形状をなしている。
【0016】
床構体2は、車両の床部を構成する構体として鉄道車両構体1の底部に配置されている。側構体3及び妻構体5は、車両の側部を構成する構体として、床構体2の左右の縁部及び前後の縁部を囲むように立設されている。側構体3には、乗客・乗員が乗り降りするためのドア部6が等間隔に複数(例えば3ヶ所)設けられている。
【0017】
また、ドア部6,6間と側構体3の両端部とには、窓部7が設けられている。妻構体5は、乗客・乗員らが車両間を行き来するための出入口部8が設けられている。屋根構体4は、車両の屋根部を構成する構体として鉄道車両の構体の上部に空間に蓋をするように配置されている。車両の屋根構体4には、上部に車内の温度を調整するためのエアコンディショナーやパンタグラフ(図示しない)などを備えている。
【0018】
次に、側構体3の構成について更に詳細に説明する。図2は、側構体3の構成を示す斜視図である。図2に示すように、側構体3は、外板20と、複数の骨部材30とによって構成されている。外板20は、車両の外壁部を構成する部材である。外板20は、例えば厚さ1.2mm程度のステンレス鋼(SUS301L)からなり、長さ940mmの矩形状をなしている。
【0019】
骨部材30は、長方形状の頂部31と、頂部31の幅方向の両側部から起立するウェブ部32,32と、ウェブ部32,32の先端から外側に突出するフランジ部33,33とを有する断面ハット状の部材(ハット材)である。骨部材30は、例えば厚さ0.8mmのステンレス鋼(SUS301L)からなり、外板20の長さに対応する長尺状をなしている。また、頂部31の幅は例えば50mmとなっており、ウェブ部32の高さは例えば35mmとなっている。
【0020】
骨部材30は、頂部31が車両の内側に向いた状態で、例えば200mmピッチで車両の高さ方向に並列配置され、フランジ部33,33に沿ってスポット状に形成されたレーザ溶接部W1によって外板20に強固に接合されている。
【0021】
ここで、骨部材30におけるフランジ部33は、図3に示すように、骨部材30の断面方向から見たときの断面形状が、外板20側に向かって凸となるように円状に湾曲している。より具体的には、フランジ部33の曲率半径Rは、以下のように導かれる。
【0022】
まず、レーザによる重ね溶接において、骨部材30の板厚をT、接合時において外板20との間で許容されるギャップ量(許容ギャップ量)を板厚のA倍とすると、ギャップ量Gは、以下の式(1)を満たす必要がある。値Aは、要求される溶接部の強度に応じて適宜設定される値であり、レーザ溶接においては一般にA=0.1となる。
【数1】

【0023】
また、フランジ部33において骨部材30の断面方向から見た接合予定領域の幅をWとし、Wに対応する円弧の中心角をθ(図3参照)とすると、曲率半径Rとギャップ量G及び中心角θとの関係は、式(2)及び式(3)で表される。
【数2】


【数3】

【0024】
式(2)及び式(3)を用いてθを消去すると、式(4)が得られる。
【数4】

【0025】
そして、式(4)に式(1)を代入することにより、式(5)が得られる。
【数5】

【0026】
本実施形態では、値A=0.1、骨部材30の板厚T=0.8mmであり、接合予定領域の幅W=8mmとすれば、式(5)より、接合予定領域の全幅においてギャップ量Gが許容ギャップ量以下となるための条件は、曲率半径R≧100.04mmと見積もられる。なお、一般には、値A<0.1、T<<Wであるので、曲率半径Rは、式(6)のように近似することも可能である。
【数6】

【0027】
以上説明したように、骨部材30では、フランジ部33を骨部材30の断面方向から見たときの断面形状が、外板20側に向かって凸となるように円状に湾曲している。このため、当該骨部材30のフランジ部33を外板20の一面側に重ね合わせると、円状に湾曲したフランジ部33の先端部分が線状に外板20に当接すると共に、フランジ部33と外板20との当接部分の両脇には、許容ギャップ量以下となる重ね合わせ部分が一定の幅で存在することとなる。
【0028】
したがって、従来のようにフランジ部の平面部分を外板の平面部分に当接させる場合では、許容ギャップ量を超えてしまう箇所の制御が困難であるのに対し、フランジ部33を外板20に重ね合わせるだけで、フランジ部33と外板20との当接部分の密着性を容易に確保できる。
【0029】
フランジ部33と外板20との溶接にあたっては、加圧ローラによる骨部材30の加圧や、拘束治具による骨部材30と外板20との固定が不要となるので、作業性の向上が図られる。また、加圧ローラの配置によって溶接部の形成箇所が制限されてしまうこともなく、拘束治具の導入による装置の大型化の問題も回避できる。
【0030】
この骨部材30を用いて製造された鉄道車両構体1では、外板20とフランジ部33との当接部分に沿って形成されたレーザ溶接部W1が、許容ギャップ量以下の状態で健全に形成されるので、外板20及び骨部材30の接合強度が十分に確保される。レーザ溶接では、骨部材30及び外板20への入熱が抑えられるので、変形の小さい鉄道車両構体1を得られる。
【0031】
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上述した実施形態では、断面ハット状の骨部材30を例示したが、外板20に当接させるフランジ部を有する部材であれば断面ハット状の部材に限られず、断面L字状の部材、断面Z字状の部材などのフランジ部を、外板20に向かって凸となるように円状に湾曲させてもよい。また、上述した実施形態では、骨部材30と外板20とで構成される側構体3を例示したが、同様の構造を屋根構体4や妻構体5に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0032】
1…鉄道車両構体、20…外板、30…骨部材(金属材)、33…フランジ部、G…ギャップ量、R…曲率半径、T…骨部材の板厚、W…接合予定領域の幅、W1…レーザ溶接部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両構体における外板に接合される骨部材として用いられ、前記外板の一面側に重ね合わせ可能なフランジ部を有する金属材であって、
前記フランジ部を金属材の断面方向から見たときの断面形状が、前記外板側に向かって凸となるように円状に湾曲していることを特徴とする金属材。
【請求項2】
前記フランジ部において金属材の断面方向から見た接合予定領域の幅をW、前記金属材の板厚をT、接合時において前記外板との間で許容されるギャップ量を前記板厚のA倍としたときに、前記フランジ部における前記断面形状の曲率半径Rが、下記式(1)を満たすことを特徴とする請求項1記載の金属材。
【数1】

【請求項3】
外板と、前記フランジ部が前記外板の一面側に当接するように重ね合わされた請求項1又は2に記載の金属材とを備え、
前記外板と前記フランジ部との当接部分に沿って溶接部が形成されていることを特徴とする鉄道車両構体。
【請求項4】
前記溶接部は、レーザ溶接部であることを特徴とする請求項3記載の鉄道車両構体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−68270(P2011−68270A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221258(P2009−221258)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)
【Fターム(参考)】