説明

金属板の加工方法

【課題】歪みの発生を抑えつつ、所望の曲げ角度を有する金属板を容易に得ることができる金属板の加工方法を提供する。
【解決手段】この金属板の加工方法では、レーザ光の照射部位においてステンレス鋼板1の表面から裏面までが液相状態となるようにレーザ光の走査を行っている。したがって、従来のように金属板裏面からの圧縮応力を利用して金属板の塑性変形を行う場合と比べると、液相状態となった金属部分がステンレス鋼板1の表面から裏面まで貫通している分、ステンレス鋼板1の隅部に加える力が小さくて済むので、ステンレス鋼板1の歪みの発生を抑えることが可能となる。また、レーザ光の走査1回あたりの曲げ角度を十分に確保できるので、所望の曲げ角度α°を有するステンレス鋼板1を容易に得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いた金属板の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の金属板の加工方法として、例えば特許文献1に記載の折曲げ加工方法のように、金属板の折り曲げ予定線に沿ってレーザ光で溝加工を施し、パンチとダイとによって溝に沿って折り曲げる方法がある。しかしながら、この方法では溝を形成した箇所が肉薄となり、金属板の強度が低下するおそれがある。
【0003】
一方、溝の形成を行わない曲げ加工方法として、レーザ光の照射によって金属板の厚み方向に温度勾配を生じさせ、温度上昇に伴う膨張によって降伏応力の低下した金属板表面が金属板裏面からの圧縮応力を受けて塑性変形することを利用した金属板の加工方法がある。例えば特許文献2に記載の加工方法では、金属板の変形させる部分にレーザ光を走査して加熱を行うと共に、レーザ光の走査線に沿って金属板を折り畳む方向に力を加えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−238336号公報
【特許文献2】特開平6−114443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の加工方法では、金属板におけるレーザ光の照射部分が一定の強度を保つので、金属板を折り畳む方向に加える力を積極的に加えながらレーザ光の照射を行う必要がある。このため、金属板の厚さによっては金属板に歪みが生じてしまうおそれがある。一方、金属板の端部に力を加えず、レーザ光の照射による作用だけで金属板の曲げ加工を行うことも考えられる。しかしながら、金属板に力を加えない場合では、レーザ光の走査1回あたりの曲げ角度が小さい上、曲げ角度の制御ができないため、所望の曲げ角度を有する金属板を得ることは困難である。
【0006】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、歪みの発生を抑えつつ、所望の曲げ角度を有する金属板を容易に得ることができる金属板の加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決のため、本発明に係る金属板の加工方法は、金属板にレーザ光を走査しながら照射し、レーザ光の走査線に沿って曲げ加工を行う金属板の加工方法であって、金属板が曲げ予定線を中心として凹状に撓むように金属板の端部から力を加える工程と、レーザ光の照射部位において金属板の表面から裏面までが液相状態となるようにレーザ光の走査を行う工程とを備えたことを特徴としている。
【0008】
この金属板の加工方法では、レーザ光の照射部位において金属板の表面から裏面までが液相状態となるようにレーザ光の走査を行っている。したがって、従来のように金属板裏面からの圧縮応力を利用して金属板の塑性変形を行う場合と比べると、液相状態となっている金属部分が金属板の表面から裏面まで貫通している分、金属板の端部に加える力が小さくて済むので、金属板の歪みの発生を抑えることが可能となる。また、レーザ光の走査1回あたりの曲げ角度を十分に確保できるので、所望の曲げ角度を有する金属板を容易に得ることができる。
【0009】
また、本発明に係る金属板の加工方法は、金属板にレーザ光を走査しながら照射し、レーザ光の照射部分に沿って曲げ加工を行う金属板の加工方法であって、第1の金属板に第2の金属板を重ね合わせる工程と、第2の金属板が曲げ予定線を中心として凹状に撓むように金属板の端部から力を加える工程と、レーザ光の照射部位において第2金属板の表面から少なくとも第1の金属板の一部までが液相状態となるようにレーザ光の走査を行う工程とを備えたことを特徴としている。
【0010】
この金属板の加工方法は、第1の金属板と第2の金属板との重ね合わせ溶接と、第2の金属板の曲げ加工とを同時に行うものである。この金属板の加工方法では、レーザ光の照射部位において第2の金属板の表面から第1の金属板の一部までが液相状態となるようにレーザ光の走査を行っている。したがって、従来のように金属板裏面からの圧縮応力を利用して金属板の塑性変形を行う場合と比べると、液相状態となっている金属部分が金属板の表面から裏面まで貫通している分、第2の金属板の端部に加える力が小さくて済むので、第2の金属板の歪みの発生を抑えることが可能となる。また、レーザ光の走査1回あたりの曲げ角度を十分に確保できるので、所望の曲げ角度を有する第2の金属板を容易に得ることができる。
【0011】
また、レーザ光の照射部位に金属を添加し、局部合金化又は局部改質を行うことが好ましい。これにより、金属板の曲げ加工部分の耐蝕性等を高めることができる。金属の添加方法としては、例えば粉末状の金属の添加やワイヤ状の金属の添加が挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、歪みの発生を抑えつつ、所望の曲げ角度を有する金属板を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る金属板の加工方法によって加工された金属板を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る金属板の加工方法を示す斜視図である。
【図3】図2の後続の工程を示す斜視図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る金属板の加工方法を示す断面図である。
【図5】図4の後続の工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る金属板の加工方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る金属板の加工方法によって加工された金属板を示す図である。同図では、加工対象である金属板として、例えば長さ1000mm、幅300mm、厚さ1mmのステンレス鋼板1を例示している。ステンレス鋼板1の中央部分には、曲げ加工部分R1が形成されている。この曲げ加工部分R1には、表面から裏面まで貫通している溶融凝固部W1が線状に形成されており、ステンレス鋼板1は、溶融凝固部W1に沿って所定の角度α°に折れ曲がった状態となっている。
【0016】
図2は、ステンレス鋼板1の加工方法を示す斜視図である。図2に示すように、ステンレス鋼板1の曲げ加工を行うにあたっては、例えば加工治具2を用いる。加工治具2は、ステンレス鋼板1の大きさに対応するステージ3と、ステージの四隅に同一方向にそれぞれ設けられたスライドレール4と、スライドレール4上に配置されたクランプ部5とを備えている。
【0017】
クランプ部5は、スライドレール4上でステージ3の面内方向に摺動自在に設けられたベース部6と、ベース部6上に設けられた把持部7とを有している。把持部7には、ステンレス鋼板1の凹部を差し込むための凹部が設けられており、当該凹部に差し込まれたステンレス鋼板1の隅部をボルト締めによって固定できるようになっている。
【0018】
また、クランプ部5は、スライドレール4と直交して略水平方向に延びる軸を有し、ベース部6の上面に立設された支持部材8に対して回転自在に軸支されている。したがって、クランプ部5は、ステンレス鋼板1の隅部を把持した状態で、ステージ3の面内方向へのスライド及び軸周りの回転が同時に可能となっている。
【0019】
このような加工治具2をセットした後、まず、各クランプ部5の凹部にステンレス鋼板1の隅部をそれぞれ差し込み、ボルト9を締めてステンレス鋼板1を固定する。次に、各クランプ部5からステンレス鋼板1の中央側に向かって力を加え、ステージ3側に向かって凸となるようにステンレス鋼板1を凹状に撓ませる。このとき、ステンレス鋼板1の中央部分、すなわち、ステンレス鋼板1の曲げ予定線L1の撓み量は、例えば30mm程度とすることが好ましい。
【0020】
ステンレス鋼板1を曲げ予定線L1に沿って撓ませた後、ステンレス鋼板1の上方において曲げ予定線L1の一端にレーザヘッド10を配置し、図3に示すように、曲げ予定線L1に沿ってレーザヘッド10を走査しながらレーザ光の照射を行う。ステンレス鋼板1へのレーザ光の照射条件は、例えばパワーを4kW、走査速度を8m/minとすることが好ましい。
【0021】
このような照射条件により、レーザ光の照射部位においてステンレス鋼板1の表面から裏面までが液相状態となるようにレーザ光の走査がなされる。そして、液相状態となった金属部分にステンレス鋼板1の隅部から力が加わることによって、撓んだ状態のステンレス鋼板1が徐々に折り曲げられる。
【0022】
この後、レーザヘッド10を曲げ予定線L1の他端まで走査させると、ステンレス鋼板1の中央部分には、液相状態となった金属部分が冷却されることによって溶融凝固部W1が線状に形成され、溶融凝固部W1に沿って所定の角度α°に折れ曲がったステンレス鋼板1が得られる。
【0023】
以上説明したように、この金属板の加工方法では、レーザ光の照射部位においてステンレス鋼板1の表面から裏面までが液相状態となるようにレーザ光の走査を行っている。したがって、従来のように金属板裏面からの圧縮応力を利用して金属板の塑性変形を行う場合と比べると、液相状態となった金属部分がステンレス鋼板1の表面から裏面まで貫通している分、ステンレス鋼板1の隅部に加える力が小さくて済むので、ステンレス鋼板1の歪みの発生を抑えることが可能となる。また、レーザ光の走査1回あたりの曲げ角度を十分に確保できるので、所望の曲げ角度α°を有するステンレス鋼板1を容易に得ることができる。
【0024】
また、本実施形態の金属板の加工方法において、レーザヘッド10に追従して金属粉末又はフィラーワイヤを供給するノズル(不図示)をレーザ光の照射部位に向けて配置し、レーザ光の照射部位に金属を添加するようにしてもよい。金属粉末を用いる場合、例えば溶融凝固部W1における含有率が21%となるようにCr粉末を添加することができる。Cr粉末のほか、Ni或いはCrとNiを所定の混合比(例えば2:1)で混合した粉末を用いることもできる。フィラーワイヤを用いる場合、金属材の材質に応じ、例えば金属材と同系列の素材を用いればよい。本実施形態の場合、例えばSUS308からなるフィラーワイヤを用いることができる。この場合、溶融凝固部W1の局部合金化又は局部改質により、ステンレス鋼板1の曲げ加工部分R1の耐蝕性等を高めることができる。
【0025】
なお、ステンレス鋼板1における曲げ加工部分R1では、ステンレス鋼板1の隅部から加える力を一定とした場合に、ステンレス鋼板1に照射するレーザ光のスポット径が大きいほど曲げ半径が大きくなり、レーザ光のスポット径が小さいほど曲げ半径が小さくなる傾向にある。したがって、レーザのスポット径を調整することによって曲げ加工部分R1の曲げ半径を制御し、所望の形状の曲げ加工部分R1を有するステンレス鋼板1を得ることができる。
【0026】
[第2実施形態]
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。図4は、本発明の第2実施形態に係る金属板の加工方法を示す断面図である。この第2実施形態に係る金属板の加工方法は、レーザ光の照射部位においてステンレス鋼板の表面から裏面までが液相状態となるようにレーザ光の走査を行う点で第1実施形態と共通するが、これを第1のステンレス鋼板21と第2のステンレス鋼板22との重ね合わせ溶接に応用する点で第1実施形態と相違している。
【0027】
すなわち、第2実施形態では、まず、図4に示すように、第1のステンレス鋼板21に第2のステンレス鋼板22を重ね合わせ、第2のステンレス鋼板2が曲げ予定線L2を中心として凹状に撓むように、クランプ部5によって第2のステンレス鋼板22の隅部から力を加える。
【0028】
第2のステンレス鋼板22を曲げ予定線L2に沿って撓ませた後、第2のステンレス鋼板22の上方において曲げ予定線L2の一端にレーザヘッド10を配置し、曲げ予定線L2に沿ってレーザヘッド10を走査しながらレーザ光の照射を行う。ステンレス鋼板21,22へのレーザ光の照射条件は、例えばパワーを4kW、走査速度を6m/minとすることが好ましい。
【0029】
このような照射条件により、レーザ光の照射部位において第2のステンレス鋼板22を貫通して第1のステンレス鋼板21の中間部分までが液相状態となるようにレーザ光の走査がなされる。そして、第2のステンレス鋼板22において液相状態となった金属部分にステンレス鋼板22の隅部から力が加わることによって、図5に示すように、撓んだ状態の第2のステンレス鋼板22が折り曲げられると共に、第1のステンレス鋼板21と第2のステンレス鋼板22とが溶融凝固部W2によって強固に接合される。
【0030】
この金属板の加工方法では、レーザ光の照射部位において第2のステンレス鋼板22の表面から第1のステンレス鋼板21の一部までが液相状態となるようにレーザ光の走査を行っている。したがって、従来のように金属板裏面からの圧縮応力を利用して金属板の塑性変形を行う場合と比べると、液相状態となっている金属部分が第2のステンレス鋼板22の表面から裏面まで貫通している分、第2のステンレス鋼板22の端部に加える力が小さくて済むので、第2のステンレス鋼板22の歪みの発生を抑えることが可能となる。また、レーザ光の走査1回あたりの曲げ角度を十分に確保できるので、所望の曲げ角度を有する第2のステンレス鋼板22を容易に得ることができる。
【0031】
また、この金属板の加工方法では、第1のステンレス鋼板21と第2のステンレス鋼板22との重ね合わせ溶接と、第2のステンレス鋼板22の曲げ加工とを同時に実現できるので、工程の簡単化が図られる。この金属板の加工方法で得られる接合体は、例えば鉄道車両に用いる構造用補強材などに適用できる。
【0032】
本実施形態の金属板の加工方法においても、レーザヘッド10に追従して金属粉末或いは金属ワイヤを供給するノズルをレーザ光の照射部位に向けて配置し、レーザ光の照射部位に金属を添加するようにしてもよい。この場合、溶融凝固部W2の局部合金化又は局部改質により、ステンレス鋼板21,22の曲げ加工部分R2の耐蝕性等を高めることができる。レーザのスポット径を調整することによって曲げ加工部分R2の曲げ半径を制御できる点については、第1実施形態と同様である。
【符号の説明】
【0033】
1…ステンレス鋼板、10…レーザヘッド、21…第1のステンレス鋼板、22…第2のステンレス鋼板、L1,L2…曲げ予定線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板にレーザ光を走査しながら照射し、前記レーザ光の走査線に沿って曲げ加工を行う金属板の加工方法であって、
前記金属板が曲げ予定線を中心として凹状に撓むように前記金属板の端部から力を加える工程と、
前記レーザ光の照射部位において前記金属板の表面から裏面までが液相状態となるように前記レーザ光の走査を行う工程とを備えたことを特徴とする金属板の加工方法。
【請求項2】
金属板にレーザ光を走査しながら照射し、前記レーザ光の照射部分に沿って曲げ加工を行う金属板の加工方法であって、
第1の金属板に第2の金属板を重ね合わせる工程と、
前記第2の金属板が曲げ予定線を中心として凹状に撓むように前記金属板の端部から力を加える工程と、
前記レーザ光の照射部位において前記第2の金属板の表面から少なくとも前記第1の金属板の一部までが液相状態となるように前記レーザ光の走査を行う工程とを備えたことを特徴とする金属板の加工方法。
【請求項3】
前記レーザ光の照射部位に金属を添加し、局部合金化又は局部改質を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の金属板の加工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−73013(P2011−73013A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225087(P2009−225087)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)