説明

金属検出装置

【課題】 各種混入異物に対して好適な磁界周波数条件を容易・迅速に設定できる高感度の金属検出装置を提供する。
【解決手段】 基準信号に対応する交流磁界を発生させるとともに、この磁界中を被検査体が通過することによる磁界の変化を検出して、被検査体W中に混入している金属異物の有無を判定する金属検出装置において、基準信号の複数の異なる周波数について、磁界検出信号における被検査体Wの物品影響度合いが最小となる位相を設定する位相設定手段26a、31bと、前記複数の周波数について、設定位相下で、発生磁界中を被検査体Wが通過したときの磁界検出手段23の検出信号と、検出すべき金属異物を含む異物サンプルが発生磁界中を通過したときの検出信号とを取得し、前記複数の周波数のうち被検査体Wの検出信号に対する異物サンプルの検出信号比が最大となる周波数を選択して、基準信号周波数を設定する周波数設定手段31c、33を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査体中に混入した金属の又は金属成分を含む異物(以下、単に金属異物という)を検出する金属検出装置、特に交番磁界中に食品等の被検査体を通したときの磁界の変化から異物を検出する金属検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、消費者保護のために流通商品の品質向上がより一層希求されており、例えばHACCP(Hazard Analysis Critical Control Point;危害分析重要管理点)に適合した食品衛生管理体制の強化等が高度に要求されている。このような中、食品や日用品等の製品製造ライン中で製品に混入した金属異物を検出する金属検出装置はより広範に使用されてきている。
【0003】
従来のこの種の金属検出装置としては、例えばコンベア搬送される製品が所定周波数の交流磁界中を通過するように磁界を発生させ、その磁界中での製品移動により生じる磁界の変化の程度および状態から金属異物の有無を検出するものがある(例えば特許文献1参照)。
【0004】
この金属検出装置は、図6に示すように、基準信号発生器1からのパルス信号をフィルタ2によって正弦波に変換し、これを電力増幅器3で増幅して送信コイル4に励磁電流として供給し、送信コイル4に交番磁界を発生させる一方、送信コイル4に対向して、あるいは送信コイル4と同軸に配置した一対の受信コイル5a、5bに送信コイル4からの交番磁界を作用させるようにしている。受信コイル5a、5bは、それぞれ送信コイル4から発生される交番磁界の影響を等しく受けるように形成されるとともに互いに逆極性に接続(差動接続)されており、送信コイル4の発生磁界のみに対しては受信コイル5a、5bの誘起電圧出力が互いに平衡して出力がゼロになる。そして、前記交番磁界中をワークWが移動するときには、受信コイル5a、5bの平衡状態がくずれ、その不平衡出力信号が差動増幅器6により増幅されて検波回路7に取り込まれる。検波回路7は、基準信号発生器1の出力パルス信号を移相回路13にて所定量シフト(移相)させた移相基準信号に従って、そのシフトされた位相にて、前記不平衡出力信号から交番磁界の周波数に応じて変化する高周波信号成分を除き、ワークWの移動に応じて変化する信号を出力する。この検波出力は、ローパスフィルタ8による高周波ノイズ成分の除去およびA/D変換器9によるアナログ信号からディジタル信号への変換を施されて、判定回路11および波形表示記憶装置12に入力される。
【0005】
判定回路11では、入力された信号の信号振幅を、所定電圧値あるいは良品検査時の信号振幅に対する所定の倍率値をしきい(閾)値として閾値判定を行ない、検出信号の振幅が閾値を超えたときには金属異物が混入していると判定し、その判定結果を示す信号を出力するようになっている。
【0006】
ところで、磁界検出を行なう上述のような金属検出装置においては、新しい製品を検査対象とする場合、その検査に先立って、金属異物が入っていないサンプル品を用いて検波位相調整を行なっている。
【0007】
その位相調整は、一般的に、受信コイルの不平衡出力が最小となるように、移相回路の位相シフト量を微小ステップ角ずつ変更し、サンプル品の物品影響が最小となる位相に検波位相を設定するもので、これにより、実際の検査時に、金属物又は金属成分を含む構成要素の検出信号レベルが高く、それ以外の物品影響による出力信号レベルが低くなるようにしている(例えば、特許文献2の段落[0013]〜[0014]等参照)。
【特許文献1】特開平6−160542号公報
【特許文献2】特開平11−258355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の金属検出装置では、次のような問題があった。
【0009】
金属を含まないサンプル物品に対して検出信号のレベルが最小となる磁界周波数と検波位相で、被検査体に混入している金属異物を最高感度で検出できるとは限らない。
【0010】
すなわち、被検査体の検出信号が最小になるように、磁界周波数と検波位相を設定したときに、検出すべき金属異物に対する検出信号も小さくなってしまう場合があり、その結果、検出すべき金属異物の検出感度が低下してしまうという問題があった。
【0011】
また、ユーザーが独自の検出感度の基準を設定していることもあり、一般に感度基準として使用される鋼球やステンレス球とは異なる材質、サイズ、形状等で感度基準が設定されている場合、あるいは、製造ライン特有の混入し易い金属で感度基準が規定されている場合等には、それらの基準を予め把握したりそれらの基準の変更に対応する設定を行なったりするのは容易でなかった。
【0012】
本発明は、このような問題を解決して、より高感度な金属検出が可能な金属検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の金属検出装置は、上記目的達成のため、基準信号に対応する交流磁界を発生させる磁界発生手段と、前記交流磁界中を被検査体が通過することによる磁界の変化を検出し、この磁界の変化に対応する検出信号を出力する磁界検出手段と、該磁界検出手段が出力する検出信号を前記基準信号に対応する信号によって同期検波する検波手段と、前記検波手段の検波出力に基づいて前記被検査体中に混入している金属異物の有無を判定する判定手段とを備えた金属検出装置において、前記基準信号の複数の異なる周波数について、前記磁界検出手段の検出信号における前記被検査体の物品影響の度合いが最小となる位相をそれぞれ設定する位相設定手段と、前記複数の異なる周波数について、前記位相設定手段で設定された位相の下で、前記磁界発生手段の発生磁界中を前記被検査体が通過したときの前記磁界検出手段の検出信号と、検出すべき金属異物を含む異物サンプルが前記磁界発生手段の発生磁界中を通過したときの前記磁界検出手段の検出信号とを取得し、前記複数の異なる周波数のうち前記被検査体の検出信号に対する前記異物サンプルの検出信号比が最大となる周波数を選択して、前記基準信号の周波数を設定する周波数設定手段を設けたことを特徴とする。
【0014】
この構成により、被検査体の検出信号と異物サンプルの検出信号とに基づいて、基準信号の周波数が可変設定されるとともに、通常の良品検出信号の出力レベルに対し金属異物の検出信号レベルが高水準に設定される。したがって、基準周波数の選択設定によって、複数の基準周波数に対応する複数の検出感度のモードから被検査体の異物検出に適したモードを選択することができ、ユーザー独自の判定基準が規定されているような場合であっても、好適な検出条件を容易に設定することができ、高感度な金属検出が可能となる。
【0015】
また、本発明の金属検出装置は、前記位相設定手段で設定された位相の下で、前記磁界発生手段の発生磁界中を前記被検査体が通過したときの前記磁界検出手段の検出信号と、前記磁界発生手段の発生磁界中を前記異物サンプルが通過したときの前記磁界検出手段の検出信号とを取得し、該取得した信号情報に基づいて、前記判定手段による判定のための閾値を算定する閾値算定手段を設けたものであるのが好ましい。
【0016】
この構成により、被検査体に金属異物が混入している状態と混入していない状態とでの検出信号レベルをそれぞれ把握し、両検出信号レベルの間で、要求条件により適合した閾値が設定可能となり、より高感度の金属検出が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、磁界周波数を規定する基準信号の複数の異なる周波数に対応して、被検査体の検出信号レベルが最小となる検波位相における被検査物の検出信号と検出すべき金属異物を含む異物サンプルの検出信号とを取得して、それらのレベル比が最大になる磁界周波数を選択するようにしているので、好適な磁界周波数を容易に設定可能な金属検出装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いながら説明する。
【0019】
図1〜図5は本発明の一の実施の形態に係る金属検出装置の概略構成を示す図である。
【0020】
まず、その構成について説明する。
【0021】
図1において、被検査体であるワークWは、コンベアBによって所定方向に搬送され、その搬送速度はワークWの製造ラインの搬送速度に応じて設定されている。ワークWの搬送方向の所定区間は、ワークW中への金属異物(金属からなる異物又は金属成分を含んだ異物)の検出を行なう検査領域となっており、この検査領域の入り口付近にはワークWの検査領域への進入を検知する例えば光学式のワーク検知センサ35が設置されている。なお、ワークWは、複数製造される任意の製品、例えば量産される食品を包装材で個々に、あるいは所定数の輸送時の個数単位で包装したものであり、箱入り製品のような定形のものでも、流動物等を封入した可撓性の袋入り製品のような不定形のものでよい。
【0022】
ワークWの検査領域には、ワークW中の金属異物を検出する検出部20と、検出部20の検出信号および操作入力部36からのユーザーの操作入力に基づいて所定の制御プログラムに従った演算処理を実行し、その処理結果を出力部37に出力する制御部30とが設けられている。
【0023】
検出部20は、送信信号発生回路21、送信コイル22、差動検出器23(磁界検出手段)、直交検波部24(検波処理手段)、バンドパスフィルタ27a、27b、増幅器28a、28bおよびA/D変換器29によって構成されている。
【0024】
送信信号発生回路21は、基準信号発生器21aと電力増幅器21bとを有し、所定周波数の送信信号を発生して送信コイル22を電流駆動する。また、送信コイル22は、コンベアBによるワーク搬送路の近傍に配置され、送信信号発生回路21からの電流駆動により励磁されたとき、基準信号発生器21aからの基準信号の周波数に対応する交番磁界を前記検査領域内に発生させる磁界発生手段となっている。
【0025】
差動検出器23は、送信信号発生回路21および送信コイル22と協働して複数のワークW(被検査体)についてそのワークW中の金属物又は金属成分の構成要素を検出するようになっており、この差動検出器23は、受信コイル23a、23b、同調回路23cおよび増幅器23dからなる。受信コイル23a、23bは、送信コイル22からの発生磁束と鎖交するよう配置され互いに逆極性に接続された一対のコイルからなり、送信コイル22からの交番磁界のみに対してはこれら受信コイル23a、23bの誘起電圧が等しく平衡し、両者の差である差動検出器23としての出力がゼロになるように調整されている。
【0026】
磁界中を通過する磁性金属には磁束密度の大きさに比例してより多くの磁束が引き寄せられ、磁界中を通過する非磁性金属にはその移動による磁束密度の変化を打ち消すような向きでうず電流が生じ、ジュール熱が消費されるという性質がある。したがって、コンベアB上のワークWが何らかの金属異物を含んで送信コイル22の発生磁界中を通過する場合、その金属異物入りワークの移動に応じて受信コイル23a、23bの誘起電圧の大小関係が変化することになり、受信コイル23a、23b間の出力の平衡状態が大きくくずれる。また、主として非磁性体であるワークのみが送信コイル22の発生磁界中を通過する場合にも、その含有成分や水分等の影響により、金属異物を含んでいるときほど顕著ではないが受信コイル23a、23b間の出力の平衡状態がくずれる。
【0027】
受信コイル23a、23bは、このようにコンベアB上のワークWの移動により両受信コイル23a、23b間の出力の平衡状態がくずれたとき、その磁界の変化に応じた差動検出信号Sdを出力する。この差動検出信号Sdは、送信コイル22側からの交番磁界に対応して前記送信信号の周波数を有する交流信号成分に、ワークWの磁界中移動により変化する低周波信号成分が重畳した信号形態となり、例えば図2に示すような信号波形で表すことができる。
【0028】
送信コイル22からの磁界周波数を決定する基準信号発生器21aの発生周波数は、後述する制御部30および周波数設定部33(周波数設定手段)によって複数のうちいずれかの周波数に設定可能であり、差動検出器23は異なる複数の周波数のうち選択される任意の周波数の交番磁界に対して所要の検出感度を有している。
【0029】
差動検出信号Sdは同調回路23cおよび増幅器23dを経て直交検波部24に取り込まれる。
【0030】
直交検波部24は、各一対の同期検波器25a、25b、位相設定器26aおよび移相器26bを含んで構成されており、差動検出器23からの差動検出信号Sdが一対の同期検波器25a、25bにそれぞれ並行して入力される。同期検波器25aには位相設定器26aを介し送信信号を同期検波するために位相調整した信号(基準信号に対応する信号)が取り込まれ、同期検波器25bには位相設定器26aからの信号位相を移相器26bによって更に90°移相させた信号(基準信号に対応する信号)が取り込まれる。
【0031】
同期検波器25aは、位相設定器26aからの交流信号に基づいて差動検出器23の差動検出信号Sdを同期検波し、送信信号相当の高周波成分を取り除いた検波出力をバンドパスフィルタ27aに供給する。同様に、同期検波器25bは、移相器26bからの交流信号に基づいて、差動検出器23の差動検出信号Sdから送信信号相当の高周波成分を取り除いた検波出力をバンドパスフィルタ27bに供給する。
【0032】
ここでの同期検波器25a、25bによる検波出力は、位相設定器26aの位相設定値によっても異なるが、例えば、磁束密度の変化が最大となる瞬間(位相0度)側において、磁束密度変化が大きいほどジュール熱を消費して外部磁界変化を引き起こす非磁性金属の影響が大きい検出信号と、磁束密度自体がほぼ最大となる瞬間(磁界波形の振幅が最大となる瞬間;位相90°)側において、磁束密度が大きいほどより多くの磁束を引き付けて外部磁界変化を引き起こす磁性金属の影響の大きい検出信号となる。
【0033】
バンドパスフィルタ27a、27bは、同期検波器25a、25bで検波された検出信号から高周波ノイズ成分を除去するフィルタ特性を有している。バンドパスフィルタ27a、27bから出力される低周波成分の検出信号(検波出力)は、差動検出信号Sdの所定位相位置の瞬時値を結ぶ包絡線の波形、および前記所定位相位置から送信信号周期τの1/4周期分、つまり90°だけ位相がずれた瞬時値を結ぶ包絡線の波形(例えば図4に示す波形X、Y)を形成するものとなる。
【0034】
両バンドパスフィルタ27a、27bの出力は、増幅器28a、28bでそれぞれ増幅された後、A/D変換器29でそれぞれアナログからディジタルの検出信号に変換され、制御部30に取り込まれる。
【0035】
制御部30は、図1に示すように、制御/演算部31および記憶装置32を有している。制御/演算部31は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェースを含むマイクロコンピュータ構成のもので、ROM内に格納された制御プログラムをRAMとの間でデータの授受を行ないながらCPUにより実行し、I/Oインターフェースを介して取り込んだ前記検出信号等を処理する。また、記憶装置32は制御/演算部31との間でデータの授受が可能な補助記憶装置あるいは更に通信接続された外部のデータベースで構成されている。
【0036】
記憶装置32は、金属検出装置の設定に関連する各種のパラメータや、金属異物を含まないワークWの良品サンプル(以下、単に良品サンプルという)およびワークWに金属異物のサンプル、例えば金属異物のテストピース若しくは混入し得る別仕様の構成物品で金属物又は金属成分、すなわち検出すべき異物を含む異物サンプル(以下、単に異物サンプルという)についての検出信号データを記憶保持することができる。なお、前記異物サンプルは、被検査体中に検出すべき異物を含んだものに限らず、異物単体のサンプル形態、若しくはそれに近い被検査体の一部分のサンプル形態であってもよい。
【0037】
金属検出装置の設定に際しては、被検査製品に生じる可能性の高い1つ又は複数の異物混入形態に対応して1つ又は複数の異物サンプルを準備するとともに、被検査製品の良品サンプルを準備し、これらサンプルについての検査データを採取した上で、制御部30(後述する閾値算定部31d)により合否判定のための閾値設定等を行なう。このとき、サンプルの検査データやそれに関連する操作入力や計算値のデータ等が、記憶装置32に一時的に格納され記憶される。
【0038】
制御/演算部31は、位相設定器26aと共に位相設定手段として機能する位相制御部31bを有し、上述の良品サンプルおよび異物サンプルについての検査が実行されるとき、金属異物を含まない前記良品サンプルの物品影響が最小となる位相を位相設定器26aにより設定し、ワークW中に混入する金属異物についての検出部20の検出感度を前提的に高める。ここでの前記良品サンプルの物品影響が最小となる位相とは、例えば位相設定器26aの位相(基準信号に対する検波位相の位相差)を変化させたときに同期検波器25a、25bの出力レベルが最小となるディップ点φd として設定される(図3φd〜φd参照)。なお、ディップ点φd を基準とするのは、異物サンプルが、物品影響を含まない異物単体のようなサンプル形態であっても、良品サンプルの物品影響が小さいため、良品サンプルと異物サンプルとの差異を確実にとらえることができるからである。
【0039】
制御/演算部31は、また、ワークWのサイズ(例えば長さ)と搬送速度、基準信号発生器21aの発生信号周波数、位相設定器26aの設定検波位相(基準信号に対する位相差)、バンドパスフィルタ27a、27bの濾波帯域など、金属検出装置の動作に関する各種設定パラメータを、一部は操作入力部36からの手入力で、その他を自動で設定するための設定手段の機能を有している。ワークWの長さや搬送速度は、検出信号X、Yの取り込み時間やその間隔、バンドパスフィルタ27a、27bの濾波帯域等を決定する条件となる。検出信号Xが位相設定器26aの移相量(基準信号に対する位相差)に対応する所定位相位置の瞬時値で特定されることからわかるように、検出信号X、Yの波形振幅は位相設定器26aの設定位相によって相違する。したがって、位相設定器26aの設定位相はワークWに含まれる金属物又は金属成分の検出の感度を決定するパラメータの1つとなる。
【0040】
また、基準信号発生器21aの発生信号周波数は、周波数設定部33によって可変設定され、予め設定された異なる複数の周波数のうち、異物検出の対象となる金属異物の材質や大きさ等に対応して、複数の異なる周波数のうち前記良品サンプルWの検出信号に対する異物サンプルの検出信号の比α(後述する)が最大となる周波数を選択して設定される。すなわち、周波数設定部33は、前記良品サンプルWおよび異物サンプルの検出信号に基づいて、基準信号の周波数を設定するようになっており、制御/演算部31は周波数設定部33と共に周波数設定手段として機能する周波数制御部31cを有している。周波数設定部33で選択設定される基準信号周波数もまた、ワークWに含まれる金属物又は金属成分の検出の感度を決定するパラメータの1つとなる。
【0041】
次に、制御/演算部31での良品サンプル(被検査体)Wの検出信号に対する異物サンプルの検出信号の比αの算出処理について説明する。
【0042】
制御/演算部31は、ワーク検知センサ35によりワークWが検知されたとき、設定された取り込み条件で一定時間の間、所定時間ごとに検出信号X、Yのデータをサンプリングし、サンプリングされた検出信号X、Yの瞬時値x、yに基づいて、ワークWの磁界通過中に、それら瞬時値x、yをX軸方向およびY軸方向の座標成分とする座標点(x、y)がX−Y平面上に描くリサージュ図形(Lissajous's figures)のデータを作成し、内部メモリにあるいは記憶装置32の所定記憶領域に記憶させる。
【0043】
図4(a)に示すように、ここでのリサージュ図形は、原点Oに対してほぼ対称で、原点Oから最も離隔した座標を頂点とするものであり、例えば同図中のリサージュ図形Hnはその頂点Qnの座標(Xm、Ym)で特徴付けることができる。あるいは、その頂点Qnの座標データを極座標変換し、座標(r、θ)で特徴付けてもよい。ここで、rは頂点Qnの原点Oからの距離で、θは線分QOとX軸のなす角(tanθ=Ym/Xm)である。
【0044】
交番磁界中にワークWの良品サンプルを入れ通過させた場合には、座標点(x、y)が描くリサージュ図形は、例えば図4(a)にHgで示すような略8の字形状となり、金属異物のテストピース等を含む異物サンプルを通過させた場合には、前記座標点(x、y)が描くリサージュ図形は、リサージュ図形Hgとは長軸方向が異なる、例えば図4(a)にHnで示すような細長い8の字形状となる。このように、検出信号X、Yに基づいて得られるリサージュ図形は、検出対象に金属物又は金属成分(以下、金属物等ともいう)が含まれているか否かでリサージュ図形の傾き(長軸方向)が大きく相違するものとなる。また、同種でサイズの異なる金属物等について得られる前記リサージュ図形は、リサージュ図形の傾きがほぼ同一で、頂点の原点からの距離がその金属物等のサイズに応じて異なる相似形状となる傾向がある。
【0045】
本実施形態においては、設定時に、最初に異物サンプルと良品サンプルとを用いて検査した場合のリサージュ図形Hn、Hgのデータに基づいて、複数の異なる角度θdの候補値を設定し、各候補値の角度θdについて、リサージュ図形上の各点のうち原点Oと交差する直線Aとの距離が最大となる点を特定し、その最大距離Ln、Lgの比α=Ln/Lgが最大となる候補値の角度θdを最適な設定値θiとして採用するというサンプル感度設定処理を実行する(図4(b)参照)。そして、制御/演算部31は、また、上述のような比α=Ln/Lgの算出を、異なる複数の周波数を基準信号発生器21aの発生信号周波数とした場合のそれぞれについて、算出し、比αが最大となる基準周波数を選択設定するようになっている。なお、混入する可能性の高い金属異物が複数種ある場合には、その混入態様の異なる複数の異物サンプルについての検査結果のデータを採取してこの設定処理を行なうようにしてもよい。
【0046】
制御/演算部31は、また、ワークWに金属異物が含まれていなければ合格(OK)、金属異物が含まれていれば不合格(NG)と判定する判定部31a(判定手段)の機能を有しており、この機能により、検査される各ワークWについての合否、すなわち金属異物混入の有無判定を行なうようになっている。この判定のための閾値は、制御/演算部31の閾値算定部31d(閾値算定手段)としての機能により、記憶装置32に記憶された良品サンプルおよび異物サンプルについての検出信号比αの算出値を基に、異物サンプルの検出信号振幅レベルと良品サンプルの検出信号振幅レベルの間の特定のレベル値が閾値レベルとなるように算定され設定される。なお、ここでの検出信号比αと閾値は、図4(c)に示すように、図4(b)の図形を同図中のA軸をX軸とするよう最適角度θi だけ回転させ、最大距離Ln、LgをそれぞれY軸成分のピーク出力Vn、Vgとして、これらの比=Vn/Vgの形で把握される。
【0047】
この閾値に基づいて、制御/演算部31の判定部31aは、実際の製造ラインで製造され検査領域に搬送された各ワークWの検出信号振幅レベルを閾値レベルと比較し、ワークW中に金属異物が含まれているか否か、すなわち製品としての合否を判定し、あるいは、更に混入している異物の種類を検査データから推定し、合否判定結果、あるいは更に混入した異物を示す表示信号等を出力部37に出力するようになっている。
【0048】
次に、動作について説明する。
【0049】
図5は、本実施形態の金属検出装置の設定処理の概略の手順を示すフローチャートである。
[設定モード]
金属検出装置の設定時には、ユーザが図示しないメニューキーを押すと、オート設定、検出感度(レベル)変更、統計メニューなどの選択項目を有するメニュー画面(詳細は図示していない)が表示され、ユーザーが例えばオート設定を選択し、ワークWの良品サンプルと異物サンプルの検査測定を実行することで、運転に必要な初期設定処理がなされる。
【0050】
この設定処理では、まず、基準信号発生器21aでの発生信号(基準信号)に対して同期検波器25a、25bの検波位相を設定するための位相角φの基準値が記憶装置32等から読み込まれるとともに(ステップS1)、基準信号発生器21aの発生としての複数の異なる周波数f1〜fnの値(基準値)が記憶装置32等から読み込まれる(ステップS2)。
【0051】
次いで、ワークWの品種や搬送条件等の設定入力がされ、そのデータが制御/演算部31に読み込まれた後(ステップS3)、良品サンプルをワークWとして検査領域に流して検査したときの検査出力データが採取され(ステップS4)、良品サンプルの物品影響が最小となる位相(図4中のディップ点θd、ステップS5)が設定される。
【0052】
次いで、前記異物サンプルを検査領域に流して検査したときの検査出力データが採取され(ステップS6)、この異物サンプルを検査したときの検査出力データと先に良品サンプルを検査したときの検査出力データとを基に、これら検出信号の比α(図5中では出力比α)が求められる(ステップS7)。
【0053】
このようなサンプルの検査および検出信号比αの算出を終えると、今回の検査に用いた基準信号発生器21aの発生信号周波数が、異なる複数の周波数のうち所定の切換え順序(例えばf1、f2、f3・・・fnの順)における最後の周波数fn(例えば最も高い周波数)であるか否かがチェックされ(ステップS8)、最後の周波数fnでなければ(ステップS8でNOの場合)、ステップS4に戻って、次の基準周波数を用いて、ステップS4からステップS7までの検査および検出信号比αの算出処理を実行する。なお、ここで、周波数fは、数Hzから数MHzの間で、nが4〜6になるような任意の周波数とする。
【0054】
複数の異なる周波数のうち最後の周波数fnについての検査・測定が終了すると(ステップS8でYESの場合)、検出信号比αの算出値が最大となった周波数を基準信号発生器21aの発生信号周波数として選択設定し(ステップS9)、今回の設定処理を終了する。
【0055】
[運転モード]
上述のような設定が完了し、金属検出装置が運転可能な状態になった後は、図示しない運転キーを押すと、通常運転に入り、出力部37に運転画面の表示がなされ、製品である多数のワークWの製造ライン上での検査が実行される。
【0056】
そして、金属異物の混入が検出されると、例えば出力部37に、異物混入品の発生を示すNG表示に加えて、その品種番号や品名、あるいは更に検出された金属異物の種類等が表示出力される。
【0057】
[品種切替えモード]
また、予定数のワークWの製造が終了し、他の品種への切替えがなされる際には、操作入力部36の図示しない品種切替えキーが操作される。このとき、新たな品種への切替えであれば、上述した設定処理が再度実行され、既にサンプル検査済みの品種に切り替えられる場合には、選択された品種についての記憶データを基に、各種設定パラメータ等の検査条件が自動的に新たな条件に切り替えられる。
【0058】
以上のように、本実施形態においては、磁界周波数を規定する基準信号発生器21aの基準信号を異なる複数の周波数に変化させ、それぞれの周波数について、ワークWが送信コイル22の発生磁界中を通過したときの差動検出器23の検出信号と、異物サンプルが送信コイル22の発生磁界中を通過したときの差動検出器23の検出信号とを取得し、それら複数の周波数のうち良品サンプルの検出信号に対する異物サンプルの検出信号の比αが最大となる周波数を選択して、基準信号の周波数を可変設定するようにしている。さらに、基準信号周波数を設定するとき、位相設定手段としての制御/演算部31および周波数設定部33が、差動検出器23の検出信号におけるワークWの物品影響の度合いが最小となる位相を設定するので、通常の良品検出信号の出力レベルに対し金属異物の検出信号レベルが高水準に設定される。その結果、複数の基準周波数に対応する複数の検出感度のモードから各品種の被検査体の物品影響が小さくて異物検出に適したモードを容易に選択することができ、異物検出感度が高感度となって安定した異物検出を行なうことができ、材質やサイズ等が異なるユーザ独自の感度基準や未知の異物に対しても、感度設定の作業を容易化し、被検査体の物品影響が小さくて好適な検出条件を設定することができ、しかも、位相設定作業等を軽減することができる。
【0059】
また、判定手段としての制御/演算部31が、異物サンプルをコンベアBによって移動させたとき(異物サンプルが発生磁界中を通過したとき)の差動検出器23の検出信号と、良品サンプルをコンベアBによって移動させたとき(良品サンプルが発生磁界中を通過したとき)の差動検出器23の検出信号とを取得し、それらの取得した信号情報に基づいて、ワークWに金属異物が混入しているか否かを判定するための閾値を算定するので、ワークWに金属異物が混入している状態と混入していない状態での検出信号レベルをそれぞれ確実に把握して、両検出信号レベルの間で、要求条件により適合する閾値を設定し、高感度の金属検出を行なうことができる。例えば、両検出信号レベルの差が少ない場合には両検出信号レベルの中間に閾値を設定し、両検出信号レベルの差が多い場合には、良品の物品影響のばらつきによる誤検出をなくすために、異物サンプルの検出信号レベルに対し7割程度の信号レベルを閾値として設定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明したように、本発明は、磁界周波数を規定する基準信号の複数の異なる周波数に対応して、被検査体の検出信号レベルが最小となる検波位相における被検査体の検出信号と検出すべき金属異物を含む異物サンプルの検出信号とを取得し、それらの検出信号レベルの比αが最大になる磁界周波数を選択設定するので、好適な磁界周波数を容易・迅速に設定して高感度の金属検出を行なうことができるという効果を奏するものであり、被検査体中の金属を検出する金属検出装置、特にコンベア搬送される製品への金属異物の混入検出に好適であり、被検査体への蓋然性の高い異物混入形態に応じて検出感度を容易にかつ好条件で設定若しくは設定変更する必要のある金属検出装置又は金属検出型の検査装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一の実施の形態に係る金属検出装置の検出部および制御部の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一の実施の形態に係る金属検出装置の差動検出信号の波形を例示する波形図である。
【図3】本発明の一の実施の形態に係る金属検出装置の検波信号出力レベルと検波位相の関係を示すグラフで、同グラフ中の実線はワークWの良品サンプルについての検出信号の出力レベルを、破線は金属異物片をワークに入れた異物サンプルについての検出信号の出力レベルを、それぞれ示している。
【図4】本発明の一の実施の形態に係る金属検出装置の良品サンプルおよび異物サンプルの検出信号から求めたリサージュ図形(a)と、その図形データに基づく最適ワーク位相角度θiの設定の説明図(b)と、その図形データに基づく検出感度の設定のための回転変形処理の説明図(c)である。
【図5】本発明の一の実施の形態に係る金属検出装置の設定処理の概略手順を示すフローチャートである。
【図6】従来例の金属検出装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0062】
20 検出部
21 送信信号発生回路(磁界発生手段)
21a 基準信号発生器
21b 電力増幅器
22 送信コイル
23 差動検出器(磁界検出手段)
23a、23b 受信コイル
23c 同調回路
23d 増幅器
24 直交検波部(検波処理手段)
25a、25b 同期検波器
26a 位相設定器(位相設定手段)
26b 移相器
27a、27b バンドパスフィルタ
28a、28a 増幅器
29 A/D変換器
30 制御部
31 制御/演算部
31a 判定部(判定手段)
31b 位相制御部(位相設定手段)
31c 周波数制御部(周波数設定手段)
31d 閾値算定部(閾値算定手段)
32 記憶装置
33 周波数設定部(周波数設定手段)
35 ワーク検知センサ
36 操作入力部
37 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準信号に対応する交流磁界を発生させる磁界発生手段(21)と、
前記交流磁界中を被検査体(W)が通過することによる磁界の変化を検出し、この磁界の変化に対応する検出信号を出力する磁界検出手段(23)と、
該磁界検出手段(23)が出力する検出信号を前記基準信号に対応する信号によって同期検波する検波手段(24)と、
前記検波手段(24)の検波出力に基づいて前記被検査体(W)中に混入している金属異物の有無を判定する判定手段(31a)とを備えた金属検出装置において、
前記基準信号の複数の異なる周波数について、前記磁界検出手段(23)の検出信号における前記被検査体(W)の物品影響の度合いが最小となる位相をそれぞれ設定する位相設定手段(26a、31b)と、
前記複数の異なる周波数について、前記位相設定手段(26a、31b)で設定された位相の下で、前記磁界発生手段(21)の発生磁界中を前記被検査体(W)が通過したときの前記磁界検出手段(23)の検出信号と、検出すべき金属異物を含む異物サンプルが前記磁界発生手段(21)の発生磁界中を通過したときの前記磁界検出手段(23)の検出信号とを取得し、前記複数の異なる周波数のうち前記被検査体(W)の検出信号に対する前記異物サンプルの検出信号比(α)が最大となる周波数を選択して、前記基準信号の周波数を設定する周波数設定手段(31c、33)を設けたことを特徴とする金属検出装置。
【請求項2】
前記位相設定手段で設定された位相の下で、前記磁界発生手段(21)の発生磁界中を前記被検査体(W)が通過したときの前記磁界検出手段(23)の検出信号と、前記磁界発生手段(21)の発生磁界中を前記異物サンプルが通過したときの前記磁界検出手段(23)の検出信号とを取得し、該取得した信号情報に基づいて、前記判定手段(31a)による判定のための閾値を算定する閾値算定手段(31d)を設けたことを特徴とする請求項1に記載の金属検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−38637(P2006−38637A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219016(P2004−219016)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(302046001)アンリツ産機システム株式会社 (238)
【Fターム(参考)】