金属製パネル部材及びその製造方法
【課題】金属製多孔質材料からなる金属製パネル部材、その製造方法及び該金属製パネル部材から構成される金属製パネルを提供する。
【解決手段】金属製多孔質材料の加工材と板材との接合材からなる金属製パネルを構成する金属製パネル部材の製造方法であって、上記金属製多孔質材料を、摩擦撹拌現象を利用した方法を用いて、圧縮及び塑性変形させることにより、該多孔質材料の表面近傍の密度を高めて強度を上昇させると同時に表面を平滑にする工程を含む金属製パネル部材の製造方法、該方法により作製した金属製パネル部材、及び該金属製パネル部材に板材を接着した金属製パネル。
【効果】金属板と金属製多孔質材料を、少量の接着剤で、充分な強度で接着した金属製パネルを提供することができる。
【解決手段】金属製多孔質材料の加工材と板材との接合材からなる金属製パネルを構成する金属製パネル部材の製造方法であって、上記金属製多孔質材料を、摩擦撹拌現象を利用した方法を用いて、圧縮及び塑性変形させることにより、該多孔質材料の表面近傍の密度を高めて強度を上昇させると同時に表面を平滑にする工程を含む金属製パネル部材の製造方法、該方法により作製した金属製パネル部材、及び該金属製パネル部材に板材を接着した金属製パネル。
【効果】金属板と金属製多孔質材料を、少量の接着剤で、充分な強度で接着した金属製パネルを提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製パネルを構成する金属製多孔質材料からなる金属製パネル部材、及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、金属製多孔質材料の表面を、摩擦撹拌現象を利用した方法を用いて、密度を高めて強度を上昇させると同時に表面を平滑にした金属製パネル部材を構成要素として利用した金属製パネルであって、吸音特性、断熱特性、電磁波吸収特性に優れた軽量金属製パネル及びその製造技術に関するものである。
【0002】
本発明は、摩擦撹拌現象を利用した方法を用いて緻密化処理をすることで強化部を形成した金属製多孔質材料を使用した新しい金属製パネル部材、及び該金属製パネル部材を利用して作製された金属製パネルを提供するものである。それにより、本発明は、金属板と金属製多孔質材料を少量の接着剤により充分な接着強度で接合させること、金属製多孔質材料を直接ボルト締め等で高強度に固定すること、及び従来の施工方法に適応させた金属製パネルを提供すること、を可能とする、新しい金属製多孔質材料を用いた金属製パネルに関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
発泡アルミニウム合金に代表される金属製多孔質材料は、吸音、断熱、電磁波吸収、振動吸収等を目的として、例えば、部屋の内装、建物の外壁、高速道路等の騒音発生源の遮音壁等に貼付されて用いられることが多い。一般に、金属製多孔質材料の強度は、非常に低いことから、金属製多孔質材料の両面を薄いアルミニウム合金等の金属板で挟み、金属板と金属製多孔質材料を、樹脂系接着剤等で接着してサンドイッチ構造パネルを製造することが一般的に行われている。これは、金属製多孔質材料の強度を補い、破壊を防止すると同時に、表面を平滑な金属板とすることで壁等に固定しやすくすること、また、表面塗装等の意匠性を高めるための後工程を容易にすること、等のために行われるものである。
【0004】
例えば、金属製多孔質材料製の板材は、それ自体を曲げようとすると容易に壊れてしまい、変形させることができないが、両面を金属薄板で挟んだサンドイッチ構造にすると、金属製多孔質材料のみでは不可能であった曲げ加工が可能になる。しかしながら、一般に、金属製多孔質材料と金属板を接着させる場合、その接触面積は非常に小さいため、両者を強固に接着させるためには、高価な樹脂系接着剤を大量に塗布する必要がある。また、接触面積が小さいことは、ひいては接着力の低下に繋がり、常に、金属製多孔質材料と金属板の間における剥離の危険を内在することになる。
【0005】
また、前述したように、金属製多孔質材料は、その特性上、機械的強度は極めて低いために、通常のパネル材の施工方法として広く用いられている直接ボルト締め、リベット締め等の方法では、充分な保持強度が得られないだけではなく、しばしば、材料自体の破損等、致命的な損傷を与える可能性がある。このため、接着した金属板の上からのボルト締め等による固定が行われているが、このことが、パネルの意匠性、施工の自由度・簡便性に大きな制限を加えている。
【0006】
これらのことが、金属製多孔質材料を用いた軽量パネルのコストを上昇させる大きな要因になり、そのことが、結果として、金属製多孔質材料を用いたパネル部材をより広い工業分野へ普及させる際の妨げになっている。以上、述べてきたように、金属製多孔質材料を用いた金属製パネルの低コスト化、及び高機能化のために、金属板と金属製多孔質材料を比較的少量の樹脂系接着剤で、充分な強度で接着できる金属製パネル部材の製造技術が求められ、更に、金属製多孔質材料を直接ボルト締め等で簡便かつ高強度で固定できる新技術が求められている。
【0007】
従来、先行技術として、例えば、金属パイプの内部等の閉鎖空間を多孔質金属で満たし、その一部分を既知の接着方法で固定する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、この種の方法は、外側の金属パイプと多孔質材料の分離が容易に起きない部材形状においては効果を発揮するものの、多孔質材料の一面のみを緻密化し、残りの面がオープンになっている部材に対しては適用できない。
【0008】
また、金属製多孔質材料の表面に、緻密な構造体を圧入する方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法は、プレスを用いて、多孔質材料の表面にタイル等の緻密な板材等を圧入するものである。しかし、この方法では、多孔質金属材料の全面にわたる圧入を行うことは原理上不可能であり、構造体の表層部に占める割合は、50%以下であることが好ましいとされている。更に、圧入した構造体と多孔質材料は、物理的、化学的に結合していないため、これらの結合力は弱く、結合力を高めるためには、高温に加熱しながら圧入する等の工程が必要とされている。
【0009】
また、平坦又は成形された金属片を金型キャビティ内に導入した後、溶融金属をキャビティ内で発泡させることにより、金属と金属製多孔質材料の複合体を製造する方法が提案されている(特許文献3参照)。しかし、この方法は、パネルに用いられる薄くて大面積の部材に適用することは困難である。同様な方法として、金属の溶湯から金属製多孔質材料を作製する工程で、金属との接合を図る発泡金属成形体の製造方法が提案されている(特許文献4参照)が、この方法は、大面積のパネルの製造には不適当である。
【0010】
また、金属製多孔質材料と金属板の間に通電し、抵抗溶接の原理で溶接しようとする方法が提案されている(特許文献5参照)。この種の手法は、小さい部材には適用可能であるが、大面積のパネルに適用するには、非常に大きなエネルギーが必要になる。また、サンドイッチパネルの製造において、接着剤の効率的な塗布方法について提案されている(特許文献6参照)が、この方法は、金属製多孔質材料に対して特別な処理を施すものではない。
【0011】
一方、金属製多孔質材料を利用した金属製パネルの固定に適用できる手法に関する先行技術としては、例えば、仕切り板で箱状に区切られた密閉空間に吸音材を詰める構造が提案されている(特許文献7参照)。これは、規格化された寸法で大量に製造する場合には低コストになるが、様々な寸法形状に対応するには、それぞれに対して仕切り板を設計・製作する必要があり、かえって高コストになる。また、上記構造は、モルタル又はコンクリートで固めてしまうため、一度作製してしまうと、再利用できないというデメリットもある。また、壁側とパネルの裏側に、はめ合いの構造を作り込んで、ボルト等を使用することなく壁に固定する壁材の取付方法が提案されている(特許文献8参照)。この方法は、構造が複雑になるために、コストが高くなるだけでなく、設計変更によるパネル位置の移動等には対応が困難になる。
【0012】
他方、回転工具を用いた表面改質手法に関する先行技術としては、例えば、アルミニウム及びアルミニウム合金の組織制御法が提案されている(特許文献9、非特許文献1〜4参照)。この方法は、回転する工具を被加工材に押し付け、機械的による巨大な塑性ひずみと摩擦熱による温度上昇により動的な再結晶を誘起するもので、基本的に緻密な金属材料を対象としたミクロレベルの組織制御手法である。しかし、これらの従来法は、本発明の工具の圧入による空孔(セル)のマクロレベルの変形と、摩擦による表面平滑化を利用するものとは、その目的も原理も根本的に異なっている。
【0013】
また、摩擦撹拌現象を利用したボルト穴又はリベット穴の強化方法についても提案されている(特許文献10参照)が、これは、緻密な金属材料を対象としたものであり、金属製多孔質材料を対象としたものではない。更に、摩擦撹拌現象を利用した金属製多孔質材料表面の強化方法が提案されている(特許文献11参照)が、取り付け用のボルト穴、リベット穴については言及がなく、更に、強化層の表面に金属板を接着する工程も含まれていない。
【0014】
【特許文献1】特表平11−512171号公報
【特許文献2】特開平6−269851号公報
【特許文献3】特表2004−532355号公報
【特許文献4】特表2002−511526号公報
【特許文献5】特開昭62−176834号公報
【特許文献6】特開昭61−118234号公報
【特許文献7】特開2001−355210号公報
【特許文献8】特開2005−213966号公報
【特許文献9】特開2002−249860号公報
【特許文献10】特開2004−149893号公報
【特許文献11】特開2005−118866号公報
【非特許文献1】重松一典,齋藤尚文,中村 守,玉木崇晴,駒谷武史,山内五郎,「摩擦撹拌を利用した工業用純アルミニウムの組織微細化」,軽金属学会第99回秋期大会講演概要,(2000),P161
【非特許文献2】駒谷武史,齋藤尚文,重松一典,玉木崇晴,山内五郎,中村 守,「摩擦撹拌を利用した工業用純アルミニウムの組織制御」,軽金属学会第100回春期大会講演概要,(2000),P141
【非特許文献3】斎藤 尚文,重松 一典,駒谷 武史,玉木 崇晴,山内 五郎,中村 守,「Grain Refinement of 1050 Aluminum Alloy by Friction Stir Processing」,Journal of Materials Science Letters ,Vol.20,No.20, (2001) p1913
【非特許文献4】権 湧宰,斎藤尚文,重松一典,中村 守,駒谷武史,小野宗憲,「摩擦撹拌プロセスによる1050アルミニウム合金の結晶粒微細化」,日本金属学会第129回秋期大会講演概要,(2001)P499
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このような状況下において、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、金属製多孔質材料を用いた新しい金属製パネルならびに該金属製パネルの製造方法を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、回転工具による摩擦撹拌現象を利用した金属製多孔質材料の緻密化及び強化、更に、ロール圧延等を利用した平滑化を図ることで、所期の目的を達成し得ることを見出し、更に研究を重ねて本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、金属製多孔質材料の表面全体乃至その一部を、摩擦撹拌現象を利用した手法により緻密化して強度化するとともに、表面を平滑化し、金属板との有効接触面積を増加させることで、金属板との接着強度を飛躍的に高めた金属製パネル部材を提供することを目的とするものである。また、本発明は、ボルト穴や、リベット穴等の周辺のみを摩擦撹拌現象を利用した手法により緻密化し、機械的強度を飛躍的に高めることにより、破損を防止するとともに、充分な保持強度を付与した金属製パネル部材を作製し、提供することを目的とするものである。更に、本発明は、上記金属製多孔質材料の加工材と板材を結合した接合材から構成される、強度を高めた、吸音、断熱、電磁波吸収、振動吸収特性を有する金属製軽量パネルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)金属製多孔質材料の加工材と板材との接合材からなる金属性パネルを構成する金属製パネル部材であって、上記金属製多孔質材料の表面全体乃至その一部分が、摩擦撹拌現象を利用した緻密化処理により高密度、高強度、及び平滑に形成されていることを特徴とする金属製パネル部材。
(2)上記金属製パネル部材の強化部に固定具による固定用の穴が形成されている、前記(1)に記載の金属製パネル部材。
(3)上記固定具が、ボルト、又はリベットである、前記(2)に記載の金属製パネル部材。
(4)上記金属製多孔質材料が、アルミニウム合金、及びマグネシウム合金に代表される軽量金属からなる、前記(1)から(3)のいずれかに記載の金属製パネル部材。
(5)前記(1)から(4)のいずれかに記載の金属製パネル部材の表面に板材が接着されていることを特徴とする金属製パネル。
(6)金属製多孔質材料の加工材と板材との接合材からなる金属性パネルを構成する金属製パネル部材を製造する方法であって、上記金属製多孔質材料の表面全体乃至その一部分を、摩擦撹拌現象を利用した方法を用いて、緻密化処理することにより、密度を高めて強度を上昇させると同時に処理表面を平滑にする工程、を含むことを特徴とする金属製パネル部材の製造方法。
(7)処理表面を平滑にした後、圧延、プレス工程により更に平坦度を高める工程、を含む、前記(6)に記載の金属製パネル部材の製造方法。
(8)処理表面を平滑にした後、又はその平坦度を高めた後、固定具による固定用の穴を設ける工程、を含む、前記(6)に記載の金属製パネル部材の製造方法。
(9)上記金属製多孔質材料が、アルミニウム合金、及びマグネシウム合金に代表される軽量金属からなる、前記(6)から(8)のいずれかに記載の金属製パネル部材の製造方法。
(10)前記(6)又は(7)に記載の方法において、処理表面を平滑にした後、又はその平坦度を高めた後、表面に板材を接着することを特徴とする金属性パネルの製造方法。
【0018】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、金属製多孔質材料の加工材と板材との接合材からなる金属製パネルを構成する金属製パネル部材であって、上記金属製多孔質材料の表面全体乃至その一部分を、摩擦撹拌現象を利用して緻密化する(圧縮及び塑性変形させる)ことにより、該金属製多孔質材料の表面近傍の密度を高めて強度を上昇させると同時に表面を平滑に形成することを特徴とする金属製パネル部材の製造方法、その金属製パネル部材、及び該部材を構成要素として含む金属製パネル及びその製造方法の点に特徴を有するものである。
【0019】
本発明の金属製パネル部材は、基本的には、金属製多孔質材料の表層部に回転工具を回転させながら接触させ、同時に圧力を加えて金属製多孔質材料の表面近傍を圧縮及び塑性変形させることにより、局所的に空孔(セル)を押しつぶして緻密化し、気孔率を減少させ、その後、ロール圧延等により平滑化する工程と、必要により、ボルト穴周辺を上記方法で緻密化し、機械的強度を上昇させる工程、により作製される。更に、本発明は、摩擦撹拌現象を利用して形成した高強度で平滑な表面を有する金属製多孔質材料の特性を利用して、上記金属製パネル部材の表面に、金属板(スキン材)を高強度に接着又は固定した金属製パネルを構築し、提供することを可能とするものである。
【0020】
本発明は、金属製多孔質材料の加工材(強化材)と板材との接合材からなる金属製パネルを構成する金属製パネル部材であって、上記金属製多孔質材料の表面全体乃至その一部が、摩擦撹拌現象を利用した緻密化処理により高密度、高強度、及び平滑に形成されていることを特徴とするものである。本発明では、上記金属製パネル部材の強化部に固定具による固定用の穴が形成されていること、また、上記固定具が、ボルト又はリベットであること、更に、上記金属製多孔質材料が、アルミニウム合金、及びマグネシウム合金に代表される軽金属からなること、を好ましい実施態様としている。
【0021】
また、本発明は、金属製多孔質材料を用いた金属製パネルにおいて、上記金属製パネル部材の表面に板材が接着されていることを特徴とするものである。また、本発明は、金属製多孔質材料の加工材と板材との接合材からなる金属パネルを構成する金属製パネル部材を製造する方法であって、上記金属製多孔質材料の表面全体乃至その一部を、摩擦撹拌現象を利用した方法を用いて、緻密化処理することにより、密度を高めて強度を上昇させると同時に処理表面を平滑にする工程、を含むことを特徴とするものである。
【0022】
本発明では、処理表面を平滑にした後、圧延又はプレス工程により更に平坦度を高める工程を含むこと、また、処理表面を平滑にした後、又はその平坦度を高めた後、固定具による固定用の穴を設けること、更に、上記金属製多孔質材料が、アルミニウム合金、及びマグネシウム合金に代表される軽金属からなること、を好ましい実施態様としている。更に、本発明は、上記金属製多孔質材料を用いた金属製パネルを製造する方法であって、上記方法において、処理表面を平滑にした後、又はその平坦度を高めた後、表面に板材を接着することを特徴とするものである。
【0023】
本発明の金属製パネル部材は、摩擦撹拌現象により形成された高強度で平滑な表面を持つ金属製多孔質材料からなり、その特性を利用して接着剤による強力な接合、及び強固なボルト等の固定具による固定を可能とするものである。本発明の金属製パネル部材は、表面に任意の板材(スキン材)を接着、固定して金属製パネルを構築することができる。金属製多孔質材料の表面に接着、固定される板材については、その材質、形状、構造等は特に制限されるものではないが、好適には、例えば、薄くて大面積の金属板が例示される。
【0024】
これらの板材は、例えば、積層構造にして金属製多孔質材料からなる金属製パネル部材の強度を補うこと、壁等に固定しやすくすること、表面の意匠性を高めること、等の目的で使用される。それにより、具体的には、例えば、(1)金属製多孔質材料の緻密表面上に金属板を接着剤により接合し、サンドイッチ構造を形成して、曲げ強度、加工性を向上させること、(2)金属製多孔質材料の固定用のボルト穴等の周辺を緻密化し、金属製多孔質材料の破損を防止すること、(3)緻密化した表面上に金属板を接着し、金属製パネルの強度を強化すること、等が達成される。
【0025】
金属製多孔質材料と板材の固定には、例えば、接着剤を用いることができるが、金属製多孔質材料の表面は、強化されると同時に平滑化されているので、板材との接触面積を大きくすることができ、少量の接着剤で非常に強固に接着することができる。また、本発明の金属製多孔質材料は、その接着面の表面強度が大きいため、板材との剥離強度が大きく向上する。接着剤としては、金属製多孔質材料及び固定する板材の材質、表面状態、強度等を考慮して、適宜の接着剤を任意に選択して用いることができる。
【0026】
上記固定具としては、例えば、ボルト、リベット等、あるいはこれらと同等の機能を有する適宜の手段を利用して、金属製多孔質材料の緻密化された強化部(加工部)を介して固定することができる。例えば、固定具としてボルトを使用する場合には、局所的に緻密化した金属製多孔質材料の強化部にドリル等であけたボルト穴を使用することにより、また、穴の底面が緻密化されたボルト穴を使用することにより、緻密化された強化部を介して金属製多孔質材料と板材を固定する方法が例示される。更に、局所的に応力が集中する部位、例えば、脚、支持棒等を固定する部位の場合は、それらに一致する形状の緻密化された強化部を金属製多孔材料に設け、両者を、緻密化された強化部を介して固定することができる。
【0027】
本発明において、上記金属製多孔質材料としては、アルミニウム合金、マグネシウム合金の発泡材料に代表される軽量金属製の多孔質材料が例示されるが、これらに制限されるものではなく、これらと同等ないし類似の軽量金属製の多孔質材料を適宜使用することができる。また、この金属製多孔質材料は、物性・性質等、例えば、空孔の大きさ、その分布、空孔密度、材料の比重、強度等やその製造方法についても特に制限されるものではなく、適宜の方法で作製された任意の特性を有する軽量金属製の多孔質材料が使用される。
【0028】
図1は、金属製多孔質材料として、発泡アルミニウム合金板材を使用して、摩擦撹拌現象を利用して金属製多孔質材料を緻密化する工程を概念的に示すものである。図1において、回転工具1は高速で回転しながら、工具底面1aで被加工材である金属製多孔質材料2の表面に押し付けられ、表面近傍を圧縮及び塑性変形させることにより、局所的に空孔(セル)2aを押しつぶして緻密化する。それによって、密度及び強度を上昇させると同時に表面を平滑にすることができる。
【0029】
図2は、摩擦撹拌現象を利用した方法を用い、金属製多孔質材料を緻密化した後に、ロール圧延やプレス等の既知の方法で更に表面を平滑化し、その表面上に金属板(スキン材)を接着する工程を概念的に示したものである。図1に示すように、摩擦撹拌現象を利用した金属製多孔質材料の緻密化工程では、原理上、強化部(加工部)の表面に若干の凹凸が残存する。これは回転工具の移動によって生じるもので、後の接着工程においては接着力を低下させる原因の一つになり得るものである。そこで、ロール圧延あるいはプレス等により、ほんのわずか圧縮を加えることにより、表面の凹凸を完全に消失せしめ、接着力を飛躍的に高めることができる。この時の圧縮率は極めて小さいため、圧延機等に掛かる負荷は非常にわずかであるとともに、金属製多孔質材料の特徴であるセル(空孔)構造を損傷させることはない。
【0030】
次工程において、接着剤を表面に塗布し、金属板(スキン材)を貼付するが、その場合、それまでの工程において、非常に緻密かつ平坦な平面が得られているため、必要最小限の接着剤で、充分な接着強度を得ることができる。本発明の方法により、発泡アルミニウム合金板材に、摩擦撹拌現象を利用して緻密化処理を施した後、ロール圧延による平滑化を行い、これに、接着剤によりアルミニウム板を接着して作製した金属製パネル部材について、金属板と金属製多孔質材料との引き剥がし試験を行った結果、本発明の金属製パネル部材は、通常の接着方法によるものと比較して、降伏強度は約2倍、最大強度で1.4倍に達する優れた特性を有していた。
【0031】
図3は、ボルト穴等の周辺部を強化する方法について概念的に示したものである。適切な直径の円柱状回転工具を、金属製多孔質材料表面に押し付け、更に所望の深さまで圧入すると、工具の底面に接触した部分が圧縮されると同時に摩擦撹拌され、緻密化する。そこに、適宜ドリル等の既知の方法により穴を開け、ボルトやリベット等を通してパネルを固定すると、ボルト等の頭に接触する部分の強度は上昇しているため、充分な締め付け強度を得ることが可能になる。
【0032】
発泡アルミニウム合金板材に摩擦撹拌現象を適用して緻密化処理を施し、平滑化を行った金属製のパネル部材について、鋼球による押し抜き試験を行った結果、本発明の金属製パネル部材は、弾性定数は約5倍、最大強度は約2倍に達しており、ボルト、リベット等の保持に充分な機械的特性を有していた。
【0033】
金属製多孔質材料からなる金属製パネル部材にボルトやリベットによる固定用の穴を形成するには、例えば、金属製多孔質材料に、摩擦撹拌処理用の回転工具により緻密化処理を施した後、その強化部にドリルで貫通孔を開ける方法、また、先端にドリルが設けられた回転工具により、固定用の強化部を有する穴と貫通孔を同時に形成する方法が例示される。更に、摩擦撹拌処理用の回転工具により、金属製多孔質材の緻密化を行うと同時に、この工具の先端を、固定側に到るまで押し込み、形成された穴を介してボルト又はリベットでこれらを固定する方法が例示される。これらの方法は、作製する金属製パネル部材に応じて任意に選択することができる。
【0034】
本発明の金属製多孔質材料からなる金属製パネル部材の強化部に固定される部材が、応力が集中する、例えば、脚、支持棒等の形状ないし構造を有している場合には、それらを介して固定を行なうことができる。例えば、凸部構造を有する部材の凸部形状に一致する形状の緻密化された凹部、例えば、底面が緻密化された穴を金属製多孔質材料に設け、この凹部に凸構造部を嵌め込むことにより両者を固定することができる。金属製多孔質材料からなる金属製パネル部材と固定される部材とは、直接接触させて、あるいは空気層又は充填剤層を介して固定することができる。摩擦撹拌処理用の回転工具の先端の形状は、形成するボルト穴やリベット穴の形状、構造に応じて適宜変化させることができる。
【0035】
本発明は、金属製多孔質材料の強化部(加工材)を用いた金属製パネル部材を利用することで、従来の金属製多孔質材料が低強度であり、また、金属板等の他の部材との接触面積が非常に小さいことに起因して、接着剤による接着強度が充分に得られないこと、及び直接ボルト締め、リベット締め等によっては充分な保持強度が得られず、通常の施工方法を適用することが困難であったこと、等の問題点を確実に解消することを可能とするものである。本発明は、摩擦撹拌現象を利用した方法を用いて、緻密化処理することで高密度、高強度、及び平滑に形成した金属製多孔質材料からなる金属製パネル部材、及び該金属製パネル部材を構成要素として含む金属製パネルを提供することを可能とするものである。
【発明の効果】
【0036】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)金属製多孔質材料の内部(セル)構造を全く損なうことなく表面近傍のみを緻密化することが可能になる。
(2)金属製多孔質材料の表面の平滑化により金属板(スキン材)との接触面積を拡大することによって、接着剤による接着効率を飛躍的に向上させることができる。
(3)充分な締め付け強度を持たせたボルト穴等を有する金属製多孔質材料からなる金属パネル部材を提供し、従来の取り付け施工法の適用を可能とすることができる。
(4)機械的強度に優れ、層間の剥離のおそれがないサンドイッチ構造の金属製パネルを製造し、提供することができる。
(5)意匠性、施工の自由度・簡便性に優れた軽量金属製パネルの製造を可能にするとともに、その製造コストを低下させることを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。以下の実施例では、アルミニウム合金発泡材料を対象とした本発明による金属製パネル部材の作製例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0038】
厚さ約30mmの発泡アルミニウム合金板材に、摩擦撹拌現象を利用した表面層緻密化処理を行った。その後、ロール圧延による平滑化を行い、その表面に、接着剤によって厚さ5mmのアルミニウム板を接着して金属製パネル部材を作製した。その接着強度を測定するために、引張試験装置を用いて金属板と金属製多孔質材料の引き剥がし試験を行った。図4において、2は被加工材である金属多孔質材料、3は強化部(加工部)、4は接着剤、5は金属板(スキン材)である。図5に、多孔質材料と金属板(スキン材)の接着強度評価試験結果(荷重−変位曲線)を示す。図中、(a)は未加工材の荷重−変位曲線、(b)は加工材の荷重−変位曲線である。本発明による金属製パネルは、通常の接着方法による金属製パネルに比べて、降伏強度は約2倍、最大強度で約1.4倍に達しており、本発明の効果が顕著に現れている。
【実施例2】
【0039】
ボルト穴を想定した直径15mmのくぼみの底面に、摩擦撹拌現象を利用した緻密化を施した。その耐久力を測定するために、直径10mmの鋼球を使って押し抜き試験を行った。図6において、2は被加工材である金属性多孔質材料、3は強化部(加工部)である。図7に、鋼球による押し抜き強度の測定結果(荷重−変位曲線)を示す。図中(a)は未加工材の荷重−変位曲線、(b)は加工材の荷重−変位曲線である。本発明による緻密化処理を行った場合には、処理を行わない場合に比べて、弾性定数は約5倍、最大強度は約2倍に達しており、上記強化部(加工部)は、ボルト等の保持に充分な機械的特性を備えていることが分かる。
【実施例3】
【0040】
図8に、摩擦撹拌用工具により局所的に緻密化処理を行い、更に、金属板(スキン)を接着剤により接着した実施例を示す。図8において、1は回転工具、2は被加工材である金属製多孔質材料、3は強化部(加工部)、4は接着剤、5は金属板(スキン材)である。緻密化処理を、特に荷重を受ける部分に適用することにより、金属板に受ける力を緻密化した下層で支えることができる。
【実施例4】
【0041】
図9に、局所的に緻密化した層にドリル等で穴を開けた後、穴の開いた金属板(スキン)を接着して、高強度のボルト穴を作製し、ボルトにより固定した実施例を示す。図9において、2は被加工材である金属製多孔質材料、3は強化部(加工部)、4は接着剤、5は金属板(スキン材)である。この例では、特に、高強度の取り付け強度が求められる部位に用いることが可能である。
【実施例5】
【0042】
図10に、摩擦撹拌処理用工具の先端にドリルを取り付け、穴を開けると同時に周辺部を緻密化し、ボルト等により固定した実施例を示す。図において、1は回転具、2は被加工材である金属製多孔質材料、3は強化部(加工部)、6はボルト、リベット等である。この例では、穴開け工程と緻密化工程を一度に行うことができ、工程の効率化を図ることができる。
【実施例6】
【0043】
図11に、実施例5の操作により、穴を開けると同時に周辺部を緻密化した後、摩擦撹拌処理用工具の先端(ドリル)を固定側まで押し込んで穴を開け、それにより金属製多孔質材料をボルト等により固定した実施例を示す。図11において、2は被加工材である金属製多孔質材料、3は強化部(加工部)、6はボルト、リベット等である。この例では、穴開け工程、緻密化工程、固定工程を一度に行うことができ、工程の効率化を図ることができる。
【実施例7】
【0044】
図12に、金属製多孔質材料の表面に対して、直線状に緻密化処理を行い、当該箇所にリベット若しくはボルト用の穴開けを行った実施例を示す。図中、1は回転工具、2は被加工材である金属製多孔質材料、3は直線状の強化部(加工部)、7は穴開け用工具である。
【実施例8】
【0045】
図13に、リベット若しくはボルト固定用の穴の周辺部を緻密化し、穴を開けた実施例を示す。図13において、1は回転工具、2は被加工材である金属製多孔質材料、3は強化部(加工部)7は穴開け用工具である。
【実施例9】
【0046】
摩擦撹拌処理用工具により緻密化される部位には、工具先端の形状が正確に転写されるため、必要とされる形状を工具に予め付与することにより、用いられるボルト等に最も適切な形状の緻密化部を形成することができる。図14に、工具の先端の形状が平坦な例、凸型の例、球状の例、及び台形状の例、及びそれらの工具を用いて形成された緻密化部の形状の例を示す。図中、1は回転工具、2は被加工材である金属製多孔質材料、3は強化部(加工部)である。
【実施例10】
【0047】
図15に、応力が集中する、脚や支持棒等が接触する部分のみを緻密化した実施例を示す。図中、2は、被加工材である金属製多孔質材料、3は強化部(加工部)、8は脚、支持棒等である。多孔質材料は、空気層、充填材層を介して固定側に固定されている。この例では、脚、支持棒等の先端形状に合わせて緻密化層の形状を制御し、効率的に応力を受けられるようにすることができる。
【実施例11】
【0048】
図16に、実施例10と同様に、脚や支持棒等に接触する部分を緻密化した実施例を示す。この例では、脚や支持棒等が横に長いため、それに合わせて直線状に緻密化層が形成されている。
【実施例12】
【0049】
図17に、金属製多孔質材料の板材を厚さ方向に積層し、接合する際の工法の実施例を示す。図中、2は被加工部材である金属製多孔質材料、3は強化部(加工部)部である。この例では、上下の多孔質材料は、空気層、充填材層等を介して金属金具等で固定されている。この例では、ジョイント用の金具に接触する部分が緻密化され、強化されている。
【実施例13】
【0050】
図18に、実施例12と同様に、金属製多孔質材料の板材を厚さ方向に積層し、接合する際の工法の実施例を示す。この例では、ジョイント用の金具が棒状のため、それに合わせて直線状に緻密化層が形成され、強化されている。
【実施例14】
【0051】
図19に、積層した金属製多孔質材料の板材を、前述のボルト締め等によりにより固定側に固定する別の実施例を示す。図中、2は被加工材である金属製多孔質材料、3は強化部(加工部)、6はボルトである。上下の多孔質材料は金具等により固定されている。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上詳述したように、本発明は、摩擦撹拌現象を利用して、金属製多孔質材料を圧縮及び塑性変形させることにより強化し、平滑化した金属製パネル部材、及びその製造方法に係るものであり、本発明の金属製パネル部材は、表面近傍の高強度と、平滑表面を有することにより、他の部材との強固な固定を可能にするものである。本発明の新しい表面特性を有する金属製パネル部材は、例えば、金属板と比較的少量の接着剤で充分な接着強度で接合することが可能であり、また、多孔質材料を直接ボルト締め等で固定側に高強度に固定することが可能である。
【0053】
本発明により、軽量材料、エネルギー吸収材料、振動吸収材料、防音材料、断熱材料等として利用される金属製多孔質材料の加工材からなる金属製パネル部材、及びこれを用いて作製された金属製パネルを提供することができる。また、本発明は、金属製多孔質材料を用いた軽量で、高機能性を付与した金属製パネル部材を低コストで作製し、提供することを可能とするものであり、更に、本発明の金属製パネル部材及び金属製パネルは、例えば、自動車等の軽量化による燃料消費率の向上が期待でき、また、エネルギー吸収に優れていることから、対衝突用の自動車部品等としての利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】金属製多孔質材料を、摩擦撹拌処理により緻密化、強化する工程を模式的に示す。
【図2】金属製多孔質材料と金属板(スキン材)との接合例を示す。
【図3】金属製多孔質材料の固定方法の一例を示す。
【図4】金属製多孔質材料と金属板(スキン材)の接着強度評価試験方法を示す。
【図5】金属製多孔質材料と金属板(スキン材)の接着強度評価試験結果(荷重―変位曲線)を示す。
【図6】強化部を形成した金属製多孔質材料の、鋼球による押し抜き強度測定方法を示す。
【図7】鋼球による押し抜き強度の測定結果(荷重―変位曲線)を示す。
【図8】金属製多孔質材料と金属板(スキン材)との接合例を示す。
【図9】金属製多孔質材料の固定方法の一例を示す。
【図10】金属製多孔質材料の固定方法一例を示す。
【図11】金属製多孔質材料の固定方法の一例を示す。
【図12】穴あけ工程の一例を示す。
【図13】加工と穴あけ工程の一例を示す。
【図14】加工用工具形状の例示す。
【図15】応力集中部分への適用例を示す。
【図16】応力集中部分への提供例を示す。
【図17】複数の金属製多孔質材料を積層した多層構造の作製例を示す。
【図18】複数の金属製多孔質材料を積層した多層構造の作製例を示す。
【図19】多層構造の作製及び固定方法の例を示す。
【符号の説明】
【0055】
1 回転工具
1a 回転工具の底面
2 被加工材である金属製多孔質材料
2a 空孔
3 強化部(加工部)
4 接着剤
5 金属板(スキン材)
6 ボルト、リベット等
7 穴あけ用工具
8 脚、支持棒等
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製パネルを構成する金属製多孔質材料からなる金属製パネル部材、及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、金属製多孔質材料の表面を、摩擦撹拌現象を利用した方法を用いて、密度を高めて強度を上昇させると同時に表面を平滑にした金属製パネル部材を構成要素として利用した金属製パネルであって、吸音特性、断熱特性、電磁波吸収特性に優れた軽量金属製パネル及びその製造技術に関するものである。
【0002】
本発明は、摩擦撹拌現象を利用した方法を用いて緻密化処理をすることで強化部を形成した金属製多孔質材料を使用した新しい金属製パネル部材、及び該金属製パネル部材を利用して作製された金属製パネルを提供するものである。それにより、本発明は、金属板と金属製多孔質材料を少量の接着剤により充分な接着強度で接合させること、金属製多孔質材料を直接ボルト締め等で高強度に固定すること、及び従来の施工方法に適応させた金属製パネルを提供すること、を可能とする、新しい金属製多孔質材料を用いた金属製パネルに関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
発泡アルミニウム合金に代表される金属製多孔質材料は、吸音、断熱、電磁波吸収、振動吸収等を目的として、例えば、部屋の内装、建物の外壁、高速道路等の騒音発生源の遮音壁等に貼付されて用いられることが多い。一般に、金属製多孔質材料の強度は、非常に低いことから、金属製多孔質材料の両面を薄いアルミニウム合金等の金属板で挟み、金属板と金属製多孔質材料を、樹脂系接着剤等で接着してサンドイッチ構造パネルを製造することが一般的に行われている。これは、金属製多孔質材料の強度を補い、破壊を防止すると同時に、表面を平滑な金属板とすることで壁等に固定しやすくすること、また、表面塗装等の意匠性を高めるための後工程を容易にすること、等のために行われるものである。
【0004】
例えば、金属製多孔質材料製の板材は、それ自体を曲げようとすると容易に壊れてしまい、変形させることができないが、両面を金属薄板で挟んだサンドイッチ構造にすると、金属製多孔質材料のみでは不可能であった曲げ加工が可能になる。しかしながら、一般に、金属製多孔質材料と金属板を接着させる場合、その接触面積は非常に小さいため、両者を強固に接着させるためには、高価な樹脂系接着剤を大量に塗布する必要がある。また、接触面積が小さいことは、ひいては接着力の低下に繋がり、常に、金属製多孔質材料と金属板の間における剥離の危険を内在することになる。
【0005】
また、前述したように、金属製多孔質材料は、その特性上、機械的強度は極めて低いために、通常のパネル材の施工方法として広く用いられている直接ボルト締め、リベット締め等の方法では、充分な保持強度が得られないだけではなく、しばしば、材料自体の破損等、致命的な損傷を与える可能性がある。このため、接着した金属板の上からのボルト締め等による固定が行われているが、このことが、パネルの意匠性、施工の自由度・簡便性に大きな制限を加えている。
【0006】
これらのことが、金属製多孔質材料を用いた軽量パネルのコストを上昇させる大きな要因になり、そのことが、結果として、金属製多孔質材料を用いたパネル部材をより広い工業分野へ普及させる際の妨げになっている。以上、述べてきたように、金属製多孔質材料を用いた金属製パネルの低コスト化、及び高機能化のために、金属板と金属製多孔質材料を比較的少量の樹脂系接着剤で、充分な強度で接着できる金属製パネル部材の製造技術が求められ、更に、金属製多孔質材料を直接ボルト締め等で簡便かつ高強度で固定できる新技術が求められている。
【0007】
従来、先行技術として、例えば、金属パイプの内部等の閉鎖空間を多孔質金属で満たし、その一部分を既知の接着方法で固定する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、この種の方法は、外側の金属パイプと多孔質材料の分離が容易に起きない部材形状においては効果を発揮するものの、多孔質材料の一面のみを緻密化し、残りの面がオープンになっている部材に対しては適用できない。
【0008】
また、金属製多孔質材料の表面に、緻密な構造体を圧入する方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法は、プレスを用いて、多孔質材料の表面にタイル等の緻密な板材等を圧入するものである。しかし、この方法では、多孔質金属材料の全面にわたる圧入を行うことは原理上不可能であり、構造体の表層部に占める割合は、50%以下であることが好ましいとされている。更に、圧入した構造体と多孔質材料は、物理的、化学的に結合していないため、これらの結合力は弱く、結合力を高めるためには、高温に加熱しながら圧入する等の工程が必要とされている。
【0009】
また、平坦又は成形された金属片を金型キャビティ内に導入した後、溶融金属をキャビティ内で発泡させることにより、金属と金属製多孔質材料の複合体を製造する方法が提案されている(特許文献3参照)。しかし、この方法は、パネルに用いられる薄くて大面積の部材に適用することは困難である。同様な方法として、金属の溶湯から金属製多孔質材料を作製する工程で、金属との接合を図る発泡金属成形体の製造方法が提案されている(特許文献4参照)が、この方法は、大面積のパネルの製造には不適当である。
【0010】
また、金属製多孔質材料と金属板の間に通電し、抵抗溶接の原理で溶接しようとする方法が提案されている(特許文献5参照)。この種の手法は、小さい部材には適用可能であるが、大面積のパネルに適用するには、非常に大きなエネルギーが必要になる。また、サンドイッチパネルの製造において、接着剤の効率的な塗布方法について提案されている(特許文献6参照)が、この方法は、金属製多孔質材料に対して特別な処理を施すものではない。
【0011】
一方、金属製多孔質材料を利用した金属製パネルの固定に適用できる手法に関する先行技術としては、例えば、仕切り板で箱状に区切られた密閉空間に吸音材を詰める構造が提案されている(特許文献7参照)。これは、規格化された寸法で大量に製造する場合には低コストになるが、様々な寸法形状に対応するには、それぞれに対して仕切り板を設計・製作する必要があり、かえって高コストになる。また、上記構造は、モルタル又はコンクリートで固めてしまうため、一度作製してしまうと、再利用できないというデメリットもある。また、壁側とパネルの裏側に、はめ合いの構造を作り込んで、ボルト等を使用することなく壁に固定する壁材の取付方法が提案されている(特許文献8参照)。この方法は、構造が複雑になるために、コストが高くなるだけでなく、設計変更によるパネル位置の移動等には対応が困難になる。
【0012】
他方、回転工具を用いた表面改質手法に関する先行技術としては、例えば、アルミニウム及びアルミニウム合金の組織制御法が提案されている(特許文献9、非特許文献1〜4参照)。この方法は、回転する工具を被加工材に押し付け、機械的による巨大な塑性ひずみと摩擦熱による温度上昇により動的な再結晶を誘起するもので、基本的に緻密な金属材料を対象としたミクロレベルの組織制御手法である。しかし、これらの従来法は、本発明の工具の圧入による空孔(セル)のマクロレベルの変形と、摩擦による表面平滑化を利用するものとは、その目的も原理も根本的に異なっている。
【0013】
また、摩擦撹拌現象を利用したボルト穴又はリベット穴の強化方法についても提案されている(特許文献10参照)が、これは、緻密な金属材料を対象としたものであり、金属製多孔質材料を対象としたものではない。更に、摩擦撹拌現象を利用した金属製多孔質材料表面の強化方法が提案されている(特許文献11参照)が、取り付け用のボルト穴、リベット穴については言及がなく、更に、強化層の表面に金属板を接着する工程も含まれていない。
【0014】
【特許文献1】特表平11−512171号公報
【特許文献2】特開平6−269851号公報
【特許文献3】特表2004−532355号公報
【特許文献4】特表2002−511526号公報
【特許文献5】特開昭62−176834号公報
【特許文献6】特開昭61−118234号公報
【特許文献7】特開2001−355210号公報
【特許文献8】特開2005−213966号公報
【特許文献9】特開2002−249860号公報
【特許文献10】特開2004−149893号公報
【特許文献11】特開2005−118866号公報
【非特許文献1】重松一典,齋藤尚文,中村 守,玉木崇晴,駒谷武史,山内五郎,「摩擦撹拌を利用した工業用純アルミニウムの組織微細化」,軽金属学会第99回秋期大会講演概要,(2000),P161
【非特許文献2】駒谷武史,齋藤尚文,重松一典,玉木崇晴,山内五郎,中村 守,「摩擦撹拌を利用した工業用純アルミニウムの組織制御」,軽金属学会第100回春期大会講演概要,(2000),P141
【非特許文献3】斎藤 尚文,重松 一典,駒谷 武史,玉木 崇晴,山内 五郎,中村 守,「Grain Refinement of 1050 Aluminum Alloy by Friction Stir Processing」,Journal of Materials Science Letters ,Vol.20,No.20, (2001) p1913
【非特許文献4】権 湧宰,斎藤尚文,重松一典,中村 守,駒谷武史,小野宗憲,「摩擦撹拌プロセスによる1050アルミニウム合金の結晶粒微細化」,日本金属学会第129回秋期大会講演概要,(2001)P499
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このような状況下において、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、金属製多孔質材料を用いた新しい金属製パネルならびに該金属製パネルの製造方法を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、回転工具による摩擦撹拌現象を利用した金属製多孔質材料の緻密化及び強化、更に、ロール圧延等を利用した平滑化を図ることで、所期の目的を達成し得ることを見出し、更に研究を重ねて本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、金属製多孔質材料の表面全体乃至その一部を、摩擦撹拌現象を利用した手法により緻密化して強度化するとともに、表面を平滑化し、金属板との有効接触面積を増加させることで、金属板との接着強度を飛躍的に高めた金属製パネル部材を提供することを目的とするものである。また、本発明は、ボルト穴や、リベット穴等の周辺のみを摩擦撹拌現象を利用した手法により緻密化し、機械的強度を飛躍的に高めることにより、破損を防止するとともに、充分な保持強度を付与した金属製パネル部材を作製し、提供することを目的とするものである。更に、本発明は、上記金属製多孔質材料の加工材と板材を結合した接合材から構成される、強度を高めた、吸音、断熱、電磁波吸収、振動吸収特性を有する金属製軽量パネルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)金属製多孔質材料の加工材と板材との接合材からなる金属性パネルを構成する金属製パネル部材であって、上記金属製多孔質材料の表面全体乃至その一部分が、摩擦撹拌現象を利用した緻密化処理により高密度、高強度、及び平滑に形成されていることを特徴とする金属製パネル部材。
(2)上記金属製パネル部材の強化部に固定具による固定用の穴が形成されている、前記(1)に記載の金属製パネル部材。
(3)上記固定具が、ボルト、又はリベットである、前記(2)に記載の金属製パネル部材。
(4)上記金属製多孔質材料が、アルミニウム合金、及びマグネシウム合金に代表される軽量金属からなる、前記(1)から(3)のいずれかに記載の金属製パネル部材。
(5)前記(1)から(4)のいずれかに記載の金属製パネル部材の表面に板材が接着されていることを特徴とする金属製パネル。
(6)金属製多孔質材料の加工材と板材との接合材からなる金属性パネルを構成する金属製パネル部材を製造する方法であって、上記金属製多孔質材料の表面全体乃至その一部分を、摩擦撹拌現象を利用した方法を用いて、緻密化処理することにより、密度を高めて強度を上昇させると同時に処理表面を平滑にする工程、を含むことを特徴とする金属製パネル部材の製造方法。
(7)処理表面を平滑にした後、圧延、プレス工程により更に平坦度を高める工程、を含む、前記(6)に記載の金属製パネル部材の製造方法。
(8)処理表面を平滑にした後、又はその平坦度を高めた後、固定具による固定用の穴を設ける工程、を含む、前記(6)に記載の金属製パネル部材の製造方法。
(9)上記金属製多孔質材料が、アルミニウム合金、及びマグネシウム合金に代表される軽量金属からなる、前記(6)から(8)のいずれかに記載の金属製パネル部材の製造方法。
(10)前記(6)又は(7)に記載の方法において、処理表面を平滑にした後、又はその平坦度を高めた後、表面に板材を接着することを特徴とする金属性パネルの製造方法。
【0018】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、金属製多孔質材料の加工材と板材との接合材からなる金属製パネルを構成する金属製パネル部材であって、上記金属製多孔質材料の表面全体乃至その一部分を、摩擦撹拌現象を利用して緻密化する(圧縮及び塑性変形させる)ことにより、該金属製多孔質材料の表面近傍の密度を高めて強度を上昇させると同時に表面を平滑に形成することを特徴とする金属製パネル部材の製造方法、その金属製パネル部材、及び該部材を構成要素として含む金属製パネル及びその製造方法の点に特徴を有するものである。
【0019】
本発明の金属製パネル部材は、基本的には、金属製多孔質材料の表層部に回転工具を回転させながら接触させ、同時に圧力を加えて金属製多孔質材料の表面近傍を圧縮及び塑性変形させることにより、局所的に空孔(セル)を押しつぶして緻密化し、気孔率を減少させ、その後、ロール圧延等により平滑化する工程と、必要により、ボルト穴周辺を上記方法で緻密化し、機械的強度を上昇させる工程、により作製される。更に、本発明は、摩擦撹拌現象を利用して形成した高強度で平滑な表面を有する金属製多孔質材料の特性を利用して、上記金属製パネル部材の表面に、金属板(スキン材)を高強度に接着又は固定した金属製パネルを構築し、提供することを可能とするものである。
【0020】
本発明は、金属製多孔質材料の加工材(強化材)と板材との接合材からなる金属製パネルを構成する金属製パネル部材であって、上記金属製多孔質材料の表面全体乃至その一部が、摩擦撹拌現象を利用した緻密化処理により高密度、高強度、及び平滑に形成されていることを特徴とするものである。本発明では、上記金属製パネル部材の強化部に固定具による固定用の穴が形成されていること、また、上記固定具が、ボルト又はリベットであること、更に、上記金属製多孔質材料が、アルミニウム合金、及びマグネシウム合金に代表される軽金属からなること、を好ましい実施態様としている。
【0021】
また、本発明は、金属製多孔質材料を用いた金属製パネルにおいて、上記金属製パネル部材の表面に板材が接着されていることを特徴とするものである。また、本発明は、金属製多孔質材料の加工材と板材との接合材からなる金属パネルを構成する金属製パネル部材を製造する方法であって、上記金属製多孔質材料の表面全体乃至その一部を、摩擦撹拌現象を利用した方法を用いて、緻密化処理することにより、密度を高めて強度を上昇させると同時に処理表面を平滑にする工程、を含むことを特徴とするものである。
【0022】
本発明では、処理表面を平滑にした後、圧延又はプレス工程により更に平坦度を高める工程を含むこと、また、処理表面を平滑にした後、又はその平坦度を高めた後、固定具による固定用の穴を設けること、更に、上記金属製多孔質材料が、アルミニウム合金、及びマグネシウム合金に代表される軽金属からなること、を好ましい実施態様としている。更に、本発明は、上記金属製多孔質材料を用いた金属製パネルを製造する方法であって、上記方法において、処理表面を平滑にした後、又はその平坦度を高めた後、表面に板材を接着することを特徴とするものである。
【0023】
本発明の金属製パネル部材は、摩擦撹拌現象により形成された高強度で平滑な表面を持つ金属製多孔質材料からなり、その特性を利用して接着剤による強力な接合、及び強固なボルト等の固定具による固定を可能とするものである。本発明の金属製パネル部材は、表面に任意の板材(スキン材)を接着、固定して金属製パネルを構築することができる。金属製多孔質材料の表面に接着、固定される板材については、その材質、形状、構造等は特に制限されるものではないが、好適には、例えば、薄くて大面積の金属板が例示される。
【0024】
これらの板材は、例えば、積層構造にして金属製多孔質材料からなる金属製パネル部材の強度を補うこと、壁等に固定しやすくすること、表面の意匠性を高めること、等の目的で使用される。それにより、具体的には、例えば、(1)金属製多孔質材料の緻密表面上に金属板を接着剤により接合し、サンドイッチ構造を形成して、曲げ強度、加工性を向上させること、(2)金属製多孔質材料の固定用のボルト穴等の周辺を緻密化し、金属製多孔質材料の破損を防止すること、(3)緻密化した表面上に金属板を接着し、金属製パネルの強度を強化すること、等が達成される。
【0025】
金属製多孔質材料と板材の固定には、例えば、接着剤を用いることができるが、金属製多孔質材料の表面は、強化されると同時に平滑化されているので、板材との接触面積を大きくすることができ、少量の接着剤で非常に強固に接着することができる。また、本発明の金属製多孔質材料は、その接着面の表面強度が大きいため、板材との剥離強度が大きく向上する。接着剤としては、金属製多孔質材料及び固定する板材の材質、表面状態、強度等を考慮して、適宜の接着剤を任意に選択して用いることができる。
【0026】
上記固定具としては、例えば、ボルト、リベット等、あるいはこれらと同等の機能を有する適宜の手段を利用して、金属製多孔質材料の緻密化された強化部(加工部)を介して固定することができる。例えば、固定具としてボルトを使用する場合には、局所的に緻密化した金属製多孔質材料の強化部にドリル等であけたボルト穴を使用することにより、また、穴の底面が緻密化されたボルト穴を使用することにより、緻密化された強化部を介して金属製多孔質材料と板材を固定する方法が例示される。更に、局所的に応力が集中する部位、例えば、脚、支持棒等を固定する部位の場合は、それらに一致する形状の緻密化された強化部を金属製多孔材料に設け、両者を、緻密化された強化部を介して固定することができる。
【0027】
本発明において、上記金属製多孔質材料としては、アルミニウム合金、マグネシウム合金の発泡材料に代表される軽量金属製の多孔質材料が例示されるが、これらに制限されるものではなく、これらと同等ないし類似の軽量金属製の多孔質材料を適宜使用することができる。また、この金属製多孔質材料は、物性・性質等、例えば、空孔の大きさ、その分布、空孔密度、材料の比重、強度等やその製造方法についても特に制限されるものではなく、適宜の方法で作製された任意の特性を有する軽量金属製の多孔質材料が使用される。
【0028】
図1は、金属製多孔質材料として、発泡アルミニウム合金板材を使用して、摩擦撹拌現象を利用して金属製多孔質材料を緻密化する工程を概念的に示すものである。図1において、回転工具1は高速で回転しながら、工具底面1aで被加工材である金属製多孔質材料2の表面に押し付けられ、表面近傍を圧縮及び塑性変形させることにより、局所的に空孔(セル)2aを押しつぶして緻密化する。それによって、密度及び強度を上昇させると同時に表面を平滑にすることができる。
【0029】
図2は、摩擦撹拌現象を利用した方法を用い、金属製多孔質材料を緻密化した後に、ロール圧延やプレス等の既知の方法で更に表面を平滑化し、その表面上に金属板(スキン材)を接着する工程を概念的に示したものである。図1に示すように、摩擦撹拌現象を利用した金属製多孔質材料の緻密化工程では、原理上、強化部(加工部)の表面に若干の凹凸が残存する。これは回転工具の移動によって生じるもので、後の接着工程においては接着力を低下させる原因の一つになり得るものである。そこで、ロール圧延あるいはプレス等により、ほんのわずか圧縮を加えることにより、表面の凹凸を完全に消失せしめ、接着力を飛躍的に高めることができる。この時の圧縮率は極めて小さいため、圧延機等に掛かる負荷は非常にわずかであるとともに、金属製多孔質材料の特徴であるセル(空孔)構造を損傷させることはない。
【0030】
次工程において、接着剤を表面に塗布し、金属板(スキン材)を貼付するが、その場合、それまでの工程において、非常に緻密かつ平坦な平面が得られているため、必要最小限の接着剤で、充分な接着強度を得ることができる。本発明の方法により、発泡アルミニウム合金板材に、摩擦撹拌現象を利用して緻密化処理を施した後、ロール圧延による平滑化を行い、これに、接着剤によりアルミニウム板を接着して作製した金属製パネル部材について、金属板と金属製多孔質材料との引き剥がし試験を行った結果、本発明の金属製パネル部材は、通常の接着方法によるものと比較して、降伏強度は約2倍、最大強度で1.4倍に達する優れた特性を有していた。
【0031】
図3は、ボルト穴等の周辺部を強化する方法について概念的に示したものである。適切な直径の円柱状回転工具を、金属製多孔質材料表面に押し付け、更に所望の深さまで圧入すると、工具の底面に接触した部分が圧縮されると同時に摩擦撹拌され、緻密化する。そこに、適宜ドリル等の既知の方法により穴を開け、ボルトやリベット等を通してパネルを固定すると、ボルト等の頭に接触する部分の強度は上昇しているため、充分な締め付け強度を得ることが可能になる。
【0032】
発泡アルミニウム合金板材に摩擦撹拌現象を適用して緻密化処理を施し、平滑化を行った金属製のパネル部材について、鋼球による押し抜き試験を行った結果、本発明の金属製パネル部材は、弾性定数は約5倍、最大強度は約2倍に達しており、ボルト、リベット等の保持に充分な機械的特性を有していた。
【0033】
金属製多孔質材料からなる金属製パネル部材にボルトやリベットによる固定用の穴を形成するには、例えば、金属製多孔質材料に、摩擦撹拌処理用の回転工具により緻密化処理を施した後、その強化部にドリルで貫通孔を開ける方法、また、先端にドリルが設けられた回転工具により、固定用の強化部を有する穴と貫通孔を同時に形成する方法が例示される。更に、摩擦撹拌処理用の回転工具により、金属製多孔質材の緻密化を行うと同時に、この工具の先端を、固定側に到るまで押し込み、形成された穴を介してボルト又はリベットでこれらを固定する方法が例示される。これらの方法は、作製する金属製パネル部材に応じて任意に選択することができる。
【0034】
本発明の金属製多孔質材料からなる金属製パネル部材の強化部に固定される部材が、応力が集中する、例えば、脚、支持棒等の形状ないし構造を有している場合には、それらを介して固定を行なうことができる。例えば、凸部構造を有する部材の凸部形状に一致する形状の緻密化された凹部、例えば、底面が緻密化された穴を金属製多孔質材料に設け、この凹部に凸構造部を嵌め込むことにより両者を固定することができる。金属製多孔質材料からなる金属製パネル部材と固定される部材とは、直接接触させて、あるいは空気層又は充填剤層を介して固定することができる。摩擦撹拌処理用の回転工具の先端の形状は、形成するボルト穴やリベット穴の形状、構造に応じて適宜変化させることができる。
【0035】
本発明は、金属製多孔質材料の強化部(加工材)を用いた金属製パネル部材を利用することで、従来の金属製多孔質材料が低強度であり、また、金属板等の他の部材との接触面積が非常に小さいことに起因して、接着剤による接着強度が充分に得られないこと、及び直接ボルト締め、リベット締め等によっては充分な保持強度が得られず、通常の施工方法を適用することが困難であったこと、等の問題点を確実に解消することを可能とするものである。本発明は、摩擦撹拌現象を利用した方法を用いて、緻密化処理することで高密度、高強度、及び平滑に形成した金属製多孔質材料からなる金属製パネル部材、及び該金属製パネル部材を構成要素として含む金属製パネルを提供することを可能とするものである。
【発明の効果】
【0036】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)金属製多孔質材料の内部(セル)構造を全く損なうことなく表面近傍のみを緻密化することが可能になる。
(2)金属製多孔質材料の表面の平滑化により金属板(スキン材)との接触面積を拡大することによって、接着剤による接着効率を飛躍的に向上させることができる。
(3)充分な締め付け強度を持たせたボルト穴等を有する金属製多孔質材料からなる金属パネル部材を提供し、従来の取り付け施工法の適用を可能とすることができる。
(4)機械的強度に優れ、層間の剥離のおそれがないサンドイッチ構造の金属製パネルを製造し、提供することができる。
(5)意匠性、施工の自由度・簡便性に優れた軽量金属製パネルの製造を可能にするとともに、その製造コストを低下させることを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。以下の実施例では、アルミニウム合金発泡材料を対象とした本発明による金属製パネル部材の作製例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0038】
厚さ約30mmの発泡アルミニウム合金板材に、摩擦撹拌現象を利用した表面層緻密化処理を行った。その後、ロール圧延による平滑化を行い、その表面に、接着剤によって厚さ5mmのアルミニウム板を接着して金属製パネル部材を作製した。その接着強度を測定するために、引張試験装置を用いて金属板と金属製多孔質材料の引き剥がし試験を行った。図4において、2は被加工材である金属多孔質材料、3は強化部(加工部)、4は接着剤、5は金属板(スキン材)である。図5に、多孔質材料と金属板(スキン材)の接着強度評価試験結果(荷重−変位曲線)を示す。図中、(a)は未加工材の荷重−変位曲線、(b)は加工材の荷重−変位曲線である。本発明による金属製パネルは、通常の接着方法による金属製パネルに比べて、降伏強度は約2倍、最大強度で約1.4倍に達しており、本発明の効果が顕著に現れている。
【実施例2】
【0039】
ボルト穴を想定した直径15mmのくぼみの底面に、摩擦撹拌現象を利用した緻密化を施した。その耐久力を測定するために、直径10mmの鋼球を使って押し抜き試験を行った。図6において、2は被加工材である金属性多孔質材料、3は強化部(加工部)である。図7に、鋼球による押し抜き強度の測定結果(荷重−変位曲線)を示す。図中(a)は未加工材の荷重−変位曲線、(b)は加工材の荷重−変位曲線である。本発明による緻密化処理を行った場合には、処理を行わない場合に比べて、弾性定数は約5倍、最大強度は約2倍に達しており、上記強化部(加工部)は、ボルト等の保持に充分な機械的特性を備えていることが分かる。
【実施例3】
【0040】
図8に、摩擦撹拌用工具により局所的に緻密化処理を行い、更に、金属板(スキン)を接着剤により接着した実施例を示す。図8において、1は回転工具、2は被加工材である金属製多孔質材料、3は強化部(加工部)、4は接着剤、5は金属板(スキン材)である。緻密化処理を、特に荷重を受ける部分に適用することにより、金属板に受ける力を緻密化した下層で支えることができる。
【実施例4】
【0041】
図9に、局所的に緻密化した層にドリル等で穴を開けた後、穴の開いた金属板(スキン)を接着して、高強度のボルト穴を作製し、ボルトにより固定した実施例を示す。図9において、2は被加工材である金属製多孔質材料、3は強化部(加工部)、4は接着剤、5は金属板(スキン材)である。この例では、特に、高強度の取り付け強度が求められる部位に用いることが可能である。
【実施例5】
【0042】
図10に、摩擦撹拌処理用工具の先端にドリルを取り付け、穴を開けると同時に周辺部を緻密化し、ボルト等により固定した実施例を示す。図において、1は回転具、2は被加工材である金属製多孔質材料、3は強化部(加工部)、6はボルト、リベット等である。この例では、穴開け工程と緻密化工程を一度に行うことができ、工程の効率化を図ることができる。
【実施例6】
【0043】
図11に、実施例5の操作により、穴を開けると同時に周辺部を緻密化した後、摩擦撹拌処理用工具の先端(ドリル)を固定側まで押し込んで穴を開け、それにより金属製多孔質材料をボルト等により固定した実施例を示す。図11において、2は被加工材である金属製多孔質材料、3は強化部(加工部)、6はボルト、リベット等である。この例では、穴開け工程、緻密化工程、固定工程を一度に行うことができ、工程の効率化を図ることができる。
【実施例7】
【0044】
図12に、金属製多孔質材料の表面に対して、直線状に緻密化処理を行い、当該箇所にリベット若しくはボルト用の穴開けを行った実施例を示す。図中、1は回転工具、2は被加工材である金属製多孔質材料、3は直線状の強化部(加工部)、7は穴開け用工具である。
【実施例8】
【0045】
図13に、リベット若しくはボルト固定用の穴の周辺部を緻密化し、穴を開けた実施例を示す。図13において、1は回転工具、2は被加工材である金属製多孔質材料、3は強化部(加工部)7は穴開け用工具である。
【実施例9】
【0046】
摩擦撹拌処理用工具により緻密化される部位には、工具先端の形状が正確に転写されるため、必要とされる形状を工具に予め付与することにより、用いられるボルト等に最も適切な形状の緻密化部を形成することができる。図14に、工具の先端の形状が平坦な例、凸型の例、球状の例、及び台形状の例、及びそれらの工具を用いて形成された緻密化部の形状の例を示す。図中、1は回転工具、2は被加工材である金属製多孔質材料、3は強化部(加工部)である。
【実施例10】
【0047】
図15に、応力が集中する、脚や支持棒等が接触する部分のみを緻密化した実施例を示す。図中、2は、被加工材である金属製多孔質材料、3は強化部(加工部)、8は脚、支持棒等である。多孔質材料は、空気層、充填材層を介して固定側に固定されている。この例では、脚、支持棒等の先端形状に合わせて緻密化層の形状を制御し、効率的に応力を受けられるようにすることができる。
【実施例11】
【0048】
図16に、実施例10と同様に、脚や支持棒等に接触する部分を緻密化した実施例を示す。この例では、脚や支持棒等が横に長いため、それに合わせて直線状に緻密化層が形成されている。
【実施例12】
【0049】
図17に、金属製多孔質材料の板材を厚さ方向に積層し、接合する際の工法の実施例を示す。図中、2は被加工部材である金属製多孔質材料、3は強化部(加工部)部である。この例では、上下の多孔質材料は、空気層、充填材層等を介して金属金具等で固定されている。この例では、ジョイント用の金具に接触する部分が緻密化され、強化されている。
【実施例13】
【0050】
図18に、実施例12と同様に、金属製多孔質材料の板材を厚さ方向に積層し、接合する際の工法の実施例を示す。この例では、ジョイント用の金具が棒状のため、それに合わせて直線状に緻密化層が形成され、強化されている。
【実施例14】
【0051】
図19に、積層した金属製多孔質材料の板材を、前述のボルト締め等によりにより固定側に固定する別の実施例を示す。図中、2は被加工材である金属製多孔質材料、3は強化部(加工部)、6はボルトである。上下の多孔質材料は金具等により固定されている。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上詳述したように、本発明は、摩擦撹拌現象を利用して、金属製多孔質材料を圧縮及び塑性変形させることにより強化し、平滑化した金属製パネル部材、及びその製造方法に係るものであり、本発明の金属製パネル部材は、表面近傍の高強度と、平滑表面を有することにより、他の部材との強固な固定を可能にするものである。本発明の新しい表面特性を有する金属製パネル部材は、例えば、金属板と比較的少量の接着剤で充分な接着強度で接合することが可能であり、また、多孔質材料を直接ボルト締め等で固定側に高強度に固定することが可能である。
【0053】
本発明により、軽量材料、エネルギー吸収材料、振動吸収材料、防音材料、断熱材料等として利用される金属製多孔質材料の加工材からなる金属製パネル部材、及びこれを用いて作製された金属製パネルを提供することができる。また、本発明は、金属製多孔質材料を用いた軽量で、高機能性を付与した金属製パネル部材を低コストで作製し、提供することを可能とするものであり、更に、本発明の金属製パネル部材及び金属製パネルは、例えば、自動車等の軽量化による燃料消費率の向上が期待でき、また、エネルギー吸収に優れていることから、対衝突用の自動車部品等としての利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】金属製多孔質材料を、摩擦撹拌処理により緻密化、強化する工程を模式的に示す。
【図2】金属製多孔質材料と金属板(スキン材)との接合例を示す。
【図3】金属製多孔質材料の固定方法の一例を示す。
【図4】金属製多孔質材料と金属板(スキン材)の接着強度評価試験方法を示す。
【図5】金属製多孔質材料と金属板(スキン材)の接着強度評価試験結果(荷重―変位曲線)を示す。
【図6】強化部を形成した金属製多孔質材料の、鋼球による押し抜き強度測定方法を示す。
【図7】鋼球による押し抜き強度の測定結果(荷重―変位曲線)を示す。
【図8】金属製多孔質材料と金属板(スキン材)との接合例を示す。
【図9】金属製多孔質材料の固定方法の一例を示す。
【図10】金属製多孔質材料の固定方法一例を示す。
【図11】金属製多孔質材料の固定方法の一例を示す。
【図12】穴あけ工程の一例を示す。
【図13】加工と穴あけ工程の一例を示す。
【図14】加工用工具形状の例示す。
【図15】応力集中部分への適用例を示す。
【図16】応力集中部分への提供例を示す。
【図17】複数の金属製多孔質材料を積層した多層構造の作製例を示す。
【図18】複数の金属製多孔質材料を積層した多層構造の作製例を示す。
【図19】多層構造の作製及び固定方法の例を示す。
【符号の説明】
【0055】
1 回転工具
1a 回転工具の底面
2 被加工材である金属製多孔質材料
2a 空孔
3 強化部(加工部)
4 接着剤
5 金属板(スキン材)
6 ボルト、リベット等
7 穴あけ用工具
8 脚、支持棒等
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製多孔質材料の加工材と板材との接合材からなる金属性パネルを構成する金属製パネル部材であって、上記金属製多孔質材料の表面全体乃至その一部分が、摩擦撹拌現象を利用した緻密化処理により高密度、高強度、及び平滑に形成されていることを特徴とする金属製パネル部材。
【請求項2】
上記金属製パネル部材の強化部に固定具による固定用の穴が形成されている、請求項1に記載の金属製パネル部材。
【請求項3】
上記固定具が、ボルト、又はリベットである、請求項2に記載の金属製パネル部材。
【請求項4】
上記金属製多孔質材料が、アルミニウム合金、及びマグネシウム合金に代表される軽量金属からなる、請求項1から3のいずれかに記載の金属製パネル部材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の金属製パネル部材の表面に板材が接着されていることを特徴とする金属製パネル。
【請求項6】
金属製多孔質材料の加工材と板材との接合材からなる金属性パネルを構成する金属製パネル部材を製造する方法であって、上記金属製多孔質材料の表面全体乃至その一部分を、摩擦撹拌現象を利用した方法を用いて、緻密化処理することにより、密度を高めて強度を上昇させると同時に処理表面を平滑にする工程、を含むことを特徴とする金属製パネル部材の製造方法。
【請求項7】
処理表面を平滑にした後、圧延、プレス工程により更に平坦度を高める工程、を含む、請求項6に記載の金属製パネル部材の製造方法。
【請求項8】
処理表面を平滑にした後、又はその平坦度を高めた後、固定具による固定用の穴を設ける工程、を含む、請求項6に記載の金属製パネル部材の製造方法。
【請求項9】
上記金属製多孔質材料が、アルミニウム合金、及びマグネシウム合金に代表される軽量金属からなる、請求項6から8のいずれかに記載の金属製パネル部材の製造方法。
【請求項10】
請求項6又は7に記載の方法において、処理表面を平滑にした後、又はその平坦度を高めた後、表面に板材を接着することを特徴とする金属性パネルの製造方法。
【請求項1】
金属製多孔質材料の加工材と板材との接合材からなる金属性パネルを構成する金属製パネル部材であって、上記金属製多孔質材料の表面全体乃至その一部分が、摩擦撹拌現象を利用した緻密化処理により高密度、高強度、及び平滑に形成されていることを特徴とする金属製パネル部材。
【請求項2】
上記金属製パネル部材の強化部に固定具による固定用の穴が形成されている、請求項1に記載の金属製パネル部材。
【請求項3】
上記固定具が、ボルト、又はリベットである、請求項2に記載の金属製パネル部材。
【請求項4】
上記金属製多孔質材料が、アルミニウム合金、及びマグネシウム合金に代表される軽量金属からなる、請求項1から3のいずれかに記載の金属製パネル部材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の金属製パネル部材の表面に板材が接着されていることを特徴とする金属製パネル。
【請求項6】
金属製多孔質材料の加工材と板材との接合材からなる金属性パネルを構成する金属製パネル部材を製造する方法であって、上記金属製多孔質材料の表面全体乃至その一部分を、摩擦撹拌現象を利用した方法を用いて、緻密化処理することにより、密度を高めて強度を上昇させると同時に処理表面を平滑にする工程、を含むことを特徴とする金属製パネル部材の製造方法。
【請求項7】
処理表面を平滑にした後、圧延、プレス工程により更に平坦度を高める工程、を含む、請求項6に記載の金属製パネル部材の製造方法。
【請求項8】
処理表面を平滑にした後、又はその平坦度を高めた後、固定具による固定用の穴を設ける工程、を含む、請求項6に記載の金属製パネル部材の製造方法。
【請求項9】
上記金属製多孔質材料が、アルミニウム合金、及びマグネシウム合金に代表される軽量金属からなる、請求項6から8のいずれかに記載の金属製パネル部材の製造方法。
【請求項10】
請求項6又は7に記載の方法において、処理表面を平滑にした後、又はその平坦度を高めた後、表面に板材を接着することを特徴とする金属性パネルの製造方法。
【図5】
【図7】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図7】
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【図3】
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【図6】
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【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2007−216234(P2007−216234A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36268(P2006−36268)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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