説明

金属製両面エレメント及びスライドファスナー

【課題】スライドファスナーが横引き力等を受けても、噛合頭部に形成した噛合凸部が変形し難く、優れた噛合強度を確保できファスナーテープへ加締め付ける際に噛合頭部の変形を防止することが可能な両面エレメントを提供する。
【解決手段】両面エレメント1は、噛合頭部10と、胴部20と、左右一対の脚部30a,30bとを備え、前記噛合頭部は、薄肉の平板部11と、前記平板部の左右中央部で突出した噛合凸部12と、前記平板部から隆起し、前記胴部と一体化した左右の隆起部13と、前記噛合凸部、前記隆起部及び前記胴部により囲まれて形成された噛合凹部14とを有し、隆起部は、その前端縁13cから胴部に向けて上り傾斜した傾斜部13aを有し、前記傾斜部の各内側面の一部と前記噛合凸部の左右側面の一部とは互いに面接合状態で一体化している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表裏両面に噛合凸部及び噛合凹部を有するスライドファスナー用の金属製両面エレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
鞄などの開口部には、その開閉を行うためにスライドファスナーが広く使用されている。このようなスライドファスナーの1つとして、ファスナーチェーンに2個のスライダーを頭合わせ又は尻合わせに対向して配置することにより、スライダーをエレメント列に沿って前後どちらの方向に摺動させてもファスナーチェーンの開閉を行うことが可能なスライドファスナーが知られている。
【0003】
この2個のスライダーを有するスライドファスナーでは、エレメント列に対してスライダーを前方又は後方に摺動するときに、それぞれの方向におけるスライダーの操作感に差異を与えないために、エレメントの噛合頭部を表裏(摺動方向の前後)で対称的な形状に形成した両面エレメントが用いられる。特に、強い生地を用いる衣服や鞄等の開口部には、強度や美観、耐久性、屈曲性等に優れた金属製の両面エレメントが用いられる。
【0004】
このような両面エレメントの一例が、実開平1−80012号公報(特許文献1)や中国実用新案公告第2170665Y号公報(特許文献2)等に開示されている。前記特許文献1に記載されている両面エレメント51は、図10に示したように、噛合頭部52と、噛合頭部52の後端側に配された胴部53と、胴部53の後端側に延設された左右一対の脚部54a,54bとを表裏対称に備えている。
【0005】
前記噛合頭部52は、板厚が胴部53よりも薄い平板部52aと、同平板部52aの表裏面に突設した噛合凸部52bと、エレメント51の左右両側縁に配され、前記胴部53から前方に向けて突出した左右の突出縁部52cと、噛合凸部52bと胴部53との間に形成された噛合凹部52dとを有している。この特許文献1の両面エレメント51では、プレス加工によりエレメント51の成形を行う際に、噛合凸部52bを平板部52aから高く形成することによって噛合強度の向上を図っている。
【0006】
この場合、噛合凸部52bを所定の形状で高く突設させるためには、噛合凸部52bの周囲の肉厚を利用する必要がある。このため、噛合頭部52に配される左右の突出縁部52cは、胴部53からの突出長さが制限されて形成されており、噛合凸部52bと左右の突出縁部52cとが互いに離間して配されている。また、噛合凹部52dの底面の高さが平板部52aの表裏面と同じ高さに設定されているとともに、噛合凸部52bの前端側にも平板部52aが設けられている。
【0007】
更に、前記特許文献1では、平板部52aの前端面52eが左右方向に幅広く平坦に形成されている。このため、例えば特許文献1の両面エレメント51を用いてスライドファスナーを構成することにより、エレメント噛合時のチェーン幅を小さくすることができ、体裁の良いスライドファスナーを得ることが可能となる。
【0008】
一方、前記特許文献2に記載されている両面エレメント61は、図11及び図12に示したように、噛合頭部62と、胴部63と、左右一対の脚部64a,64bとを備えている。また、前記噛合頭部62は、板厚が薄く形成された平板部62aと、平板部62aと胴部63との間に配された斜面部62bと、平板部62aの表裏面に突設された中央凸部62c及び左右凸部62dとを有している。
【0009】
前記中央凸部62cは、平板部62aの前端側の左右中央部に配されており、前後左右の各側面は底部側が拡幅するように傾斜面で形成されている。前記左右凸部62dは、エレメント61の左右側端縁よりも内側の位置に、中央凸部62cと斜面部62bとの間に渡って配されており、その周面はテーパ状に形成されている。特に、この左右凸部62dは、その前端側の端縁を中央凸部62cの端縁に線接触させるとともに、その後端部を斜面部62b内に進入させて形成されている。
【0010】
また、特許文献2の両面エレメント61では、中央凸部62c、左右凸部62d、及び斜面部62bの間に噛合凹部62eが形成されている。更に、左右凸部62dの表裏方向における高さは胴部63よりも高く設定され、中央凸部62cの表裏方向における高さは左右凸部62dよりも更に高く設定されている。このような特許文献2の両面エレメント61を用いて構成されたスライドファスナーは、中央凸部62c及び左右凸部62dの高さが胴部63よりも高く設定されているため、左右のエレメント61を確実に噛合させることができる。
【特許文献1】実開平1−80012号公報
【特許文献2】中国実用新案公告第2170665Y号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記特許文献1に記載されているスライドファスナー用両面エレメント51(図10を参照)は、噛合凸部52bが胴部53及び左右の突出縁部52cから独立して、平板部52aの表裏面に突設されている。従って、特許文献1の両面エレメント51を用いてスライドファスナーを構成した場合、例えばエレメント51が噛合状態にあるときに横引き力等の外力を受けると、独立した噛合凸部52bがその応力によって変形したり、欠けたりし易く、また、噛合凸部52bと突出縁部52cとの間に噛合相手方の噛合凸部52bが引っ掛かり易いため、噛合強度が低下する可能性があった。
【0012】
また、この特許文献1の両面エレメント51は、ファスナーテープに取り付ける場合、左右脚部54a,54bが所定の角度で開脚した状態で、この左右脚部54a,54b間にファスナーテープが挿入され、その後、同脚部54a,54bを内側に向けて加締めることにより、ファスナーテープのエレメント取付部に所定のピッチをもって順次植え付けられる。しかし、このようにエレメント51の左右脚部54a,54bが加締められる際に、左右脚部54a,54bがファスナーテープを挟持するように塑性変形すると同時に、エレメント51の噛合頭部52、特に左右の突出縁部52cが外側に向けて広がるように変形してしまう。このため、スライドファスナーを構成したときにエレメント51の噛合状態や噛合強度等に影響を与える虞があった。
【0013】
更に、特許文献1の両面エレメント51は、噛合凸部52bの前端側に平板部52aが形成されているために、スライドファスナーを開閉する際にスライダーの摺動抵抗が大きく、スライダーの操作感が重くなる。また、噛合凸部52bの前端側に平板部52aが形成されていると、例えば使用者がエレメント列を触ったときに、その平板部52aが噛合頭部52から出っ張るような感触を受け易く、エレメント列の手触り感等については更なる改善の余地があった。
【0014】
一方、前記特許文献2に記載されているスライドファスナー用両面エレメント61は、中央凸部62cと左右凸部62dとが互いの端縁同士で線接触して形成されているものの、噛合凹部62eの周壁は中央凸部62cと左右凸部62dとの間で途切れており、連続的に形成されていない。このため、中央凸部62cと左右凸部62dとはお互いを支持し合うように形成されてなく、中央凸部62c及び左右凸部62dは実質的にそれぞれが独立した状態で設けられている。
【0015】
このため、前記特許文献2のエレメント61は、前記特許文献1の場合と同様に、スライドファスナーを構成した場合、例えばエレメント61の噛合時に横引き力等を受けた際に、中央凸部62cが変形したり、欠けたりし易く、噛合強度の低下を招くという問題があった。しかも、特許文献2の両面エレメント61は、ファスナーテープに取り付けるためにその左右脚部64a,64bを加締めたときに、前記特許文献1と同様に、左右凸部62dやその外側に配された平板部62aが外側に向けて広がるように変形し易いという問題もあった。
【0016】
更に、特許文献2の両面エレメント61は、中央凸部62cの前端側にも平板部62aが配されている。このため、同両面エレメント61を用いて構成されたスライドファスナーを開閉する際に、スライダーに大きな摺動抵抗が働いてスライダーの操作感が重くなり、また、エレメント列の手触りも悪くなるという欠点もあった。
【0017】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その具体的な目的は、スライドファスナーが横引き力等を受けても噛合頭部に形成した噛合凸部に変形や欠損が生じ難く、優れた噛合強度を確保できるとともに、ファスナーテープへ加締め付ける際に噛合頭部の変形を防止でき、更には、スライダーの摺動抵抗を小さくしてスライダーの操作感を向上させることが可能な金属製の両面エレメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明により提供される金属製両面エレメントは、噛合頭部と、前記噛合頭部の後端側に配された胴部と、前記胴部の後端側に延設された左右一対の脚部とを備え、前記噛合頭は、表裏面間の板厚が前記胴部よりも薄く形成された薄肉平板部と、前記薄肉平板部の左右中央部にて表裏方向へ突出した噛合凸部と、前記噛合凸部の左右に配された前記薄肉平板部から表裏方向へ隆起し、前記胴部に向けて延設され、同胴部と一体化した左右の隆起部と、前記噛合凸部、左右の前記隆起部、及び前記胴部により囲まれて形成された噛合凹部とを有し、左右の前記隆起部は、同隆起部の噛合凸部側の前端縁から前記胴部に向けて、前記薄肉平板部の表裏面に対して上り傾斜した傾斜部を有し、左右の前記傾斜部の各内側面の一部と前記噛合凸部の左右側面の一部とは互いに面接合状態で一体化してなることを最も主要な特徴とするものである。
【0019】
本発明に係る金属製両面エレメントにおいて、左右の前記隆起部は、前記傾斜部の後端から胴部に向けて一定の厚さで形成された延長部を有し、前記延長部の表裏面は、前記胴部の表裏面と面一に形成されていることが好ましい。また、前記傾斜部の噛合凸部側の前記前端縁は、前記噛合凸部の頂部よりも前方側に配されていることが好ましい。更に、前記傾斜部の傾斜面は平面に形成されていることが好ましい。
【0020】
また、本発明において、左右の前記隆起部は、前記噛合凸部及び前記噛合凹部を挟んで、前記エレメントの左右両側縁間に渡って形成されていることが好ましい。更に、前記噛合凸部の頂部から前記噛合凹部の底面までの高さが、前記頂部から前記薄肉平板部の表裏面までの高さよりも低く設定されていることが好ましい。
【0021】
更にまた、前記噛合凸部の前端縁が、前記薄肉平板部の前端縁の位置に配されていることが好ましい。また、前記隆起部の前記前端縁は、前記傾斜部の傾斜面の面積が前記エレメントの左右両側縁から前記噛合凸部に向けて漸増するように傾斜又は湾曲していることが好ましい。
【0022】
一方、本発明により更に提供される金属製両面エレメントは、噛合頭部と、前記噛合頭部の後端側に配された胴部と、前記胴部の後端側に延設された左右一対の脚部とを備え、前記噛合頭は、表裏面間の板厚が前記胴部よりも薄く形成された薄肉平板部と、前記薄肉平板部の左右中央部にて表裏方向へ突出した噛合凸部と、前記噛合凸部の左右に配された前記薄肉平板部から表裏方向へ隆起し、前記胴部に向けて延設され、同胴部と一体化した左右の隆起部と、前記噛合凸部、左右の前記隆起部、及び前記胴部により囲まれて形成された噛合凹部とを有し、左右の前記隆起部は、同隆起部の噛合凸部側の前端縁から前記胴部に向けて、前記薄肉平板部の表裏面に対して上り傾斜した傾斜部を有し、左右の前記傾斜部の一部と前記噛合凸部の一部とは連続的に一体に形成され、前記隆起部の前記前端縁は、前記傾斜部の傾斜面の面積が前記エレメントの左右両側縁から前記噛合凸部に向けて漸増するように傾斜又は湾曲してなることを最も主要な特徴とするものである。
【0023】
そして、本発明によれば、上述の構成を有する金属製両面エレメントが左右一対のファスナーテープの相対する側縁部に所定の間隔で列設されたファスナーストリンガーを備えたスライドファスナーが提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る金属製両面エレメントは、噛合頭部、胴部、及び左右一対の脚部を備え、前記噛合頭部は、薄肉平板部と、薄肉平板部から突出した噛合凸部と、噛合凸部の左右に配された薄肉平板部から隆起し、胴部に向けて延設され、同胴部と一体化した左右の隆起部と、噛合凹部とを有している。また、前記噛合凹部は、噛合凸部、左右の隆起部、及び胴部により囲まれ、その周壁の少なくとも一部が連続的に形成されている。左右の隆起部は、同隆起部の噛合凸部側の前端縁から胴部に向けて上り傾斜した傾斜部を有し、左右の傾斜部の各内側面の一部と噛合凸部の左右側面の一部とは互いに面接合状態で一体化して形成されている。
【0025】
このような構成を有する本発明の金属製両面エレメントは、噛合凸部が左右の隆起部と面接合状態で一体化しているため、噛合凸部と隆起部とは互いに支持し合って、それぞれが変形し難いように強固に形成されている。このため、本発明の両面エレメントを用いてスライドファスナーを構成した場合、同スライドファスナーが左右のエレメントを噛合した状態で横引き力等を受けても、噛合頭部に形成した噛合凸部及び左右の隆起部に変形や欠損等が生じることを防ぐことができる。
【0026】
その上、噛合凹部は、噛合凸部、左右の隆起部、及び胴部により囲まれ、その周壁が連続的に形成されているため、左右の両面エレメントが噛合した際に、噛合凹部に相手方の噛合凸部が適切に嵌入されて、その噛合状態を安定して維持することができる。これにより、本発明の両面エレメントを用いてスライドファスナーが構成されれば、優れた噛合強度を安定して確保することができる。
【0027】
また、左右の隆起部は噛合凸部の左右側面に面接合した状態で、薄肉平板部上に隆起して形成されているため、例えば両面エレメントをファスナーテープへ加締め付けるときに左右脚部を塑性変形させても、左右の隆起部の外へ広がるような変形を抑制でき、両面エレメントをファスナーテープへ安定して取り付けることができる。これにより、加締めによる噛合頭部の変形がない両面エレメントが所定のピッチで確実に取着された高品質のスライドファスナーを安定して製造することが可能となる。
【0028】
また、本発明の両面エレメントでは、左右の隆起部が、傾斜部の後端から胴部に向けて一定の厚さで形成された延長部を有し、延長部の表裏面は、胴部の表裏面と面一に形成されている。これにより、本発明の両面エレメントを用いてスライドファスナーを構成した場合、両面エレメントの噛合凹部に相手方の両面エレメントの噛合凸部を嵌入したときに、左右の隆起部で相手方の噛合凸部をより確実に保持でき、左右の両面エレメントの噛合状態をより安定させることができる。
【0029】
更に、本発明の両面エレメントは、傾斜部における噛合凸部側の前端縁が噛合凸部の頂部よりも前方側に配されている。これにより、噛合凸部と左右隆起部とが面接合状態で一体化する面積をより広く確保し、互いを強く支持して補強し合うことができるため、噛合凸部及び左右隆起部を一層強固に形成することができる。
【0030】
更にまた、傾斜部の傾斜面が平面に形成されていることにより、同両面エレメントを用いてスライドファスナーを構成した場合、左右のエレメントを噛合したときに、噛合頭部に形成した左右の隆起部が相手方の噛合頭部に形成した左右の隆起部と干渉することを防ぎ、スライドファスナーの開閉を安定して行うことが可能となる。
【0031】
また、本発明の両面エレメントは、左右の隆起部が噛合凸部及び噛合凹部を挟んで、エレメントの左右両側縁間に渡って形成されている。このように左右の隆起部が左右両側縁まで形成されていれば、隆起部の左右側面と平板部の側面及び胴部の側面との間に段差が形成されず、エレメント側面を平滑面にすることができるため、見栄えが良く、手触り感にも優れている。
【0032】
更に本発明では、噛合凸部の頂部から噛合凹部の底部までの高さが、同頂部から薄肉平板部の表裏面までの高さよりも低く設定されている。これにより、表面及び裏面の噛合凹部の底部間における板厚が、薄肉平板部の表裏面間における板厚よりも厚く形成されるため、噛合凸部及び左右隆起部が噛合凹部の底部部分により支持されてより強固に形成され、噛合凸部及び左右隆起部の変形をより確実に防ぐことができる。しかも、噛合凸部の頂部から薄肉平板部の表裏面までの高さを高くすることにより、ファスナーチェーンを構成したときに、そのファスナーチェーンに適切な柔軟性(曲げ易さ)を与えることができる。
【0033】
更にまた、噛合凸部の前端縁が薄肉平板部の前端縁の位置に配されていることにより、噛合凸部の前端側に薄肉平板部が配されないため、本発明の両面エレメントを用いて構成されたスライドファスナーは、スライダーの摺動抵抗が小さく、スライダーの操作感に優れたものとなり、左右のエレメントの噛合及び分離を円滑に行うことが可能となる。更にこの場合、噛合頭部の前端面と表裏の噛合凸部の前方側の斜面とが、薄肉平板部を介さずに連続的に形成されているため、例えばエレメント列を触ったときの手触りが良好なものとなる。
【0034】
また、前記隆起部の前端縁は、傾斜部の傾斜面の面積がエレメントの左右両側縁から噛合凸部に向けて漸増するように傾斜又は湾曲している。言い換えると、隆起部の前端縁は、同前端縁のエレメント左右両側縁側の端部が、同前端縁の前記噛合凸部との接続部よりも後方に配されるように傾斜又は湾曲している。これにより、噛合頭部における薄肉平板部の左右両側縁側の領域を広く確保することができる。その結果、本発明の両面エレメントを用いてファスナーチェーンを構成した場合、左右のエレメント列が噛合状態にあるときに、各エレメントが、隆起部に妨げられることなく噛合頭部を中心にテープ表裏方向へ回転し易くなる。従って、同ファスナーチェーンの柔軟性を更に向上させることができる。
【0035】
本発明に係る別の金属製両面エレメントは、噛合頭部、胴部、及び左右一対の脚部を備え、前記噛合頭部は、薄肉平板部と、薄肉平板部から突出した噛合凸部と、噛合凸部の左右に配された薄肉平板部から隆起し、胴部に向けて延設され、同胴部と一体化した左右の隆起部と、噛合凹部とを有している。また、前記噛合凹部は、噛合凸部、左右の隆起部、及び胴部により囲まれ、その周壁の少なくとも一部が連続的に形成されている。左右の隆起部は、同隆起部の噛合凸部側の前端縁から胴部に向けて上り傾斜した傾斜部を有し、左右の傾斜部の一部と噛合凸部の一部とは連続的に形成されている。更に、左右の隆起部の前端縁は、傾斜部の傾斜面の面積がエレメントの左右両側縁から噛合凸部に向けて漸増するように傾斜又は湾曲している。なお、ここで、左右の傾斜部の一部と噛合凸部の一部とが連続的に一体に形成されているとは、傾斜部の各内壁面の一部と噛合凸部の左右側面との一部が面接合していることなどをいう。
【0036】
このような構成を有する本発明の金属製両面エレメントは、噛合凸部が左右の隆起部と面接合して連続的に形成されているため、噛合凸部と隆起部とは互いに支持し合って、それぞれが変形し難いように強固に形成されている。このため、本発明の両面エレメントを用いてスライドファスナーを構成した場合、同スライドファスナーが左右のエレメントを噛合した状態で横引き力等を受けても、噛合頭部に形成した噛合凸部及び左右の隆起部に変形や欠損等が生じることを防ぐことができる。その上、同金属製両面エレメントは、優れた噛合強度を安定して確保することができる。また、隆起部の前端縁は、前述のように傾斜又は湾曲して形成されているため、本発明の両面エレメントを用いてファスナーチェーンを構成した場合、同ファスナーチェーンは柔軟性に優れたものとなる。
【0037】
そして、上記のような本発明の金属製両面エレメントが左右一対のファスナーテープの相対する側縁部に所定の間隔で列設されたファスナーストリンガーを備えるスライドファスナーは、左右の両面エレメントが互いに適切に噛合して、その噛合状態を安定して維持することができ、しかも、噛合状態で横引き力を受けても、噛合凸部及び左右の隆起部に変形や欠損等が生じることを防止でき、左右の両面エレメントが容易に分離することのない優れた噛合強度を有する高品質のスライドファスナーとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、実施例を挙げて、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する各実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明と実質的に同一な構成を有し、かつ、同様な作用効果を奏しさえすれば、多様な変更が可能である。
【実施例1】
【0039】
図1は、本実施例1に係る金属製両面エレメントの加締められた状態の形状を示す概略斜視図である。図2は、同金属製両面エレメントの側面図であり、図3は、図2に示したIII−III線における断面の一部を示す断面図である。
なお、以下の発明において、両面エレメントの前後方向とは、同エレメントをファスナーテープに取り付けたときのテープ幅方向となる向きをいい、また、両面エレメントの左右方向及び表裏方向(上下方向)とは、それぞれファスナーテープに取り付けたときのテープ表裏方向及びテープ長さ方向となる向きをいう。
【0040】
図1に示した本実施例1に係る両面エレメント1は、金属製部材に複数回のプレス加工を行うことにより成形されており、エレメント前部に配された噛合頭部10と、噛合頭部10の後端側に所定の板厚で形成された胴部20と、胴部20の後端側に延設された左右一対の脚部30a,30bとを備え、表裏方向に対称的な形状に形成されている。
【0041】
前記噛合頭部10は、表裏方向の中央部に配された薄肉の平板部11と、平板部11から表裏方向に突設した噛合凸部12と、噛合凸部12の左右に配された平板部11から表裏方向へ隆起し、胴部20に向けて延設された左右の隆起部13と、噛合凸部12と胴部20との間に凹設された噛合凹部14とを有している。
【0042】
噛合頭部10における前記平板部11は、胴部20よりも薄い所定の板厚を有している。この薄肉の平板部11の左右側縁は、その左右幅方向の寸法が胴部20側から前端に向けて徐々に小さくなるように、エレメント前後方向に対して斜めに形成され、また、平板部11の前端面11aは、エレメント前後方向に対して垂直に形成されている。
【0043】
前記噛合凸部12は、平板部11の前部左右中央に前後方向に山状に盛り上がるように形成されており、頂部12aと、頂部12aの前後に配された前斜面部12b及び後斜面部12cと、これらの左右側方に配された左右側面部12dとを有している。
【0044】
この噛合凸部12の前記頂部12aは、図2に示すように、胴部20の表裏面と同じ高さ位置に配され、エレメント左右方向に沿って所定の長さで形成されている。また、噛合凸部12の左右側面部12dは、頂部12aに向けて噛合凸部12の左右幅寸法が漸減するように小さく傾斜した状態で配されている。なお本発明において、噛合凸部12における頂部12aの後方側は、上述のような後斜面部12cを形成するのではなく、例えば胴部表裏面に対して垂直な垂直面を形成することも可能である。
【0045】
更に本実施例1では、噛合凸部12の前端縁(前斜面部12bの下端縁)の位置が、平板部11の前端縁の位置に合わせられている。また、平板部11の前端面11aと、噛合凸部12の表裏面側の前斜面部12bとの境界部分15が曲面で形成されており、平板部11の前端面11aから噛合凸部12の前傾斜面にかけて凹凸のない一連の平滑な外面を構成している。このとき、境界部分15に形成される曲面の曲率半径は、0.1mm以上に設定されていることが好ましい。
【0046】
噛合頭部10における前記左右隆起部13は、平板部11から表裏方向に隆起して厚く形成されており、噛合凸部12の左右両側から胴部20にかけて配されている。この隆起部13の前端縁13cは、噛合凸部12の頂部12aよりも前方に配されていることが好ましい。また、隆起部13は、前端縁13cから後方に向けて所定の角度で上り傾斜する傾斜部13aと、傾斜部13aの後端側から胴部20に向けて一定の厚さで形成された延長部13bとを有し、前記延長部13bの後端は胴部20と一体化して構成されている。このとき、前記傾斜部13aの傾斜面は、平面に形成されている。
【0047】
また本実施例1では、左右隆起部13が、噛合凸部12及び噛合凹部14を間に挟んで、エレメント1の左右両側縁間に渡って形成されている。このため、隆起部13の左右外側面と、平板部11の左右側面及び胴部20の左右側面との間には段差が形成されず、噛合頭部10の側面から左右脚部30a,30bの外側面にかけてのエレメント全体の側面が平滑面となる。従って、この両面エレメント1は、見栄えが良く、手触り感に優れたものとなる。
【0048】
更に、左右隆起部13における傾斜部13aの内側面の一部は、噛合凸部12の左右側面の一部と、図2に示すように所定の面積18(両面エレメント1を側面側から見たときに、傾斜部13aの傾斜面と、噛合凸部12の後傾斜部12cの延長線と、平板部11の表裏面の延長線とによって囲まれる範囲)をもって互いに面接合した状態で一体化している。これにより、噛合凸部12と左右隆起部13とは相互に支持し合って、それぞれが外力を受けても変形し難いように強固に形成されている。
【0049】
噛合頭部10における前記噛合凹部14は、噛合凸部12と胴部20との間に胴部表裏面から凹設されて形成されており、凹部底面14aと、この凹部底面14aの周囲に立設した周壁14bとを有している。この噛合凹部14の凹部底面14aは、表裏方向において平板部11の表裏面と胴部20の表裏面との間の高さ位置に配され、且つ、平板部11の表裏面及び胴部20の表裏面と平行に形成されている。従って、本実施例1では、噛合凸部12の頂部12aから噛合凹部14の凹部底面14aまでの高さH1が、頂部12aから平板部11の表裏面までの高さH2よりも低く設定されている(図2を参照)。これにより、エレメント1の表裏に配した凹部底面14a間の厚さが、平板部11の表裏面間の厚さよりも厚くなるため、噛合凸部12の後斜面部12c側と左右隆起部13の各内側面側とがそれぞれ補強され、噛合凸部12や左右隆起部13が一層強固なものとなる。
【0050】
また、噛合凹部14の周壁14bは、噛合凸部12の後斜面部12cと、左右隆起部13の内側面13dと、胴部20の前端面21とにより構成されている。この場合、噛合凸部12の後斜面部12cと左右隆起部13の傾斜部13aとの連結部分には、2つの傾斜による谷部16が形成されているものの、この谷部16と凹部底面14aとの間にも噛合凹部14の周壁14bが配されている。このため、噛合凹部14の周壁14bは、凹部底面14aの全周に渡って連続的に設けられている(図3を参照)。
【0051】
この場合、頂部12aと噛合凹部底面14a間の間隔(高さH1)に対する谷部16と噛合凹部底面14a間の間隔(高さH3)の割合は、0%よりも大きければ良いが、20%以上50%以下に設定されることが好ましく、更に40%以上50%以下に設定されることが特に好ましい(図2を参照)。例えば、上記の高さH1に対する高さH3の割合を50%以下にすることによって、スライドファスナーを構成したときに左右のエレメント列の噛み合わせを安定させることができる。また、同割合を20%以上にすることによって、噛合凸部12の強度高める効果を安定して得ることができ、同割合を40%以上にすることによって、エレメント1の成形性をより向上させることができる。
【0052】
前記胴部20は、噛合頭部10と左右脚部30a,30bとを連結しており、胴部20の表裏面及び左右側面は、噛合頭部10における延長部13bと左右脚部30a,30bの各表裏面及び各左右側面とそれぞれ面一に形成されている。また、前記噛合凹部14の周壁14bの一部を構成する胴部20の前端面21は、凹部底面14aから胴部表裏面に向けて上り傾斜するような傾斜面に形成されている。
【0053】
左右一対の前記脚部30a,30bは、胴部20の後端から二股に分岐して延設されている。この左右脚部30a,30bは、エレメント1のプレス加工終了時点で、胴部20側の前端から後端に向けて開脚した状態で形成されており、両面エレメント1全体を上面から見たときに略Y字状を呈している(図4の二点鎖線を参照)。また、左右脚部30a,30bは、エレメント上面視にて内側面側が円弧状に形成された芯紐挟持部31a,31bと、その後端部に配されたテープ挟持部32a,32bとを有しており、更に、前記芯紐挟持部31a,31bの内側面には、左右方向の内側に向けて突設された突起部33a,33bが設けられている。
【0054】
このような構成を有する本実施例1の両面エレメント1を、例えば芯紐部2aが側縁に沿って設けられたファスナーテープ2に取着する場合には、図4に示したように、両面エレメント1の開脚した左右脚部30a,30b間に、ファスナーテープ2の芯紐部2aを胴部20の後端面に当接するまで挿入し、その後、加締めパンチ等を用いて、左右脚部30a,30bをその外側面側から押圧して開脚幅を狭める方向に加締める。これにより、左右脚部30a,30b間にファスナーテープ2が挟み込まれて挟持され、両面エレメント1をファスナーテープ2に植え付けることができる。
【0055】
このとき、左右脚部30a,30bの芯紐挟持部31a,31bには突起部33a,33bが設けられているため、左右脚部30a,30bを加締めたときに、突起部33a,33bがファスナーテープ2の芯紐部2aに食い込み、両面エレメント1をファスナーテープ2に強固に取り付けることができる。
【0056】
また、本実施例1の両面エレメント1は、上述のように噛合頭部10の左右隆起部13が、噛合凸部12と面接合状態で一体化して強固に支持されているとともに、噛合凹部14の底面部分で補強されている。その上、この左右隆起部13は、エレメント1の左右両側縁間に渡って長く形成されている。このため、両面エレメント1を取り付ける際に左右脚部30a,30bを加締めても、従来のように左右隆起部13が外側に向けて変形することを防止でき、噛合頭部10の形状を安定して維持することができる。
【0057】
上述のようにして複数の本実施例1の両面エレメント1を、左右一対のファスナーテープ2のテープ側縁部に所定の間隔をもって植え付けることにより、左右のファスナーストリンガー3が作製される。更に、得られたファスナーストリンガー3のエレメント列にスライダー4を挿通し、同エレメント列の摺動方向の前後両端部に、上止具5及び下止具6を取り付けることによって、図5に示したスライドファスナー7が製造される。
【0058】
このようにして得られたスライドファスナー7は、スライダー4を噛合方向(上止具5に向かう方向)に摺動させることにより、図6に示したように、各エレメント1の噛合凸部12を、周壁14bが連続的に形成された相手方の噛合凹部14に適切に嵌入させることができるため、左右のファスナーテープ2に列設した両面エレメント1を確実に噛合させて、その噛合状態を安定して維持することができる。
【0059】
特に、本実施例1の両面エレメント1は、噛合頭部10に形成された左右隆起部13の前端側に所定の角度で傾斜した傾斜部13aが配されており、しかも、傾斜部13aの傾斜面が平面で構成されている。このため、上述のように左右の両面エレメント1が噛合するときに、左右の両面エレメント1に配した各隆起部13が互いに干渉することがなく、スライドファスナー7の閉鎖を円滑に行うことができる。
【0060】
また、本実施例1の両面エレメント1は、噛合凸部12が左右隆起部13と面接合状態で一体化して強固に形成されているとともに、噛合凹部14の底面部分で補強されている。このため、左右のエレメント1が噛合状態にあるときに横引き力等の外力を受けても、噛合凸部12や左右隆起部13の変形や欠損を効果的に防止することができる。これにより、本実施例1の両面エレメント1を用いて構成されたスライドファスナー7は、優れた噛合強度を安定して確保することができる。
【0061】
そして、本実施例1の両面エレメント1を用いて構成されたスライドファスナー7は、噛合頭部10における噛合凸部12の頂部12aと平板部11の表裏面間の間隔(高さH2)が、頂部12aと噛合凹部底面14a間の間隔(高さH1)よりも大きく設定されているため、スライドファスナー7を閉鎖した状態でも適切な柔軟性を確保することができる。このため、同スライドファスナー7は、様々な用途に好適に使用することができる。
【0062】
また、各両面エレメント1の噛合頭部10は、平板部11の前端面11aから噛合凸部12の前傾斜部12bにかけて凹凸のない連続的な外面を有しているため、スライドファスナー7における左右エレメント列の手触りが良好となる。しかも、このような両面エレメント1によって左右のエレメント列が形成されているため、同エレメント列を摺動するスライダー4の摺動抵抗を小さく抑えることができ、スライダー4の操作感も向上させることができる。
【0063】
この場合、両面エレメント1の噛合頭部10における平板部11の前端面11aと噛合凸部12の前傾斜部12bとの境界部分15に形成される曲面の曲率半径が、前述のように0.1mm以上に設定されていることにより、エレメント列の手触りやスライダー4の操作感が大幅に向上した高品質のスライドファスナー7を得ることができる。
【実施例2】
【0064】
図7は、本実施例2に係る金属製両面エレメントを示す上面図であり、図8は、同金属製両面エレメントをファスナーテープに加締めたときの状態を示す断面図である。
なお、本実施例2の説明及びその参照図面において、前記実施例1の金属製両面エレメントと同様の構成を有する部分については同じ符号を用いて表しており、それによって、その部分の説明を省略することとする。
【0065】
本実施例2に係る両面エレメント41は、エレメント前部に配された噛合頭部42と、噛合頭部42の後端側に所定の板厚で形成された胴部20と、胴部20の後端側に延設された左右一対の脚部30a,30bとを備え、表裏方向に対称的な形状に形成されている。
【0066】
前記噛合頭部42は、表裏方向の中央部に配された薄肉の平板部11と、平板部11から表裏方向に突設した噛合凸部12と、平板部11から表裏方向へ隆起した左右の隆起部43と、噛合凸部12と胴部20との間に凹設された噛合凹部14とを有している。左右の前記隆起部43は、平板部11から表裏方向に隆起して厚く形成されており、噛合凸部12の左右両側から胴部20に向けて延設されている。また、同隆起部43は、噛合凸部12及び噛合凹部14を間に挟んで、エレメント41の左右両側縁間に渡って形成されている。
【0067】
この隆起部43は、その前端縁43cから後方に向けて所定の角度で上り傾斜する傾斜部43aと、傾斜部43aの後端側から胴部20に向けて一定の厚さで形成された延長部43bとを有し、前記傾斜部43aの傾斜面は、平面に形成されている。
【0068】
また、左右の隆起部43は、噛合凸部12と一部で面接合して連続的に形成され、隆起部43と噛合凸部12とが一体化している。これにより、噛合凸部12と左右隆起部13とは相互に支持し合っている。
【0069】
更に本実施例2の両面エレメント41においては、図7に示すように、同前端縁43cの左右両側縁側の端部45が同前端縁43cの噛合凸部12との接続部44よりも後方に配されており、且つ、左右の隆起部43の前端縁43c自体が直線状に形成されている。即ち、左右の隆起部43の前端縁43cは、傾斜部43aの傾斜面の面積がエレメント41の左右両側縁から噛合凸部12に向けて漸増するように傾斜して形成されている。なお、本発明では、左右隆起部の前端縁が、傾斜部の傾斜面の面積が噛合凸部に向けて漸増するように湾曲して形成されていても良い。
【0070】
このような構成を有する本実施例2の両面エレメント41を、例えば芯紐部2aが設けられたファスナーテープ2に取着する場合には、前記実施例1の両面エレメント1と同様に、左右脚部30a,30b間にファスナーテープ2の芯紐部2aを挿入し、その後、加締めパンチ等を用いて左右脚部30a,30bを加締める。これにより、左右脚部30a,30b間にファスナーテープ2が挟み込まれて挟持され、両面エレメント1をファスナーテープ2に植え付けることができる。
【0071】
このように左右脚部30a,30bが加締められると、傾斜部43a及び延長部43bの左右両側縁側の部分が、左右脚部30a,30bの塑性変形に伴って脚部20側(後方側)に湾曲する。これは、傾斜部43aのエレメント左右両側縁側の部分が、内側(接続部44側)の部分よりも前後方向の長さが短く、また、傾斜部43aの内側が噛合凸部12と連続的に一体に形成されているためである。
【0072】
即ち、傾斜部43aの内側が噛合凸部12と一体に形成されていると、左右脚部30a,30bの加締め時に傾斜部43aのエレメント左右両側縁側の部分に大きな力が加えられることにより、傾斜部43aのエレメント左右両側縁側の部分が左右脚部30a,30bに引っ張られるようにして湾曲し易くなる。また、それに伴って、延長部43bのエレメント左右両側縁側の部分も湾曲し易くなる。
【0073】
一方、上述のように傾斜部43aのエレメント左右両側縁側の部分が湾曲しても、同傾斜部43aの内側(接続部44側)の部分と噛合凸部12とは互いに面接合して補強されているため、噛合頭部10の変形を防止して、噛合頭部10の形状を安定して維持することができる。
【0074】
そして、本実施例2の両面エレメント41をファスナーテープ2に植え付けて作製されたスライドファスナーは、スライダー4を摺動させることにより、前記実施例1と同様に、左右のファスナーテープ2に列設した両面エレメント1を確実に且つ円滑に噛合させて、その噛合状態を安定して維持することができる。
【0075】
また、本実施例2の両面エレメント41は、噛合凸部12が左右の傾斜部43aと面接合して連続的に形成されているとともに、噛合凹部14の底面部分で補強されている。このため、左右のエレメント1が噛合状態にあるときに横引き力等の外力を受けても、噛合凸部12の変形や欠損を効果的に防止することができる。
【0076】
更に、本実施例2の両面エレメント1を用いて構成されたスライドファスナー7は、各両面エレメント41における左右隆起部43の前端縁43cが前述のように傾斜して、前端縁43cのエレメント左右両側縁側の端部45が、同前端縁43cと噛合凸部12との接続部44よりも後方に配されている。
【0077】
このため、図9に示したように、左右のエレメント列が噛合した状態において、各エレメントは、左右の隆起部に妨げられることなく、噛合頭部を中心にエレメント左右方向(テープ表裏方向)に容易に回転することが可能となる。従って、同スライドファスナーは、優れた柔軟性を容易に確保することができ、その用途を大きく広げることができる。この場合、左右隆起部43の前端縁43cの傾斜を大きくすることにより、各エレメントの回転範囲を拡げることが可能となる。
【0078】
なお、上記実施例1及び実施例2においては、本発明の両面エレメントを、ファスナーチェーンに1つのスライダーが配された通常タイプのスライドファスナーに用いた場合について説明している。しかし、本発明の両面エレメントはこれに限定されるものではなく、例えば、ファスナーチェーンに2つのスライダーが頭合わせ又は尻合わせに対向して配されたスライダー2個付きタイプのスライドファスナーに対しても同様に使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、鞄や衣類等の開口部に取着されるスライドファスナー用のエレメントとして好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施例1に係る金属製両面エレメントの加締められた状態の形状を示す概略斜視図である。
【図2】同金属製両面エレメントの側面図である。
【図3】図2に示したIII−III線における断面の一部を示す断面図である。
【図4】同金属製両面エレメントをファスナーテープに加締めたときの状態を説明する説明図である。
【図5】同金属製両面エレメントを用いて構成されたスライドファスナーを示す正面図である。
【図6】同スライドファスナーの両面エレメントが噛合している状態を、その一部を断面で表して示す要部拡大図である。
【図7】本発明の実施例2に係る金属製両面エレメントを示す上面図である。
【図8】同金属製両面エレメントをファスナーテープに加締めたときの状態を示す断面図である。
【図9】同金属製両面エレメントを用いて構成されたスライドファスナーにおいて、左右のエレメントが噛合している状態を説明する説明図である。
【図10】従来の両面エレメントを示す概略斜視図である。
【図11】従来の別の両面エレメントを示す概略上面図である。
【図12】同両面エレメントを示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0081】
1 両面エレメント
2 ファスナーテープ
2a 芯紐部
3 ファスナーストリンガー
4 スライダー
5 上止具
6 下止具
7 スライドファスナー
10 噛合頭部
11 平板部
11a 前端面
12 噛合凸部
12a 頂部
12b 前斜面部
12c 後斜面部
12d 側面部
13 隆起部
13a 傾斜部
13b 延長部
13c 前端縁
13d 内側面
14 噛合凹部
14a 凹部底面
14b 周壁
15 境界部分
16 谷部
20 胴部
21 前端面
30a,30b 左右脚部
31a,31b 芯紐挟持部
32a,32b テープ挟持部
33a,33b 突起部
41 両面エレメント
42 噛合頭部
43 隆起部
43a 傾斜部
43b 延長部
43c 前端縁
44 接続部
45 左右両側縁側の端部
H1 噛合凸部の頂部ら噛合凹部の凹部底面までの高さ
H2 噛合凸部の頂部から平板部の表裏面までの高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噛合頭部(10)と、前記噛合頭部(10)の後端側に配された胴部(20)と、前記胴部(20)の後端側に延設された左右一対の脚部(30a,30b) とを備え、
前記噛合頭部(10)は、表裏面間の板厚が前記胴部(20)よりも薄く形成された薄肉平板部(11)と、前記薄肉平板部(11)の左右中央部にて表裏方向へ突出した噛合凸部(12)と、前記噛合凸部(12)の左右に配された前記薄肉平板部(11)から表裏方向へ隆起し、前記胴部(20)に向けて延設され、同胴部(20)と一体化した左右の隆起部(13,43) と、前記噛合凸部(12)、左右の前記隆起部(13,43) 、及び前記胴部(20)により囲まれて形成された噛合凹部(14)とを有し、
左右の前記隆起部(13,43) は、同隆起部(13,43) の噛合凸部(12)側の前端縁(13c,43c) から前記胴部(20)に向けて、前記薄肉平板部(11)の表裏面に対して上り傾斜した傾斜部(13a,43a) を有し、
左右の前記傾斜部(13a,43a) の各内側面の一部と前記噛合凸部(12)の左右側面の一部とは互いに面接合状態で一体化してなる、
ことを特徴とする金属製両面エレメント。
【請求項2】
左右の前記隆起部(13,43)は、前記傾斜部(13a,43a) の後端から胴部(20)に向けて一定の厚さで形成された延長部(13b,43b) を有し、
前記延長部(13b,43b) の表裏面は、前記胴部(20)の表裏面と面一に形成されてなる、
請求項1記載の金属製両面エレメント。
【請求項3】
前記傾斜部(13a) の噛合凸部(12)側の前記前端縁(13c) は、前記噛合凸部(12)の頂部(12a) よりも前方側に配されてなる請求項1又は2記載の金属製両面エレメント。
【請求項4】
前記傾斜部(13a,43a) の傾斜面は平面に形成されてなる請求項1〜3のいずれかに記載の金属製両面エレメント。
【請求項5】
左右の前記隆起部(13,43) は、前記噛合凸部(12)及び前記噛合凹部(14)を挟んで、前記エレメント(1) の左右両側縁間に渡って形成されてなる請求項1〜4のいずれかに記載の金属製両面エレメント。
【請求項6】
前記噛合凸部(12)の頂部(12a) から前記噛合凹部(14)の底面(14a)までの高さが、前記頂部(12a) から前記薄肉平板部(11)の表裏面までの高さよりも低く設定されてなる請求項1〜5のいずれかに記載の金属製両面エレメント。
【請求項7】
前記噛合凸部(12)の前端縁が、前記薄肉平板部(11)の前端縁の位置に配されてなる請求項1〜6のいずれかに記載の金属製両面エレメント。
【請求項8】
前記隆起部(43)の前記前端縁(43c) は、前記傾斜部(13a,43a) の傾斜面の面積が前記エレメント(1) の左右両側縁から前記噛合凸部(12)に向けて漸増するように傾斜又は湾曲してなる請求項1〜7のいずれかに記載の金属製両面エレメント。
【請求項9】
噛合頭部(10)と、前記噛合頭部(10)の後端側に配された胴部(20)と、前記胴部(20)の後端側に延設された左右一対の脚部(30a,30b) とを備え、
前記噛合頭部(10)は、表裏面間の板厚が前記胴部(20)よりも薄く形成された薄肉平板部(11)と、前記薄肉平板部(11)の左右中央部にて表裏方向へ突出した噛合凸部(12)と、前記噛合凸部(12)の左右に配された前記薄肉平板部(11)から表裏方向へ隆起し、前記胴部(20)に向けて延設され、同胴部(20)と一体化した左右の隆起部(43)と、前記噛合凸部(12)、左右の前記隆起部(43)、及び前記胴部(20)により囲まれて形成された噛合凹部(14)とを有し、
左右の前記隆起部(43)は、同隆起部(43)の噛合凸部(12)側の前端縁(43c)から前記胴部(20)に向けて、前記薄肉平板部(11)の表裏面に対して上り傾斜した傾斜部(43a) を有し、
左右の前記傾斜部(43a) の一部と前記噛合凸部(12)の一部とは連続的に一体に形成され、
前記隆起部(43)の前記前端縁(43c) は、前記傾斜部(13a,43a) の傾斜面の面積が前記エレメント(1) の左右両側縁から前記噛合凸部(12)に向けて漸増するように傾斜又は湾曲してなる、
ことを特徴とする金属製両面エレメント。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の金属製両面エレメント(1) が左右一対のファスナーテープ(2) の相対する側縁部に所定の間隔で列設されたファスナーストリンガー(3) を備えてなることを特徴とするスライドファスナー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2009−34495(P2009−34495A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169841(P2008−169841)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000006828)YKK株式会社 (263)
【Fターム(参考)】