説明

金属複合接合体のシール構造及びその製造方法

【課題】金属複合接合体のシール構造及びその製造方法において、気液体が洩れ難くなり、金属材料と合成樹脂材料等の異種材料との高い気密性及び液密性を確保できること。
【解決手段】金属部材2が異種部材3と接触する接合境界面4の範囲において、100μmピッチで深さ5μm〜15μmの10本〜100本の気密性保持溝5が形成され、射出成形金型内にセットされて異種部材3が射出成形される。これによって、溶融状態の異種部材3が気密性保持溝5に入り込んで、金属部材2と異種部材3とが隙間なく接合され、金属複合接合体1が得られ、接合境界面の気密性を確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い気密性及び液密性を有する金属材料と非金属性の合成樹脂材料等の異種材料との金属複合接合体のシール構造及びその製造方法に関するものであり、特に、金属材料の表面処理をすることで気密性を確保した金属複合接合体のシール構造及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パソコン、電子手帳、ビデオカメラ等に代表される携帯用電子機器の普及は目覚ましく、これらの電子機器の筺体(ハウジング)には、電子機器内部への湿気や雨水の侵入を防止するための気密性及び液密性が要求される。
また、自動車等の車両にも、エンジン制御系、操舵系、駆動系、空調系等の電子制御ユニット(ECU)や、各種センサ、アクチュエータ等の電子機器が多数搭載されるようになっており、これらの車載用電子機器の筺体についても、同様に気密性及び液密性が必要とされる。
【0003】
このような携帯用電子機器や車載用電子機器の筺体については、小型化・軽量化・低コスト化及び形状設計の自由度等の要請があることから、従来から合成樹脂を主体とした製品が用いられていたが、最近は、更なる筺体の薄型化の要請によって、アルミニウム合金等の軽金属が筺体の材料として使われている。
ここで、筺体内部に収納される電子基板等を筺体に固定するための保持部材、ねじボス等の合成樹脂製の部材を筺体内に設置するために、金属製の筺体と合成樹脂部品との高い気密性及び液密性を有する接合方法が必要となっていた。
【0004】
そこで、特許文献1においては、アルミニウム合金と合成樹脂の強固な金属複合組付体を得ることを目的として、アルミニウム合金の表面粗さが1μm〜10μmで、1μm四方当たり0.03μm〜0.1μm径の第1凹部が10個〜50個あり、0.01μm〜0.03μm径の第2凹部が50個〜500個あり、その表面は厚さが1μm〜2μmの酸化アルミニウム化合物層で覆われ、樹脂組成物が前記第1凹部及び前記第2凹部まで侵入した状態で硬化して強固に結合しているアルミニウム合金と樹脂組成物の複合体の発明について開示している。
しかし、上記特許文献1に記載の技術においては、アルミニウム合金をアルカリエッチングした後に、更にpH10.0〜pH11.5に調整した一水和ヒドラジン水溶液で微細エッチングする必要があるため、生産性が悪くコスト高となるとともに、有害なヒドラジンを使用するため廃液処理工程が必須となるという問題があった。
【0005】
また、特許文献2においては、処理工程が少なく自動化が容易で生産性が高いレーザ加工技術を利用して、金属材料と合成樹脂材料等の異種材料とを極めて高い接着性をもって接合することを目的として、ある走査方向について金属表面をレーザスキャニング加工する工程と、その走査方向とクロスする別の走査方向について金属表面をレーザスキャニング加工する工程とを含む金属表面のレーザ加工方法の発明について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4292514号公報
【特許文献2】特許第4020957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2に記載の技術においては、接合剥離強度の向上については明らかにされているが、金属材料と非金属からなる合成樹脂材料等からなる異種材料との気密性については一切検討されておらず、金属材料と合成樹脂材料を始めとする異種材料との気密性を確保した金属複合接合体のシール構造を得ることができないという問題点があった。
【0008】
そこで、本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであって、金属材料と、この金属材料と物性が異なる異種材料との接合境界面における気体、液体が非常に漏れ難くなって高い気密性及び液密性を確保することができる金属複合接合体のシール構造及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明に係る金属複合接合体のシール構造は、金属材料の金属部材と、前記金属材料と物性が異なる異種材料の異種部材とを接合した金属複合接合体の前記金属部材と前記異種部材との接合境界面において、該接合境界面の気密性を必要とする方向と交差する方向に沿って前記金属部材の表面に一周する気密保持溝を、前記接合境界面の気密性を必要とする方向に複数形成し、前記金属部材と前記異種部材とを溶融接合することによって気密性を確保するものである。
【0010】
ここで、金属材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、鉄、鋼、ステンレス、銅、銅合金、ベリリウム、ベリリウム合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金等がある。
また、異種材料としては、合成樹脂、天然ゴム及び合成ゴムを含むエラストマー等の非金属材料や、金属材料ではあるが、金属部材に使用した金属材料と種類は同じだが溶融時の粘度等の物性が異なるものや、金属部材に使用した金属材料とは種類が異なる金属材料がある。
更に、接合境界面の気密性を必要とする方向と交差する方向とは、直角方向が望ましいが、直角方向に限定されるものではなく、接合境界面の気密性を必要とする方向に対して角度を有していればよく、好ましくは45度から90度の範囲であればよい。また、接合境界面の気密性を必要とする方向とは、気体、液体の存在が許容できる空間(気密構造外)と、気体、液体の存在が許容できない空間(気密構造内)が接合境界面にて繋がっていて、この接合境界面における気密構造の内外方向を意味する。
【0011】
請求項2の発明に係る金属複合接合体のシール構造は、前記異種材料は合成樹脂材料であり、前記金属部材に前記異種部材を射出成形することで溶融接合したものである。
ここで、本発明を実施する際の合成樹脂材料としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂があり、熱可塑性樹脂には更に汎用樹脂、エンジニアリング・プラスチック(以下、「エンプラ」ともいう)、スーパー・エンジニアリング・プラスチック(以下、「スーパーエンプラ」ともいう)がある。また、前記異種材料としては、部品の一部であっても、全体であってもよい。
【0012】
請求項3の発明に係る金属複合接合体のシール構造は、前記気密性保持溝の形成をレーザ加工としたものである。
ここで、レーザ加工法を実施するためのレーザ光発振装置としては、YAG(Nd:YAG)レーザ、YVO4(Nd:YVO4 )レーザ、CO2 レーザ、エキシマレーザ、アルゴンレーザ等である。
【0013】
請求項4の発明に係る金属複合接合体のシール構造は、前記気密性保持溝は、2μm〜30μmの範囲内、より好ましくは5μm〜20μmの深さであり、前記気密性保持溝同士の間隔は20μm〜200μmの範囲内、より好ましくは50μm〜1500μm範囲内のピッチである。
【0014】
請求項5の発明に係る金属複合接合体のシール構造の製造方法は、金属材料の金属部材と前記金属材料とは物性が異なる異種材料の異種部材とを接合し、前記金属材料と前記異種材料との対向する接合境界面を有する金属複合接合体のシール構造の製造方法であって、前記金属部材の表面に前記接合境界面の気密性を必要とする方向と交差する方向に沿って一周する気密性保持溝を、前記接合境界面の気密性を必要とする方向に複数形成し、前記金属部材と前記異種部材とを溶融接合することにより、前記接合境界面に気密性を持たせるものである。
【0015】
請求項6の発明に係る金属複合接合体のシール構造の製造方法の前記異種材料は、合成樹脂材料とし、前記接合工程は前記合成樹脂材料の射出成形工程としたものである。
【0016】
請求項7の発明に係る金属複合接合体のシール構造の製造方法の前記気密性保持溝形成工程は、前記金属材料のレーザ加工工程としたものである。
【0017】
請求項8の発明に係る金属複合接合体のシール構造の製造方法の前記気密性保持溝は、前記所定ピッチが20μm〜200μmの範囲内、より好ましくは50μm〜150μmの範囲内であり、前記所定深さが2μm〜30μmの範囲内、より好ましくは5μm〜20μmの範囲内としたものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明に係る金属複合接合体のシール構造は、金属材料の金属部材と、前記金属材料と物性が異なる異種材料の異種部材とを接合したときの前記金属部材と前記異種部材との対向する接合境界面におけるシール構造である。その構造とは、前記接合境界面の気密性を必要とする方向と交差する方向に沿って前記金属部材の表面に一周する気密保持溝を、前記接合境界面の気密性を必要とする方向に複数形成した後、異種部材と溶融接合した構造になっている。
【0019】
このように前記接合境界面の気密性を必要とする方向と交差する方向に沿って前記金属部材の表面に一周する気密保持溝を設け、この気密保持溝に異種部材を溶融させて入り込ませることで気体または液体等の流体が前記接合境界面の気密性を必要とする方向に流動することを妨げることができる。さらに気密保持溝は気密性を必要とする方向に複数形成されているため、より確実に流体の流動を阻止し気密性を確保することができる。
特に、金属材料と異種材料との組み付けの際に形成される面が接合境界面の気密性を必要とする方向に沿って凹凸が連続する面となり、接合面積が広くなるから気密性保持溝が形成されないものと比較して接合境界面における気体、液体が侵入するための経路が形成されなくなるから、気体、液体が流動し難くなって気密性及び液密性が大幅に向上する。
【0020】
このようにして、接合境界面における気体、液体が流動するための経路を断つことによって、気体、液体等の流体が非常に流れなくなって、金属材料と合成樹脂材料等の異種材料との高い気密性及び液密性を確保することができる金属複合接合体となる。
【0021】
請求項2の発明に係る金属複合接合体のシール構造においては、異種材料は合成樹脂材料であり、異種部材の接合は合成樹脂材料の射出成形であることから、請求項1に係る発明の効果に加えて、流動性が高い合成樹脂材料によって気密性保持溝内に合成樹脂材料が容易に入り込むため、より簡便に前記接合境界面の気密性を確保することができる。
【0022】
請求項3の発明に係る金属複合接合体のシール構造においては、気密性保持溝の形成がレーザ加工であることから、請求項1または請求項2に係る発明の効果に加えて、処理工程が少なく自動化が容易で生産性が高くなり、より低コストで金属複合接合体を量産することができる。
【0023】
請求項4の発明に係る金属複合接合体のシール構造にける気密性保持溝は、所定ピッチが20μm〜200μmの範囲内であり、所定深さが2μm〜30μmの範囲内であることから、請求項1乃至請求項3に係る発明の効果に加えて、より優れた気密性を低コストで得ることができる。
【0024】
本発明者は、より優れた気密性を得ることができる気密性保持溝のピッチ及び深さについて、鋭意実験研究を重ねた結果、所定ピッチを20μm〜200μmの範囲内とし、所定深さを2μm〜30μmの範囲内とすることによって、金属材料と異種材料との接合境界面においてより優れた気密性が得られることを見出したものである。
【0025】
即ち、気密性保持溝の所定ピッチが20μm未満であると気密性保持溝の形成が困難になってコスト高となり、一方、気密性保持溝の所定ピッチが200μmを超えるとピッチが大きすぎて気密性保持溝の本数が限られるため優れた気密性を得ることが困難となる。
また、気密性保持溝の所定深さが2μm未満であると深さが小さすぎて異種部材との接合状態によっては接合境界面に隙が生じる可能性が残るため優れた気密性を得ることが困難となる。一方、気密性保持溝の所定深さが30μmを超えると気密性保持溝の形成が困難になってコスト高となる。
したがって、気密性保持溝のピッチは20μm〜200μmの範囲内、深さは2μm〜30μmの範囲内とすることが好ましい。
【0026】
なお、所定ピッチが50μm〜150μmの範囲内であり、所定深さが5μm〜20μmの範囲内であることによって、より確実にかつ低コストで優れた気密性が得られるため、より好ましい。
【0027】
請求項5の発明に係る金属複合接合体のシール構造の製造方法においては、まず気密性保持溝形成工程で金属材料と異種材料との接合境界面において金属材料の表面に、接合境界面の気密性を必要とする方向と交差する方向に沿って所定ピッチで所定数の環状の気密性保持溝が形成され、続いて接合工程で気密性保持溝が形成された金属材料の表面に異種材料が接合される。
これによって、金属材料と異種材料との接合面が接合境界面の気密性を必要とする方向に沿って凹凸が連続する面となり、気密性保持溝が形成される前と比較して接合境界面における気体、液体が侵入するための経路が飛躍的に長くなるため、気密性及び液密性が大幅に向上する。
【0028】
このようにして、接合境界面における気体、液体が侵入するための経路を閉ざすことによって、気体、液体が非常に流れ難くなって、金属材料と合成樹脂材料等の異種材料との高い気密性及び液密性を確保することができる。
【0029】
請求項6の発明に係る金属複合接合体のシール構造の製造方法においては、異種材料は合成樹脂材料であり、接合工程は合成樹脂材料の射出成形工程であることから、請求項5に係る発明の効果に加えて、流動性が高い合成樹脂材料の特長によって気密性保持溝内に合成樹脂材料が入り、金属材料と異種材料とがより緻密に接合されるとともに、射出成形によって接合されることから、金属複合体を量産することが可能となる。
【0030】
請求項7の発明に係る金属複合接合体のシール構造の製造方法においては、気密性保持溝形成工程が金属材料のレーザ加工工程であることから、請求項5または請求項6に係る発明の効果に加えて、処理工程が少なく自動化が容易で生産性が高い金属複合接合体のシール構造の製造方法となり、より低コストで金属複合接合体を量産することができる。
【0031】
請求項8の発明に係る金属複合接合体のシール構造の製造方法においては、気密性保持溝は、所定ピッチが20μm〜200μmの範囲内であり、所定深さが2μm〜30μmの範囲内であることから、請求項5乃至請求項7に係る発明の効果に加えて、より優れた気密性を低コストで得ることができる金属複合接合体のシール構造の製造方法となる。
【0032】
本発明者は、より優れた気密性を得ることができる気密性保持溝のピッチ及び深さについて、鋭意実験研究を重ねた結果、所定ピッチを20μm〜200μmの範囲内とし、所定深さを2μm〜30μmの範囲内とすることによって、金属材料と異種材料との接合境界面においてより優れた気密性が得られることを見出したものである。
【0033】
即ち、気密性保持溝の所定ピッチが20μm未満であると気密性保持溝の形成が困難になってコスト高となり、一方、気密性保持溝の所定ピッチが200μmを超えるとピッチが大き過ぎて優れた気密性を得ることが困難となる。
また、気密性保持溝の所定深さが2μm未満であると深さが小さ過ぎて優れた気密性を得ることが困難となり、一方、気密性保持溝の所定深さが30μmを超えると気密性保持溝の形成が困難になってコスト高となる。
したがって、気密性保持溝のピッチは20μm〜200μmの範囲内、深さは2μm〜30μmの範囲内とすることが好ましい。
【0034】
なお、所定ピッチが50μm〜150μmの範囲内であり、所定深さが5μm〜20μmの範囲内であることによって、より確実にかつ低コストで優れた気密性が得られるため、より好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1(a)は本発明の実施例1に係る金属複合接合体のシール構造を金属材料と異種材料とに分けて示す試料の模式的な斜視図、(b)は金属複合体の内部構造を示す縦断面図である。
【図2】図2は本発明の実施例1に係る金属複合接合体のシール構造の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】図3(a)は本発明の実施例1に係る金属複合接合体のシール構造を構成する金属材料のレーザ加工前の表面粗さを示す測定データ、(b)はレーザ加工後の表面粗さを示す測定データである。
【図4】図4は本発明の実施例1に係る金属複合接合体のシール構造の気密性試験の方法を示す模式図である。
【図5】図5(a)は本発明の実施例2に係る金属複合接合体のシール構造を示す縦断面図、(b)は本発明の実施例3に係る金属複合接合体のシール構造を示す縦断面図である。
【図6】図6(a)は本発明の実施例4に係る金属複合接合体のシール構造を示す縦断面図、(b)は本発明の実施例5に係る金属複合接合体のシール構造を示す縦断面図、(c)は本発明の実施例6に係る金属複合接合体のシール構造を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明に係る金属複合接合体のシール構造及びその製造方法を実施するためには、金属材料と、合成樹脂等の異種材料と、金属材料の表面に気密性保持溝を形成する方法とが必要となる。
【0037】
ここで、金属材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、鉄、鋼、ステンレス、銅、銅合金、ベリリウム、ベリリウム合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金等を用いることができるが、軽量化を目的とする用途には、アルミニウム、マグネシウム、ベリリウム、チタン等の軽金属及びそれらの合金が好ましい。
【0038】
また、異種材料としては、合成樹脂、天然ゴム及び合成ゴムを含むエラストマー等があるが、成形性とコストと軽量性の点からは合成樹脂材料が好ましい。
合成樹脂材料としては、汎用樹脂、エンプラ、スーパーエンプラ等の熱可塑性樹脂、及び熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0039】
汎用樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ABS樹脂、AS樹脂等がある。
エンプラとしては、ポリアミド(ナイロン等)、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン等がある。
スーパーエンプラとしては、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド等がある。
そして、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド等がある。
【0040】
更に、気密性保持溝を形成する方法としては、レーザ加工、放電加工、フライス等の切削加工等があるが、加工効率及び設計の自由度の点からはレーザ加工(レーザ表面処理)が好ましい。
レーザ加工に用いられるレーザ光発振装置としては、YAG(Nd:YAG)レーザ、YVO4(Nd:YVO4 )レーザ、CO2 レーザ、エキシマレーザ、アルゴンレーザ等があるが、金属材料を加工するものであることから、波長1.064μmのYVO4レーザ、波長1.064μmのYAGレーザ、波長10.6μmのCO2 レーザ等を用いることが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明に係る金属複合接合体のシール構造及びその製造方法の具体的な構成について試料を用いた実施例について、図面を参照しつつ説明する。
【0042】
[実施例1]
まず、本発明に係る金属複合接合体のシール構造及びその製造方法の実施例1について、図1乃至図4を参照して説明する。
【0043】
最初に、本実施例1に係る金属複合接合体のシール構造の構成について、図1を参照して説明する。
図1(a)及び図1(b)に示されるように、本実施例1に係る金属複合接合体1の試料は、金属部材2としてアルミニウム合金2aと、異種部材3としての合成樹脂材料3aからなる複合体である。本実施例1においては、金属部材2としてアルミニウム合金2aを使用し、合成樹脂材料3aとして具体的には、スーパーエンプラである融点280℃のポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」とも略する。)を用いた。
【0044】
図1(a)に示されるように、金属部材2としてのアルミニウム合金材2aは、長さ35mm×幅15mm×厚さ3mmの直方体の試料とした。合成樹脂材としてのPPS(ポリフェニレンスルフィド)材からなる異種部材3との接合境界面4において、接合境界面4の気密性を必要とする方向Lと垂直に交差する方向Sに沿って1周する気密性保持溝5が気密性を必要とする方向Lに複数本形成されている。
図1(b)に示されるように、かかるアルミニウム合金材2aがPPS材の異種部材3が溶融接合(本実施例1では金属部材2をインサートし射出成形によって異種部材3と一体化している。)することで、本実施例1に係る金属複合接合体1が構成される。
【0045】
この実施例の試料は、電子機器の筺体(ハウジング)を構成する一部としての判断するものであるが、本発明を実施する場合には、この実施例の試料の形態に拘束されるものではなく、また、電子機器の筺体に限定されるものではなく、コネクター或いは開閉蓋、プリント基板等の部品とすることもできる。
本発明の金属複合接合体のシール構造は、接合させた金属部材2と異種部材3との対向する接合境界面4の接合に有効である。
【0046】
次に、本実施例1に係る金属複合接合体のシール構造の製造方法について、図2の製造フローチャートを参照して説明する。
【0047】
図2に示されるように、まず、金属部材2としてのアルミニウム合金2aが、図1(a)に示される形状及び大きさを有するアルミニウム合金材2aに切削加工される切削加工工程が実施され(ステップS1)、次に表面に付着した切削油等が洗浄されて(ステップS2)、乾燥される(ステップS3)。
続いて、長さ35mm×幅15mm×厚さ3mmの直方体の試料の四面の全周に連続して一周するレーザ加工による表面処理が施されるレーザ加工工程が実施される(ステップS4)。このステップS4のレーザ加工工程は、気密性保持溝形成工程に相当する。
なお、試料の四面のレーザ加工による表面処理は、連続して一周することが好ましいが、一部が切れていてもよい。しかし、気密性を必要とする方向に対して、気密性保持溝5の当該切れ目が一直線状にならないようにする必要がある。また、螺旋状とするのも好ましくない。
念のため付言すると、本実施の形態のアルミニウム合金材2aは、気密性が必要とされる方向Lの中心軸に沿って回転するようにチャックで保持し、アルミニウム合金材2aの4面に対して連続してレーザを一周毎に照射し、計50回の気密性保持溝5を形成したもので、100μmピッチで深さ10μmの50本の気密性保持溝5となっている。
【0048】
即ち、アルミニウム合金材2aがPPS材からなる合成樹脂材料3aに対向する部分である接合境界面4の範囲において、一面ごとに50回のレーザスキャンが行われて、100μmピッチで深さ5μm〜15μmの50本の気密性保持溝5が形成される。なお、4面に行う50回のレーザスキャンは、50本の環状の気密性保持溝5となる。
本実施例の試料の作成においては、レーザ光発振装置としては、キーエンス製のYVO4レーザ・MD−V9900A型(波長1.064μm・出力13W)を用いて、レーザパワー80%、スキャンスピード80mm/s、四面加工時間36.2秒の加工条件で実施した。
【0049】
レーザ加工工程の前後のアルミニウム合金材2aの表面状態について、図3を参照して説明する。
図3(a)はレーザ加工前のアルミニウム合金材2aの表面粗さを示すデータである。レーザ加工前のアルミニウム合金材2aは、極めて平滑な表面を有していることが分かる。これに対して、レーザ加工後のアルミニウム合金材2aの表面粗さを示す図3(b)から明らかなように、レーザ加工によって、深さ15μm〜20μmの気密性保持溝5が形成されている。また、レーザ加工の場合には、切削した溝の金属が試料の上面で最大+20μmの変化があり、気密性保持溝5の材料が溶射されたかの如く、切削加工面の上に肉盛りされていることが分かる。したがって、気密性保持溝5の溝の深さが実質的に大きくなっているから、金属部材2を異種部材3に一体に射出成形する際には、当該表面積が大きいので接合性が良好であった。
【0050】
更に、図2において、接合工程でレーザ加工された金属部材2としてのアルミニウム合金材2aが射出成形金型内にセットされ、合成樹脂材料3aが射出されて開口3bを含む異種部材3が形成される(ステップS5)。この射出成形によって合成樹脂材料3aの開口3bにアルミニウム合金材2aが接合され、気密性及び液密性が必要とされる方向(即ち、連続して一周する気密性保持溝5に垂直に交差する方向)に沿った接合面が細かい凹凸の連続する面となって、本実施例1に係る金属複合接合体1の接合境界面4が得られる。
【0051】
このように、接合境界面4を気密性が必要とされる方向Lにのみ連続して個々に一周する複数の凹凸とすることで気密性は良好になる。その理由を以下に述べる。
金属部材2に気密性保持溝5を一本形成すると気密性保持溝5の深さ方向である立面の2面と底面の1面の計3面が異種部材3との接合境界面4に新たな境界面として気密性が必要とされる方向に追加されることになる。そして立面の2面は底面及び気密性保持面5を形成する金属部材2の表面とは方向が異なっている。そして、気密性保持溝5は気密性が必要とされる方向Lに複数本形成されている。したがって、新たな境界面が6面以上、そのうち金属部材2の表面とは方向が異なる立面は4面以上が新たに接合境界面4に形成されていることになる。このように金属部材2と異種部材3との接合面を多く配することで、仮に接合面中1面の密着性が悪くなり流体の侵入が発生したときでも、他の多くの気密性保持溝5で形成される境界面が流体の侵入を阻止し、気密性の確保が可能となる。特に、本発明においては、接合境界面4の方向Lが立面の方向と底面及び金属部材2の表面方向が異なるようになっている。言い換えれば、連続した凹凸面になっている。このように接合境界面4の方向を繰り返し変えることにより、仮に、一方向に接合境界面4の密着性を悪化させる原因があったとしても他方向の接合境界面4の密着性は維持ができ、その結果、気密性を確保できるような構造になっている。また、気密性が必要とされる方向Lに対し接合境界面4を凹凸形状にすることで接合面積が増して接合力が向上することも気密性確保に役立っている。
【0052】
特に、レーザ加工の場合には、切削した気密性保持溝5の金属が厚さ方向の変化となって現れ、気密性保持溝5の材料が溶射されたかの如く切削加工面の上に肉盛りされているから、気密性保持溝5の溝の深さが実質的に大きくなり、接合される面積が広くなり、かつ、金属部材2と異種部材3との接合境界面4は接合されて、流体の移動が阻止とれるから、より良好なシール性が得られる。金属複合接合体1の気密性について、図4に示されるような気密性試験装置10を用いて試験を実施した。
【0053】
即ち、気密容器本体11の上部開口部12に金属複合接合体1をセットして、その上から押圧板13を乗せ、金属複合接合体1の下にパッキン14及びOリング15をセットして複数本のボルト16で締め付けた。そして、下部開口部17から圧縮空気を注入することによって、金属複合接合体1の金属部材2と異種部材3との間からの空気洩れの有無を確認した。
結果は、0.5MPaの圧縮空気を30秒間注入しても空気洩れは全くなく、金属複合接合体1の金属部材2と異種部材3とは、極めて高い気密性及び液密性を保持して接合されていることが明らかである。
【0054】
このようにして、本実施例1に係る金属複合接合体のシール構造及びその製造方法においては、気密性保持溝5が形成される前と比較して接合境界面4における気密性の高い接合が得られるとともに、金属部材2と異種部材3との接合境界面4の気密性を必要とする方向と交差する方向に沿って金属部材2の表面全周に所定ピッチで所定数の環状の気密性保持溝5を形成し、その気密性保持溝5との組み合わせ数を多くしているから、仮に、一分の密着性が維持できなくなっていても、気密性を必要とする方向の気密性保持溝5が複数設けてあるから、複数の気密性保持溝5が幾段にも形成され、接合境界面4の高い気密性及び液密性を確保することができる。
【0055】
[実施例2]
次に、本発明の実施例2に係る金属複合接合体のシール構造について、図5(a)を参照して説明する。図5(a)に示されるように、本実施例2に係る金属複合接合体1Aは、合成樹脂材料としての平板状のポリフェニレンスルフィド(PPS)材からなる異種部材3Aを、2枚の平板状の金属部材2Aとしてのアルミニウム合金材2aが貫通した構成を有している。
そして、2枚の平板状のアルミニウム合金材2aの四面には、それぞれ周囲に環状に、連続して気密性保持溝5Aがレーザ加工によって形成されている。
図5(a)に示されるように、アルミニウム合金材2aからなる金属部材2Aが射出成形されるPPS材からなる異種部材3Aと一体に接合されることによって、本実施例2に係る金属複合接合体1Aが構成される。
【0056】
即ち、アルミニウム合金材からなる金属部材2Aが射出成形金型内にセットされてPPS材からなる異種部材3Aと接触する部分である接合境界面4Aの範囲において、接合境界面4Aの気密性を必要とする方向と交差する方向に沿ってレーザスキャンを行い、100μmピッチで深さ5μm〜15μmの気密性保持溝5Aが形成される。
【0057】
次に、レーザ加工されたアルミニウム合金材からなる金属部材2Aが射出成形金型内にセットされてPPS材が噴出されて異種部材3Aと一体に成形されて接合する接合工程が実施される。
これによって、金属部材2Aと異種部材3Aとの気密性を必要とする方向に沿って金属部材2Aの接合境界面における表面を一周する気密性保持溝5Aを、気密性を必要とする方向に所定のピッチで複数形成している。このように気密性保持溝5Aの数を多くしているから、仮に、少しの気体または液体の侵入に対しても、残りの他の気密性保持溝5A等によって気密性を必要とする方向に遮蔽するから、接合境界面4Aの気密性を確保できる本実施例2に係る金属複合接合体1Aが得られる。
【0058】
このようにして、本発明の実施例2に係る金属複合接合体のシール構造及びその製造方法においては、気密性保持溝5Aが形成される前と比較して接合境界面4Aにおける気密性の高い接合が得られるとともに、気体、液体が侵入するための経路が遮断され、気体、液体が非常に洩れ難くなって、金属部材2Aと異種部材3Aとの高い気密性及び液密性を確保することができる。なお、実施例1及び実施例2ではアルミニウム合金の金属部材2、2Aを射出成形金型に予めインサートさせた後、異種部材3、3Aとして合成樹脂材のPPS材を射出成形して一体に接合させた金属複合接合体1、1Aであるが、この方法は、金属部材にステンレス等の溶融温度が高い材料を、異種部材に溶融温度が金属部材より低いアルミニウム等を用いて実施例1及び実施例2と同様に金属部材を金型にインサートさせた後異種材料を流し込むダイキャスティングにも適用できる。
【0059】
[実施例3]
次に、本発明の実施例3に係る金属複合接合体のシール構造について、図5(b)を参照して説明する。図5(b)に示されるように、本実施例3に係る金属複合接合体1Bは、円筒状のPPS材からなる異種部材3Bの内部に、円板状のアルミニウム合金材からなる金属部材2Bが接合された構成を有している。
そして、円板状のアルミニウム合金材からなる異種部材2Bの外周面には、気密性保持溝5Bがレーザ加工によって形成されている。
図5(b)に示されるように、かかるアルミニウム合金材からなる金属部材2Bが射出成形金型内にセットされ、PPS材からなる異種部材3Bを射出成形して一体に接合することによって、本実施例3に係る金属複合接合体1Bが構成される。
【0060】
即ち、金属部材2Bが異種部材3Bと接触する部分である接合境界面4Bの範囲において、接合境界面4Bの気密性を必要とする方向と交差する方向に沿ってレーザスキャンを行い、100μmピッチで深さ5μm〜15μmの気密性保持溝5Bが形成される。
次に、レーザ加工された金属部材2Bが異種部材3Bとされる接合工程が実施される。そして、レーザ加工された金属部材2Bが射出成形金型内にセットされて異種部材3Bが射出成形される、所謂インサート成形である樹脂成形工程が実施される。なお、レーザ加工条件及び射出成形条件は、上記実施例1と同様とした。
これによって、溶融状態の異種部材3Bが気密性保持溝5Bに入り込んで、金属部材2Bと異種部材3Bとが隙間なく接合され、本実施例3に係る金属複合接合体1Bが得られる。
【0061】
このようにして、本発明の実施例3に係る金属複合接合体のシール構造及びその製造方法においては、気密性保持溝5Bが形成される前と比較して接合境界面4Bにおける気密性の高い接合が得られるとともに、気体、液体が侵入するための経路がなくなるので、気体、液体が非常に洩れ難くなって、金属部材2Bと異種部材3Bとの高い気密性及び液密性を確保することができる。
【0062】
[実施例4]
次に、本発明の実施例4に係る金属複合接合体のシール構造について、図6(a)を参照して説明する。
図6(a)に示されるように、本実施例4に係る金属複合接合体1Cは、合成樹脂材料としての平板状のPPS材からなる異種部材3Cの2箇所の貫通穴6Cに、2枚の平板状のアルミニウム合金材からなる金属部材2Cが途中まで挿入された構成を有している。
そして、2枚の平板状のアルミニウム合金材からなる金属部材2Cの四面には、それぞれ気密性保持溝5Cがレーザ加工によって形成されている。
図6(a)に示されるように、かかるアルミニウム合金材からなる金属部材2CがPPS材からなる異種部材3Cと一体化することによって、本実施例4に係る金属複合接合体1Cが構成される。
【0063】
即ち、アルミニウム合金材からなる金属部材2CがPPS材からなる異種部材3Cと接触する部分である接合境界面4Cの範囲において、接合境界面4Cの気密性を必要とする方向と交差する方向に沿ってレーザスキャンして、100μmピッチで深さ5μm〜15μmの気密性保持溝5Cが形成されおり、金属部材2Cが異種部材3Cと接触する部分である接合境界面4Cの範囲において、金属部材2Cの表裏を接合境界面4Cの気密性を必要とする方向と交差する方向に沿ってレーザスキャンして、100μmピッチで深さ5μm〜15μmの気密性保持溝5Cを形成している。
【0064】
次に、レーザ加工されたアルミニウム合金材からなる金属部材2Cが射出成形金型内にセットされ、PPS材からなる異種部材3Cが射出成形され接合工程が実施される。
このようにして、本発明の実施例4に係る金属複合接合体のシール構造及びその製造方法においては、気密性保持溝5Cが形成される前と比較して接合境界面4Cにおける気密性の高い接合が得られ、気体、液体が侵入できなくなるから、気体、金属材料からなる金属部材2Cと異種部材3Cとの高い気密性及び液密性を確保することができる。
【0065】
[実施例5]
次に、本発明の実施例5に係る金属複合接合体のシール構造について、図6(b)を参照して説明する。
図6(b)に示されるように、本実施例5に係る金属複合接合体1Dは、円板状のアルミニウム合金材からなる金属部材2Dの中心に設けられた貫通穴6Dを塞ぐように、円板状の合成樹脂材料としてのPPS材からなる異種部材3Dが接合された構成を有している。
そして、円板状のアルミニウム合金材からなる金属部材2Dの中心に設けられた貫通穴6Dの周囲には、気密性保持溝5Dがレーザ加工によって同心円状に形成されている。
図6(b)に示されるように、かかるアルミニウム合金材からなる金属部材2DがPPS材からなる異種部材3Dと重ね合わせて超音波振動、マイクロ波等を付与して、金属部材2Dに異種部材3Dを溶融させて接合して一体化することによって、本実施例5に係る金属複合接合体1Dが構成される。
【0066】
即ち、アルミニウム合金材からなる金属部材2DがPPS材からなる異種部材3Dと接触する部分である接合境界面4Dの範囲において、接合境界面4Dの気密性を必要とする方向と交差する方向に沿って同心円状にレーザスキャンして、100μmピッチで深さ5μm〜15μmの気密性保持溝5Dが形成されている。
次に、レーザ加工されたアルミニウム合金材からなる金属部材2DにPPS材からなる異種部材3Dを重ね合わせて、超音波振動によって機械的加熱またはマイクロ波を加えることにより金属部材2Dを加熱し、または金属部材2Dを直接ヒーター等の熱源によって加熱することで異種部材3Dの接合境界面が溶融し、金属部材2Dに異種部材3Dが接合されて接合工程が実施される。
これによって、金属部材2Dと異種部材3Dは隙間がなく接合され、金属複合接合体1Dが得られる。
【0067】
このようにして、本発明の実施例5に係る金属複合接合体のシール構造及びその製造方法においては、気密性保持溝5Dが形成される前と比較して接合境界面4Dにおける気密性の高い接合が得られるとともに、気体、液体が侵入できなくなるから、金属部材2Dと異種部材3Dとの高い気密性及び液密性を確保することができる。
【0068】
[実施例6]
次に、本発明の実施例6に係る金属複合接合体のシール構造について、図6(c)を参照して説明する。
図6(c)に示されるように、本実施例6に係る金属複合接合体1Eは、合成樹脂材料としての円板状のPPS材からなる異種部材3Eの中心に設けられた貫通穴6Eを塞ぐように、円板状のアルミニウム合金材からなる金属部材2Eが接合された構成を有している。
そして、円板状のアルミニウム合金材からなる金属部材2Eの一面には、貫通孔6Eより大きな径を有する気密性保持溝5Eがレーザ加工によって同心円状に形成されている。
図6(c)に示されるように、かかるアルミニウム合金材からなる金属部材2EがPPS材からなる異種部材3Eと一体に接合されることによって、本実施例6に係る金属複合接合体1Eが構成される。この事例も、金属部材2Eと異種部材3Eとの接合は、異種部材3Eの上面に金属部材2Eを載置し、振動溶着によって異種部材3Eの金属部材2E に接する部分を溶融し、接合境界面4Eを隙間なく接着した事例である。
【0069】
即ち、金属部材2Eが異種部材3Eと接触する部分である組付境界面4Eの範囲において、接合境界面4Eの気密性を必要とする方向と交差する円状の気密性保持溝5Eが、気密性を必要とする方向に同心円になるように100μmピッチで、5μm〜15μmの深さにレーザスキャンされて形成される。次に、レーザ加工された金属部材2Eが異種部材3Eの上に実施例6と同様に金属部材2Eが加熱されることで異種部材3Eの接合境界面が溶融し、気密性保持溝5Eに充填されることで接合が成される。
これによって、アルミニウム合金材からなる金属部材2EとPPS材3からなる異種部材Eとが隙間なく接合され、本実施例6に係る金属複合接合体1Eが得られる。
【0070】
このとき、金属部材2Eと異種部材3Eとの、接合境界面4Eの気密性を必要とする方向に交差する方向に沿って、即ち流体が流動する方向に対し遮蔽する方向に沿って金属部材2Eの接合境界面の表面を一周する気密性保持溝5Eを気密性を必要とする方向、即ち、流体が流動する方向に所定の間隔で形成し、その配設数を多くしているから、複数の気密接保持溝5Eが幾段にも形成されることで流体の流動を阻止でき、仮に少しの気密性保持溝5Eに気体または液体の侵入が生じても、他の気密性保持溝5Eの接合面によって気密性を確保できる。
このようにして、本発明の実施例6に係る金属複合接合体のシール構造及びその製造方法においては、気密性保持溝5Eが形成される前と比較して接合境界面4Eにおける気密性の高い接合が得られるとともに、気体、液体が侵入する経路がなくなるから、金属部材2Eと異種部材3Eとの高い気密性及び液密性を確保することができる。
【0071】
本実施例に係る金属複合接合体のシール構造においては、金属部材2,2A,2B,2C,2D,2Eと非金属からなる異種部材3,3A,3B,3C,3D,3Eとを組み付けた金属複合接合体1,1A,1B,1C,1D,1Eのシール構造であって、金属部材2,2A,2B,2C,2D,2Eと異種部材3,3A,3B,3C,3D,3Eとの対向する接合境界面4,4A,4B,4C,4D,4Eにおいて、接合境界面4,4A,4B,4C,4D,4Eの気密性を必要とする方向と交差する方向に沿って金属部材2,2A,2B,2C,2D,2Eの表面に所定ピッチで所定深さの環状の気密性保持溝5,5A,5B,5C,5D,5Eを複数形成し、金属部材2,2A,2B,2C,2D,2Eと異種部材3,3A,3B,3C,3D,3Eを接合することによって、接合境界面4,4A,4B,4C,4D,4Eに気密性を持たせた。
【0072】
本発明に係る金属複合接合体のシール構造の製造方法において、金属部材2,2A,2B,2C,2D,2Eと異種部材3,3A,3B,3C,3D,3Eとを接合した金属複合接合体1,1A,1B,1C,1D,1Eのシール構造の製造方法であって、金属部材2,2A,2B,2D,2Eと異種部材3,3A,3B,3C,3D,3Eとの対向する接合境界面4,4A,4B,4C,4D,4Eにおいて、接合境界面4,4A,4B,4C,4D,4Eの気密性を必要とする方向と交差する方向に沿って金属部材2,2A,2B,2C,2D,2Eの接合境界面に所定深さの気密性保持溝5,5A,5B,5C,5D,5Eを、気密性を必要とする方向に所定のピッチで形成する気密性保持工程と、気密性保持溝5,5A,5B,5C,5D,5Eが形成された金属部材2,2A,2B,2C,2D,2Eの表面に異種部材3,3A,3B,3C,3D,3Eを接合する接合工程からなるものである。
【0073】
前述の密接させた金属部材2,2A,2B,2C,2D,2Eと異種部材3,3A,3B,3C,3D,3Eとの対向する接合境界面4,4A,4B,4C,4D,4Eの気密性を必要とする方向と交差する方向に沿って金属部材2,2A,2B,2C,2D,2Eの接合境界面に周状の気密性保持溝5,5A,5B,5C,5D,5Eを気密性を必要とする方向に沿って所定ピッチで複数形成し、気密性保持溝5,5A,5B,5C,5D,5Eに異種部材3,3A,3B,3C,3D,3Eを溶融させて侵入させることで接合するため、接合境界面4,4A,4B,4C,4D,4Eの気密性を確保できる。
特に、金属部材2,2A,2B,2C,2D,2Eと異種部材3,3A,3B,3C,3D,3Eとの接合の際に形成される面が接合境界面4,4A,4B,4C,4D,4Eの気密性を必要とする方向に沿って凹凸が連続する面となり、接合面積が大きくなり、気密性保持溝5,5A,5B,5C,5D,5Eが形成される前と比較して接合境界面4,4A,4B,4C,4D,4Eにおける気体、液体が侵入するための経路が形成されなくなるから、気体、液体が流動し難くなって気密性及び液密性が大幅に向上する。
【0074】
上記各実施例においては、金属材料としてアルミニウム合金を使用した場合のみについて説明したが、金属材料としてはこれに限られるものではなく、アルミニウム、マグネシウム、マグネシウム合金、鉄、鋼、ステンレス、銅、銅合金、ベリリウム、ベリリウム合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金等を用いることができる。
【0075】
また、上記各実施例においては、異種部材3,3A,3B,3C,3D,3Eとして合成樹脂材料であるポリフェニレンスルフィド(PPS)を使用した場合のみについて説明したが、異種部材3,3A,3B,3C,3D,3Eとしては合成樹脂材料に限られるものではなく、天然ゴム及び合成ゴムを含むエラストマー等や、金属部材に使用された金属材料以外の金属材料を用いることもできる。
【0076】
更に、上記各実施例においては、合成樹脂材料としてポリフェニレンスルフィド(PPS)を使用した場合のみについて説明したが、合成樹脂材料としてはこれに限られるものではなく、PPS以外のスーパーエンプラを始めとする熱可塑性樹脂や、熱硬化性樹脂を用いることもできる。
【0077】
また、上記各実施例においては、金属部材2,2A,2B,2C,2D,2Eの表面に気密性保持溝5,5A,5B,5C,5D,5Eを形成する方法として波長1.064μmのYVO4レーザを用いたレーザ加工法による場合についてのみ説明したが、レーザ加工法に用いられるレーザ光発振装置としてはYVO4レーザに限られるものではなく、波長1.064μmのYAGレーザ、波長10.6μmのCO2 レーザを始めとして、エキシマレーザ、アルゴンレーザ等の各種のレーザ光発振装置を用いることができる。
更に、金属部材2,2A,2B,2C,2D,2Eの表面に気密性保持溝5,5A,5B,5C,5D,5Eを形成する方法についても、レーザ加工法に限られるものではない。
【0078】
本発明を実施するに際しては、金属複合接合体1,1A,1B,1C,1D,1Eのその他の部分の材質、構成、形状、数量、大きさ、接続関係、製造方法等についても、金属複合接合体のシール構造の製造方法のその他の工程についても、上記各実施例に限定されるものではない。
【0079】
本発明を実施する場合は、射出成形工程を接合工程とすることができる。例えば、図2において、レーザ加工されたアルミニウム合金材2aが射出成形金型内にセットされて合成樹脂材料3aが射出成形される、所謂、インサート成形である射出成形工程(接合工程)が実施される(ステップS5)。射出成形条件としては、樹脂温度300℃〜340℃、射出圧力200MPa、保圧力80MPaで実施できた。
なお、PPS(融点280℃)からなる合成樹脂材料3aの射出成形は、樹脂温度が300℃〜340℃の範囲内、射出圧力が100MPa〜250MPaの範囲内、保圧力が30MPa〜100MPaの範囲内で実施されることが好ましい。
【0080】
これによって、図1に示すように、溶融状態の合成樹脂材料3aが気密性保持溝5に入り込んで、アルミニウム合金材2aと合成樹脂材料3aとが接合され、気密性及び液密性が必要とされる方向(即ち、気密性保持溝5に垂直に交差する方向)に沿った接合面が細かい凹凸の連続する面となって、本実施例1に係る金属複合接合体1が得られる。
得られた金属複合接合体1の気密性について、図4に示されるような気密性試験装置1
0を用いて試験を実施したが、結果は、上記実施例と同様であった。
【0081】
即ち、上記実施例では、接合について特定していないが、金属部材2,2A,2B,2C,2D,2Eと異種部材3,3A,3B,3C,3D,3Eの接合工程は、射出成形等の融着できる接合手段であればよい。
【0082】
何れにせよ、合成樹脂等の異種部材3,3A,3B,3C,3D,3Eの特徴である軽量化、絶縁性、金属部材2,2A,2B,2C,2D,2Eの特性である高強度、導電性、電磁波のシールド性とを適切に組み合わせれば、効率的に自動車部品や、電子部品等の要求機能を満足させる金属複合接合体1,1A,1B,1C,1D,1Eを設計、製作することができる。しかし、通常、電子部品では、吸湿した外気、雨の浸入、自動車部品においては冷却用オイルの洩れ防止のために気密性、液密性を持った複合化技術が要求されている。従来方法では接着剤を用いていたが、マスキングー塗布一接着部位への圧接一加熱冷却等の工程が必要とされていたが、本発明では不要となり工程の短縮が図れる。
【0083】
したがって、設計自由度が高く、流体に対して効率的に気密性、液密性を持たせる金属部材2,2A,2B,2C,2D,2Eと非金属からなる異種部材3,3A,3B,3C,3D,3Eとを組み付けた金属複合接合体1,1A,1B,1C,1D,1Eが得られ、幅広い応用及びその展開が可能となる。
【0084】
なお、本発明の実施例で挙げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は実施に好適な適正値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【符号の説明】
【0085】
1,1A,1B,1C,1D,1E 金属複合接合体
2,2A,2B,2C,2D,2E 金属部材
2a アルミニウム合金材料
3,3A,3B,3C,3D,3E 異種部材
3a 合成樹脂材料
4,4A,4B,4C,4D,4E 接合境界面
5,5A,5B,5C,5D,5E 気密性保持溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料の金属部材と前記金属材料とは物性が異なる異種材料の異種部材とを接合し、前記金属材料と前記異種材料との対向する接合境界面を有する金属複合接合体のシール構造であって、
前記金属部材の表面に前記接合境界面の気密性を必要とする方向と交差する方向に沿って一周する気密性保持溝を、前記接合境界面の気密性を必要とする方向に複数形成し、前記金属部材と前記異種部材とを溶融接合することにより、前記接合境界面に気密性を持たせたことを特徴とする金属複合接合体のシール構造。
【請求項2】
前記異種部材の前記異種材料は合成樹脂材料であり、前記金属部材に前記異種部材を射出成形することで溶融接合されていることを特徴とする請求項1に記載の金属複合接合体のシール構造。
【請求項3】
前記気密性保持溝は、レーザ加工法によって形成されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属複合接合体のシール構造。
【請求項4】
前記気密性保持溝は、2μm〜30μmの範囲内の深さであり、かつ20μm〜200μmの範囲内のピッチで複数形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の金属複合接合体のシール構造。
【請求項5】
金属材料の金属部材と前記金属材料とは物性が異なる異種材料の異種部材とを接合し、前記金属材料と前記異種材料との対向する接合境界面を有する金属複合接合体のシール構造の製造方法であって、
前記金属部材の表面に前記接合境界面の気密性を必要とする方向と交差する方向に沿って一周する気密性保持溝を、前記接合境界面の気密性を必要とする方向に複数形成する気密性保持溝形成工程と、
前記金属部材と前記異種部材とを溶融接合することにより、前記接合境界面に気密性を持たせる接合工程と
を具備することを特徴とする金属複合接合体のシール構造の製造方法。
【請求項6】
前記異種材料は合成樹脂材料であり、前記接合工程は前記合成樹脂材料の射出成形工程であることを特徴とする請求項5に記載の金属複合接合体のシール構造の製造方法。
【請求項7】
前記気密性保持溝形成工程は、前記金属材料のレーザ加工工程であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の金属複合接合体のシール構造の製造方法。
【請求項8】
前記気密性保持溝は、2μm〜30μmの範囲内の深さであり、かつ、20μm〜200μmの範囲内のピッチで複数形成されていることを特徴とする請求項5乃至請求項7の何れか1つに記載の金属複合接合体のシール構造の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−240685(P2011−240685A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117165(P2010−117165)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】