説明

金属酸化物微粒子粉末、金属酸化物微粒子の製造方法および製造システム

【課題】低コストで、かつ量産化が可能なナノサイズの金属酸化物粉末の製造システムおよび製造方法ならびに該製造方法によって得られた金属酸化物粉末を提供する。
【解決手段】金属酸化物前駆体溶液を噴霧する工程、噴霧された金属酸化物前駆体溶液をパルス燃焼ガスに接触させると同時に高温雰囲気下に接触させる工程からなる金属酸化物微粒子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性が高く、凝集性が抑制されたナノサイズの金属酸化物微粉末およびその製造方法および製造システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子材料分野では、その原料粉末をナノスケール(100nm以下)に微細化を図ることで、微細加工、性能の向上などが期待されている。例えば、構造体において、結晶粒を微細化させるほど結晶粒界が増大して強度アップなど特性が向上する。ガス・センサにおいては、原料粉末の粒径を微細化することにより、作動可能温度の低下、感度、応答性の向上が期待されている。
【0003】
また、酸化亜鉛のナノ粒子は、紫外線遮蔽能に優れ、また、特有の発光能を有すること等から、各種材料の充填材、顔料、紫外線遮蔽膜、反射防止膜、発光膜等の光学機能膜等として各種用途に用いられている。
【0004】
従来のナノサイズの金属酸化物微粉末の製造方法は、大きく分けて、気相合成法と液相合成法に分けられる。
【0005】
たとえば、特許文献1には、気相合成法の技術が開示されている。気相合成法の技術としては、気相中で原料をプラズマにより化学反応させ粒子を生成させる方法(CVD法)などがある。
【0006】
また、特許文献2には、液相合成法の技術が開示されている。液相合成法の技術としては、ゾルゲル法、均一沈殿法、水熱合成法などがある。また、原料液滴を高温の雰囲気下に噴霧して熱分解させることにより球状粒子を生成させる噴霧熱分解法がある。
【0007】
また、特許文献3には、パルス燃焼ガスによる金属酸化物粉末の製造方法の技術が開示されている。
【0008】
また、特許文献4には、パルス燃焼システムによって得られたパルス燃焼ガスによるアルカリ金属の微粒子製造方法の技術が開示されている。
【0009】
しかし、特許文献1の技術では、製造コストが高く、工業化が困難である。
【0010】
また、特許文献2の技術では、噴霧にネブライザーのような超音波振動子を利用し、その噴霧する液滴の大きさにより粒子径が決まるため、原料を希薄溶液から製造する必要があり、工業的にコストが高く、量産化は困難である。
【0011】
また、特許文献3の技術では、パルスリアクタだけでの加熱では結晶化が不充分であり、後加熱処理を加えた場合においても、金属酸化物微粒子が粒子凝集しやすく、ナノサイズの金属酸化物微粒子を得るためには、後処理で得られた粉末をエアジェットミルなどの粉砕機を用いて粉砕する必要であり、製造システムが煩雑化するという問題がある。
【0012】
また、特許文献4には、単にパルス燃焼システムによって得られたパルス燃焼ガスによるアルカリ金属の微粒子を製造することが記載されているにすぎず、特許文献3同様、パルス燃焼システムによる加熱では結晶化が不充分であるという技術的課題の認識はない。よって、特許文献4の技術では、ミクロンオーダーでの微粒子は得られるものの、ナノオーダーの単結晶を得るのは困難である。
【0013】
【特許文献1】特開2005−132716号公報
【特許文献2】特開2003−19427号公報
【特許文献3】特表2004−526653号公報
【特許文献4】特開平8−40720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、低コストで、かつ量産化が可能なナノサイズの金属酸化物粉末の製造システムおよび製造方法ならびに該製造方法によって得られる結晶性または蛍光強度の高い金属酸化物粉末を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであり、原料の金属酸化物前駆体溶液を噴霧し、それをパルス燃焼ガスに接触させると同時に高温雰囲気下に接触させることによって、結晶性または蛍光強度の高い金属酸化物微粒子を得るとともに、該金属酸化物微粒子の製造方法、および製造システムを提供することを目的とする。
【0016】
本発明の第1の態様にかかわる金属酸化物微粒子の製造方法は、金属酸化物前駆体溶液を噴霧する工程、噴霧された金属酸化物前駆体溶液をパルス燃焼ガスに接触させると同時に高温雰囲気下で熱分解させる工程からなる。
【0017】
本発明の第2の態様にかかわる金属酸化物微粒子は、一次粒子径が2〜100nmである。
【0018】
本発明の第3の態様にかかわる金属酸化物微粒子の製造システムは、パルス燃焼を発生させるパルスエンジンと、該パルスエンジンにおける燃焼が安定した後に、前記ノズルの出口側と連通した混合室内でノズルを介して原料液体を該パルス燃焼と接触させる噴霧器と、該パルス燃焼と接触した原料液体または原料前駆体溶液を高温雰囲気下で熱分解させる熱分解炉、および該熱分解炉で得られた金属酸化物微粒子を捕集するための捕集装置からなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の金属酸化物微粒子の製造方法によると、パルス燃焼ガスと接触させることにより、原料の噴霧液滴が瞬間的に微細な液滴に分割され、さらに同時に熱分解炉などの高温雰囲気下にパルス燃焼ガスで微細化された液滴を滞留させることで、噴霧された原料無機金属前駆体は、導入されている空気中の酸素と反応して、ナノサイズの金属酸化物微粒子を得ることが可能となる。その噴霧はネブライザー、アトマイザー、二流体ノズル等、いずれにおいても効果があり、処理量が増えてもスケール要因が少なく、工業的に量産が可能となる。また、その機構は明確ではないが、得られた粒子は、凝集の少ない単結晶の分散した、結晶性の高いナノサイズの金属酸化物微粒子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、1種類以上の金属酸化物または金属酸化物前駆体を含む液体またはスラリーを噴霧する工程、噴霧された液滴にパルス燃焼ガスを接触させる工程、パルス燃焼ガスにより微細化された液滴を高温雰囲気下にせしめることにより金属酸化物を生成する工程からなる金属酸化物微粒子の製造方法、およびそれにより生成したナノサイズの金属酸化物微粒子に関する。
【0021】
無機金属酸化物としては、例えばZrO2、Y23、MgO、CeO2、CaO、Al23、SiO2、TiO2、Fe23、FeO、NiO、CoO、CuO、ZnO、MnO、PbO、BaO、SrO、Mn23、Cr23、La23、Pr23、In23、SnO2、WO3、NdO3、やその他の遷移金属酸化物を含めた無機金属酸化物があげられる。また金属酸化物前駆体としては、上記酸化物の硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、および塩化物、水酸化物、アルコキシド化合物などの塩などがあげられる。水溶性塩としては、例えば、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、および塩化物、水酸化物、アルコキシド化合物などの塩などがあげられ、水難溶性ないしは不溶性塩としては、水酸化物、炭酸塩等があげられる。前駆体としては水溶性の塩が好ましい。これらの化合物は単独で用いても2種以上併用してもよい。これらの化合物は単独で用いても2種以上の複合無機金属化合物として用いてもよい。
【0022】
無機金属化合物の原料溶液またはスラリーは、これら原料とそれを溶解あるいは分散ないし懸濁させる媒体とを混合することにより調製される。ここで使用される溶媒としては、水、アルコール、水/アルコール混合溶液、メチルエチルケトン/水混合液、トルエンなどをあげることができる。これらの中でも、経済性、安全性の点から、水または水/アルコール混合溶液が好ましい。
【0023】
無機金属化合物の原料溶液またはスラリーを調製するときに使用される溶媒としては、水、アルコール、水/アルコール混合溶液、メチルエチルケトン/水混合液、トルエンなどをあげることができる。これらの中でも、経済性、安全性の点から、水または水/アルコール混合溶液が好ましい。
【0024】
無機金属化合物を溶解または分散させて、原料溶液およびスラリーにするときの無機金属化合物の固形分濃度は、乾燥物換算で、0.01〜70重量%が好ましく、0.1〜20重量%がより好ましい。無機金属化合物の濃度が0.01重量%より小さいと、乾燥物が希釈されるために経済性の点から好ましくない。一方、無機金属化合物の濃度が70重量%より大きいと、スラリーまたは溶液の粘度が上昇し、噴霧することが困難になり、また得られる粒子径が大きくなる傾向がある。
【0025】
原料の金属酸化物前駆体溶液を噴霧する方法としては、超音波によるネブライザー噴霧方式、高速回転板に液滴を滴下させて微細液滴化させるアトマイザー方式、ノズルに高圧空気で微細化させる二流体ノズル方式等、いずれにおいても効果があるが、好ましくは、二流体ノズルが液滴の大きさ、処理量の観点から好ましく、スケール要因が少なく、工業的に量産が可能となる。
【0026】
本発明の金属酸化物微粒子の製造方法において、噴霧された液滴を衝撃波燃焼ガスとの接触により、さらに微細化をさせているが、衝撃波とは圧縮性流体中において圧力、密度、温度などが急激に上昇下降を繰り返す状態をいい、超音波、爆発に伴う圧縮液、物体の高速移動、などを用いることができる。この衝撃波発生の手段として、パルス燃焼ガスへの接触は単一の手段で衝撃波の付与および加熱の両者を同時に達成できるので特に好ましい。パルス燃焼ガスは、通常毎秒50〜1000回のサイクルで脈動する燃焼ガスである。パルス燃焼ガスを発生するパルスエンジンとしては、たとえば、前述の特許文献4に記載された乾燥装置があげられる。
【0027】
以下、本発明におけるパルス燃焼ガスの発生機構、原料液体の微細化機構に関して、図1を用いて例示する。
【0028】
図1に示すパルスエンジン1は、燃焼室6と燃焼室6下部に接続された混合室7から構成され、パルスエンジン1と熱分解炉2は直接接続されている。
【0029】
燃焼室6に、空気供給管10を介して空気13およびガス供給管11を介して燃料14が供給される。次に、イグニッションプラグ12を用いて点火する。燃焼は爆発を伴い、燃焼室6下部から炎が発生する(バーナー燃焼)。また、燃焼室6の壁は1200℃の高温に達する。
【0030】
爆発により、燃焼室6の内部は高圧となり、一時的に空気13および燃料14の供給が止まる。また。爆発で生じる高温の燃焼排気ガスは、そのほとんどが混合室7側へ排気される。その後、再び燃焼室6の内部の圧力が低下することにより、前述の燃焼排気ガスの一部が逆流するとともに、再び空気13および燃料14が供給され、燃焼室6自身の充分熱せられた壁との接触もしくはイグニッションプラグ12による点火により再び爆発が起こる。
【0031】
同様にして、この動作は連続的に繰り返され、一旦燃焼室6が所定の温度に達すると、以後はイグニッションプラグ12を用いずとも燃焼室内の残り火により自動的に点火する。
【0032】
このようにしてパルスエンジン1内に生ずるパルス燃焼ガス9は、主として燃焼室6から混合室7側の方向に伝わる強い音波を発生する。同時に、爆発の繰り返しによって約1200℃の高温ガスの衝撃流が得られるが、外気等の影響により、燃焼室下部の混合室7内でのガス温度は約400〜500℃である。この際、燃焼室6下部からは炎がでず、無炎燃焼となる。
【0033】
燃焼室6下部に接続された混合室7にて、原料液体または原料前駆体溶液8は噴霧器3およびノズル5を介して、パルス燃焼ガス9雰囲気中へ熱分解炉2方向に噴霧される。
【0034】
なお、ノズル5は、ネブライザー、アトマイザー、二流体ノズル等であり、形状や種類により特に限定するものではない。
【0035】
噴霧された原料液体または原料前駆体溶液8は、パルス燃焼ガス9の熱風乾燥効果ならびに音圧や圧力を含む脈動作用による物理的衝撃特性によって、微細な液滴に分割される。ノズル5から噴霧される原料液体または原料前駆体溶液8の液柱あるいは液柱が分裂した後の液滴の表面に衝撃波が作用し、液柱や液滴の表面に発生した複数の波同士の衝突により液柱が分裂し、さらに液滴が再分裂されるために、単にノズルや回転円盤などの噴霧手段のみを用いる場合には得られない微細で粒径分布がシャープな液滴が生成する。
【0036】
さらに熱分解炉2などの高温雰囲気下にパルス燃焼ガス9で微細化された液滴を滞留させることで、噴霧された原料液体または原料前駆体溶液8は、導入されている空気中の酸素と反応して、ナノサイズの金属酸化物微粒子を得ることが可能となる。
【0037】
パルスエンジン1により発生するパルス燃焼ガス9の周波数範囲は、好ましくは50〜1000Hz、より好ましくは100〜900Hz、さらに好ましくは125〜550Hzである。周波数が50Hz未満であると、低周波数による振動障害を生じるおそれがある。また、周波数が1000Hzをこえると、充分な微細化効果を得ることができない傾向がある。
【0038】
パルス燃焼ガス9の圧力振幅は、好ましくは±0.2kg/cm2以上、より好ましくは±0.4kg/cm2以上、さらに好ましくは±0.6kg/cm2以上である。圧力振幅が±0.2kg/cm2未満であると、液滴粒子の微細化効果が充分に得られない傾向がある。
【0039】
パルス燃焼ガス9の音圧は、好ましくは100〜200dB、より好ましくは120〜160dB、さらに好ましくは140〜150dBである。音圧が100dB未満であると、分散した粒子近傍での音波による空気の繰返し減圧作用による充分な撹拌作用や乾燥作用が得られない傾向がある。また、音圧が、200dBをこえると、防音対策に多大の費用を要する傾向がある。
【0040】
パルス燃焼ガス9の接触ガス温度は、好ましくは100〜1500℃、より好ましくは150〜700℃、さらに好ましくは200〜500℃である。接触ガス温度が100℃未満であると、衝撃波が安定せず、微粒子化が不充分となる傾向がある。また、接触ガス温度が1500℃をこえると、装置として保温等の付帯設備が大きくなり、微細化させる速度以上に乾燥が進行するため、充分な微細化が行われない可能性がある。
【0041】
高温雰囲気を付与する方法としては、電気炉、雰囲気炉、ガス炉または電磁誘導炉などがあげられるが、これらに限定されるものではない。形状としては、熱伝導と気流の流れを考慮し、セラミックス等の耐熱性を持つ管状炉があげられるが、これに限定されるものではない。電気制御式のセラミックス製管状電気炉が温度制御、耐熱耐食等の観点で好ましい。
【0042】
高温雰囲気は、空気中や酸素を含む気体中で行なわれる。雰囲気温度は、無機金属酸化物の結晶化温度以上であれば、用途に応じて、生成する結晶系、粒子の大きさおよび凝集の度合いなどが好ましい範囲となるよう適宜選択される。焼成温度としては、例えば200〜1400℃が好ましく、300〜1000℃がより好ましい。焼成温度が低い場合は、結晶化が進まない傾向がある。一方、焼成温度が高すぎると、異常粒成長などが生じる傾向がある。
【0043】
得られた微粒子の捕集方法としては、公知の捕集方法を用いることができ、例えば、サイクロンやバグフィルターを用いるフィルター式や、静電捕集器を用いる静電捕集式などがあげられる。得られる微粒子の粒径により、工業的にはバグフィルターが好ましい。
【0044】
本発明により製造される複合微粒子の平均粒径は、原料の種類、調製した溶液、濃度、パルス衝撃波の条件、用途によって変化するが、1〜100nmが好ましく、さらに2〜50nmがより好ましい。微粒子の平均粒径が1nmより小さいと粒子の凝集がおきやすい傾向があり好ましくない。平均粒径が100nmより大きいと目的とした特性が出にくく好ましくない。
【0045】
本発明により製造される複合微粒子は、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察写真より、結晶構造がはっきり現れており、高い結晶性を持っていることがいえる。
【0046】
本発明によると、原料の金属酸化物前駆体溶液を噴霧し、それをパルス燃焼ガスに接触させると同時に高温雰囲気下に接触させることにより、結晶性の高いナノサイズの金属酸化物微粒子を得ることができる。
【0047】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
実施例1
図2は本発明の金属酸化物微粒子の製造システムの構成の概要を示すブロックダイアグラムである。図2を参照すると、本発明の金属酸化物微粒子の製造システムは、パルス燃焼ガス9を発生させるパルスエンジン1と、該パルスエンジン1における燃焼が安定した後に、原料液体または原料前駆体溶液8を、ノズル5を介して該パルス燃焼ガス9と接触させる噴霧器3と、該パルス燃焼ガス9と接触した原料液体または原料前駆体溶液8を高温雰囲気下で熱分解させる熱分解炉2、および該熱分解炉2で得られた金属酸化物微粒子を捕集するための捕集装置4から構成されている。図3は本発明にかかわる金属酸化物製造システムの構成要素の配置を示す説明図である。本実施例では、まず、酢酸亜鉛2水和物22gと水978gを混合して、原料となる水溶液を調製した。つぎに図3に示されるとおりのパルスエンジン1と熱分解炉2とを組合せた装置を用いて金属酸化物微粒子の捕集を実施した。図3に示されるように、燃料14(例えばプロパンガスやメタンガス)と空気13(供給量は、約15L/min)をパルスエンジン1(直径40mm、長さ150mm)に供給し、着火させた後、パルスエンジン1内の燃焼にパルス(脈動)を与え、当該パルス燃焼ガス10が安定化された後、噴霧器3(噴霧液滴導入器)を介してノズル5から前記酢酸亜鉛の水溶液(原料)が噴霧(噴霧速度は、0.4kg/Hr)され、さらに熱分解炉2(アルミナ製 直径70mm、電気加熱式の加熱器によって当該原料が熱分解されたのち、配管P1を介して、ポンプPPによって捕集装置4に導かれ、当該捕集装置4によって微粒子を捕集した。なお、捕集方法の例として、バグフィルター(フィルター方式)もしくは静電捕集装置(静電方式)があげられる。本実施例では、噴霧器3は超音波式のネブライザーまたは二流体ノズルで発生した噴霧液滴を使用し、熱分解炉2内の温度は400℃に設定し、微粒子の捕集するための捕集装置4として静電捕集装置を使用した。
【0049】
なお、捕集装置4の種類としては、上記の静電捕集装置以外にも、サイクロンや、バグフィルターを用いることができ、これらは組み合わせて使用することもできる。
【0050】
パルス燃焼が安定化した後、酢酸亜鉛の水溶液を噴霧して、白色の微粉末を静電捕集装置で得た。図4は、本発明の実施例1で得られた微粒子のTEMでの写真である。(a)と(b)はそれぞれ倍率が異なる。図4より、結晶子15がそれぞれ明確に観察されることから、単分散の結晶性の高いナノサイズの金属酸化物微粉末の結晶子が得られていることがわかった。また、X線回折装置(以下、XRDと略す)で測定を行い、半価幅より結晶子15の大きさを計算したところ、32nmであった。
【0051】
実施例2
実施例1と同様に酢酸亜鉛水溶液を調製し、熱分解炉2は400℃に設定した。噴霧液滴導入器に二流体ノズルを設置して噴霧を行い、金属酸化物粉末を得た。TEMでの写真よりナノサイズの微粒子であり、XRD測定により、結晶子の大きさは47nmであった。
【0052】
比較例1
酢酸亜鉛水溶液を実施例1と同様の装置にて、パルス燃焼を行わずに、熱分解炉2は400℃に設定し通常の噴霧熱分解を行い、微粉末を得た。図5は、本発明の比較例1で得られた微粒子のTEMでの写真である。図5の(a)と(b)は、それぞれ倍率が異なる。図5(a)より、多くの結晶子が凝集していることがわかり、図5(b)より、凝集物には、非晶質16、不完全な結晶子17が含まれていることがわかった。パルス燃焼ガス9に接触させない場合、多結晶の凝集物が得られることがわかった。また、XRD測定により、結晶子の大きさは15nmであり、結晶性が低いことがわかった。
【0053】
実施例3
硝酸セリウム6水和物43gと水957gを混合して、水溶液を調製し、実施例1と同様の装置で、熱分解炉2は500℃に設定した。パルス燃焼が安定化した後、二流体ノズルにて噴霧を行い、金属酸化物粉末を得た。
【0054】
比較例2
硝酸セリウム水溶液を実施例3と同様の装置にて、パルス燃焼を行い、熱分解炉2は加熱せずに乾燥を行い、微粉末を得た。
【0055】
比較例3
硝酸セリウム水溶液を実施例3と同様の装置にて、パルス燃焼を行わずに、熱分解炉2は500℃に設定し通常の噴霧熱分解を行い、微粉末を得た。
【0056】
図6は、本発明の実施例3、比較例2および比較例3のXRD測定の結果である。図6より、同一面におけるピーク強度およびピーク幅を比較すると、実施例3のXRD測定結果18は、比較例2のXRD測定結果19および比較例3のXRD測定結果20よりもピーク強度が大きく、ピーク幅が小さかった。つまり、結晶性が高い微粒子が得られることがわかった。
【0057】
実施例4
硝酸セリウム6水和物43gと硝酸ジルコニウム6水和物27gと硝酸イットリウム6水和物38gと水892gを混合して水溶液を調製し、実施例1と同様の装置で、熱分解炉2は600℃に設定した。噴霧液滴導入器に二流体ノズルを設置して噴霧を行い、金属酸化物粉末を得た。電界放射形走査電子顕微鏡(以下、FE−SEMと略す)で観察したところ、凝集の少ないナノサイズの一次粒子の微粒子が得られていることがわかった。
【0058】
比較例2
硝酸セリウムと硝酸ジルコニウムと硝酸イットリウム混合水溶液を実施例4と同様の装置にて、パルス燃焼を行わずに、熱分解炉2は600℃に設定し通常の噴霧熱分解を行った。FE−SEMで観察したところ、凝集した粒子であることがわかった。
【0059】
また、金属酸化物が、TiO2、ZrO2、Y23、Al23、SiO2、他の遷移金属酸化物の場合においても、単分散の結晶性の高いナノサイズの金属酸化物微粉末の結晶を得た。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の方法に用いるパルスエンジンと熱分解炉を示す説明図である。
【図2】本発明の方法に用いる金属酸化物微粒子の製造システムの構成の概要を示すブロックダイアグラムである。
【図3】本発明の方法に用いる金属酸化物製造システムの構成要素の配置を示す説明図である。
【図4】本発明の方法を用いて得られた金属酸化物微粒子の透過型電子顕微鏡での写真である。(a)と(b)はそれぞれ倍率が異なる。
【図5】本発明の比較例1で得られた金属酸化物微粒子の透過型電子顕微鏡での写真である。(a)と(b)はそれぞれ倍率が異なる。
【図6】本発明の方法を用いて得られた金属酸化物微粒子のX線回折測定の結果である。
【符号の説明】
【0061】
1 パルスエンジン
2 熱分解炉
3 噴霧器
4 捕集装置
5 ノズル
6 燃焼室
7 混合室
8 原料液体または原料前駆体溶液
9 パルス燃焼ガス
10 空気供給管
11 ガス供給管
12 イグニッションプラグ
13 空気
14 燃料
15 一次粒子
16 非晶質
17 不完全な結晶子
18 実施例3のXRD測定結果
19 比較例2のXRD測定結果
20 比較例3のXRD測定結果
CH 加熱ヒーター
FD 流れ方向
P1 配管
PP ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)パルスエンジンにより発生した燃焼ガスを該パルスエンジンのノズルを介して混合室内に排出する工程、
(b)金属酸化物前駆体溶液を前記混合室内に噴霧し、パルス燃焼ガスに接触させる工程、および
(c)前記工程(b)においてパルス燃焼ガスに接触した噴霧状の金属酸化物前駆体溶液を高温雰囲気下で熱分解する工程
からなる金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項2】
パルス燃焼ガスが、周波数範囲50〜1,000Hz、圧力振幅±0.2kg/cm2以上、音圧100〜200デシベルおよび接触ガス温度100〜1,000℃で、パルス燃焼ガスとの接触時間が0.01〜5秒であり、高温雰囲気が200〜1600℃である請求項1記載の金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項3】
金属酸化物が、ZnO、TiO2、CeO2、ZrO2、Y23、Al23、SiO2、遷移金属酸化物の1種もしくは2種以上である請求項1または2記載の金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項4】
金属酸化物前駆体が、金属酸化物の水溶性塩あるいは水難溶性ないしは不溶性塩である、請求項1または2記載の金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法により得られる一次粒子径が2〜50nmである金属酸化物微粒子。
【請求項6】
パルス燃焼を発生させるパルスエンジンと、該パルスエンジンにおける燃焼が安定した後に、前記ノズルの出口側と連通した混合室内でノズルを介して原料液体を該パルス燃焼と接触させる噴霧器と、該パルス燃焼と接触した原料液体を高温雰囲気下で熱分解させる熱分解炉、および該熱分解炉で得られた金属酸化物微粒子を捕集するための捕集装置からなる金属酸化物微粒子の製造システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−303111(P2008−303111A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151841(P2007−151841)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【出願人】(302010884)パルテック株式会社 (5)
【Fターム(参考)】