説明

金属錯体を介しての治療化合物の細胞ターゲティング装置への結合方法

本発明は、ターゲティング部分および送達可能化合物を有する細胞ターゲティング複合体であって、前記ターゲティング部分および前記送達可能化合物が、前記ターゲティング部分の反応サイトとの配位結合を形成する少なくとも第1の反応部分を有し、かつ前記送達可能化合物の反応サイトとの配位結合を形成する少なくとも第2の反応部分を有する(遷移)金属イオン錯体によって結合され、前記送達可能化合物が治療化合物であることを特徴とする細胞ターゲティング複合体に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は薬物ターゲティングの分野にあり、特に、選択した細胞集団への薬物のターゲティングおよび細胞ターゲティング部分を有する医薬組成物に関する。
【0002】
発明の背景
薬物のサイト特異的または標的送達は、治療効果の改良および薬物毒性の低減に価値ある手段であると考えられる。非標的薬物化合物は通常、全身拡散および受動拡散または細胞膜を超えるレセプタ介在摂取によって対象とする標的細胞に達するが、標的薬物は主に標的組織に到着(home-in)して集中する。結果として、標的薬物はより少ない用量でありながら、薬物が標的細胞内で治療的に有効なレベルに達し得ることが要求される。細胞膜を容易に通過するのを促進し、その特徴が薬物の他の要求に常に従うわけではない親油性は、非標的薬物に好ましいが、標的薬物にはあまり関連しない。したがって、薬物の特異的細胞へのターゲティングは、特異性を高め、全身毒性を減少させ、全身薬としては原則としてあまり適さないか適していない化合物の治療的使用を可能にするための、概念的に魅力的な方法である。
【0003】
一般に、薬物送達技術は、薬物の生体内環境との相互作用を改めることを目的としており、薬物と他の分子との結合、マトリックス内もしくは粒子内への薬物の取込み、または単に他の薬剤との同時投与によってその目的を達成する。最終結果は、その生物学的利用能が向上し、患者内での臨床副作用の発生が低減するような薬物ターゲティングまたは生物学的障壁を超えた促進薬物移送のいずれかである。薬物ターゲティングは、薬物の生体内分布における変化が所望のサイトでの薬物蓄積をもたらす場合に達成され、そのサイトは投与サイトから概して離れている。
【0004】
原則的に、薬物の細胞選択的送達は、薬物分子をターゲティング部分(罹患組織の標的細胞によって特異的に認識される化学作用部分を有する高分子キャリア)とカップリングさせることによって得ることができる。しかし、現在のところ、そのような細胞特異的薬物ターゲティング調製物は、主要な技術的諸問題があるためほとんど利用されていない。適した薬剤およびターゲティング分子の利用可能性は別として、治療薬剤とターゲティング装置との結合がしばしば重要な問題をもたらす。たとえば、従来の結合化学には化学的によく反応する基が存在しないのかも知れないし、化学的によく反応する基が(豊富に)存在しても、共有結合がカップリングした治療薬剤の生物活性を(不可逆的に)阻害するのかも知れない。
【0005】
発明の要約
本発明は、治療化合物の、ターゲティンググループとの改良したカップリングを提供する。
【0006】
第1の側面において、本発明はターゲティング部分および送達可能化合物を有する細胞ターゲティング複合体を提供し、前記ターゲティング部分および前記送達可能化合物は、前記ターゲティング部分の反応サイトとの配位結合を形成する少なくとも(第1の)反応部分を有し、かつ前記送達可能化合物の反応サイトとの配位結合を形成する少なくとも(第2の)反応部分を有する(遷移)金属イオン錯体によって結合され、前記送達可能化合物は治療化合物である。好ましい実施形態において、金属イオン錯体は白金錯体である。白金錯体はtrans白金錯体であってもよいし、またはcis白金錯体であってもよい。cis白金錯体はさらに、好ましくは安定化ブリッジ(bridge)として不活性の2配位性(bidentate)部分を有する。別の好ましい実施形態において、(白金)金属イオン錯体は安定化ブリッジとして3配位性(tridentate)部分を有する。前記金属イオン錯体の別の実施形態において、前記錯体は、同じであろうとなかろうと、少なくとも2つの(遷移)金属イオンを有する。ターゲティング部分および送達可能化合物の反応サイトは、(遷移)金属イオン錯体との(配位)結合を形成することができる。したがって、好ましい実施形態において、ターゲティング部分および/または送達可能化合物は1つ以上の硫黄含有反応サイトおよび/または1つ以上の窒素含有反応サイトを有する。
【0007】
ターゲティング部分は好ましくは結合対のメンバを有する。好ましい実施形態において、ターゲティング部分は、抗体またはその部分(たとえば一本鎖Fabフラグメント)、レセプタリガンドを有する。結合対は金属イオン錯体と直接的に、またはスペーサもしくは連結分子を介して結合することができる。非常に適した連結分子は、好ましくはHSAまたはアビジンといった高分子キャリアである。このような例において、高分子キャリアは金属イオン錯体に直接的または間接的に結合することができ、高分子キャリアはさらに結合対のメンバを搭載して複合体のターゲティングを促進することができる。金属イオン錯体−送達可能化合物複合体および特定の結合対のメンバの双方が結合する高分子キャリアを有するターゲティング複合体の例を、以下の記載に例示する。高分子キャリアがたとえばPEGなどの追加の機能性付与化合物を有する他の実施形態が、記載および例から明らかになるだろう。別の好ましい実施形態において、ターゲティング部分はたとえばリゾチームまたは他のあらゆるたんぱくなどの低分子量たんぱくを有する。
【0008】
送達可能化合物は本発明の細胞ターゲティング複合体の好ましい実施形態において、たんぱく、より好ましくは組換えたんぱくを有し得る。金属イオン錯体との結合を促進するために、(組換え)たんぱくは好ましくは、ヒスチジン、メチオニンおよびシステインから選ばれる少なくとも1つの残基を有し、メチオニン残基およびシステイン残基は硫黄含有反応サイトとして機能し、ヒスチジン残基は窒素含有反応サイトとして機能する。非常に好ましいのはヒスチジン残基またはメチオニン残基を有するたんぱくである。
【0009】
代わりに、送達可能化合物は小分子、ペプチド、(si)RNA、アンチセンス(オリゴ)ヌクレオチド、またはその修飾および組合せを有するか、それ(ら)であってもよい。
【0010】
低分子量たんぱくの好ましい実施形態において、前記たんぱくはヒトを含む哺乳類の腎臓に蓄積する。特に好ましい実施形態はリゾチームである。
【0011】
さらに他の好ましい実施形態において、送達可能化合物は細胞システム内のシグナル伝達系を阻害するか、抗炎症活性、抗昇圧活性、抗線維化活性、抗血管新生活性、抗腫瘍活性またはアポトーシス誘導活性を有する。
【0012】
さらに他の好ましい実施形態において、送達可能化合物は抗炎症化合物、好ましくはペントキシフィリンまたはPDTCである。
【0013】
さらに他の好ましい実施形態において、送達可能化合物は抗昇圧薬、好ましくはロサルタンである。
【0014】
さらに他の好ましい実施形態において、送達可能化合物はキナーゼ阻害薬、好ましくはPTKI、SB202190、PTK787、TKI、Y27632またはAG1295である。
【0015】
さらに他の好ましい実施形態において、送達可能たんぱくは治療用たんぱく、より好ましくはサイトカインまたは増殖因子である。代わりに、治療用たんぱくがTNF関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)であってもよい。さらに別の代案において、たんぱくがIL-10、アルカリホスファターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、免疫グロブリンもしくはその一部(たとえば一本鎖Fabフラグメントまたは全IgG(whole IgG))、ラクトフェリン、キサンチンオキシダーゼまたはTNFαであってもよい。
【0016】
さらなる側面において、本発明はここに記載される細胞ターゲティング複合体を有する医薬組成物、および対象とする用途に対する薬学的に許容できる製剤を提供する。
【0017】
さらに別の側面において、本発明は薬剤として用いるための、前述の細胞ターゲティング複合体を提供する。
【0018】
さらなる側面において、本発明は、ターゲティング部分と送達可能化合物とを連結するための、配位結合を形成することができる(遷移)金属イオン錯体の使用を提供する。この側面の好ましい実施形態において、金属イオン錯体は白金錯体である。ここでも、白金錯体はtrans白金錯体であってもよく、またはcis白金錯体であってもよい。安定化ブリッジを有する白金錯体の場合、これらの白金錯体は、好ましくは安定化ブリッジとして不活性の2配位性部分または3配位性部分を有する。適切には、ターゲティング部分および治療化合物は、配位結合に加わる1つ以上の硫黄含有反応サイトおよび/または1つ以上の窒素含有反応サイトを有するのがよい。本発明の金属イオン錯体は少なくとも1つの(遷移)金属イオンを有する。別の好ましい実施形態において、金属イオン錯体は、ターゲティング部分を治療化合物に結合するための2つ以上の遷移金属を有する。この実施形態は、当然ながら、前述のターゲティング複合体の側面の一部でもある。
【0019】
本発明は、前記送達可能化合物が診断化合物または治療化合物、好ましくは(遷移)金属イオン錯体が放出機能性を付与するような治療化合物である、関連した使用を提供する。特に有用なのは、細胞システム内のシグナル伝達系を阻害する治療化合物、または、抗炎症活性、抗昇圧活性、抗線維化活性、抗血管新生活性、抗腫瘍活性もしくはアポトーシス誘導活性を有する治療化合物である。
【0020】
好ましい化合物は、前述したように、キナーゼ阻害薬またはアポトーシス誘導化合物である。
【0021】
本発明に従う使用の他の好ましい実施形態は、治療化合物がペントキシフィリン、PDTC、ロサルタン、PTKI、SB202190、PTK787、TKI、Y27632、AG1295またはTRAILである実施形態に関する。本発明の使用での適用に非常に好ましいターゲティング部分は、マンノース-6-リン酸修飾ヒト血清アルブミンもしくはRGD搭載アルブミン、PEG化アルブミン、低分子量たんぱく、AbもしくはAbフラグメントまたはポリマもしくは修飾ポリマである。
【0022】
さらなる側面において、本発明は、ターゲティング部分と治療化合物とをカップリングさせる方法を提供し、前記ターゲティング部分の反応サイトとの配位結合を形成するための少なくとも第1の反応部分を有し、かつ前記治療化合物の反応サイトとの配位結合を形成するための少なくとも第2の反応部分を有する(遷移)金属イオン錯体を含み、前記(遷移)金属イオン錯体に前記ターゲティング部分と前記治療化合物との配位結合を形成させる。本発明のこの側面の好ましい実施形態は、細胞ターゲティング複合体について記載した実施形態および前述の本発明の使用を含む。
【0023】
さらなる側面において、本発明は選択した細胞集団への治療化合物のターゲティング方法を提供し、本発明に従う治療上有効な量の医薬組成物を、それを必要としている患者に投与することを含む。
定義
ここで用いる用語「ターゲティング部分」は、薬物または他のタイプの送達可能化合物の薬物動態特性を変更、修飾、または改良することができる、あらゆる分子または複合体を表す。好ましい実施形態において、ターゲティング部分は、用語「ホーミング部分」とも示される細胞表面上の結合サイトと機能的に相互作用する化合物、または分子の一部を有する。ゆえに、ホーミング部分の存在を介してターゲティング部分は、1つ以上の細胞型に特異性または結合親和性を与える。代わりに、ターゲティング部分はホーミング部分から成ってもよい。そのような実施形態において、たとえば抗体、ハプテンまたはレセプタリガンドを、金属イオン錯体に直接的に結合する。ターゲティング部分によって標的される細胞上の分子は、たとえば細胞表面レセプタなどのあらゆる適当な標的であり得る。ターゲティング部分は、抗体、抗体フラグメント、細胞表面レセプタに対する内生または非内生リガンド、抗原結合たんぱく、ウイルス表面成分、たとえばウイルス表面成分、増殖因子、レクチン、炭水化物、脂肪酸または他の疎水性置換基を結合するたんぱく、ペプチドおよびペプチド模倣分子などのホーミング部分を含んでもよいが、これらに限定されない。ターゲティング部分は、複合体(たとえば、ホーミング部分が高分子と錯体を形成して多価構造をもたらす、図33のRGD-HSA、RGD-HSA-PEGおよびRGDPEG-HSAを参照)を包含するか、抗体フラグメントまたは低分子たんぱくもしくはペプチドの形の、たとえばリゾチームなどの小分子を含むかそれから成る。
【0024】
非常に適切には、ターゲティング部分は、キャリアとして中央高分子コアを有する複合体であって、1つ以上のホーミング分子が付着し、任意でキャリアの機能性を修飾する1つ以上の官能基が付着した複合体であるのがよい。非常に適した例は図34に示した例であり、高分子アビジンを使用し、特異的ホーミング分子RGDを搭載して複合体の能力を増大させている。任意で、ホーミング分子をPEGリンカなどの万能リンカを介して結合することができる。ゆえに、適した高分子キャリア化合物は、たとえばアビジン、ヒト血清アルブミン(HSA)、デンドリマ、たとえば、これに限られるわけではないがPAMAM、またはそれらの誘導体であるのがよい。本発明において使用するターゲティング部分の好ましい高分子キャリア化合物は、ヒトの体と無関係のものではないという理由で、ヒト血清アルブミン(HSA)またはその誘導体である。本文の用語「そ(れら)の誘導体」は、ホーミング分子(たとえばRGDまたはM6P)の付着によって修飾した高分子キャリア化合物を表す。マンノース-6-リン酸誘導体化高分子キャリアは、たとえば肝臓、特に壊死した肝臓組織の星細胞レセプタへの、送達可能化合物のターゲティングを可能にする。
【0025】
HSAはコアたんぱくとして適切に使用することができ、ポリエチレングリコール(PEG)基で置換してもよく、これは最終構成体においてステルス特性を示す。このように、これらのPEGリガンドはマクロファージなどの非標的細胞による取り込みを妨げることができる。
【0026】
別の好ましい実施形態において、ターゲティング部分は標的レセプタに結合しないが、他の原則によって、送達可能化合物のクリアランスルートまたは速度を変更することによって、体内分布に影響を及ぼす。このクラスのターゲティング部分は、ポリエチレングリコール(PEG)ポリマを含むが、これに限定されない。このようなタイプのターゲティング部分の別の非限定的な例は、カップリングした送達可能化合物を解離する貯蔵所(depot)として機能する高分子バイオマテリアルである。このような装置は血流中で循環させるか、たとえば皮下的に体の別の部分へインプラントすることができる。前述の構造物すべてを、集合的および個別にターゲティング部分という。
【0027】
ここで用いる用語「送達可能化合物」は、ターゲティング部分によって細胞の表面および/または内部へ運ばれるか移送される化合物を表す。本発明の態様において、送達可能化合物は治療または診断化合物である。用語「送達可能化合物」、「治療化合物」および「薬物」をここでは交互に用いており、これらは治療用途または診断用途に適用することができるあらゆる薬剤を表す。また、治療化合物は、その活性型に達するのに(生物)化学修飾を必要とする、プロドラッグであってもよい。
【0028】
好ましい実施形態において、治療化合物は、リンカと配位結合を形成することができる芳香族窒素または硫黄原子を有する有機分子である。治療化合物は、リンカと配位結合を形成することができる芳香族窒素または硫黄原子を含有するプロドラッグ部分を有してもよい。別の好ましい実施形態において、治療化合物は治療効果のあるペプチドまたはたんぱくである。さらに、治療化合物は小分子、ペプチド、(si)RNA、アンチセンス(オリゴ)ヌクレオチド、またはその修飾および組合せであってもよい。
【0029】
用語「反応部分」は、化学基、自由軌道の反応サイトもしくは金属イオン錯体のリガンドを表すか、ターゲティング部分もしくは送達可能化合物のいずれかの反応サイトとの結合を形成することができる化合物を表す。
【0030】
ここで用いる用語「リガンド」は、別の分子と結合する分子を表し、特に、たとえば抗体に結合する抗原、レセプタに結合するリガンド、または酵素に結合する基質もしくはアロステリックエフェクタといった、大きな分子に特異的に結合する小分子を表すのに使用する。用語「リガンド」は、電子対を提供しまたは受け入れて、配位錯体の中央金属原子との配位結合を形成する分子を示すのにも使う。ゆえに、用語リガンドの意味は文脈に関連する。
【0031】
ここで用いる用語「(遷移)金属イオン錯体」は、ターゲティング部分を送達可能化合物とカップリングするのに使用するリンカシステムを表す。このような錯体の特性は、その中の配位結合の存在である。本発明において使用する(遷移)金属イオン錯体における使用に適した金属イオンは、リガンドとの配位結合を形成することができる金属イオンである。ゆえに、Pt、Ru、Cu、Zn、Ni、Pd、OsおよびCdなどの遷移金属が本発明における使用に適している。本発明の(遷移)金属イオン錯体は、リガンドとよばれるいくつかの他の分子に結合する中央金属イオンから成る。リガンドと金属との間で形成される化学結合の性質は、リガンド分子上に存在する電子対の提供を含む。すなわち、分子軌道の観点においては、リガンドの満たされた軌道を金属の空いた軌道と組合せることによって形成される分子軌道であると考えることができる。したがって、金属イオンへの化学結合の形成に直接関わるリガンド分子中のそれらの原子は、最も普通に使用される窒素、酸素、硫黄、リンおよびヒ素が存在する周期表のV族およびVI族の元素を通常有するドナー原子とよばれる。
【0032】
1つの金属イオンに結合することができる2つ以上のドナー原子を含有する分子は、キレート剤またはキレータとよばれ、対応する金属錯体はキレートとよばれる。あるキレータに存在するドナー原子の数は、そのキレータのデンティシティ(denticity)とよばれ、たとえば、2つのドナーサイトを有するリガンドは2配位性、3つのドナーサイトを有するリガンドは3配位性とよばれる。一般に、キレータのデンティシティが注目する特定金属イオンによって達成され得る最大配位数に一致する点まで、キレータのデンティシティが高くなるにつれて、形成されるキレートはより安定する。ある酸化状態のある金属イオンの最大配位数はその金属の固有特性であり、空軌道の数、すなわち、リガンドドナー原子と形成すことができる化学結合の数を反映する。利用できる空軌道のすべてを用いてリガンドのドナー原子との結合を形成すれば、金属が配位的に飽和されているといわれる。
【0033】
本発明の範囲内で、キレータはターゲティング部分、送達可能化合物、または安定化ブリッジであり得る。たとえば、ピロリジンジチオカルバメート(PDTC)がキレーティング送達可能化合物である。
【0034】
あらゆる金属イオンに対して、当該技術の当業者は以下の基準を採用して、本発明に従う有用なリガンドを選択することができる。リガンドは、標的金属イオンへの結合に有利に働くドナー原子(または、キレーティングリガンドの場合、ドナー原子のセット)を有さなければならない。特定のドナー原子(通常、カルボキシル基、フェノール基、またはエーテル酸素原子、アミン、イミン、または芳香族窒素原子、および荷電または中性硫黄原子から成る群から選ばれる)に対する、あらゆる金属イオンの一般的な優先傾向は、当該技術においてよく知られている。
【0035】
リガンドはまた、生体内で適当な安定性を示す傾向にあるリガンド−金属結合を形成する見込みをも提供しなければならない。すなわち、リガンド−金属結合は、治療化合物を標的細胞に移送するのに必要とされる時間内には解離しない。さらに、あらゆる送達可能化合物の対象とする用途によるが、リガンド−金属結合は、標的細胞内または標的サイトに薬物を放出する見込みを提供しなければならない。注目する多くの金属について、生体内での特定のリガンド−金属結合の安定性に関するかなり多くの技術が存在しており、リガンド−金属の選択を案内するのに使用することができる。
【0036】
本発明の範囲内で、金属イオンに配位結合することが示されてきた多くの有用なリガンドがある。これらは、リガンドが金属イオンに結合するサイトの数に応じて、1、2または3配位性のいずれでもよい。
【0037】
前記リガンドは二価性であってもよい。二価性リガンドは、少なくとも1つの金属結合サイト(ドナー原子)に加えて、リガンドの金属結合特性に大いに影響を及ぼすことなく、リガンドがたとえばたんぱくに連結することができる第2の反応部分を有する分子である。
【0038】
本発明は、ターゲティング部分との1つ以上の配位結合によって送達可能化合物を結合する、新規タイプのリンカシステムまたはリンカを提供する。標的薬物の設計分野における種々の重要な問題は我々に、そのようなリンカと、送達可能化合物およびターゲティング部分との結合に起因する、そのような新規の遷移金属ベースのリンカ技術および「細胞ターゲティング複合体」を創出する動機を与えた。
【0039】
この点において、多くの有機小薬物は、ターゲティング部分との薬物のカップリングに一般に適用される化学結合技術(たとえばエステル結合)に使用することができる官能基を有さない。ゆえに、既存の(共有)結合方法は、前述のように、生体内での薬物−キャリア結合の適度な安定性を有する細胞ターゲティング複合体を調製するのに不充分である。この点において、結合システムは非常に重要であり、循環中にキャリアから薬物を早まって放出するのを妨げる一方、標的サイトで、または標的サイト内に蓄積したときでさえ薬物が不活性なままであるほど安定し過ぎていない結合を提供すべきである。本発明において記載されるような新規のリンカ技術の適用は、(遷移)金属錯体との1つ以上の配位結合によって薬物分子をカップリングする機会を作り出す。記載されるリンカシステムの1つの主な利点は、カップリング技術の不足によって以前は生成することができなかった、薬物を有する細胞ターゲティング複合体の開発を可能にすることである。
【0040】
リンカと、たとえば薬物といった送達可能化合物との配位結合の場合でも、特に、たとえば生体内のグルタチオン、試験管内のチオシアン酸カリウムといった、小さくて電子が豊富な材料が存在するときには、結合は反転され得る。送達可能化合物の構造は、結合および放出されても影響を受けずまたは変化しない。
【0041】
送達可能化合物中のたとえば窒素および硫黄といった自然発生的なリンカ結合サイトは、送達可能化合物を化学的に修飾する必要をなくす。
【0042】
さらに、ターゲティング部分との(抗炎症性サイトカインなどの)治療たんぱくのカップリングはしばしば、可変の大きさおよび組成である不明確な複合体形成を生じさせる。部分的に、この問題は、ターゲティング部分の治療たんぱくへの結合に適用される化学から生じる。多くの共有結合性リンカは、たんぱく内に豊富に存在するリシル残基の末端アミノ基のような反応サイトに向けられる。たんぱく内のシステイン、メチオニンおよび/またはヒスチジン残基の分布によって定義されるような、たんぱく内のより特異的な場所にて反応するリンカシステムが、より明確な細胞ターゲティング複合体を生成するだろう。好ましい実施形態において、いずれも遷移金属リンカと反応することができる、「メチオニン開始コドン」もしくは「ヒスチジンタグ」配列またはこれらの配列の組合せを示す組換えたんぱくを反応させることによって、細胞ターゲティング複合体を調製した。
【0043】
本発明の細胞ターゲティング複合体は種々の形態または構成を有することができ、ターゲティング部分および治療化合物を、リンカシステムを包含する(遷移)金属イオンによって結合される。(遷移)金属イオン錯体において、白金が好ましい金属イオンである。
【0044】
本発明の細胞ターゲティング複合体は、
式 DC−M−TM
によって表すことができ、
DCは送達可能化合物であり、
TMはターゲティング部分であり、
Mは(遷移)金属イオンリンカシステムである。
【0045】
送達可能化合物およびターゲティング部分は、配位結合によって(遷移)金属イオンリンカシステムと直接カップリングすることができる。送達可能化合物またはターゲティング部分は、金属イオン錯体中の不活性な複数配位性部分または安定化ブリッジとカップリングすることもできる。たとえば、送達可能化合物またはターゲティング部分は、cis白金錯体のエチレンジアミン安定化ブリッジとカップリングすることができる。(遷移)金属原子は、その際、送達可能化合物またはターゲティング部分それぞれと(直接)カップリングするのではなく、ターゲティング部分または挿入可能化合物のみとカップリングする反応部分として機能する。
【0046】
本発明の細胞ターゲティング複合体は、リンカと、送達可能化合物および/またはターゲティング部分との間にスペーサを有してもよい。そのような細胞ターゲティング複合体は、
式 DC−X−M−X−TM
によって表すことができ、
DC、TMおよびMを前述のように定義し、
は配位結合によって(遷移)金属原子とカップリングする任意のスペーサ基またはプロドラッグであり、Xは他の化学結合(たとえば共有結合による)によって送達可能化合物とカップリングする。非常に適切には、Xは、金属イオン錯体からの治療化合物の放出を可能にする(遷移)金属または(酵素反応)切断サイトを有するスペーサであるのがよい。Xは金属原子とターゲティング部分との間の任意のスペーサ基である。非常に適切には、Xは、ターゲティング部分からの治療化合物および金属イオン錯体の放出を可能にする(遷移)金属または(酵素反応)切断サイトを有するスペーサであるのがよい。
【0047】
好ましい実施形態において、XまたはXのうち少なくとも1つが存在する。
別の好ましい実施形態において、XおよびXの双方が存在する。
【0048】
適当なタイプのスペーサ基は、金属イオン錯体と別の官能基との間の適切な距離を可能にし、リンカ錯体のさらなる修飾をも可能にする分子である。好ましいリンカは、[NH-(CH)-NH]であり、nは1〜10、好ましくは1〜6の間で変化する。たとえば、スペーサであるジアミノヘキサン[NH-(CH)-NH]が、本発明の好ましい実施形態において非常に有用であると判明した。他の好ましいリンカは[NH-(CH)-A-(CH)-NH]であり、Aはヘテロ原子、より好ましいNまたはOであり、nは1〜5の間で変化する。さらに別の好ましいタイプのスペーサはNH-(CH)-NHRであり、nは1〜6の間のあらゆる数が可能で、RはC(O)CHBr、CO-(CH)-(CNO)(mは1〜10、選好的に5である)、CO-(C10)-CH-(CNO)またはCO-(CH)-NH-CO-CH-Brであるように独立して選ぶことができる。別の好ましいタイプのスペーサはNH-(CH)-NH-CO-(CH)-mPEGであり、nは1〜6の間で変化し、mPEGはこれに結合する-(CNO)を有するか有さないポリエチレングリコールを表す。
【0049】
リンカはまた、(遷移)金属イオン錯体の安定化ブリッジに付着するか、その一部であってもよい。好ましい構造は-(CH)-NHRであり、nは1〜10まで変化するあらゆる数が可能で、選好的に6であり、RはC(O)CHBr、CO-(CH)-(CNO)(mは1〜10、選好的に5である)、CO-(C10)-CH-(CNO)、CO-(CH)-NH-CO-CH-Brまたは-CO-(CH)-mPEG(nは1〜6の間で変化する)であるように独立して選ぶことができ、mPEGはこれに結合する-(CNO)を有するか有さないポリエチレングリコールを表す。
【0050】
本発明の細胞ターゲティング複合体は、2つ以上の(遷移)金属イオンリンカシステムを有してもよい。2つの(遷移)金属イオンを有する(遷移)金属イオン錯体は二核種とよぶ。二核種は、
式 M−A−M
によって表わすことができ、
およびMは前述のように定義する(遷移)金属イオンリンカであり、
Aはヘテロ原子を有するか有さない脂肪族鎖である。
【0051】
白金錯体に連結される治療化合物またはターゲティング部分は、(硫黄含有反応サイトに付着すれば)Pt-S付加体として、(窒素含有反応サイトに付着すれば)Pt-N付加体として、または一般にPt付加体としてよぶことができる。
【0052】
以後、硫黄含有反応サイトをS反応サイトとよび、窒素含有反応サイトをN反応サイトとよぶ。
【0053】
白金錯体を用いて生物有機分子を標識する方法が、長い間検討されてきた。白金錯体は生物分子の種々の反応部分と反応することができ、種々のタイプの検出可能マーカ部分がイオン性白金に付着したことが知られている。
【0054】
この目的のためのcis白金錯体の使用は、たとえば国際公開第96/35696号パンフレットに記載されており、このパンフレットはcis白金錯体を介して生物有機分子およびマーカを連結する方法を開示している。これらの錯体において、2つの配位サイトが、エチレンジアミン基などの安定化ブリッジの両端によって占有される。cis白金錯体は、ペプチド、ポリペプチド、たんぱくおよび核酸などの、種々の生物有機分子に標識を連結するのに適している。trans白金錯体を用いる方法も、種々の生物有機分子およびこれらとの標識の結鎖を標識するのに適しているとして報告されている(欧州特許第0 870 770号明細書)。
【0055】
本発明者らは、標的薬物において、送達可能化合物とターゲティング部分との間のリンカとして(遷移)金属イオン錯体を使用する特別の利点は、(遷移)金属イオン錯体が、ターゲティング部分とカップリングさせたままで送達可能化合物を生体内の種々の組織に移送可能にするほど、充分に強い結合を提供することであるということを見出した。薬物分子の種々の反応サイトに向けられる白金錯体の反応性は、それが所望の生成物の定量的収率をもたらす直接的な結合反応を可能にするので、薬剤連結システムとしての用途において有益である。
【0056】
(遷移)金属イオン錯体を使用するさらなる利点は、用いる反応部分に応じて、そのような錯体が、幅広い種々の生物学的活性化合物のターゲティング分子とのカップリングを支持することができるので、ターゲティング部分および治療化合物の化学的性質を大いに変化させることができる、ということである。
【0057】
別の利点は、ターゲティング部分または送達可能化合物が、たんぱく鎖またはペプチド鎖内のヒスチジン(His)、メチオニン(Met)および/またはシステイン(Cys)残基において、適した(遷移)金属イオン錯体を介して連結することができるということである。これは、たんぱく鎖またはペプチド鎖の異なる複数の側鎖基に連結する可能性を提供し、たとえば数個の送達可能化合物の、1つのターゲティング部分との結合、またはその逆を可能にするであろう。さらに、金属イオン錯体を介した薬物またはターゲティング部分基の、それらのアミノ酸残基との結合は、2つの反応を妨害せずに、従来の誘導体化戦略によるリジン側鎖の同時誘導体化を可能にするだろう。ゆえに、コアたんぱくまたはペプチドとのいずれの置換基のカップリングも、リジン残基にて両タイプの反応で目指す従来の戦略において観察されるような反応効率を低下させないだろう。
【0058】
(遷移)金属イオン錯体によるカップリング反応の特異性を、ターゲティング部分または送達可能化合物における硫黄含有反応サイトと窒素含有反応サイトとのカップリングを区別するように制御することができる。したがって、本発明による(遷移)金属イオンリンカを用いることによって、ターゲティング部分または送達可能化合物内の特定の反応サイトへ向けて、ターゲティング部分または送達可能化合物のカップリングを導くことができる。
【0059】
白金は、(遷移)金属イオン錯体における好ましい金属イオンである。
本発明の方法における使用に適した好ましい白金錯体の例は、式[Pt(II)(X)(X)(T)(D)]のcisもしくはtrans白金錯体、または式[Pt(II)(X)(T)(D)]のcis白金錯体である。
【0060】
ここで、Ptは白金(Pt)を表し、TおよびDは、ターゲティング部分(T)または送達可能化合物(D)との反応にそれぞれ加わる同じか異なる反応部分を表す。別の可能性は、位置TおよびDの置換基が別のリガンドと置換されてターゲティング部分または送達可能化合物との複合体を形成するだろうということである。XおよびXは同じか異なる不活性部分を表し、Xは、たとえば2配位性リガンドといった複数の配位性リガンドなどの安定化ブリッジとしての役割を果たし得る不活性部分を表す。好ましい群の2配位性リガンドは脂肪族ジアミンブリッジおよびジアミンシクロ(diamine cyclo)ブリッジであり、すべて当該技術の当業者に充分に知られている。好ましい3配位体の概要は、参照によってここに組込まれている特許出願欧州特許第04078328.4号明細書に記載されている。
【0061】
そのような白金錯体のいくつかの例の構造的表現を以下に示す。
【0062】
【化1】

【0063】
本発明の方法において使用する白金(II)錯体は、当該技術において周知のあらゆる方法によって調製することができる。参照はたとえばReedijkら(Structure and Bonding、第67巻、pp.53〜89、1987年)に見られる。いくつかのtrans白金錯体の調製物は欧州特許第0 870 770号明細書に開示されている。さらに、調製方法は国際公開第96/35696号パンフレットおよび国際公開第98/15564号パンフレットに見られる。これらのあらゆる公報に記載される方法は、参照によってここに組込んでいる。本発明の好ましい実施形態において、白金錯体をスペーサ−第三ブトキシカルボニル/NHS−経路に従って調製する。このアプローチにおいて、金属イオンのリガンドの1つは、送達可能化合物またはターゲティング部分のいずれかを結合させる目的でさらに誘導体化することが可能な、金属イオンから離れたアミノ基を有するスペーサ分子から成る。
【0064】
ターゲティング部分および送達可能化合物と置換することができる白金錯体の反応部分(T D)は、好ましくは良好な脱離リガンドである。Tおよび/またはDがCl、NO、HCO、CO2−、SO2−、ZSO、I、Br、F、酢酸アニオン、カルボン酸アニオン、リン酸アニオン、硝酸エチルアニオン、シュウ酸アニオン、クエン酸アニオン、ホスホン酸アニオン、ZOおよび水の群から独立して選ばれる白金錯体は、本発明に従う方法における使用に特に適していることがわかった。Zを水素部分または1から10までの炭素原子を有するアルキル基もしくはアリル基としてここで定義する。これらのリガンドのうち、ClおよびNOが最も好ましい。
【0065】
あらゆるタイプの不活性部分Xを選ぶことができる。ここで使用する不活性の、とは、その部分が連結プロセス中において白金錯体に付着したままであることを示す。NH、NHR、NHRR’、NRR’R”基の群から選ばれる1または2の不活性部分を有する白金錯体であって、R、R’およびR”が好ましくは1〜6の炭素原子を有するアルキル基を表している白金錯体は、本発明の方法における使用に特に適していることがわかった。HNCHは特に好ましい不活性部分である。アルキル基が2〜6の炭素原子を有するアルキルジアミンは、cis白金錯体(たとえば式1cのX)における好ましい2配位性不活性部分である。特に好ましい実施形態において、Xはエチレンジアミンを表す。
【0066】
本発明の方法において使用するのに特に好ましい白金錯体は、cis[Pt(en)Cl]、cis[Pt(en)Cl(NO)]、cis[Pt(en)(NO)]、trans[Pt(NH)Cl]、trans[Pt(NH)Cl(NO)]およびtrans[Pt(NH)(NO)]を含む。これらの式において、enはエチレンジアミン部分を示す。
【0067】
原則として、ターゲティング部分または送達可能化合物のあらゆるタイプの反応サイトを、本発明の方法においてカップリングサイトとして使用することができる。好ましい窒素含有反応サイトは、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、芳香族アミン、アミド、イミド、イミン、イミノエーテルまたはアジドを含む反応サイトを有する。好ましい硫黄含有反応サイトは、チオール、チオエーテル、スルフィド、ジスルフィド、チオアミド、チオン、ジチオカルバメートを含む反応サイトを有する。白金錯体リンカとカップリングすることができるターゲティング部分または送達可能化合物の例は、有機薬物分子、たんぱく、アミノ酸ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、免疫グロブリン、酵素、シンザイム、リン脂質、糖たんぱく、核酸、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、ペプチド核酸、ペプチド核酸オリゴマ、ペプチド核酸ポリマ、アミン、アミノグリコシド、ヌクレオペプチド、糖ペプチドおよび糖類、上記分子の組合せ、ならびにこれらの構造を模倣するのに使用することができるあらゆる有機、無機または生体分子との組合せ、を含む。
【0068】
たんぱく性の送達可能化合物およびターゲティング部分は、組換えたんぱく技術を用いて、(酵素反応)切断サイトによって促進することができる。しかし、好ましい実施形態において、薬物放出促進機能は結合システムに含まれる。別の好ましい実施形態において、切断サイトは、標的エリア内に特異的に存在する酵素(メタロプロテイナーゼ、プラスミンまたはリソソームプロテアーゼ)によって分解可能である。このようにして、標的サイト内または標的サイトにてのみ薬理的活性化合物の放出を誘引するための、付加的なサイト特異性を与える。
【0069】
送達可能化合物は、治療効果を与えるか、診断目的を有するあらゆる化合物であってよい。本発明における使用に適している送達可能化合物の非限定的な例は、たんぱく性の高分子、またはより小さな化学薬物分子もしくは天然由来薬物分子であってもよい。治療化合物はたとえば生物活性たんぱくであるのがよい。分子生物学は、薬物として使用することができる組換えたんぱくを設計および生成する可能性を実現してきた。たとえばサイトカインおよび増殖因子のようなたんぱくは、有力な生物活性を有するメディエータである。しかし、サイトカインの治療用途は、以下を考慮してしばしば制限される。第1に、これらの有力なメディエータは通常、患者に有害な可能性もある多数の生物活性を示す。送達可能化合物のターゲティング部分とのカップリングは、器官、組織または細胞型に対する化合物の選択性を改良し、これによってその治療プロフィールを大いに改良する。第2に、サイトカインおよび他の多くの組換えたんぱくの血漿中の半減期は通常、迅速な除去のため短い。ここでも、ターゲティング部分の、治療化合物とのカップリングは、化合物の薬物動態特性を改良するだろう。さらに、組換えたんぱくの標的送達は、低い生産量で生成される治療たんぱくの適用がうまくいくように促進することができる、低量の使用を可能にするだろう。したがって、薬物ターゲティング戦略を成功させるには、治療たんぱくの適用のスペクトルを広げるのがよい。
【0070】
原則として、生物活性たんぱくおよび小さい薬物は、分解耐性のある安定した結合を介して、またはキャリアからの薬理活性化合物の放出をもたらす標的細胞内側または外部で切断される結合によって、ターゲティング部分とカップリングするのがよい。本発明は、たとえば配位(白金)化合物の修飾によって、両タイプの結合を可能にする。本発明は錯体に関し、ターゲティング部分を、ターゲティング部分の反応サイトとの配位結合を形成するための少なくとも第1の反応部分を有し、送達可能化合物の反応サイトとの配位結合を形成するための少なくとも第2の反応部分を有する(遷移)金属イオン錯体を介して送達可能化合物と結合する。
【0071】
本発明の重要な利点は、(遷移)金属イオン錯体(たとえばここで示したULSリンカ)が、ターゲティング部分からの送達可能化合物の持続放出をもたらすことである。ゆえに、所望の器官、組織または細胞に到着すると、治療化合物はたとえば数時間、数日または数週間といった長期にわたってゆっくり放出する。結果として、特定の場所でどの時点においても自由化合物の濃度を制御することができる。さらに、治療効果を長期間示すこともできる。
【0072】
持続放出様式を配位結合の化学的性質によって制御することができるのはさらなる利点である。配位結合の環境における潜在的な電子ドナーの存在(たとえば、本発明の複合体を標的する細胞内環境のグルタチオン)が結合の放出をもたらすだろうということは、当業者に理解されるだろう。ゆえに、放出を、窒素−白金結合がたとえば安定的だが可逆的である、配位結合の化学的性質に基づいて環境誘起することができ、好ましい実施形態を形成する。
【0073】
さらに、治療化合物はしばしば低分子(薬物)化合物であってもよい。本発明の態様における好ましい実施形態は、低分子薬物が、配位結合を介して(遷移)金属イオン錯体に直接的に付着することである。これは、ターゲティング複合体と治療化合物との可逆的結合をもたらし、ゆえに固有の放出機能を提供する。
【0074】
1つの実施形態において、本発明は、ターゲティング部分がその特定の細胞標的を認識するかそれに達するまで、ターゲティング複合体を可動(患者の体中を移動することができる)にする部分形状でターゲティング部分を提供する。この場合、ターゲティング部分は、明確な器官、組織、細胞、レセプタまたは他の生物分子に対する特異性を有する選択的ホーミング部分の形を有する。その目的のために、ターゲティング部分は結合対を有するか、レセプタなどの特定の細胞表面分子に対する親和性のある部分を有するのがよい。これに関連して、適しているのはここで開示するレセプタリガンドである。
【0075】
同様の説明が、原位置(in situ)診断化合物、すなわち器官、組織または細胞型(腫瘍)の特定の細胞表面分子のイメージングまたは検出用に使用する化合物に当てはまる。
【0076】
別の実施形態において、本発明は体内の特定の場所にターゲティング複合体を固定することができる部分形状でターゲティング部分を提供するので、複合体の持続放出様式は特定の場所、特に本発明の複合体を適用する場所に制限するのがよい。その目的のために複合体は、たとえばPEG分子といった、体内の循環を阻害する分子を含有するターゲティング部分を有する。当該技術において周知のそのような他の分子もまた使用することができることが、当業者に充分理解されるだろう。ゆえに、用語「ターゲティング」は、患者の体の特定のサイトに蓄積または残留する複合体の傾向を示す。
【0077】
たんぱくとターゲティング部分との安定した結合は、HISタグ、すなわち精製に役立つとして普通に使用され、たんぱく分子に付着するアミノ酸(ヒスチジン)残基の伸長部を備えたたんぱくの組換え型を用いることによって達成することができる。メチオニン残基およびHISタグにおけるヒスチジン残基の双方の存在によって、金属イオンリンカとHISタグとの反応が生じやすくなり、これは、もたらされる複合体の治療活性に関して有益であると判る。さらに、金属イオンリンカはまた、HISタグを有さない組換えたんぱくのメチオニン開始コドンに選好性をもって反応することができる。この普遍的な技術によって、すべての組換えたんぱく薬物は本発明の方法によってターゲティング部分に効率的に連結することができるので、本アプローチは広い商用適用性を有している。
【0078】
組換えたんぱくの形状の治療化合物は、標準の組換え技術によって生成することができる。たとえば、HISタグおよび任意で切断サイトを有する所望のたんぱくをコードする組換えベクタは、周知の方法によって構築することができる。
【0079】
本発明のカップリング方法は、(遷移)金属イオン錯体の、ターゲティング部分および送達可能化合物との配位結合の形成を可能にする工程を有する。
【0080】
結合を形成する順序はどのようなものも適している。たとえば、第1に、(遷移)金属イオン錯体がターゲティング部分との配位結合を形成し、その後、もたらされたコンジュゲートが送達可能化合物と接触して、ターゲティング部分(金属コンジュゲート)の金属イオンと送達可能化合物との間の配位結合を形成するようにしてもよい。すべての化合物がまとまって種々の結合形成が同時に開始してもよい。
【0081】
金属と送達可能化合物との結合および金属とターゲティング部分との結合は、同じであっても異なってもよい。たとえば、送達可能化合物−金属結合がPt-S付加体を有し、ターゲティング部分−金属結合がPt-N付加体を有しても、またはその逆であってもよい。金属イオンとの配位結合を形成する他のタイプの結合は、当業者によって選択することができる。
【0082】
結合反応に対する反応パラメータが、特定のpH値の選択を含んでもよい。ここで用いるpHは、20°Cの水中でのpH値として解釈すべきである。一般に、Pt-S付加体の形成はpH非依存的であるが、Pt-N付加体の形成はpH依存的である。好ましい実施形態において、pHを利用して、1つ以上の窒素含有サイトに優先して、1つ以上のS反応サイトを選択的に標識する。
【0083】
指針として、当業者は、送達可能化合物またはターゲティング部分の結合されるべきでないあらゆるN反応サイトの最低pKa未満のpHである結合反応のpHを選択して、S反応サイトとの選択的結合を可能にすることができる。当業者は、結合反応において、pKaに加えて他の要因が役割を果たし得ることを理解できるだろう。通常、S反応サイトは酸性pHでN反応サイトに優先して選択的に標識される。したがって、Nベースリガンドに優先したSベースリガンドの選択的結合にpHを使用するのがよい。
【0084】
理論的には、Pt-S付加体の形成は1工程プロセスである。反応基はSが電子対を金属イオンに提供すると金属イオン錯体から脱離する。この金属イオン−Xの金属イオン−Sへの直接変換のプロセスは、pH非依存的であると考えられている。他方、Nドナーは、N置換より前に、酸素による金属イオン錯体の反応基の置換を必要とする。まず、金属イオン−Xは金属イオン−Oになり、最終的に金属イオン−Nになる。これは、pHを変化させることによって第1工程を制御することができる、2工程のスキームである。したがって、溶液のpHに影響を及ぼす要因は、Pt-N付加体の形成を妨害する。前述の金属イオン結合は、特にPtイオン配位結合に関する。
【0085】
イオンの存在はまた、N反応サイトとの配位結合を形成するための金属イオン(好ましくは白金)錯体の選択性を制御するために使用することもできる。実施形態において、1つ以上の脱離リガンド、好ましくはアニオン性部分を、金属イオン錯体のN反応サイトとのカップリングの阻害に用いて、S反応サイトとの選択的カップリングを強化する。このような脱離リガンドの例は、Cl、NO、HCO、CO2−、ZSO、SO2−、I、Br、F、酢酸アニオン、カルボン酸アニオン、リン酸アニオン、硝酸エチルアニオン、シュウ酸アニオン、クエン酸アニオン、ホスホン酸アニオン、ZOおよび水を含む。Zを水素部分または1から10までの炭素原子を有するアルキル基もしくはアリル基としてここで定義する。特に良好な結果は、塩素および窒素が特に好ましいアニオン性部分を有する塩を用いて達成された。対イオンは好ましくは、アルカリカチオン、アルカリ土類カチオンまたは結合形成を導くのにも使用されるカチオンである。好ましい実施形態において、N反応サイトとの結合阻害に使用される前記アニオン性部分の総イオン強度は、少なくとも0.1mol/lである。より好ましくは、総イオン強度は0.1から0.5mol/1の範囲内である。
【0086】
反応混合物内の他の(遷移)金属イオンの存在は、標識する反応サイトの選択にも用いることができる。特に、種々の(遷移)金属イオンは、S反応サイトとの結合を妨げるか低下させるのに、または結合Pt-S付加体を不安定にさせるのに適しており、効果的にN反応サイトがS反応サイトに優先して選択的に結合し得ることが判明した。本発明に従う方法において、たとえばcis白金錯体およびtrans白金錯体といった金属イオン錯体の幾何異性体を使用して、金属イオン錯体が、硫黄含有反応サイトまたは窒素含有反応サイトのいずれかに特異的に結合するように結合反応を向けることも可能である。
【0087】
このターゲティング部分または送達可能化合物の選択的結合型は、本発明の複合体の種々の要素間の特定の結合が必要とされる場合に特定の利点を有し得るので、ターゲティング部分および送達可能化合物の双方を有する反応混合物内でカップリング反応を実行する場合に、ターゲティング部分または送達可能化合物のいずれかとのイオン金属錯体の結合を制御するのに使用することができる。
【0088】
前述のパラメータに加えて、本発明に従う方法は、好ましくは0°Cから120°Cの範囲、より好ましくは20°Cから70°Cの範囲で変化する温度、通常は1分から48時間の範囲内、好ましくは10分から24時間の範囲内、より好ましくは25分から15時間の範囲内である反応時間、試薬濃度、試薬のモル比、金属イオン錯体の総合的な正味荷電などのパラメータによってさらに微調整することができる。これらのパラメータは、当該技術において周知のあらゆる方法での特定の適用に応じて調整することができる。金属イオン錯体の総合的な正味荷電は、たとえば中性pHでのヒスチジンのPt-N付加体形成の特異性といった金属イオン−N付加体形成の特異性に影響を及ぼす。中性のPt錯体はPt-N付加体を形成するが、正帯電の白金錯体はPt-N付加体を形成しない。正帯電のPt錯体は、ペプチド、たんぱくなどの等電点を超えると、N付加体に向かう異なる結合を示す。S反応サイトに優先したN反応サイトとの選択的結合、またはその逆の選択的結合を可能とするだけでなく、本発明に従う方法はまた、欧州特許第1 262 778号明細書に記載されるような正確な条件を選択することによって、はっきりとN反応サイト間またはS反応サイト間で差別化することも可能にする。
【0089】
コンジュゲートの精製、品質および安定性は、標準的な技術を用いて実行および評価することができる。たとえば、標的細胞におけるコンジュゲートとの結合およびコンジュゲートの摂取は、放射性標識生成物または免疫組織化学的技術を用いて試験管内で研究することができる。適当な試験管内試験システムは、たとえば細胞および器官切片を含み得る。開発した複合体の器官分布および細胞分布は、たとえば健常動物および疾患実験モデル(たとえばラットまたはマウスモデル)において研究することができる。
【0090】
細胞ターゲティング複合体を調製すると、これらを薬学的に許容できるキャリアと組合せて医薬組成物を形成することができる。当該技術の当業者によって充分理解されるように、キャリアは、以下に記載する投与経路、標的組織の場所、送達される薬物、薬物送達の経時変化などに基づいて選択するのがよい。
【0091】
本発明の目的はまた、体内の選択した細胞集団への送達可能化合物のターゲティング方法を提供することである。これらの目的および他の目的は、本発明に従う細胞ターゲティング複合体を有する医薬組成物を提供することによって扱うことができる。好ましい実施形態において、組成物は、本発明の細胞ターゲティング複合体と混合した薬学的に許容できるキャリアを有する。ここで用いる用語「薬学的に許容できるキャリア」は、あらゆるタイプの、不活性固体、半固体もしくは液体フィラ、希釈剤、カプセル化材料、または製剤補助剤を意味する。「薬学的に許容できる」キャリアは、妥当な損益比に見合う、(毒性、炎症およびアレルギ反応などの)過度の副作用のない、ヒトおよび/または動物への使用に適したものである。そのような材料は、それらが無毒で、薬物送達を妨害せず、他のあらゆる理由について生物学的に、または非生物学的に不所望ではないという点で、薬学的に許容できる。Remington's Pharmaceutical Sciences(第20版、Gennaro, A. R.(編)、Mack Publishing Company、イーストン、ペンシルベニア州、2000年)は、医薬組成物を製剤設計するのに用いる種々のキャリアと、その調製について周知の技術を開示している。薬学的に許容できるキャリアとして機能し得る材料のいくつかの例は、これらに限定されないが、ラクトース、グルコースおよびシュークロースなどの糖類、コーンスターチおよびポテトスターチなどの澱粉、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロースなどのセルロースおよびその誘導体、トラガント末、モルト、ゼラチン、タルク、ココアバターおよび坐剤ワックスなどの賦形剤、ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油およびダイズ油などの油、プロピレングリコールなどのグリコール、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル、寒天、TWEEN80などの界面活性剤、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝剤、アルギン酸、発熱物質非含有水、等張食塩水、リンゲル液、エチルアルコール、ならびにリン酸バッファ液を含み、調製者の判断に従って、ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムなどの他の無毒の混合可能な潤滑剤、ならびに着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤、香料剤、防腐剤および抗酸化剤もまた、組成物中に存在し得る。
【0092】
選択した細胞集団への送達可能化合物のターゲティング方法は、本発明に従う、治療上有効な量の医薬組成物を、それを必要としている患者に投与することを含む。ここで使用する「有効量」は、無毒だが、あらゆる治療に伴う妥当な損益比で所望の局所的効果または全身的効果および性能を提供するのに充分である薬物または薬理的活性化合物の量を意味する。ここで使用する「投与」および類似の用語は、治療する個体に組成物を送達して、組成物が、対象とする標的サイトに達するか、体循環を達成することが可能であることを意味する。組成物を好ましくは、全身投与によって、通常は静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与または筋内投与によって、個体に投与する。そのような使用のための注入物質は、溶液か懸濁液のような従来の形状で、または、溶液もしくは注射前の液体中の懸濁液として、もしくはエマルジョンとして、調製に適した固体状で、調製することができる。適した賦形剤またはキャリアは、たとえば水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどを含み、必要に応じて、湿潤剤または乳化剤、緩衝剤などの微量の補助剤を添加することができる。他のキャリアを使用することができ、それらは当該技術においてよく知られている。
【0093】
本発明の医薬組成物は、経口経路および非経口経路を含む、当該技術において周知のあらゆる手段によって患者に投与することができる。ここで用いる用語「患者」は、ヒトならびにたとえば哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類および魚類を含むヒト以外を示す。好ましくは、ヒト以外とは哺乳類である(たとえば齧歯類、マウス、ラット、ウサギ、サル、イヌ、ネコ、霊長類またはブタ)。ある実施形態において、非経口経路は消化管に見られる消化酵素との接触を避けるので、好ましい。
【0094】
医薬組成物は、(たとえば静脈注射、皮下注射、筋肉注射、腹腔内注射といった)注射によって、(粉末、クリーム、軟膏、ドロップによって)経直腸的に、経膣的に、局所的に、または(噴霧による)吸入によって、投与することができる。
【0095】
たとえば滅菌注射用の水性または油性懸濁液といった注射用調製物は、適当な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を用いて、当該技術に従って製剤設計することができる。滅菌注射用調製物はまた、たとえば1,3-ブタンジオール中の溶液といった、非経口的に許容できる無毒の希釈剤または溶媒中の、滅菌注射用溶液、懸濁液またはエマルジョンであってもよい。使用する許容ビークルおよび溶媒は、水、リンゲル液、U.S.P.および等張食塩液である。さらに、滅菌固定油を溶媒または懸濁化剤として通常使用する。本目的のために、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む、当たり障りのないあらゆる固定油を使用することができる。さらに、オレイン酸のような脂肪酸を注入物質の調製に用いる。特に好ましい実施形態において、細胞ターゲティング複合体を、1%(w/v)カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび0.1%(v/v)TWEEN 80を有する流体キャリア中に懸濁する。注射製剤は、たとえば、細菌保持フィルタを通したろ過によって、または使用前に滅菌水または他の滅菌注射媒体中に溶解または分散させることができる滅菌固体組成物の形状の滅菌剤を組込むことによって、滅菌することができる。
【0096】
直腸投与または膣内投与用の組成物は、好ましくは、大気温度では固体であるが体温では液体である、ココアバター、ポリエチレングリコールまたは坐剤ワックスなどの適当な非刺激性賦形剤またはキャリアと細胞ターゲティング複合体とを混合することによって調製することができる坐薬であるので、直腸または膣腔内で融解して、細胞ターゲティング複合体を放出する。
【0097】
発明の医薬用組成物の局所的投与または経皮的投与用の服用形態は、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、粉末、溶液、噴霧、吸入剤またはパッチを含む。細胞ターゲティング複合体を、必要に応じて、薬学的に許容できるキャリアおよび必要とされるあらゆる防腐剤または緩衝剤と滅菌状態下で混合する。眼科製剤、点耳薬および点眼薬もまた、本発明の範囲内にあると意図する。軟膏、ペースト、クリームおよびゲルは、本発明の細胞ターゲティング複合体に加えて、動物性および植物性脂肪、油、ワックス、パラフィン、澱粉、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、タルクならびに酸化亜鉛、またはそれらの混合物などの賦形剤を含んでもよい。経皮パッチは、体への化合物の制御した送達を提供するという別の利点を有する。
【0098】
そのような服用形態は、適当な媒体に細胞ターゲティング複合体を溶解または拡散させることによってなされ得る。吸収エンハンサもまた、経皮的な化合物の流れを増加させるのに使用することができる。その速度は、速度制御膜を与えるか、ポリママトリックス中もしくはゲル中に細胞ターゲティング複合体を拡散させるかによって制御することができる。
【0099】
粉末および噴霧は、本発明の細胞ターゲティング複合体に加えて、ラクトース、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウムおよびポリアミド粉末、またはこれらの薬剤の混合物などの賦形剤を含むことができる。噴霧は、さらにクロロフルオロ炭化水素などの慣用的な推進剤を含むことができる。
【0100】
経口的に投与する場合、細胞ターゲティング複合体を、必ずではないが好ましくはカプセル化する。適当な種々のカプセル化システムが当業技術において知られている(「 Microcapsules and Nanoparticles in Medicine and Pharmacy」、Doubrow, M.編、CRC Press、ボーカラトーン、1992年;MathiowitzとLanger、J. Control. Release、第5巻第13号、1987年;Mathiowitzら、Reactive Polymers、第6巻第275号、1987年;Mathiowitzら、J. Appl. Polymer Sci.、第35巻第755号、1988年;Langer、Acc. Chem. Res.、第33巻第94号、2000年;Langer、J. Control. Release、第62巻第7号、1999年;Uhrichら、Chem. Rev.、第99巻第3181号、1999年;Zhouら、J. Control. Release、第75巻第27号、2001年;およびHanesら、Pharm. Biotechnol.、第6巻第389号、1995年)。
【0101】
細胞ターゲティング複合体を、生分解性高分子マイクロスフェアまたはリポソーム内にカプセル化するのがよい。生分解性マイクロスフェアの調製において有用な天然および合成ポリマの例は、アルギネート、セルロースなどの炭水化物、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリアミド、ポリホスファゼン、ポリプロピルフマレート、ポリエーテル、ポリアセタール、ポリシアノアクリレート、生分解性ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアンヒドリド、ポリヒドロキシ酸、ポリ(オルトエステル)および他の生分解性ポリエステルを含む。リポソームの生成に有用な脂質の例は、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴリピド、セレブロシドおよびガングリオシドなどのホスファチジル化合物を含む。
【0102】
経口投与用の医薬組成物は液体または固体であり得る。
発明の組成物の経口投与に適した液体服用形態は、薬学的に許容できるエマルジョン、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップおよびエリキシル剤を含む。カプセル化した、またはカプセル化していない細胞ターゲティング複合体に加えて、液体服用形態は、当該技術において共通して用いられる、たとえば水または他の溶媒などの不活性希釈剤、ならびにエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(特に、綿実油、ラッカセイ油、コーン油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、ソルビタン脂肪酸エステルおよびそれらの混合物などの溶解補助剤および乳化剤を含む。経口組成物はまた、不活性希釈剤の他に、アジュバント、湿潤剤、乳化剤、懸濁化剤、甘味剤、香味剤および香料剤を含むこともできる。ここで用いる用語「アジュバント」は、免疫応答の非特異的モジュレータであるあらゆる化合物を表す。ある好ましい実施形態において、アジュバントは免疫応答を促進する。あらゆるアジュバントを本発明に従って使用することができる。多数のアジュバント化合物が当該技術において知られている(Allison、Dev. Biol. Stand.、第92巻第3号、1998年;Unkelessら、Annu. Rev. Immunol.、第6巻第251号、1998年;およびPhillipsら、Vaccine、第10巻第151号、1992年)。
【0103】
経口投与用固体服用形態は、カプセル、タブレット、ピル、粉末および顆粒を含む。このような固体服用形態において、カプセル化した、またはカプセル化していない細胞ターゲティング複合体を、クエン酸ナトリウムもしくはリン酸カルシウムなどの薬学的に許容できる、少なくとも1つの不活性な賦形剤もしくはキャリアと、ならびに/または(a)澱粉、ラクトース、シュークロース、グルコース、マンニトールおよびケイ酸などの充填剤もしくは増量剤、(b)たとえばカルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、シュークロースおよびアカシアなどの結合剤、(c)グリセロールなどの保湿剤、(d)寒天、炭酸カルシウム、ポテトスターチもしくはタピオカスターチ、アルギン酸、ある種のシリケートおよび炭酸ナトリウムなどの崩壊剤、(e)パラフィンなどの溶液緩染剤、(f)第4級アンモニウム化合物などの吸収促進剤、(g)たとえばセチルアルコールおよびグリセロールモノステアレートなどの湿潤剤、(h)カオリンおよびベントナイト粘土などの吸収剤、(i)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウムなどの潤滑剤、およびそれらの混合物と、混合する。カプセル、タブレットおよびピルの場合、服用形態は緩衝剤を含んでもよい。
【0104】
よく似たタイプの固体組成物を、ラクトースすなわち乳糖などと同様に高分子量ポリエチレングリコールなどの賦形剤を用いる軟充填および硬充填ゼラチンカプセルにおける、充填剤としても使用することができる。タブレット、糖衣錠、カプセル、ピルおよび顆粒の固体服用形態は、製剤処方技術においてよく知られている腸溶コーティングおよび他のコーティングなどのコーティングおよびシェルによって調製することができる。
【0105】
細胞ターゲティング複合体の正確な服用量を、治療する患者を考慮して、医師個人によって選択するのは当然である。通常、服用量および投与は、治療する患者に有効量の細胞ターゲティング複合体を与えるように調節する。ここで使用する細胞ターゲティング複合体の「有効量」は、所望の生物学的反応を導くのに必要な量を表す。当該技術の当業者によって充分に理解されるように、細胞ターゲティング複合体の有効量は、所望の生物学的評価項目、送達される薬物、標的組織、投与経路などの要因に応じて変化し得る。たとえば、抗癌薬物を有する細胞ターゲティング複合体の有効量は、所望の期間にわたる所望の量によって腫瘍サイズの縮小をもたらす量であるのがよい。考慮し得るさらなる要因は、病状の重症度、治療する患者の体重および性別、規定食、投与の時間および頻度、薬物の組合せ、反応感度、ならびに治療への耐性/応答を含む。長時間作用型の医薬用組成物は、特定の組成物の半減期およびクリアランス率に応じて、3〜4日ごと、毎週、または2週間ごとに投与するのがよい。
【0106】
本発明の細胞ターゲティング複合体を、投与の容易化および用量の均一化のために、好ましくは服用単位形態で製剤設計する。ここで用いる表現「服用単位形態」は、治療する患者にふさわしい細胞ターゲティング複合体の物理的に不連続な単位を表す。しかし、本発明の組成物の1日の総使用量は、正常な医学的判断の範囲内で主治医によって決定することが理解されるだろう。あらゆる細胞ターゲティング複合体について、治療有効量を、最初、細胞培養アッセイまたは通常はマウス、ウサギ、イヌもしくはブタといった動物モデルにおいて、推定することができる。動物モデルは、所望の濃度範囲および投与経路を実現するためにも使用する。その後、このような情報を用いて、ヒトにおける投与に関して有用な服用量および経路を決定することができる。
【0107】
細胞ターゲティング複合体の治療効果および毒性は、たとえばED50(服用量が集団の50%において治療的に有効である)およびLD50(服用量が集団の50%の死を招く)といった、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手段によって決定することができる。治療効果に対する毒性の服用量比が治療指数であり、比LD50/ED50として表すことができる。高い治療指数を示す医薬組成物が好ましい。細胞培養アッセイおよび動物実験から得たデータを、ヒトへの使用のための服用範囲の製剤設計に用いる。
【0108】
本発明を、以下の限定されない例によって説明する。
これらの例は、異なる分類の薬物および異なる分類のターゲティング部分を有する細胞ターゲティング複合体を合成する本発明の実現性を示す。さらに、これらは、異なる器官および疾患における異なる標的細胞に向けた構成体を開発する本発明の実現性を示す。ゆえに、新規のリンカ技術が、単一の薬物および単一の分類の薬物、ならびに単一のターゲティング部分のタイプおよび単一の標的細胞タイプに限定されないことを示すことができる。
【0109】
むしろ、本発明の細胞ターゲティング複合体はたとえば、肝線維症(活性化肝星細胞)、腎線維症(腎臓近位尿細管細胞)、慢性炎症性疾患(活性化内皮細胞)、または腫瘍の血管新生(血管新生内皮細胞)において主要な役割を果たす細胞を標的にすることができる。複合体に組込まれる薬物はたとえば、炎症過程もしくは線維形成過程(ペントキシフィリン、キナーゼ阻害薬、アンジオテンシンIIレセプタブロッカ、ピロリジンジチオカルバメート)またはプログラム細胞死(TNF関連アポトーシス誘導リガンド)に関わることができる。合成した細胞ターゲティング複合体の可能性のある有用性を、試験管内での培養標的細胞による薬物ターゲティング実験において、および動物モデルでの薬物ターゲティング研究において実証する。
【0110】
実施例
以下の実施例においては、次の治療化合物を使用する。
ペントキシフィリン 3,7-ジメチル-1-(5-オキソへキシル)
(TNF-α合成阻害薬; プリン-2,6-ジオン
抗炎症剤)
ロサルタン 2-ブチル-5-クロロ-3-((4-(2-(2
(アンジオテンシンII H-テトラゾール-5-イル)フェニル)フェ
レセプタ拮抗薬) ニル)メチル)イミダゾール-4-イル]メ
タノール
PTKI 4-クロロ-N-[4-メチル-3-(4-ピリジ
(PDGF)レセプタ ン-3-イル-ピリミジン-2-イルアミノ)-
チロシンキナーゼ阻害薬) フェニル]-ベンズアミド
SB202190 4-[5-(4-フルオロフェニル)-2-(4
(p38 -メチルスルフィニルフェニル)-3H-イミ
MAPキナーゼ阻害薬) ダゾール-4-イル]ピリジン
PTK787 N-(4-クロロフェニル)-4-(ピリジン-
(ZK222584) 4-イルメチル)フタラジン-1-アミン
(VEGFレセプタ
チロシンキナーゼ阻害薬)
TKI(ALK-5阻害薬I) 3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニ
(TGF-β RI ル)-1H-ピラゾール
キナーゼ阻害薬)
Y27632 4-(1-アミノエチル)-N-ピリジン-4-
(Rhoキナーゼ阻害薬) イル-シクロヘキサン-1-カルボキサミド
二塩酸塩
AG1295 6,7-ジメチル-2-フェニルキノキサリン
(PDGF-レセプタ
チロシンキナーゼ阻害薬)
PDTC ピロリジン ジチオカルバメート
(転写因子核因子κ-B
(NFjB)阻害薬;抗炎症剤)
【0111】
実施例1
薬物送達複合体の合成
1.1. 薬物−リンカ付加体および薬物−リンカ−キャリア複合体の調製
Pt(en(NO3)Cl)リンカ(以下、cisULSとよぶ)を用いた、薬物−キャリアコンジュゲートの合成のための一般的なプロトコールを開発した。通常、このタイプの細胞ターゲティング複合体は、薬物を白金含有リンカに結合させ、次いで、リンカを高分子キャリアと反応させることによって調製した。いくつかの例では、この方法は、第2の反応工程の後に、薬物ターゲティング調製物を産生する。他の例においては、複合体をホーミングリガンドによってさらに修飾して、最終の細胞ターゲティング複合体を産生する。
【0112】
一般的条件
通常、白金(エチレンヂアミン)二塩化物(Pt(en)C12;82.5mg、0.253mmol)を、3mlのジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、少量ずつに分割したAgNO(38.5mg、0.227mmol、1mlのDMFに溶解)を2時間以内に添加することによって、より反応性の高いPt(en(NO3)Cl(cisULS一硝酸塩)へと変換した。沈殿した塩化銀を遠心分離によって除去した。種々の薬物分子を、生じたcisULS一硝酸塩と、示した条件およびモル比で反応させた。一般に、反応は、1:1のモル比で、HPLCによる分析で目的生成物の形成が完全になるまで行った。生じた薬物−ULS生成物を精製し、以下に示すように、種々のターゲティング装置すなわちキャリアに反応させた。薬物−ULS−キャリアの複合体形成ための一般的な反応条件は、10:1の薬物−ULS:キャリアの比、pH8のバッファ、37°Cの温度および24時間の反応時間である。しかし、反応条件は、生成物の組成によって変わり得る。
【0113】
1.1.a. ペントキシフィリン−cisULS含有複合体の合成
ペントキシフィリン−cisULSの合成
ペントキシフィリン(PTX、43.2mg、0.155mmol、1mlのDMFに溶解)を、cisULS(0.25mmol)と、60°Cで2日間反応させた。DMFを回転蒸発によって留去し、その後、残渣を2mlの水に溶解し、減圧下で再度乾燥した。粗生成物を水(2ml)に溶解して−20°Cで一晩貯蔵し、その後、黄色結晶として沈殿した未反応のPt(en)Cl2を、遠心分離(14000rpmで10分)によって除去した。最終生成物PTX−cisULSの同定と純度を、HPLC(95%)、NMRおよび質量分析によって調べた。PTX−cisULSを、さらなる使用まで、4°Cで貯蔵した。
【0114】
収量:105mg(0.166mmol、収率107%)。
PTX−cisULSのH NMR(DO):δ1.62(m、4H、CH(CH)CH)、2.25(s、3H、CHCO)、2.58(m、6H、COCH、HN(CH)NH)、3.99(t、J=6.56Hz、2H、CHN)、4.02(s、3H、CONCH)、4.55(s、3H、CNCHC)、5.59(m、4H、HN(CH)NH)、8.48(s、1H、CH)ppm。
PTX−cisULSの195Pt NMR(DO):δPt−2471ppm。
PTX−cisULSのイオンスプレイMS:計算質量:568、検出:568[M];550[M−Cl+OH]。PTX−ULS両種を、第2の反応工程においてキャリアと等しく反応させる。
【0115】
ペントキシフィリン−cisULS−M6PHSAの合成
本実施例において、抗炎症化合物PTXを、キャリアたんぱくであるマンノース-6-リン酸修飾ヒト血清アルブミン(M6PHSA)と結合させる。M6PHSAは、肝線維症の間、活性化肝臓星細胞(HSC)[1]上に多く発現される、インスリン様増殖因子II/マンノース-6-リン酸レセプタに結合する。M6PHSAを前述のように合成し[2]、凍結乾燥後、さらなる使用まで、−20°Cで貯蔵した。PTX−cisULSをM6PHSAに結合させるために、10mgのM6PHSA(14.3nmol)を1mlの20mM トリシン/NaNOバッファ(pH8.3)に溶解した。PTX−cisULS(143nmol)を添加し、pHを調べて必要に応じて補正した。混合物を一晩37°Cで反応させた後、未反応のPTX−cisULSを、使い捨てのPD10カラム(Amersham Biosciences)を用いるサイズ排除クロマトグラフィによって、または4°CのPBSに対する透析によって除去した。最終生成物を0.2μmフィルタによってろ過滅菌し、−20°Cで貯蔵した。PTX−cisULS−M6PHSAをたんぱく含量(BCA法)およびHPLC分析による薬物含量について特徴づけた。一般に、結合薬物はPBS中の0.5M KSCNと80°Cで一晩インキュベートすることによってM6PHSAから放出される。放出されたPTXを、274nmで作動するUV検出器および40°Cで作動するサーモスタトカラムオーブンを備える標準HPLCシステムを用いて測定した。溶出は、・ondapak Guard-pak C18プレカラムと5μm Hypersil BDS C8カラムとを組み合わせて(250×4.6mm、Thermoquest、ランコーン、英国)、アセトニトリル/水/トリフルオロ酢酸(25/75/0.1)から成る移動相を用いて、1ml/分で行った。PTXは注入後6分で溶出した。一般に、生成物は、反応に10倍モル過剰を用いれば、M6PHSAあたり5〜8の結合薬物分子を含有した。
【0116】
1.1.b. ロサルタン含有複合体の合成
ロサルタン−cisULSの合成
ロサルタンカリウム(2-ブチル-4-クロロ-1-[p-(o-1H-テトラゾル-5-イル-フェニル)ベンジル]イミダゾール-5-メタノール 一カリウム)は、アンジオテンシンIIレセプタ(ATタイプ)拮抗薬である。
【0117】
ロサルタン(32μmol、DMF中10mg/mlのロサルタンカリウム塩)をcisULS(32μmol)と60°Cで3日間反応させた。出発物質の消費を分析HPLCによって観察した。質量分析は、反応完了後に、1:1ロサルタン−cisULS種の存在を確認した。
ロサルタン−cisULSのH NMR(CDOD):δ0.79(m、3H、CH)、1.25(m、2H、CHCH)、1.48(m、2H、CHCHCH)、2.50(m、6H、CHCHCおよびCHNH)、4.43(m、1.8H、NCHC)、5.18(m、2.2H、CHOHおよび残余NCHC)、5.42(m、4H、NH);環状Hs:6.82(m、0.2H)、6.87(m、1.8H)、7.04(t、J=8.06Hz、1H、CHCHCH)、7.18(m、0.5H)、7.28(m、1H)、7.38(m、3H)、7.88(m、0.5H)。ロサルタン−cisULSの195Pt NMR(CDOD):δPt−2491および−2658ppm。MS(ESI)m/z:695[M−K−OH−H]、677[M−K−Cl−H、659[M−K−Cl−H−Cl+OH
【0118】
ロサルタン−cisULS−M6PHSAの合成
本実施例において、アンジオテンシンIIレセプタ拮抗薬ロサルタンをキャリアたんぱくM6PHSAに結合させる。前述のように、このキャリアは線維症肝臓内の活性化肝星細胞(HSC)に結合する。結合薬剤ロサルタンはレニン−アンジオテンシン系に干渉する。手短に、10mgのM6PHSA(14.3nmol)を1mlの20mM トリシン/NaNOバッファ(pH8.3)に溶解した。ロサルタン−cisULS(143nmol)を10倍モル過剰で添加して、pHを調べ、必要に応じて補正した。混合物を一晩37°Cにて反応させ、その後、生成物を4°CのPBSに対する透析によって精製した。最終生成物を0.2μmフィルタによってろ過滅菌し、−20°Cで貯蔵した。ロサルタン−cisULS−M6PHSAは、そのたんぱく含量および薬物含量(HPLC)によって計算したところ、たんぱくモル当たりおよそ7の結合ロサルタン分子を有した。ロサルタンのHPLC分析を、Novapak C18カラム、および23/77/0.1の比のアセトニトリル/水/トリフルオロ酢酸から成る移動相を用いて実行した。溶出した化合物を225nmにて観察した。
【0119】
ロサルタン−cisULS−リゾチームの合成
本実施例において、アンジオテンシンII拮抗薬ロサルタンをキャリアたんぱくリゾチーム(LZM)に結合させる。LZMおよび他の低分子量たんぱくは糸球体ろ過およびその後の近位尿細管細胞での摂取を受けるので、生じた生成物ロサルタン−cisULS−LZMは、生体内投与後、腎臓に蓄積する。このように、開発されたコンジュゲートは腎臓へのアンジオテンシン拮抗薬の送達において機能することができる。1つの付加的メチオニン基を、薬物−cisULS分子との反応前にLZMに導入した。手短に、Boc-L-メチオニンヒドロキシサクシンイミドエステル(17μmol;DMSO中で10mg/ml)をリゾチーム(14μmol;0.1M 重炭酸ナトリウムバッファ(pH8.5)中で10mg/ml)に添加し、1時間室温で攪拌した。生成物を水に対して透析し、凍結乾燥した。メチオニン修飾リゾチームは、電子スプレイ質量分析によって確認したところ、1から2の追加のメチオニン基を有した。生成物を、さらなる使用まで−20°Cで貯蔵した。ロサルタン−cisULS(0.72μmol;DMF中で3mg/ml)をメチオニン修飾LZM溶液(0.36μmol;20mMトリシン/硝酸ナトリウムバッファ(pH8.5)中で10mg/ml)に添加し、混合物を37°Cで24時間インキュベートした。生じた生成物を2日間の水に対する透析によって精製し、0.2μm膜フィルタを通してろ過し、凍結乾燥して−20°Cで貯蔵した。ロサルタンとリゾチームとの1:1のモル比のカップリングを、最終生成物の質量分析、およびキャリアからの放出後の結合薬剤のHPLC分析によって確認した。
【0120】
1.1.c. PTKI含有複合体の合成
本実施例において、血小板由来増殖因子(PDGF)レセプタチロシンキナーゼ阻害薬(PTKI)をキャリアたんぱくM6PHSAに結合させる。前述のように、このキャリアは線維症肝臓内の活性化肝星細胞(HSC)に結合する。結合薬物PTKIは、PDGFキナーゼ経路に干渉する。PDGF BBは、HSC増殖のための最も有力なマイトジェンの1つであり、線維形成過程において重要な役割を果たす。
【0121】
PTKI−cisULSの合成
PTKI(4-クロロ-N-[4-メチル-3-(4-ピリジン-3-イル-ピリミジン-2-イルアミノ)-フェニル]-ベンズアミド)(7.2μmol、DMF中で10mg/ml)を、等モル量のcisULS(7.2μmol、水中で20mM)と混合した。反応混合物を37ーCで24時間加熱し、その後、出発物質の消費を分析HPLCによって観察した。cisULSの追加量を添加し(0.5当量、3.6μmol)、反応を48時間37°Cで継続した。反応混合物を減圧下で濃縮し、メタノール(600μl)に再溶解した。粗生成物を分取HPLCによって精製し、集めたピークの主生成物を減圧下で乾燥した。生じた白色固体を水で処理して無機塩を除去し、乾燥した。収量:0.9mg(20%)。質量分析は、1:1のPTKI−ULS種の存在を確認した。1H NMR分析は、阻害薬とPt(II)との結合がピリジル窒素を介して起こるということを示した。
【0122】
PTKIのH NMR(CDOD):δ2.33(s、3H、CH)、7.26(d、J=8.28Hz、1H、CCHCH)、7.37(m、2H、CHCl)、7.52(m、3H、N(CH)CCCH)、7.93(d、J=8.60Hz、2H、CHCHCl)、8.22(s、1H、NHCCHC)、8.47(d、J=5.23Hz、1H、CHNCNH)、8.64(m、2H、CH(CH)CおよびCHCHCNH)、9.29(s、1H、NCHC)ppm。
PTKI−ULSのH NMR(CDOD):δ2.27(m、3H、CH)、2.66(m、2H、CH)、2.74(m、2H、CH)、7.15(m、3H、CHCCHおよびCHCl)、7.47(m、3H、N(CH)CCCH)、7.84(d、J=5.23Hz、1H、CHCHCNH)、7.89(m、2H、CHCHCl)、8.39(d、J=3.95Hz、1H、CHNCNH)ppm。
PTKI−ULSの質量分析(ESI+):計算質量:706(m/z);検出質量:706[M]、688[M−Cl+OH、670[M−Cl−H、669[M−Cl2H
【0123】
PTKI−cisULS−M6PHSAの合成
他の薬物−ULS−M6PHSAコンジュゲートに関して前述したのと同じプロトコールに従って、PTKI−ULSをM6PHSAと結合させた。PTKI−ULS−M6PHSAおよびM6PHSAを、サイズ排除クロマトグラフィおよびアニオン交換クロマトグラフィによって分析し、PTKI−ULSのカップリングがM6PHSAたんぱくの特性を変えないことを確認した。過剰の白金リガンドチオシアン酸カリウム(KSCN、PBS中で0.5M)との80°Cでの一晩のインキュベーションによる薬物の競争的置換後、M6PHSAに結合するPTKI量をアイソクラチックHPLCによって分析した。溶出は、5μm Hypersil BDS C8カラム(250×4.6mm、Thermoquest、ランコーン、英国)、40°Cで作動するサーモスタトカラムオーブンおよび269nmで作動するUV検出器を備える、Watersシステム(Waters、ミルフォード、マサチューセッツ州、米国)で実行した。移動相は、アセトニトリル/水/トリフルオロ酢酸(40/60/0.1、pH2)から成り、流速は1.0ml/分、感度は0.01であった。保持時間:PTKI:7分;PTKI−ULS:5分。
【0124】
1.1.d. SB202190含有複合体の合成
SB202190−cisULSの合成
SB202190(4-(-フルオロフェニル)-2-(4-ヒドロキシ-フェニル)-5-(4-ピリジル)-1H-イミダゾール、5.43μmol)をDMF中に10mg/mlの濃度で溶解し、cisULS(5.43μmol、DMF中で20.5mM)と50°Cで2時間反応させた。反応をHPLCによって追跡した。反応完了後、混合物を減圧下で乾燥するまで蒸発させ、淡黄色固体を得て、これをHPLC、1H NMRおよびエレクトロスプレイ質量分析によって分析した。質量分析は、標的とする1:1の薬物:ULS種の存在を確認し、H NMR分析は、SB202190とcis−ULSとの結合が、Pt(II)金属への、薬物中に含まれるピリジン環のNドナーの配位を介して起こるということを示した。
収量は92%だった。
【0125】
自由SB202190のH NMR(CDOD):δ6.88(d、J=8.74Hz、2H、F(CHCH))、7.17(m、2H、N(CHCH))、7.50(m、4H、(CHCH)OH)、7.82(d、J=8.68Hz、2H、F(CHCH))、8.41(m、2H、N(CHCH))ppm。SB202190−cisULSのH NMR(CDOD):δ2.59(m、4H、HN(CH)NH)、5.58(s、2H、NH)、5.91(s、2H、NH)、6.89(d、J=8.75Hz、2H、F(CHCH))、7.22(m、2H、N(CHCH))、7.53(m、4H、(CHCH)OH)、7.82(d、J=8.73Hz、2H、F(CHCH))、8.52(m、2H、N(CHCH))ppm。MS(ESI)m/z:622[M+H]、585[M−Cl−H
【0126】
SB202190−cisULS−RGDPEG−HSAの合成
本実施例において、p38マイトジェン活性化経路(MAP)キナーゼ阻害薬SB202190を、キャリアたんぱくヒト血清アルブミン(HSA)に結合させる。生じた生成物に、新たに形成された血管の内皮細胞によって発現されるレセプタである[3]、αβインテグリンに結合するRGD−ペプチドホーミングリガンドを持たせる。さらに、HSAコアたんぱくに、最終構造においてステルス特性を暗示する、ポリエチレングリコール(PEG)基を持たせる。このため、これらのPEGリガンドは非標的細胞による摂取を妨げることができる。この分類のRGD搭載ホーミング装置の他の典型を以下に例示する。第1反応工程において、10mgのHSA(14.3nmol)を20mM トリシン/NaNOバッファ(pH8.5)の1ml中に溶解した。SB202190−cisULS(143nmol)を添加し、pHを調べ、必要に応じて補正した。混合物を24時間37°Cで反応させ、その後、未反応のSB202190−cisULSを、4°CのPBSに対する透析によって除去した。最終生成物を0.2μmフィルタによってろ過滅菌し、−20°Cで貯蔵した。SB202190−cisULS−HSAをたんぱく含量(BCA法)および薬物含量(HPLC分析)について特徴づけた。さらに、SB202190−cisULSとたんぱくとの結合を、UVスペクトルを得ることによって確認した。というのも、最終生成物が、もとのHSAには存在しない結合薬剤によって334nmに特異的吸収を示すからである。SB202190のHPLC検出のために、PBC中の0.5M KSCNとの一晩80°Cでのインキュベーションによって、結合薬物をHSAから放出させた。放出されたSB202190は、C18 μBondapakカラムおよび254nmで作動するUV検出器を備える標準HPLCシステムを用いて決定した。化合物を水/アセトニトリル/トリフルオロ酢酸の80/20/0.1混合液によって1ml/分で溶出した。通常、10倍モル過剰のSB202190−cisULSを反応に用いた場合、生成物はHSAあたり5〜8の結合薬物分子を有する。最終反応工程において、SB202190−cisULS−HSAをPEGおよびRGDペプチド基で修飾した。PBSに溶解したSB202190−cisULS−HSAを、50倍モル過剰のVNS−PEG−NHS(Nektar、アラバマ州、米国;水中で20mg/ml)で滴加によって処理した。混合物をスズ箔で遮光し、ローラバンク上で室温1時間インキュベートした。一方、環状RGDペプチドc(RGDfK−Ata)(Ansynth Service、ローセンダール、オランダ)を1:4のアセトニトリル/水混合液中に10mg/mlの濃度で溶解した。RGDペプチドを反応混合物に55:1のモル比で滴加し、その後、ヒドロキシルアミンを最終濃度が50mMになるように添加した。反応は、遮光しながら室温で一晩実行した。残余VNS基をシステインの添加によって消去し(HSA量に対して55:1モル過剰)、その後、生成物をPBSに対して透析し、最終的に、Aktaシステムのsuperdex200カラムを用いるサイズ排除クロマトグラフィによって精製した(Amersham Pharmacia、ウプサラ、スウェーデン)。最終生成物を−20°Cで貯蔵した。SB202190−cisULS−RGDPEG−HSAを、SB202190−cisULS−HSAについて前述したように、そのたんぱく含量および薬物含量について特徴づけた。分析サイズ排除クロマトグラフィを実行してPEG化によるサイズの増大を明らかにし、生成物の純度を決定した。SDS−PAGEに続いて、自家調製した抗RGDペプチド抗血清によるウェスタンブロッティングおよび免疫検出を実行して、RGDペプチドと複合体との結合を明らかにした。
【0127】
SB202190−cisULS−リゾチームの合成
本実施例において、SB202190をキャリアたんぱくリゾチーム(LZM)に結合させる。開発されたSB202190−cisULS−LZMコンジュゲートは、腎臓へのp38 MAPキナーゼ阻害薬の送達において機能することができる。メチオニン修飾リゾチーム(met−LZM、前述参照;2.6μmol;トリシン/硝酸ナトリウムバッファ(pH8.5)中10mg/ml)をSB202190−ULS(7.8μmol;DMF中10mg/ml)で処理し、その後、混合物を37°Cで24時間インキュベートした。生成物を水に対して透析し、0.2μm膜フィルタを通してろ過し、凍結乾燥して−20°Cで貯蔵した。SB202190のリゾチームとの1:1の比のカップリングを、最終生成物の電子スプレイ質量分析によって確認した。さらに、薬物のカップリングを、SB202190−リゾチームコンジュゲートからの薬物の放出後に、結合SB202190のHPLC分析によって確認した。この目的のために、コンジュゲートを、0.1M リン酸バッファ生理食塩水中に溶解した0.5M チオシアン酸カリウム(KSCN)と80°Cで24時間インキュベートして、SB202190を完全に放出させた。他の場所で記載したHPLC分析法(Waters、ミルフォード、マサチューセッツ州、米国)を用いてSB202190を評価した。手短に、サンプルに内標準のSB202190誘導体を添加し、2mlジエチルエーテルで3回抽出した。抽出物を50°Cで乾燥し、残渣を100μlの移動相(アセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸、30:70:0.1v/v/v)に再溶解した。その25マイクロリッタをHPLCカラム(Thermo-Hypersil Keystone、Bellefonte、ペンシルベニア州)に注入し、350nmで検出した。SB202190と内標準とのピーク高比を用いて濃度を計算した。コンジュゲートのSB202190の置換の程度は、リゾチームのモル当たり1モルのSB202190であることがわかった。最終調製物において自由SB202190は見つけられなかった。
【0128】
cisULS−デンドリマ複合体の合成
デンドリマは、アルブミン系薬物送達システムについて前述したのと類似の方法で、薬物およびホーミング装置を備えることができる分岐ポリマである。本実施例はPAMAMデンドリマで調製された薬物−デンドリマコンジュゲートの開発を記載する。開発された生成物は、分子サイズに応じて、種々の標的への薬物送達に、さらにホーミング装置またはPEGのような他の官能基との誘導体化に、適用することができる。後者の分類の生成物は、RGD_PEG搭載薬物−デンドリマ複合体によって例示される。
【0129】
SB202190−cisULS−デンドリマの合成
PAMAM−NH2デンドリマ(世代3)に、Boc-L-メチオニンヒドロキシサクシンイミドエステル(14.4μmol;アセトニトリル中で10mg/ml)とデンドリマ(1.4μmol、PBS中で10mg/ml)との1時間室温での反応によって、メチオニン基を持たせた。生成物を水に対する透析によって精製し、凍結乾燥した。PAMAM−NH2デンドリマ(世代4)に、同プロトコールに続いてメチオニン基(合成比35:1)を持たせ、p-イソチオシアネート-ベンジル-DTPA基(合成比3:1)を持たせて、複合体の放射性トレーサ同位体との標識化を促進した。生じたキャリアをPBSに対する透析によって精製した。他の薬物−キャリア複合体に関する前述のプロトコールに従って、G3デンドリマをSB202190−cisULSと反応させ(合成比4:1)、G4デンドリマを40:1の比で反応させた。最終生成物は透析によって精製し、360nmでのUV吸光度(結合SB201190-ULSの吸光度)を測定したところ、平均1:1(G3D)または20:1(G4D)の薬物/デンドリマを含んでいた。
RGD−PEG搭載SB202190−cisULS−デンドリマの合成
PAMAM−NH2デンドリマ(世代4)に、RGD−PEG搭載アルブミンキャリアについて以下に記載する類似のプロトコールに従って、VNS−PEG−NHS(合成比40:1)およびRGD−ペプチド(比50:1)を持たせた。RGD−PEG−PAMAMデンドリマの、40:1モル当量のSB202190−cisULSによる修飾を、PAMAM世代4のデンドリマについて前述したように実行し、薬物/デンドリマの錯体を生成した。結合薬剤のUV吸光度を測定したところ、平均15:1の薬物/デンドリマの錯体であった。
【0130】
1.1.e. PTK787含有複合体の合成
本実施例において、血管形成の強力阻害薬である、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)レセプタチロシンキナーゼインヒビタPTK787を、RGD搭載ヒト血清アルブミンに結合させる。
【0131】
PTK787−cisULSの合成
PTK787(5.8μmol、DMF中で10mg/ml)をcisULS(5.8μmol)と混合した。生じた溶液を37°Cで24時間加熱し、その間、薬物出発物質の消費を分析HPLCによって観察した。溶媒を減圧下で除去し、50:50のDMF:水で処理した。質量分析は、標的とする1:1の薬物:ULS種の存在を確認し、195pt NMRおよびH NMR分析は、ピリジン環のNドナーの配位を介して、PTK787のcisULSとの結合が生じていることを示した。
【0132】
[Pt(エチレンジアミン)二塩素]の195PtNMR:−2075ppm。PTK787−ULSの195PtNMR:−2493ppm。PTK787のH NMR(CDOD):δ4.64(s、2H、CH)、7.33(m、4H、CHC(CH)およびCHCH(CC))、7.82(d、J=8.63Hz、2H、NHC(CH))、7.89(m、2H、(CH)CCl)、8.04(d、J=7.80Hz、1H、CHCHCCNH)、8.40(d、J=6.06Hz、2H、CHN)、8.44(d、J=7.74Hz、1H、CHCHCCCH)ppm。PTK787−cisULSのH NMR(CDOD):δ2.57(m、2H、CHNH)、2.65(m、2H、CHNH)、7.36(d、J=8.84Hz、2H、CHCH(CC))、7.48(d、J=6.51Hz、2H、CHC(CH))、7.82(d、J=8.48Hz、2H、NHC(CH))、7.95(t、J=8.61Hz、2H、(CH)CCl)、8.10(d、J=7.25Hz、1H、CHCHCCNH)、8.48(d、J=7.58Hz、1H、CHCHCCCH)、8.61(d、J=6.65Hz、2H、CHN)ppm。PTK787−ULSの質量分析(ESI):理論m/z:637.45[M]。検出質量m/z:658[M+Na−H]、637[M]、601[M−Cl−H。UV/Vis(PBS中):λmax339nm(ε=11679M−1cm−1)。
【0133】
PTK−ULSのRGD搭載キャリアとの結合
3つの異なるタイプのキャリアを、PEGおよびRGDペプチドを有するアルブミンの誘導体化によって開発した。これらのコンジュゲート(HSA)におけるPEGの取込みは、溶解度を改良し、マクロファージによる非特異的摂取を妨げる。PEGはさらに、生成物の体内分布を変更して、長期の循環様式を助ける。付加されたRGD-ペプチドは、前述のように、血管新生内皮細胞への結合を促進する。
【0134】
RGD−HSAの合成
PBSに溶解したHSA(30mg、444nmol)を、22倍モル過剰のヨード酢酸N-ヒドロキシサクシンイミドエステル(SIAリンカ、SIGMA、ミズーリ州、米国;DMF中の10mg/ml、9.7μmol)とインキュベートした。一方、RGDペプチドc(RGDf(ε-S-アセチルチオアセチル)K)(Ansynth Service、ローセンダール、オランダ)を、1:4のアセトニトリル/水混合液に10mg/mlの濃度で溶解した。ペプチド(11.1μmol)を、ペプチド対たんぱくのモル比25:1にて反応混合物に滴加し、その後、ヒドロキシルアミンを最終濃度が50mMになるまで添加した。ヒドロキシルアミンはRGDペプチドのアセチル基を放出して、自由スルフヒドリル基を獲得する。遮光して反応を一晩室温で実行し、その後、生成物を、PBSに対して徹底的に透析した。最終生成物RGD−HSAを−20°Cにて貯蔵した。コントロールコンジュゲートRAD−HSAを、コントロールペプチドc(RADf(ε-S-アセチルチオアセチル)K)と同じプロトコールに従って調製した。
【0135】
RGD−HSA−PEGの合成
PBSに溶解したRGD−HSA(13mg、193nmol)を20倍モル過剰のmPEGサクシンイミジルαメチル酪酸(mPEG−SMB、Nektar Therapeutics、米国;20mg/ml、3.85μmol)と、3時間室温でインキュベートした。生成物を、AktaシステムのSuperdex200 HR 10/60カラムを用いるサイズ排除クロマトグラフィ(SEC)によって精製した(GE Healthcare、ウプサラ、スウェーデン)。SECをPBS 0.5ml/分で実行し、214nm、280nmおよび339nmで観察した。最終生成物RGD−HSA−PEGおよびRAD−HSA−PEG(同じプロトコールに従って調製した)を−20°Cで貯蔵した。
【0136】
RGDPEG−HSAの合成
HSA(10mg、148nmol)をPBSに溶解し、50倍モル過剰のビニルスルホン-ポリエチレングリコール-N-ヒドロキシサクシンイミドエステル(VNS−PEG−NHS;Nektar、アラバマ州、米国;水中20mg/ml、7.4μmol)とインキュベートした。混合物をアルミホイルで遮光し、spiramixローラバンク上で穏やかに攪拌しながら1時間室温でインキュベートした。前述のように、RGDペプチド(8.14μmol)を、HSAに対して55倍モル過剰に添加し、続いてヒドロキシルアミンを添加した。遮光しながら反応を一晩室温で実行した。残余VNS基をシステインの添加によって消去し(8.14μmol;HSA量に対して55倍モル過剰)、その後、生成物を前述のようにSECによって精製した。最終生成物RGDPEG−HSAおよびRADPEG−HSAを−20°Cにて貯蔵した。
【0137】
PTK787−ULSのRGD搭載アルブミンとのカップリング
RGD修飾キャリアをPBSに溶解し、続いて15倍モル過剰のPTK787−ULSと24時間37°Cでインキュベートし、その後、未反応のPTK−ULSおよび凝集生成物をサイズ排除クロマトグラフィによって除去した。生成物を0.2μmフィルタによってろ過滅菌し、−20°Cで貯蔵した。
【0138】
1.1.f. TKI含有複合体の合成
本実施例において、ALK−5阻害薬(TGF−βキナーゼ阻害薬、TKI)3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)-1H-ピラゾール(Ca lBiochem)を腎臓対象キャリアたんぱくLZMに結合させる。TKIは、最も重要な前線維化増殖因子の1つであるTGF−βによって活性化されるシグナル伝達系を阻害する。TKIは、p38MAPキナーゼの有力な阻害薬でもある。
【0139】
TKI−cisULSの合成
TKI(9.98mg、37μmol)を、10mg/mlの濃度でDMFに溶解し、その後、調製したばかりの当モル量のcisULS溶液を添加した。混合物を37°Cで一晩加熱した。生成物をHPLC、LC−MSおよびPt−NMRによって分析した。これらの分析はTKIとULSとの1:1のカップリング比を確認した。収量:77.3%(HPLCによる)。
【0140】
TKI−cisULS−リゾチームの合成
TKI−cisULSを、他の薬物−ULS−キャリア複合体の結合について前述したように、met−LZMと反応させた。生成物を水に対する透析によって精製し、凍結乾燥して−20°Cで貯蔵した。イオンスプレイMS分析はTKI−LZMコンジュゲートの形成を確認した。結合した薬物量を、リンカからの放出後に定量した。平均で、LZMあたり1〜2のTKI分子が結合していた。
【0141】
1.1.g. Y27632含有複合体の合成
本実施例において、ROCK阻害薬Y27632を腎臓対象キャリアたんぱくLZMに結合させる。
【0142】
Y27632−cisULSの合成
Y27632(38μmol、水中10mg/ml)を1M NaOHによってpH8.5に塩基性化し、cisULS(66μmol)と50°Cで一晩反応させた。出発薬物の消費および生成物の形成をHPLCおよびLC−MSで追跡した。その後、過剰ULSを、20mM濃度のNaClであるDMF:水の1:1溶液の等体積の添加、および一晩室温での攪拌によって沈殿させた。その後、黄色固体をろ過除去する。収量:50%(HPLC;粗生成物について)。Y27632−cisULS−リゾチームの合成
Y27632−cisULSを、他の薬物−ULS−キャリア複合体の結合について前述したように、met−LZMと反応させた。生成物を水に対する透析によって精製し、凍結乾燥して−20°Cで貯蔵した。イオンスプレイMS分析はコンジュゲートの形成を確認した。結合した薬物量を、リンカからの放出後に定量した。平均で、LZMあたり1〜2のY27632分子が結合していた。
【0143】
1.2. 薬物−trans白金錯体の合成
多数の薬物−trans白金システムの合成を、たとえば以下に記載するような5工程(図1も参照)といった、複数の工程において実行した。
【0144】
1.trans-[PtCl(ONO)(NH)
4ml ジメチルホルムアミド(DMF)中のトランスプラチン(0.1g、0.333mmol)を、0.9等量のAgNO(0.051g、0.3mmol)で処理した。反応混合物を暗所で一晩撹拌した。この後、AgClをろ過除去し、cis-[PtCl(ONO)(NH)]を含有する黄色溶液を195Pt NMRによって調べた。−1775ppmに単一のピークが観察され、これは白金核周辺のClON2環境と一致する。
【0145】
2.trans-[PtCl(NH)(Boc1,n)] (n=3,4,5)
DMF中のcis-[PtCl(ONO)(NH)]を0.8等量のBoc1,n(n=3(0.046g、0.266mmol)、4(0.050g、0.266mmol)、5(0.099g、0.266mmol))および0.8当量のトリエチルアミン(EtN)で処理した。反応混合物を一晩室温で反応させた。cis-[PtCl(NH)(Boc1,n)]の形成を、反応溶液から直接、195Pt NMRによって調べた。単一シグナルが−2399ppmに観察され、これは白金周辺のClN3環境に当たる。同じシグナルが、3つの使用リンカ、Boc1,3;Boc1,4およびBoc1,5について、同じ化学シフトに観察された。
【0146】
3.trans-[Pt(ONO)(NH)(Boc1,n)](n=3,4,5)
cis-[Pt(Cl)(NH)(Bocl,n)]をDMF中0.9等量のAgNO(0.051g、0.3mmol)で処理した。反応混合物を一晩暗所で攪拌した。この後、AgClをろ過除去し、cis-[Pt(ONO)(NH)(Bocl,n)]を含有する黄色溶液を195Pt NMRで調べた。単一シグナルが−2133ppmに観察された。このシグナルは白金周辺のON3環境と一致する。同じ化学シフト値が3つの使用したリンカについて観察された。
【0147】
4.trans-[Pt(ptx)(NH)(Boc1,n)]2+(n=3,4,5)(PTXはペントキシフィリンである)
cis-[Pt(ONO)(NH)(Bocl,n)]を暗所にて一晩75°Cで0.8等量のPTX(0.074g、0.266mmol)で処理した。一晩後、所望の種の形成を195Pt NMRで調べた。複合体RBoc1,3、RBoc1,4およびRBoc1,5について、それぞれ−2487,−2484および−2492ppmにシグナルが観察された。これらの値は白金核周辺の4N環境と一致する。
【0148】
5.Boc基の脱保護
最終工程におけるアミン基の脱保護は、各複合体RBoc1,3、RBoc1,4およびRBoc1,5の0.1M HClとの、50°C暗所での一晩の処理によって起こる。H NMRは、三級ブチル基に割り当てられた1.34ppmのシグナルの消失によって、脱保護が成功したことを証明した。
【0149】
trans-[Pt(ptx)(NH)(Boc1,n)]2+(n=3,4,5)のHPLCによる精製(PTXはペントキシフィリンシステムである)
3つすべてのtrans-ULSシステムに対するHPLCによる精製は、異なる種の混合物が最初に生じるように実行した。すべての複合体について、MSおよびH NMRで調べたところ、精製は成功した。
【0150】
リンカのNH基の修飾
アミン基の修飾について、5つのシステムを水に溶解し、pHを1M NaOHで8〜9に調整する。pHの調整後、1.5等量のブロモ酢酸N-ヒドロキシサクシンイミドエステルを溶液に添加する。反応液を室温で7時間攪拌する。反応が完了するまで(図2)、アミン基とエステルとの反応を可能にするために、反応混合物のpHを8〜9に維持することが重要である。
【0151】
反応の進行をLCMSで追跡した。
2時間ごとに一定分量を取り出し、LCMSで調べた。修飾複合体に対応するピークは時間とともにその強度を増していることが観察された。反応7時間後、クロマトグラムにさらなる変化は観察されなかった。所望の種の質量は、それぞれ701.08,715.05,729.08であるとわかった。修飾複合体の精製が必要であった。非修飾複合体の精製に使用したのと同じ条件でHPLCによって精製を実行し、すべての場合において成功した。次に、これらの複合体は、限定はしないが、修飾アルブミン、抗体などのターゲティング装置に連結することができる。
【0152】
AG1295-transULSの合成における媒介物としてのtrans-[PtCl(ONO)(NH)]の使用
AG1295(18.7μmol)をDMF中に10mg/mlの濃度で溶解し、50°Cで1.5時間transULS(8.54μmol、DMF中18.7mM)と反応させた。反応後をHPLCで追跡した。質量分析は標的とする1:1の薬物:ULS種の存在を確認した。溶媒は減圧下で除去することができる。K2−transULS(ESI+)の質量分析:計算質量:497(m/z);検出質量:497[M]。
【0153】
PTK787−transULS
PTK787(5.77μmol)をDMF中に10mg/mlの濃度で溶解した。等モルのtrans−ULS(DMF中18.7mM)を添加し、生じた混合物を37°Cで2時間加熱した。その後、さらに0.25モル当量のtransULSを添加し、生じた溶液を37°Cで1.5時間加熱した。過剰ULSは、Y27632−cisULSの合成において記載したようなNaCl処理によって、除去することができる。溶媒は減圧下で除去することができる。反応をHPLCで追跡した。質量分析は標的とする1:1の薬物:ULS種の存在を確認した。
KTK787−transULS(ESI+)の質量分析:計算質量:609(m/z);検出質量:609[M]。
【0154】
ロサルタン-transULS
生成物は、ロサルタン(3.40μmol;10mg/ml)の、等モルのDMF中transULS(18.7mM)との一晩室温での処理で生じた。反応をHPLCで追跡した。質量分析は標的とする1:1の薬物:ULS種の存在を確認した。ロサルタン−transULS(ESI+)の質量分析:計算質量:710(m/z);検出質量:710[M]。
【0155】
SB202190−transULS
この種は、DMF中SB202190(5.43μmol、10 mg/ml)と、等モルのDMF中transULS(18.7mM)との1時間37°Cでの反応によって生じた。反応をHPLCで追跡した。質量分析は標的とする1:1の薬物:ULS種の存在を確認した。SB202190−transULS(ESI+)の質量分析:計算質量:594(m/z);検出質量:594[M]。
【0156】
1.3. 二核種の合成および特性
ジクロロ(エチレンジアミン)白金(II)(1)
ヨウ化カリウム(2g、12mmol)を50mlの水中1g(2mmol)のKPtl溶液に添加した。生じたKPtClの黒ずんだ溶液を0.16ml(2.4mmol)のエチレンジアミンで処理し、室温で数時間静置した。その後、PtenIの暗黄色の沈殿物をろ過して集め、水、氷冷エタノールおよびエーテルで洗浄し、空気中で乾燥した。収量:1g(99%)。
【0157】
その後、5ml水中の硝酸銀(0.66g、3.9mmol)を、攪拌しながら、25ml水中のPtenI(1g、2mmol)懸濁液に添加した。混合物を一晩室温暗所で攪拌した。その後、AgIの白色沈殿をろ過除去し、0.33g(4.4mmol)のKClをろ液に添加した。混合物を暗所で一晩貯蔵し、生じた黄色の沈殿をろ過して集め、氷水、エタノールおよびエーテルで洗浄し、空気中で乾燥した。収量:0.52g(80%)。CClPtの元素分析、計算値:C,7.37;H,2.47;N,8.59。検出値:C,7.58;H,2.80;N,8.50。195Pt NMR(DO):δ−2330。
【0158】
2-(2-三級-ブチルオキシカルボニルアミノ)エトキシ)エタノール(2a)
10mlエタノール中2.62g(12mmol)の二炭酸ジ-三級-ブチル溶液を、10mlエタノール中1.05g(10mmol)の2-(2-アミノエトキシ)エタノール攪拌溶液に穏やかに添加した。室温で4時間攪拌した後、溶媒を減圧下で除去した。残渣を25ml 酢酸エチルで抽出し、有機相を乾燥し(NaSO)、ろ過し、蒸発させて生成物を得た。収量:1.95g(95%)。H NMR(CDCl):δ4.88(s、1H、NH)、3.74(t、2H、H)、3.56(m、4H、H+ H)、3.34(m、2H、H)、1.45(s、9H、Boc)。
【0159】
1-(2-(三級-ブチルオキシカルボニルアミノ)エトキシ)-2-スルホニルエタン(2b)
塩化メタンスルホニル(0.88ml、11.4mmol)を、0°Cの50mlジクロロメタン中1.95g(9.5mmol)の2aおよび2ml(14.3mmol)のトリエチルアミン攪拌溶液に穏やかに添加した。生じた溶液を1時間0°Cおよび30分室温で攪拌した。その後、溶液を、1M HCl(50ml)、水(50ml)、10% NaCO水溶液(50ml)および塩水(50ml)で引き続いて洗浄した。有機相を乾燥し(NaSO)、ろ過し、蒸発させて生成物を得た。収量:1.62g(60%)。H NMR(DO):δ4.35(t、2H、H)、3.73(t、2H、H)、3.56(t、2H、H)、3.33(m、2H、H)。
【0160】
1-(2-(三級-ブチルオキシカルボニルアミノ)エトキシ)-2-アジドエタン(2C)
アジ化ナトリウム(1.49g、22.9mmol)を20ml無水ジメチルホルムアミド中2b(1.62g、5.72mmol)の攪拌溶液に添加した。混合物を60〜70°Cで一晩加熱した。冷却後、溶液を水に注ぎ、酢酸エチルで抽出した(5×30 ml)。有機相を集め、乾燥し(NaSO)、ろ過し、蒸発させて生成物を得た。収量:0.6g(46%)。H NMR(CDCl):δ3.65(t、2H、H)、3.55(t、2H、H)、3.36(m、4H、H+H)。
【0161】
1-(2-(-三級-ブチルオキシカルボニルアミノ)エトキシ)-2-アミノエタン(NONBoc、2d)
10mlテトラヒドロフラン中0.82g(3.1mmol)のトリフェニルホスフィン溶液を、20mlテトラヒドロフラン中0.6g(2.6mmol)の2c溶液に添加した。生じた溶液を2時間室温で攪拌した。続いて、200mlの水を添加し、混合物を一晩室温で攪拌した。その後、混合物を蒸発させて75mlとし、ろ過した。ろ液を25mlジクロロメタンで洗浄し、蒸発させて生成物を得た。収量:0.5g(79%)。H NMR(CDCl):δ3.50(m、4H、H+H)、3.33(m、2H、H)、2.86(t、2H、H)。ESI−MS:m/z 205.2(M+H)。
【0162】
[Pt(エチレンジアミン)Cl(NO)] (1a)
1mlジメチルホルムアミド(DMF)中38.6mg(0.23mmol)のAgNO溶液を、暗所にて室温で、1.6ml DMF中78.2 mg(0.24mmol)の1の攪拌溶液に、1.5時間にわたって滴加した(図3)。混合物を暗所で5時間攪拌し、その後AgCl沈殿をろ過除去した。生じた[PtenCl(NO)]の淡黄色DMF溶液を、以下に記載するように、1bおよび1cの調製用出発物質として使用した。
【0163】
[Pt(エチレンジアミン)Cl(NONBoc)](NO) (lc)
上述のようにして得た1a溶液を、暗所で40mg(0.2mmol)のNONBoc (2d)に添加した。生じた溶液を一晩暗所にて室温で攪拌した。その後DMFを真空下で除去した。過剰の水を残渣に添加し、PtenClの黄色の沈殿をろ過除去した。残りの1cろ液を凍結乾燥した。収量:87mg。195Pt NMR(HO):δ−2645。
【0164】
[Pt(エチレンジアミン)(PTX)(NONBoc)](NO) (1f)、PTXがペントキシフィリンである経路II
1ml DMF中19.8mg(0.117mmol)のAgNO溶液を、暗所にて室温で、1.6ml DMF中68.6mg(0.123mmol)の1cの攪拌溶液に、1.5時間にわたって滴加した。混合物を5時間暗所で攪拌し、その後AgCl沈殿をろ過除去した。ろ液1eを27.4 mg(0.098mmol)のPTXに添加した。生じた溶液を暗所にて70°Cで攪拌した。その後、黒色沈殿をろ過除去し、蒸発させた。残渣を水に溶解し、ろ過し、ろ液1fを凍結乾燥した。収量(粗生成物):71mg。195Pt NMR(DMF):δ−2700。ESI−MS:m/z 737.2(M−2(NO)−H)、459.28(M−2(NO)−PTX−H)。
【0165】
[{Pt(エチレンジアミン)(PTX)}(μ-NON){Pt(エチレンジアミン)X}](CHCOO)、X=Cl(4)またはCHCOO(4a)
複合体1f(81.4mg、0.094mmol)を4mlの0.1M塩酸に溶解し、生じた溶液を暗所にて50°Cで一晩加熱した。その後、溶液のpHを2M NaOHで8に調整した。その後、68mg(0.4mmol)の硝酸銀を添加して、溶液から塩化物イオンを除去した。AgClの沈殿をろ過除去し、続いて、前述のようにして得た1aの溶液をろ液に添加した。生じた溶液を暗所にて24時間50°Cで攪拌した。その後溶媒を真空下で除去した。残渣を水に溶解し、ろ過し、高速液体クロマトグラフィによって精製した。精製物を凍結乾燥し、Hおよび195Pt NMRならびにLC ESI−MSによって特徴づけた。収量:5mg。H NMR(DO):δ8.61(s、1H、ptx)、4.50(s、3H、ptx)、4.09(s、3H、ptx)、4.01(t、2H、NON)、3.72(t、2H、NON)、3.64(m、4H、NON)、2.81(m、2H、en)、2.78(m、2H、en)、2.65(m、4H、ptx)、1.93(s、CHCOO)、1.62(m、4H、ptx)。195Pt NMR(DO):δ−2400(4a)、−2632(4)、−2700。LC ESI−MS:4の保持時間9.68分(m/z 985.14(M(4)3+−2H+CHCOO)、647.04(M(4)3+−3H−ptx);4aの保持時間12.09分(m/z 1009.08(M(4a)3+−2H+CHCOO)、669.93(M(4a)3+−3H−ptx)。上述の生成物は媒介錯体にすぎない。次に、ターゲティング部分をこの生成物に連結する。
【0166】
1.4. ヘテロ二価性リンカの合成および特性
SMCC−ULSの合成
20.2mgのKRE−Boc−ULS(3.54×10−5mol)をMilliQ中200mMの塩酸溶液577μlに溶解した。生じた溶液を50°Cで一晩加熱した。その後、MilliQ中200mMの塩酸264μlを添加した。MilliQ中1Mの水酸化ナトリウム溶液およびMilliQ中200mMの塩酸溶液を用いて、pHを約7.5に調整した。MilliQ中1Mの水酸化ナトリウム溶液を用いて、0.05Mリン酸バッファのpHを7.25に調整した。その後、生じたバッファ溶液561μlを、脱保護したKRE−Boc−ULS溶液に添加した。11.9mg(3.56×10−5mol)のSMCCサクシンイミジルエステルを約5滴のN,N’-ジメチルホルムアミドに溶解し、ULS溶液に滴加した。沈殿が生じた。したがって、溶解を達成するまでDMFを滴加した。生じた溶液を遮光下室温で一晩撹拌した。その後、質量分析を行った。
【0167】
RGD−SMCC−ULS−TRAILの合成
以下の実施例は、RGDペプチドホーミング装置の、組換え治療たんぱくTRAIL(腫瘍壊死因子[TNF]関連アポトーシス誘導リガンド)への結合を記載する。TRAILは癌細胞根絶の有力候補である。TRAILへのRGDペプチドの搭載は、その腫瘍血管系へのホーミングを促進することができる。
【0168】
ヒトhisTRAILを10% グリセロールを含有するPBS中0.7mg/mlの濃度に希釈した。SMCC−ULSを20mM NaCl中10mg/mlの濃度で溶解した。全サンプルをpH7.4に調整した。hisTRAIL(500μg、7.6nmol)をSMCC−ULS(76nmol)と4時間37°Cでインキュベートし、その後、未反応SMCC−ULSを4℃のPBS 10%グリセロールに対する透析によって除去した。RGDペプチドc(RGDf(ε-S-アセチルチオアセチル)K)を1:4アセトニトリル/水混合溶媒に10mg/mlの濃度で溶解した。RGDペプチド(152nmol)を反応混合物に滴加し、その後、ヒドロキシルアミンを50mMの最終濃度にまで添加した。混合物を遮光しながら一晩室温でインキュベートした。残余SMCC基をシステインの添加(TRAIL量を上回る20:1モル過剰)によって消去した。精製物RGD_SMCC−ULS−TRAILを、最終的にPBS/10%グリセロールに対する透析によって精製し、−20°Cで貯蔵した。
【0169】
Bio−ULS−TRAILの合成
以下の実施例は、ビオチン−ULS−TRAILの合成を記載しており、ビオチン−ULS−TRAILは、アビジン−ビオチンの相互作用を介して、RGD−PEG−アビジンといったRGD搭載キャリアと複合体形成することができる。生じたbio−ULS−TRAIL//RGD−PEG−アビジン複合体は、血管新生内皮細胞と相互作用することができ、これによって、TRAILを腫瘍細胞および腫瘍血管に向け直すことができる。
【0170】
bio−ULS−TRAILの合成
hisTRAIL量に対して10:1のモル比のビオチン−ULSを用いて、前述したのと同じプロトコールで、bio−ULS−TRAILを調製した。最終生成物をPBS/10%グリセロールに対する透析によって精製し、−20°Cで貯蔵した。ビオチンの組込みを、SDS−PAGEおよびストレプトアビジン−ペルオキシダーゼを用いる抗ビオチンウェスタンブロッティングによって確認した。
【0171】
RGD−PEG−アビジンの合成
RGD−PEG−アビジンを、RGD−PEG−HSAについて記載したのと類似のプロトコールで調製した。2mgのアビジン(30μmol)、10倍モル過剰のヘテロ二価性ビニルスルホン-ポリエチレングリコール-N-ヒドロキシサクシンイミドエステル(1mg、300nmol)および11倍モル過剰のRGDペプチドを用いた。アビジンあたり平均5.4のRGD基が組込まれた。ビオチン−TRAILのRGD−PEG−ア
【0172】
ビジンとの複合体形成
複合体を、ビオチン化TRAILとRGD−PEG−アビジンとの混合によって生成するか、原位置で(in situ)、すなわち両成分を連続して細胞に添加した後に、形成した。
【0173】
実施例2
細胞ターゲティング複合体の試験管内評価
2.1. 薬物放出研究
薬物−キャリア結合の安定性を、たとえばバッファ、薬物放出物質または生物学的媒介物を混合したバッファといった種々の条件下で、細胞ターゲティング複合体を37°Cでインキュベートすることによって調査した。概して、放出された薬物をHPLCによって分析し、結合した薬物/ターゲティング複合体の総量の割合として表した。
【0174】
結果
薬物放出プロフィールの一般的な例を、図4に表わしている。
【0175】
パネルA:血清/PBS 1:1中37°Cのインキュベーション中のPTX−cisULS−M6PHSAの薬物放出プロフィール。PTX−cisULS−M6PHSAは血清中に緩やかに薬物を放出するだけで、薬物とキャリアとの結合が、コンジュゲートが標的細胞に到達するのを可能とするのに充分な安定性を表していることを示す。代わりに、観察された放出プロフィールは、特定の標的細胞に活発に結合しない薬物の、薬物キャリアからの緩やかな放出プロフィールを許容するだろう。このような生成物は薬物を継続的に解放することによって、体内の薬物レベルを制御する。そのような調製物の例は、たとえば血流を循環する、皮下注射された持効性調製物またはキャリアである。
【0176】
パネルB:バッファ、HSC培地または示した化合物を含むPBS中での37°C24時間のインキュベーション後の、PTX−cisULS−M6PHSAからのPTXの放出。
【0177】
:PBSに対してp<0.05。
この図から充分理解できるように、薬物は細胞内条件に似た環境内で放出された。ゆえに、もとの薬物PTXは、原則として、標的細胞内部のコンジュゲートから生じることができる。
【0178】
パネルC:PBS pH7.4、ラット血清、またはPBSにおける腎臓ホモジネート1/3(w/v)中で、37°Cにてインキュベーションしたときの、SB202190−cisULS−LZMからのSB202190の放出。SB202190−cisULS−LZMは、バッファまたは血清中で高い安定性を示したが、腎臓ホモジネート中でインキュベーションすると自由薬物を継続的に放出した。これらの結果は、生成物の意図した適用と充分一致している。すなわち、複合体は、標的組織内での蓄積後、その貨物(結合薬物)を放出することができる。
【0179】
2.2. 試験管内効果の研究
コンジュゲートの薬理効果を、たとえば活性化肝星細胞(HSC)、腎臓尿細管細胞(HK−2細胞)またはヒト臍帯内皮細胞(HUVEC)といった、異なる培養細胞型で試験した。概して、細胞をコンジュゲートと37°Cで24時間インキュベートした。続いて、細胞を、結合薬物の薬理活性に関する分析(遺伝子発現分析、影響マーカの免疫組織化学的評価)、または複合体の可能性のある細胞毒性に関する評価(細胞生存率評価、アポトーシス評価)に付した。
【0180】
結果
細胞ターゲティング複合体の薬理学的プロフィールの一般的な例を図5〜14に示す。
【0181】
図5.PTX−cisULS−M6PHSAの、線維症マーカI型コラーゲンおよびα−平滑筋アクチンへの影響。HSCを、PTX−cisULS−HSA、PTX−cisULS−M6PHSA(双方とも100μM PTXに相当する1mg/mlにて)、または1mM 非標的PTXとインキュベートした。I型コラーゲンまたはα−平滑筋アクチンについて細胞を染色し、ヘマトキシリン(hematoxillin)で対比染色した。パネルA、B)コントロール;パネルC、D)PTX−cisULS−HSA;パネルE、F)PTX−cisULS−M6PHSA;パネルG、H)非標的PTX。倍率10×。肝線維症の顕著な特徴の1つは、活性化HSCによるa−平滑筋アクチン(aSMA)およびI型コラーゲンの誘導発現および生産である。したがって、これらのたんぱくを、標的PTXの抗線維化効果の読出しパラメータとして選択した。図5において見ることができるように、活性化HSCは、おそらくI型プロコラーゲンの存在に対応して、I型コラーゲンを細胞質において粒状染色パターンで表わし、一方、aSMAは線維症様パターンで染色された(パネルA、B)。1mM濃度のPTXの処理によって、I型コラーゲン生産およびaSMA双方の強度は低下した(パネルG、H)。100μMの結合PTXに相当する、1mg/mlのPTX−cisULS−M6PHSAとの細胞のインキュベーションは、染色強度の低下として観察することができるように、24時間のインキュベーション後、I型コラーゲンの発現に大いに影響を及ぼした(パネルE)。aSMA染色強度に影響はなかったが、PTX−cisULSM6PHSAとのインキュベーション後、星細胞の形態に顕著な変化が観察された。特に、豊富に存在するaSMAを染色した後、細胞構造の変化をはっきり見ることができる(パネルF)。HSCは、PTX−cisULS−M6PHSAの処理に反応して、細胞質体積の損失、丸い細胞形状およびプレート表面からの細胞の剥離をもたらした。これらの効果はPTX−HSAの等濃度でのインキュベーション後には観察されなかった(パネルC、D)。
【0182】
図6.培養活性化HSC(パネルA)または線維症ラット肝臓由来肝臓切片(結紮後3週間の胆管結紮ラット;パネルB)へのPTKI−cisULS−M6PHSAの影響。濃度は、PTKI量(10μM)またはM6PHSAキャリアのその相当量(0.1mg/ml)を示す。遺伝子発現レベルをGAPDHの発現に対して標準化し、続いてコントロール細胞または切片の相対発現比に対して標準化した。
【0183】
PTKI活性およびそれによって生成された細胞ターゲティング複合体を、リアルタイム定量RT−PCRによって分析した、線維症マーカの遺伝子発現レベルの決定によって調べた。この例から充分に理解することができるように、PTKI−cisULS−M6PHSAは自由薬物PTKIに類似する抗線維化効果を及ぼすが、キャリアM6PHSAは調査した遺伝子に影響を及ぼさなかった。
【0184】
図7.内皮細胞における炎症へのRGD−PEG−SB202190−cisULS−HSAの影響。HUVECを、薬物、薬物ターゲティングコンジュゲートおよびコントロールコンジュゲートと24時間プレインキュベートし、その後TNFαを添加した。細胞および培地を24時間後に採取し、炎症関連遺伝子の定量リアルタイムRT−PCR検出または分泌されたIL−8のELISAベースの検出に用いた。
【0185】
パネルA:TNFおよび記載した化合物で処理したHUVECにおけるIL8の遺伝子発現レベル。充分理解することができるように、IL8およびE−セレクチン遺伝子は、TNFによる処理に反応してHUVECにおいて上方調節されている。この反応を、10μM濃度のSB202190によって40%のレベルにまで阻害することができる。SB202190−cisULS−RGDPEG−HSAによる処理は、それほどではないにせよ、この遺伝子の阻害をもたらしている。薬物を持たないRGD−PEG−HSAキャリアによる処理は、IL8遺伝子発現を低減させなかった。
【0186】
さらに、IL−8遺伝子発現の阻害は、培地におけるIL8の生産および分泌の低下にも対応する(図7パネルB)。
【0187】
これらの2つの結果から、p38MAPキナーゼ阻害薬SB202190は、化合物が細胞によって処理されると、細胞ターゲティング複合体から生じ得ると結論する。薬物の有効性において観察された差異は、コンジュゲートの細胞ルーティングによって説明することができる。すなわち、薬物ターゲティング構成体は、活性薬物を放出するために、細胞のリソソームコンパートメントにおいて内在化および処理されなければならない。これらの処理は、自由化合物の単純な受動拡散よりも長い。しかし、生体内でのキャリアの異なる挙動との組み合わせによって、RGD標的薬物は自由化合物に対してよりも優れた活性を示すかも知れない。
【0188】
薄灰色のバーは自由薬物を、黒色のバーは薬物ターゲティングコンジュゲートを、濃い灰色のバーは異なるコントロールコンジュゲートを表している。21μg/mlのRGDPEG−SB−HSAは3μMのSB202190と等しく、70μg/mlでは10μMのSB202190と等しい。p<0.01は、各コントロールコンジュゲートおよびTNFα処理コントロールと比較したものである。
【0189】
図8.HK−2尿細管細胞においてTGF−β1によって誘導されるIa1型プロコラーゲンの遺伝子発現に及ぼすSB−cisULS−LZM(パネルA)およびTKI−cisULS−LZM(パネルB)の影響。細胞を24時間80%の密集度に増殖し、その後血清から剥脱した。SB−cisULS−LZMコンジュゲート(155μg/ml)、TKI−cisULS−LZMコンジュゲート(8または80μg/ml)またはメチオニン修飾LZM(等濃度)を血清剥奪時にインキュベートし、自由SB202190(10μm)またはTKIを細胞に添加し、その1時間後にTGF−β1(10ng/ml)を添加した。さらに、細胞を24時間培養し、その後、RNAを細胞から単離し、mRNAの発現を定量RT−PCRによって決定した。データは少なくとも3回の実験の平均±SEMを表す。対コントロールの差異を†††p<0.001として表す。他の差異は**p<0.01および***p<0.001である。
【0190】
図9.内皮細胞における血管新生応答に及ぼすRGD搭載TK787−アルブミンコンジュゲートの影響。薬物ターゲティングコンジュゲートを、VEGF誘導遺伝子発現を阻害する能力について試験した。細胞を低血清培地(1.5% FCS)で培養し、示した化合物とインキュベートした。24時間のインキュベーション後、5ngのVEGFをウェルに添加し、さらに50分後、細胞溶解物を採取した。VEGFの添加後、NR4A1核内レセプタを直ちに上方調節した。3つすべての薬物ターゲティングコンジュゲート(おおよそ4μg/ml、結合PTK787の500nMに相当)は、この上方調節を有意に阻害することができたが、薬物を持たないキャリアはVEGF誘導遺伝子発現には影響しなかった。自由薬物を100nMの濃度で添加した。
【0191】
2.3. 細胞ターゲティング複合体の毒性
cis白金はよく知られた抗腫瘍剤であるので、薬物をキャリアに連結するための白金配位化学の使用は、構成体内への不所望の毒性を暗示しているのかもしれない。したがって、コンジュゲートの、ターゲット細胞の細胞生存およびアポトーシスへの影響を綿密に評価した。図10,11および12は、異なるタイプの標的細胞(それぞれHSC、尿細管NRK-52E細胞およびHUVEC)の、細胞ターゲティング複合体、自由薬物、自由キャリア/ホーミング装置、またはシスプラチン(ポジティブコントロール)とのインキュベート後の、細胞生存率研究およびアポトーシス評価の結果を示す。インキュベーションを24時間37°Cで実行し、Alaniar Blueアッセイ(HSC、HK−2細胞)またはMTSアッセイ(HUVEC)を用いる標準のプロトコールによって、細胞生存率を評価した。標準のプロトコールに従う、カスパーゼ3/7アッセイまたはTUNEL染色のいずれかによって、アポトーシスを評価した。
【0192】
図10.パネルA〜D:HSCの、PTX−cisULS−M6PHSAとのインキュベーション。
A:HSCの細胞生存率;B:カスパーゼ3/7活性;C:TUNEL染色;D:TUNELポジティブ核の定量化(TUNEL/DAPI比)、コントロールに対してp<0.05。パネルE、F:培養活性化HSCの、それぞれロサルタン−cisULS−M6PHSAおよびPTKI−cisULS−M6PHSAとのインキュベーション後の細胞生存率。示した濃度はコンジュゲートもしくは等量のシスプラチン、薬物またはM6PHSAの白金含量を反映している。活性化HSCの、シスプラチンとの24時間の処理は、すべての評価において反映されるように、この細胞型のアポトーシスを誘導した。反対に、細胞ターゲティング複合体は、アポトーシスの活性化も生存HSC数の減少も誘導しなかった。このことから、薬物−cisULS−M6PHSAコンジュゲートは、HSCにおいてcis白金様細胞毒性効果を示さなかったと結論する。コントロールに対してp<0.05。
【0193】
図11.細胞ターゲティング複合体およびシスプラチンの、尿細管細胞(NRK−52E)への細胞毒性の比較。腎臓毒性は、シスプラチン処理に関連する主要な副作用の1つであるので、腎臓を対象とした細胞ターゲティング複合体の安全性を注意深く調査した。この目的のために、薬物−cisULS生成物および薬物−cisULS−LZMコンジュゲートを腎臓近位尿細管細胞とインキュベートし、24時間後に細胞生存率を評価した。細胞を24時間、示した化合物とインキュベートし、その後、細胞生存率をAlamarブルーアッセイによって決定した。試験した濃度は10および100μMの白金に相当し、また、薬物(SB202190)もしくはたんぱく(LZM)の量に等しかった。**p<0.01。薬物−cisULSでの処理は細胞生存率に影響を及ぼし、もとの薬物での処理と類似する。同様に、SB202190−cisULS−LZMは非修飾リゾチーム以外の細胞生存率に影響しなかった。反対に、シスプラチンは、参考文献より予想されるように、細胞生存率に有意に影響を及ぼした。これらの結果から、cisULSによって調製した細胞ターゲティング複合体は、尿細管細胞とインキュベートしたとき、白金関連毒性を示さないと結論する。
【0194】
図12.RGDPEG−SB−HSAおよびULS含有コンジュゲートは内皮細胞に対して毒性を示さなかった。RGDPEG−SB−HSA(100μg/ml)、SB−ULS、ULSまたはシスプラチン(すべて100μM)をEC培地に添加し、3日間インキュベートした。MTS評価を用いて、細胞生存率を、非処理コントロール(=100% 生存率)と比較して評価した。
【0195】
図13は、HUVEC細胞生存率が、非修飾hisTRAILおよびビオチン化TRAIL(パネルA)またはRGD搭載TRAIL(パネルB)によって影響されないことを示す。100ng/mlの組換えたんぱく濃度で48時間インキュベーションを実行した。別の例において(以下参照)、腫瘍細胞がTRAILおよびその誘導体に応答していることを実証する。したがって、HUVECはTRAILに応答せず、遷移金属系の細胞ターゲティング複合体における細胞毒性の不在はリンカシステムの安全性を示すと結論した。TRAIL:TNF関連アポトーシス誘導リガンド;修飾TRAILを、市販のbio-EZ試薬(BIO−NHS−TRAIL)、KRE−Bio−ULS(BIO−ULS−TRAIL);ヨード酢酸NHS試薬(RGD SIA−TRAIL);VNS−PEG−NHS 3.4kDaリンカ(RGD PEG−TRAIL);SMCC−ULS(RGDULS−TRAIL)を用いて調製した。
【0196】
図14.TRAILおよびその細胞ターゲティング複合体の薬理活性を、Jurkat leukemicT-細胞において、細胞生存率(48時間のインキュベーション)またはカスパーゼ評価の誘導(4時間のインキュベーション)を分析することによって評価した。両タイプの実験は、TRAILおよびTRAILで調製した誘導体が腫瘍細胞を殺すことができると実証した。さらに、ULS系リンカで調製した誘導体は、細胞ターゲティング複合体を調製する他の化学的アプローチと比較して、より優れた細胞毒性を示した(パネルA、B:BIO−NHS−TRAILよりも優れた活性のBio−ULS−TRAIL;パネルC、D:RGD−PEG−TRAILよりも優れた活性のRGD−ULS−TRAIL)。ホーミングリガンドによるたんぱくの修飾後も、TRAILの薬理活性は保存されると結論した。パネルA、B:Jurkat細胞のビオチン化TRAILとのインキュベーション。A)細胞生存率評価;B)カスパーゼ活性評価。パネルC、D:Jurkat細胞のRGD搭載TRAILとのインキュベーション。C)細胞生存率評価;D)カスパーゼ活性評価。:p<0.05.
【0197】
2.4. 試験管内ターゲティング研究
細胞ターゲティング複合体と標的細胞との相互作用を培養標的細胞内で調査した。通常、標的細胞を複合体と4°Cまたは37°Cでインキュベートすることによって、試験管内ターゲティング研究を実行した。標的細胞による複合体の結合および/または内在化を、複合体に対する免疫組織化学的染色(たとえば抗HSAもしくは抗LZM染色)または複合体に導入された放射性レポータ基(たとえば125I)の定量化によって検出した。ターゲティング研究の典型的な例を図15〜17に示す。
【0198】
125I放射性標識PTX−cisULS−M6PHSAと、NIH/3T3線維芽細胞を発現するM6P/IGFIIレセプタとの結合(インキュベーション:4時間37°C)を調べた。図15Aは、トレーサ量の細胞ターゲティング複合体が細胞に結合したこと、および結合を過剰の非標識M6PHSAによって置換することができることを示している。さらに、抗HSA免疫検出によって、PTX−cisULS−M6PHSAの結合を実証したが(1mg/ml、4時間37°C)、PTX−HSAは細胞に結合しなかった(図15B)。ゆえに、PTX−M6PHSAの、標的細胞への結合は、コンジュゲート中のM6Pホーミングリガンドを介して仲介された。
【0199】
89Zr放射性標識化合物を用いて、RGD搭載複合体の、内皮細胞への結合を調べた。
図16Aは、RGDPEG−SB202190−cisULS−HSAの、内皮細胞(HUVEC)との結合を、自由RGDペプチドおよびSB202190を搭載しないRGDPEG−HSAによって置換することができることを示している。反対に、SB202190−cisULS−HSAは、複合体と標的細胞との相互作用に影響しなかった。図16Bは、細胞および化合物を37°Cでインキュベートしているうちに複合体の蓄積が増加したことを示しており、複合体のレセプタ仲介内在化を表す。
【0200】
結合定数の計算を可能とする、異なる実験機構において、RGD搭載PTK787−cisULS−アルブミンの親和性を調査した。HUVECの表面で発現するαvβ3−インテグリンの放射性リガンドとして、125I標識エキスタチンを用いた。競合的結合研究を、HUVECの融合性単層を用いる、放射性標識リガンドおよび非放射性標識複合体とのコインキュベーティング(coincubating)によって実行した。すべてのRGD搭載コンジュゲートは完全に125Iエキスタチンを置換したが、コントロールRADペプチドで修飾したコンジュゲートは置換を示さなかった(図17A〜C)。さらに、PTK787−cisULSの、キャリアとの結合は、ホーミングリガンドと標的細胞との相互作用を妨害しなかった。薬物を持つキャリアおよび持たないキャリアが類似の親和性を示したためである。最も高い結合親和性を、RGD−PTK−HSA(IC50:4.4nM;0.3μg/ml)について決定し、続いてRGD−PTK−HSA−PEG(IC50:65nM、4.4μg/ml)およびRGDPEG−PTK−HSA(IC50:640nM、43μg/ml)について決定した(図17D)。
【0201】
RGDPEG−アビジンとHUVECとの相互作用を、類似の機構において試験した(IC50:134nM;図17E)。
【0202】
実施例3.
細胞ターゲティング複合体の生体内評価
3.1. 生体内ターゲティングの研究
生体内ターゲティングの研究は、標的器官もしくは他の組織または体液(血清、尿)における薬物レベルをHPLCによって定量化する研究を含んだ。概して、薬物レベルを、ターゲティング複合体からの薬物の放出後にHPLCによって決定し、または複合体から放出された薬物を反映する自由薬物レベルを評価した。さらに、組織または細胞型における細胞ターゲティング複合体の蓄積を、複合体に対する免疫組織化学的染色(抗HSAまたは抗LZM染色)によって、または放射性標識複合体(125I放射性標識コンジュゲート)の検出によって決定した。典型的な例を図18〜22に示している。
【0203】
3.1.1. 肝臓対象細胞ターゲティング複合体の薬物動態評価
このタイプの細胞ターゲティング複合体による組織分布研究を、肝線維症のよく知られた2つの動物モデル(それぞれ担管結紮(BDL)モデル[1]およびCCl吸入モデル[6])において実行した。すべての生体内実験は、実験動物の配慮および使用に関する地方委員会(Local Committee for Care and Use of Laboratory Animals)によって認可された。
【0204】
PTX−cisULS−M6PHSAの評価
薬物動態研究を、線維症が進行した動物(BDL後3週間)において実行した。この時点で、III型コラーゲンおよびαSMAの免疫染色によって評価したように、肝臓は、重度の線維症障害および過度のマトリックス沈着を示した。生体内分布研究中、ラットをイソフルラン麻酔下に保ち、体温を37〜38°Cに維持した。
【0205】
陰茎背静脈を介して、125I−PTX−cisULS−M6PHSAまたは125I−放射性標識M6PHSAのいずれかのトレーサ量(106cpm/ラット)で、ラットに点滴注射した。投与後10分で、心穿刺によって血液サンプルを採取し、器官を摘出し、生理食塩水で洗浄し、重さを量り、それらの後、放射能を計数した。尿を膀胱から回収し、測定した。器官あたりの全放射能を計算し、BDL補正係数を用いて血液由来放射能に対して補正した。125I−放射性標識PTX−cisULS−M6PHSAおよび125I−放射性標識M6PHSAの、線維症肝臓への迅速な分布が観察された(図18)。他の組織では蓄積を観察されなかった。さらに、非放射性標識PTX−cisULS−M6PHSA(2mg/kg)をBDL3ラットに投与した。組織標本を、標準的な手順に従う免疫組織化学的分析用に処理した。肝臓のクリオスタット切片(4μm)をアセトンで固定し、抗HSA免疫検出によってコンジュゲートの存在について染色した。PTX−cisULS−M6PHSAとHSCとの共局在を観察し(抗デスミンによる染色)、このことから、PTX−cisULS−M6PHSAはHSCに特異的に結合すると結論した。
【0206】
ロサルタン−cisULS−M6PHSAの評価
BDLモデルおよびCCl吸入モデルにおいて、薬物動態研究を実行した。CCl吸入モデルにおける線維症プロセスは、基礎を成す病態生理学および進行速度の双方において、BDLとは完全に異なる特性を有する。実験を中間病期、すなわちBDL後2週、およびCCl吸入開始後9週で実行した。
【0207】
胆管結紮後12〜15日で、ラットは、生理食塩水の静脈注射、ロサルタン−cisULS−M6PHSA(3.3mg/kg/日、125μgロサルタン/kgに相当)、M6PHSAのみ(3.3mg/kg/日)、または経口投与ロサルタン(5mg/kg/日。胃管栄養法による)を受けた。最終投与の10分後、動物を犠牲にして血液および肝臓のサンプルを得た。異なる器官におけるロサルタン−cisULS−M6PHSAまたはM6PHSAの存在を、抗HSA抗体を用いる免疫染色によって決定した(図19A)。ロサルタン−cisULS−M6PHSAは、ロサルタン−cisULS−M6PHSAで処理したラットの肺(a)、脾臓(b)、心臓(c)または腎臓(d)において検出されなかったが(倍率4×)、(e)の肝臓の非実質細胞内において顕著に検出された(倍率4×)。ロサルタン−cisULS−M6PHSAは、抗HSAおよび抗デスミンによる免疫二重染色で評価したところ(f)(倍率40×)、ラット肝臓の星細胞と共局在した(矢印)。肝臓組織ホモジネート内のロサルタン量(PBS中0.3g 肝臓/ml、Turraxホモジナイゼーション)を、メチルブチルエーテルを用いるロサルタンの液液抽出後、HPLCによって分析した。ロサルタン−cisULS−MβPHSAで処理した動物由来の肝臓ホモジネートを0.5M KSCNと80°Cで一晩インキュベートして、コンジュゲートからロサルタンを放出したが、自由ロサルタン処理動物由来のホモジネートはKSCNで処理しなかった。3mlのメチルブチルエーテルを200μlの肝臓ホモジネートに添加し、5分ボルテックスすることによって抽出を行った。900×g 5分間の遠心分離によって層を分離し、水層を液体窒素中で冷凍した。上層の有機層を別のホウケイ酸ガラスチューブに移し、60°Cで完全に蒸発させた。抽出手順を2度繰り返し、蒸発残留物を200μlの移動相に再溶解した。アセトニトリル−水−トリフルオロ酢酸(30:70:0.1、v/v/v;pH2.0)から成るアイソクラチック移動相によって、40°Cで、C18(C18、5μm、4.6×150mm)逆相カラム(Sunfire、Waters Inc.、ミルフォード、マサチューセッツ州、米国)を用いるクロマトグラフィを実行した。
【0208】
自由経口ロサルタンの経口投与は、4%の累積量に相当する、肝臓gあたり平均組織濃度12.1μgを与え、ロサルタン−cisULS−M6PHSAを与えた動物は、20%の累積量(81%の最終注入量)に相当する、1.5μg/gのロサルタンレベルを示した。これらの結果から充分に理解することができるように、ロサルタン−cisULS−M6PHSAは選択的肝臓分布を示した。さらに、HSCにおける薬物レベルは、細胞ターゲティング複合体の細胞特異的蓄積、および星細胞が全肝臓のごく僅かを構成するだけであるという事実によると、大概ずっと高いものである。経口投与されたロサルタンは、このHSCへの選択的ホーミングを示さない。
【0209】
CCl吸入開始後第9週目に、ラットを、生理食塩水、ロサルタン−cisULS−M6PHSA(8mg/kg、0.3mg ロサルタン/kgに相当)、M6PHSAのみ(8mg/kg)または自由ロサルタン(0.3mg ロサルタン/kg)の4日連続の連日静脈注射によって処理した。最後の注射から10分後、動物を犠牲にして血液および肝臓のサンプルを得、前述のように処理した。ロサルタン−cisULS−M6PHSAの、線維症肝臓へのよく似た選択的分布が観察されたが、他の器官における抗HSA染色はネガティブであった。さらに、ロサルタンの組織レベルは、自由ロサルタンとは対照的に、ロサルタン−cisULS−M6PHSAの、肝臓への選択的分布を実証した(図19B)。
【0210】
PTKI−cisULS−M6PHSAの評価
BDL後10日目に、ラットにPTKI−cisULS−M6PHSAの単回の静脈注射を受けさせた(3.3mg/kg、150μg PTKI/kgに相当)。コントロール動物を等量の媒介物(生理食塩水)で注射した。コンジュゲートの免疫組織化学的検出のために、他の薬物−cisULS−M6PHSAコンジュゲートについて前述したように、動物を化合物の注射2時間後に犠牲にし、組織を採取して処理した。肝臓内のPTKI−cisULS−M6PHSA蓄積が観察されたが、心臓、腎臓、肺および脾臓のような他の組織においては構成体を検出できなかった。
3.1.2. 腎臓対象細胞ターゲティング複合体の薬物動態評価。
【0211】
このタイプの細胞ターゲティング複合体による器官分布研究を、健康なWistarラットにおいて実行した。すべての生体内実験は、実験動物の配慮および使用に関する地方委員会によって認可された。SB202190−cisULS−LZMの評価
ラットに陰茎静脈注射でSB202190−cisULS−リゾチームコンジュゲートを単回投与した(16mg/kg、376μg/kgのSB202190に相当;5% グルコースに溶解)。投与後1〜72時間の間の異なる時点にて、動物を犠牲にした。血液サンプルを心穿刺によって採取し、生理食塩水で器官を穏やかに洗い流した後、腎臓を単離した。血清および器官を直ちに液体窒素内でスナップ冷凍した。代謝ケージを用いて尿サンプルを採取し、動物を犠牲にした後に膀胱から採取した尿と合わせた。腎臓の重さを量り、ホモジナイズし(PBS中1:3 w/v、Turraxホモジナイゼーション)、その後−80°Cで貯蔵した。放出薬物量を、以前に記載したように[7]、摘出後のHPLC分析によって評価した。全薬物(結合プラス放出)を評価するために、サンプルを前述のようにKSCNで処理してULSリンカからSB202190を放出させ、その後、HPLC分析にかけた。抗LZM免疫組織化学的染色をクリオスタット腎臓切片に実行して、尿細管細胞におけるコンジュゲートの摂取を検出した。
【0212】
他の薬物−LZMコンジュゲートの先行研究において、静脈内投与後にこれらの生成物の迅速な腎臓蓄積を観察した[4]。この識見を用いて、薬物動態パラメータの最適推定を可能とする薬物−cisULS−LZMコンジュゲートの薬物動態研究のための最適プロトコールを設計した。SB202190−cisULS−LZMの血清−消失曲線を図20Aに示す。血清中ではキャリア結合SB202190が検出されただけで、自由薬物は全時点において不在であった。この結果から、コンジュゲートは血清中において安定したままであったと結論した。
【0213】
さらに、SB202190−cisULS−LZMは、静脈注射後1時間以内に腎臓において効果的に蓄積し、総量で注入量の20%となった(図20B)。際立っていたことに、単回投与後の3日間で自由薬物および結合薬物の双方の持続的なレベルを観察した。このプロフィールは、生成物の腎臓蓄積であって、その後リンカからの緩慢な薬物放出によって自由薬物を発生する貯蔵所(depot)を形成する生成物の腎臓蓄積によって説明することができる。反対に、5mg/kgの自由SB202190の投与後、僅か0.2%が投与後4時間で腎臓に分布した[4]。自由薬物とSB202190−cisULS−LZMとの差異は明らかに、特定組織の薬物の選択的濃縮の付与における、開発した細胞ターゲティング複合体の可能性を示している。
【0214】
近位尿細管細胞におけるコンジュゲートの蓄積を、腎臓切片の抗LZM免疫組織化学的染色によって確認した(図20C)。矢印は、尿細管細胞におけるSB202190−cisULS−LZMの蓄積を示している。TKI−cisULS−LZMおよびY27632−cisULS−LZMの評価
前述したのと類似のプロトコールにおいて、TKI−cisULS−LZM(20mg/kg、5%グルコースに溶解)およびY27632−cisULS−LZM(20mg/kg、5%グルコースに溶解)の器官分布を研究した。腎臓の薬物レベルを、各薬物について最適化したHPLC法を用いて、KSCN処理腎臓ホモジネートおよび血清サンプルにおいて評価した。Y27632を、流速1ml/分で水−メタノール−トリフルオロ酢酸(86:14:0.1、v/v/v;pH2.0)の移動相を用いるC18逆相SunFire(商標)カラムC18で分析した。TKIを、流速1ml/分で水−アセトニトリル−トリフルオロ酢酸(91:9:0.1、v/v/v;pH2.0)から成る移動相を用いる同じカラムで分析した。
【0215】
図21はTKI−cisULS−LZMで得られた結果を示す。パネルA:血清消失;パネルB:腎臓の薬物レベル;パネルC:尿中累積排泄。符号は各時点でのTKIの%量を表し、実線は薬物動態データ近似曲線(2分画モデル)を表す。パネル(D)は、抗LZM免疫組織化学的分析による、1時間での尿細管細胞におけるコンジュゲートの局在を表す(倍率200×)。
【0216】
これらのデータから充分に理解することができるように、TKI−cisULS−LZMは腎臓に迅速に広く分布し、SB202190−cisULS−LZMで観察したのと類似の方法で局所的に薬物を放出することによって腎臓の薬物レベルを与えた。コンジュゲートの代謝産物は、パネルCにおいて観察することができるように、尿中に排泄された。
【0217】
Y27632−cisULS−LZMの薬物動態研究は類似の結果を示し、投与後1時間を超えると注入量のおよそ20%の腎臓レベルをもたらした(図22)。
3.2. 生体内効果の研究
生体内効果の研究は、細胞ターゲティング複合体の薬理学的活性および可能性のある治療活性を、病気関連パラメータを研究することによって調査する研究を含んだ。線維症肝臓のHSCに向けられた細胞ターゲティング複合体に関して、細胞外マトリックス成分の沈着(Sirius Red染色)、HSCマーカαSMA、免疫細胞の流入(CD43染色)を調査した。腎線維症の治療用の腎臓対象細胞ターゲティング複合体に関して、腎臓形態、発現αSMA、マクロファージの流入(ED−1染色)およびp38−MAPキナーゼの活性(phospho-p38染色)を評価した。全アプローチにおいて、設計済みAssays-on-Demand TaqManプローブを用いるリアルタイムRT−PCRによって遺伝子発現レベルを定量化した。
【0218】
薬物関連効果に加えて、健康なラットへの細胞ターゲティング複合体の投与が、可能性のある白金関連毒性を誘導するかを調査した。腎臓は細胞増殖抑制化合物の白金毒性の主要な場所の1つであるので、これらの研究を腎臓に蓄積するSB202190−cisULS−LZMで実行した。アポトーシスの形態および誘導(TUNEL染色)ならびに基本腎臓パラメータを調査した。
【0219】
生体内影響研究の典型的な例を図23〜30に示している。
3.2.1. 肝臓対象細胞ターゲティング複合体の評価
ロサルタン−cisULS−M6PHSAおよびPTKI−cisULS−M6PHSAの抗線維化効果を肝線維症のBDLモデルで研究した。さらに、ロサルタン−cisULS−M6PHSAを肝線維症のCCl吸入モデルで評価した。動物実験を前述のように実行した。ロサルタン−cisULS−M6PHSA処理動物は4日間の投与を受け、最終投与10分後に犠牲となった。PTKI−cisULS−M6PHSA処理動物は単回投与を受け、化合物投与24時間後または48時間後に犠牲となった。クリオスタット切片またはパラフィン切片を、標準の手順に従う免疫組織化学的染色用に処理し、ポジティブ染色領域を形態学的分析によって定量化した。肝線維症の程度をpicro Sirius Redでポジティブに染色された各切片の領域の割合として評価した。線維形成筋線維芽細胞量を、αSMAについてポジティブに染色された領域の割合を測定することによって評価した。浸潤炎症細胞量を、抗CD43免疫染色の定量化によって評価した。累積データは同時に、このタイプの細胞ターゲティング複合体が肝線維症に介入し、線維形成過程を覆すことすら可能であることを示している。さらに、非送達薬物について報告したような、かなり低い薬物投与量で効果を得ることができる。
【0220】
図23.BDLラットにおける肝線維症時のロサルタン−cisULS−M6PHSAの効果(パラフィン切片におけるSirius Red染色、および定量化)。重度のブリッジが、生理食塩水(A)、M6PHSA(B)および経口ロサルタン(D)を受けたラットにおいて観察された。しかし、ロサルタン−cisULS−M6PHSA(C)で処理したラットは、コラーゲン蓄積のあった領域がより少ないことを示した(倍率4×)。(E):肝臓標本におけるSirius Red染色領域の定量化(n=10、平均±SEM、統計分析:偽薬に対してP<0.05;生理食塩水、MP6PHSAおよび経口ロサルタンに対して#P<0.05)。(F):ラット肝臓におけるα1(II)型プロコラーゲン遺伝子発現の発現定量化。生理食塩水と薬物処理群とのMann-Whitney検定:偽薬に対してP<0.05;生理食塩水、MP6PHSAおよび経口ロサルタンに対して#P<0.05。
【0221】
図24.CClラットにおける肝線維症時のロサルタン−cisULS−M6PHSAの効果(パラフィン切片におけるSirius Red染色、および定量化)。CCL4ラットを、生理食塩水(A)、M6PHSA(B)、ロサルタン−cisULS−M6PHSA(C)および自由ロサルタン(D)で処理した。(E):Sirius Redポジティブ領域の定量化。コントロール線維症ラットに対してP<0.05。
【0222】
図25.αSMAの発現によって評価した、筋線維芽細胞および活性化肝星細胞の蓄積に対する異なる処理の効果。生理食塩水(A)、M6PHSA(B)または経口ロサルタン(D)を受けたBDLラットは、線維成長が活発な領域と共局在するαSMAポジティブ細胞の著しい蓄積を示した。しかし、ロサルタン−cisULS−M6PHSA(C)で処理したラットは、αSMAポジティブ細胞の著しい減少を示した(倍率4×)。
【0223】
(E).生理食塩水で処理した胆管結紮ラット由来肝臓の高倍率(400×)顕微鏡写真。αSMA染色が、活性化肝星細胞に相当する類洞に位置する細胞(上の矢印)および増殖型胆管を囲む筋線維芽細胞(下の矢印)において検出された。
【0224】
(F).αSMA染色領域の定量化。統計分析:偽薬に対してP<0.05;生理食塩水、MP6PHSAおよび経口ロサルタンに対して#P<0.05。
【0225】
ロサルタン−ULS−M6PHSAで処理したCCl4動物由来肝臓切片のSMA染色は、生理食塩水で処理した疾病動物(G)よりも少ないαSMA−ポジティブ細胞の蓄積を示した(H)。
【0226】
(I).肝臓標本におけるαSMA染色領域の定量化。生理食塩水に対してP<0.05。
【0227】
図26.CD43染色によって評価した、肝実質における炎症細胞の浸潤に対する異なる処理の効果。生理食塩水(A)またはM6PHSA(B)を受けたBDLラットは、CD43ポジティブ細胞によって強い浸潤を示した(茶色の染色)。ロサルタン−ULS−M6PHSA(C)による処理、および、より少ない程度のロサルタン(D)による処理は、CD43浸潤白血球数を減少させた(倍率4×)。
【0228】
(E).20のランダムに選ばれた高倍率視野におけるポジティブ細胞数の定量化。生理食塩水およびM6PHSAに対するP<0.05。
【0229】
図27.Sirius Red染色によって評価した、肝臓におけるコラーゲンの沈着に対するPTKI−cisULS−M6PHSAの効果。
【0230】
(A).ラット肝臓標本におけるSirius Red染色領域の定量化。BDL生理食塩水コントロールに対してP<0.05。
【0231】
(B).Sirius Redで染色された肝臓切片の典型的な画像(倍率40×)。生理食塩水を受けたラット(左の列)は、線維成長が活発な領域と共局在するコラーゲンの顕著な沈着を示した。PTKI−cisULS−M6PHSA(右の列)で処理したラットは、BDL後11および12日(すなわち、投与後それぞれ24時間および48時間)で弱い肝臓線維症の進行を示した。
【0232】
図28.αSMAの発現によって評価した、筋線維芽細胞および活性化HSCの蓄積に対するPTKI−cisULS−M6PHSAの効果。
【0233】
(A).αSMA染色の定量化。BDL生理食塩水コントロールに対してP<0.05。
【0234】
(B).生理食塩水(左のパネル)またはPTKI−cisULS−M6PHSA(右のパネル)を受けたラットの典型的な画像(倍率40×)。BDL後10日でのPTKI−cisULS−M6PHSAの単回投与による処理は、BDL後11および12日(すなわち、投与後それぞれ24時間および48時間)で筋線維芽細胞数を減少させた。
3.2.2. 腎臓対象細胞ターゲティング複合体の評価。
【0235】
腎臓対象細胞ターゲティング複合体の可能性のある白金関連毒性を検出するために、健常ラットにおいてSB202190−cisULS−LZMを評価した。オスWistarラットを前述のようにSB202190−cisULS−LZMで処理し、無処理動物および低量のシス白金(3mg/kg、点滴)で24時間処理した動物と比較した。しかし、用いたシス白金量は、SB202190−cisULS−LZMコンジュゲートにおける白金量よりも8倍高い。腎機能への効果を調査するために、血清および尿クレアチニンレベルを決定し、クレアチニンクリアランスを算出した。SB202190−cisULS−LZM処理動物の場合、24,32,48および72時間でのクレアチニンクリアランスを、動物を犠牲にする前の24時間にて採取した血清および尿サンプルから算出した。SB202190−cisULS−LZM群のたんぱく尿を計算するために、異なる日の尿たんぱくレベルの平均をとった。TUNEL染色を冷凍腎臓切片で実行して、アポトーシス細胞数を調査した。さらに、24時間室温の濃硝酸における組織の消化および澄明な溶液を形成するまでの70°Cでの加熱後、誘導結合プラズマ原子吸光分析(ICP−AAS)を用いて、腎臓の白金レベルを決定した。結果を表1に要約した。
【0236】
表1:標準ラットにおけるSB202190−cisULS−LZMの薬理学的評価。腎機能パラメータの比較、アポトーシスの誘導および腎臓の白金含量。
【0237】
【表1】

【0238】
無処理群およびシス白金群のデータを平均±SEM(n=4、24時間)として表わしている。SB−ULS−LZMの値を平均±SEM(n=4;24,32,48および72時間)として示している(TUNELポジティブ細胞はn=5;24(n=2),32,48および72時間である)。シス白金とSB−ULS−LZM群との差異はp,0.05、**p,0.01である。無処理群に対する差異は、p,0.05、††p<0.01である。N.D.は検出できなかったことを示す。
【0239】
クレアチニンクリアランスは両群において標準のままであったが、尿たんぱくレベルの増加が、無処理ラットと比較して、SB202190−ULS−LZMで検出された。しかし、コンジュゲート処理群の観察値は充分正常範囲内であった。2つ目として、腎臓切片のTUNEL染色によって尿細管細胞アポトーシスを調査したところ、無処理ラットと比較して、シス白金誘導尿細管毒性をはっきりと示した。反対に、SB−ULS−LZM処理ラットは、両処理群の腎臓において白金は同程度であったにもかかわらず、アポトーシス細胞数の増加を示さなかった。
【0240】
腎臓対象細胞ターゲティング複合体の可能性のある抗線維化および抗炎症活性を、腎臓病の2つの異なるモデル、片側虚血再かん流傷害(I/R)モデルおよび片側尿管閉塞(UUO)モデルにおいて評価した。I/Rモデルにおける細胞ターゲティング複合体の
【0241】
評価
腎臓対象細胞ターゲティング複合体による処理は、先に考察したように、それらの制御薬物放出プロフィールによって、長期間にわたって腎臓において充分な量の活性薬物を提供するという仮説を立てた。したがって、コンジュゲートを虚血2時間前に投与すれば、コンジュゲートは腎臓内に完全に蓄積することができる。化合物の投与後、腎虚血を誘導するまで、動物をケージに戻した。ラットを手術して、腎血流を止めるために、クランプで腎動脈および腎静脈を顕微鏡下で締めた。45分後、クランプを取外し、創傷縫合前に腎臓の再かん流を観察した。偽手術動物には、血管のクランピング以外、類似の外科的処置を施した。4日後、動物を犠牲にして血液サンプルを腹大動脈から採取した。食塩水で器官を穏やかに洗い流した後、腎臓を単離し、パラフィン切片の調製のために4%ホルマリンで保存し、または低温切片の調製のために氷冷イソペンタン中で凍結させた。免疫染色を一般に確立された方法に従って実行し、2人の独立した観察者による盲式(blind manner)の、形態学的分析または半定量スコアリングによって定量化した。
【0242】
SB202190−cisULS−LZMで得た結果を図29に示す。動物を、SB202190−cisULS−LZM(32mg/kg コンジュゲート、752μg/kg SB202190に相当;n=6)、媒介物(5% グルコース;n=6)、または自由SB202190(800μg/kg;n=3)で処理した。SB202190−cisULS−LZMを5% グルコースに溶解し、SB202190を、5% DMSOを有する20% ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン溶液に溶解した。抗-p-p38免疫組織化学染色(細胞シグナル伝達から得た抗体)をパラフィン切片に実行した。αSMA染色をクリオスタット切片に実行した。媒介物処理I/Rラットは、腎皮質および髄質の双方において、p−p38ポジティブ細胞を強く示す(パネルA、評点+++)、拡張損傷尿細管を有した。SB202190−ULS−LZMによる処理は、髄質におけるp−p38ポジティブ細胞数を減少させたが(パネルB、評点+)、SB202190処理動物では減少が見られなかった(パネルC、評点+++)。さらに、I/R障害の4日後、SMA発現は腎皮質の尿細管間質空間において大いに増加したことがわかった(パネルD、評点+++)。SB202190−ULS−LZMコンジュゲートの単回投与はSMA発現を低下させたが(パネルE、評点++)、非標的SB202190はSMAの発現に影響しなかった(パネルF、評点+++)。
【0243】
図30は、ロサルタン−cisULS−LZMによるI/Rラットの処理後に得られた結果を示している。前述のようにI/R手順に付した動物を、ロサルタン−cisULS−LZMの4回投与(20mg/kg/日、520μgロサルタン/kg/日に相当)で処理した。初回はI/R損傷の傷害2時間前に投与し、最終投与24時間後に動物を犠牲にした。浸潤マクロファージ数を検出するために、パラフィン包埋腎臓切片を、ラットマクロファージマーカED−1に対する抗体とインキュベートした。間質マクロファージ流入の広がりを、コンピュータ制御の形態計測によって測定した。茶色の沈殿物量を測定して、選択領域のマクロファージ数として表した。すべての形態計測を、独立した(blinded)観察者によって実行した。観察できるように、ロサルタン−cisULS−LZMによる処理は浸潤マクロファージ数を減少させた。
【0244】
片側I/Rモデルで評価した第3の細胞ターゲティング複合体はY27632−cisULS−LZMコンジュゲートである。ロサルタン−cisULS−LZMと類似して、I/R動物を、生成物の4回の静脈投与(5%グルコースに溶解した、555μg/kgのY27632に相当する、20mg/kgのY27632−cisULS−LZM)で処理した。動物のコントロール群を自由Y27632(555μg/kg)で処理した。初回はI/R損傷の傷害2時間前に投与し、最終投与24時間後に動物を犠牲にした。すなわち、I/R後4日目である。mRNA単離および定量遺伝子発現分析のために、腎臓片を液体窒素内でスナップ冷凍した。Bio-RadのAurum Total RNA Miniキット(Bio-Rad、ハーキュリーズ、カリフォルニア州)を用いて全RNAを腎皮質から単離した。RNA含量をnanodrop UV-detector(NanoDrop Technologies、ウィルミントン、デラウエア州)によって測定した。Superscript III first strand合成キット(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)を用いて、cDNAを類似量のRNAから合成した。以下の遺伝子について、定量リアルタイムRT−PCR(Applied Biosystems.、Foster City、カリフォルニア州)によって遺伝子発現レベルを測定した。以下のラット種用のプライマを、Sigma-Genosys(ヘーバリル、英国)から得た:単球遊走たんぱく-1(MCP-1;5’-TCC TCC ACC ACT ATG CAG GT-3’および5’-TTC CTT ATT GGG GTC AGC AC-3’、255bp)、メタロプロテイナーゼ-1の組織阻害薬(TIMP-1;5’-GAG AGC CTC TGT GGA TAT GT-3’および5’-CAG CCA GCA CTA TAG GTC TT-3’、334bp)、Iα1型プロコラーゲン(5’-AGC CTG AGC CAG CAG ATT GA-3’および5’-CCA GGT TGC AGC CTT GGT TA-3’、145bp)、α平滑筋アクチン(α-SMA;5’-GAC ACC AGG GAG TGA TGG TT-3’および5’-GTT AGC AAG GTC GGA TGC TC-3’、202bp)、TGF-β1(5’-ATA CGC CTG AGT GGC TGT CTおよび5’-TGG GAC TGA TCC CAT TGA TT-3’、153bp)、ならびにグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH;5’-CGC TGG TGC TGA GTA TGT CG-3’および5’-CTG TGG TCA TGA GCC CTT CC-3’、179bp)。リアルタイムRT−PCRの蛍光プローブとして、SYBR(登録商標)Green PCR Master Mix(Applied Biosystems、ウォリントン、英国)を用いた。各サンプルについて、1μlのcDNAを、0.4μlの各遺伝子特異的プライマ(50μM)、0.8μl DMSO、8.4μl 水、および10μl SYBR Green PCR Master Mixと混合した。40サイクルまでcDNA増幅を実行し、その後解離サイクルを行った。最終生成物を調査したところ、解離曲線のシングルピークを与えた。最終的に、閾値サイクル数(Ct)を遺伝子ごとに算出し、コントロール遺伝子GAPDHの発現に対して標準化した後、相対遺伝子発現比を算出した。図31は腎臓における遺伝子発現レベルを表している。標準ラットと比較して、媒介物処理I/R動物は、炎症マーカMCP-1、ならびに線維症マーカα-SMA、TGF-βL、Iα1型プロコラーゲンおよびTIMP-1の遺伝子発現において有意な増加を有した。データは平均±SEMを表す。††p<0.01および†††p<0.001は、標準ラットに対する差異を表す。他の差異はp<0.05および**p<0.01として示す。
【0245】
UUOモデルにおける細胞ターゲティング複合体の評価
腎線維症のUUOモデルにおける化合物の単回投与後のTKI−cisULS−LZMの効果を研究した。動物を4群に分割した:標準ラット、線維症コントロール動物(媒介物、5% グルコース)、TKI−LZM(25mg/kg、630μg/kg TKIに相当)および非結合自由TKI(630μg/kg)。TKIを、5% DMSOを有する水中20% ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンに溶解し、TKI−LZMを5% グルコースに溶解した。腎臓において生成物の障害のない摂取を可能にするために、ラットを尿道閉塞2時間前にそれらの化合物のいずれかで静脈注射した。イソフルラン麻酔下の側腹切開によって左腎および尿管を露出し、その後、尿管を4−0シルクによって門付近の3か所で結紮した。3日後、動物を麻酔下で犠牲にし、腎臓を穏やかに洗い流して採取した。前述のように、腎臓皮質片をスナップ冷凍してRNAを単離した。腎臓片をPBS中4% ホルマリン溶液において固定し、抗α-SMAおよびED-1免疫組織化学染色ならびに形態学的分析用にパラフィン切片を作製した。本研究の結果を図32に示している。TKI−cisULS−LZMによる処理は、MCP-1遺伝子発現をかなり低下させた(パネルA)。反対に、自由TKIの単回投与はMCP-1の発現を低下させなかった。免疫組織化学分析は遺伝子発現データを確認した。マクロファージの化学誘引物質である、MCP-1の生成が低下するに従って、TKI-LZM処理の浸潤マクロファージの有意な低下レベルも検出しされた(ED-1免疫染色、パネルB)。しかし、遺伝子発現研究とは対照的に、自由TKIによるED-1免疫染色の低下も観察された。さらに、線維症マーカα-SMAの発現もTKI-LZMまたはTKI処理によって有意に低下し、このことはTKIおよびTKI-LZMの可能性のある抗線維症活性を示している(パネルC)。これらのデータは、腎線維症のTKI−cisULS−LZMの可能性のある抗線維症活性を実証している。
【0246】
引用文献
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【図面の簡単な説明】
【0247】
【図1】修飾[Pt(エチレンジアミン)2塩化物]システムのtrans[Pt(NH)(ptx)(NH(CH)NH)](n=リンカの脂肪族鎖中のC原子数)の反応スキームを示す図である。
【図2】リンカのNH基の修飾の反応スキームを示す図である。
【図3】二核コンジュゲート4の調製の合成スキームを示す図である。
【図4】細胞ターゲティング複合体の薬物放出プロフィールを示す図である。A:血清/PBS 1:1におけるPTX-cisULS-M6PHSAのインキュベーション。B:異なる媒質における24時間のPTX-cisULS-M6PHSAのインキュベーション。C:SB202190-cisULS-LZM。詳細は実施例2.1を参照されたい。
【図5】24時間のPTX-cisULS-M6PHSAによるHSCのインキュベーションに続く、線維症マーカの免疫組織化学的染色の図である。パネルA,B) コントロール;パネルC,D) PTX-cisULS-HSA;パネルE,F) PTX-cisULS-M6PHSA;パネルG,H) 非標的PTX。活性化HSCは細胞質内の粒状染色パターンにおいて、おそらくI型プロコラーゲンの存在を反映するI型コラーゲンを表し、αSMAは線維様パターンに染色された。1mM濃度のPTXによる処理は、両線維症マーカの赤色強度を低下させた。PTX-cisULS-M6PHSAによる細胞のインキュベーションは、I型コラーゲンの発現にかなり影響した(E)。αSMA染色強度はPTX-cisULS-M6PHSAによって影響されなかったが、HSCの形態において顕著な変化が観察された(F)。これらの効果はPTX-HSA(C,D)の当量濃度によるインキュベーション後には観察されなかった。詳細は実施例2.2を参照されたい。
【図6】PTKI-cisULS-M6PHSAの、HSCにおける遺伝子発現への影響(パネルA)または線維症ラットの肝臓由来の肝臓切片における遺伝子発現への影響(パネルB)を示す図である。詳細は実施例2.2を参照されたい。
【図7】RGD-PEG-SB202190-cisULS-HSAの、内皮細胞における遺伝子発現への影響を示す図である。TNF-活性化HUVECを指示化合物とインキュベートした。パネルA:遺伝子発現分析;パネルB:培地におけるIL-8の決定。詳細は実施例2.2を参照されたい。
【図8】SB-cisULS-LZM(パネルA)およびTKI-cisULS-LZM(パネルB)の、HK-2尿細管細胞におけるTGF-β1によって誘導されたプロコラーゲン-Ia1の遺伝子発現への影響を示す図である。詳細は実施例2.2を参照されたい。
【図9】RGD-搭載TK787-アルブミンコンジュゲートの、内皮細胞における遺伝子発現への影響を示す図である。VEGF-活性化HUVECを指示化合物とインキュベートした。詳細は実施例2.2を参照されたい。
【図10】HSCの、細胞ターゲティング複合体とのインキュベーションを示す図である。A〜D:PTX-cisULS-M6PHSA;A:細胞の生存;B:カスパーゼ3/7活性;C:TUNEL染色;D:TUNELポジティブ核の定量化(TUNEL/DAPI比)。E:ロサルタン-cisULS-M6PHSA、細胞の生存評価;F:PTKI-cisULS-M6PHSA、細胞の生存評価。詳細は実施例2.3を参照されたい。
【図11】NRK-52E細胞の、細胞ターゲティング複合体とのインキュベーション、および細胞毒性の、他の化合物との比較を示す図である。A:シスプラチンまたはcisULSとのインキュベーション;B:SB202190またはSB202190-cisULSとのインキュベーション;C:LZMまたはSB202190-cisULS-LZMとのインキュベーション。詳細は実施例2.3を参照されたい。
【図12】HUVECの、RGDPEG-SB202190-cisULS-HSAとのインキュベーション:3日間のインキュベーション後の、MTS細胞の生存評価を示す図である。詳細は実施例2.3を参照されたい。
【図13】HUVECの、非修飾hisTRAILおよびビオチン化TRAIL(パネルA)またはRGD-搭載TRAIL(パネルB)との48時間のインキュベーション後の、MTS細胞の生存評価を示す図である。詳細は実施例2.3を参照されたい。
【図14】Jurkat T-細胞の、細胞ターゲティング複合体とのインキュベーションを示す図である。A,C:48時間のインキュベーション後の細胞の生存評価;B,D:4時間のインキュベーション後のカスパーゼ活性評価。詳細は実施例2.3を参照されたい。
【図15】A:PTX-cisULS-M6PHSAの、線維芽細胞との結合を示す図である。A:コンペティタM6PHSAの存在/不在下の放射性標識PTX-cisULS-M6PHSAとのインキュベーション後の細胞関連放射能;B:細胞結合の抗HSA免疫検出。PTX-cisULS-M6PHSAとインキュベートした細胞が、細胞関連または内在コンジュゲートの強い赤色染色を示し、PTX-cisULS-HSAとのインキュベーション後には観察されなかった。詳細は実施例2.4を参照されたい。
【図16】細胞ターゲティング複合体の、内皮細胞:SB202190-cisULS搭載複合体との結合を示す図である。放射性標識RGDPEG-SB202190-cisULS-HSAとのインキュベーション後の細胞関連放射能。A:4°C、4時間のインキュベーション;B:異なる温度および異なる期間でのインキュベーション。詳細は実施例2.4を参照されたい。
【図17】細胞ターゲティング複合体の、内皮細胞との結合を示す図である。結合親和性を放射性標識エキスタチンの競争的置換によって決定した。A〜D:RGD搭載PTK787-cisULS複合体とのインキュベーション;E:RGDPEG-アビジンとのインキュベーション。詳細は実施例2.4を参照されたい。
【図18】BDL3ラットにおけるPTX-cisULS-M6PHSAの薬物動態を示す図である。器官分布を化合物の10分の投与でBDLラットにおいて決定した。詳細は実施例3.1.1を参照されたい。
【図19】A:BDLラットにおけるロサルタン-cisULS-M6PHSAの器官分布を示す図である。肺(a)、脾臓(b)、心臓(c)、腎臓(d)、肝臓(e)、の抗HSA染色、肝臓の抗HSAおよび抗デスミンの二重染色(f,g)。ロサルタン-cisULS-M6PHSAで処理したラットの非実質細胞内で、HSA染色の赤色は、肺、脾臓、心臓または腎臓で検出されなかったが、肝臓で検出された(4×の倍率)。抗HSAおよび抗デスミンの二重染色によって評価したように、ロサルタン-M6PHSAはラットの肝臓の星細胞と共局在した(f,gの矢印;40×の倍率)。B:CCL4ラットの肝臓におけるロサルタン組織レベル。詳細は実施例3.1.1を参照されたい。
【図20】SB202190-cisULS-LZMの薬物動態評価を示す図である。A,B:血清(A)または腎臓(B)におけるSB202190レベル。C:腎臓切片における抗LZM染色であり、矢印は尿細管細胞におけるコンジュゲート(赤色)の蓄積を示す。詳細は実施例3.1.2を参照されたい。
【0248】
【図21】TKI-cisULS-LZMの薬物動態評価を示す図である。A〜C:血清(A)、腎臓(B)または尿(C)におけるTKIレベル。D:腎臓切片における抗LZM染色であり、矢印は尿細管細胞におけるコンジュゲート(赤色)の蓄積を示す。詳細は実施例3.1.2を参照されたい。
【図22】Y27632-cisULS-LZMの薬物動態評価を示す図である。詳細は実施例3.1.2を参照されたい。
【図23】BDLラットにおけるロサルタン-cisULS-M6PHSAの薬物動態評価を示す図である。A〜D:線維症肝臓におけるコラーゲンのSirius Red染色。コラーゲンの重度のブリッジ(赤色)が、生理食塩水(A)、M6PHSA(B)および経口ロサルタン(D)を受けたラットにおいて観察された。しかし、ロサルタン-M6PHSA(C)で処理したラットは、コラーゲン蓄積のあった領域がより少なかった。E:Sirius Red染色の形態学的定量化。F:α1型プロコラーゲンの遺伝子発現分析。詳細は実施例3.1.2を参照されたい。
【図24】CClラットにおけるロサルタン-cisULS-M6PHSAの薬理評価を示す図である。A〜D:線維症肝臓におけるコラーゲンのSirius Red染色。赤色は肝臓におけるコラーゲンの沈着を示し、ロサルタン-cisULS-M6PHSAの処理後は顕著に減少したが、M6PHSAまたは自由ロサルタンの処理後は顕著に減少しなかった。E:Sirius Red染色の形態学的定量化。詳細は実施例3.2.1を参照されたい。
【図25】線維症ラットにおけるロサルタン-cisULS-M6PHSAの薬理評価を示す図である。A〜D:BDLラットの線維症肝臓におけるαSMAの染色。M6PHSAまたは自由ロサルタンではなく、処理ロサルタン-cisULS-M6PHSAによる処理が、ポジティブに染色される領域(茶色)を減少させた。E:生理食塩水処理したBDLラットの高倍率顕微鏡写真。矢印は、活性化HSC由来(上の矢印)または増殖型胆管を囲む筋線維芽細胞(下の矢印)におけるSMAを示す。F:BDLラットにおけるSMA染色の形態的定量化。G,H:CCL4ラットの線維症肝臓におけるαSMAの染色。ロサルタン-cisULS-M6PHSAによる処理は染色強度を低下させた(茶色の減少)。I:CCL4ラットにおけるSMA染色の形態的定量化。詳細は実施例3.2.1を参照されたい。
【図26】BDLラットにおけるロサルタン-cisULS-M6PHSAの薬理評価を示す図である。A〜D:線維症肝臓における浸潤免疫細胞のCD43染色。生理食塩水(A)またはM6PHSA(B)を受けたラットは、CD43ポジティブ細胞による強い浸潤を示した(茶色)。より少ない程度のロサルタン-M6PHSA(C)、または経口ロサルタン(D)による処理は、CD43浸潤白血球数の減少を誘導した。E:20のランダムに選ばれた高倍率視野におけるポジティブ細胞数のCD43染色の形態的定量化。詳細は実施例3.2.1を参照されたい。
【図27】BDLラットにおけるPTKI-cisULS-M6PHSAの薬理評価を示す図である。A:線維症肝臓におけるSirius Red染色の形態的定量化。B:化合物の投与1日後(BDL11)または投与2日後(BDL12)の肝臓のSirius Red染色の顕微鏡写真。PTKI-cisULS-M6PHSAによる処理は、両時点において赤褐色の染色コラーゲンを減少させ、コラーゲンリッチな領域間のブリッジをも減少させた。詳細は実施例3.2.1を参照されたい。
【図28】BDLラットにおけるPTKI-cisULS-M6PHSAの薬理評価を示す図である。A:線維症肝臓におけるαSMA染色の形態的定量化。B:化合物の投与1日後(BDL11)または投与2日後(BDL12)の肝臓のαSMA染色の顕微鏡写真(茶色)。PTKI-cisULS-M6PHSAによる処理は両時点において赤褐色の染色SMAを減少させた。詳細は実施例3.2.1を参照されたい。
【図29】I/RラットにおけるSB202190-cisULS-LZMの薬理評価を示す図である。A〜C:コントロールI/Rラット(A)、SB202190-cisULS-LZM処理I/Rラット(B)、またはSB202190処理I/Rラット(C)におけるリン酸化p38の染色。D〜F:コントロールI/Rラット(D)、SB202190-cisULS-LZM処理I/Rラット(E)、またはSB202190処理I/Rラット(F)におけるαSMAの染色。パネルA〜Cの矢印は、拡張および損傷した尿細管に相当する尿細管細胞におけるp-p38ポジティブ核の免疫学的局在決定を示す(暗褐色)。パネルD〜Fの矢印は、尿細管間質空間におけるαSMA(赤色)の局在化を示す。SB202190-cisULS-LZMによる処理は、I/Rコントロールと比較して、p-p38ポジティブ細胞数およびαSMAの発現を減少させたが、自由SB202190はどちらのパラメータにも影響を及ぼさなかった。詳細は実施例3.2.2を参照されたい。
【図30】I/Rラットにおけるロサルタン-cisULS-LZMの薬理評価を示す図である。腎臓における浸潤免疫細胞を、ED1染色によって検出し、2人の独立した観察者がカウントした。詳細は実施例3.2.2を参照されたい。
【図31】I/RラットにおけるY27632-cisULS-LZMの薬理評価を示す図である。腎臓の遺伝子発現レベルは、qRT-PCRによって決定し、コントロールI/R動物のレベルに関連して発現した。詳細は実施例3.2.2を参照されたい。図31Aは腎臓における遺伝子発現レベルを示す。標準ラットと比較して、ビークル-処理I/R動物は、炎症マーカMCP-Iならびに線維症マーカαSMA、TGF-β1、Iα1型プロコラーゲンおよびTIMP-1の遺伝子発現において有意に増加した。データは平均±SEMを表す。††p<0.01および†††p<0.001は、標準ラットに対する差異を表す。他の差異はp<0.05および**p<0.01として示す。腎臓切片の免疫組織学的評価は、マクロファージの浸潤時(ED-1染色、図31B)、および線維症マーカαSMAの発現時(図31C)の、Y27632-cisULS-LZMの有益な効果を示した。両マーカはコントロールの腎臓切片において不在であり、I/R動物において広く増加したが、Y27632-cisULS-LZMによる処理およびより少ない程度のY27632は、染色領域の形態学的スコアを有意に低下させた。
【図32】UUOラットにおけるY27632-cisULS-LZMの薬理評価を示す図である。A:MCP-1の腎臓における相対遺伝子発現;B:腎臓で浸潤されたマクロファージの定量化;C:腎臓におけるSMA染色の定量化。詳細は実施例3.2.2を参照されたい。
【図33】送達可能化合物PTK787のターゲティングのための本発明に従う複合体の1つの可能性のある構造を示す図である。図は、RGDが、ターゲティング部分のホーミング部分の例として、種々の様式で薬物PTK787とカップリングすることができることを示している。PTK787は金属イオン錯体と直接カップリングし、環状RGDはキャリアたんぱく(HSA)を介して、またはさらに付加的PEGリンカを介して、金属イオン錯体と結合し得る。HSAを用いる利点は、このたんぱくがヒト患者とは無関係ではないので、免疫応答を発揮させないということである。
【図34】治療化合物のターゲティング用の本発明の複合体の別の可能な構造を示す図である(TRAILを示す)。Aはキャリア/ホーミングたんぱくである(たとえば、ビオチンに対する高い親和性および高いRGD搭載能力を有するアビジン)。Bは万能リンカであり(たとえば、RGD結合用の二価リンカとして機能し、循環時間を延長するように機能する(非標的細胞結合を避ける)ポリエチレングリコール)、修飾キャリアを(たとえばマクロファージのクリアランスから)遮蔽する。Cはホーミング分子である(たとえば、αβインテグリン発現細胞(新たに形成された血管内の内皮細胞)への高い結合親和性を示す、c(RGDf))。Dは送達可能化合物である(たとえば、腫瘍細胞において選択的アポトーシスを誘導する、治療たんぱくヒト組換えTRAIL)。Eは精製目的に適したヒスチジンタグであり、(遷移)金属イオン錯体(たとえば配位された白金化合物)とカップリングする。Fはバイオリンカである(たとえば、リジン残基との直接カップリング用スルホ-NHSビオチン部分、および薬物結合用白金系リンカである、ULSビオチン部分から成る)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲティング部分および送達可能化合物を有する細胞ターゲティング複合体であって、前記ターゲティング部分および前記送達可能化合物が、前記ターゲティング部分の反応サイトとの配位結合を形成する少なくとも第1の反応部分を有し、かつ前記送達可能化合物の反応サイトとの配位結合を形成する少なくとも第2の反応部分を有する(遷移)金属イオン錯体によって結合され、前記送達可能化合物が治療化合物または診断化合物であることを特徴とする細胞ターゲティング複合体。
【請求項2】
前記金属イオン錯体が白金錯体であることを特徴とする請求項1記載の細胞ターゲティング複合体。
【請求項3】
前記白金錯体がcis白金錯体、好ましくは安定化ブリッジとして不活性の2配位性部分を有するcis白金錯体であることを特徴とする請求項2記載の細胞ターゲティング複合体。
【請求項4】
前記ターゲティング部分が、1つ以上の結合対のメンバ、好ましくは抗体もしくはその誘導体(の一部)、ハプテンまたはレセプタリガンドを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞ターゲティング複合体。
【請求項5】
前記ターゲティング部分が、少なくとも1つの結合対のメンバを搭載した高分子キャリアを有し、該高分子キャリアが好ましくはアビジンまたはHSAであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞ターゲティング複合体。
【請求項6】
前記少なくとも1つの結合対のメンバがレセプタリガンド、好ましくは環状RGDペプチドまたはマンノース-6-リン酸であることを特徴とする請求項5記載の細胞ターゲティング複合体。
【請求項7】
前記高分子キャリアが、リガンドとキャリアとの間の連結部分として、または遮蔽機能を与える連結部分として、少なくとも1つのポリエチレングリコール(PEG)部分を有することを特徴とする請求項5または6記載の細胞ターゲティング複合体。
【請求項8】
前記ターゲティング部分が、ヒトを含む哺乳類の腎臓、肝臓または腫瘍に蓄積する低分子量たんぱくを有し、該低分子量たんぱくは好ましくはリゾチーム、アルカリホスファターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、免疫グロブリンまたはその一部(たとえば一本鎖Fabフラグメントまたは全IgG)から選ばれることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞ターゲティング複合体。
【請求項9】
前記送達可能化合物が、細胞システム内のシグナル伝達系を阻害するか、抗炎症活性、抗昇圧活性、抗線維化活性、抗血管新生活性、抗腫瘍活性またはアポトーシス誘導活性を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の細胞ターゲティング複合体。
【請求項10】
前記送達可能化合物が、抗炎症化合物、好ましくはペントキシフィリンまたはピロリジンジチオカルバメート(PDTC)であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の細胞ターゲティング複合体。
【請求項11】
前記送達可能化合物が抗昇圧薬、好ましくはロサルタンであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の細胞ターゲティング複合体。
【請求項12】
前記送達可能化合物がキナーゼ阻害薬、好ましくはPTKI、SB202190、PTK787、TKI、Y27632またはAG1295であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の細胞ターゲティング複合体。
【請求項13】
前記送達可能化合物がたんぱくであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の細胞ターゲティング複合体。
【請求項14】
前記たんぱくが、ヒスチジン、システインおよびメチオニンから、好ましくはヒスチジンおよびメチオニンから選ばれる少なくとも1つの残基を有することを特徴とする請求項13記載の細胞ターゲティング複合体。
【請求項15】
前記たんぱくが、
a)サイトカインおよび増殖因子、
b)TNF関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)などの治療用たんぱく、または
c)IL-10、アルカリホスファターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、免疫グロブリンもしくはその一部(たとえば一本鎖Fabフラグメントもしくは全IgG)、ラクトフェリン、キサンチンオキシダーゼまたはTNFα
から成る群の1つから選ばれることを特徴とする請求項13または14記載の細胞ターゲティング複合体。
【請求項16】
前記送達可能化合物が薬剤用治療化合物であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の細胞ターゲティング複合体。
【請求項17】
請求項1〜15のいずれか1項で定義する細胞ターゲティング複合体、および薬学的に許容できるキャリアを有する医薬組成物。
【請求項18】
ターゲティング部分を送達可能化合物に連結するための配位結合を形成することが可能な(遷移)金属イオン錯体の使用。
【請求項19】
前記金属イオン錯体が白金錯体であることを特徴とする請求項18記載の使用。
【請求項20】
前記白金錯体が、好ましくは安定化ブリッジとして不活性の2配位性部分を有するcis白金錯体であることを特徴とする請求項19記載の使用。
【請求項21】
前記送達可能化合物が治療化合物であることを特徴とする請求項18〜20のいずれか1項に記載の使用。
【請求項22】
前記治療化合物が、細胞システム内のシグナル伝達系を阻害するか、抗炎症活性、抗昇圧活性、抗線維化活性、抗血管新生活性、抗腫瘍活性またはアポトーシス誘導活性を有することを特徴とする請求項21記載の使用。
【請求項23】
前記治療化合物が、ペントキシフィリン、PDTC、ロサルタン、PTKI、SB202190、PTK787、TKI、Y27632、AG1295またはTRAILであることを特徴とする請求項21または22記載の使用。
【請求項24】
ターゲティング部分を送達可能化合物に結合する方法であって、前記ターゲティング部分の反応サイトとの配位結合を形成する少なくとも第1の反応部分を有し、かつ前記送達可能化合物の反応サイトとの配位結合を形成する少なくとも第2の反応部分を有する(遷移)金属イオン錯体を提供する工程、および前記(遷移)金属イオン錯体に前記ターゲティング部分および前記送達可能化合物との配位結合を形成させる工程を有する方法。
【請求項25】
前記金属イオン錯体が白金錯体であることを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記白金錯体が、好ましくは安定化ブリッジとして不活性の2配位性部分を有するcis白金錯体であることを特徴とする請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記ターゲティング部分が、結合対のメンバ、好ましくは抗体、ハプテンまたはレセプタリガンドであることを特徴とする請求項24〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記送達可能化合物が治療化合物であることを特徴とする請求項24〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記治療化合物が、細胞システム内のシグナル伝達系を阻害するか、抗炎症活性、抗昇圧活性、抗線維化活性、抗血管新生活性、抗腫瘍活性またはアポトーシス誘導活性を有することを特徴とする請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記治療化合物が、ペントキシフィリン、PDTC、ロサルタン、PTKI、SB202190、PTK787、TKI、Y27632、AG1295またはTRAILであることを特徴とする請求項28または29記載の方法。
【請求項31】
請求項17で定義する医薬組成物の治療上有効な量の医薬組成物を、それを必要としている患者に投与する工程を有する、選択した細胞集団への治療化合物のターゲティング方法。
【請求項32】
前記細胞集団が、患者の腎臓、肝臓または腫瘍由来の細胞であることを特徴とする請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記治療化合物が、
a)抗炎症化合物、好ましくはペントキシフィリンおよびPDTC、
b)抗昇圧薬、好ましくはロサルタン、
c)キナーゼ阻害薬、好ましくはPTKI、SB202190、PTK787、TKI、Y27632およびAG1295
から選ばれることを特徴とする請求項31または32記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公表番号】特表2009−501791(P2009−501791A)
【公表日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−522722(P2008−522722)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際出願番号】PCT/NL2006/000383
【国際公開番号】WO2007/011217
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(500267642)クレアテック バイオテクノロジー ベー.ファウ. (2)
【氏名又は名称原語表記】Kreatech Biotechnology B.V.
【住所又は居所原語表記】Vlierweg 20,Amsterdam NETHERLANDS
【Fターム(参考)】