説明

針類への3価クロムメッキ方法及び針類

【課題】人体・環境への影響がなく、長期間にわたって生地・糸・繊維との接触・摩耗に耐えられる耐摩耗性を有し、かつ安価に製造できる針類への3価クロムメッキ方法及び3価クロムメッキを施した針類を提供する。
【解決手段】針類への3価クロムメッキ方法において、メリヤス針やフェルト針、あるいはミシン針等の母材の表面粗さを小さくして3価クロムをメッキする針類への3価クロムメッキ方法であり、表面粗さRaが0.015〜0.28μmの範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メリヤス針やフェルト針、あるいはミシン針などの針類の母材の表面粗さを小さくしてし3価クロムメッキを施し、人体・環境への影響を軽減し、耐久性を有する針とするための針類への3価クロムメッキ方法及び針類に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メリヤス針やフェルト針、あるいはミシン針には6価クロムメッキが施されているが、近年、6価クロムは人体に対し有害であり、環境汚染の原因物質であるため、6価クロムの代替品による表面処理が望まれており、代替品として3価クロムメッキによる被膜が検討されている。しかし、3価クロムメッキは、通常装飾用のメッキとして利用されるものであり、その膜厚は0.5μm程度の薄い被膜しか被着させることができず、針類のメッキとしての利用に耐えられるものではなかった。また、周知のように、これらの針類では、縫製や編製のため、生地や糸又は繊維と接触・摩擦を繰り返し、半年や1年も連続して使用される場合があり、針類の耐久性やその他の品質の不変性が求められており、針類のメッキとして3価クロムメッキを使用するには解決しなければならない問題があった。
【0003】
従来、鍛鋼やクロム鋼に6価クロムメッキを施した冷間圧延ロールを用いて冷間圧延する圧延方法があり、この圧延方法では、圧延材とロールとの摩擦熱が300℃程度まで上昇すると、6価クロムメッキの硬度が低下し、耐摩耗性が減少するといった欠点があった。このような欠点を解消すべく、冷間圧延ロールに3価クロムメッキを施した冷間圧延方法がある。この3価クロムメッキでは、耐摩耗性を向上させるために3価クロム中にSiC、ZrB、Si、Al、Cr、BC、BN及びダイヤモンド等の硬質粒子を分散させた複合メッキ法によって、冷間圧延ロール表面の耐摩耗性を解決している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平06−210326号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、3価クロムによるメッキマトリックスからSiC、ZrB、Si、Al、Cr、BC、BN及びダイヤモンド等の硬質粒子を突出させ、圧延材料表面とメッキマトリックス面との間に空隙を形成するようにし、この空隙に潤滑油が溜まることにより、潤滑効果を高めて3価クロムメッキの摩耗量を抑制している。硬質粒子がメッキマトリックスから突出した複合メッキで耐摩耗性を向上させているが、針類のメッキにおいて、このような硬質粒子がメッキ表面から突出していると、生地や繊維に損傷を与えることになり、好ましい方法ではなく、また高価なものとなり、針類のメッキに応用できないことは明らかである。
【0006】
本発明は、上述のような問題点に鑑みてなされたものであり、人体・環境への影響がなく、長期間にわたって生地・糸・繊維との接触・摩耗に耐えられる耐摩耗性を有し、かつ安価に製造できる針類への3価クロムメッキ方法及び3価クロムメッキを施した針類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を達成したものであり、請求項1の発明は、針類への3価クロムメッキ方法において、メリヤス針やフェルト針、あるいはミシン針等の母材の表面粗さを小さくして3価クロムをメッキすることを特徴とする針類への3価クロムメッキ方法である。
【0008】
また、請求項2の発明は、前記母材の表面粗さRaが、0.015〜0.28μmであることを特徴とする請求項1に記載の針類への3価クロムメッキ方法である。
【0009】
また、請求項3の発明は、前記母材の表面を、表面粗さを小さくするためにダイヤモンドパウダーやサンドペーパー#600より細かい粒子で羽布研磨したことを特徴とする請求項2に記載の針類への3価クロムメッキ方法である。
【0010】
また、請求項4の発明は、前記3価クロムメッキの膜厚が1〜5μm、好ましくは2〜4μmであることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の針類への3価クロムメッキ方法である。
【0011】
また、請求項5の発明は、メリヤス針やフェルト針、あるいはミシン針等の針類の母材表面が、請求項1乃至4の何れか1項に記載の3価クロムメッキ方法により3価クロムメッキしたものであることを特徴とする針類である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明では、針類への3価クロムメッキ方法において、メリヤス針やフェルト針、あるいはミシン針等の母材の表面粗さを小さくして3価クロムをメッキすることを特徴とする針類への3価クロムメッキ方法であるので、表面粗さを小さくした針母材に3価クロムメッキを被着させることにより、針母材表面に3価クロムメッキの膜厚が1μmから5μm程度まで被着することが可能となる。そのため長期間にわたる生地・糸または繊維との接触摩擦に耐え得る耐摩耗性を備える。しかもそのメッキ肌は平滑なものであり、生地や繊維に損傷を与えることがない針類とすることができる利点がある。さらに、3価クロムを使用することによって、人体や環境への負荷を軽減することができる。なお、表面粗さを小さくしとは、母材表面を鏡面近傍に近づけることを意味する。
【0013】
また、請求項2の発明では、前記母材の表面粗さRaが、0.015〜0.28μmであることを特徴とする請求項1に記載の針類への3価クロムメッキ方法であるので、3価クロムメッキを厚く被着することができ、耐摩耗性を備えた針類とすることができる。なお、表面粗さRaが、0.35μmでは3μm以上の膜厚の3価クロムメッキの被膜を形成するのに時間を要し、生産性が悪い。また、表面粗さRaが0.35μm以上ではメッキの表面肌が荒れてしまい、縫製や編成時に、生地や糸、繊維に毛羽立ち等の損傷を与えるおそれがある。最も実用的な母材の表面粗さRaは、0.015〜0.28μmである。なお、表面粗さRaが0.015μmとは、母材表面が鏡面ではないが、限りなく鏡面に近い値を示し、母材表面をこれ以上鏡面に近づけることはコスト的に困難である。
【0014】
また、請求項3の発明では、前記母材の表面を、表面粗さを小さくするためにダイヤモンドパウダーやサンドペーパー#600より細かい粒子で羽布研磨したことを特徴とする請求項2に記載の針類への3価クロムメッキ方法であるので、母材の表面粗さRaを、0.015〜0.28μmにし、3価クロムメッキを厚く施し、耐摩耗性を備えた針類とすることができる利点がある。
【0015】
また、請求項4の発明では、前記3価クロムメッキの膜厚が1〜5μm、好ましくは2〜4μmであることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の針類への3価クロムメッキ方法であるので、針母材の表面粗さが小さく、3価クロムメッキの膜厚を厚くすることが可能であり、耐摩耗性を備えた針類とすることができる利点があり、膜厚が5μmより厚いと、針類によっては針穴が狭まり形状的な問題が発生するが、膜厚が5μm以下であれば問題はない。
【0016】
また、請求項5の発明では、メリヤス針やフェルト針、あるいはミシン針等の針類の母材表面が、請求項1乃至4の何れか1項に記載の3価クロムメッキ方法により3価クロムメッキしたものであることを特徴とする針類であるので、耐摩耗性を備えた針類とすることができるし、3価クロムを使用することによって、人体や環境への負荷を軽減することができる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の針類への3価クロムメッキ方法及び針類の実施の形態について説明する。本実施形態は、メリヤス針やフェルト針、あるいはミシン針等の縫製や編成に利用される針類への3価クロムメッキ方法及びその針類に関し、針母材への3価クロムメッキ方法は、ダイヤモンドパウダーやサンドペーパー#600よりも細かい粒子のものを用いて、針類の母材の表面粗さRaを、0.015〜0.28μmとなるように羽布研磨等をして表面粗さを小さくする。針母材を研磨した後、表面粗さを小さくした母材表面に電解法により3価クロムメッキを施して針類を製造する。3価クロムメッキの膜厚は1〜5μm、好ましくは2〜4μmとする。なお、メリヤス針やフェルト針、あるいはミシン針等の針類の図は周知であるので省略する。
【0018】
本実施形態では、3価クロムメッキを針母材に電解法により被膜形成するが、この電解法による電流密度は3.34A/dmである。図1は、3価クロムメッキにおけるメッキ時間対3価クロムメッキの膜厚の関係を特性曲線(イ),(ロ)で示しており、同図の横軸がメッキ時間(分)を示し、縦軸が3価クロムメッキの膜厚(μm)を示している。図1中の(イ)がRa=0.07μmの場合のメッキ特性曲線であり、(ロ)がRa=0.35μmの場合のメッキ特性曲線を示している。この3価クロムメッキの電解法では、針母材の表面粗さRaが、0.07μmと0.35μmの母材表面に図1に示すメッキ特性曲線(イ),(ロ)で3価クロムメッキを行うことができる。
【0019】
針類のメッキの膜厚は5μmを超えると、針類によっては針穴が小さくなって、針穴に糸を通すのが困難になり、形状的な問題が発生するので好ましくなく、メッキの膜厚は5μm以下とする必要があり、かつ長時間の使用に耐え得るためには1μm以上であることが要求される。信頼性を考慮すると、メッキの膜厚は、2〜4μmが好ましい。なお、針類によっては膜厚が5μm以下まで許容されるので、実用的範囲としては、3価クロムメッキの膜厚は1〜5μmとする。
【0020】
一方、同図から明らかなように、膜厚が3μmの3価クロムメッキ被膜を針類に施したとき、母材の表面粗さがRa=0.07μmではメッキ時間が35分で被膜することができたのに対し、母材の表面粗さがRa=0.35μmでは60分程度のメッキ時間を要した。表面粗さがRa=0.07μmでは、メッキ時間がRa=0.35μmのときの半分の時間で所定膜厚(3μm)の3価クロムメッキを被着することができる。母材の表面粗さRaが0.07μmの場合、3価クロムメッキの被着における生産性が良好であることを示している。
【0021】
次に、針母材の凹凸を明確にすべく母材表面を斜め上方から撮影した図2(a),(b)を参照して説明する。図2(a)は母材の表面粗さがRa=0.07μmのときの3価クロムメッキの表面を示す図であり、図2(b)は母材の表面粗さがRa=0.35μmのときの3価クロムメッキの表面を示す図である。図2(a)では、3価クロムメッキの表面が滑らかであり、概ね鏡面状であるのに対し、図2(b)では素材表面肌の凹凸によりメッキ後の表面も荒れていることが判る。針の表面肌が、図2(b)のような荒れた状態では、縫製や編成時に、生地や糸、繊維に損傷を与え、地糸切れや糸切れ、生地繊維の毛羽立ちなどのトラブルを引き起こすおそれがあり、しかも、メッキの膜厚成長速度も遅く、針類のメッキ方法として不適切である。また、母材表面粗さRaを0.015より小さくなるようにすることは難しく、できたとしても加工時間、加工材料などのコストが高騰することもあり実用的ではない。このような観点から3価クロムメッキを針母材にメッキする場合、メッキ後の表面肌、メッキ時間及び加工コストを考慮して最も実用的な範囲とし、母材表面粗さRaを0.015〜0.28μmとすることに至ったものである。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の活用例としては、メリヤス針やフェルト針、あるいはミシン針等の針母材に3価クロムメッキを施す針類の製造に利用することができ、人体或いは環境への負荷を軽減することができる針類を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態の針類への3価クロムメッキ方法によるメッキ時間対膜厚の関係を示した図である。
【図2】(a)は本実施形態の針類の表面肌を示す図であり、(b)は針類の表面肌が荒れた例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
針類への3価クロムメッキ方法において、メリヤス針やフェルト針、あるいはミシン針等の母材の表面粗さを小さくして3価クロムをメッキすることを特徴とする針類への3価クロムメッキ方法。
【請求項2】
前記母材の表面粗さRaが、0.015〜0.28μmであることを特徴とする請求項1に記載の針類への3価クロムメッキ方法。
【請求項3】
前記母材の表面を、表面粗さを小さくするためにダイヤモンドパウダーやサンドペーパー#600より細かい粒子で羽布研磨したことを特徴とする請求項2に記載の針類への3価クロムメッキ方法。
【請求項4】
前記3価クロムメッキの膜厚が1〜5μm、好ましくは2〜4μmであることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の針類への3価クロムメッキ方法。
【請求項5】
メリヤス針やフェルト針、あるいはミシン針等の針類の母材表面が、請求項1乃至4の何れか1項に記載の3価クロムメッキ方法により3価クロムメッキしたものであることを特徴とする針類。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−106302(P2008−106302A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289568(P2006−289568)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000104021)オルガン針株式会社 (8)
【出願人】(506358465)日本プレーティング株式会社 (1)
【Fターム(参考)】