説明

釣り糸用ガイド部材およびその製造方法

【課題】
本発明は、糸との摩擦を低減すると共に、摩擦による熱をガイドで吸収することで糸が熱で損傷することを抑制する機能を有し、かつ機械的衝撃に強く製造時の加工性も優れた釣り糸用ガイド部材とその製造方法を実現するものである。
【解決手段】
本発明に係る釣り糸用ガイド部材は、熱浸透率が1.70×104J/Km2s0.5以上の金属製基材と、ニッケルまたは炭素を主成分とする表面皮膜とを有し、前記金属製基材の温度拡散率が6.30×10-5m2/s以上であることが望ましい。
また、前記金属製基材と前記表面皮膜との間に厚さ0.5μm以下のニッケル、亜鉛、錫、チタンまたはこれらのいずれかを主成分とする合金を中間層として有することが望ましい。
さらに、前記金属製基材が銅、アルミニウム、亜鉛またはこれらのいずれかを主成分とする合金であることが望ましい。
そして、前記表面皮膜がダイヤモンドライクカーボンであることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣り竿に装着して釣り糸を案内するためのガイド部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、リールを用いた釣りでは、釣竿にリング状のガイド部材を複数個備え、このガイド部材によって釣糸を案内するようになっている。しかし、ガイド部材と糸との間の摩擦に起因する複数の問題が存在し解決が望まれている。
【0003】
例えば、ルアーを用いる場合は、ルアーを投げる際にガイド部材と糸との摩擦により飛距離が低減されたり、糸が擦過して損傷し切れ易くなったりしてしまう。また、魚を釣り上げる際には糸とガイドとの間に強い力がかかるため、巻き上げる際の力が余分に必要になったり、糸の張力が増加して糸切れを誘発したりする。さらには、ガイド部材が局所的に摩耗してしまい、糸切れをますます発生し易くするなどの問題がある。
【0004】
この問題を解決するために、糸に対する摩擦係数が低く、摩擦により発生した熱を拡散すべく熱伝達率が高くかつ耐摩耗性が高い材質を用いた釣り糸用ガイド部材が考案されている。具体的には、窒化アルミ(特許文献1)、炭化ホウ素(特許文献2)あるいは炭化珪素(特許文献3)からなる釣り糸用ガイド部材が発明されている。しかし、これらの材質はいずれもセラミックであり、機械的衝撃に対して脆弱であり加工し難いという問題がある。また、これらセラミック部材は熱伝導率が同程度のニッケルや黄銅などと比較して糸との摩擦面の温度が比較的上昇しやすいという問題もある。
【0005】
一方、釣り糸用リールガイドとしては主部材に金属を用いるものもあり、表面の耐摩耗性と熱伝達率改善のために金属表面にダイヤモンド被膜を形成したものが考案されている(特許資料4)。これはセラミック部材の脆弱性や加工難易性などの問題を克服するものであるが、ダイヤモンドによる熱伝導率の向上はガイド表面のみに施されるものでありガイド全体の熱的設計としては不十分である。また、ダイヤモンド被覆を形成する際に表面に微少な凹凸が発生してしまい、糸を傷つけてしまうことも指摘されている(特許資料5)。
【0006】
上記金属部材にダイヤモンド被覆したガイドの問題を解決するものとして、チタン部材にダイヤモンドライクカーボン(DLC)を被覆したものが考案されている(特許資料5)。しかし、部材のチタンは熱伝達率が低く、ガイドと糸の摩擦による発熱を吸収する機能は不十分である。
【特許文献1】特開平5−58551
【特許文献2】特開2000−191375
【特許文献3】特開2004−178
【特許文献4】特開平7−322796
【特許文献5】特開平10−66486
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、糸との摩擦を低減すると共に、摩擦による熱をガイドで吸収することで糸が熱で損傷することを抑制する機能を有し、かつ機械的衝撃に強く製造時の加工性も優れた釣り糸用ガイド部材とその製造方法を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下に記載する本発明によって解決される。
【0009】
即ち、本発明に係る釣り糸用ガイド部材は、熱浸透率が1.70×104J/Km2s0.5以上の金属製基材と、ニッケルまたは炭素を主成分とする表面皮膜とを有することを特徴とするものである。
【0010】
前記熱浸透率が1.70×104J/Km2s0.5以上の金属としては、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、銅、銀、金、あるいはこれらのうちのいずれかを主成分とする合金が挙げられる。
【0011】
また、前記金属製基材の温度拡散率が6.30×10-5m2/s以上であることが望ましい。
【0012】
前記温度拡散率が6.30×10-5m2/s以上の金属としては、アルミニウム、マグネシウム、銅、銀、金、あるいはこれらのうちのいずれかを主成分とする合金が挙げられる。
【0013】
そして、前記金属製基材と前記表面皮膜との間に厚さ0.5μm以下のニッケル、亜鉛、錫、チタンまたはこれらのいずれかを主成分とする合金を中間層として有することが望ましい。
【0014】
また、前記金属製基材が銅、アルミニウム、亜鉛またはこれらのいずれかを主成分とする合金であることが望ましい。
【0015】
また、前記金属製基材が、ニッケル、クロム、鉄、マンガン、モリブデン、ベリリウムのうちいずれかを0.2質量%以上含むことが望ましい。
【0016】
さらに、前記表面皮膜がダイヤモンドライクカーボンであることが望ましい。前記ダイヤモンドライクカーボンの組成において、グラファイト成分の占める割合は80%以下であると、皮膜の機械的強度を高くし易いのでよい。また、ダイヤモンド成分の占める割合が20%以上あると同様に皮膜の機械的強度を高くし易いのでよい。
【0017】
また、本発明に係る釣り糸用ガイド部材の製造方法は、特定の形状に形成された金属製基材に、電界めっきまたは無電解めっきを用いて厚さ1.0μm以下のニッケル、亜鉛、錫あるいはこれらのいずれかを主成分とする合金を中間層として形成した後、炭素またはニッケルを主成分とする表面皮膜を減圧雰囲気中で化学気相法、スパッタリング法、アークイオンプレーティング法あるいはプラズマ炭浸法のいずれかを用いて形成することを特徴とするものである。
【0018】
あるいは、特定の形状に形成された金属製基材に、減圧雰囲気中で化学気相法、蒸着法、スパッタリング法またはアークイオンプレーティング法のいずれかを用いて厚さ0.5μm以下のニッケル、亜鉛、錫のいずれかあるいはこれらを主成分とする合金を中間層として形成した後、雰囲気を大気解放することなく、化学気相法、スパッタリング法、アークイオンプレーティング法あるいはプラズマ炭浸法のいずれかを用いて炭素またはニッケルを主成分とする表面皮膜を形成することを特徴とするものである。
【0019】
もしくは、特定の形状に形成された金属製基材に、無電解めっきを用いて厚さ1.0μm以下のニッケルあるいはニッケル合金を中間層として形成した後、炭素またはニッケルを主成分とする表面皮膜を減圧雰囲気中で化学気相法、スパッタリング法、アークイオンプレーティング法あるいはプラズマ炭浸法のいずれかを用いて形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の釣り糸用ガイド部材は、基材が金属であるためセラミックスと比較して成形が容易であり、かつ基材の熱浸透率および温度拡散率が高いためガイドと摺動する糸の温度が上昇し難いので、糸の耐久性を高められる。また、ガイド表面にニッケルまたは炭素を含む表面皮膜を有するので、塩水に対して腐食し難く、炭素の量を多くすることにより摺動性も高められるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
釣り糸用ガイド部材は、一般にリングもしくは外部から糸を通せるリング状の形態を有し、そのサイズや細部の形状は竿および糸の特性に合わせて適正なものが要求される。従って、本発明によるガイド部材は加工性や寸法精度に優れた金属製基材を用いるのがよい。
【0022】
また、ガイドと糸が高速で摩擦することで発生する熱によってガイド部材の温度が上昇することを抑制する手段として、特許文献1〜5では基材または基材表面に熱伝導率の高い部材を用いることが考案されているが、熱伝導率が高いというだけではガイドの温度上昇を抑制するには不十分である。
【0023】
そこで、本発明者は摩擦エネルギーによって発生する熱エネルギーではなく、上昇するガイドの温度に着目し鋭意検討した。物質に熱エネルギーを加えたとき、その物体の温度は熱伝導率の他に比熱、密度、質量などに左右される。そこで、密度、比熱、熱伝導率が既知の各種材料について熱浸透率および温度拡散率と呼ばれる指標を比較した。熱浸透率は外部の熱が物質内部に浸透する度合いを示し、温度拡散率は物質の表面の温度が上昇してから内部の温度が上昇していく度合いを示す。なお、熱浸透率と温度拡散率は各々式1と式2のように表されることは知られている。

熱浸透率=(熱伝導率・密度・比熱)1/2 ・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

温度拡散率=熱伝導率/(密度・比熱) ・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
【0024】
各種材料の物性について鋭意検討した結果、熱浸透率および温度拡散率の大小が熱伝導率の大小と逆転する材料が存在することを見出した。すなわち、摩擦熱を抑制するための材料選定は熱伝導率で一義的に選定されるものではなく、温度拡散率や熱浸透率を指標として選定した方がよいとの結論に想到した。
【0025】
本発明によれば、熱浸透率が1.70×104J/Km2s0.5以上の金属製基材を用いると、糸とガイドとの摩擦によりガイド表面の温度上昇を抑制できるのでよい。また、2.00×104J/Km2s0.5以上であるとさらにガイド表面の温度上昇を抑制できるので好ましい。熱浸透率が2.00×104J/Km2s0.5以上の金属としては、アルミニウム、銅、銀、金、あるいはこれらのうちのいずれかを主成分とする合金が挙げられる。
【0026】
また、本発明によれば金属製基材にニッケルまたは炭素を主成分とする皮膜を備えると、金属製基材の腐食、特に塩水に対する腐食を抑制し易いのでよい。皮膜が炭素を主成分とする場合は、糸とガイドとの摩擦が低減し、糸の擦過や糸およびガイドの発熱による糸の損傷を抑制できるのでよい。表面皮膜の厚さは耐久性の点で0.1μm以上が好ましく、1.0μm以下で十分である。表面皮膜の厚さを1.0μm以上とすると皮膜が剥がれたり、表面が荒れて糸が切れたりし易くなるので好ましくない。また、金属製基材として、ニッケル、クロム、マンガン、チタン、鉄のいずれかを含む合金を用いると、炭素またはニッケルを主成分とする被膜との密着性が高くなるのでよい。
【0027】
本発明によれば、温度拡散率が6.30×10-5m2/s以上の金属製基材を用いると糸と接触する温度がガイド部材に速やかに拡散し易いのでよい。また、7.00×10-5m2/s以上の金属製基材を用いるとガイド表面の温度の上昇による糸の損傷をさらに抑制できるので好ましい。温度拡散率が7.00×10-5m2/s以上の金属としては、銅、銀、金あるいはこれらのうちのいずれかを主成分とする合金が挙げられる。
【0028】
本発明によれば、金属製基材と表面皮膜との間に厚さ1.0μm以下のニッケル、亜鉛、錫、チタンまたはこれらのいずれかを主成分とする合金を中間層として有すると、炭素を主成分とする表面皮膜との密着力が高められるのでよい。また、中間層の厚さは単原子層以上あれば密着力向上効果は認められるが、0.3μm以上とするとピンホールなどの欠陥の少ない被覆を得易いのでよい。ただし、1.0μm以上とすると、金属製基材への熱伝導、熱吸収および温度拡散が抑制されるので好ましくない。前記中間層として挙げた材料のうち、ニッケルおよびニッケル合金は化学的に安定でかつ炭素と結合し易いため、基材の腐食防止や表面被覆層の剥離防止に有効であるのでよい。亜鉛および亜鉛合金は熱伝導率、熱吸収率、温度拡散率が比較的高いため、ガイド部材の温度上昇を抑制し易くかつ炭素と結合し易いので表面被覆層の剥離防止し易いのでよい。錫および錫合金は金属製基材として銅または銅合金を用いた場合には電界めっき方などにより被覆し易い材料であり、かつ熱浸透率が比較的大きく、さらに炭素と結合し易いので表面被覆層の剥離を防止し易いのでよい。チタンまたはチタン合金は種々の金属と結合し易く特に炭素と結合し易い材料であるため、表面被覆層の剥離を防止し易いのでよい。なお、チタンおよびチタン合金は熱伝導率、熱浸透率、温度拡散率のいずれも小さいが、厚さを0.5μm以下にすることで表面被覆層と金属製基材との熱および温度を伝達することに大きな支障はなくなるのでよい。
【0029】
また、本発明によれば金属製基材が銅、アルミニウムまたはこれらのいずれかを主成分とする合金であると、熱吸収率および温度拡散率が高く、加工性に優れているためよい。銅は金属柱で最も熱吸収率が大きな材料であり、ガイド部材の温度上昇を抑制するガイド部材として適した材料である。また、銅合金を用いると比較的大きな熱吸収率を維持しつつ腐食性や機械的特性を改善できるのでよい。アルミウムは熱吸収率と温度拡散率が高くかつ軽いため、ガイド部材の金属製基材として適しているのでよい。また、アルミ合金を用いることにより、比較的高い熱吸収率と温度拡散率および軽量性を維持しつつ、耐食性や機械的特性を改善できるのでよい。
【0030】
また、本発明によれば金属製基材が、ニッケル、クロム、鉄、マンガン、モリブデン、ベリリウムのうちいずれかを0.2質量%以上含むと、金属製基材と前記中間層あるいは前記表面被膜との密着性を高められるのでよい。
【0031】
本発明によれば、表面皮膜がダイヤモンドライクカーボンであると、摩擦係数が低く、耐摩耗性が高いのでよい。ダイヤモンドライクカーボンとは、ラマン分光によるスペクトルにグラファイト構造に起因するGバンド(グラファイトバンド)とダイヤモンド構造に起因するDバンド(ディスオーダーバンド)の両方が認められるものを指す。Gバンド成分を多くすると摩擦係数を低くできる反面、膜の機械的強度が低下する。Dバンド成分を多くすると熱伝達率や機械的強度を大きくできる反面、摩擦係数が増加する。GバンドとDバンドの比率はガイド用部材に求められる要求特性により適正化するのが好ましい。例えば、比較的太い糸が高張力でガイドと摺動する場合は、Dバンド成分が多い方が好ましく、比較的細い糸が低張力でガイドと摺動する場合は、Gバンド成分が多い方が好まし。具体的には、Gバンド成分が80%以下、あるいはDバンド成分が20%以上であると低い摩擦係数と高い奇異的特性を両立し易いのでよい。
【0032】
また、本発明によれば特定の形状に形成された金属製基材に、電界めっきまたは無電解めっきを用いて厚さ1.0μm以下のニッケル、亜鉛、錫あるいはこれらのいずれかを主成分とする合金を中間層として形成した後、炭素またはニッケルを主成分とする表面皮膜を減圧雰囲気中で化学気相法、スパッタリング法、アークイオンプレーティング法あるいはプラズマ炭浸法のいずれかを用いて形成すると、糸との摩擦を低減すると共に、摩擦による熱をガイドで吸収することで糸が熱で損傷することを抑制する機能を有し、かつ機械的衝撃に強く製造時の加工性も優れた釣り糸用ガイド部材を容易に製造できるのでよい。ガイド用部材の金属製基材は通常比較的小さなリング状の形態をしており、その表面、特に糸が接触するリング形状の内側に中間層を形成することが重要である。このようなリング状の部材表面に皮膜を形成する方法としてはめっき法が適しており、基材および皮膜が金属の場合には特にめっき法が適している。また、金属製基材をかごに入れてめっきを行うバレルめっき法を用いると、複数の基材に動じにめっきができ、しかも金属製基材の特定の位置を治具などで保持する必要がないため、表面全体をめっきし易いのでよい。また、ニッケルまたはニッケル合金をめっきする場合には、無電解めっき法を用いると表面が平滑で強固な皮膜を形成し易いのでよい。また、めっき後400℃程度で2時間程度の熱処理を施すとめっき法で形成した中間層の機械的強度や密着力を高められるのでよい。また、表面皮膜を形成する前に、減圧雰囲気下でプラズマなどを用いて中間層の表面に付着した水、酸素、有機物などを除去すると炭素を主成分とする表面皮膜の密着力を高め易いのでよい。また、表面皮膜の形成方法としては、表面皮膜の要求特性に応じて適切なものを選択すればよい。例えば、化学気相法は、主成分の炭素に対してフッ素などの添加物を導入し易いのでよい。スパッタリング法は水素成分の少ない膜を形成し易いのでよい。アークイオンプレーティング法は水素の少ない膜を比較的高速でかつ高い密着力で形成し易いのでよい。プラズマ炭浸法は膜中への添加物の混入が比較的容易で、複雑な形状の基材にも高密着力で皮膜を形成し易いのでよい。
【0033】
また、本発明によれば特定の形状に形成された金属製基材に、減圧雰囲気中で化学気相法、蒸着法、スパッタリング法またはアークイオンプレーティング法のいずれかを用いて厚さ1.0μm以下のニッケル、亜鉛、錫あるいはこれらのいずれかを主成分とする合金を中間層として形成した後、雰囲気を大気解放することなく、化学気相法、スパッタリング法、アークイオンプレーティング法あるいはプラズマ炭浸法のいずれかを用いてニ炭素またはニッケルを主成分とする表面皮膜を形成すると、中間層と表面皮膜との界面に酸素が混入ことを抑制することで高い密着力を実現し易いのでよい。減圧雰囲気中で中間層を形成した後雰囲気を大気解放すると、中間層表面が酸化したり水や有機物などが表面に付着したりすることで、次に形成する表面皮膜の密着力や膜質を低下させることがあるので好ましくない。
【0034】
また、本発明によれば特定の形状に形成された金属製基材に、無電解めっきを用いて厚さ0.5μm以下のニッケルあるいはニッケル合金を中間層として形成した後、炭素またはニッケルを主成分とする表面皮膜を減圧雰囲気中で化学気相法、スパッタリング法、アークイオンプレーティング法あるいはプラズマ炭浸法のいずれかを用いて形成すると、複雑な形状にもニッケル中間層を均一に被覆でき、炭素を主成分とする表面皮膜との密着力を均一に高められるのでよい。
【0035】
なお、本発明の釣糸用ガイド部材は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内であれば種々の変更は可能である。
【0036】
表1に、密度、比熱、熱伝導率が既知の各種素材の熱吸収率と温度拡散率を求めたものを熱伝導率が小さい順に示す。熱浸透率が1.70×104J/Km2s0.5以上の金属としては、銀、銅、金、アルミニウム、ニッケル、亜鉛が挙げられる。また、温度拡散率が6.30×10-5m2/s以上の金属としては、銀、金、銅、アルミニウム、マグネシウムが挙げられる。そして、熱浸透率が1.70×104J/Km2s0.5以上かつ温度拡散率が6.30×10-5m2/s以上の金属としては、銀、金、銅、アルミニウムが挙げられる。
【0037】
表1から明らかなように、銀、金、銅、アルミニウム、アルミ合金などの金属は炭化珪素や窒化珪素よりも摩擦熱により温度が上がりにくく、釣り糸用ガイド部材として適した基材である。
【0038】
【表1】

【実施例1】
【0039】
金属製基材1-1としてタフピッチ銅(JIS 1100)を図1に示す形状に形成し、中間層1-2としてダブルジンケート法を用いて無電解ニッケルめっきを行った。具体的には、通常、まず金属製基材を脱脂処理、酸エッチング処理、硝酸を用いた酸浸漬処理の後、第1亜鉛置換、硝酸剥離、第2亜鉛置換の順で2回の亜鉛置換処理を施した。これにより、緻密な亜鉛置換被膜を形成し、その後、亜鉛置換被膜上に無電解ニッケルめっきにより厚さ0.8μmのニッケル膜を形成した。
【0040】
続いて、ニッケルめっきを施した金属製基材表面に表面皮膜1-3としてダイヤモンドライクカーボン膜を0.5μm形成した。具体的には、まず金属製基材の外周を導電性の治具で保持し、真空装置内に装填した後0.5mPaの圧力まで排気した。次に、純度99.99%以上のメタンガスを導入し、真空装置内を3Paの圧力とし、導電性治具に負パルス電圧(周波数40kHz、デューティー比50%)を印加して1kWの電力を220分間投入した。これにより、導電性治具および金属製基材周辺にメタンによるプラズマが生成され、半光沢の黒いダイヤモンドライクカーボン被膜が形成された。図2にリング状の金属製基材1-1に中間層1-2と表面皮膜1-3を被服したものの断面構造を示す。
【実施例2】
【0041】
実施例1でタフピッチ銅にニッケル中間層およびダイヤモンドライクカーボン表面被覆層を形成したリング状ガイド部材の一つを図3に示す構成の評価装置のガイド治具3に取り付け、200gの重り4を一端に取り付けたナイロン製釣り糸(東レ株式会社製 銀鱗3号)2を通し、巻き取り装置5で1m/sの速度で巻き取りと繰り出しを繰り返した。1m/sの速度でガイドと摺動する部分の糸の長さは1mで、この部分が往復してガイドと摺動するようにした。この装置を糸2が切れるまで連続運転させ、往復数をカウンターにより自動的に記録した。その結果、糸は27825往復目で切れた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の釣り糸用ガイド部材は、その加工性、温度拡散率、熱品倒立、加工性、耐久性などから、釣り糸ガイド部材に限定されず、リールのスプールの前端部、リールのラインローラー、よりもどし部品等に適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1の基材形状を説明する図。
【図2】実施例1の基材、中間層、表面皮膜の断面構造を説明する図。
【図3】実施例および比較例の評価装置を説明する図。
【符号の説明】
【0044】
1 :リング状ガイド
1-1 :基材
1-2 :中間層
1-3 :表面皮膜
2 :糸
3 :ガイド治具
4 :重り
5 :巻取り装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱浸透率が1.70×104J/Km2s0.5以上の金属製基材と、ニッケルまたは炭素を主成分とする表面皮膜とを有することを特徴とする、釣り糸用ガイド部材。
【請求項2】
前記金属製基材の温度拡散率が6.30×10-5m2/s以上であることを特徴とする、請求項1に記載の釣り糸用ガイド部材。
【請求項3】
前記金属製基材と前記表面皮膜との間に厚さ1.0μm以下のニッケル、亜鉛、錫、チタンまたはこれらのいずれかを主成分とする合金を中間層として有することを特徴とする、請求項1または2に記載の釣り糸用ガイド部材。
【請求項4】
前記金属製基材が銅、アルミニウムまたはこれらのいずれかを主成分とする合金であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の釣り糸用ガイド部材。
【請求項5】
前記金属製基材が、ニッケル、クロム、鉄、マンガン、モリブデン、ベリリウムのうちいずれかを0.2質量%以上含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の釣り糸用ガイド部材。
【請求項6】
前記表面皮膜がダイヤモンドライクカーボンであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の釣り糸用ガイド部材。
【請求項7】
特定の形状に形成された金属製基材に、電界めっきまたは無電解めっきを用いて厚さ0.5μm以下のニッケル、亜鉛、錫あるいはこれらのいずれかを主成分とする合金を中間層として形成した後、厚さ1.0μm以下の炭素またはニッケルを主成分とする表面皮膜を減圧雰囲気中で化学気相法、スパッタリング法、アークイオンプレーティング法あるいはプラズマ炭浸法のいずれかを用いて形成することを特徴とする、釣り糸用ラインガイド部材の製造方法。
【請求項8】
特定の形状に形成された金属製基材に、減圧雰囲気中で化学気相法、蒸着法、スパッタリング法またはアークイオンプレーティング法のいずれかを用いて厚さ0.5μm以下のニッケル、亜鉛、錫のいずれかあるいはこれらを主成分とする合金を中間層として形成した後、雰囲気を大気解放することなく、化学気相法、スパッタリング法、アークイオンプレーティング法あるいはプラズマ炭浸法のいずれかを用いて厚さ1.0μm以下の炭素またはニッケルを主成分とする表面皮膜を形成することを特徴とする、釣り糸用ラインガイド部材の製造方法。
【請求項9】
特定の形状に形成された金属製基材に、無電解めっきを用いて厚さ0.5μm以下のニッケルあるいはニッケル合金を中間層として形成した後、厚さ1.0μm以下の炭素またはニッケルを主成分とする表面皮膜を減圧雰囲気中で化学気相法、スパッタリング法、アークイオンプレーティング法あるいはプラズマ炭浸法のいずれかを用いて形成することを特徴とする、釣り糸用ラインガイド部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−135498(P2007−135498A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−335223(P2005−335223)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(305052986)プロマティック株式会社 (11)
【Fターム(参考)】