鉄イオン供給部材および鉄イオン供給方法
【課題】鉄イオンをより多く供給することができる鉄イオン供給部材を提供する。
【解決手段】鉄イオン供給部材は、炭素含有量が2.5%以上であって、かつ複数の黒鉛を有し、前記黒鉛の平均距離が100μm以下である含鉄材料を用いて形成されている。
【解決手段】鉄イオン供給部材は、炭素含有量が2.5%以上であって、かつ複数の黒鉛を有し、前記黒鉛の平均距離が100μm以下である含鉄材料を用いて形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄イオン供給部材および鉄イオン供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海には、有用な魚介類の繁殖場所である藻場が存在し、自然の良好な漁礁となっている。ところが近年、沿岸部の海域等では、岩場から海藻が消えて石灰藻に覆われる磯焼け、即ち海の砂漠化が急速に拡がり、昆布、ウニ、アワビ等の沿岸水産資源の減少が顕著になっている。
【0003】
磯焼けに関する最近の研究では、河川から流入する鉄イオンの欠乏が主要因と考えられている。そこで、沿岸漁業の振興を図る上で、多量の鉄イオンを効率良く海中に供給して、短時間で磯焼け現象を解消することが要望されている。また、海流などにより鉄イオンが拡散してしまうため、長期に亘って安定して鉄イオンを供給することが重要である。
【0004】
特許文献1には、護岸等用カゴ枠の平面枠について、各平面枠をそれぞれ枠本体に鋳造した鋳鉄から形成する技術が開示されている。また、平面枠を鋳鉄から形成したので、護岸等用カゴ枠の強度を著しく高めることができると記載されている。さらに、各平面枠は鋳鉄からなるので、護岸等に設置した際、平面枠の表面から鉄分や石灰質・マグネシウム等が溶出して、生物にとって有効な栄養水(ミネラル水)を創り出し、バクテリアの付着によって水質の浄化や藻の繁殖を促進し、それに伴い植物や魚を含めて多様な生物が棲息するのに最適な環境である、いわゆるビオトープを容易に創り出すことができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−64248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1記載の技術は、カゴ枠の平面枠に用いた鋳鉄の鉄が海中に溶出することにより、鉄イオンを供給するものである。しかしながら、護岸用途のカゴ枠であるため、鉄イオンの供給によってカゴ枠の機械的強度が低下しないよう、鉄イオンの供給速度をある程度の速度以下に抑えなければならなかった。そのため、磯焼けを抑制するために十分な鉄イオンを供給できなかった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、鉄イオンをより多く供給することができる鉄イオン供給部材及び鉄イオン供給方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意検討し、従来全く着目されていなかった鋳鉄の黒鉛間の平均距離に着目した。
すなわち、鋳鉄から鉄が溶出するためには鉄と黒鉛が電気化学的に反応できることが重要である。本発明者は、一般的な鋳鉄であるネズミ鋳鉄は、層状の組織となっているため、鉄と黒鉛の距離が遠くなり両者の電気化学的反応が得られない部分が生じること、及び黒鉛を組織全体に分散させ、鉄と黒鉛が電気化学的に反応できる適度な黒鉛間距離を保つことが重要であることを見出した。そこで、本発明は、黒鉛間平均距離を100μm以下とすることにより、鉄と黒鉛粒子の電気化学的反応が組織全体にわたって得られることを見出し、完成されたものである。
【0009】
本発明によれば、炭素含有量が2.5%以上であって、かつ複数の黒鉛を有し、前記黒鉛の平均距離が100μm以下である含鉄材料を用いて形成された鉄イオン供給部材が提供される。
【0010】
本発明の鉄イオン供給部材は、炭素を2.5%以上含有し、黒鉛間平均距離が100μm以下である含鉄材料を用いて形成されたものである。すなわち、多量の炭素を含有することで鉄の溶出率を向上するとともに、黒鉛間平均距離を100μm以下とすることにより、鉄と黒鉛の電気化学的反応を組織全体にわたって得られるようになるため、鉄の溶出を促進しつつ安定して鉄を溶出できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鉄イオンをより多く供給することができる鉄イオン供給部材及び鉄イオン供給方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による鉄イオン供給部材の一例を示す模式図である。
【図2】本発明による鉄イオン供給部材の一例を示す模式図である。
【図3】本発明による鉄イオン供給部材の一例を示す模式図である。
【図4】本発明による鉄イオン供給部材の一例を示す模式図である。
【図5】JISG5502の黒鉛粒の形状分類図である。
【図6】球状黒鉛鋳鉄のナイタール腐食後の金属組織図の模式図である。
【図7】球状黒鉛鋳鉄のナイタール腐食後の金属組織図の模式図である。
【図8】高炭素鋳鉄のナイタール腐食後の金属組織図の模式図である。
【図9】本発明による鉄イオン供給方法の一例を示す模式図である。
【図10】本発明による鉄イオン供給方法の一例を示す模式図である。
【図11】従来技術による腐食減量と、本発明による腐食減量を示したグラフ図である。
【図12】実施例1のナイタール腐食後の金属組織を示す図である。
【図13】実施例2のナイタール腐食後の金属組織を示す図である。
【図14】実施例3のナイタール腐食後の金属組織を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0014】
[鉄イオン供給部材]
本発明の鉄イオン供給部材は、炭素含有量が2.5%以上であって、かつ複数の黒鉛を有し、黒鉛の平均距離が100μm以下である含鉄材料を用いて形成される。
【0015】
まず、本発明の鉄イオン供給部材の形状について説明する。
図1〜4は、本発明による鉄イオン供給部材の一例を示す模式図である。図1は鋳鉄管11、図2は球形状の鉄イオン供給部材12、図3は金網状の鉄イオン供給部材13、図4は異型鋳鉄管14にそれぞれ加工した例を示している。
【0016】
なお、鉄イオン供給部材の形状は、利用形態により様々に変えられ、上記に例示されたものに限定されない。例えば、漁礁への固定、土壌中への投入等、利用箇所や設置条件などにより、設計できる。
【0017】
次に、鉄イオン供給部材に用いられる含鉄材料について説明する。
含鉄材料の黒鉛の平均距離は、小さい方が良いが、0.3μm以上がより好ましい。なぜならば、鉄中に含有される炭素量は限られているので、一定の炭素量のもとでは平均距離を0.3μm以上にすることで含鉄材料のフェライトと黒鉛が適度に分散され、フェライト中の鉄と黒鉛の電気化学的反応が全体的に得られるようになる。その結果、鉄の溶出が増加し、安定的になる。また、黒鉛の平均距離は、100μm以下が好ましい。これにより、フェライト中の鉄と黒鉛の電気化学的反応を十分行わせることができ、鉄の溶出を促進できる。
【0018】
黒鉛の平均距離は、ナイタール腐食後の含鉄材材料の断面を顕微鏡を用いて観察し、5視野で観察された黒鉛について、隣接する黒鉛同士の距離を20箇所測定し、その平均値を算出することによって得られる。
【0019】
本発明の含鉄材料の炭素含有量は、2.5%以上である。これにより、黒鉛と鉄との電気化学的反応が行われ、鉄の溶出が促進できる。
【0020】
含鉄材料の黒鉛の粒径は、0.3μm以上、60μm以下が好ましい。これにより、含鉄材料全体に、鉄と黒鉛の間に適度な距離と黒鉛の適度の分散が得られる。その結果、黒鉛と鉄の電気的反応をしやすくし、鉄の溶出を促進できる。
【0021】
含鉄材料の黒鉛面積率は5%以上が好ましく、8%以上が更に好ましい。また黒鉛面積率は、50%以下が好ましく、40%以下が更に好ましい。これにより黒鉛と鉄の電気的反応を含鉄材料全体で行わせることができる。
【0022】
黒鉛面積率は、例えば、次のようにして算出される。
図5は、JISG5502の黒鉛粒の形状分類図である。図5に示すJISG5502(球状黒鉛鋳鉄品)の黒鉛粒の形状分類VI(ISO 945FIGURE1.による)の黒鉛の面積を測定して、黒鉛面積率を算出することができる。
【0023】
本発明で用いられる含鉄材料において、黒鉛は球状黒鉛であってもよく、また黒鉛は球状黒鉛が変形した片状の黒鉛であってもよい。これら球状黒鉛及び片状の黒鉛をともに含んでもよい。
【0024】
次に、本発明の効果について説明する。
本発明の鉄イオン供給部材は、炭素を2.5%以上含有し、黒鉛間平均距離が100μm以下である含鉄材料を用いて形成されたものである。すなわち、多量の炭素を含有することで鉄の溶出率を向上するとともに、黒鉛間平均距離を100μm以下とすることにより、鉄と黒鉛の電気化学的反応を組織全体にわたって得られるようになる。そこで、このような鉄イオン供給部材を水中に浸漬することにより、鉄の溶出を促進しつつ安定して鉄を溶出できる。
【0025】
なお、本発明で用いられる含鉄材料として球状黒鉛鋳鉄を用いた場合は、黒鉛が球状黒鉛であることにより、フェライト中の鉄と黒鉛の電気化学的反応を起こしやすく、そのため、鉄イオン供給部材の含鉄材料として、鉄イオン供給を向上させることができる。また、鋳鉄であるため、鋳型を用いることで鉄イオン供給部材を安価に大量生産することが可能となる。
【0026】
球状黒鉛鋳鉄の黒鉛球状化面積は、例えば、次のようにして算出される。
まず、黒鉛粒の形状分類は、図5のとおりとし、これに基づいて黒鉛粒を分類する。次に、分類された黒鉛粒について、顕微鏡の倍率100倍とし5視野について観察をおこない、黒鉛粒数を求める。このとき1mm(実際の寸法10μm)以下の黒鉛及び介在物は数に含めない。
黒鉛球状化面積は、全黒鉛粒数に対する、図5に示された形状V及びVIの黒鉛粒数の割合(%)として算出される。
【0027】
球状黒鉛鋳鉄の黒鉛の平均距離は、10μm以上100μm以下が好ましい。これにより、鉄と黒鉛との電気化学的反応が良好となり、鉄の溶出が促進できる。球状黒鉛鋳鉄の炭素含有量は、2.5〜4%である。球状黒鉛鋳鉄の黒鉛の粒径は、10〜60μmである。球状黒鉛鋳鉄の黒鉛の黒鉛面積率は、5〜15%である。
【0028】
ここで、球状黒鉛鋳鉄の金属組織図の一例について説明する。図6,7は、球状黒鉛鋳鉄のナイタール腐食後の金属組織を模式的に示す図である。
【0029】
図6において、球状黒鉛鋳鉄4は、黒鉛41の粒径が20〜30μmで、黒鉛の面積率は約11%である。残りの大部分はフェライト42で占められており、一部パーライト43が存在している。黒鉛間距離は、50〜100μmとなっている。図7において、球状黒鉛鋳鉄5は、黒鉛51の粒径が40〜60μmで、黒鉛の面積率は約10%である。残りの大部分はフェライト52で占められており、一部パーライト53が存在している。黒鉛間距離は、50〜100μmとなっている。
【0030】
また、本発明で用いられる含鉄材料としては、メカニカルアロイング(MA)法により作製した材料を用いることができる。
【0031】
一般の黒鉛鋳鉄では、炭素がフェライト中に約0.022%固溶し、固溶できなかった残部は炭化物として析出しており、オーステンパー処理や共析温度直下で再加熱処理によって、黒鉛の球状化処理が行われる。これらの場合、球状黒鉛鋳鉄の炭素含有量はあまり高くできない。これに対し、いわゆるMA法を用いた場合、黒鉛を添加しているため、高濃度の炭素を含有させることができる。そこで、このような高炭素濃度の鋳鉄(以下、高炭素鋳鉄)を用いることにより、鉄イオン供給部材による鉄イオンの供給を更に促進し、長期的に行えるようになる。
【0032】
高炭素鋳鉄は、フェライト粒の周囲を取り巻く形で成長した黒鉛とフェライト粒内に析出した0.3μm以上5μm以下の微細な粒径からなることを特徴としている。また、高炭素鋳鉄は製造過程で圧着又はショットピーニング加工を受ける場合は形が変形し、片状黒鉛となる場合がある。
【0033】
高炭素鋳鉄の炭素含有量は、例えば、5〜25%である。高炭素鋳鉄の黒鉛間平均距離は、0.3μm以上が好ましい。また黒鉛の平均距離は100μm以下が好ましく、より好ましくは50μm以下である。これにより、鉄と黒鉛との電気化学的反応が良好となり、鉄の溶出が促進できる。高炭素鋳鉄の黒鉛の粒径は、例えば、0.3〜10μmである。高炭素鋳鉄の黒鉛面積率は、フェライト粒の周囲を取り巻く形で成長した黒鉛も含めて、10〜50%である。
【0034】
高炭素鋳鉄の黒鉛面積率は、黒鉛の形態が球状化黒鉛の形態と異なるので、顕微鏡の倍率2000倍とし5視野について観察をおこない、フェライト粒の周囲を取り巻く形で成長した黒鉛と、黒鉛粒子または片平黒鉛として観察できる黒鉛の面積を観察し、黒鉛面積率を求める。
【0035】
次に、高炭素鋳鉄の製造方法の一例について、説明する。
まず、チップ状の鉄、例えば普通鋳鉄と黒鉛粉末を配合し、ミリング助剤を加え、メカニカルアロイング(MA)法によってMA粉末を作成する。続けて、得られたMA粉末に、バインダーを用いてホットプレスと焼結処理を行い、得られた焼結体をさらに加熱処理する。これにより、高炭素鋳鉄が得られる。
【0036】
ここで、高炭素鋳鉄の金属組織図の一例について説明する。図8(a)は、高炭素鋳鉄のナイタール腐食後の金属組織図の模式図、図8(b)は、その一部の拡大図である。
【0037】
図8(a)に示すような高炭素鋳鉄は、以下のようにして作製された。
まず、切削チップの普通鋳鉄FC300と天然黒鉛粉末を配合し、ステアリン酸のミリング助剤を加え、メカニカルアロイング(MA)法によってMA粉末得た。さらにポリプロピレンとパラフィンワックスのバインダーを用いてホットプレスと焼結処理を行った。ホットプレスは620℃で行い、さらに成型体を900℃で加熱処理を行った。これらの処理はすべてアルゴンガス雰囲気で行った。
【0038】
図8(b)には、図8(a)中の矢印で示された領域の拡大図が示され、フェライト62の周囲を黒鉛61が囲い、さらに析出した球状黒鉛63、及び球状黒鉛が変形した片状の黒鉛64が示されている。得られた高炭素鋳鉄の炭素含有量は、6.2〜22.8%となり、高炭素鋳鉄の黒鉛面積率は、10〜50%であった。
【0039】
[鉄イオン供給方法]
本発明の鉄イオン供給方法は、本発明の鉄イオン供給部材を水中に浸漬することにより行われる。
【0040】
水とは、海水および淡水であって、海水であるか淡水であるかを問わない。鉄イオン供給部材が利用される水域としては、例えば、海、沿岸、干潟、河川、湖沼などが挙げられる。
【0041】
図9,10は、本発明による鉄イオン供給方法の一例を示す模式図である。以下、図9,10それぞれについて説明する。
【0042】
(第1の供給方法)
図9に示すように、本発明の含鉄材料を球形状に加工した鉄イオン供給部材12を海水に浸漬する。これにより、鉄イオン供給部材12から鉄が溶出し、海水に二価の鉄イオンとして供給できるため、磯焼けが低減され藻31が生育できるようになる。
【0043】
したがって本発明の鉄イオン供給方法によれば、海水中に藻31が生育できるためアマモ場、アラメ・カジメ場、ガラモ場等の藻場が増大できる。そのため、これら生物により水質が浄化され、生物資源の豊富な海洋緑化が促進され、結果的に地球上のCO2削減につなげることができる。
【0044】
(第2の供給方法)
次に他の鉄イオン供給方法の一例について説明する。
図10に示すように、図3に示された鉄イオン供給部材13を2枚用いて腐食物を入れた袋21を挟み、留め具22によって固定し、これを海水に浸漬する。袋21には、フルボ酸等が溶出する腐食物を入れておく。
【0045】
ここで、フルボ酸は、含鉄材料の鉄をキレート化させ、フルボ酸鉄として生成させることができる。これにより、二価の鉄イオン供給が促進できる。また、フルボ酸鉄は、鉄よりも酸化され難いため、長期間に亘って二価の鉄イオンを供給できる。
【0046】
したがって、本発明の含鉄材料にフルボ酸を反応させることにより、鉄イオン供給部材13からの二価の鉄イオンの供給を促進しつつ、長期間に二価の鉄イオンを供給できる。
【0047】
なお、上記方法では、フルボ酸が入った袋21を鉄イオン供給部材13で挟む例について説明したが、フルボ酸を含鉄材料に予め混合させて加工した鉄イオン供給部材を用いてもよい。また、図1及び図4に示すような鋳鉄管11及び異型鋳鉄管14の中に腐食物を入れた袋等を設置してもよい。この場合も、同様の効果が得られる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0049】
[腐食減量の測定]
タテ5cm、ヨコ10cmの、SS400の鋼材、FCC200の片状鋳鉄、FCD420の球状黒鉛鋳鉄、炭素含有量11.6%の高炭素鋳鉄、炭素含有量22.8%の高炭素鋳鉄を、海水中で裏面シールした後、エアバブリングしながら20℃に192時間放置し、それぞれの腐食減量を測定した。その結果を図11に示す。
【0050】
図11より、FCD420の球状黒鉛鋳鉄、炭素含有量11.6%の高炭素鋳鉄、炭素含有量22.8%の高炭素鋳鉄では、高い腐食減量が得られることが分かった。
【0051】
(実施例1)
表1の実施例1に示す化学成分の鋳鉄を電気炉によって溶解し、黒鉛を球状化するための処理を行ない、金型による遠心鋳造をおこなって鋳鉄管を製造後、焼鈍し製造した。
得られた鋳鉄管のナイタール腐食後の金属組織を顕微鏡で観察した。その一例を図12に示す。観察により、黒鉛面積率と球状黒鉛の粒径を測定した。黒鉛間平均距離は、5視野で観察された黒鉛について、隣接する黒鉛同士の距離を20箇所測定し、その平均値を算出することによって求めた。
また、得られた鋳鉄管を、ヨコ5cm、タテ10cmを残しシール可能な大きさに切断後、裏面と端面をシールして、海水中でエアバブリングしながら20℃に192時間放置し、腐食減量を測定した。その結果を表1に示す。
【0052】
(実施例2)
表1の実施例2に示す化学成分の鋳鉄を電気炉によって溶解し、黒鉛を球状化するための処理を行い、SR遠心鋳造を行って鋳鉄管を製造後、焼鈍し製造した。
得られた鋳鉄管について実施例1と同様に実験を行った。その結果を図13、表1に示す。
【0053】
(実施例3)
表1の実施例3に示す化学成分の鋳鉄を電気炉によって溶解し、黒鉛を球状化するための処理を行い、砂型の鋳型に流し込み、鋳鉄管を製造した。
得られた鋳鉄管について実施例1と同様に実験を行った。その結果を図14、表1に示す。
【0054】
(実施例4)
切削チップの普通鋳鉄FC300(C量:3.6%)と天然黒鉛粉末を3%配合し、ステンレス鋼容器にステンレス鋼ボールとステアリン酸のミリング助剤を加え、メカニカルアロイング(MA)法によってMA粉末得た。さらにポリプロピレンとパラフィンワックスのバインダーを用いてホットプレスと焼結処理を行った。ホットプレスは620℃で行い、固化成型と脱バインダー処理をおこなった。さらに成型体を900℃で加熱処理を行い焼結した。これらの処理はすべてアルゴンガス雰囲気で行った。
得られた鋳鉄について、顕微鏡の倍率2000倍とし5視野について観察をおこない、フェライト粒の周囲を取り巻く形で成長した黒鉛と、黒鉛粒子または片平黒鉛として観察できる黒鉛の面積を観察し、黒鉛面積率を求めた。
黒鉛間平均距離は、顕微鏡の倍率3000倍とし、5視野で観察された黒鉛について、隣接する黒鉛同士の距離を20箇所測定し、その平均値を算出することによって求めた。
黒鉛の粒径及び腐食減量については、実施例1と同様に評価を行った。その結果を表1に示す。
【0055】
(実施例5)
実施例4の天然黒鉛粉末を「3%」を、5%とした以外は、実施例4と同様に鋳鉄を得た。
得られた鋳鉄について、実施例4と同様に評価を行った。その結果を表1に示す。
【0056】
(実施例6)
実施例4の天然黒鉛粉末を「3%」を、10%とした以外は、実施例4と同様に鋳鉄を得た。
得られた鋳鉄について、実施例4と同様に評価を行った。その結果を表1に示す。
【0057】
(比較例1)
市販のSS400を用いて、実施例1と同様に評価を行った。
【0058】
(比較例2)
市販のFCC200を用いて、実施例1と同様に評価を行った。
【0059】
【表1】
【0060】
表1中、鉄イオン溶出換算値は、測定された腐食減量を鉄イオン溶出量として読み替えた値である。
【0061】
表1より、実施例1〜6は、市販品を用いた比較例1、2よりも海水中での鉄イオン溶出量が優れたことがわかる。
【0062】
(実施例7)
40リットルの水槽4本にトリムイオン製の浄水器で製造した浄水をはり、オオカナダモを10g入れた。これらの各々の水槽に、実施例1で使用した球状黒鉛鋳鉄管を100gと市販の腐葉土50gを布製の袋に入れ水槽に入れ、日当たりの良い窓際において1ヶ月経過を見た。その結果を表2に示す。
【0063】
(実施例8)
実施例7の「球状黒鉛鋳鉄管を100gと市販の腐葉土50g」を、球状黒鉛鋳鉄管100gのみにした以外は、実施例7と同様に実験を行い評価した。その結果を表2に示す。
【0064】
(比較例3)
実施例7の「球状黒鉛鋳鉄管を100gと市販の腐葉土50g」を、市販の腐葉土50gのみにした以外は、実施例7と同様に実験を行い評価した。その結果を表2に示す。
【0065】
(比較例4)
実施例7の「球状黒鉛鋳鉄管を100gと市販の腐葉土50g」を用いず、浄水のみにした以外は、実施例7と同様に実験を行い評価した。その結果を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
表2中、オオカナダモの成長度について、◎は非常に良好な繁殖、○は良好な繁殖、△はわずかに繁殖、×は繁殖がほとんどみられない、ことをそれぞれ示している。
【0068】
実施例7はオオカナダモが非常に良好に繁殖しており、実施例8の腐葉土も良好な繁殖であった。浄水のみの比較例4は繁殖がほとんど認められなかった。
【符号の説明】
【0069】
4 球状黒鉛鋳鉄
5 球状黒鉛鋳鉄
11 鋳鉄管
12 鉄イオン供給部材
13 鉄イオン供給部材
14 異型鋳鉄管
21 袋
22 留め具
31 藻
41 黒鉛
42 フェライト
43 パーライト
51 黒鉛
52 フェライト
53 パーライト
61 黒鉛
62 フェライト
63 球状黒鉛
64 片状の黒鉛
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄イオン供給部材および鉄イオン供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海には、有用な魚介類の繁殖場所である藻場が存在し、自然の良好な漁礁となっている。ところが近年、沿岸部の海域等では、岩場から海藻が消えて石灰藻に覆われる磯焼け、即ち海の砂漠化が急速に拡がり、昆布、ウニ、アワビ等の沿岸水産資源の減少が顕著になっている。
【0003】
磯焼けに関する最近の研究では、河川から流入する鉄イオンの欠乏が主要因と考えられている。そこで、沿岸漁業の振興を図る上で、多量の鉄イオンを効率良く海中に供給して、短時間で磯焼け現象を解消することが要望されている。また、海流などにより鉄イオンが拡散してしまうため、長期に亘って安定して鉄イオンを供給することが重要である。
【0004】
特許文献1には、護岸等用カゴ枠の平面枠について、各平面枠をそれぞれ枠本体に鋳造した鋳鉄から形成する技術が開示されている。また、平面枠を鋳鉄から形成したので、護岸等用カゴ枠の強度を著しく高めることができると記載されている。さらに、各平面枠は鋳鉄からなるので、護岸等に設置した際、平面枠の表面から鉄分や石灰質・マグネシウム等が溶出して、生物にとって有効な栄養水(ミネラル水)を創り出し、バクテリアの付着によって水質の浄化や藻の繁殖を促進し、それに伴い植物や魚を含めて多様な生物が棲息するのに最適な環境である、いわゆるビオトープを容易に創り出すことができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−64248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1記載の技術は、カゴ枠の平面枠に用いた鋳鉄の鉄が海中に溶出することにより、鉄イオンを供給するものである。しかしながら、護岸用途のカゴ枠であるため、鉄イオンの供給によってカゴ枠の機械的強度が低下しないよう、鉄イオンの供給速度をある程度の速度以下に抑えなければならなかった。そのため、磯焼けを抑制するために十分な鉄イオンを供給できなかった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、鉄イオンをより多く供給することができる鉄イオン供給部材及び鉄イオン供給方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意検討し、従来全く着目されていなかった鋳鉄の黒鉛間の平均距離に着目した。
すなわち、鋳鉄から鉄が溶出するためには鉄と黒鉛が電気化学的に反応できることが重要である。本発明者は、一般的な鋳鉄であるネズミ鋳鉄は、層状の組織となっているため、鉄と黒鉛の距離が遠くなり両者の電気化学的反応が得られない部分が生じること、及び黒鉛を組織全体に分散させ、鉄と黒鉛が電気化学的に反応できる適度な黒鉛間距離を保つことが重要であることを見出した。そこで、本発明は、黒鉛間平均距離を100μm以下とすることにより、鉄と黒鉛粒子の電気化学的反応が組織全体にわたって得られることを見出し、完成されたものである。
【0009】
本発明によれば、炭素含有量が2.5%以上であって、かつ複数の黒鉛を有し、前記黒鉛の平均距離が100μm以下である含鉄材料を用いて形成された鉄イオン供給部材が提供される。
【0010】
本発明の鉄イオン供給部材は、炭素を2.5%以上含有し、黒鉛間平均距離が100μm以下である含鉄材料を用いて形成されたものである。すなわち、多量の炭素を含有することで鉄の溶出率を向上するとともに、黒鉛間平均距離を100μm以下とすることにより、鉄と黒鉛の電気化学的反応を組織全体にわたって得られるようになるため、鉄の溶出を促進しつつ安定して鉄を溶出できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鉄イオンをより多く供給することができる鉄イオン供給部材及び鉄イオン供給方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による鉄イオン供給部材の一例を示す模式図である。
【図2】本発明による鉄イオン供給部材の一例を示す模式図である。
【図3】本発明による鉄イオン供給部材の一例を示す模式図である。
【図4】本発明による鉄イオン供給部材の一例を示す模式図である。
【図5】JISG5502の黒鉛粒の形状分類図である。
【図6】球状黒鉛鋳鉄のナイタール腐食後の金属組織図の模式図である。
【図7】球状黒鉛鋳鉄のナイタール腐食後の金属組織図の模式図である。
【図8】高炭素鋳鉄のナイタール腐食後の金属組織図の模式図である。
【図9】本発明による鉄イオン供給方法の一例を示す模式図である。
【図10】本発明による鉄イオン供給方法の一例を示す模式図である。
【図11】従来技術による腐食減量と、本発明による腐食減量を示したグラフ図である。
【図12】実施例1のナイタール腐食後の金属組織を示す図である。
【図13】実施例2のナイタール腐食後の金属組織を示す図である。
【図14】実施例3のナイタール腐食後の金属組織を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0014】
[鉄イオン供給部材]
本発明の鉄イオン供給部材は、炭素含有量が2.5%以上であって、かつ複数の黒鉛を有し、黒鉛の平均距離が100μm以下である含鉄材料を用いて形成される。
【0015】
まず、本発明の鉄イオン供給部材の形状について説明する。
図1〜4は、本発明による鉄イオン供給部材の一例を示す模式図である。図1は鋳鉄管11、図2は球形状の鉄イオン供給部材12、図3は金網状の鉄イオン供給部材13、図4は異型鋳鉄管14にそれぞれ加工した例を示している。
【0016】
なお、鉄イオン供給部材の形状は、利用形態により様々に変えられ、上記に例示されたものに限定されない。例えば、漁礁への固定、土壌中への投入等、利用箇所や設置条件などにより、設計できる。
【0017】
次に、鉄イオン供給部材に用いられる含鉄材料について説明する。
含鉄材料の黒鉛の平均距離は、小さい方が良いが、0.3μm以上がより好ましい。なぜならば、鉄中に含有される炭素量は限られているので、一定の炭素量のもとでは平均距離を0.3μm以上にすることで含鉄材料のフェライトと黒鉛が適度に分散され、フェライト中の鉄と黒鉛の電気化学的反応が全体的に得られるようになる。その結果、鉄の溶出が増加し、安定的になる。また、黒鉛の平均距離は、100μm以下が好ましい。これにより、フェライト中の鉄と黒鉛の電気化学的反応を十分行わせることができ、鉄の溶出を促進できる。
【0018】
黒鉛の平均距離は、ナイタール腐食後の含鉄材材料の断面を顕微鏡を用いて観察し、5視野で観察された黒鉛について、隣接する黒鉛同士の距離を20箇所測定し、その平均値を算出することによって得られる。
【0019】
本発明の含鉄材料の炭素含有量は、2.5%以上である。これにより、黒鉛と鉄との電気化学的反応が行われ、鉄の溶出が促進できる。
【0020】
含鉄材料の黒鉛の粒径は、0.3μm以上、60μm以下が好ましい。これにより、含鉄材料全体に、鉄と黒鉛の間に適度な距離と黒鉛の適度の分散が得られる。その結果、黒鉛と鉄の電気的反応をしやすくし、鉄の溶出を促進できる。
【0021】
含鉄材料の黒鉛面積率は5%以上が好ましく、8%以上が更に好ましい。また黒鉛面積率は、50%以下が好ましく、40%以下が更に好ましい。これにより黒鉛と鉄の電気的反応を含鉄材料全体で行わせることができる。
【0022】
黒鉛面積率は、例えば、次のようにして算出される。
図5は、JISG5502の黒鉛粒の形状分類図である。図5に示すJISG5502(球状黒鉛鋳鉄品)の黒鉛粒の形状分類VI(ISO 945FIGURE1.による)の黒鉛の面積を測定して、黒鉛面積率を算出することができる。
【0023】
本発明で用いられる含鉄材料において、黒鉛は球状黒鉛であってもよく、また黒鉛は球状黒鉛が変形した片状の黒鉛であってもよい。これら球状黒鉛及び片状の黒鉛をともに含んでもよい。
【0024】
次に、本発明の効果について説明する。
本発明の鉄イオン供給部材は、炭素を2.5%以上含有し、黒鉛間平均距離が100μm以下である含鉄材料を用いて形成されたものである。すなわち、多量の炭素を含有することで鉄の溶出率を向上するとともに、黒鉛間平均距離を100μm以下とすることにより、鉄と黒鉛の電気化学的反応を組織全体にわたって得られるようになる。そこで、このような鉄イオン供給部材を水中に浸漬することにより、鉄の溶出を促進しつつ安定して鉄を溶出できる。
【0025】
なお、本発明で用いられる含鉄材料として球状黒鉛鋳鉄を用いた場合は、黒鉛が球状黒鉛であることにより、フェライト中の鉄と黒鉛の電気化学的反応を起こしやすく、そのため、鉄イオン供給部材の含鉄材料として、鉄イオン供給を向上させることができる。また、鋳鉄であるため、鋳型を用いることで鉄イオン供給部材を安価に大量生産することが可能となる。
【0026】
球状黒鉛鋳鉄の黒鉛球状化面積は、例えば、次のようにして算出される。
まず、黒鉛粒の形状分類は、図5のとおりとし、これに基づいて黒鉛粒を分類する。次に、分類された黒鉛粒について、顕微鏡の倍率100倍とし5視野について観察をおこない、黒鉛粒数を求める。このとき1mm(実際の寸法10μm)以下の黒鉛及び介在物は数に含めない。
黒鉛球状化面積は、全黒鉛粒数に対する、図5に示された形状V及びVIの黒鉛粒数の割合(%)として算出される。
【0027】
球状黒鉛鋳鉄の黒鉛の平均距離は、10μm以上100μm以下が好ましい。これにより、鉄と黒鉛との電気化学的反応が良好となり、鉄の溶出が促進できる。球状黒鉛鋳鉄の炭素含有量は、2.5〜4%である。球状黒鉛鋳鉄の黒鉛の粒径は、10〜60μmである。球状黒鉛鋳鉄の黒鉛の黒鉛面積率は、5〜15%である。
【0028】
ここで、球状黒鉛鋳鉄の金属組織図の一例について説明する。図6,7は、球状黒鉛鋳鉄のナイタール腐食後の金属組織を模式的に示す図である。
【0029】
図6において、球状黒鉛鋳鉄4は、黒鉛41の粒径が20〜30μmで、黒鉛の面積率は約11%である。残りの大部分はフェライト42で占められており、一部パーライト43が存在している。黒鉛間距離は、50〜100μmとなっている。図7において、球状黒鉛鋳鉄5は、黒鉛51の粒径が40〜60μmで、黒鉛の面積率は約10%である。残りの大部分はフェライト52で占められており、一部パーライト53が存在している。黒鉛間距離は、50〜100μmとなっている。
【0030】
また、本発明で用いられる含鉄材料としては、メカニカルアロイング(MA)法により作製した材料を用いることができる。
【0031】
一般の黒鉛鋳鉄では、炭素がフェライト中に約0.022%固溶し、固溶できなかった残部は炭化物として析出しており、オーステンパー処理や共析温度直下で再加熱処理によって、黒鉛の球状化処理が行われる。これらの場合、球状黒鉛鋳鉄の炭素含有量はあまり高くできない。これに対し、いわゆるMA法を用いた場合、黒鉛を添加しているため、高濃度の炭素を含有させることができる。そこで、このような高炭素濃度の鋳鉄(以下、高炭素鋳鉄)を用いることにより、鉄イオン供給部材による鉄イオンの供給を更に促進し、長期的に行えるようになる。
【0032】
高炭素鋳鉄は、フェライト粒の周囲を取り巻く形で成長した黒鉛とフェライト粒内に析出した0.3μm以上5μm以下の微細な粒径からなることを特徴としている。また、高炭素鋳鉄は製造過程で圧着又はショットピーニング加工を受ける場合は形が変形し、片状黒鉛となる場合がある。
【0033】
高炭素鋳鉄の炭素含有量は、例えば、5〜25%である。高炭素鋳鉄の黒鉛間平均距離は、0.3μm以上が好ましい。また黒鉛の平均距離は100μm以下が好ましく、より好ましくは50μm以下である。これにより、鉄と黒鉛との電気化学的反応が良好となり、鉄の溶出が促進できる。高炭素鋳鉄の黒鉛の粒径は、例えば、0.3〜10μmである。高炭素鋳鉄の黒鉛面積率は、フェライト粒の周囲を取り巻く形で成長した黒鉛も含めて、10〜50%である。
【0034】
高炭素鋳鉄の黒鉛面積率は、黒鉛の形態が球状化黒鉛の形態と異なるので、顕微鏡の倍率2000倍とし5視野について観察をおこない、フェライト粒の周囲を取り巻く形で成長した黒鉛と、黒鉛粒子または片平黒鉛として観察できる黒鉛の面積を観察し、黒鉛面積率を求める。
【0035】
次に、高炭素鋳鉄の製造方法の一例について、説明する。
まず、チップ状の鉄、例えば普通鋳鉄と黒鉛粉末を配合し、ミリング助剤を加え、メカニカルアロイング(MA)法によってMA粉末を作成する。続けて、得られたMA粉末に、バインダーを用いてホットプレスと焼結処理を行い、得られた焼結体をさらに加熱処理する。これにより、高炭素鋳鉄が得られる。
【0036】
ここで、高炭素鋳鉄の金属組織図の一例について説明する。図8(a)は、高炭素鋳鉄のナイタール腐食後の金属組織図の模式図、図8(b)は、その一部の拡大図である。
【0037】
図8(a)に示すような高炭素鋳鉄は、以下のようにして作製された。
まず、切削チップの普通鋳鉄FC300と天然黒鉛粉末を配合し、ステアリン酸のミリング助剤を加え、メカニカルアロイング(MA)法によってMA粉末得た。さらにポリプロピレンとパラフィンワックスのバインダーを用いてホットプレスと焼結処理を行った。ホットプレスは620℃で行い、さらに成型体を900℃で加熱処理を行った。これらの処理はすべてアルゴンガス雰囲気で行った。
【0038】
図8(b)には、図8(a)中の矢印で示された領域の拡大図が示され、フェライト62の周囲を黒鉛61が囲い、さらに析出した球状黒鉛63、及び球状黒鉛が変形した片状の黒鉛64が示されている。得られた高炭素鋳鉄の炭素含有量は、6.2〜22.8%となり、高炭素鋳鉄の黒鉛面積率は、10〜50%であった。
【0039】
[鉄イオン供給方法]
本発明の鉄イオン供給方法は、本発明の鉄イオン供給部材を水中に浸漬することにより行われる。
【0040】
水とは、海水および淡水であって、海水であるか淡水であるかを問わない。鉄イオン供給部材が利用される水域としては、例えば、海、沿岸、干潟、河川、湖沼などが挙げられる。
【0041】
図9,10は、本発明による鉄イオン供給方法の一例を示す模式図である。以下、図9,10それぞれについて説明する。
【0042】
(第1の供給方法)
図9に示すように、本発明の含鉄材料を球形状に加工した鉄イオン供給部材12を海水に浸漬する。これにより、鉄イオン供給部材12から鉄が溶出し、海水に二価の鉄イオンとして供給できるため、磯焼けが低減され藻31が生育できるようになる。
【0043】
したがって本発明の鉄イオン供給方法によれば、海水中に藻31が生育できるためアマモ場、アラメ・カジメ場、ガラモ場等の藻場が増大できる。そのため、これら生物により水質が浄化され、生物資源の豊富な海洋緑化が促進され、結果的に地球上のCO2削減につなげることができる。
【0044】
(第2の供給方法)
次に他の鉄イオン供給方法の一例について説明する。
図10に示すように、図3に示された鉄イオン供給部材13を2枚用いて腐食物を入れた袋21を挟み、留め具22によって固定し、これを海水に浸漬する。袋21には、フルボ酸等が溶出する腐食物を入れておく。
【0045】
ここで、フルボ酸は、含鉄材料の鉄をキレート化させ、フルボ酸鉄として生成させることができる。これにより、二価の鉄イオン供給が促進できる。また、フルボ酸鉄は、鉄よりも酸化され難いため、長期間に亘って二価の鉄イオンを供給できる。
【0046】
したがって、本発明の含鉄材料にフルボ酸を反応させることにより、鉄イオン供給部材13からの二価の鉄イオンの供給を促進しつつ、長期間に二価の鉄イオンを供給できる。
【0047】
なお、上記方法では、フルボ酸が入った袋21を鉄イオン供給部材13で挟む例について説明したが、フルボ酸を含鉄材料に予め混合させて加工した鉄イオン供給部材を用いてもよい。また、図1及び図4に示すような鋳鉄管11及び異型鋳鉄管14の中に腐食物を入れた袋等を設置してもよい。この場合も、同様の効果が得られる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0049】
[腐食減量の測定]
タテ5cm、ヨコ10cmの、SS400の鋼材、FCC200の片状鋳鉄、FCD420の球状黒鉛鋳鉄、炭素含有量11.6%の高炭素鋳鉄、炭素含有量22.8%の高炭素鋳鉄を、海水中で裏面シールした後、エアバブリングしながら20℃に192時間放置し、それぞれの腐食減量を測定した。その結果を図11に示す。
【0050】
図11より、FCD420の球状黒鉛鋳鉄、炭素含有量11.6%の高炭素鋳鉄、炭素含有量22.8%の高炭素鋳鉄では、高い腐食減量が得られることが分かった。
【0051】
(実施例1)
表1の実施例1に示す化学成分の鋳鉄を電気炉によって溶解し、黒鉛を球状化するための処理を行ない、金型による遠心鋳造をおこなって鋳鉄管を製造後、焼鈍し製造した。
得られた鋳鉄管のナイタール腐食後の金属組織を顕微鏡で観察した。その一例を図12に示す。観察により、黒鉛面積率と球状黒鉛の粒径を測定した。黒鉛間平均距離は、5視野で観察された黒鉛について、隣接する黒鉛同士の距離を20箇所測定し、その平均値を算出することによって求めた。
また、得られた鋳鉄管を、ヨコ5cm、タテ10cmを残しシール可能な大きさに切断後、裏面と端面をシールして、海水中でエアバブリングしながら20℃に192時間放置し、腐食減量を測定した。その結果を表1に示す。
【0052】
(実施例2)
表1の実施例2に示す化学成分の鋳鉄を電気炉によって溶解し、黒鉛を球状化するための処理を行い、SR遠心鋳造を行って鋳鉄管を製造後、焼鈍し製造した。
得られた鋳鉄管について実施例1と同様に実験を行った。その結果を図13、表1に示す。
【0053】
(実施例3)
表1の実施例3に示す化学成分の鋳鉄を電気炉によって溶解し、黒鉛を球状化するための処理を行い、砂型の鋳型に流し込み、鋳鉄管を製造した。
得られた鋳鉄管について実施例1と同様に実験を行った。その結果を図14、表1に示す。
【0054】
(実施例4)
切削チップの普通鋳鉄FC300(C量:3.6%)と天然黒鉛粉末を3%配合し、ステンレス鋼容器にステンレス鋼ボールとステアリン酸のミリング助剤を加え、メカニカルアロイング(MA)法によってMA粉末得た。さらにポリプロピレンとパラフィンワックスのバインダーを用いてホットプレスと焼結処理を行った。ホットプレスは620℃で行い、固化成型と脱バインダー処理をおこなった。さらに成型体を900℃で加熱処理を行い焼結した。これらの処理はすべてアルゴンガス雰囲気で行った。
得られた鋳鉄について、顕微鏡の倍率2000倍とし5視野について観察をおこない、フェライト粒の周囲を取り巻く形で成長した黒鉛と、黒鉛粒子または片平黒鉛として観察できる黒鉛の面積を観察し、黒鉛面積率を求めた。
黒鉛間平均距離は、顕微鏡の倍率3000倍とし、5視野で観察された黒鉛について、隣接する黒鉛同士の距離を20箇所測定し、その平均値を算出することによって求めた。
黒鉛の粒径及び腐食減量については、実施例1と同様に評価を行った。その結果を表1に示す。
【0055】
(実施例5)
実施例4の天然黒鉛粉末を「3%」を、5%とした以外は、実施例4と同様に鋳鉄を得た。
得られた鋳鉄について、実施例4と同様に評価を行った。その結果を表1に示す。
【0056】
(実施例6)
実施例4の天然黒鉛粉末を「3%」を、10%とした以外は、実施例4と同様に鋳鉄を得た。
得られた鋳鉄について、実施例4と同様に評価を行った。その結果を表1に示す。
【0057】
(比較例1)
市販のSS400を用いて、実施例1と同様に評価を行った。
【0058】
(比較例2)
市販のFCC200を用いて、実施例1と同様に評価を行った。
【0059】
【表1】
【0060】
表1中、鉄イオン溶出換算値は、測定された腐食減量を鉄イオン溶出量として読み替えた値である。
【0061】
表1より、実施例1〜6は、市販品を用いた比較例1、2よりも海水中での鉄イオン溶出量が優れたことがわかる。
【0062】
(実施例7)
40リットルの水槽4本にトリムイオン製の浄水器で製造した浄水をはり、オオカナダモを10g入れた。これらの各々の水槽に、実施例1で使用した球状黒鉛鋳鉄管を100gと市販の腐葉土50gを布製の袋に入れ水槽に入れ、日当たりの良い窓際において1ヶ月経過を見た。その結果を表2に示す。
【0063】
(実施例8)
実施例7の「球状黒鉛鋳鉄管を100gと市販の腐葉土50g」を、球状黒鉛鋳鉄管100gのみにした以外は、実施例7と同様に実験を行い評価した。その結果を表2に示す。
【0064】
(比較例3)
実施例7の「球状黒鉛鋳鉄管を100gと市販の腐葉土50g」を、市販の腐葉土50gのみにした以外は、実施例7と同様に実験を行い評価した。その結果を表2に示す。
【0065】
(比較例4)
実施例7の「球状黒鉛鋳鉄管を100gと市販の腐葉土50g」を用いず、浄水のみにした以外は、実施例7と同様に実験を行い評価した。その結果を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
表2中、オオカナダモの成長度について、◎は非常に良好な繁殖、○は良好な繁殖、△はわずかに繁殖、×は繁殖がほとんどみられない、ことをそれぞれ示している。
【0068】
実施例7はオオカナダモが非常に良好に繁殖しており、実施例8の腐葉土も良好な繁殖であった。浄水のみの比較例4は繁殖がほとんど認められなかった。
【符号の説明】
【0069】
4 球状黒鉛鋳鉄
5 球状黒鉛鋳鉄
11 鋳鉄管
12 鉄イオン供給部材
13 鉄イオン供給部材
14 異型鋳鉄管
21 袋
22 留め具
31 藻
41 黒鉛
42 フェライト
43 パーライト
51 黒鉛
52 フェライト
53 パーライト
61 黒鉛
62 フェライト
63 球状黒鉛
64 片状の黒鉛
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素含有量が2.5%以上であって、かつ複数の黒鉛を有し、前記黒鉛の平均距離が100μm以下である含鉄材料を用いて形成された鉄イオン供給部材。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄イオン供給部材において、
前記炭素含有量が25%以下であることを特徴とする鉄イオン供給部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鉄イオン供給部材において、
前記黒鉛は球状黒鉛であることを特徴とする鉄イオン供給部材。
【請求項4】
請求項1または2に記載の鉄イオン供給部材において、
前記黒鉛は球状黒鉛が変形した片状の黒鉛であることを特徴とする鉄イオン供給部材。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれかに記載の鉄イオン供給部材において、
前記黒鉛の面積率が5%以上50%以下であることを特徴とする鉄イオン供給部材。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかに記載された鉄イオン供給部材を水中に浸漬して鉄イオンを供給する鉄イオン供給方法。
【請求項1】
炭素含有量が2.5%以上であって、かつ複数の黒鉛を有し、前記黒鉛の平均距離が100μm以下である含鉄材料を用いて形成された鉄イオン供給部材。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄イオン供給部材において、
前記炭素含有量が25%以下であることを特徴とする鉄イオン供給部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鉄イオン供給部材において、
前記黒鉛は球状黒鉛であることを特徴とする鉄イオン供給部材。
【請求項4】
請求項1または2に記載の鉄イオン供給部材において、
前記黒鉛は球状黒鉛が変形した片状の黒鉛であることを特徴とする鉄イオン供給部材。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれかに記載の鉄イオン供給部材において、
前記黒鉛の面積率が5%以上50%以下であることを特徴とする鉄イオン供給部材。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかに記載された鉄イオン供給部材を水中に浸漬して鉄イオンを供給する鉄イオン供給方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−92082(P2011−92082A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248669(P2009−248669)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(391029392)中川特殊鋼株式会社 (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(391029392)中川特殊鋼株式会社 (9)
【Fターム(参考)】
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