説明

鉄筋コンクリート構造物に対する電気防食用陽極材の設置方法

【課題】
電気防食を施す鉄筋コンクリート構造物の鉄筋量に応じて陽極材を設置でき、コストの低減を図ることができる鉄筋コンクリート構造物に対する電気防食用陽極材の設置方法の提供の提供。
【解決手段】
細長帯状に形成された陽極材4,4を使用し、鉄筋コンクリート構造物1の鉄筋量に応じて各長溝3当たりの陽極材4の枚数を適宜選択しておき、各陽極材4,4を長溝3の深さ方向に対し帯状幅方向を向けるとともに互いに対向する重ね合わせ配置で長溝3内に挿入し、その後長溝3内にセメント系固化材からなる充填材5を充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気防食方法の一方式である線状陽極方式における鉄筋コンクリート構造物に対する電気防食用陽極の設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄筋コンクリート構造物に対する電気防食方法の一方式として線状陽極方式が知られている。
【0003】
線状陽極方式においては、コンクリート表面に一定の問隔を置いて複数の長溝を切削により形成し、その長溝内に陽極材を挿入して長溝底部に支持させた固定具等により仮固定した後、セメントモルタル等のセメント系固化材からなる充填材を溝内に充填することによりコンクリート内に電気防食用の陽極を埋設するとともに溝を修復する。
【0004】
この線状陽極方式に用いられる陽極は、網目状金属帯状材又は平板状金属板材をもって厚さ0.5〜1.3mm程度、幅12〜25mm程度の帯状に形成され、例えば図7に示す垂直設置方法又は図8に示す水平設置方法により設置されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0005】
垂直設置方法では、鉄筋コンクリート構造物10の表面に対し垂直方向に向けた幅4〜6mm、深さ20〜25mm程度のスリット状の長溝11をカッター等により切削して形成し、当該長溝11に陽極12を幅方向に向けて挿入した後、セメント系固化材からなる充填材13を充填するようになっている。
【0006】
一方、水平設置方法では、鉄筋コンクリート構造物10の表面に陽極材12の幅を考慮して間隔を置いてカッター等によりスリット状の溝を複数形成し、各溝間の部分をチッパー等によりハツリ取ることで幅13〜25mm程度、深さ10〜20mm程度の幅広凹溝状の長溝14を形成し、そこに溝底面と平行な配置に陽極材12を嵌め込んだ後、セメント系固化材13を充填するようになっている。
【0007】
尚、これらの陽極材の設置は、電気防食を施工する鉄筋コンクリート構造物の鉄筋量に応じてなされ、鉄筋量が多い場合には、陽極材の設置間隔を狭めて陽極数を増すか或いは面積の大きな陽極材を用いることで対応し、鉄筋量が少ない場合には、陽極材の設置間隔を広くとることで対応している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−371390号公報
【特許文献2】特開2002−371391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、電気防食を施す鉄筋コンクリート構造物の鉄筋量が多い場合には、陽極材の設置間隔を狭めて対応しようとすれば陽極材を設置するために多数の長溝を切削により形成しなければならず工数が増加しコスト高となるという問題がある。
【0010】
また、陽極材の面積を大きくすることで対応するとすれば、垂直設置方法では、スリット状の長溝を形成するのにある程度の深さを必要とするため、設置する鉄筋コンクリート構造物のコンクリートかぶりが小さいと設置することができない。また、水平設置方法による陽極材の設置では、垂直設置方法に比べて面積の大きな陽極材を設置することができるが、設置用の溝を形成するのに工数を多く要するためコストが高くなるという問題があった。
【0011】
一方、鉄筋コンクリート構造物は30mm程度のかぶりであることが多いが、この場合に好適な防食電流の分布を得るためには、陽極材の面積の大きさに関わらず各陽極材間の間隔は300mm程度以下とすることが望ましく、電気防食を施す鉄筋コンクリート構造物の鉄筋量が少ない場合、鉄筋量に対し過剰に陽極材を配置しなければならないという問題があった。
【0012】
本発明は、このような従来の問題に鑑み、電気防食を施す鉄筋コンクリート構造物の鉄筋量に応じて陽極材を設置でき、コストの低減を図ることができる鉄筋コンクリート構造物に対する電気防食用陽極材の設置方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載の発明の特徴は、鉄筋コンクリート構造物の表面に長溝を形成し、該長溝内に電気防食用陽極材を挿入した後、前記長溝内にセメント系固化材からなる充填材を充填することにより前記陽極材をコンクリート内に埋設する鉄筋コンクリート構造物に対する電気防食用陽極材の設置方法において、細長帯状に形成された陽極材を使用し、前記鉄筋コンクリート構造物の鉄筋量に応じて各長溝当たりの前記陽極材の枚数を適宜選択しておき、前記各陽極材をその帯状幅方向を前記長溝の深さ方向に向け、互いに帯状表裏側面が対向する重ね合わせ配置で前記長溝内に挿入し、その後前記長溝内にセメント系固化材からなる充填材を充填することにある。
【0014】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記陽極材を帯状厚み方向に起伏した部分を有する形状に形成しておき、重ね合わされた陽極材を帯状厚み方向で弾性的に圧縮可能とし、前記重ね合わされた陽極材を帯状厚み方向で弾性圧縮させた状態で前記長溝内に挿入し、所定の位置で外側に配置された前記陽極材を前記長溝の内側面に弾性的に当接させて前記重ね合わされた陽極材を前記長溝内に保持し、その状態で前記長溝内にセメント固化材からなる充填材を充填することにある。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る鉄筋コンクリート構造物に対する電気防食用陽極材の設置方法は、上述したように、鉄筋コンクリート構造物の表面に長溝を形成し、該長溝内に電気防食用陽極材を挿入した後、前記長溝内にセメント系固化材からなる充填材を充填することにより前記陽極材をコンクリート内に埋設する鉄筋コンクリート構造物に対する電気防食用陽極材の設置方法において、細長帯状に形成された陽極材を使用し、前記鉄筋コンクリート構造物の鉄筋量に応じて各長溝当たりの前記陽極材の枚数を適宜選択しておき、前記各陽極材をその帯状幅方向を前記長溝の深さ方向に向け、互いに帯状表裏側面が対向する重ね合わせ配置で前記長溝内に挿入し、その後前記長溝内にセメント系固化材からなる充填材を充填することにより、電気防食を施す鉄筋コンクリート構造物の鉄筋量に応じて必要な面積を有する陽極材を供給することができるとともに、陽極材埋設用の長溝の数を抑え、更に過剰な陽極材を排除することができコストを抑えることができる。
【0016】
また、本発明において、前記陽極材を帯状厚み方向に起伏した部分を有する形状に形成しておき、重ね合わされた陽極材を帯状厚み方向で弾性的に圧縮可能とし、前記重ね合わされた陽極材を帯状厚み方向で弾性圧縮させた状態で前記長溝内に挿入し、所定の位置で外側に配置された前記陽極材を前記長溝の内側面に弾性的に当接させて前記重ね合わされた陽極材を前記長溝内に保持し、その状態で前記長溝内にセメント固化材からなる充填材を充填することにより、鉄筋コンクリート構造物の鉄筋量に応じた陽極材量を確保するとともに、仮固定するための固定具を用いずとも陽極材を長溝内に保持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明方法により陽極材を設置した鉄筋コンクリート構造物の一例を示す断面図である。
【図2】(a)は図1中の陽極材を示す側面図、(b)はA−A線断面図である。
【図3】陽極材の仮固定の状態の概略を示す部分拡大断面図である。
【図4】本発明方法により陽極材を設置した鉄筋コンクリート構造物の他の一例を示す断面図である。
【図5】陽極材の仮固定の状態の概略の他の一例を示す部分拡大断面図である。
【図6】本発明方法により陽極材を設置した鉄筋コンクリート構造物の更に他の一例を示す断面図である。
【図7】従来の垂直設置方法による陽極材の設置状態を示す部分拡大断面図である。
【図8】従来の水平設置方法による陽極材の設置状態を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明に係る実施の態様を、図面に示した実施例に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本発明方法により電気防食用陽極材を設置し、非消耗線状陽極方式による電気防食が施された鉄筋コンクリート構造物の一例を示し、図中符号1は鉄筋コンクリート構造物、2は鉄筋である。
【0020】
この鉄筋コンクリート構造物1は、鉄筋量が多く、且つコンクリートかぶり、即ち鉄筋2とコンクリート表面との距離が比較的浅い構造となっている。
【0021】
鉄筋コンクリート構造物1の表面部には、鉄筋量に合わせて間隔を置いて平行配置又は格子状配置に複数の長溝3,3が形成され、該長溝3内に陽極材4,4を挿入させた状態でセメント固化材等からなる充填材5が充填されている。
【0022】
各長溝3は、深さ15〜20mmの下側が開口したスリットが奥行き方向で連続した形状に形成され、この長溝3内に複数(図中は2枚)の陽極材4,4がその帯状幅方向を溝深さ方向に向け、互いに帯状表裏側面を対向させた重ね合わせ配置に埋設されている。
【0023】
陽極材4は、図2に示すように、幅xを10mm程度、厚さを0.5〜1.3mmとするチタン等の不溶性金属材からなる網目状の細長帯状に形成され、幅xは、上述した従来の垂直設置方法又は水平設置方法で一般的に使用される陽極材より狭く形成されている。
【0024】
また、陽極材4は、帯状厚み方向に振幅方向を向け、且つ帯状長手方向に進行方向を向けた波形状又は弓なり状のように、帯状厚み方向に起伏した部分を有する形状に形成されている。
【0025】
重ね合わされた陽極材4,4は、図3に示すように、各帯状材が起伏した部分を有することにより、互いに当接する部分4aと、帯状厚み方向外側に膨らんだ部分4bとが形成されるとともに各陽極材4,4間に隙間6,6が生じ、外側から帯状厚み方向に力を加えると、この隙間6,6を狭めることにより帯状厚み方向で弾性的に圧縮され、力から解放されると弾性により元の形状に復帰するようになっている。
【0026】
この重ね合わされた陽極材4,4は、長溝3内に収容された状態において、互いに当接する部分4aを介して他方の陽極材4を溝内側面側に押し、それにより膨らんだ部分4bが弾性的に長溝3の内側面に当接するようになっている。
【0027】
このように一つの長溝3に対し、複数の陽極材4,4が埋設されたことにより、鉄筋量に応じて必要な陽極材の面積を確保できる一方、幅の狭い帯状材を使用することでかぶりが小さい構造物にも設置することができる。
【0028】
また、長溝3がスリット状であるので、上述の水平設置方法と比べて施工コストが抑えられる。
【0029】
一方、鉄筋コンクリート構造物の鉄筋量が少ない場合では、好適な防食電流の分布を得るために各陽極材間の距離を300mm程度以下とすることが望ましく、鉄筋間の距離が300mm程度以上離れていても各長溝の間隔は300mm程度を超えない幅で形成せざるを得ない。その場合には、図4に示すように構成してもよい。
【0030】
即ち、各長溝3内には、鉄筋2が配置されている箇所には複数枚の陽極材4,4をその帯状幅方向を溝深さ方向に向け、互いに帯状表裏側面を対向させた重ね合わせ配置に埋設し、その他の鉄筋が配置されていない箇所には、陽極材4を一枚だけ埋設するようにしてもよい。このようにすることにより、必要な箇所には、必要な表面積を確保した陽極材を供給することができ、そうでない箇所には陽極材を過剰に配置しないようにし、無駄を省くことができる。
【0031】
また、鉄筋2が配置されている箇所には、必要に応じて3枚以上の陽極材4,4を互いに帯状表裏側面を対向させた重ね合わせ配置で埋設するようにしてもよい。尚、長溝7の幅は、挿入される陽極材4,4の枚数により決定される。
【0032】
次に、上述の陽極材を使用した本発明方法について説明する。
【0033】
まず、電気防食処理を施す鉄筋コンクリート構造物の設計図等を参照し、該構造物内の鉄筋量を把握し、その鉄筋量より陽極材設置用の長溝の間隔及び必要な陽極材の大きさ、即ち長溝一列当たりの陽極材の枚数を決定する。
【0034】
次に、上記決定に基づき鉄筋コンクリート構造物1の表面に、陽極材設置用の長溝3,3を形成する。この長溝3の形成は、前述した従来技術と同様の方法によってカッター等により切削形成する。尚、長溝3の幅は挿入される陽極材4の枚数、即ち複数の陽極材4,4を重ね合わせた際の厚みにより決定する。
【0035】
次いで、この長溝3内に複数の陽極材4,4をその帯状幅法方向を長溝3の深さ方向に向け、互いに帯状表裏側面が対向する重ね合わせ配置で挿入する。
【0036】
このとき、陽極材4,4を帯状厚み方向に起伏した部分を有する形状に形成しておき、重ね合わされた陽極材4,4を帯状厚み方向で弾性圧縮可能とし、その重ね合わされた陽極材4,4は、帯状厚み方向で弾性圧縮された状態で挿入される。
【0037】
その後、所定の位置において各陽極材4の弾性により互いに対向する陽極材4を長溝の内側壁側に向けて押すことで、重ね合わされた陽極材4,4は、固定具等を用いなくとも長溝内に保持される。
【0038】
尚、一つの長溝内の複数の陽極材同士が接触しないように配置したい場合には、図5に示すごとく、両陽極材4,4間の間隔を保持するための絶縁材料からなるスペーサー8を両陽極材4,4間に挟み込むことによって対応することができる。この場合には、両陽極材4,4が直接接触しないため各陽極材4の表面積を有効に利用できる。
【0039】
そして、長溝の下側開口部を図示しない閉鎖部材等により閉鎖した後、長溝3の適宜位置に充填材注入パイプを連通させ、圧入用ポンプを使用して長溝3内へ無収縮モルタル、セメントミルク等のセメント系固化材からなる充填材5を注入する。
最後に、セメント系固化材からなる充填材5が固化した後、閉鎖部材等を除去して陽極材の埋設が完了する。
【0040】
尚、上述の実施例では、長溝が下向きに開口した例について説明したが、図6に示すように、長溝3,3は、鉄筋コンクリート構造物の側面に開口し、斜め下向きに向けて形成したものあってもよく、長溝は上向き、横向きに開口したものであってもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 鉄筋コンクリート構造物
2 鉄筋
3 長溝
4 陽極材
5 充填材
6 隙間
7 長溝
8 スペーサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物の表面に長溝を形成し、該長溝内に電気防食用陽極材を挿入した後、前記長溝内にセメント系固化材からなる充填材を充填することにより前記陽極材をコンクリート内に埋設する鉄筋コンクリート構造物に対する電気防食用陽極材の設置方法において、
細長帯状に形成された陽極材を使用し、前記鉄筋コンクリート構造物の鉄筋量に応じて各長溝当たりの前記陽極材の枚数を適宜選択しておき、前記各陽極材をその帯状幅方向を前記長溝の深さ方向に向け、互いに帯状表裏側面が対向する重ね合わせ配置で前記長溝内に挿入し、その後前記長溝内にセメント系固化材からなる充填材を充填することを特徴としてなる鉄筋コンクリート構造物に対する電気防食用陽極材の設置方法。
【請求項2】
前記陽極材を帯状厚み方向に起伏した部分を有する形状に形成しておき、重ね合わされた陽極材を帯状厚み方向で弾性的に圧縮可能とし、前記重ね合わされた陽極材を帯状厚み方向で弾性圧縮させた状態で前記長溝内に挿入し、所定の位置で外側に配置された前記陽極材を前記長溝の内側面に弾性的に当接させて前記重ね合わされた陽極材を前記長溝内に保持し、その状態で前記長溝内にセメント固化材からなる充填材を充填する請求項1に記載の鉄筋コンクリート構造物に対する電気防食用陽極材の設置方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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