説明

鉄道車両の遮熱カバー

【課題】床に対する遮熱効果を高めた鉄道車両の遮熱カバーを提供すること。
【解決手段】鉄道車両の車体床下に艤装された発熱機器を囲むようにして車体床下に取り付けられたものであって、発熱機器の少なくとも上方及びレール方向の前後両端部に遮熱板12が配置されたカバー部10Aと、鉄道車両の走行風が発熱機器に当たるように骨部材で形成され、走行風を上昇させる誘導部材15を発熱機器の下に備えた通風部10Bとを有する鉄道車両の遮熱カバー10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の床下に艤装された発熱機器による熱から床や電線、隣接する機器の損傷を防ぐための鉄道車両の遮熱カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両では、速度を減速させるためにエアブレーキによる機械的な方法の他、制動エネルギーを電気エネルギーに変換し、負荷の運動エネルギーを電源に回収する回生制動が利用されるものがある。その際、交流電動機がブレーキトルクを出力するようにインバータ装置を回生動作させ、インバータ装置が出力する回生電力を昇降圧チョッパ装置を介して蓄電装置あるいは、架線を介して電気的に接続された別の列車の動力として消費することで吸収する。しかしその際、回生電力を吸収しきれないときには、エネルギーが抵抗器を介して熱として放出される。
【0003】
抵抗器は500℃程度の発熱に耐え得るものであるが、そこで発生した高熱は空気を介して車体の床へと伝わるため、高熱から床を保護するための構造が必要になる。図5及び図6は、抵抗器の取付構造を示した図であり、図5はレール方向に見た図で、図6は図5の右側から枕木方向に見た側面図である。抵抗器81は、走行風を通すようにメッシュの筐体82内に収められ、その筐体82が車体の床下に吊設されている。床90の横梁91に吊金具85が固定され、その吊金具85に対し碍子86を介して筐体82が吊設され、更に床90と筐体82との間には吊金具85に無機系絶縁材料の遮熱板87が固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−048533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうした従来の取付構造では、回生制動時に抵抗器81が500℃程度にまで発熱するが、その熱は遮熱板87によって遮断されるため床90が直接受けることはない。しかし、それでも抵抗器81からの熱は空気を介して200℃程度で床90に伝わってしまうため、熱による床の損傷は避けられなかった。こうした熱による床の損傷は寿命を縮めるなど好ましくはないため、更に遮熱効果を高めることが必要であった。
【0006】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、床に対する遮熱効果を高めた鉄道車両の遮熱カバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る鉄道車両の遮熱カバーは、鉄道車両の車体床下に艤装された発熱機器を囲むようにして車体床下に取り付けられたものであって、前記発熱機器の少なくとも上方及びレール方向の前後両端部に遮熱板が配置されたカバー部と、前記鉄道車両の走行風が前記発熱機器に当たるように骨部材で形成され、走行風を上昇させる誘導部材を前記発熱機器の下に備えた通風部とを有するものであることを特徴とする。
また、本発明に係る鉄道車両の遮熱カバーは、前記誘導部材が板の上に起立板を備えたものであり、前記起立板は、枕木方向の幅がレール方向に従って徐々に狭くなるようにした流路部分を複数有し、その複数の流路部分は上から見て枕木方向に交互に逆転して配置されたものであることが好ましい。
また、本発明に係る鉄道車両の遮熱カバーは、前記起立板がノコ歯状に折り曲げられた板材であることが好ましい。
また、本発明に係る鉄道車両の遮熱カバーは、前記カバー部の上方及び側方に配置された遮熱板が隙間無く形成されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の鉄道車両の遮熱カバーによれば、抵抗器などの発熱機器から放出された熱が、その発熱機器を囲んだカバー部によって上方へ伝わり難く床の加熱が抑えられ、通風部では、走行する鉄道車両の走行風が発熱機器へ直接当たる他、誘導部材の起立板によって上昇した走行風も当たって冷却が行われ、床に対する遮熱効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】抵抗器の取付構造を示した図であり、実施形態の遮熱カバーをレール方向に見た断面図である。
【図2】抵抗器の取付構造を示した図であり、実施形態の遮熱カバーを枕木方向に見た側面図である。
【図3】実施形態の遮熱カバーを示した斜視図である。
【図4】誘導部材を構成する起立板の一部を拡大したものであって、走行風の流れを示した図である。
【図5】抵抗器の取付構造について従来例をレール方向で示した図である。
【図6】抵抗器の取付構造について従来例を枕木方向で示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明に係る鉄道車両の遮熱カバーについて、その実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。本実施形態も抵抗器81の取付構造について説明する。従って、従来のものと同じ構成については同じ符号を付して説明する。図1及び図2は抵抗器の取付構造を示した図であり、図1はレール方向に見た断面図で、図2は図1の右側から枕木方向に見た側面図である。取付構造を構成する遮熱カバー10は、抵抗器81からの熱を遮断する従来の遮熱板87に代わるものであり、無機系絶縁材料によって形成されている。
【0011】
抵抗器81は、走行風を通すようにメッシュの筐体82内に収められ、その筐体82が車体の床下に吊設されている。床90の横梁91に吊金具88が固定され、その吊金具88に対し碍子86を介して筐体82が吊設され、更に吊金具88には遮熱カバー10が固定されている。ここで、図3は遮熱カバー10を示した斜視図である。この遮熱カバー10は、抵抗器81を納めた筐体82を覆うことにより、熱の伝達を遮断するとともに下方から風を当て抵抗器81に対する空冷効果を高めるようにしたものである。
【0012】
遮熱カバー10は、骨組11に遮熱板12が張られたものであり、その遮熱板12が張られた骨組上部のカバー部10Aと、その下に骨組だけの通風部10Bとが構成されている。骨組11は、断面がL字形の部材が骨部材として使用され、カバー部10Aに張られた遮断板12は、上面板12aとレール方向の両端に位置する前後板12bと、図3には現れない枕木方向の車両中心側に位置する側面板12c(図1及び図2参照)とがある。なお、図面では詳しく示していないが、カバー部10Aと通風部10Bの各骨組は別体であって留め金によって一体にすることができるようになっている。
【0013】
遮熱カバー10に収められた抵抗器81は、図1に示すように枕木方向の車体の片側に配置されており、遮熱板12は、車体側面に近い側(図3の手前側)には側面板が存在せずに開放した開放側面部13が形成されている。このように、遮熱カバー10は、抵抗器81の入った筐体82を囲む遮熱板12によって熱の上昇を防止し、遮熱板の無い開放側面部13から熱を外へ逃がすことができるようになっている。
【0014】
また、遮熱カバー10は、通風部10Bには遮熱板12が存在しないため、走行風が抵抗器81に当たって空冷が行われるようになっている。ところが、この抵抗器81のレール方向前後には図示しないが、他の機器などが取り付けられており、走行風が十分には当たらないため空冷の効果が低い。このことは、本実施形態のように遮熱板12(特に前後板12b)が無い従来の取付構造であっても同様である。従って、遮熱板12は、従来のものと比べて空冷の効果を落とすわけではなく、隣接する機器や電線などへの熱の伝達を防止する点で有効である。この点、熱が開放側面部13以外に漏れないように、上面板12a、前後板12bおよび側面板12cが隙間無く構成されている。そして、本実施形態の遮熱カバー10には、抵抗器81に対する空冷効果を向上させるとともに、内部の熱が開放側面部13から放出されるように、走行風を下方から上方へと抵抗器81側へ導く誘導部材15が設けられている。
【0015】
誘導部材15は、遮熱カバー10の底部に枕木方向に沿って設けられた底板15aと、底板15aの上に枕木方向に沿って山部と谷部とが交互に複数形成されたノコ歯状の起立板15bとから構成されている。起立板15bは、図示するようにリボン状の板材がつづら折りにして形成されたものであり、これが底板15aの上に起立した状態で接合されている。そして、こうした誘導部材15は、レール方向に見て遮熱カバー10の中央付近に配置されている。
【0016】
誘導部材15の起立板15bは、鉄道車両の走行方向に関係なく同じように山部と谷部とが生じるように形成されている。これは図4に示すように、山部151から谷部152(走行方向が逆転すれば山部151から谷部152も逆転する)へと流路155の幅(枕木方向の寸法)が狭くなるようにしたものであり、谷部152へ向かって流れ込んだ走行風が所定の範囲で上向きになるようにしたものである。
【0017】
ところで誘導部材15は、水平に流れる走行風を上昇させて抵抗器81を冷却するよう構成されている。前述したように、発熱した抵抗器81を冷却するには水平方向の走行風だけでは十分ではなく、しかも鉄道車両が減速する短時間の間に発熱した抵抗器81を効率良く冷却する必要がある。それには、より効率的に走行風を当てることが望ましく、本実施形態は、上昇する走行風の流れを作りだすことにより、その目的を達成させるようにしたものである。特に誘導部材15は、流路155の幅が徐々に狭くなる形状にしたことで、行き場を失った走行風が段階的に上昇し、レール方向に見た所定距離の間で上昇風を作りだしている。
【0018】
この点、仮に一枚の平板をレール方向に直交して立てただけの起立板では抵抗が大き過ぎてしまい、走行風が誘導部材の下側へ逃げて流れてしまうことが予想される。それでは、抵抗器81に向けて走行風を当てることができず、希望する冷却効果が得られない。また、レール方向に傾斜した山形の起立板などでは、その起立板を走行風がスムーズに乗り越える流れだけで、抵抗器81に当たる上昇風を作りだすことができないと考えられる。
【0019】
そこで本実施形態の誘導部材15は、水平方向に流れる走行風を抵抗器81に当たる上昇風にし、且つレール方向(走行風の流れる方向)の広い範囲で抵抗器81に当たることで効率よく冷却できるように、起立板15bが形成されている。なお、加工の便宜から山部151と谷部152とを三角形状にしたが、湾曲した形状や台形形状で山部と谷部とを構成してもよい。また、起立板15bは底板15aに対して直交した形状であるが、山部や谷部を形成する壁を傾かせた形状のものも考えられる。
【0020】
そこで本実施形態の遮熱カバーでは、次のようにして床90に対する遮熱効果を高めることができる。走行中の鉄道車両が回生制動により減速する場合、吸収しきれない回生電力が抵抗器81を介して熱として放出される。その際、遮熱カバー10によれば、走行する鉄道車両の走行風により抵抗器81の冷却が行われるとともに、その抵抗器81から放出された高熱による床90の加熱が防止できる。また、上面板12a、前後板12bおよび側面板12cによって閉じられた遮熱板12によって、抵抗器81に隣接する機器や電線などへの熱による影響を防止できる。
【0021】
すなわち、遮熱カバー10は通風部10Bが開放されているため、走行風が当たって抵抗器81が冷却され、更に誘導部材15の起立板15bにより走行風が上昇し、下からも走行風が当たって抵抗器81が冷却される。その遮熱カバー10は、起立板15bが走行風の流れる方向に流路155の断面積が徐々に小さくなっているので、広い範囲で上昇風を作りだし、効率よく抵抗器81を冷却することができる。鉄道車両が停止する場合、完全に停止するまでの間に如何に多くの走行風を抵抗器81に当てて冷却できるかが重要である。その点、本実施形態では下からも走行風を当てる構成であるため冷却効果は高い。また、誘導部材15がレール方向に見て遮熱カバー10の中央付近に配置されているため、走行風が通常では当たり難い抵抗器81の後方側にも当てることができるため、その点で冷却効率をより高めることができる。
【0022】
また、抵抗器81から発せられた高熱は上方の床90に向かって伝わるが、本実施形態では、抵抗器81を囲んだ遮熱板12によって上方へは伝わり難く、床90の加熱が抑えられる。その際、カバー部10A内に高熱が滞留するが、前述したように誘導部材15によって下から走行風が送り込まれるため、滞留した高熱は開放側面部13から外へと送り出される。そして、開放側面部13は車体側面に面しているため、送り出された熱は走行風に流され、床90への影響は小さく抑えられる。また、鉄道車両が停止した状態では、走行風による冷却効果などは得られないが、遮熱板12が抵抗器81を囲んでいることにより床90や隣接する機器、電線などへの熱の伝達が抑えられる。
【0023】
以上、本発明に係る鉄道車両の遮熱カバーについて実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、誘導部材15は、前述したように起立板15bの形状以外でも同様に効果を得ることができ、実施形態では誘導部材15をレール方向の中央に一つを配置した構成としたが、複数設けたり、寸法をレール方向に長いものとしたものであってもよい。
前記実施形態では抵抗器81を発熱機器の例として説明したが、その外にも例えば、半導体によって直流から交流に電力を変換するコンバーター装置、トランス・コイル(リアクトル)、蓄電池、キャパシタ、ディーゼルエンジンなどの内燃機関、発電機、液体変速機(トルクコンバーター)、排気管、消音器、放熱器が挙げられる。
また、前記実施形態では遮熱板12が、上面板12a、前後板12bおよび側面板12cによって構成されたもの示したが、例えば抵抗器が車体の全幅に配置されるものでは、枕木方向両側を開放側面にしてもよいため、その場合には上面板と前後板だけを配した構成になる。
【符号の説明】
【0024】
10 遮熱カバー
10A カバー部
10B 通風部
11 骨組
12 遮熱板
15 誘導部材
81 抵抗器
82 筐体
90 床

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車体床下に艤装された発熱機器を囲むようにして車体床下に取り付けられた鉄道車両の遮熱カバーにおいて、
前記発熱機器の少なくとも上方及びレール方向の前後両端部に遮熱板が配置されたカバー部と、
前記鉄道車両の走行風が前記発熱機器に当たるように骨部材で形成され、走行風を上昇させる誘導部材を前記発熱機器の下に備えた通風部とを有するものであることを特徴とする鉄道車両の遮熱カバー。
【請求項2】
請求項1に記載する鉄道車両の遮熱カバーにおいて、
前記誘導部材は、板の上に起立板を備えたものであり、前記起立板は、枕木方向の幅がレール方向に従って徐々に狭くなるようにした流路部分を複数有し、その複数の流路部分は上から見て枕木方向に交互に逆転して配置されたものであることを特徴とする鉄道車両の遮熱カバー。
【請求項3】
請求項2に記載する鉄道車両の遮熱カバーにおいて、
前記起立板は、ノコ歯状に折り曲げられた板材であることを特徴とする鉄道車両の遮熱カバー。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載する鉄道車両の遮熱カバーにおいて、
前記カバー部は、上方及び側方に配置された遮熱板が隙間無く形成されたものであることを特徴とする鉄道車両の遮熱カバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−166693(P2012−166693A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29456(P2011−29456)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)