説明

鉄道車両構体

【課題】吹寄パネルの歪みを抑制することにより、鉄道車両の美観を向上させること。
【解決手段】側構体4を備える鉄道車両構体1であって、側構体4は、当該鉄道車両構体1の第1の台車5Aの中心位置を挟んで配置された第1の吹寄パネル16a及び第2の吹寄パネル16bを含み、第1の吹寄パネル16a及び第2の吹寄パネル16bの一面側には、第1の吹寄パネル16a及び第2の吹寄パネル16bの対角線に平行な溶融凝固部Mが、それぞれ形成されている。第1の吹寄パネル16aの一面側に形成された溶融凝固部Mと、第2の吹寄パネル16bの一面側に形成された溶融凝固部Mとは、上方に向けて凸となるV字を画成していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両構体に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両において、例えば一対の台車が車両の前部及び後部にそれぞれ連結されている場合、前部の台車と後部の台車との間の車両の中間部が下方へ撓み、前部の台車よりも外側の車両の端部及び後部の台車よりも外側の車両の端部が上方へ撓む傾向がある。例えば下記非特許文献1には、台車の中心位置で単純支持された前後対称な4ドア鉄道車両に等分布荷重を負荷した場合におけるせん断力の向きが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】東急車輛技報 第54号、"曲げ剛性とせん断剛性を考慮した鉄道車両の振動解析"、2004年12月、第2頁〜第9頁。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1によれば、台車の中心位置を挟んだ鉄道車両構体における前後の部分では、互いに逆向きのせん断力が生じる。このせん断力に起因して、特に、台車の中心位置を挟んで前後に配置された2つの吹寄パネルには、上方に向けて凸となるV字を画成するように、当該吹寄パネルの対角線に平行な歪みがそれぞれ生じる場合がある。
【0005】
また、非特許文献1によれば、鉄道車両構体には、前部の台車と後部の台車との間の中間部を挟んで互いに逆向きのせん断力が生じる。このせん断力に起因して、前部の台車と後部の台車との間の中間部を挟んで前後に配置された2つの吹寄パネルには、下方に向けて凸となるV字を画成するように、当該吹寄パネルの対角線に平行な歪みがそれぞれ生じる場合がある。
【0006】
これらの吹寄パネルは、乗客の目線と同等の高さに配置されることが多く、吹寄パネルに歪みが生じると、鉄道車両の美観に大きく影響を与えるという問題があった。したがって、このような吹寄パネルの歪みを抑えて鉄道車両の美観を向上させる技術が求められている。
【0007】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、吹寄パネルの歪みを抑制することにより、鉄道車両の美観を向上させることができる鉄道車両構体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するため、本発明の鉄道車両構体は側構体を備え、側構体は、鉄道車両構体の第1の台車の中心位置を挟んで配置された第1の吹寄パネル及び第2の吹寄パネルを含む。第1の吹寄パネルの一面側及び第2の吹寄パネルの一面側には、第1の吹寄パネル及び第2の吹寄パネルの対角線に平行な溶融凝固部がそれぞれ形成されている。第1の吹寄パネルの一面側に形成された溶融凝固部と、第2の吹寄パネルの一面側に形成された溶融凝固部とは、上方に向けて凸となるV字を画成していることを特徴とする。
【0009】
本発明の鉄道車両構体では、第1の吹寄パネルの一面側に形成された溶融凝固部と、第2の吹寄パネルの一面側に形成された溶融凝固部とが、上方に向けて凸となるV字を画成している。このような溶融凝固部が第1の吹寄パネル及び第2の吹寄パネルに予め形成されていることにより、第1の吹寄パネルの一面側及び第2の吹寄パネルの一面側において、せん断力に起因して当該対角線に平行に生じる凸状の歪みを打ち消すことができる。したがって、この鉄道車両構体では、吹寄パネルを平坦な状態に保つことができ、鉄道車両の美観を向上させることができる。
【0010】
また、第1の吹寄パネルの他面側及び第2の吹寄パネルの他面側には、該第1の吹寄パネル及び該第2の吹寄パネルの対角線に平行な溶融凝固部がそれぞれ形成されており、第1の吹寄パネルの他面側に形成された溶融凝固部と、第2の吹寄パネルの他面側に形成された溶融凝固部とは、上方に向けて凸となるV字を画成していることが好ましい。
【0011】
この鉄道車両構体では、第1の吹寄パネルの他面側に形成された溶融凝固部と、第2の吹寄パネルの他面側に形成された溶融凝固部とが、上方に向けて凸となるV字を画成している。このような溶融凝固部が第1の吹寄パネル及び第2の吹寄パネルに予め形成されていることにより、第1の吹寄パネルの他面側及び第2の吹寄パネルの他面側において、せん断力に起因して当該対角線に平行に生じる凸状の歪みを打ち消すことができる。したがって、この鉄道車両構体では、吹寄パネルを平坦な状態に保つことができ、鉄道車両の美観を向上させることができる。
【0012】
また、第1の吹寄パネルの一面側に形成された溶融凝固部と、第1の吹寄パネルの他面側に形成された溶融凝固部とは、側構体の側面側から見て、互いに間隔をおいて配置されており、第2の吹寄パネルの一面側に形成された溶融凝固部と、第2の吹寄パネルの他面側に形成された溶融凝固部とは、側構体の側面側から見て、互いに間隔をおいて配置されていることが好ましい。
【0013】
第1の吹寄パネルの両面側及び第2の吹寄パネルの両面側では、側構体の側面側から見て、歪みが互いに間隔をおいて生じる。このため、第1の吹寄パネルの両面側及び第2の吹寄パネルの両面側において、側構体の側面側から見て、溶融凝固部が互いに間隔をおいて配置されていることにより、第1の吹寄パネルの両面側及び第2の吹寄パネルの両面側に生じる歪みをより好適に抑制できる。したがって、鉄道車両の美観をより一層向上させることができる。
【0014】
また、側構体は、鉄道車両構体の第1の台車の中心位置と、鉄道車両構体の第2の台車の中心位置との中間位置を挟んで配置された第3の吹寄パネル及び第4の吹寄パネルを更に含み、第3の吹寄パネルの一面側及び第4の吹寄パネルの一面側には、第3の吹寄パネル及び第4の吹寄パネルの対角線に平行な溶融凝固部がそれぞれ形成されており、第3の吹寄パネルの一面側に形成された溶融凝固部と、第4の吹寄パネルの一面側に形成された溶融凝固部とは、下方に向けて凸となるV字を画成していることが好ましい。
【0015】
この鉄道車両構体では、第3の吹寄パネルの一面側に形成された溶融凝固部と、第4の吹寄パネルの一面側に形成された溶融凝固部とが、下方に向けて凸となるV字を画成している。このような溶融凝固部が第3の吹寄パネル及び第4の吹寄パネルに予め形成されていることにより、第3の吹寄パネルの一面側及び第4の吹寄パネルの一面側において、せん断力に起因して当該対角線に平行に生じる凸状の歪みを打ち消すことができる。したがって、この鉄道車両構体では、吹寄パネルを平坦な状態に保つことができ、鉄道車両の美観を向上させることができる。
【0016】
また、第3の吹寄パネルの他面側及び第4の吹寄パネルの他面側には、該第3の吹寄パネル及び該第4の吹寄パネルの対角線に平行な溶融凝固部がそれぞれ形成されており、第3の吹寄パネルの他面側に形成された溶融凝固部と、第4の吹寄パネルの他面側に形成された溶融凝固部とは、下方に向けて凸となるV字を画成していることが好ましい。
【0017】
この鉄道車両構体では、第3の吹寄パネルの他面側に形成された溶融凝固部と、第4の吹寄パネルの他面側に形成された溶融凝固部とが、上方に向けて凸となるV字を画成している。このような溶融凝固部が第3の吹寄パネル及び第4の吹寄パネルに予め形成されていることにより、第3の吹寄パネルの他面側及び第4の吹寄パネルの他面側において、せん断力に起因して当該対角線に平行に生じる凸状の歪みを打ち消すことができる。したがって、この鉄道車両構体では、吹寄パネルを平坦な状態に保つことができ、鉄道車両の美観を向上させることができる。
【0018】
また、第3の吹寄パネルの一面側に形成された溶融凝固部と、第3の吹寄パネルの他面側に形成された溶融凝固部とは、側構体の側面側から見て、互いに間隔をおいて配置されており、第4の吹寄パネルの一面側に形成された溶融凝固部と、第4の吹寄パネルの他面側に形成された溶融凝固部とは、側構体の側面側から見て、互いに間隔をおいて配置されていることが好ましい。
【0019】
第3の吹寄パネルの両面側及び第4の吹寄パネルの両面側では、側構体の側面側から見て、歪みが互いに間隔をおいて生じる。このため、第3の吹寄パネルの両面側及び第4の吹寄パネルの両面側において、側構体の側面側から見て、溶融凝固部が互いに間隔をおいて配置されていることにより、第3の吹寄パネルの両面側及び第4の吹寄パネルの両面側に生じる歪みをより好適に抑制できる。したがって、鉄道車両の美観をより一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、吹寄パネルの歪みを抑制することにより、鉄道車両の美観を向上させることができる鉄道車両構体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る鉄道車両構体を示す斜視図である。
【図2】図2(a)は、側構体を構成する吹寄パネルを示す模式図である。図2(b)は、図2(a)のIIB−IIB線に沿った断面図である。
【図3】図3(a)は、鉄道車両構体を示す模式図である。図3(b)は、モデル化した鉄道車両構体を示す模式図である。図3(c)は、鉄道車両が撓んだ状態を示す模式図である。
【図4】図4(a)は、図3(c)に示す部分F(吹寄パネル)の拡大図である。図4(b)は、部分Fに生じる歪みを示す模式図である。図4(c)は、図4(b)のIVC−IVC線に沿った断面図である。図4(d)は、溶融凝固部の形成によって吹寄パネルに生じる歪みが抑制された状態を示す断面図である。
【図5】図5は、鉄道車両構体の吹寄パネルに生じる歪みを示す斜視図である。
【図6】図6は、図5に示す部分P1の吹寄パネルに生じる歪みを示す模式図である。
【図7】図7は、図5に示す部分P2の吹寄パネルに生じる歪みを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る鉄道車両構体の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0023】
図1は、本実施形態に係る鉄道車両構体を示す斜視図である。図1に示すように、鉄道車両構体1は、床構体2と、一対の側構体4、4と、一対の妻構体6、6と、屋根構体8とを備え、これらの各構体が相互に接合されることにより、乗客を収容する空間を内部に有する箱型形状をなしている。鉄道車両構体1の床構体2には、鉄道車両構体1を支持する一対の台車5A、5Bが連結されている。
【0024】
床構体2は、車両の床部を構成する構体として鉄道車両構体1の底部に配置されている。側構体4及び妻構体6は、車両の側部を構成する構体として、床構体2の左右の縁部及び前後の縁部にそれぞれ配置されている。屋根構体8は、車両の屋根部を構成する構体として鉄道車両構体1の上部に配置されている。屋根構体8には、車内の温度を調整するためのエアコンディショナー9や、パンタグラフ(図示しない)などが取り付けられている。
【0025】
図1に示す例では、鉄道車両構体1は、台車5Aの中心位置C1と、台車5Bの中心位置C2との中間位置Cに対して前後対称な4ドア鉄道車両である。よって、側構体4は、中間位置Cに対して前後対称の構成となっている。中間位置Cよりも一方の妻構体6側に位置する側構体4の一部分は、台車5Aの中心位置を境界として、第1領域Z1又は第2領域Z2に属している。同様に、中間位置Cよりも他方の妻構体6側に位置する側構体4の一部分は、台車5Bの中心位置を境界として、第3領域Z3又は第4領域Z4に属している。
【0026】
側構体4は、複数のドアユニット10及び複数の窓ユニット12を備えると共に、ドアユニット10を境界として複数のブロック4A〜4Eに分割され、各ブロック4A〜4Eと各ドアユニット10とを交互に接合して構成されている。各ブロック4A〜4Eは、それぞれ略同等の構成を有しており、腰パネル14と、2つの吹寄パネル16(16a、16b)と、幕パネル18と、窓ユニット12とによって構成されている。2つの吹寄パネル16a、16bの間には、窓ユニット12が配置されている。また、ドアユニット10の上部にはドア上パネル20が設けられている。
【0027】
腰パネル14は、窓ユニット12の下縁部よりも下側に位置し、床構体2と接合されるパネルである。吹寄パネル16は、ドアユニット10と窓ユニット12との間、及び妻構体6と窓ユニット12との間に位置するパネルである。幕パネル18は、窓ユニット12の上縁部よりも上側に位置し、屋根構体8と接合されるパネルである。ドア上パネル20は、ドアユニット10の上縁部よりも上側に位置し、屋根構体8と接合されるパネルである。なお、吹寄パネル16は、側構体4の種類によっては、窓ユニット12と窓ユニット12の間を繋ぐように設けられる場合もある。
【0028】
次に、腰パネル14、吹寄パネル16、及び幕パネル18について説明する。各パネル14,16,18には、外板パネルが用いられている。
【0029】
腰パネル14には、車両の表側に配置される腰板(外板)と、腰板の裏側に配置される複数の骨部材(補強部材)とによって構成された外板パネルが用いられている。腰板は、例えばステンレス鋼板SUS301Lによって矩形状に形成され、長さは約3.6m、高さは約1.1mとなっている。また、腰板の厚さは約2mmとなっている。また、骨部材は、腰板と同じくステンレス鋼板SUS301Lによって形成されている。骨部材には、例えば断面凸状の本体部と、本体部の両縁部から側方に突出する平坦なフランジ部とによって、断面ハット形状の部材を用いることができる。骨部材の厚さは約1mm、高さは約20mm、長さは約3.2mとすることができる。
【0030】
腰パネル14と同様に、吹寄パネル16を構成する外板パネルは、車両の表側に配置される吹寄板(外板)と、吹寄板の裏側に配置される複数の骨部材(補強部材)とによって構成されており、幕パネル18を構成する外板パネルについても、車両の表側に配置される幕板(外板)と、腰板の裏側に配置される複数の骨部材(補強部材)とによって構成されている。これら吹寄板、幕板、及び骨部材は、例えばステンレス鋼板SUS301Lによって形成されている。
【0031】
図1に示すように、各吹寄パネル16を構成する吹寄板は矩形状をなしている。この吹寄板は、例えば縦の長さ1.2m、横の長さ0.7m、厚さ1.5mmとなっている。吹寄パネル16には、線状の溶融凝固部Mが、吹寄パネル16を構成する吹寄板の対角線に平行に形成されている。溶融凝固部Mは、吹寄パネル16を構成する吹寄板の例えば表側に形成された表側溶融凝固部M1である。溶融凝固部Mは、例えばレーザによって形成されている。
【0032】
図2(a)は、吹寄パネル16を示す模式図である。この例では、吹寄パネル16の表側において、複数の表側溶融凝固部M1が互いに所定の間隔を置いて形成されている。表側溶融凝固部M1の線幅L1は、例えば1mm〜2mmである。
【0033】
図2(b)は、図2(a)のIIB−IIB線に沿った断面図である。表側溶融凝固部M1は、吹寄パネル16を構成する吹寄板の表側161から吹寄パネル16を構成する吹寄板の厚み未満の深さまで形成されている。すなわち、溶融凝固部Mは、吹寄パネル16を構成する吹寄板を貫通していない。表側溶融凝固部M1の深さD1は、例えば0.5mm〜0.667mmである。
【0034】
続いて、吹寄パネル16を備える鉄道車両構体1の製造方法の一例について説明する。まず、吹寄パネル16を構成する吹寄板(外板)に、溶融凝固部Mを吹寄板の対角線に沿うよう形成する。溶融凝固部Mは、吹寄パネル16を構成する吹寄板の一面側(例えば表側161)からレーザを加熱照射することにより形成できる。この際、レーザは例えばCWの線状レーザとすることができ、レーザ出力は例えば3.5kw、レーザの走査速度は例えば5m/分とすることができる。なお、アシストガスとしてArを用い、レーザ照射部に30リットル/分の流量で供給するとよい。このような形成条件において、例えば板厚1.5mmの吹寄板に深さ0.5mm〜0.667mmの溶融凝固部Mを形成することで、レーザ照射による折れ線が現れないようにすることができる。
【0035】
必要に応じて、溶融凝固部Mの形成の後に、吹寄板の他面側(例えば裏側162)が上側を向くように吹寄板を載置し、所定の本数の骨部材(補強部材)を吹寄板上に配列する。次に、吹寄板と骨部材とを例えば溶接により接合し、吹寄パネル16を得る。その後、溶融凝固部Mが形成された吹寄パネル16を、側構体4を構成する他の部材、すなわち腰パネル14、幕パネル18、窓ユニット12、及びドアユニット10などに接合する。そして、側構体4を、他の構体、すなわち床構体2、妻構体6、及び屋根構体8に接合する。
【0036】
以下に、本発明の鉄道車両構体1の効果について説明する。まず、図3(a)に示すように、一対の台車5A、5Bが連結された鉄道車両構体1を想定する。この台車5A、5Bの中心位置を図3(b)に示すような三角形の支点5a、5bとしてモデル化し、鉄道車両構体1に矢印Qの向きに等分布荷重がかかるとする。この場合、図3(c)に示すように、鉄道車両構体1の中間部分が地面側に撓むこととなる。
【0037】
このような撓み状態において、図3(c)に示す鉄道車両構体1の第2領域Z2に位置する部分Fである吹寄パネル16の拡大図を図4(a)に示す。鉄道車両構体1の撓みによって、部分F(吹寄パネル16)の左側には上向きのせん断力Q1がかかる一方、部分Fの右側には下向きのせん断力Q2がかかる。このため、吹寄パネル16を構成する吹寄板には、図4(b)に示すように、吹寄パネル16の対角線に平行に略線状の歪み(しわ)Sが生じる。図4(c)に、図4(b)のIVC−IVC線に沿った断面図を示す。歪みSは、吹寄パネル16を構成する吹寄板の表側に生じる凸部S1と、吹寄パネル16を構成する吹寄板の裏側に生じる凸部S2とから構成された断面波状の歪みとなっている。
【0038】
このような歪みSを抑制するために、図4(d)に示すような溶融凝固部Mが吹寄パネル16を構成する吹寄板に形成されている。具体的に、本実施形態の鉄道車両構体1では、第1の台車(例えば台車5A)の中心位置(C1)を挟んで配置された第1の吹寄パネル(例えばブロック4Aの吹寄パネル16a)及び第2の吹寄パネル(例えばブロック4Bの吹寄パネル16b)において、第1の吹寄パネルの一面側(例えば表側161)には、第1の吹寄パネルの対角線に平行な溶融凝固部M(M1)が形成されており、第2の吹寄パネルの一面側には、第2の吹寄パネルの対角線に平行な溶融凝固部M(M1)が形成されている。第1の吹寄パネルの一面側に形成された溶融凝固部M(M1)と、第2の吹寄パネルの一面側に形成された溶融凝固部M(M1)とは、上方に向けて凸となるV字を画成している。このような溶融凝固部M(M1)が第1の吹寄パネル及び第2の吹寄パネルに予め形成されていることにより、第1の吹寄パネルの一面側及び第2の吹寄パネルの一面側において、せん断力に起因して当該対角線に平行に生じる凸状の歪みS(S1)あるいは曲げモーメントWを打ち消すことができる。したがって、この鉄道車両構体1では、第1の吹寄パネル及び第2の吹寄パネルを平坦な状態に保つことができ、鉄道車両の美観を向上させることができる。
【0039】
なお、上記では鉄道車両構体1をモデル化して説明したが、吹寄パネル16にかかるせん断力は、鉄道車両の長手方向位置によって、さらには車両床下に装備される種々の機器の重量によって、厳密には変化する。しかし、基本的には上記モデルによるせん断力の向きとしてよく、吹寄パネル16を構成する吹寄板の対角線に平行に溶融凝固部Mを形成することにより、吹寄パネル16を構成する吹寄板に生じる歪みSの低減を図ることが十分可能である。また、吹寄パネル16を構成する吹寄板の寸法は、鉄道車両の部位に関わらず基本的に同一である。よって、溶融凝固部Mの形成方向を吹寄パネルを構成する吹寄板の対角線方向に統一することにより、部材を共通化できるメリットもある。また、吹寄パネルに溶融凝固部Mを形成したことによる折れ線(歪み)は、吹寄パネルにはほとんど現れない。さらに、溶融凝固部Mの形成によるレーザの焼け跡は、例えば電解研磨処理により除去することができる。
【0040】
以下、溶融凝固部M(表側溶融凝固部M1)の好適な延在方向について補足する。まず、図4(b)〜図4(d)を用いて説明したように、鉄道車両構体1には、せん断力に起因する歪みSが生じる。より具体的には、図5に示すように、鉄道車両構体1の各吹寄パネル16を構成する吹寄板には、側構体4の各領域(第1領域Z1〜第4領域Z4)の位置に応じた向きの対角線に沿って歪みSが生じる。ここで、第1領域Z1及び第3領域Z3に配置される吹寄パネル16に生じる歪みSの向きは、第2領域Z2及び第4領域Z4に配置される吹寄パネル16に生じる歪みSの向きと反対となる。これらの歪みSを抑制するために、図1に示すように、溶融凝固部Mは、各領域Z1〜Z4の位置に生じる歪みSの向きに応じた向きの対角線に沿うよう形成されている。
【0041】
より具体的に説明すると、図5に示すように、第1領域Z1及び第3領域Z3における吹寄パネル16の表側161には、右上角部から左下角部まで延びる向きの対角線に平行に歪みS1が生じる。具体例として、第3領域Z3の部分P1の吹寄パネルに相当する実際の吹寄パネルの表側に生じた歪みS1を図6に示す。この歪みS1を抑制するために、第1領域Z1及び第3領域Z3における吹寄パネル16を構成する吹寄板の表側161には、右上角部から左下角部まで延びる向きの対角線に平行に表側溶融凝固部M1が形成されている。
【0042】
同様に、図5に示すように、第2領域Z2及び第4領域Z4における吹寄パネル16の表側161には、左上角部から右下角部まで延びる向きの対角線に平行に歪みS1が生じる。具体例として、第2領域Z2の部分P2の吹寄パネルに相当する実際の吹寄パネルの表側に生じた歪みS1を図7に示す。この歪みS1を抑制するために、第2領域Z2及び第4領域Z4における吹寄パネル16を構成する吹寄板の表側161には、左上角部から右下角部まで延びる向きの対角線に平行に表側溶融凝固部M1が形成されている。
【0043】
以上、好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではない。例えば、溶融凝固部Mは線状に限らず、例えばスポット状でもよく、この場合、パルス状レーザを用いて溶融凝固部を形成することができる。また、1枚の吹寄パネル16に形成される溶融凝固部Mの数は特に限定されず、概ね5本までの奇数が最適であるが、吹寄パネル16の大きさや形状によっては、7本以上でもよい。また、溶融凝固部Mは、吹寄パネル16を構成する吹寄板の必ずしも表側161に形成されている必要は無く、表側161及び裏側162の少なくも一方に形成されていればよい。
【0044】
つまり、第1の吹寄パネル(例えばブロック4Aの吹寄パネル16a)の他面側(例えば裏側162)及び第2の吹寄パネル(例えばブロック4Bの吹寄パネル16b)の他面側(例えば裏側162)には、該第1の吹寄パネル及び該第2の吹寄パネルの対角線に平行な溶融凝固部M(M2)がそれぞれ形成されており、第1の吹寄パネルの他面側に形成された溶融凝固部M(M2)と、第2の吹寄パネルの他面側に形成された溶融凝固部M2とが、上方に向けて凸となるV字を画成していることが好ましい。このような溶融凝固部M(M2)が第1の吹寄パネル及び第2の吹寄パネルに予め形成されていることにより、第1の吹寄パネルの他面側及び第2の吹寄パネルの他面側において、せん断力に起因して当該対角線に平行に生じる凸状の歪みあるいは曲げモーメントWを打ち消すことができる。したがって、この鉄道車両構体1では、第1の吹寄パネル及び第2の吹寄パネルを平坦な状態に保つことができ、鉄道車両の美観を向上させることができる。
【0045】
また、図2(a)及び図2(b)に示すように、第1の吹寄パネルの一面側(例えば表側161)に形成された溶融凝固部M1と、第1の吹寄パネルの他面側(例えば表側162)に形成された溶融凝固部M2とは、側構体の側面側から見て、互いに間隔をおいて配置されていることが好ましい。同様に、第2の吹寄パネルの一面側(例えば表側161)に形成された溶融凝固部M1と、第2の吹寄パネルの他面側(例えば表側162)に形成された溶融凝固部M2とは、側構体の側面側から見て、互いに間隔をおいて配置されていることが好ましい。吹寄パネルの一面側と吹寄パネルの他面側には、側構体の側面側から見て、歪みが互いに間隔をおいて生じる。このため、吹寄パネルの両面において、側構体の側面側から見て、溶融凝固部が互いに間隔をおいて配置されていることにより、吹寄パネルの両面に生じる歪みSをより好適に抑制できる。したがって、鉄道車両の美観をより一層向上させることができる鉄道車両構体を提供できる。
【0046】
また、側構体4は、鉄道車両構体1の第1の台車(例えば台車5A)の中心位置(C1)と、第2の台車(例えば台車5B)の中心位置(C2)との中間位置(C)を挟んで配置された第3の吹寄パネル(例えばブロック4Cの吹寄パネル16b)及び第4の吹寄パネル(例えばブロック4Cの吹寄パネル16a)を含んでいる。この第3の吹寄パネルの一面側(例えば表側161)及び第4の吹寄パネルの一面側(例えば表側161)には、第3の吹寄パネル及び第4の吹寄パネルの対角線に平行な溶融凝固部M(M1)がそれぞれ形成されており、第3の吹寄パネルの一面側に形成された溶融凝固部M(M1)と、第4の吹寄パネルの一面側に形成された溶融凝固部M(M1)とは、下方に向けて凸となるV字を画成していることが好ましい。このような溶融凝固部M(M1)が第3の吹寄パネル及び第4の吹寄パネルに予め形成されていることにより、第3の吹寄パネルの一面側及び第4の吹寄パネルの一面側において、せん断力に起因して当該対角線に平行に生じる凸状の歪みS(S1)あるいは曲げモーメントWを打ち消すことができる。したがって、この鉄道車両構体1では、第3の吹寄パネル及び第4の吹寄パネルを平坦な状態に保つことができ、鉄道車両の美観を向上させることができる。
【0047】
また、第3の吹寄パネルの他面側(例えば裏側162)及び第4の吹寄パネルの他面側(例えば裏側162)には、該第3の吹寄パネル及び該第4の吹寄パネルの対角線に平行な溶融凝固部M(M2)がそれぞれ形成されており、第3の吹寄パネルの他面側に形成された溶融凝固部M(M2)と、第4の吹寄パネルの他面側に形成された溶融凝固部M(M2)とは、下方に向けて凸となるV字を画成していることが好ましい。このような溶融凝固部M(M2)が第3の吹寄パネル及び第4の吹寄パネルに予め形成されていることにより、第3の吹寄パネルの他面側及び第4の吹寄パネルの他面側において、せん断力に起因して当該対角線に平行に生じる凸状の歪みあるいは曲げモーメントWを打ち消すことができる。したがって、この鉄道車両構体1では、第3の吹寄パネル及び第4の吹寄パネルを平坦な状態に保つことができ、鉄道車両の美観を向上させることができる。
【0048】
また、第3の吹寄パネルの一面側(例えば表側161)に形成された溶融凝固部M(M1)と、第3の吹寄パネルの他面側(例えば裏側162)に形成された溶融凝固部M(M2)とは、側構体4の側面側から見て、互いに間隔をおいて配置されていることが好ましい。上述のように、吹寄パネルの一面側と吹寄パネルの他面側には、側構体の側面側から見て、歪みが互いに間隔をおいて生じる。このため、吹寄パネルの両面において、側構体の側面側から見て、溶融凝固部が互いに間隔をおいて配置されていることにより、吹寄パネルの両面に生じる歪みをより好適に抑制できる。したがって、鉄道車両の美観をより一層向上させることができる鉄道車両構体を提供できる。
【0049】
以下、溶融凝固部M(裏側溶融凝固部M2)の好適な延在方向について補足する。第1領域Z1及び第3領域Z3における吹寄パネル16の裏側162には、左上角部から右下角部まで延びる向きの対角線に平行に歪みS2が生じる。この歪みS2を抑制するために、第1領域Z1及び第3領域Z3における吹寄パネル16を構成する吹寄板の裏側162には、左上角部から右下角部まで延びる向きの対角線に平行に裏側溶融凝固部M2が形成されていることが好ましい。
【0050】
同様に、第2領域Z2及び第4領域Z4における吹寄パネル16の裏側162には、右上角部から左下角部まで延びる向きの対角線に平行に歪みS2が生じる。この歪みS2を抑制するために、第2領域Z2及び第4領域Z4における吹寄パネル16を構成する吹寄板の裏側162には、右上角部から左下角部まで延びる向きの対角線に沿うよう裏側溶融凝固部M2が形成されていることが好ましい。
【0051】
裏側溶融凝固部M2の線幅L1は、表側溶融凝固部M1の線幅L1と同じにすることができ、例えば1mm〜2mmである。また、図2(b)に示すように、裏側溶融凝固部M2は、吹寄パネル16を構成する吹寄板の裏側162から吹寄パネル16を構成する吹寄板の厚み未満の深さまで形成されていることが好ましい。裏側溶融凝固部M2の深さD1は、例えば0.5mm〜0.667mmである。
【0052】
上記で説明した溶融凝固部Mは、吹寄パネル16の両面側(すなわち表側161及び裏側162)に形成されていることが好適であり、この場合、溶融凝固部Mは、吹寄パネル16を構成する吹寄板の両面側からレーザを加熱照射することにより形成することができる。
【符号の説明】
【0053】
1…鉄道車両構体、2…床構体、4…側構体、6…妻構体、8…屋根構体、14…腰パネル、16…吹寄パネル、18…幕パネル、M…溶融凝固部、M1…表側溶融凝固部、M2…裏側溶融凝固部、S,S1,S2…歪み。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側構体を備える鉄道車両構体であって、
前記側構体は、当該鉄道車両構体の第1の台車の中心位置を挟んで配置された第1の吹寄パネル及び第2の吹寄パネルを含み、
前記第1の吹寄パネルの一面側及び前記第2の吹寄パネルの一面側には、該第1の吹寄パネル及び該第2の吹寄パネルの対角線に平行な溶融凝固部がそれぞれ形成されており、
前記第1の吹寄パネルの前記一面側に形成された前記溶融凝固部と、前記第2の吹寄パネルの前記一面側に形成された前記溶融凝固部とは、上方に向けて凸となるV字を画成している、鉄道車両構体。
【請求項2】
前記第1の吹寄パネルの他面側及び前記第2の吹寄パネルの他面側には、該第1の吹寄パネル及び該第2の吹寄パネルの前記対角線に平行な溶融凝固部がそれぞれ形成されており、
前記第1の吹寄パネルの前記他面側に形成された前記溶融凝固部と、前記第2の吹寄パネルの前記他面側に形成された前記溶融凝固部とは、上方に向けて凸となるV字を画成している、請求項1に記載の鉄道車両構体。
【請求項3】
前記第1の吹寄パネルの前記一面側に形成された前記溶融凝固部と、前記第1の吹寄パネルの前記他面側に形成された前記溶融凝固部とは、前記側構体の側面側から見て、互いに間隔をおいて配置されており、
前記第2の吹寄パネルの前記一面側に形成された前記溶融凝固部と、前記第2の吹寄パネルの前記他面側に形成された前記溶融凝固部とは、前記側構体の側面側から見て、互いに間隔をおいて配置されている、請求項2に記載の鉄道車両構体。
【請求項4】
前記側構体は、当該鉄道車両構体の前記第1の台車の前記中心位置と、当該鉄道車両構体の第2の台車の中心位置との中間位置を挟んで配置された第3の吹寄パネル及び第4の吹寄パネルを更に含み、
前記第3の吹寄パネルの一面側及び前記第4の吹寄パネルの一面側には、該第3の吹寄パネル及び該第4の吹寄パネルの対角線に平行な溶融凝固部がそれぞれ形成されており、
前記第3の吹寄パネルの前記一面側に形成された前記溶融凝固部と、前記第4の吹寄パネルの前記一面側に形成された前記溶融凝固部とは、下方に向けて凸となるV字を画成している、請求項1又は請求項2に記載の鉄道車両構体。
【請求項5】
前記第3の吹寄パネルの他面側及び前記第4の吹寄パネルの他面側には、該第3の吹寄パネル及び該第4の吹寄パネルの前記対角線に平行な溶融凝固部がそれぞれ形成されており、
前記第3の吹寄パネルの前記他面側に形成された前記溶融凝固部と、前記第4の吹寄パネルの前記他面側に形成された前記溶融凝固部とは、下方に向けて凸となるV字を画成している、請求項4に記載の鉄道車両構体。
【請求項6】
前記第3の吹寄パネルの前記一面側に形成された前記溶融凝固部と、前記第3の吹寄パネルの前記他面側に形成された前記溶融凝固部とは、前記側構体の側面側から見て、互いに間隔をおいて配置されており、
前記第4の吹寄パネルの前記一面側に形成された前記溶融凝固部と、前記第4の吹寄パネルの前記他面側に形成された前記溶融凝固部とは、前記側構体の側面側から見て、互いに間隔をおいて配置されている、請求項5に記載の鉄道車両構体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−116265(P2012−116265A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266390(P2010−266390)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)
【Fターム(参考)】