説明

鉄道車両構体

【課題】雨樋の継ぎ目からシール切れによる水漏れが生じることを防止できると共に、雨樋の接合の水密性を確保できる鉄道車両構体を提供すること。
【解決手段】屋根構体4に降った雨水が管体8に導かれる。竪樋6bの上端の一部から上方に板状の第1立設部20が立設され、第1立設部20の一面と他面との厚さ方向に貫通孔20aが貫通形成される。管体8は第1立設部20の一面側から貫通孔20aを介して竪樋6bに雨水を導入する。管体8は第1立設部20の他面側から溶接作業が行われて、溶融凝固した溶接金属23により第1立設部20に接合される。そのため、管体8が溶接作業の障害物となることが防止され、溶接作業が制限されることが抑制される。その結果、接合の水密性を確保できる。また、管体8は溶接金属23により第1立設部20に接合されるので、シール切れによる水漏れを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄道車両構体に関し、特に、雨樋の継ぎ目からシール切れによる水漏れが生じることを防止できると共に、雨樋の接合の水密性を確保できる鉄道車両構体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄道車両の屋根に降った雨水を、屋根構体の雨樋から竪樋へ導く鉄道車両構体が知られている(特許文献1)。特許文献1に開示される技術では、屋根構体の雨樋と接続される雨樋口(管体)が竪樋に接続される。雨樋口(管体)と竪樋との接合は、一般に、シール材による接着または溶接もしくはそれらの組合せにより行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭53−113512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来の技術では、管体と竪樋とをシール材により接合した場合、シール材の経年劣化によりシール切れが生じ、管体と竪樋との継ぎ目(雨樋の継ぎ目)から水漏れが生じるおそれがあるという問題点があった。
【0005】
また、管体と軒部とを溶接により接合する場合、管体が延びる側から竪樋に溶接作業を行うので、管体が障害物となって溶接作業が制限される。そのため、管体と竪樋との接合(雨樋の接合)の水密性を確保し難いという問題点があった。
【0006】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、雨樋の継ぎ目からシール切れによる水漏れが生じることを防止できると共に、雨樋の接合の水密性を確保できる鉄道車両構体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0007】
この目的を達成するために請求項1記載の鉄道車両構体によれば、鉄道車両の長手方向両端部に妻構体が配設され、その妻構体が側構体により連結される。それら側構体および妻構体の上部に屋根構体が配設され、その屋根構体に降った雨水が管体により下方に導かれる。その管体の下流端が連通される部材として妻構体の上下方向に沿って竪樋が配設され、その竪樋の上端の一部から上方に板状の第1立設部が立設される。その第1立設部の一面と他面との厚さ方向に貫通孔が貫通形成され、管体は、第1立設部の一面側から貫通孔を介して竪樋に雨水を導入する。
【0008】
管体または管体の下流端に接続される所定の部材は、第1立設部の他面側から溶接作業が行われて、溶融凝固した溶接金属により第1立設部に接合される。管体または所定の部材は第1立設部の一面側(溶接作業が行われる面と反対の面)に配置されるので、管体または所定の部材が第1立設部の他面側から行われる溶接作業の障害物となり難い。その結果、溶接作業が制限されることが抑制されるので、雨樋の接合の水密性を確保できる効果がある。また、管体または所定の部材は、溶接金属により第1立設部に接合されるので、雨樋の継ぎ目からシール切れによる水漏れが生じることを防止できる効果がある。
【0009】
請求項2記載の鉄道車両構体によれば、壁形成部は、第1立設部とは別の部材で構成されるものであり第1立設部の他面と対向する面を有する。その壁形成部が竪樋の上端の残部に取着されるので、壁形成部を取り外した状態では、第1立設部の他面が露呈される。これにより第1立設部の他面側からの溶接を容易にできる。第1立設部の他面側から溶接作業が行われて管体または所定の部材が第1立設部に接合された後、竪樋の上端の残部に壁形成部が取着される。第1立設部および壁形成部で竪樋の上端の一部および残部を構成することにより、請求項1の効果に加え、管体から貫通孔に流れた雨水が竪樋に導入されずに漏れてしまうことを防止できる。
【0010】
請求項3記載の鉄道車両構体によれば、管体の下流端に対して鍔状に形成されるフランジが第1立設部の一面に当接され、フランジの端面と貫通孔の内周ないしは第1立設部の他面とが溶接金属により接合されている。フランジの端面と貫通孔の内周ないしは第1立設部の他面とを第1立設部の他面側から溶接するときは、貫通孔の内周に沿ってフランジの端面の全周を容易に溶接できる。また、フランジの端面の突出幅を、貫通孔に対する位置ずれの調整代にできる。これにより、請求項2の効果に加え、溶接作業を容易にできる効果がある。
【0011】
請求項4記載の鉄道車両構体によれば、管体の下流端と第1立設部の貫通孔との間に介設される集水器が管体の下流端に接続される。集水器の先端部にはフランジが形成され、そのフランジが第1立設部に当接される。集水器の後端部には、管体の下流端が接続される第1開口および別の排水管の下流端が接続される第2開口が形成されるので、屋根に降った雨水だけでなく、別の排水管の排水も集水器に集めることができる。集水器は、後端部から先端部に向かって下降傾斜する底部を備えているので、集水器に集めた排水(雨水を含む)を底部から竪樋に導くことができる。これにより、請求項3の効果に加え、屋根に降った雨水だけでなく鉄道車両で生じる排水を竪樋から排水できる効果がある。
【0012】
請求項5記載の鉄道車両構体によれば、板状の第2立設部が、竪樋の上端の一部から上方に立設されると共に第1立設部に連設され、壁形成部は、第1立設部および第2立設部とは別の部材で構成されるので、第2立設部が形成されていない鉄道車両構体と比較して、壁形成部を小型軽量化できる。壁形成部は管体を竪樋に接続した後に竪樋の上端に取着するので、壁形成部を小型軽量化できれば、壁形成部の取着作業の工数を削減し、ひいては妻構体の組立て作業を削減できる。その結果、請求項1から4のいずれかの効果に加え、鉄道車両構体の組立て作業工数を削減できる効果がある。
【0013】
請求項6記載の鉄道車両構体によれば、妻構体は、妻外板と、その妻外板の幅方向両側に連結されると共に側構体の長手方向端部が連結される一対の隅柱を備え、その隅柱は竪樋が内蔵される。隅柱に竪樋が内蔵されるので、請求項5の効果に加え、部品点数を削減できる効果がある。
【0014】
また、第1立設部は他方の隅柱を臨む面に立設されるので、一対の隅柱に立設される第1立設部の一面同士を対向させ、第1立設部の他面を外側に向けることができる。その結果、請求項5の効果に加え、第1立設部の他面側からの溶接作業を容易にできる効果がある。
【0015】
また、第2立設部は第1立設部に連設されて側構体側に立設されるので、第2立設部に側構体を連結できる。これにより、請求項5の効果に加え、鉄道車両構体の組立て作業を容易にできる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態における鉄道車両構体の妻構体の背面図である。
【図2】(a)は妻構体の肩部の平面図であり、(b)は隅柱の拡大平面図であり、(c)は妻構体の肩部の背面図であり、(d)は妻構体の肩部の側面図であり、(e)は図2(c)のIIe−IIe線における妻構体の断面図である。
【図3】(a)は第1立設部に接合された集水器を模式的に示した斜視図であり、(b)は図3(a)のIIIb−IIIb線における第1立設部および集水器の断面図であり、(c)は第1立設部に接合された集水器を模式的に示した斜視図であり、(d)は図3(c)のIIId−IIId線における第1立設部および集水器の断面図である。
【図4】(a)は壁形成部の背面図であり、(b)は矢印IVb方向から見た壁形成部の平面図である。
【図5】(a)は妻構体及び側構体の肩部の平面図であり、(b)は図5(a)のVb−Vb線における妻構体および側構体の肩部の断面図であり、(c)は壁形成部が取着された妻構体および側構体の肩部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず、図1を参照して、本発明の一実施の形態における鉄道車両構体1について説明する。図1は鉄道車両構体1の妻構体3の背面図(客室側から見た図)である。なお、図1では、妻構体3の高さ方向の一部の図示を省略している。
【0018】
図1に示すように、鉄道車両構体1は、台枠2の前後両端部に立設される妻構体3と、台枠2の左右両端部に立設される側構体(図示せず)と、それら側構体および妻構体3の上部に配設される屋根構体4とを備えて構成されている。妻構体3は、正面視して逆U字状の板部材により形成される妻外板5と、その妻外板5の両側に連結される一対の隅柱6と、それら隅柱6間に架設される桁7とを備えて構成されている。
【0019】
隅柱6は、後述するように中空の角柱状に形成される部材であり、その下端が台枠2の下面まで達するように構成されている。本実施の形態では、後述するように隅柱6に竪樋6b(図2(a)参照)が内蔵されているので、隅柱6(竪樋)に導入された雨水は、台枠2の下面まで導かれて排水される。桁7は、屋根構体4に配設される雨樋(図示せず)と連通する受け部7aが凹設されている。受け部7aは、屋根構体4の雨樋(横樋)を流れる雨水を妻構体3に導くための部位であり、受け部7aの底部の開口に金属製の管体8(エルボ管)が接続されている。
【0020】
管体8は、隅柱6(竪樋)へ雨水を導くための部材であり、上流端から下流端にかけて湾曲され、下流端は外側(隅柱6側)を向いて配設されている。管体8の下流端に集水器10が接続されており、その集水器10を介して管体8は隅柱6(竪樋)に雨水を導入する。
【0021】
集水器10は、雨水を集めて隅柱6(竪樋)に導くための箱状の部材であり、管体8とは別に、排水管9が接続されている。排水管9は、妻構体3の略中心から外側(隅柱6側)へ下降傾斜するように妻外板5に配設される直管であり、本実施の形態では、空調機(図示せず)が上流端に接続されている。これにより、雨水だけでなく鉄道車両で生じる排水も合わせて隅柱6(竪樋)から排水できる。なお、排水管9の上流端9aは、妻外板5に固着された取付部材5aに取着されている。
【0022】
次に、図2を参照して妻構体3及び隅柱6について詳細に説明する。図2(a)は妻構体3の肩部の平面図であり、図2(b)は隅柱6の拡大平面図である。なお、図2では、妻構体3の右側(図1右側)について説明する。図2(a)及び図2(b)に示すように、妻構体3の端部に配設される隅柱6は中空の角柱状に形設されており、平面視して外形が略方形状に形成されている。本実施の形態では、隅柱6の一部として第1立設部20及び第2立設部21が立設されている。
【0023】
隅柱6は、平面視して略T字状の隔壁6aが隅柱6の内壁に連結されることで内部が区画される。その結果、隅柱6の内部に、隅柱6の長手方向に沿う複数の管路を形成できる。平面視して略三角状の塞ぎ板22が、第1立設部20及び第2立設部21に密着しつつ略T字状の隔壁6aの上端に固着されており、塞ぎ板22により隅柱6の略半分が塞がれている。隔壁6a及び塞ぎ板22を有しているので隅柱6の剛性を上げることができると共に、塞ぎ板22で塞がれていない管路を竪樋6bとして利用できる。これにより竪樋6bは隅柱6に内蔵されるので、隅柱6とは別に竪樋を設ける必要がなく、鉄道車両構体1の内部空間を有効活用できる。また、隅柱6とは別に竪樋を設ける場合と比較して、部品点数を削減できる。
【0024】
竪樋6bは、上端の一部から塞ぎ板22を介して上方に板状の第1立設部20が立設されている。本実施の形態では、第1立設部20は隅柱6の一部として桁7側に一体形成されており、左右の隅柱6に形成された第1立設部20間に桁7が架設されている。第1立設部20は、一面(図2(a)左)と他面(図2(a)右)との厚さ方向に貫通孔20aが貫通形成されている。第1立設部20に集水器10が接続されて貫通孔20aに連通されることにより、集水器10に導入された雨水等の排水が貫通孔20aを通って隅柱6に導かれる。隔壁9aの上端に塞ぎ板22が配設されているので、排水は塞ぎ板22の上を流れて竪樋6bに流入する。
【0025】
竪樋6bは、上端の一部から塞ぎ板22を介して上方に、第1立設部20に連設された板状の第2立設部21が立設されている。本実施の形態では、第2立設部21は隅柱6の一部として側構体40側に一体形成されている。第2立設部21は、略直交して第1立設部20に連設されており、第1立設部20と共に一体形成されているので、第1立設部20及び第2立設部21の機械的強度を確保できる。
【0026】
図2(c)は妻構体3の肩部の背面図である。図2(c)に示すように、第2立設部21は、背面視して縦長の略扇状に形成されており、円弧状に形成された外形が桁7になめらかに連絡され、その円弧状の外形の一部が内側に切欠された切欠部21aを備えている。第2立設部21が以上のような形状に形成されているのは、後述する側構体40の形状に合わせるためである。
【0027】
集水器10は、第1立設部20に貫通形成された貫通孔20aと、管体8及び排水管9とを連絡するための角筒状の部材であり、管体8の下流端8b及び排水管9の下流端9bと第1立設部20に形成された貫通孔20aとの間に介設される。集水器10は、後端部12に管体8の下流端8b及び排水管9の下流端9bが接続されており、先端部にフランジ11が形成される。集水器10の底部10aが後端部12からフランジ11(先端部)に向かって下降傾斜しているので、集水器10に導入された排水(雨水を含む)はフランジ11(先端部)に向かって下降する。
【0028】
図2(e)は図2(c)のIIe−IIe線における妻構体3の断面図である。図2(e)に示すように、後端部12は略矩形状の板部材により構成されており、管体8の下流端8b(図2(c)参照)が挿通される第1開口12a及び排水管9の下流端9bが挿通される第2開口12bが、後端部12の上下に並設されている。第1開口12a及び第2開口12bが後端部12の上下に並設されているので、集水器10の幅(図2(a)上下方向)を狭くすることができ、管体8、排水管9及び集水器10を備えて構成される樋を妻構体3にコンパクトに収容できる。
【0029】
図2(c)に戻って説明する。フランジ11は管体8の下流端8bに対して鍔状に形成される部材であり、集水器10はフランジ11を介して第1立設部20に当接される。本実施の形態では、集水器10に対してフランジ11は均等に張り出すように形成されておらず、集水器10の下方向にずれて張り出すように形成されている。集水器10に対するフランジ11の上方向への張り出し量を抑制することで、集水器10を桁7の下面に近接させて固定できるので、桁下空間を有効に活用できる。また、フランジ11を集水器10の下方にずらして配置することで、集水器10の底面10aに対し貫通孔20aの高さを低くできる。これにより、集水器10から貫通孔20aへスムーズに排水できる。
【0030】
図2(d)は妻構体3の肩部の側面図である。図2(d)に示すように、第1立設部20に貫通形成された貫通孔20aは略矩形状に形成されており、フランジ11の外形およびフランジ11の内側の孔部11aも貫通孔20aに応じた略矩形状に形成されている。第1立設部20に形成された貫通孔20aとフランジ11とは溶融凝固した溶接金属23により貫通孔20aの全周が水密溶接され、フランジ11と第1立設部20とが接合される。第1立設部20とフランジ11との溶接は、集水器10が配置された第1立設部20の1面側(妻構体3の内側)から行われるのではなく、その反対の他面側(妻構体3の側面側)から行われる。
【0031】
ここで、水密溶接を行うには、溶接姿勢を安定に保ちトーチ(溶接装置)の角度を確保する必要があるが、妻構体3の側面側(図2(d)紙面表側)から溶接を行うことで、集水器10や管体8に溶接作業が制限されることを防止できる。その結果、溶接姿勢の維持等を行うことができるので、水密溶接を安定して行うことができ、集水器10と第1立設部20との接合の水密性を確保できる。これにより排水の水漏れを確実に防止できる。
【0032】
第1立設部20に貫通形成された貫通孔20aは略矩形状であり、フランジ11の外形およびフランジ11の内側の孔部11aも略矩形状に形成されている。それら貫通孔20a及びフランジ11は上下の縁が略水平方向(図2(d)左右方向)に配置され、左右の縁が略鉛直方向(図2(d)上下方向)に配置されているので、フランジ11と貫通孔20aとの位置合わせを容易にできる。
【0033】
即ち、フランジ11の左右方向および上下方向の突出幅を確保しておけば、フランジ11と貫通孔20aとの左右方向および上下方向の位置合わせをそれぞれ独立して行うことができる。これによりフランジ11と貫通孔20aとの位置合わせを容易にできるので、確実に水密溶接を行うことができる。
【0034】
また、フランジ11の上下方向の突出幅が左右方向の突出幅より大きく設定されている。これにより、フランジ11と貫通孔20aとの位置合わせに係る上下方向の調整代を左右方向の調整代より大きくできる。妻構体3のフランジ11と貫通孔20aとの上下方向の位置合わせは管体8や集水器10の水勾配に影響を与えるので、上下方向の調整代を十分に確保することにより、管体8や集水器10の水勾配を確保し樋の排水性を確保できる。
【0035】
以上のように構成される管体8及び集水器10を妻構体3に接合する接合方法について説明する。まず、フランジ11及び後端部12が固着された集水器10を妻構体3に仮止めすると共に、管体8及び排水管9を妻構体3に仮止めする。そして、後端部12に管体8及び排水管9を仮溶接する。仮溶接した管体8、排水管9及び集水器10を妻構体3から取り外した後、管体8及び排水管9と集水器10(後端部12)とを水密溶接する。管体8及び排水管9が水密溶接された集水器10を妻構体3に取り付け、管体8と受け部7aとの間、フランジ11と第1立設部20との間を水密溶接する。これにより、竪樋6aに導く雨水を導く経路(樋)を妻構体3に形成できる。
【0036】
次に図3を参照して、第2立設部21が立設された場合の第1立設部20と集水器10との接合について説明する。図3(a)は第1立設部20に接合された集水器10を模式的に示した斜視図であり、図3(b)は図3(a)のIIIb−IIIb線における第1立設部20及び集水器10の断面図であり、図3(c)は第1立設部20に接合された集水器110を模式的に示した斜視図であり、図3(d)は図3(c)のIIId−IIId線における第1立設部20及び集水器110の断面図である。なお、図3(a)から図3(d)では、集水器10の形状を模式的に直管状に図示している。
【0037】
図3(a)及び図3(b)に示すように、本実施の形態では、第2立設部21は第1立設部20と直交状に連設されているので、第1立設部20に集水器10(フランジ11)を溶接する場合に、第2立設部21と貫通孔20aとの間隔によっては、第2立設部21により溶接作業が制限されるおそれがある。即ち、貫通孔20aの縁部の全周に水密溶接をするときに、第2立設部21に近い縁部の溶接の水密性が不完全になる可能性がある。
【0038】
本実施の形態では、第1立設部20にフランジ11を当接した後、フランジ11が当接された第1立設部20の面と反対の面(図3(b)下側)から溶接を行い、フランジ11と貫通孔20a乃至は第1立設部20との間で溶融凝固された溶接金属23により第1立設部20とフランジ11とを接合する。これにより、第2立設部21が貫通孔20aの近傍に立設されている場合であっても、第2立設部21に干渉されることなく貫通孔20aの全周に水密溶接を行うことができる。
【0039】
これに対し、図3(c)及び図3(d)に示すように、第1立設部20に形成された貫通孔20aに集水器110が挿入され第1立設部20に集水器110が貫設されている場合は、集水器110の外周壁と第1立設部20との間で溶融凝固された溶接金属123により集水器110と第1立設部20とが接合される。第2立設部21と集水器110との間隔が狭い場合、第2立設部21や集水器110と溶接装置(図示せず)とが干渉し、第2立設部21と集水器110との間の水密溶接が不完全になるおそれがある。また、溶接できるとしても作業性に欠けるおそれがある。本実施の形態のように、鍔状に形成されるフランジ11と第1立設部20との間で溶接を行うことにより、これらを抑制して安定な水密溶接ができる。
【0040】
次に図4を参照して壁形成部30について説明する。壁形成部30は、第1立設部20の貫通孔20aから排出される排水を漏れなく竪樋6bに導くための部材である。即ち、図2(d)に示すように第1立設部20にフランジ11を溶接した状態では、貫通孔20aから排水が勢いよく排出される場合に、排水が竪樋6bに導入されずに外に飛び出してしまう。これを防止するため、第1立設部20にフランジ11を溶接した後、壁形成部30を竪樋6bの上端に取着し、第1立設部20、第2立設部21、壁形成部30及び竪樋6bにより樋を完成させる。図4(a)は壁形成部30の背面図であり、図4(b)は矢印IVb方向から見た壁形成部の平面図である。
【0041】
図4(a)及び図4(b)に示すように、壁形成部30は、背面視して略扇状の板部材で形成される第1壁部31と、その第1壁部31の円弧状の縁に沿って頂部32aから底部32bに亘って湾曲した板部材で形成されると共に、湾曲した一側縁(図4(b)上側)に第1壁部31が固着された第2壁部32と、その第2壁部32の一側縁と略平行に形成された他側縁(図4(b)下側)の上端側に固着される板部材で形成されると共に、第2壁部32から下向きに所定の長さで垂設され下端縁33aが底部32bから所定の高さに位置する垂設部33とを備えて構成されている。
【0042】
次に図5を参照して、妻構体3の隅柱6に連結される壁形成部30及び側構体40について説明する。図5(a)は壁形成部30が連結された妻構体3及び側構体40の肩部の平面図であり、図5(b)は図5(a)のVb−Vb線における側構体40の肩部の断面図であり、図5(c)は壁形成部30が取着された妻構体3及び側構体40の肩部の側面図である。なお、図5(a)では壁形成部30及び側構体40の図示を省略(一部は想像線で図示)している。
【0043】
図5(a)に示すように、隅柱6の上部の第2立設部21には側構体40の長手方向端部が当接され、隅柱6に側構体40が連結される。図5(b)に示すように、側構体40は上部側に屋根構体4が連結される。屋根構体4は、外板4a及び内板4bと、それら外板4a及び内板4bを連結する複数の隔壁4cとを備えるダブルスキン構造の中空形材により構成されている。
【0044】
側構体40は、外板41及び内板42と、それら外板41及び内板42を連結する複数の隔壁43とを備えるダブルスキン構造の中空形材により構成されている。外板41の上端側(第1節点41a近傍)は、長手方向に直交する断面において外側に凸の曲面状に形成されている。側構体40は、鉄道車両構体1の客室側(内側)に位置する張出部43と、その張出部43より上側に位置する底部44と、その底部44に突設される堰部45とを備えている。
【0045】
張出部43は、側構体40に配設される扉開閉装置(図示せず)を側構体40に取着するスペースを確保するための部材であり、側構体40の内板42の上端の第2節点42aに連結されると共に、その第2節点42aから他方の側構体40側(図5(b)左側)を向いて張り出し、側構体40の長手方向に沿って屋根構体4の内板4bが先端43aに連結されている。
【0046】
底部44は、側構体40に雨水が流れる樋を構成するための部材である。底部44は、張出部43より上側に位置し、屋根構体4の下端と側構体40の外板41の上端の第1節点41aとの間に連結されており、側構体40の長手方向(図4(b)紙面垂直方向)に沿って延設されている。
【0047】
堰部45は、底部44に導かれた雨水が溢れないようにするための部材であり、底部44が連結される第1節点41aに突設されると共に、先端が屋根構体4側を向いて側構体40の長手方向に沿って立設されている。堰部45は、長手方向に直交する断面において外側に凸の曲面状に形成されており、外側に凸の曲面状に形成される側構体40の外板41と滑らかに連成されている。これにより、外板41から堰部45に連なる側構体40の外側面を美麗にできる。
【0048】
ここで、側構体40と妻構体3とが連結されるときには、隅柱6の第2立設部21に形成された切欠部21a(図2(c)参照)と側構体40の底部44とは同一の高さに位置し、第2立設部21の外縁と外板41,4a及び底部44とは水密溶接される。これにより、側構体40の底部44を流れる雨水は第2立設部21の切欠部21aから竪樋6bに導かれる。このように側構体40が連結される部位に第2立設部21を設け、その第2立設部21の形状を、側構体40に形設された雨樋(底部44及び堰部45)や外板41,4aの形状と一致させることで、側構体40及び妻構体3の連結部分を美麗にできる。さらに、側構体40の雨樋(底部44及び堰部45)から竪樋6bへ雨水をスムーズに導入できる。
【0049】
また、壁形成部30が取着されたときに、垂設部33の下端縁33aは、側構体40の底部44より高い位置に固定される。これにより、側構体40の底部44を流れる雨水は壁形成部30の垂設部33に妨げられることなく竪樋6bに導かれる。また、板状の垂設部33が底部44と直交する方向に配設されることで、第1立設部20(図2(c)参照)に形成された貫通孔20aから排出される屋根側の排水が、底部44から側構体40側に流れ込むことを防止できる。
【0050】
また、壁形成部30の第2壁部32は湾曲して形成されているので、壁形成部30が妻構体3に取着されたときに、外側に凸の曲面状に形成される外板41,4aと滑らかに連ならせることができる。これにより鉄道車両構体1の外表面を美麗にできる。
【0051】
図5(c)に示すように、本実施の形態では、第2立設部21の一面側(図5(c)左側)から第2立設部21に側構体40が連結され、第2立設部21の他面側(図5(c)右側)から隅柱6に壁形成部30が取着される。そのため、第2立設部21の厚さ(図5(c)左右方向)の分だけ外板41,4aと第2壁部32とに隙間が生じる。そこで、その隙間を埋めるように外板41,4a及び第2壁部32と連なる外板46が配設される。これにより、側構体40の底部44を流れる雨水を漏れなく竪樋6bに導くことができる。
【0052】
以上のように本実施の形態によれば、管体8に接続された集水器10が第1立設部20に接合された後、第1立設部20及び第2立設部21以外の竪樋6bの上端の残部に壁形成部30を取着する。第1立設部20、第2立設部21及び壁形成部30で竪樋6bの上端が環囲されるので、管体8から貫通孔20aに流れた雨水が竪樋6bに導入されずに漏れてしまうことを防止できる。
【0053】
また、壁形成部30は第1立設部20及び第2立設部21とは別の部材で構成されるので、第2立設部21が形成されていない鉄道車両構体と比較して、壁形成部30を小型軽量化できる。壁形成部30は管体8を接続した後に竪樋6bの上端に取着するので、壁形成部30を小型軽量化できれば、壁形成部30の取着作業の工数を削減し、ひいては鉄道車両構体1の組立て作業工数を削減できる。
【0054】
また、第1立設部20は他方の隅柱6を臨む面に立設されるので、一対の隅柱6に立設される第1立設部20の一面同士を対向させ、第1立設部20の他面を外側に向けることができる。その結果、管体8を接続するため、第1立設部20の他面側からの溶接作業を容易にできる。さらに、第2立設部21は第1立設部20に連設されて側構体40側に立設されるので、第2立設部21に側構体40を連結できる。これにより、鉄道車両構体1の組立て作業を容易にできる。
【0055】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0056】
上記実施の形態では、管体8の下流端8bに集水器10を接続し、その集水器10にフランジ11を形成する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。集水器10は、管体8及び排水管9を接続するために設けられているので、排水管9を設けない場合には、集水器10を省略して、管体8の下流端にフランジ11を設けることは当然可能である。なお、請求項1記載の「管体の下流端に接続される所定の部材」としては、フランジ11、集水器10等が該当する。
【0057】
また、集水器10や管体8からフランジ11を省略することは当然可能である。この場合は、図3(c)及び図3(d)に示すように、第1立設部20に貫通形成された貫通孔20aに集水器10(又は管体8)を挿入し、第1立設部20と集水器10(又は管体8)とを溶接することが可能である。また、貫通孔20aより集水器10(又は管体8)の外形を少し大きく形成し、第1立設部20に集水器10(又は管体8)を突き当て、貫通孔20aの内周と集水器10(又は管体8)の内周とを溶接することが可能である。
【0058】
上記実施の形態では、竪樋6bが隅柱6に内蔵される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、竪樋6bを隅柱6と別部材で構成することは当然可能である。なお、竪樋6bが隅柱6に内蔵される場合であっても、隅柱6の上端部に配設固定された塞ぎ板22は必ずしも必要はなく、塞ぎ板22を省略することは可能である。
【0059】
上記実施の形態では、貫通孔20a及びフランジ11の外形が略矩形状に形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、管体8や集水器10の外形に合わせて略円形状、長円状、楕円状の貫通孔やフランジを採用することは当然可能である。
【0060】
上記実施の形態では、第2立設部21が立設される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、第2立設部21を省略することは当然可能である。この場合、第2立設部21に代わる第3壁部を、第1壁部31及び第2壁部32以外に壁形成部30に設けることができる。第3壁部は第1壁部31と対向するように設けられる。これにより、第2立設部21を省略した場合も、管体8からの排水を漏れなく竪樋6bに導くことができる。
【0061】
上記実施の形態では、屋根構体4及び側構体40がダブルスキン構造の中空形材により構成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、屋根構体4や側構体40をシングルスキン構造とすることは当然可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 鉄道車両構体
3 妻構体
4 屋根構体
5 妻外板
6 隅柱
6b 竪樋
8 管体
8b 下流端
10,110 集水器
10a 底部
11 フランジ(先端部)
12 後端部
12a 第1開口
12b 第2開口
20 第1立設部
20a 貫通孔
21 第2立設部
23,123 溶接金属
30 壁形成部
40 側構体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の長手方向両端部に配設される妻構体およびその妻構体を連結する側構体と、
それら側構体および妻構体の上部に配設される屋根構体と、
その屋根構体に降った雨水を集めて下方に導く管体と、
その管体の下流端が連通される部材として前記妻構体の上下方向に沿って配設される竪樋と、
その竪樋の上端の一部から上方に立設される板状の第1立設部と、
その第1立設部の一面と他面との厚さ方向に貫通形成される貫通孔とを備え、
前記管体は、前記第1立設部の一面側から前記貫通孔を介して前記竪樋に雨水を導入するものであり、
前記管体または前記管体の下流端に接続される所定の部材は、前記第1立設部の他面から溶接されて溶融凝固した溶接金属により前記第1立設部に接合されることを特徴とする鉄道車両構体。
【請求項2】
前記第1立設部とは別の部材で構成される壁形成部を備え、その壁形成部は、前記第1立設部の他面と対向する面を有し前記竪樋の上端の残部に取着されることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両構体。
【請求項3】
前記管体の下流端に対して鍔状に形成されると共に、前記第1立設部の一面に当接されるフランジを備え、
そのフランジの端面と前記貫通孔の内周ないしは前記第1立設部の他面とが溶接金属により接合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄道車両構体。
【請求項4】
前記管体の下流端に接続される所定の部材は、前記管体の下流端と前記第1立設部の貫通孔との間に介設される集水器であり、
前記集水器は、
前記フランジが形成されると共に前記第1立設部に当接される先端部と、
前記管体の下流端が接続される第1開口および別の排水管の下流端が接続される第2開口が形成される後端部と、
その後端部から前記先端部に向かって下降傾斜する底部とを備えていることを特徴とする請求項3記載の鉄道車両構体。
【請求項5】
前記竪樋の上端の一部から上方に立設されると共に、前記第1立設部に連設される板状の第2立設部を備え、
前記壁形成部は、前記第1立設部および前記第2立設部とは別の部材で構成されるものであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の鉄道車両構体。
【請求項6】
前記妻構体は、妻外板と、その妻外板の幅方向両側に連結されると共に前記側構体の長手方向端部が連結され前記竪樋が内蔵される一対の隅柱とを備え、
前記第1立設部は、他方の前記隅柱を臨む面に立設されるものであり、
前記第2立設部は、前記第1立設部に連設されて前記側構体側に立設されるものであることを特徴とする請求項5記載の鉄道車両構体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−78973(P2013−78973A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219109(P2011−219109)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)