説明

鉄道軌道の現場計測用センサのノイズ低減システム

【課題】 センサに給電される電圧と出力される信号の比をセンサ直近にて取得することにより、電源系に依存するノイズの混入を消去もしくは大幅に低減することができる鉄道軌道の現場計測用センサのノイズ低減システムを提供する。
【解決手段】 鉄道軌道の現場計測用センサのノイズ低減システムにおいて、外部電源11からの現場計測用センサ12の駆動電圧を前記現場計測用センサ12に接続されるA/D変換装置13の基準電圧発生装置14の基準電圧として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道軌道の現場計測用センサのノイズ低減システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
列車走行時の軌道構造の測定は従来より行われているが、いずれもレールやまくらぎ表面に関するものであり、測定が困難な道床内部の砕石の挙動を直接測定した事例は少ない。砕石中に加速度センサーを埋め込んだ計測事例はあるものの、得られるデータは特定の一軸方向に関する測定値のみであり、砕石自体がどの軸を向いているのかもわからず、しかも、砕石の三次元的な動きについては把握できなかった。
【0003】
なお、落石の運動を測定するために、落石の内部に加速度センサーを取り付けて計測したものがある(下記非特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、この計測方法では、一軸センサーを用いており、落石が回転すると、運動方向の変化が検出できない。また、有線接続でないので、計測データの取得が困難である。
【0005】
従来、鉄道軌道に関する動的な測定においては、測定対象物の変位、変形、速度、加速度、応力、荷重などの物理的な現象を、各種のセンサにより、抵抗値の変化や誘電容量の変化に変換し、その変化量を電圧の大きさや電流量の変化に換算して測定を行なう。実際の測定では、加速度センサや応力センサなどを測定対象物に取り付け、外部より長い電源ケーブルを用いて測定用電力をセンサ本体に給電し、センサからの出力を再度ケーブルを介して電圧を取得することになる。その際、電源側にノイズが入ると、そのまま、センサの出力電流にノイズが加わることになり、センサの出力に関する測定信号とノイズの分離が課題となっていた。
【特許文献1】「落石の運動機構に関する研究 その2−落石運動の測定方法,右城 猛、篠原昌二、家石一美、四国の地盤災害・地盤環境に関するシンポジウム,地盤工学会四国支部、2004年9月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高精度に安定した電源装置とシールドされたケーブルを用いてセンサに給電し、センサからの出力電圧をシールドされたケーブルで取得し、それを外部で高分解能のA/D変換装置で分解するだけでは、センサからの信号とノイズを分離することができず、根本的な解決につながっていなかった。
【0007】
本発明は、この問題を解決するために、センサに給電される電圧と出力される信号の比をセンサ直近にて取得することにより、電源系に依存するノイズの混入を消去もしくは大幅に低減することができる鉄道軌道の現場計測用センサのノイズ低減システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕鉄道軌道の現場計測用センサのノイズ低減システムにおいて、外部電源から供給される現場計測用センサの駆動電圧を、前記現場計測用センサに接続されるA/D変換器の基準電圧発生装置の基準電圧として用いることを特徴とする。
【0009】
〔2〕上記〔1〕記載の鉄道軌道の現場計測用センサのノイズ低減システムにおいて、前記現場計測用センサがホイートストーンブリッジ回路を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、現場計測用センサの駆動電圧を、A/D変換器の基準電圧発生器の基準電圧とする簡単な現場計測用センサの改良により、高精度の計測を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の鉄道軌道の現場計測用センサのノイズ低減システムは、外部電源から供給される現場計測用センサの駆動電圧を、現場計測用センサに接続されるA/D変換器の基準電圧発生装置の基準電圧として用いる。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明の実施例を示す鉄道軌道の現場計測用センサのノイズ低減システムの概略構成図である。
【0014】
この図において、1は外部電源、2は現場計測用センサ、3はA/D変換装置、4は計測出力装置である。
【0015】
ここでは、外部電源1からの現場計測用センサ2へ入力電圧を現場計測用センサに接続されるA/D変換装置3の基準電圧発生装置(図示なし)の入力電圧とすることにより、現場計測用センサ2のノイズの低減化を図ることができる。
【0016】
図2は本発明の実施例を示す鉄道軌道の現場計測用センサのノイズ低減システムの要部構成図である。
【0017】
この図において、11は外部電源、12は外部電源11に接続される現場計測用センサとしてのホイートストーンブリッジ回路、13はホイートストーンブリッジ回路12からの出力電圧が入力されるA/D変換装置(PIC:programmable integratid circuit)、14はA/D変換装置13内の基準電圧発生装置、15はコンパレータ、16はデータ出力装置である。
【0018】
このシステムにおいて、基準電圧発生装置14の入力電圧は外部電源11から供給される電圧を用いる。つまり、現場計測用センサとしてのホイートストーンブリッジ回路12の入力電圧と同じにする。
【0019】
これにより、例えば、外部電源11から供給される電圧にノイズが重畳していても、現場計測用センサとしてのホイートストーンブリッジ回路12からのコンパレータ15への入力電圧条件と基準電圧発生装置14からのコンパレータ15への入力電圧条件が同一となることになり、現場計測用センサのノイズの低減を図ることができる。
【0020】
以下、実際の例について説明する。
【0021】
図3は本発明にかかる現場計測用センサとしてのストーンを設置する鉄道軌道を示す図、図4は本発明にかかる現場計測用センサとしてのストーンを示す図面代用写真、図5はその現場計測用センサとしてのストーンの設置状況を示す図面代用写真である。
【0022】
図3において、21は路盤、22はバラスト、23はコンクリートまくらぎ、24はレール、25はコンクリートまくらぎの下のバラスト22に配置される現場計測用センサとしてのストーン、26はそのストーン25からの引き出しケーブルである。
【0023】
図4に示すように、現場計測用センサとしてのストーン25は周囲をコンクリート接着材で補強されており、図3及び図5に示すように、例えば、コンクリートまくらぎ23の下部にへ設置されて、軌道の変状を計測することができる。
【0024】
センサの一例として例えば、ひずみゲージは、物理的な長さの変化を抵抗値の変化とするものである。抵抗値の変化自体にはノイズは含まれないが、抵抗値の変化を外部より読み取るために、センサに電流を流し、抵抗値の変化量を電流の変化量に変換し、それをセンサ出力抵抗の両端に生じる起電力で取得する。一般にはこのプロセスをホイートストーンブリッジ回路などを用いて行っている。センサからの出力電圧Eoutは、センサに供給した電圧Einに比例する。
【0025】
Eout=kREin
ここで、Rはセンサの抵抗値、kは比例定数とする。
【0026】
ここで、EinにノイズαEinが混入すると、センサの入力電圧は、
Ein′=Ein+αEin=(1+α)Einとなり、
Eout′−Eout=kR(1+α)Ein−kEin=kRαEin
の大きさのノイズが出力電圧に混入することになる。
【0027】
一方、測定者は、出力電圧の変化をノイズの混入によるものと識別できないため、センサの抵抗値変化Rによるものと判断することになり、センサの係数がRからR(1+α)に変化したものと間違ってしまう。
【0028】
この対策として、ホイートストーンブリッジ回路直近にて、入力電圧と出力電圧との比をとれば、ノイズ混入前は、Eout/Ein=kとなり、ノイズの混入後は、
Eout′/Ein′=kR(1+α)Ein/(1+α)Ein=kとなり、電源系のノイズの混入を消去できるが、従来はそれを達成する具体的な技術がなかった。
【0029】
本発明では、A/D変換の分解能が10bitの場合について考える。
【0030】
A/D変換の分解能が10bitであるから、基準電圧を210=1024個に分割したものが測定可能な最小単位となる。上述の例においてノイズ混入前の状態では、センサに供給した電圧Einであるから、これを1024に分割したものが測定単位となる。ここでは測定最小単位の電圧をd=Ein/1024と表示する。このときセンサの出力電圧はEout=kREinであり、A/D変換すると、測定最小単位電圧dでこれを割ったものが測定値となる。
【0031】
Eout/d=kREin/(Ein/1024)=1024kR
EinにノイズαEinが混入した場合、センサの入力電圧は、
Ein′=(1+α)Einである。
【0032】
本発明の装置では、A/D変換の基準電圧にセンサの入力を用いるので、この場合の測定最小単位電圧d′は、d′=(1+α)Ein/1024となる。
【0033】
この場合、センサの出力電圧は、Eout′=kR(1+α)Einであり、これをA/D変換すると、センサの出力電圧Eout′を測定最小単位電圧d′で割ったものが測定値となる。
【0034】
Eout′/d′=kR(1+α)Ein/〔(1+α)Ein/1024〕=1024kR
これは、ノイズ混入前のA/D変換の値と全く同じである。
【0035】
したがって、センサの入力電圧をA/D変換時の基準電圧に用いることにより、電源系に混入するノイズの影響を除去・低減することが可能になる。
【0036】
道床の振動加速度の測定に本発明のシステムを適用した。本現場の測定では、発電機からの電源を用い、高電圧で高速走行する鉄道車両の直下にて測定するため、従来の計測法では、信号の中に数%〜10%のノイズが混入していたが、本発明を導入することにより、同じ条件下で、センサの出力信号に含まれるノイズを0.1〜0.2%に低減することに成功した。
【0037】
以下,その現場における道床振動加速度の測定結果について説明する。
【0038】
JRの営業線のまくらぎ直下に加速度加速度センサ(±10G)を埋設して現場測定を行った。
【0039】
本発明にしたがって、センサの直近にてA/D変換(10bit分解能)し、光ケーブルでデータを取得し、その後、デジタルデータを実加速度値に換算した。
【0040】
図6は特急車両(走行速度115km/h)通過時のまくらぎ直下での道床振動加速度の測定値(鉛直方向成分)のA/D変換結果を示す図である。この図において、縦軸は鉛直方向の加速度測定値(単位:m/s2 )、横軸は時刻(単位:1/1000秒)である。
【0041】
車両通過直前の無載荷時は、列車走行荷重が加わらない状態なので、センサーの出力値は本来は一定値となるはずである。
【0042】
図7は特急車両が通過する直前の測定値であり、測定時間における平均値からの変動を示す図である。図中、縦軸はセンサの最大測定範囲(−16Gから+16Gまでのおよそ320m/s2 幅)に対する、測定値の変動量を相対誤差(%)で示したものである。本発明による測定結果では、無載荷時の出力値はほぼ一定であり、相対誤差の標準偏差は0.0575%であった。
【0043】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の鉄道軌道の現場計測用センサのノイズ低減システムは、電源系に混入するノイズの影響を除去・低減することができる現場計測用センサとして利用可能ある。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施例を示す鉄道軌道の現場計測用センサのノイズ低減システムの概略構成図である。
【図2】本発明の実施例を示す鉄道軌道の現場計測用センサのノイズ低減システムの要部構成図である。
【図3】本発明にかかる現場計測用センサとしてのストーンを設置する鉄道軌道を示す図である。
【図4】本発明にかかる現場計測用センサとしてのストーンを示す図面代用写真である。
【図5】本発明にかかる現場計測用センサとしてのストーンの設置状況を示す図面代用写真である。
【図6】特急車両(走行速度115km/h)通過時のまくらぎ直下での道床振動加速度の測定値(鉛直方向成分)のA/D変換結果を示す図である。
【図7】特急車両が通過する直前の測定値であり、測定時間における平均値からの変動を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1,11 外部電源
2 現場計測用センサ
3 A/D変換装置
4 計測出力装置
12 現場計測用センサ(ホイートストーンブリッジ回路)
13 A/D変換装置(PIC)
14 基準電圧発生装置
15 コンパレータ
16 データ出力装置
21 路盤
22 バラスト
23 コンクリートまくらぎ
24 レール
25 現場計測用センサとしてのストーン
26 引き出しケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部電源から供給される現場計測用センサの駆動電圧を、前記現場計測用センサに接続されるA/D変換器の基準電圧発生装置の基準電圧として用いることを特徴とする鉄道軌道の現場計測用センサのノイズ低減システム。
【請求項2】
請求項1記載の鉄道軌道の現場計測用センサのノイズ低減システムにおいて、前記現場計測用センサがホイートストーンブリッジ回路を含むことを特徴とする鉄道軌道の現場計測用センサのノイズ低減システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−235698(P2009−235698A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80895(P2008−80895)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】