説明

銀および鉛の回収方法

【課題】 飛灰を少なくとも水洗して得た、銀、鉛およびカルシウムを含む澱物から、銀および鉛を、簡単な操作で純度よく回収できるとともに、該澱物の再資源化を図ることができる銀および鉛の回収方法を提供する。
【解決手段】 飛灰を少なくとも水洗して得た、銀、鉛およびカルシウムを含む澱物から銀および鉛を回収する方法であって、下記の工程(a)と工程(b)とを含む、銀および鉛の回収方法。
(a)前記澱物と水を混合してスラリーとした後、該スラリーと塩酸を混合して、カルシウムの塩化物(液分)と、銀および鉛の塩化物(固形分)とを生成させる、塩化物生成工程
(b)前記カルシウムの塩化物(液分)と、前記銀および鉛の塩化物(固形分)とを固液分離して、銀および鉛の塩化物を同時に回収する、銀・鉛同時回収工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛灰を少なくとも水洗して得た、銀、鉛およびカルシウムを含む澱物から、銀および鉛を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄物の再資源化を促進するため、ゴミ焼却灰や石炭灰等の廃棄物が、セメントクリンカの焼成原料(以下「セメント原料」という。)の一部として、多量に使用されている。これらの廃棄物には、カルシウムやケイ素等のクリンカ鉱物を構成する元素のほかに、鉛や亜鉛等の重金属や塩素などの夾雑物も含まれている。しかし、かかる重金属の多くは、クリンカ焼成時に、塩素と反応して低沸点の塩化物を生成し、セメントキルンの排ガス中に揮散しやすい。そして、この排ガスを冷却すると、重金属の塩化物が析出すること、また、該塩化物は、排ガス中の飛灰に、特に、その細粒分(微粒ダスト)に濃縮されて存在することが知られている(特許文献1の段落0015、図4等)。
【0003】
これらの性質を利用して、セメントキルン等の排ガスから細粒分を回収した後、さらに、該細粒分から重金属を分離・回収する方法が提案されている。
例えば、特許文献2では、(A)粗粒分と、重金属を含む細粒分等とを含む排ガスから、粗粒分を分離して回収し、重金属を含む細粒分等を含む排ガスを得る粗粒分回収工程と;(B)工程(A)で得られた排ガスから、重金属を含む細粒分を分離して回収する細粒分回収工程等と;(E)工程(B)で得られた重金属を含む細粒分から、湿式処理により重金属を除去して、重金属が除去された固体分を得る重金属除去工程等とを含む、排ガスの処理方法が提案されている(請求項1、段落0023)。そして、工程(E)で得られた、重金属が除去された固体分は、セメント原料として用いられる(段落0024)。
【0004】
また、特許文献3では、ゴミ焼却設備等で発生する飛灰などであって、カルシウム、鉛、亜鉛、銅および塩素分を含む飛灰等(重金属含有粉末)に、水を混合してスラリーとして水洗した後、pH調整と固液分離を交互に繰り返して、水分量の少ない鉛および亜鉛の混合物と、銅と、カルシウムとを、それぞれ含む固形分を分離・回収する、重金属含有粉末の湿式の処理方法が提案されている(請求項1)。そして、前記の回収されたカルシウムを含む固形分は、セメント原料として用いられる(段落0012)。
【0005】
前記カルシウムを含む固形分のような、飛灰を湿式処理して得た澱物は、近時における飛灰の再資源化の促進に伴い増加している。しかし、今まで、該澱物は、上記の通り、セメント原料として再利用されるに過ぎず、これ以外の用途での再利用(再資源化)は行われていなかった。
そこで、本発明者は、該澱物の新たな再資源化を目的として、該澱物を分析したところ、該澱物は、常時、数質量%もの銀を含むという知見を得た。
【0006】
本発明者は、この知見を得て、さらに、該澱物から銀を回収するために、電気分解法、沈殿法、イオン交換法、クラウンエーテル抽出法、および、浮遊選鉱法などの、公知の銀の回収方法を試みたところ、いずれも経済性の点で問題があった。すなわち、これらの方法では、銀の含有率が低い回収原料を対象として、銀の含有率を銀鉱石程度のレベルに高める場合には有用であるとしても、銀の含有率が高い前記澱物を対象とした場合には、1回の操作では銀の回収率が低いために、繰り返し操作が必要となって手間がかかり、実用的ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−52742号公報
【特許文献2】特開2005−757号公報
【特許文献3】特開2007−105561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明は、飛灰を少なくとも水洗して得た、銀、鉛およびカルシウムを含む澱物(以下「銀・鉛等含有澱物」という。)から、銀と鉛を簡易な操作で純度よく回収することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、(1)銀・鉛等含有澱物に含まれる銀と鉛は、いずれも塩化物の形態にして、銀とともに鉛を同時に分離して回収すれば、純度の高い銀と鉛の混合物が得られること、(2)この混合物から、さらに水洗という簡易な操作により、銀および鉛を個別に純度よく回収することができることを見い出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[7]を提供する。
[1]銀・鉛等含有澱物から、銀および鉛を回収する方法であって、下記の工程(a)と工程(b)とを含む、銀および鉛の回収方法。
(a)前記澱物と水を混合してスラリーとした後、該スラリーと塩酸を混合して、カルシウムの塩化物(液分)と、銀および鉛の塩化物(固形分)とを生成させる、塩化物生成工程
(b)前記カルシウムの塩化物(液分)と、前記銀および鉛の塩化物(固形分)とを固液分離して、銀および鉛の塩化物を同時に回収する、銀・鉛同時回収工程
【0011】
[2]工程(b)で回収した銀および鉛の塩化物(固形分)と、60℃以上の水とを混合して、鉛の塩化物を溶解させた後に、鉛の塩化物(液分)と、銀の塩化物(固形分)とを固液分離して、鉛の塩化物と銀の塩化物とを個別に回収する銀・鉛個別回収工程(c)をさらに含む、前記[1]に記載の銀および鉛の回収方法。
[3]工程(b)で固液分離して得たカルシウムの塩化物(液分)と、pH調整剤とを混合して、難溶性カルシウム化合物(固形分)を生成させた後に、該化合物を固液分離して、該化合物を回収するカルシウム回収工程(d)をさらに含む、前記[1]または[2]に記載の銀および鉛の回収方法。
【0012】
[4]前記飛灰がセメントキルンの飛灰である、前記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の銀および鉛の回収方法。
[5]工程(a)において、塩酸を混合したスラリーのpHが0.1〜3.0である、前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の銀および鉛の回収方法。
【0013】
[6]前記pH調整剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、二酸化炭素、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、および、炭酸水素カリウムから選ばれる1種または2種以上である、前記[1]〜[5]のいずれか1項に記載の銀および鉛の回収方法。
[7]工程(d)において、pH調整剤を混合した液分のpHが、8.0〜13.5である、前記[1]〜[6]のいずれか1項に記載の銀および鉛の回収方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、飛灰を少なくとも水洗して得た、銀、鉛およびカルシウムを含む澱物から、銀および鉛を、簡単な操作で純度よく回収できるとともに、該澱物の再資源化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】銀・鉛等含有澱物から、銀および鉛を同時に回収する方法を示す図である。
【図2】銀・鉛等含有澱物から、銀および鉛を個別に回収する方法を示す図である。
【図3】銀・鉛等含有澱物から、銀、鉛およびカルシウムを個別に回収する方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、上述のとおり、(a)銀・鉛等含有澱物と水を混合してスラリーとした後、該スラリーと塩酸を混合して、カルシウムの塩化物(液分)と、銀および鉛の塩化物(固形分)とを生成させる、塩化物生成工程と、(b)前記カルシウムの塩化物(液分)と、前記銀および鉛の塩化物(固形分)とを固液分離して、銀および鉛の塩化物を同時に回収する、銀・鉛同時回収工程とを含む、銀および鉛の回収方法等である。
以下に、本発明について詳細に説明する。なお、%は特に示さない限り、質量%である。
【0017】
銀・鉛等含有澱物
本発明において、銀・鉛等含有澱物とは、上記のとおり、飛灰を少なくとも水洗して得た、銀、鉛およびカルシウムを含む澱物である。なお、該澱物は、少なくとも、銀、鉛およびカルシウムを含むものであるが、銀等の分離効率を低下させない程度ならば、亜鉛および銅等のその他の重金属や、塩素およびアルカリ金属等を含んでいても差し支えない。
【0018】
前記飛灰として、(1)焼成炉、(2)焼却炉または(3)溶融炉の飛灰が挙げられる。
具体的には、(1)焼成炉の飛灰として、例えば、ゴミ焼却灰等を原料の一部として用いるセメントキルンの飛灰が挙げられる。その中でも、原料として廃棄物の使用量の多いエコセメントクリンカを焼成するためのキルンの飛灰が好ましく、この飛灰の中でも、細粒分は、重金属が濃縮されているため、より好ましい。飛灰の細粒分の粒径は、重金属の含有率が高いことから、100μm以下が好ましく、50μmがより好ましく、10μmが更に好ましい。ここで、飛灰の細粒分は、例えば、セメントキルンから発生した排ガスを、サイクロンに導入して粗粒分を除去した後、該除去後の排ガスをバグフィルタに通すことにより、捕集して回収することができる。
【0019】
また、(2)焼却炉の飛灰として、例えば、ゴミ焼却炉の飛灰があり、乾溜ガス化炉、ストーカー式焼却炉、流動床式焼却炉、または、ロータリーキルン式焼却炉等の飛灰が挙げられる。
さらに、(3)溶融炉の飛灰として、例えば、ガス化溶融炉、電気式溶融炉、燃料式溶融炉、または、直接溶融炉等の飛灰が挙げられる。
【0020】
銀・鉛等含有澱物を得る方法
次に、飛灰から、銀・鉛等含有澱物を得る方法について説明する。
飛灰に含まれる成分は、概略、塩素、アルカリ金属、重金属およびカルシウムに、大別できる。例えば、エコセメントクリンカを焼成するためのキルンの飛灰(細粒分)には、一例として、塩素38%、カリウム13%、ナトリウム32%、鉛2%、銀0.2%、亜鉛1%、銅2%、カルシウム2%などが含まれている(ただし、塩素以外は、酸化物換算)。
したがって、銀・鉛等含有澱物を得る方法は、これらの成分の含有量などに応じて、例えば、以下の(1)水洗方法、または、以下の(1)水洗方法と(2)重金属除去方法とを組み合わせた方法から、適宜、選択することができる。なお、以下の(1)および(2)の方法以外にも、例えば、処理の容易性やコスト等を勘案して、浮遊選鉱法により澱物を得る方法などの、他の方法も選択することができる。
【0021】
(1)水洗方法
本方法は、飛灰と水とを混合して、飛灰に含まれている塩素やアルカリ金属等の水溶性成分を溶出させた後に、固液分離して、水溶性成分が除去された銀・鉛等含有澱物(A)を得る方法である。
また、飛灰と水の混合割合(水1リットルに対する飛灰の質量)は、好ましくは100〜600g/リットル、より好ましくは150〜400g/リットルである。該割合が100g/リットル未満では水が多すぎ、該割合が600g/リットルを超えると、前記水溶性成分が十分に溶出しない場合がある。なお、後述の、(2)重金属除去方法、(i)酸浸出操作、および、(ii)アルカリ浸出操作においても、それぞれにおける固形分と水の混合割合は、前記範囲が好ましい。
【0022】
本方法において、飛灰に含まれる重金属の溶出を抑制して、後で回収する重金属の損失を防ぎたい場合には、飛灰のスラリーのpHを、好ましくは9.0〜12.0、より好ましくは9.0〜11.0に調整する。もっとも、該スラリーのpHが、当初からこの範囲であればpHの調整は不要である。
【0023】
該スラリーは、水溶性成分を十分に溶出させるため、所定時間(例えば、10〜40分間程度)撹拌される。なお、後述の、(2)重金属除去方法、(i)酸浸出操作、(ii)アルカリ浸出操作、(a)塩化物生成工程、(c)銀・鉛個別回収工程、および、(d)カルシウム回収工程においても、それぞれにおける撹拌時間は、前記範囲が好ましい。
【0024】
撹拌後のスラリーから、固液分離手段を用いて、水溶性成分を含む液分を除去して澱物(A)を得る。前記固液分離手段として、フィルタープレスや遠心分離機等が使用できる。後述の、(2)重金属除去方法、(i)酸浸出操作、(ii)アルカリ浸出操作、(b)銀・鉛同時回収工程、(c)銀・鉛個別回収工程、および、(d)カルシウム回収工程においても、固液分離手段として、フィルタープレスや遠心分離機等が使用できる。
なお、澱物(A)は、銅や亜鉛等の重金属の含有量が少なく、これらの含有量が銀等の分離・回収に悪影響を与えない程度であれば、以下の重金属除去方法を省略することができる。
【0025】
(2)重金属除去方法
本方法は、澱物(A)中に、銅や亜鉛等の重金属が多く含まれる場合や、さらに、これらの重金属も、別途、分離して回収する場合などに適用される。
そして、本方法は、前記水溶性成分が除去された澱物(A)を処理対象とし、以下の、(i)酸浸出操作と、(ii)アルカリ浸出操作とを含み、さらに銅や亜鉛等の重金属が除去された銀・鉛等含有澱物(B)を得る方法である。
【0026】
(i)酸浸出操作
本操作は、澱物(A)と、硫酸水溶液を混合して、pHが2.0〜4.0、好ましくは2.5〜3.5である酸性スラリーを得た後、該酸性スラリーを固液分離して、亜鉛と銅(液分)と、カルシウムと鉛の硫酸塩(固形分)とを得る、酸浸出操作である。
該pHが2.0未満では、澱物(A)中のSiOやAlが溶出して、亜鉛や銅を含む液分中に混入するおそれがあり、該pHが4.0を超えると、澱物(A)中の亜鉛と銅の溶出が不十分になる場合がある。
【0027】
(ii)アルカリ浸出操作
本操作は、前記(i)の工程で得られたカルシウムと鉛の硫酸塩(固形分)と、アルカリ水溶液を混合して、pHが13.5以上のスラリーを得た後、該スラリーを固液分離して、鉛(液分)と、水酸化カルシウムを含む銀・鉛等含有澱物(B)とを得る、アルカリ浸出操作である。
該pHが13.5未満では、水酸化カルシウムの生成量と鉛の溶出量が少なくなる場合がある。また、前記アルカリとして、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物などが使用できる。ちなみに、前記スラリーのpHが12.5であれば、鉛の溶出割合は20%程度に留まり、該pHが13.5であれば、該割合は70%程度以上になる。
したがって、本操作で得られる澱物(B)には、通常、当初の鉛含有量に対し30%程度未満の鉛が残存している。
【0028】
次に、本発明の銀および鉛の回収方法において、必須の構成である(a)塩化物生成工程および(b)銀・鉛同時回収工程、並びに、追加的構成である(c)銀・鉛個別回収工程および(d)カルシウム回収工程について説明する。
【0029】
(a)塩化物生成工程
工程(a)は、銅・鉛等含有澱物(A)または(B)に、水を混合してスラリーとした後、該スラリーと塩酸を混合して、カルシウムの塩化物(液分)と、銀および鉛の塩化物(固形分)とを生成させる工程である。
澱物と水の混合割合(水1リットルに対する澱物の質量)は、好ましくは50〜600g/リットル、より好ましくは100〜400g/リットルである。該割合が50g/リットル未満では水が多すぎ、該割合が600g/リットルを超えると、前記カルシウムの塩化物が十分に溶出しない場合がある。なお、後述の(c)銀・鉛個別回収工程および(d)カルシウム回収工程においても、それぞれにおける固形分と水の混合割合は、前記範囲が好ましい。
また、スラリーと塩酸を混合して調製した酸性スラリーのpHは、0.1〜3.0が好ましく、0.5〜2.0がより好ましい。該pHが0.1未満では、該塩化物の生成量は飽和し、該pHが3.0を超えると、該塩化物の生成が不十分になるおそれがある。
【0030】
(b)銀・鉛同時回収工程
工程(b)は、工程(a)で生成させた、カルシウムの塩化物(液分)と銀および鉛の塩化物(固形分)とを固液分離して、銀および鉛の塩化物を同時に回収する工程である。
固液分離手段としては、上述のとおり、フィルタープレスや遠心分離機等が使用できる。
【0031】
(c)銀・鉛個別回収工程
工程(c)は、工程(b)で回収した銀および鉛の塩化物(固形分)と、60℃以上の水とを混合して、鉛の塩化物を溶解させた後に、鉛の塩化物(液分)と、銀の塩化物(固形分)とを固液分離して、鉛の塩化物と銀の塩化物とを個別に回収する工程である。
ここで該水温は、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上が更に好ましい。該水温が60℃未満では、銀の塩化物の溶出が十分ではない。
【0032】
(d)カルシウム回収工程
工程(d)は、工程(b)で固液分離して得たカルシウムの塩化物(液分)と、pH調整剤を混合して、難溶性カルシウム化合物(固形分)を生成させ、該化合物を固液分離して回収する工程である。
前記pH調整剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、二酸化炭酸、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、および、炭酸水素カリウムから選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0033】
前記難溶性カルシウム化合物は、pH調整剤として、前記水酸化ナトリウム等の水酸化物を用いた場合は、主に水酸化カルシウムの形態で得られ、二酸化炭素や炭酸ナトリウム等の炭酸塩を用いた場合は、主に炭酸カルシウムの形態で得られる。
また、難溶性カルシウム化合物を水酸化カルシウムの形態で回収する場合、pH調整剤を混合した液分のpHは、8.0〜13.5が好ましく、9.0〜12.5がより好ましい。該pHが8.0未満では水酸化カルシウムの生成が十分でない。
工程(d)で回収した難溶性カルシウム化合物は、セメント原料として、再利用することができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
1.飛灰の水洗
エコセメントクリンカを焼成するキルンから発生した排ガスから、バグフィルタを用いて捕集した飛灰3kgに、水10リットルを添加して10分間撹拌し、スラリーを得た。次に、該スラリーに濃度35%の塩酸を加えて、該スラリーのpHを10.5に調整した後、該スラリーをフィルタープレスで固液分離し、水溶性成分を除去した澱物(A)600gを得た。
なお、澱物(A)に含まれる成分の組成は、元素換算で、塩素2.3%、カリウム14.9%、ナトリウム0.7%、鉛15.1%、銀1.2%、亜鉛5.8%、銅5.3%、カルシウム8.8%であった。したがって、銅や亜鉛等の重金属が数%以上含まれるため、続けて、該澱物(A)を対象にして、以下に示す銅等の重金属の除去処理をおこなった。
【0035】
2.酸による浸出
澱物(A)を解砕した後、水2.4リットルと、濃度が2モル/リットルの硫酸を添加して、30分間撹拌し、pH3.2のスラリーを得た。次に、該スラリーを、フィルタープレスで固液分離し、硫酸カルシウムおよび硫酸鉛等を含む固形分390gを得た。
【0036】
3.アルカリによる浸出
前記硫酸カルシウム等を含む固形分に対して、水3.9リットルを加えて10分間撹拌し、水酸化ナトリウムを添加して、pH13.8のスラリーを得た。次に、該スラリーをフィルタープレスで固液分離し、銀等を含む澱物(B)250gを得た。
なお、澱物(B)は、含水率が38.7%であり、また、銀、鉛およびカルシウムの含有率は、それぞれ元素換算で、2.6%、24.4%および27.8%であった。
【0037】
4.塩化物の生成、および、銀・鉛の同時回収
澱物(B)200g(乾燥質量:123g)に対し、水1.1リットルを加えてスラリーを得た。
次に、該スラリーに対し、濃度が35%の塩酸215gを添加してpH1.1とし、10分間撹拌して、該酸性スラリー中に、銀、鉛およびカルシウムの塩化物を生成させた。
さらに、該酸性スラリーを、フィルタープレスで固液分離し、銀および鉛の塩化物を含む澱物(C)64g(乾燥質量)と、カルシウムの塩化物を含む液分1.4kgを得た。
澱物(C)に含まれる、銀、鉛およびカルシウムの含有率を表1に示す。
【0038】
5.銀・鉛の個別回収
澱物(C)64g(乾燥質量)に対し、100℃の熱水800gを添加して塩化鉛を溶出させた後、濾別して、塩化銀を含む固形分(D)と塩化鉛を含む液分を得た。
該塩化銀を含む固形分(D)に含まれる銀、鉛およびカルシウムの含有率と、該塩化鉛を含む液分に対し、硫黄(S)/鉛(Pb)のモル比で1.2の水硫化ナトリウムを添加して生成した、硫化鉛を含む固形分(E)に含まれる銀、鉛およびカルシウムの含有率を表1に示す。
【0039】
6.カルシウムの回収
前記4の工程において分離した、カルシウムの塩化物を含む液分1.4kgに対し、濃度が20%の水酸化ナトリウム水溶液340gを添加し、pHを12.2に調整して濾別し、水酸化カルシウムを含む固形分(F)70gを回収した。
該水酸化カルシウムを含む固形分(F)に含まれる、銀、鉛およびカルシウムの含有率を表1に示す。また、銀、鉛およびカルシウムの、澱物(C)と固形分(F)における分配率を表2に示す。
【0040】
[比較例1]
前記澱物(B)122g(乾燥質量:75g)に対し、水1リットルを加えてスラリーを得た。
次に、該スラリーに対し、水硫化ナトリウム6gを添加して硫化物を生成させた後、さらに硫酸水溶液を添加してpH3に調整した。該pH3に調整したスラリーに、イソプロピルザンセート0.3gを添加して、30分間撹拌した。
該撹拌後のスラリーを浮遊選鉱機(FW型浮選機)に移して、浮遊選鉱処理を行った。
該浮遊選鉱処理により得られた浮鉱(G)に含まれる、銀、鉛およびカルシウムの含有率を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
表1および表2に示すように、銀および鉛は、澱物(C)中に高濃度で濃縮される一方、カルシウムは、固形分(F)中に高濃度で濃縮されている。したがって、本発明における、塩化物生成工程および銀・鉛同時回収工程(請求項1)を用いれば、銀および鉛と、カルシウムを、極めて高い効率で分離・回収することができる。
また、表1に示すように、固形分(D)には銀が、また、固形分(E)には鉛が高濃度で含まれていることから、前記塩化物生成工程および銀・鉛同時回収工程を経ることにより、次工程である銀・鉛個別回収工程(請求項2)において、銀と鉛を個別に純度よく分離して回収することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛灰を少なくとも水洗して得た、銀、鉛およびカルシウムを含む澱物から、銀および鉛を回収する方法であって、下記の工程(a)と工程(b)とを含むことを特徴とする、銀および鉛の回収方法。
(a)前記澱物と水を混合してスラリーとした後、該スラリーと塩酸を混合して、カルシウムの塩化物(液分)と、銀および鉛の塩化物(固形分)とを生成させる、塩化物生成工程
(b)前記カルシウムの塩化物(液分)と、前記銀および鉛の塩化物(固形分)とを固液分離して、銀および鉛の塩化物を同時に回収する、銀・鉛同時回収工程
【請求項2】
工程(b)で回収した銀および鉛の塩化物(固形分)と、60℃以上の水とを混合して、鉛の塩化物を溶解させた後に、鉛の塩化物(液分)と、銀の塩化物(固形分)とを固液分離して、鉛の塩化物と銀の塩化物とを個別に回収する銀・鉛個別回収工程(c)をさらに含む、請求項1に記載の銀および鉛の回収方法。
【請求項3】
工程(b)で固液分離して得たカルシウムの塩化物(液分)と、pH調整剤とを混合して、難溶性カルシウム化合物(固形分)を生成させた後に、該化合物を固液分離して、該化合物を回収するカルシウム回収工程(d)をさらに含む、請求項1または2に記載の銀および鉛の回収方法。
【請求項4】
前記飛灰がセメントキルンの飛灰である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の銀および鉛の回収方法。
【請求項5】
工程(a)において、塩酸を混合したスラリーのpHが0.1〜3.0である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の銀および鉛の回収方法。
【請求項6】
前記pH調整剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、二酸化炭酸、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、および、炭酸水素カリウムから選ばれる1種または2種以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の銀および鉛の回収方法。
【請求項7】
工程(d)において、pH調整剤を混合した液分のpHが、8.0〜13.5である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の銀および鉛の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−167332(P2012−167332A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29511(P2011−29511)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】