説明

鋳物砂の再生方法

【課題】従来よりも短い時間で使用済みの鋳物砂を十分な粘結力を持った鋳物砂に再生することが可能な鋳物砂の再生方法を提供する。
【解決手段】先ず、注湯後の砂鋳型を解枠する際に得られる使用済みの鋳物砂を劣化砂と未劣化砂とに分離し別々に回収する。次に、分離回収した劣化砂に対し、水、粘結剤および分離回収した未劣化砂の一部を添加し、これらを混練して劣化砂を再生する。最後に、再生した劣化砂と前記分離回収した未劣化砂の残りとを混合し、その混合砂の性状を整える。こうして、使用済みの鋳物砂のほぼ全量を再使用可能な状態に再生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注湯後の砂鋳型を解枠する際に得られる使用済みの鋳物砂を再使用可能な状態に再生するための鋳物砂の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
砂鋳型の成形に用いられる鋳物砂は、骨材としての砂(珪砂等)に少なくとも水及び粘結剤を添加して調製されている。かかる鋳物砂で作られた砂型に金属溶湯を注湯して鋳造を行った場合、図3に示すように、砂型内に水分凝縮層S3が生ずると共に、その水分凝縮層S3を境界として砂型が内側砂部S1と外側砂部S2とに区分されることが知られている(特許文献1,2参照)。内側砂部S1は、鋳造物の表面付近を覆うと共に溶湯の熱で水分が失われた部位である。内側砂部S1にあった水分が外に向けて移動・凝縮して層状をなしたものが水分凝縮層S3であり、その水分凝縮層S3よりも外側に位置するのが外側砂部S2である。
【0003】
内側砂部S1を形成している鋳物砂は、単に水分が失われているだけでなく、溶湯の熱により粘結剤が焼死した割合が高く、骨材同士の潜在粘結力が極めて低い状態にある。これに対し、外側砂部S2を形成している鋳物砂は、溶湯の熱の影響をほとんど受けておらず、粘結剤も焼死していないため、骨材同士の潜在粘結力も造型当初の状態をほぼ維持している。従って内側砂部S1の鋳物砂は、新たな粘結剤等の追加無しでは再使用できないことから「劣化砂」と呼ばれる。他方、外側砂部S2の鋳物砂は、新たな粘結剤等の追加無しでも再使用可能であることから「未劣化砂」と呼ばれる。
【0004】
従来、劣化砂と未劣化砂が混在してなる使用済み鋳物砂を再使用可能な状態に再生する方法が種々提案されている。例えば、特許文献1の鋳物砂の再生方法では、先ず、注湯後の使用済み鋳物砂が、溶湯により高温にさらされた砂(劣化砂)とその外方の砂(未劣化砂)とに分離され、別々に回収される。次に、分離回収された劣化砂に対して水及び結合剤が添加され、劣化砂が再生される。ちなみに特許文献1では、真空混練装置を用いて劣化砂、水及び結合剤(ベントナイト)を混練することで、結合剤添加量の減少(節約)を図りつつ劣化砂を再生している(同文献第0036段落参照)。最後に、劣化砂を再生した砂と、分離回収された外方の砂(未劣化砂)とを混合することで、使用済み鋳物砂のほぼ全量を再使用可能としている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−249482号公報
【特許文献2】特開2001−252745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のような手順を経て再生された鋳物砂であっても、骨材の粘結力があまり強くならないことが多い。というのも、一般に鋳物砂用の粘結剤(例えばベントナイト)は、単に水と接触するだけでは十分な粘結力を発現し難く、長時間かけて粘結剤に水分が浸透することで十分な粘結力を発現し得る。つまり、分離回収された劣化砂に対し単に水及び結合剤を添加し混練することで劣化砂の促成的再生を図ろうとしても、それは叶わず、従って最後に混合して得られる鋳物砂の粘結力を直ちに十分なものにすることができなかった。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、従来よりも短い時間で使用済みの鋳物砂を十分な粘結力を持った鋳物砂に再生することが可能な鋳物砂の再生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の鋳物砂の再生方法は、注湯後の砂鋳型を解枠する際に得られる使用済みの鋳物砂を劣化砂と未劣化砂とに分離し別々に回収する分離回収工程と、前記分離回収工程で得られた劣化砂に対し、水、粘結剤および前記分離回収工程で得られた未劣化砂の一部を添加し、これらを混練する劣化砂再生工程と、前記劣化砂再生工程で得られた鋳物砂と、前記分離回収工程で得られた未劣化砂の残り全部又は一部とを混合し、その混合砂の性状を整える混合調整工程とを経て前記使用済みの鋳物砂を再使用可能な状態に再生することを特徴とするものである。
【0009】
本発明の方法中の劣化砂再生工程では、分離回収工程で得られた劣化砂に対し、水と粘結剤のみならず、分離回収工程で得られた未劣化砂の一部をも併せて添加し、これらを混練することで劣化砂を再生している。従来のように劣化砂に対し水と粘結剤を添加し混練するだけでは、粘結剤が本来有する粘結力を発現するまでに例えば1日以上といった長時間を要するのに対し、本発明のように劣化砂に対し水と粘結剤のみならず未劣化砂の一部をも併せて添加し混練することで、粘結剤が本来の粘結力を発現するまでの時間を短縮することができる。これは、現場(鋳物工場)での試行錯誤に基づく経験的事実である。
【0010】
劣化砂に対する未劣化砂の添加が粘結剤による粘結力の発現を早める理由は定かではないが、一応次のような合理的推測が成り立つ。即ち、未劣化砂を形成する個々の砂粒の表面は焼死していない粘結剤でコーティングされており、この未焼死の粘結剤は十分に含水した状態(粘結力の発現状態)にある。劣化砂と未劣化砂とを機械的に混練する過程で、未劣化砂の砂粒をコーティングしている含水状態の粘結剤の一部が、いわば丸裸状態にある劣化砂の砂粒の表面に転移・付着する。そして、その砂粒の表面に転移した含水状態の粘結剤が、劣化砂再生工程で新たに添加された粘結剤(未含水又は不十分含水の粘結剤)を当該砂粒の表面に引き寄せると共に、その引き寄せられた未含水又は不十分含水の粘結剤に対して水分を橋渡し的に供給する水分供給仲介者(水和誘導剤)の役割を果たす。当初は未含水又は不十分含水状態にあった粘結剤も、初期における水との馴染み難さを乗り越えてある程度まで水和すれば、その後は周囲の水分を自発的に取り込むことが可能になる。このようなプロセスを経て、劣化砂の砂粒は、速やかに粘結力を発現した粘結剤を雪ダルマ的にまとうことができ、その結果、劣化砂全体としての粘結力の早期再生が図られるものと推測される。
【0011】
ちなみに、本発明の方法中の劣化砂再生工程では、劣化砂と未劣化砂の合計に対する未劣化砂の配合割合が15質量%以上となるように未劣化砂を添加することが好ましい。未劣化砂の配合割合が15質量%未満では、劣化砂に対する未劣化砂の配合割合が低くなりすぎて、劣化砂の早期再生を図ることが難しくなるからである。なお、劣化砂と未劣化砂の合計に対する未劣化砂の配合割合を15質量%以上25質量%以下とすることが現実的である。上記劣化砂の早期再生メカニズムによれば、未劣化砂の配合割合が多くて困ることはないものの、未劣化砂の配合割合が増えると劣化砂の再生作業効率が低下し工業的経済性に反する結果となる。それ故、未劣化砂の配合割合を25質量%以下にとどめることが現実的と言える。
【0012】
なお、本発明の方法中の混合調整工程では、必要に応じ水分追加等をすることで混合砂のCB値(コンパクタビリティー値)を整えることが好ましい。また、本発明の方法で使用される粘結剤はベントナイトを主成分とするものであることは好ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上詳述したように本発明の鋳物砂の再生方法によれば、劣化砂再生工程において、分離回収工程で得られた劣化砂に対し、水、粘結剤および分離回収工程で得られた未劣化砂の一部を添加し、これらを混練することで劣化砂を再生するようにしたので、従来よりも短い時間で使用済みの鋳物砂を十分な粘結力を持った鋳物砂に再生することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の一実施形態を図1及び図2を参照しながら説明する。図1は、使用済み鋳物砂の再生手順の一例を示す。なお、本実施形態の鋳物砂は、骨材としての砂(珪砂等)に水及び粘結剤としてのベントナイトを添加して調製したものである。必要に応じてベントナイト以外の添加剤が添加されてもよいことは言うまでもない。かかる鋳物砂は砂鋳型の造型に使用され、その砂鋳型は金属溶湯が注湯されて鋳物の鋳造に使用される。
【0015】
本実施形態では、先ず、注湯後の砂鋳型の解枠時に発生する使用済みの鋳物砂を劣化砂と未劣化砂とに分離しそれぞれを別々に回収する。劣化砂と未劣化砂とを分離回収する方法は特に限定されず、公知の手法を用いることができる。例えば、特許文献1に開示されるように、解枠後の砂型を振動コンベアで搬送する過程で劣化砂と未劣化砂を分離回収してもよい。あるいは、特許文献2に開示されるように、解枠後の砂型を気密構造体内に収容して吸引減圧し、水分凝縮層の水分を沸騰させることで未劣化砂部分を崩壊させて分離(一次バラシ)した後、鋳物(製品)の表面に付着している劣化砂をブラスト処理等によって分離(二次バラシ)してもよい。このような一連の分離回収操作により、劣化砂と未劣化砂とが所定の比率で分離回収される。本実施形態では仮に100質量部の劣化砂と、500質量部の未劣化砂とが回収されたものとする。
【0016】
分離回収された未劣化砂については、これを簡易ダマ砕き装置に投入し、そこで異物除去及びダマ砕きを行う。未劣化砂にかかる「ダマ」とは、粘結剤や水などが偏在して固まったもをいう。なお、500質量部の未劣化砂から一部(25質量部)を取り置く。この一部取り置いた未劣化砂は、後ほど劣化砂再生に利用される。
【0017】
他方、分離回収された劣化砂については、これを異物除去装置に投入し、そこで異物(残存地金やダマ等)を除去する。劣化砂にかかる「ダマ」とは、熱の影響を受けて固化した砂の塊(粒)などをいう。そして、異物除去された劣化砂を劣化砂専用ホッパーに一時貯蔵する。続いて、劣化砂専用ホッパーから切り出した100質量部の劣化砂に対し、上記取り置いた25質量部の未劣化砂を配合する。このときの劣化砂と未劣化砂の合計に対する未劣化砂の配合割合は、25/(100+25)=20質量%である。
【0018】
その後、劣化砂と未劣化砂との混合砂をバッジ処理方式の冷却及び予備混練装置に投入する(図2参照)。この冷却及び予備混練装置は、注水機構及び外気の強制導入機構を具備しており、注水及び外気導入によって高温状態の劣化砂を冷却することができる。予備混練装置内の砂温度が低下したところで、混合砂に対し所要量のベントナイトを添加すると共に、予備混練装置内を水分加湿状態とし、混合砂、水分及びベントナイトの混合物を所定時間(例えば3〜10分間)混練する。予備混練が完了したら、予備混練装置内の砂を砂熟成用ホッパーに移し、所定時間放置して砂を熟成(より具体的にはベントナイトを膨潤)させる。
【0019】
最後に、分離回収された未劣化砂の残り(500−25=475質量部)と、砂熟成用ホッパーで熟成された砂(約125質量部)とを最終混練装置に投入する。最終混練装置としては、混練効率の高い連続ミキサーを例示することができる。そして、最終混練装置で砂を混練すると共に、必要に応じ水を追加等して砂のCB値を調整し、約600質量部の再生砂を生み出す。
【0020】
このように本実施形態では、図2に示すような冷却及び予備混練装置において、劣化砂と、その劣化砂に対して20質量%相当の未劣化砂との混合砂を冷却した後、水で濡れた状態の混合砂に対し所要量のベントナイトを添加し、これらを混練して劣化砂を再生するようにした。それ故、新たに添加したベントナイトが本来の粘結力を発現するまでの時間を短縮することができる。つまり、使用済み鋳物砂を従来よりも短い時間で十分な粘結力を持った鋳物砂に再生することができ、再生鋳物砂の造型要求特性を安定させることができる。また、本実施形態によれば、ベントナイトの使用量を劣化砂の再生に必要な最小量にとどめることができるため、砂の再生コストを抑制(又は低減)することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】使用済み鋳物砂の再生手順を示すフローチャート。
【図2】冷却及び予備混練装置での処理イメージを示す図。
【図3】鋳造物を含んだ分解前の砂型の一例を示す概略断面図。
【符号の説明】
【0022】
S1…内側砂部、S2…外側砂部、S3…水分凝縮層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注湯後の砂鋳型を解枠する際に得られる使用済みの鋳物砂を劣化砂と未劣化砂とに分離し別々に回収する分離回収工程と、
前記分離回収工程で得られた劣化砂に対し、水、粘結剤および前記分離回収工程で得られた未劣化砂の一部を添加し、これらを混練する劣化砂再生工程と、
前記劣化砂再生工程で得られた鋳物砂と、前記分離回収工程で得られた未劣化砂の残り全部又は一部とを混合し、その混合砂の性状を整える混合調整工程と
を経て前記使用済みの鋳物砂を再使用可能な状態に再生することを特徴とする鋳物砂の再生方法。
【請求項2】
前記劣化砂再生工程では、劣化砂と未劣化砂の合計に対する未劣化砂の配合割合が15質量%以上となるように未劣化砂を添加することを特徴とする請求項1に記載の鋳物砂の再生方法。
【請求項3】
前記混合調整工程では、混合砂のCB値を整えることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋳物砂の再生方法。
【請求項4】
前記粘結剤はベントナイトを主成分とするものであることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の鋳物砂の再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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