鋳物製品の製造方法、鋳物製品及び鋳造用金型装置
【課題】製品内部におけるマイクロシュリンケージの発生位置を制御し、高応力負荷部における強度を確保することができる鋳物製品の製造方法及び鋳物製品、並びに、この鋳物製品の製造方法に用いられる鋳造用金型装置を提供する。
【解決手段】鋳造用金型装置20に金属溶湯を供給して鋳物製品を成形する鋳物製品の製造方法であって、鋳造用金型装置20には、製品成形部21と、製品成形部21に連設された冷却フィン成形部25とが設けられおり、製品成形部21及び冷却フィン成形部25に前記金属溶湯を供給し、冷却フィン成形部25において冷却フィン部を形成し、製品成形部21のうち前記冷却フィン部が形成された領域を優先的に凝固させることを特徴とする。
【解決手段】鋳造用金型装置20に金属溶湯を供給して鋳物製品を成形する鋳物製品の製造方法であって、鋳造用金型装置20には、製品成形部21と、製品成形部21に連設された冷却フィン成形部25とが設けられおり、製品成形部21及び冷却フィン成形部25に前記金属溶湯を供給し、冷却フィン成形部25において冷却フィン部を形成し、製品成形部21のうち前記冷却フィン部が形成された領域を優先的に凝固させることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋳造用金型装置に金属溶湯を供給して凝固することで製造される鋳物製品の製造方法、鋳物製品及び鋳造用金型装置に関するものである。
特に、マニュアルトランスミッション(オートマティックマニュアルトランスミッション,デュアルクラッチトランスミッション等の自動制御機能を持つものも含む)用シンクロナイザーリングおよび各種ブッシュ,スリーブ,ライナー等の円筒状部品を鋳物製品として製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、前述のシンクロナイザーリング等の部品は、例えば半連続鋳造法で得られたインゴットに対して熱間押出加工や鍛造加工を行い、さらに機械加工等を行うことによって製造されていた。
最近では、製品の需給変動に柔軟に対応し、かつ、低価格化の要望に応えるために,製造リードタイムの短縮や歩留り改善等によるコストダウンが求められている。しかしながら、上述のような製造工程では、製造リードタイムの短縮をこれ以上推進することは非常に困難であった。
【0003】
一方、特許文献1,2には、溶湯に大気圧+αの圧力を掛けて鋳造する低圧鋳造法によって、鋳物製品を製造する技術が提案されている。
この低圧鋳造法においては、溶解原料の低減を図ることができるとともに、最終製品形状に近似した鋳物製品を製造可能である。このため、低圧鋳造法を適用することにより、製造リードタイムの短縮やコストダウンを図ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−277697号公報
【特許文献2】特開平06−039519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の低圧鋳造法等によって製造される鋳物製品においては、その内部に、凝固収縮に伴うマイクロシュリンケージが存在することになる。マイクロシュリンケージが多く発生した領域に高い応力が負荷された場合には、強度が不足して破損してしまうおそれがあった。このため、シンクロナイザーリング等のように、高い応力が負荷される領域(高応力負荷部)がある部品として、上述の鋳物製品を適用することができなかった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、製品内部でのマイクロシュリンケージの分布状態を制御し、高応力負荷部における強度を確保することができる鋳物製品の製造方法及び鋳物製品、並びに、この鋳物製品の製造方法に用いられる鋳造用金型装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の鋳物製品の製造方法は、鋳造用金型装置に金属溶湯を供給して凝固させる工程を備えた鋳物製品の製造方法であって、前記鋳造用金型装置には、製品成形部と、前記製品成形部に連設された冷却フィン成形部と、が設けられており、前記製品成形部及び前記冷却フィン成形部に前記金属溶湯を供給し、前記冷却フィン成形部において冷却フィン部を形成し、前記製品成形部のうち前記冷却フィン部が形成された領域を優先的に凝固させることを特徴とする。
【0008】
このような構成とされた本発明の鋳物製品の製造方法においては、製品成形部に連設された冷却フィン成形部において冷却フィン部を形成しているので、製品成形部のうち冷却フィン部が形成された領域においては冷却速度が速くなり、冷却フィン部が形成されていない領域では冷却速度が遅くなる。よって、冷却フィン部が形成された領域では、冷却フィン部が形成されていない領域に比べて相対的に凝固が早く進行することになり、冷却フィン部が形成された領域から冷却フィン部が形成されていない領域へとマイクロシュリンケージを移動できる。このように、冷却フィン部を形成することで、マイクロシュリンケージの分布状態を制御することができるのである。
よって、高応力負荷部を有する部品であっても、高応力負荷部における強度を確保することができるので、鋳物製品として製造することが可能となる
【0009】
本発明の鋳物製品の製造方法においては、前記鋳物製品の熱伝導率λ(W/m/K)、前記鋳物製品と前記鋳造用金型装置との間の熱伝達率η(W/m2/K)、前記鋳物製品の体積VP、前記鋳物製品の有効表面積AP、前記鋳物製品の表面積AP0、前記冷却フィン部の体積VF、冷却フィン部の表面積AF、とした場合において、
ω={(VP/AP)2+(VF/AF)2}/(VP/AP0)2
と定義されるωが、0.95以下とされていることが好ましい。
【0010】
このωは、(冷却フィン部を形成した場合の鋳物製品の凝固時間比+冷却フィン部の凝固時間比)/(冷却フィン部を形成しない場合の鋳物製品の凝固時間比)を意味するものである。このωを0.95以下となるように冷却フィン部を形成することで、製品成形部の凝固時間が短くなることになる。したがって、製品成形部のうち冷却フィン部を形成した領域における冷却速度が速くすることができ、当該領域におけるマイクロシュリンケージのサイズを小さく、かつ、密度を低くすることが可能となる。なお、この作用効果を確実に奏功せしめるためには、ωを0.9以下とすることが好ましい。
【0011】
ここで、冷却フィン部の長さをl、厚さをd,高さをhとし、冷却フィン部が形成されている製品成形部の領域長さ(lに平行)をL、厚み(dに平行)をD、高さ(hに平行)をHと定義したとき、ωは以下の式で表現される。
【数1】
【0012】
上述の式のεは、冷却フィン部がある場合の抜熱量と冷却フィン部がない場合の抜熱量の比であるフィン有効度である。このフィン有効度εは、以下の式で定義される。
【数2】
〔0010〕に記載の場合には、εは以下の式で、定義される。
【数3】
〔0010〕に記載の場合には、上述の式のmは、以下の式で定義される。
【数4】
【0013】
図1に、鋳物製品と鋳造用金型装置との間の熱伝達率η=2000W/m2/K、鋳物製品の熱伝導率λ=100W/m/K、製品成形部の領域長さL=60mm、製品成形部の領域高さH=5mm、製品成形部の領域厚さD=10mm、冷却フィン部の長さl=30mmとした場合における、冷却フィン部の厚さd及び高さhとωとの関係を示す。図1に示す例においては、ωが0.95以下となるように、冷却フィン部の厚さd及び高さhを設計することになる。
【0014】
ここで、製品成形部の領域長さLは、冷却フィン部の長さlとの相対関係によって、次のように定義される。図2に示すように、鋳物製品のL×D面及び冷却フィン部のl×d面において、フィン有効度であるε倍の抜熱効果εldと等しい四角形(l+2x)(d+2x)を仮定する。このとき、L´は、以下の式で表される。
【数5】
【0015】
図3に示すように鋳物製品に対して冷却フィン部が単独で形成されており、鋳物製品の領域長さLが上述のL´より小さい場合には、ωは以下の式で表現される。
【数6】
【0016】
図4に示すように鋳物製品に対して冷却フィン部が単独で形成されており、鋳物製品の領域長さLが上述のL´以上である場合、あるいは、図5に示すように鋳物製品に対して冷却フィン部が周期的に形成されており、冷却フィン部の周期Tが上述のL´以上である場合には、ωは以下の式で表現される。
【数7】
【0017】
図6に示すように鋳物製品に対して冷却フィン部が周期的に形成されており、冷却フィン部の周期Tが上述のL´よりも小さい場合には、ωは以下の式で表現される。
【数8】
【0018】
このように、ω={(VP/AP)2+(VF/AF)2}/(VP/AP0)2で定義されるωは、冷却フィン部の配置によって計算式が変化するものである。
【0019】
本発明の鋳物製品の製造方法においては、前記冷却フィン部は、前記鋳物製品との接続部の両端から前記冷却フィン部中央部の突端とを結ぶ線分とで構成される三角形を設定したときに、前記冷却フィン部がその三角形の内部に位置するように形成されていることが好ましい。例えば、図2から図6に記載された冷却フィン部のLH面において、上述のように、冷却フィン部の形状が規定されていることが好ましい。
この場合、製品成形部において、冷却フィン部の中央部から端部、さらに冷却フィン部が形成されていない領域に向かう凝固の指向性が強くなり、冷却フィン部が形成された領域におけるマイクロシュリンケージの低減効果がさらに向上することになる。
【0020】
前記冷却フィン部の厚さを、前記冷却フィン部の突出方向で漸減させた構成とすることが好ましい。例えば、図2から図6に記載された冷却フィン部のDH面において、上述のように、冷却フィン部の形状が規定されていることが好ましい。
この場合、冷却フィン部の冷却効率を向上させることができ、前記製品成形部のうち前記冷却フィン部が形成された領域の冷却速度を向上することができる。
【0021】
前記冷却フィン部に、さらに第2冷却フィン部を形成することが好ましい。
この場合、冷却フィン部の冷却効率をさらに向上させることができ、前記製品成形部のうち前記冷却フィン部が形成された領域の冷却速度を確実に向上することができる。
【0022】
前記冷却フィン成形部に、表面積を大きくする凹凸部が形成されていることが好ましい。
この場合、冷却フィン形成部の表面積が大きくなり、放熱が促進されることになる。なお、この凹凸部は、エンボス加工等によって形成されるものであってもよい。
【0023】
また、前記冷却フィン部を、周期的に複数配置することが好ましい。
この場合、製品成形部における凝固バランスが安定することになる。
【0024】
本発明の鋳物製品は、前述の鋳物製品の製造方法によって製造されたことを特徴としている。
この構成の鋳物製品においては、マイクロシュリンケージの分布状態が制御されているので、高応力負荷部における強度を確保できる。よって、荷重が負荷される部品としても適用することができる。
【0025】
本発明の鋳造用金型装置は、製品成形部と、前記製品成形部に連設された冷却フィン成形部と、が設けられ、前述の鋳物製品の製造方法において用いられることを特徴としている。
この構成の鋳造用金型装置においては、前述の鋳物製品の製造方法を実施することができ、マイクロシュリンケージの分布状態が制御された鋳物製品を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、製品内部でのマイクロシュリンケージの分布状態を制御し、高応力負荷部における強度を確保することができる鋳物製品の製造方法及び鋳物製品、並びに、この鋳物製品の製造方法に用いられる鋳造用金型装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】冷却フィン部の厚さ及び高さとωとの関係を示す図である。
【図2】鋳物製品と冷却フィン部の説明図である。
【図3】鋳物製品に冷却フィン部が単独で形成された場合を示す説明図である。
【図4】鋳物製品に冷却フィン部が単独で形成された場合を示す説明図である。
【図5】鋳物製品に冷却フィン部が周期的に複数形成された場合を示す説明図である。
【図6】鋳物製品に冷却フィン部が周期的に複数形成された場合を示す説明図である。
【図7】本発明の実施形態である鋳物製品の斜視図である。
【図8】本発明の実施形態である鋳造用金型装置の概略断面説明図である。
【図9】本発明の実施形態である鋳物製品の製造方法を示すフロー図である。
【図10】図8に示す鋳造用金型装置の内部における凝固状態を示す説明図である。
【図11】実施例における組織観察の位置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
まず、本発明の実施形態である鋳物製品、鋳物製品の製造方法及び鋳造用金型装置について、図7から図10を参照して説明する。
【0029】
本実施形態である鋳物製品10は、自動車等に用いられるマニュアルトランスミッション用のシンクロナイザーリングの素材であり、荷重が負荷される部品となるものである。本実施形態である鋳物製品10は、図7に示すように、貫通孔を有するとともに、軸線Oを中心とする円環状をなしている。
また、この鋳物製品10は、例えば、MBA2、MBA5、MBA52(MMCスーパーアロイ株式会社製)といった高力黄銅で構成されている。
【0030】
ここで、本実施形態である鋳物製品10は、溶湯に大気圧+αの圧力を掛けて鋳造する低圧鋳造法によって製造される。
本実施形態では、図8に示す鋳造用金型装置20を用いて、鋳物製品10を製造することになる。
【0031】
この鋳造用金型装置20は、図8に示すように、製品成形部21と、この製品成形部21の下方に接続された湯道部22と、を備えている。この湯道部22には、湯溜り部23と、湯溜り部23への溶湯を供給する溶湯供給路24と、が形成されている。
本実施形態では、製品成形部21のうち鋳物製品10の側壁部の外周面となる位置に湯道部22が接続されている。
【0032】
そして、製品成形部21には、冷却フィン成形部25が連設されている。本実施形態では、冷却フィン成形部25は、製品成形部21の外周側に配置されており、三角形平板状をなしている。また、3つの冷却フィン成形部25を備えており、これら3つの冷却フィン成形部25と湯道部22とが、周方向に90°間隔に配置されている。
この冷却フィン形成部25は、製品成形部21よりも厚みが薄くされており、優先的に凝固するように構成されている。
【0033】
そして、冷却フィン成形部25によって成形される冷却フィン部11と、製品成形部21によって成形される鋳物製品10との関係は、次のように規定されている。
鋳物製品10の熱伝導率λ(W/m/K)、鋳物製品10と鋳造用金型装置20との間の熱伝達率η(W/m2/K)、鋳物製品10の体積VP、鋳物製品10の有効表面積AP、鋳物製品10の表面積AP0、冷却フィン部11の体積VF、冷却フィン部11の表面積AF、とした場合において、
ω={(VP/AP)2+(VF/AF)2}/(VP/AP0)2
と定義されるωが、0.95以下とされており、好ましくは0.9以下とされている。
【0034】
また、本実施形態では、冷却フィン部11は、鋳物製品10との接続部の両端から冷却フィン部11中央部の突端とを結ぶ線分とで構成される三角形を設定したときに、冷却フィン部11がその三角形の内部に位置するように形成されている。
【0035】
次に、このような構成とされた鋳造用金型装置20を用いて本実施形態である鋳物製品10を製造する方法について、図9を用いて説明する。
【0036】
(溶解工程S01)
まず、MBA2、MBA5、MBA52(MMCスーパーアロイ株式会社製)といった高力黄銅の溶湯を溶製する。溶解原料を調製して、チャネル型低周波誘導溶解炉で溶解することで、所定の組成の銅合金溶湯を得る。
【0037】
(銅溶湯供給工程S02)
次に、得られた銅合金溶湯を、図8に示す鋳造用金型装置20に供給する。このとき、溶湯温度を、融点+10℃以上融点+200℃以下とし、到達圧力を大気圧+0.2bar以上大気圧+1bar以下の範囲内とする。
すると、銅合金溶湯は、湯道部22を介して、製品成形部21及び冷却フィン成形部25に供給される。
【0038】
(凝固工程S03)
鋳造用金型装置20に供給された銅合金溶湯を凝固させる。このとき、図10に示すように、まず、冷却フィン成形部25の部分が優先して凝固して冷却フィン部11が成形される。次に、製品成形部21においては、冷却フィン部11が形成された領域において凝固が促進される。そして、製品成形部21から凝固が進行していき、最終凝固部が、製品成形部21の外部、すなわち、湯道部22(湯溜り部23)に位置することになる。このようにして、鋳造成形品が成形される。
【0039】
(加工工程S04)
そして、凝固工程S03によって得られた鋳造成形品に対して機械加工等を行うことによって、図7に示す鋳物製品10(シンクロナイザーリング素材)が製造される。
【0040】
以上のような構成とされた本実施形態である鋳物製品10、鋳物製品10の製造方法及び鋳造用金型装置20によれば、製品成形部21に連設された冷却フィン成形部25において冷却フィン部11を形成しているので、製品成形部21のうち冷却フィン部11が形成された領域においては冷却速度が速くなり、冷却フィン部11が形成されていない領域では冷却速度が遅くなる。このように、冷却フィン部11を形成することで、冷却速度を調整することが可能となる。このように、冷却速度を調整することにより、マイクロシュリンケージの分布状態を制御することができる。
よって、鋳物製品10の任意の領域における強度を確保することができるので、鋳物製品10を高応力負荷部を有する部品として適用することが可能となる。
【0041】
また、本実施形態では、上述したωが0.95以下、好ましくは0.9以下とされているので、冷却フィン部11を形成した領域の凝固時間が短くなり、凝固が確実に促進されていることになる。よって、冷却フィン部11を形成した領域においては、マイクロシュリンケージのサイズが小さく、かつ、密度が低くなり、強度を確保することができる。
【0042】
さらに、本実施形態では、冷却フィン部11は、鋳物製品10との接続部の両端から冷却フィン部11中央部の突端とを結ぶ線分とで構成される三角形を設定したときに、冷却フィン部11がその三角形の内部に位置するように形成されているので、製品成形部21において、冷却フィン部11の中央部から端部、さらに冷却フィン部11が形成されていない領域に向かう凝固の指向性が強くなり、冷却フィン部11が形成された領域におけるマイクロシュリンケージの低減効果がさらに向上することになる。
また、本実施形態では、冷却フィン部11が円周方向に周期的に複数配置されているので、製品成形部21における凝固バランスが安定することになる。
【0043】
さらに、本実施形態では、製品成形部21の下方に湯道部22が配設され、この湯道部22に湯溜り部23が形成されており、最終凝固部が製品成形部21以外の湯道部22(湯溜り部23)に位置する構成とされているので、鋳物製品10の内部に、引け巣や面引け等の欠陥が生じることを抑制できる。よって、寸法精度及び強度に優れた鋳物製品10を製造することが可能となる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、製品成形部21のうち鋳物製品10の側壁部の外周面となる位置に湯道部22が接続された構造の鋳造用金型装置20を用いて説明したが、これに限定されることはなく、製品成形部のうち鋳物製品の側壁部の端面となる位置に湯道部が接続された構造の鋳造用金型装置であってもよい。
【0045】
また、鋳物製品10を、例えば、MBA2、MBA5、MBA52(MMCスーパーアロイ株式会社製)といった高力黄銅で構成されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の金属材料で構成されたものであってもよい。
さらに、低圧鋳造法によって鋳物製品10を成形するものとして説明したが、これに限定されることはなく、高圧鋳造法等の他の鋳造法であってもよい。
【0046】
また、鋳物製品10が自動車等に用いられるマニュアルトランスミッション用のシンクロナイザーリングの素材であるとして説明したが、これに限定されることはなく、他の部品等に用いられるものであってもよく、用途に限定はない。また、円筒状の製品に限定されることもない。また、鋳造用金型を用いて得られた鋳造成形品を加工することによって得られる部品(例えば、シンクロナイザーリング等)も、本発明の鋳物製品に含まれる。すなわち、上述の鋳造用金型装置に金属溶湯を供給して凝固させる工程を有していれば、他の工程に限定はなく、加工工程や切削工程等を備えていてもよい。
さらに、冷却フィン部の形状等についても、本実施形態に例示されたものに限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
本発明の作用効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
図8に示す形状の鋳造用金型装置において、冷却フィン成形部の形状を表1に示すように変更して、各種鋳造用金型装置を準備した。なお、製品成形部のサイズは、外径60mm,内径50mm、高さ10mmとした。
【0048】
これらの鋳造用金型装置に供給する溶湯として、Zn−62.5mass%Cu−3mass%Al−3mass%Mn−1mass%Si−0.2mass%Cr−0.3mass%Niの組成の銅合金溶湯を、低周波溶解炉で1.8トンを溶製した。
この銅合金溶湯を、溶湯温度が1020℃、到達圧力が大気圧+0.405barの条件で低圧鋳造を行った。
【0049】
製造された鋳物製品について、図11に示す箇所でミクロ観察を行い、マイクロシュリンケージの発生状況を評価した。マイクロシュリンケージが観察されない場合を○、マイクロシュリンケージが観察された場合を×、マイクロシュリンケージは観察されないが、マイクロシュリンケージが観察された隣接領域と同一のデンドライト組織を有している場合を△、として評価した。なお、冷却フィン部を形成しなかった比較例1−3においては、円周方向に30°間隔に位置する5箇所を観察した。
なお、表1におけるフィン形状の「三角形」は、鋳物製品との接続部分を底辺とする二等辺三角形平板状をなすものである。「台形」は、鋳物製品との接続部分を下底とし、この下底の1/2の長さの上底とした等脚台形平板状をなすものである。「四角形」は、長方形平板状をなすものである。
評価結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
冷却フィン部を形成しなかった比較例1−3では、マイクロシュリンケージの分布状態がばらついていた。
これに対して、冷却フィン部を形成した本発明例1―24では、冷却フィン部が形成された位置においてはマイクロシュリンケージが少なく、冷却フィン部から離れた位置でマイクロシュリンケージが多く観察された。特に、ωを0.95以下とした本発明例1−20、0.9以下とした本発明例1−16では、その傾向が顕著であった。
このように、本発明によれば、冷却フィン部を形成することで、マイクロシュリンケージの分布状態を制御可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0052】
10 鋳物製品
11 冷却フィン部
20 鋳造用金型装置
21 製品成形部
22 湯道部
23 湯溜り部
25 冷却フィン成形部
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋳造用金型装置に金属溶湯を供給して凝固することで製造される鋳物製品の製造方法、鋳物製品及び鋳造用金型装置に関するものである。
特に、マニュアルトランスミッション(オートマティックマニュアルトランスミッション,デュアルクラッチトランスミッション等の自動制御機能を持つものも含む)用シンクロナイザーリングおよび各種ブッシュ,スリーブ,ライナー等の円筒状部品を鋳物製品として製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、前述のシンクロナイザーリング等の部品は、例えば半連続鋳造法で得られたインゴットに対して熱間押出加工や鍛造加工を行い、さらに機械加工等を行うことによって製造されていた。
最近では、製品の需給変動に柔軟に対応し、かつ、低価格化の要望に応えるために,製造リードタイムの短縮や歩留り改善等によるコストダウンが求められている。しかしながら、上述のような製造工程では、製造リードタイムの短縮をこれ以上推進することは非常に困難であった。
【0003】
一方、特許文献1,2には、溶湯に大気圧+αの圧力を掛けて鋳造する低圧鋳造法によって、鋳物製品を製造する技術が提案されている。
この低圧鋳造法においては、溶解原料の低減を図ることができるとともに、最終製品形状に近似した鋳物製品を製造可能である。このため、低圧鋳造法を適用することにより、製造リードタイムの短縮やコストダウンを図ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−277697号公報
【特許文献2】特開平06−039519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の低圧鋳造法等によって製造される鋳物製品においては、その内部に、凝固収縮に伴うマイクロシュリンケージが存在することになる。マイクロシュリンケージが多く発生した領域に高い応力が負荷された場合には、強度が不足して破損してしまうおそれがあった。このため、シンクロナイザーリング等のように、高い応力が負荷される領域(高応力負荷部)がある部品として、上述の鋳物製品を適用することができなかった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、製品内部でのマイクロシュリンケージの分布状態を制御し、高応力負荷部における強度を確保することができる鋳物製品の製造方法及び鋳物製品、並びに、この鋳物製品の製造方法に用いられる鋳造用金型装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の鋳物製品の製造方法は、鋳造用金型装置に金属溶湯を供給して凝固させる工程を備えた鋳物製品の製造方法であって、前記鋳造用金型装置には、製品成形部と、前記製品成形部に連設された冷却フィン成形部と、が設けられており、前記製品成形部及び前記冷却フィン成形部に前記金属溶湯を供給し、前記冷却フィン成形部において冷却フィン部を形成し、前記製品成形部のうち前記冷却フィン部が形成された領域を優先的に凝固させることを特徴とする。
【0008】
このような構成とされた本発明の鋳物製品の製造方法においては、製品成形部に連設された冷却フィン成形部において冷却フィン部を形成しているので、製品成形部のうち冷却フィン部が形成された領域においては冷却速度が速くなり、冷却フィン部が形成されていない領域では冷却速度が遅くなる。よって、冷却フィン部が形成された領域では、冷却フィン部が形成されていない領域に比べて相対的に凝固が早く進行することになり、冷却フィン部が形成された領域から冷却フィン部が形成されていない領域へとマイクロシュリンケージを移動できる。このように、冷却フィン部を形成することで、マイクロシュリンケージの分布状態を制御することができるのである。
よって、高応力負荷部を有する部品であっても、高応力負荷部における強度を確保することができるので、鋳物製品として製造することが可能となる
【0009】
本発明の鋳物製品の製造方法においては、前記鋳物製品の熱伝導率λ(W/m/K)、前記鋳物製品と前記鋳造用金型装置との間の熱伝達率η(W/m2/K)、前記鋳物製品の体積VP、前記鋳物製品の有効表面積AP、前記鋳物製品の表面積AP0、前記冷却フィン部の体積VF、冷却フィン部の表面積AF、とした場合において、
ω={(VP/AP)2+(VF/AF)2}/(VP/AP0)2
と定義されるωが、0.95以下とされていることが好ましい。
【0010】
このωは、(冷却フィン部を形成した場合の鋳物製品の凝固時間比+冷却フィン部の凝固時間比)/(冷却フィン部を形成しない場合の鋳物製品の凝固時間比)を意味するものである。このωを0.95以下となるように冷却フィン部を形成することで、製品成形部の凝固時間が短くなることになる。したがって、製品成形部のうち冷却フィン部を形成した領域における冷却速度が速くすることができ、当該領域におけるマイクロシュリンケージのサイズを小さく、かつ、密度を低くすることが可能となる。なお、この作用効果を確実に奏功せしめるためには、ωを0.9以下とすることが好ましい。
【0011】
ここで、冷却フィン部の長さをl、厚さをd,高さをhとし、冷却フィン部が形成されている製品成形部の領域長さ(lに平行)をL、厚み(dに平行)をD、高さ(hに平行)をHと定義したとき、ωは以下の式で表現される。
【数1】
【0012】
上述の式のεは、冷却フィン部がある場合の抜熱量と冷却フィン部がない場合の抜熱量の比であるフィン有効度である。このフィン有効度εは、以下の式で定義される。
【数2】
〔0010〕に記載の場合には、εは以下の式で、定義される。
【数3】
〔0010〕に記載の場合には、上述の式のmは、以下の式で定義される。
【数4】
【0013】
図1に、鋳物製品と鋳造用金型装置との間の熱伝達率η=2000W/m2/K、鋳物製品の熱伝導率λ=100W/m/K、製品成形部の領域長さL=60mm、製品成形部の領域高さH=5mm、製品成形部の領域厚さD=10mm、冷却フィン部の長さl=30mmとした場合における、冷却フィン部の厚さd及び高さhとωとの関係を示す。図1に示す例においては、ωが0.95以下となるように、冷却フィン部の厚さd及び高さhを設計することになる。
【0014】
ここで、製品成形部の領域長さLは、冷却フィン部の長さlとの相対関係によって、次のように定義される。図2に示すように、鋳物製品のL×D面及び冷却フィン部のl×d面において、フィン有効度であるε倍の抜熱効果εldと等しい四角形(l+2x)(d+2x)を仮定する。このとき、L´は、以下の式で表される。
【数5】
【0015】
図3に示すように鋳物製品に対して冷却フィン部が単独で形成されており、鋳物製品の領域長さLが上述のL´より小さい場合には、ωは以下の式で表現される。
【数6】
【0016】
図4に示すように鋳物製品に対して冷却フィン部が単独で形成されており、鋳物製品の領域長さLが上述のL´以上である場合、あるいは、図5に示すように鋳物製品に対して冷却フィン部が周期的に形成されており、冷却フィン部の周期Tが上述のL´以上である場合には、ωは以下の式で表現される。
【数7】
【0017】
図6に示すように鋳物製品に対して冷却フィン部が周期的に形成されており、冷却フィン部の周期Tが上述のL´よりも小さい場合には、ωは以下の式で表現される。
【数8】
【0018】
このように、ω={(VP/AP)2+(VF/AF)2}/(VP/AP0)2で定義されるωは、冷却フィン部の配置によって計算式が変化するものである。
【0019】
本発明の鋳物製品の製造方法においては、前記冷却フィン部は、前記鋳物製品との接続部の両端から前記冷却フィン部中央部の突端とを結ぶ線分とで構成される三角形を設定したときに、前記冷却フィン部がその三角形の内部に位置するように形成されていることが好ましい。例えば、図2から図6に記載された冷却フィン部のLH面において、上述のように、冷却フィン部の形状が規定されていることが好ましい。
この場合、製品成形部において、冷却フィン部の中央部から端部、さらに冷却フィン部が形成されていない領域に向かう凝固の指向性が強くなり、冷却フィン部が形成された領域におけるマイクロシュリンケージの低減効果がさらに向上することになる。
【0020】
前記冷却フィン部の厚さを、前記冷却フィン部の突出方向で漸減させた構成とすることが好ましい。例えば、図2から図6に記載された冷却フィン部のDH面において、上述のように、冷却フィン部の形状が規定されていることが好ましい。
この場合、冷却フィン部の冷却効率を向上させることができ、前記製品成形部のうち前記冷却フィン部が形成された領域の冷却速度を向上することができる。
【0021】
前記冷却フィン部に、さらに第2冷却フィン部を形成することが好ましい。
この場合、冷却フィン部の冷却効率をさらに向上させることができ、前記製品成形部のうち前記冷却フィン部が形成された領域の冷却速度を確実に向上することができる。
【0022】
前記冷却フィン成形部に、表面積を大きくする凹凸部が形成されていることが好ましい。
この場合、冷却フィン形成部の表面積が大きくなり、放熱が促進されることになる。なお、この凹凸部は、エンボス加工等によって形成されるものであってもよい。
【0023】
また、前記冷却フィン部を、周期的に複数配置することが好ましい。
この場合、製品成形部における凝固バランスが安定することになる。
【0024】
本発明の鋳物製品は、前述の鋳物製品の製造方法によって製造されたことを特徴としている。
この構成の鋳物製品においては、マイクロシュリンケージの分布状態が制御されているので、高応力負荷部における強度を確保できる。よって、荷重が負荷される部品としても適用することができる。
【0025】
本発明の鋳造用金型装置は、製品成形部と、前記製品成形部に連設された冷却フィン成形部と、が設けられ、前述の鋳物製品の製造方法において用いられることを特徴としている。
この構成の鋳造用金型装置においては、前述の鋳物製品の製造方法を実施することができ、マイクロシュリンケージの分布状態が制御された鋳物製品を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、製品内部でのマイクロシュリンケージの分布状態を制御し、高応力負荷部における強度を確保することができる鋳物製品の製造方法及び鋳物製品、並びに、この鋳物製品の製造方法に用いられる鋳造用金型装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】冷却フィン部の厚さ及び高さとωとの関係を示す図である。
【図2】鋳物製品と冷却フィン部の説明図である。
【図3】鋳物製品に冷却フィン部が単独で形成された場合を示す説明図である。
【図4】鋳物製品に冷却フィン部が単独で形成された場合を示す説明図である。
【図5】鋳物製品に冷却フィン部が周期的に複数形成された場合を示す説明図である。
【図6】鋳物製品に冷却フィン部が周期的に複数形成された場合を示す説明図である。
【図7】本発明の実施形態である鋳物製品の斜視図である。
【図8】本発明の実施形態である鋳造用金型装置の概略断面説明図である。
【図9】本発明の実施形態である鋳物製品の製造方法を示すフロー図である。
【図10】図8に示す鋳造用金型装置の内部における凝固状態を示す説明図である。
【図11】実施例における組織観察の位置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
まず、本発明の実施形態である鋳物製品、鋳物製品の製造方法及び鋳造用金型装置について、図7から図10を参照して説明する。
【0029】
本実施形態である鋳物製品10は、自動車等に用いられるマニュアルトランスミッション用のシンクロナイザーリングの素材であり、荷重が負荷される部品となるものである。本実施形態である鋳物製品10は、図7に示すように、貫通孔を有するとともに、軸線Oを中心とする円環状をなしている。
また、この鋳物製品10は、例えば、MBA2、MBA5、MBA52(MMCスーパーアロイ株式会社製)といった高力黄銅で構成されている。
【0030】
ここで、本実施形態である鋳物製品10は、溶湯に大気圧+αの圧力を掛けて鋳造する低圧鋳造法によって製造される。
本実施形態では、図8に示す鋳造用金型装置20を用いて、鋳物製品10を製造することになる。
【0031】
この鋳造用金型装置20は、図8に示すように、製品成形部21と、この製品成形部21の下方に接続された湯道部22と、を備えている。この湯道部22には、湯溜り部23と、湯溜り部23への溶湯を供給する溶湯供給路24と、が形成されている。
本実施形態では、製品成形部21のうち鋳物製品10の側壁部の外周面となる位置に湯道部22が接続されている。
【0032】
そして、製品成形部21には、冷却フィン成形部25が連設されている。本実施形態では、冷却フィン成形部25は、製品成形部21の外周側に配置されており、三角形平板状をなしている。また、3つの冷却フィン成形部25を備えており、これら3つの冷却フィン成形部25と湯道部22とが、周方向に90°間隔に配置されている。
この冷却フィン形成部25は、製品成形部21よりも厚みが薄くされており、優先的に凝固するように構成されている。
【0033】
そして、冷却フィン成形部25によって成形される冷却フィン部11と、製品成形部21によって成形される鋳物製品10との関係は、次のように規定されている。
鋳物製品10の熱伝導率λ(W/m/K)、鋳物製品10と鋳造用金型装置20との間の熱伝達率η(W/m2/K)、鋳物製品10の体積VP、鋳物製品10の有効表面積AP、鋳物製品10の表面積AP0、冷却フィン部11の体積VF、冷却フィン部11の表面積AF、とした場合において、
ω={(VP/AP)2+(VF/AF)2}/(VP/AP0)2
と定義されるωが、0.95以下とされており、好ましくは0.9以下とされている。
【0034】
また、本実施形態では、冷却フィン部11は、鋳物製品10との接続部の両端から冷却フィン部11中央部の突端とを結ぶ線分とで構成される三角形を設定したときに、冷却フィン部11がその三角形の内部に位置するように形成されている。
【0035】
次に、このような構成とされた鋳造用金型装置20を用いて本実施形態である鋳物製品10を製造する方法について、図9を用いて説明する。
【0036】
(溶解工程S01)
まず、MBA2、MBA5、MBA52(MMCスーパーアロイ株式会社製)といった高力黄銅の溶湯を溶製する。溶解原料を調製して、チャネル型低周波誘導溶解炉で溶解することで、所定の組成の銅合金溶湯を得る。
【0037】
(銅溶湯供給工程S02)
次に、得られた銅合金溶湯を、図8に示す鋳造用金型装置20に供給する。このとき、溶湯温度を、融点+10℃以上融点+200℃以下とし、到達圧力を大気圧+0.2bar以上大気圧+1bar以下の範囲内とする。
すると、銅合金溶湯は、湯道部22を介して、製品成形部21及び冷却フィン成形部25に供給される。
【0038】
(凝固工程S03)
鋳造用金型装置20に供給された銅合金溶湯を凝固させる。このとき、図10に示すように、まず、冷却フィン成形部25の部分が優先して凝固して冷却フィン部11が成形される。次に、製品成形部21においては、冷却フィン部11が形成された領域において凝固が促進される。そして、製品成形部21から凝固が進行していき、最終凝固部が、製品成形部21の外部、すなわち、湯道部22(湯溜り部23)に位置することになる。このようにして、鋳造成形品が成形される。
【0039】
(加工工程S04)
そして、凝固工程S03によって得られた鋳造成形品に対して機械加工等を行うことによって、図7に示す鋳物製品10(シンクロナイザーリング素材)が製造される。
【0040】
以上のような構成とされた本実施形態である鋳物製品10、鋳物製品10の製造方法及び鋳造用金型装置20によれば、製品成形部21に連設された冷却フィン成形部25において冷却フィン部11を形成しているので、製品成形部21のうち冷却フィン部11が形成された領域においては冷却速度が速くなり、冷却フィン部11が形成されていない領域では冷却速度が遅くなる。このように、冷却フィン部11を形成することで、冷却速度を調整することが可能となる。このように、冷却速度を調整することにより、マイクロシュリンケージの分布状態を制御することができる。
よって、鋳物製品10の任意の領域における強度を確保することができるので、鋳物製品10を高応力負荷部を有する部品として適用することが可能となる。
【0041】
また、本実施形態では、上述したωが0.95以下、好ましくは0.9以下とされているので、冷却フィン部11を形成した領域の凝固時間が短くなり、凝固が確実に促進されていることになる。よって、冷却フィン部11を形成した領域においては、マイクロシュリンケージのサイズが小さく、かつ、密度が低くなり、強度を確保することができる。
【0042】
さらに、本実施形態では、冷却フィン部11は、鋳物製品10との接続部の両端から冷却フィン部11中央部の突端とを結ぶ線分とで構成される三角形を設定したときに、冷却フィン部11がその三角形の内部に位置するように形成されているので、製品成形部21において、冷却フィン部11の中央部から端部、さらに冷却フィン部11が形成されていない領域に向かう凝固の指向性が強くなり、冷却フィン部11が形成された領域におけるマイクロシュリンケージの低減効果がさらに向上することになる。
また、本実施形態では、冷却フィン部11が円周方向に周期的に複数配置されているので、製品成形部21における凝固バランスが安定することになる。
【0043】
さらに、本実施形態では、製品成形部21の下方に湯道部22が配設され、この湯道部22に湯溜り部23が形成されており、最終凝固部が製品成形部21以外の湯道部22(湯溜り部23)に位置する構成とされているので、鋳物製品10の内部に、引け巣や面引け等の欠陥が生じることを抑制できる。よって、寸法精度及び強度に優れた鋳物製品10を製造することが可能となる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、製品成形部21のうち鋳物製品10の側壁部の外周面となる位置に湯道部22が接続された構造の鋳造用金型装置20を用いて説明したが、これに限定されることはなく、製品成形部のうち鋳物製品の側壁部の端面となる位置に湯道部が接続された構造の鋳造用金型装置であってもよい。
【0045】
また、鋳物製品10を、例えば、MBA2、MBA5、MBA52(MMCスーパーアロイ株式会社製)といった高力黄銅で構成されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の金属材料で構成されたものであってもよい。
さらに、低圧鋳造法によって鋳物製品10を成形するものとして説明したが、これに限定されることはなく、高圧鋳造法等の他の鋳造法であってもよい。
【0046】
また、鋳物製品10が自動車等に用いられるマニュアルトランスミッション用のシンクロナイザーリングの素材であるとして説明したが、これに限定されることはなく、他の部品等に用いられるものであってもよく、用途に限定はない。また、円筒状の製品に限定されることもない。また、鋳造用金型を用いて得られた鋳造成形品を加工することによって得られる部品(例えば、シンクロナイザーリング等)も、本発明の鋳物製品に含まれる。すなわち、上述の鋳造用金型装置に金属溶湯を供給して凝固させる工程を有していれば、他の工程に限定はなく、加工工程や切削工程等を備えていてもよい。
さらに、冷却フィン部の形状等についても、本実施形態に例示されたものに限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
本発明の作用効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
図8に示す形状の鋳造用金型装置において、冷却フィン成形部の形状を表1に示すように変更して、各種鋳造用金型装置を準備した。なお、製品成形部のサイズは、外径60mm,内径50mm、高さ10mmとした。
【0048】
これらの鋳造用金型装置に供給する溶湯として、Zn−62.5mass%Cu−3mass%Al−3mass%Mn−1mass%Si−0.2mass%Cr−0.3mass%Niの組成の銅合金溶湯を、低周波溶解炉で1.8トンを溶製した。
この銅合金溶湯を、溶湯温度が1020℃、到達圧力が大気圧+0.405barの条件で低圧鋳造を行った。
【0049】
製造された鋳物製品について、図11に示す箇所でミクロ観察を行い、マイクロシュリンケージの発生状況を評価した。マイクロシュリンケージが観察されない場合を○、マイクロシュリンケージが観察された場合を×、マイクロシュリンケージは観察されないが、マイクロシュリンケージが観察された隣接領域と同一のデンドライト組織を有している場合を△、として評価した。なお、冷却フィン部を形成しなかった比較例1−3においては、円周方向に30°間隔に位置する5箇所を観察した。
なお、表1におけるフィン形状の「三角形」は、鋳物製品との接続部分を底辺とする二等辺三角形平板状をなすものである。「台形」は、鋳物製品との接続部分を下底とし、この下底の1/2の長さの上底とした等脚台形平板状をなすものである。「四角形」は、長方形平板状をなすものである。
評価結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
冷却フィン部を形成しなかった比較例1−3では、マイクロシュリンケージの分布状態がばらついていた。
これに対して、冷却フィン部を形成した本発明例1―24では、冷却フィン部が形成された位置においてはマイクロシュリンケージが少なく、冷却フィン部から離れた位置でマイクロシュリンケージが多く観察された。特に、ωを0.95以下とした本発明例1−20、0.9以下とした本発明例1−16では、その傾向が顕著であった。
このように、本発明によれば、冷却フィン部を形成することで、マイクロシュリンケージの分布状態を制御可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0052】
10 鋳物製品
11 冷却フィン部
20 鋳造用金型装置
21 製品成形部
22 湯道部
23 湯溜り部
25 冷却フィン成形部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造用金型装置に金属溶湯を供給して凝固させる工程を備えた鋳物製品の製造方法であって、
前記鋳造用金型装置には、製品成形部と、前記製品成形部に連設された冷却フィン成形部と、が設けられており、
前記製品成形部及び前記冷却フィン成形部に前記金属溶湯を供給し、前記冷却フィン成形部において冷却フィン部を形成し、前記製品成形部のうち前記冷却フィン部が形成された領域を優先的に凝固させることを特徴とする鋳物製品の製造方法。
【請求項2】
前記鋳物製品の熱伝導率λ(W/m/K)、前記鋳物製品と前記鋳造用金型装置との間の熱伝達率η(W/m2/K)、前記鋳物製品の体積VP、前記鋳物製品の有効表面積AP、前記鋳物製品の表面積AP0、前記冷却フィン部の体積VF、冷却フィン部の表面積AF、とした場合において、
ω={(VP/AP)2+(VF/AF)2}/(VP/AP0)2
と定義されるωが、0.95以下とされていることを特徴とする請求項1に記載の鋳物製品の製造方法。
【請求項3】
前記冷却フィン部は、前記鋳物製品との接続部の両端から前記冷却フィン部中央部の突端とを結ぶ線分とで構成される三角形を設定したときに、前記冷却フィン部がその三角形の内部に位置するように形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鋳物製品の製造方法。
【請求項4】
前記冷却フィン部の厚さを、前記冷却フィン部の突出方向で漸減させたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の鋳物製品の製造方法。
【請求項5】
前記冷却フィン部に、さらに第2冷却フィン部を形成することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の鋳物製品の製造方法。
【請求項6】
前記冷却フィン成形部に、表面積を大きくする凹凸部が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の鋳物製品の製造方法。
【請求項7】
前記冷却フィン部を、周期的に複数配置したことを特徴する請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の鋳物製品の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の鋳物製品の製造方法によって製造されたことを特徴とする鋳物製品。
【請求項9】
製品成形部と、前記製品成形部に連設された冷却フィン成形部と、が設けられ、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の鋳物製品の製造方法において用いられることを特徴とする鋳造用金型装置。
【請求項1】
鋳造用金型装置に金属溶湯を供給して凝固させる工程を備えた鋳物製品の製造方法であって、
前記鋳造用金型装置には、製品成形部と、前記製品成形部に連設された冷却フィン成形部と、が設けられており、
前記製品成形部及び前記冷却フィン成形部に前記金属溶湯を供給し、前記冷却フィン成形部において冷却フィン部を形成し、前記製品成形部のうち前記冷却フィン部が形成された領域を優先的に凝固させることを特徴とする鋳物製品の製造方法。
【請求項2】
前記鋳物製品の熱伝導率λ(W/m/K)、前記鋳物製品と前記鋳造用金型装置との間の熱伝達率η(W/m2/K)、前記鋳物製品の体積VP、前記鋳物製品の有効表面積AP、前記鋳物製品の表面積AP0、前記冷却フィン部の体積VF、冷却フィン部の表面積AF、とした場合において、
ω={(VP/AP)2+(VF/AF)2}/(VP/AP0)2
と定義されるωが、0.95以下とされていることを特徴とする請求項1に記載の鋳物製品の製造方法。
【請求項3】
前記冷却フィン部は、前記鋳物製品との接続部の両端から前記冷却フィン部中央部の突端とを結ぶ線分とで構成される三角形を設定したときに、前記冷却フィン部がその三角形の内部に位置するように形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鋳物製品の製造方法。
【請求項4】
前記冷却フィン部の厚さを、前記冷却フィン部の突出方向で漸減させたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の鋳物製品の製造方法。
【請求項5】
前記冷却フィン部に、さらに第2冷却フィン部を形成することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の鋳物製品の製造方法。
【請求項6】
前記冷却フィン成形部に、表面積を大きくする凹凸部が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の鋳物製品の製造方法。
【請求項7】
前記冷却フィン部を、周期的に複数配置したことを特徴する請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の鋳物製品の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の鋳物製品の製造方法によって製造されたことを特徴とする鋳物製品。
【請求項9】
製品成形部と、前記製品成形部に連設された冷却フィン成形部と、が設けられ、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の鋳物製品の製造方法において用いられることを特徴とする鋳造用金型装置。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図1】
【図10】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図1】
【図10】
【公開番号】特開2013−59776(P2013−59776A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198448(P2011−198448)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(510312950)MMCスーパーアロイ株式会社 (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(510312950)MMCスーパーアロイ株式会社 (9)
【Fターム(参考)】
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