説明

鋳造用溶湯保持炉における溶湯の配湯方法

【課題】 補給用溶湯保持炉から鋳造用溶湯保持炉溶湯を酸化させることなく自動的に、かつ鋳造用溶湯保持炉内の溶湯量を容易に管理することのできる溶湯の配湯方法を提供する。
【解決手段】 補給用溶湯保持炉内の溶湯と任意の1台の前記鋳造用溶湯保持炉内の溶湯および各鋳造用溶湯保持炉内の溶湯がそれぞれサイホン機能を有する連通管を介して連通され、前記補給用溶湯保持炉内の溶湯レベルを、前記連通管でのサイホン作用を破壊しない低位湯面レベルと前記各鋳造用溶湯保持炉の溶湯がオーバーフローしない高位湯面レベルとの範囲内になるように管理しつつ前記連通管のサイホン作用によって前記補給用溶湯保持炉の溶湯を前記各鋳造用溶湯保持炉に配湯する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカストマシンや低圧鋳造機などの鋳造機に供給する溶湯を貯留する鋳造用溶湯保持炉に配湯する鋳造用溶湯保持炉における溶湯の配湯方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイカストマシンや低圧鋳造機などの鋳造機には、各鋳造機毎に鋳造用溶湯保持炉が設けられ、この鋳造用溶湯保持炉には、熔解炉で製造された溶湯が適宜配湯されるものである。
【0003】
この配湯方法として、補給用溶湯保持炉に蓋を有する溶湯移送用樋を連結するとともに、この溶湯移送用樋に複数の配湯用樋を並列連結し、各配湯用樋にそれぞれ鋳造用溶湯保持炉を接続することで、補給用溶湯保持炉に貯留している溶湯を溶湯移送用樋および配湯用樋を介して鋳造用溶湯保持炉に配湯する方法がある(特許文献1)。
【0004】
また、配湯用樋の溶湯を溶湯貯留槽へ移送する方法として、逆U字状の配湯配管の各管端部を、それぞれ前記配湯用樋と溶湯貯留槽の溶湯中に位置するように配設し、前記配湯配管の上部位置に真空排気部を設けてサイホン作用で配湯用樋から溶湯貯留槽へ溶湯を移送する方法がある(特許文献2)。
【特許文献1】特開昭61−046367号公報
【特許文献2】特開平6−269919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の溶湯移送用樋および配湯溶樋は、断熱材を内張りした鋼板製樋部と、この樋部の上方開口を塞ぐ蓋部とから構成されているため、樋部および蓋部は溶湯から熱を受けて熱膨張することにより、断熱材のクラックあるいは割れが発生し耐久性が劣る。また、溶湯の酸化防止が不可欠であるが、樋部と蓋部との気密性を確保することが実質的に困難であるため、不活性ガスを樋内に供給するなどの酸化防止対策を講じなければならず、それだけ設備あるいは制御系が複雑になる。さらに、各鋳造用溶湯保持炉への配湯は、各鋳造用溶湯保持炉の溶湯の減少量を管理することにより行われるため、鋳造用溶湯保持炉内の溶湯量を管理するための制御系が煩雑になるという問題がある。
【0006】
一方、特許文献2は、サイホン機能を有する逆U字状連結管を利用して溶湯を移送することから、気密性が確保できて配湯中での溶湯の酸化防止が図れるという利点があるが、特許文献1と同様に溶湯貯留槽の溶湯の減少量を管理する必要があり、溶湯貯留槽内の溶湯量を管理するための制御系が煩雑になるという問題がある。
【0007】
本発明は、鋳造機毎に設置した各鋳造用溶湯保持炉内の溶湯は、鋳造作業状況により溶湯の減量割合(減量速度)が同一とならず、各鋳造用溶湯保持炉内の湯面高さに相違する状態が生じるが、サイホン機能を有する連通管で接続された補給用溶湯保持炉と鋳造用溶湯保持炉間、また、各鋳造用溶湯保持炉間では、サイホン作用により高位溶湯レベル側の保持炉から低位溶湯レベル側の鋳造用溶湯保持炉に溶湯が移送し、この溶湯の移送は、各湯面レベルが同一になれば、溶湯の移送が自動的に停止することに着目してなしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記従来方法における課題を解決するために、補給用溶湯保持炉と複数の鋳造用溶湯保持炉とから構成され、前記補給用溶湯保持炉内の溶湯を前記各鋳造用溶湯保持炉に配湯する配湯方法において、
前記補給用溶湯保持炉内の溶湯と任意の1台の前記鋳造用溶湯保持炉内の溶湯および各鋳造用溶湯保持炉内の溶湯がそれぞれサイホン機能を有する連通管を介して連通され、前記補給用溶湯保持炉内の溶湯レベルを、前記連通管でのサイホン作用を破壊しない低位湯面レベルと前記各鋳造用溶湯保持炉の溶湯がオーバーフローしない高位湯面レベルとの範囲内になるように管理しつつ前記連通管のサイホン作用によって前記補給用溶湯保持炉の溶湯を前記各鋳造用溶湯保持炉に配湯するようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
以上の説明で明らかなように、本発明によれば、配湯は、従来のように樋部と蓋部とで構成された通路により行うのでなく、連通管で行うため、鋳造機の振動による接続部の亀裂、あるいは熱膨張により隙間等が発生せず、そのため、湯漏れがなく、また、溶湯の酸化防止のために不活性ガスを連通管内に供給する必要もない。
【0010】
また、補給用溶湯保持炉と各鋳造用溶湯保持炉の各溶湯は連通管で接続し、この連通管のサイホン作用により各保持炉間の溶湯レベルを同一レベルになるようになっている。
したがって、いずれかの鋳造用溶湯保持炉の溶湯量が減少すると、その減少したことは、最終的に、補給用溶湯保持炉の湯面の変化となって現れる。よって、従来方法のように、鋳造用溶湯保持炉毎に溶湯貯留量を管理して溶湯を直接補給する必要はなく、補給用溶湯保持炉の溶湯貯留量のみを管理すればよく、自動配湯システムの管理は容易である。
【0011】
また、各鋳造用溶湯保持炉は隣接する鋳造用溶湯保持炉と相互に溶湯を自動的に補完するため、特定の鋳造用溶湯保持炉における溶湯不足が回避でき、安定した鋳造作業を継続することができる。
【0012】
さらに、鋳造ラインの停止後の再開時においても、全ての鋳造用溶湯保持炉の溶湯レベルが同一となるため、操作開始が円滑に行われるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施の形態について図を参照しながら説明する。
図1は、本発明の鋳造用溶湯保持炉における溶湯の配湯を実施する設備を示す。
図において、Taは補給用保持炉で、断熱材2を内張りした鋼板製の本体1と、この本体1に設けた貯湯部3の上面を閉塞する断熱材2を内張りした鋼板製の蓋部材4とからなり、鋳造用溶湯保持炉Tb(Tb)と同一水平位置に設置されている。
【0014】
また、前記蓋部材4にはフロート式湯面センサ5が設けられ、このフロート式湯面センサ5には溶湯を貯湯部3に補給する低位湯面レベルαと溶湯の補給停止をする高位湯面レベルβが設定されている。
【0015】
そして、前記フロート式湯面センサ5が補給用溶湯保持炉Taの貯湯部3における湯面レベルが低位湯面レベルαになったことを検知すると、補給用保持炉Taに新たな溶湯を供給するよう、たとえば、その旨を報知し、溶湯の供給に伴い湯面が上昇して高位湯面レベルβを検知すると、満湯状態になったことを報知して溶湯の供給を停止する。なお、フロート式湯面センサ5の低位湯面レベルαは、下記する連通管10のサイホン機能が破壊しないように垂直管部12の下端面より上方位置に設定する。
【0016】
また、前記低位あるいは高位湯面レベルを検知する湯面センサは、フロート式湯面センサに限らず、たとえば、電極式湯面センサを使用しても良く、この場合、低位湯面レベルを検出する電極式湯面センサと高位湯面レベルを検出する電極式湯面センサを設けるものである。
【0017】
Tb(Tb)は、図示しないダイカストマシンや低圧鋳造機などの鋳造機に供給する溶湯を貯留する鋳造用溶湯保持炉で、断熱材7を内張りした鋼板製の本体6と、この本体に設けた貯湯部8の上面を閉塞する断熱材7を内張りした鋼板製の蓋部材9とからなる。
【0018】
また、図では、1基の鋳造用溶湯保持炉Tbのみを図示しているが、図上左方に同一間隔で複数基の鋳造用溶湯保持炉Tb、Tb、…が配設されている。さらに、図上右方にも鋳造用溶湯保持炉を配設してもよい。
【0019】
なお、前記補給用溶湯保持炉Taの貯湯部3の容量は、前記鋳造用溶湯保持炉Tb、Tb、…の各貯湯部8の容量より大である。
【0020】
そして、前記補給用保持炉Taと鋳造用溶湯保持炉Tb、鋳造用溶湯保持炉TbとTb、TbとTb、…とは、両端に垂直管部12,12を備えた水平直管部11とで構成された略逆U字状の連通管10により各貯湯部3,8および各貯湯部8同志が連通するように接続されている。
【0021】
なお、前記垂直管部12,12と水平直管部11とは継手13で接続され、全体が断熱材14で被覆されるとともに、ヒータ15により管内を保温できるようになっている。また、前記水平直管部11,垂直管部12および継手13は、たとえば窒化珪素質セラミックス等の耐溶損性を有する部材からなるものである。
【0022】
前記連通管10の水平直管部11のほぼ中央部に、真空排気部16が設けてある。すなわち、前記水平直管部11の間に、たとえば窒化珪素質セラミックス等の耐溶損性を有する部材からなる貯留部17を介在させ、該貯留部17の開口部は断熱材からなる蓋部材18で閉塞されている。そして、この蓋部材18には湯面レベルを検知するフロート式湯面センサ19と、溶湯の異常上昇を検知する電極式湯面センサ20とが設けられ、前記フロート式湯面センサ19には、真空排気部16内の真空排気を開始する下位湯面レベルaと真空排気を停止する上位湯面レベルbが設定されている。また、前記センサ19、20にて作動する真空ポンプ21が配管Pにより前記貯留部17に連通している。なお、22は真空フィルタ、23は第1電磁弁、24は真空レギュレータ、25はニードルバルブ、26は前記真空ポンプ21の大気開放用第2電磁弁である。
【0023】
次に、図1に従って、溶湯の配湯方法を説明する。
【0024】
鋳造機の操業に先立って、前記補給用溶湯保持炉Taと各鋳造用溶湯保持炉Tb、Tb、…に溶解炉(図示せず)で製造された溶湯を、適宜の手段で前記補給用溶湯保持炉Taと各鋳造用溶湯保持炉Tb、Tb、…の貯湯部3,8に図示しない溶湯供給口から各保持炉Ta,Tb、Tb、…の貯湯部湯面レベルがほぼ同一で、かつ、各連通管10の垂直管部12の下端部が溶湯中に浸漬する状態となるように供給する。
【0025】
この状態で前記第1電磁弁23を開、第2電磁弁26を閉とするとともに前記真空ポンプ21を作動させて、連通管10内を真空排気する。
【0026】
前記真空排気により、溶湯は両垂直管部12,12から水平直管11内および貯留部17内に流入し、溶湯が貯留部17内における上位湯面レベルbに達すると、前記真空ポンプ21の作動を停止するとともに、前記第1電磁弁23を閉とする。この場合、第2電磁弁26は閉状態を維持している。この状態においては、各保持炉の貯湯部3,8は、各々連通状態となって、前記連通管10はサイホン機能を有する状態となる。
【0027】
次に、各鋳造機で、鋳造作業が開始され、鋳造用溶湯保持炉Tb、Tb、…の溶湯が鋳造に消費されると、各鋳造機の操業形態あるいは操業状況により各鋳造用溶湯保持炉Tb、Tbの貯湯部8内の湯面レベルに変化が生じる。しかし、補給用溶湯保持炉Taと鋳造用溶湯保持炉Tbの溶湯同志は相互に連通管10を介して連通しているため、各保持炉のうち相対的に高位湯面レベルである保持炉から低位湯面レベルである保持炉に溶湯がサイホン作用により自動的に移送されることになる。
【0028】
前記のように、各鋳造用溶湯保持炉Tb内の溶湯が消費されて行くと、補給用溶湯保持炉Ta内の湯面レベルも低下して行き、湯面レベルが設定低位湯面レベルα(溶湯補給レベル)に達したことをフロート式湯面センサ5が検知すると、補給指令を発し、溶解炉から前記補給用溶湯保持炉Taに溶湯が供給される。
【0029】
そして、溶湯の供給につれて液面が上昇し、フロート式湯面センサ5が、溶湯が設定高位湯面レベルβ(補給停止レベル)に達したことを検知すると、停止警報を発し、以降の溶湯の供給が停止される。
【0030】
なお、操業中にエア漏れにより前記貯留部17内の溶湯が減少し、すなわち、前記サイホン作用を破壊させる危険域である下位湯面レベルaに達したことを前記フロート式湯面センサ19が検知すると、第1電磁弁23を開とするとともに前記真空ポンプ21を作動させ、湯面が上位湯面レベルbに達すると、前記第1電極弁23を閉とするとともに前記真空ポンプ21を停止するものである。
【0031】
なお、フロート式湯面センサ19に代えて、真空ポンプ21を作動させる下位湯面レベルを検知する電極式湯面センサと真空ポンプの作動を停止する上限湯面レベルを検知する電極式湯面センサを使用してもよい。
【0032】
また、第2電磁弁26は、地震等の緊急時、あるいは、休炉時で各保持炉の溶湯を取り出す場合に開として連通管10内の溶湯を連通している保持炉内に戻すものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明における溶湯の配湯方法に適用される設備を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
Ta 補給用溶湯保持炉、
Tb、Tb、… 鋳造用溶湯保持炉、
1,6 本体、
3,8 貯湯部、
4,9 蓋部材、
5,19 フロート式湯面センサ、
10 連通管、
11 水平直管部、
12 垂直管部、
16 真空排気部、
20 電極式湯面センサ、
21 真空ポンプ、
23 第1電磁弁、
26 第2電磁弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補給用溶湯保持炉と複数の鋳造用溶湯保持炉とから構成され、前記補給用溶湯保持炉内の溶湯を前記各鋳造用溶湯保持炉に配湯する配湯方法において、
前記補給用溶湯保持炉内の溶湯と任意の1台の前記鋳造用溶湯保持炉内の溶湯および各鋳造用溶湯保持炉内の溶湯がそれぞれサイホン機能を有する連通管を介して連通され、前記補給用溶湯保持炉内の溶湯レベルを、前記連通管でのサイホン作用を破壊しない低位湯面レベルと前記各鋳造用溶湯保持炉の溶湯がオーバーフローしない高位湯面レベルとの範囲内になるように管理しつつ前記連通管のサイホン作用によって前記補給用溶湯保持炉の溶湯を前記各鋳造用溶湯保持炉に配湯することを特徴とする鋳造用溶湯保持炉における溶湯の配湯方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−99666(P2010−99666A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271028(P2008−271028)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(391003727)株式会社トウネツ (12)