説明

鋳造用銅基合金

【課題】鉛フリーの鋳造性、切削性及び機械特性に優れた銅基合金の提供を目的とする。
【解決手段】質量%において、Cu:58〜61%、Bi:0.5〜2.3%、Al:0.2〜1.0%、Fe:0.05〜0.2%、Sn:0.25%以下、Pb:0.1%以下、B:3〜15ppm及び残部がZnと不純物からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来の鉛含有銅基合金に替わる、いわゆる鉛フリーの銅基合金に関する。
【背景技術】
【0002】
黄銅材と一般的に称されているCu−Zn系合金は切削性の向上を目的に従来は鉛成分が1〜3質量%含まれていた。
ここで、鉛成分が切削加工の際に生じる切削屑が短く割れるように作用する。
しかし、近年鉛の人体や環境に与える影響が懸念されるようになり、鉛フリーの黄銅材が開発されている。
例えば特許文献1には、鉛を含まず、切削性、鋳造性、機械特性等に優れた黄銅材を開示する。
同公報に開示する黄銅材は、鋳造時の割れを防止するためにSiを添加したものであるが、Siは切削時の工具寿命を短くする問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−41088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、鉛フリーの鋳造性、切削性及び機械特性に優れた銅基合金の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る鋳造用銅基合金は、質量%において、Cu:58〜61%、Bi:0.5〜2.3%、Al:0.2〜1.0%、Fe:0.05〜0.2%、Sn:0.25%以下、Pb:0.1%以下、B:3〜15ppm及び残部がZnと不純物からなることを特徴とする。
【0006】
また、本発明に係る鋳造用銅基合金は、質量%において、Cu:58〜61%、Bi:0.5〜2.3%、Al:0.2〜1.0%、Fe:0.05〜0.2%、Sn:0.25%以下、Pb:0.1%以下、B:3〜15ppm、更に、Te:0.01〜0.45%、Se:0.02〜0.45%からなる少なくとも1種の元素を含有し、残部がZnと不純物からなる合金であってもよい。
【0007】
また、本発明に係る鋳造用銅基合金は、質量%において、Cu:58〜61%、Bi:0.5〜2.3%、Al:0.2〜1.0%、Fe:0.05〜0.2%、Sn:0.25%以下、Pb:0.1%以下、B:3〜15ppm、更に、Te:0.01〜0.45%、Se:0.02〜0.45%からなる少なくとも1種の元素又は/及び、Mg:0.001〜0.2%、Zr:0.005〜0.2%、からなる少なくとも1種の元素を含有し、残部がZnと不純物からなる合金であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るCu−Zn系合金にあっては、Bi成分を0.5〜2.3%配合し、Fe成分を0.05〜0.2%及びB成分を3〜15ppm配合したので、鋳造時の結晶を微細化し、鋳造性、切削性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】評価に用いた合金組成を示す。
【図2】評価結果を示す。
【図3】鋳造割れ試験に用いた金型を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における成分について説明する。
Cu成分は、58〜61%の範囲が好ましい。
Cu成分が58%未満では、β相が増え、耐食性が低下し黄銅としての性能が低下する。
Cu成分を増やすと、耐脱亜鉛性は向上するが、高価になる。
【0011】
Bi成分は、黄銅においてPbと類似の挙動を示し、Pbの替わりとして切削性が向上する。
良好な切削性と鋳造性を両立するには、Bi成分、0.5〜2.3%の範囲、好ましくは1.2〜2.3%の範囲、さらに望ましくは、1.6〜2.3%の範囲である。
本発明においてPb成分は、不純物として作用し、0.1%以下、好ましくは、0.05%以下である。
【0012】
Fe成分は、結晶の微細化を促進し、鋳造時の割れを抑え、鋳造性が向上し、Biの偏析を防止する。
Fe成分は、0.05〜0.2%の範囲がよい。
【0013】
B成分を3〜15ppmの微量添加すると結晶粒がさらに微細化し、鋳造性が向上する。
【0014】
Al成分は、湯流れ性を向上させるが、鋳造割れの原因になりやすいので、0.2〜1.0%の範囲がよい。
【0015】
Sn成分は、耐脱亜鉛性が向上するが、鋳造時に凝固割れが生じやすくなるので、本発明では、不純物として作用し、0.25%以下、好ましくは0.2%以下がよい。
【0016】
Te成分は、切削性が向上するが、0.01%以上で効果があり、添加量相応の効果を得る点、及び経済性の点から0.45%を上限とする。
【0017】
Se成分は、切削性が向上するが、材料単価が高価であるため、極力抑える。
また、熱間加工性が悪くなるので0.45%以下が望ましい。
Se成分を添加する場合には、0.02〜0.45%の範囲が好ましい。
【0018】
Mg成分は、結晶微細化による強度向上、湯流れ性向上、脱酸・脱硫効果がある。
溶湯に0.001%以上のMgを含有させると、溶湯中のS成分がMgSの形で除去される。
また、Mgが0.2%を超えると酸化して、溶湯の粘性が高められ、酸化物の巻き込みなどの鋳造欠陥を生じる恐れがある。
よって、Mg成分は0.001〜0.2%の範囲にて効果が認められる。
【0019】
Zr成分は、結晶粒の微細化作用がある。
0.005%以上の添加で効果が現れる。
また、Zrは酸素との親和力が強く、0.2%を超えると酸化して、溶湯の粘性が高められ、酸化物の巻き込みなどの鋳造欠陥を生じる恐れがある。
【0020】
<評価試験>
(1)鋳造割れ試験
鋳造割れ性を両端拘束試験法により評価した。
使用した金型の形状を図3に示す。
金型の材質としてはベリリウム銅合金を用いた。
図3において中央部に断熱材1を設けて、中央部の冷却が両端拘束部2より遅れるようにした。
拘束距離Lは100mmで断熱材1の長さは70mmとした。
試験は、拘束部が急冷されて両端が拘束され、発生した凝固収縮応力により、最終凝固部となる試験片中央部で割れが生じるかどうか調べることにより判定した。
評価としては、中央部に割れが生じないものを○、部分的に割れが認められたが破断しなかったものを△、中央部で破断したものを×とした。
(2)切削性試験
直径25mm、長さ220mmの鋳塊をシェル鋳型で作製し、外径部を旋削して評価した。
切削性は黄銅鋳物3種(JIS CAC203)に対する切削抵抗指数で評価した。
周速50m/min、送り量0.1mm/rev.、切り込み量0.1mmとし、切削抵抗指数は次式によった。
切削抵抗指数(%)=100×CAC203の切削抵抗/試験材の切削抵抗
その結果、切削抵抗指数が70%以上を◎、50以上70%未満を○、50%未満を×とした。
(3)機械的性質
直径25mm、長さ220mmの鋳塊をシェル鋳型鋳込みで作製し、JIS Z 2201 4号試験片に機械加工して引っ張り試験を行った。
そして、0.2%耐力、引っ張り強さ、破断伸びを測定し、0.2%耐力が150N/mm以上、引っ張り強さが300N/mm以上、破断伸びが15%以上を判定基準とした。
3項目全てを満足する場合を◎、2項目を満足する場合を○、1項目しか満足できない場合を×とした。
【0021】
<評価結果>
図1に示すような合金組成からなる各種合金を試作し、評価した結果を図2の表に示す。
本発明に係る合金は鋳造性、切削性、機械特性のいずれにも優れていることが分かる。
Bi成分が0.5〜2.3%の範囲で切削性に優れ、Bi:1.2〜2.3%の範囲では、評価が全て◎とさらに切削性が向上し、その中でも1.6〜2.3%の範囲にすると特に切削性が優れていた。
【0022】
比較例21は、Bi成分が上限を超えている例で切削性がよくても機械特性が満足しなかった。
比較例22は、Bi成分が下限未満であるために切削性が悪かった。
比較例23及び24は、Fe成分が本発明の範囲外のものですが、意外にもFe成分は多すぎても、少なすぎても鋳造性が低下することが明らかになった。
比較例25は、Bが添加されていない例であり、鋳造性が劣ることから鋳造時の割れを抑えるには所定量のFe及びB成分添加が必要であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%において、Cu:58〜61%、Bi:0.5〜2.3%、Al:0.2〜1.0%、Fe:0.05〜0.2%、Sn:0.25%以下、Pb:0.1%以下、B:3〜15ppm及び残部がZnと不純物からなることを特徴とする鋳造用銅基合金。
【請求項2】
質量%において、Cu:58〜61%、Bi:0.5〜2.3%、Al:0.2〜1.0%、Fe:0.05〜0.2%、Sn:0.25%以下、Pb:0.1%以下、B:3〜15ppm、更に、Te:0.01〜0.45%、Se:0.02〜0.45%からなる少なくとも1種の元素を含有し、残部がZnと不純物からなることを特徴とする鋳造用銅基合金。
【請求項3】
質量%において、Cu:58〜61%、Bi:0.5〜2.3%、Al:0.2〜1.0%、Fe:0.05〜0.2%、Sn:0.25%以下、Pb:0.1%以下、B:3〜15ppm、更に、Te:0.01〜0.45%、Se:0.02〜0.45%からなる少なくとも1種の元素又は/及び、Mg:0.001〜0.2%、Zr:0.005〜0.2%、からなる少なくとも1種の元素を含有し、残部がZnと不純物からなることを特徴とする鋳造用銅基合金。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−21273(P2011−21273A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93121(P2010−93121)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(301073392)サンエツ金属株式会社 (9)