説明

鋼矢板の電着防食方法及び装置

【課題】鋼矢板の表面に均一な厚さの防食電着被膜を形成し得る鋼矢板の電着防食方法及び装置を提供する。
【解決手段】凹部1Ya及び凸部1Ybが形成されるよう連結配置される海洋鋼構造物1としての鋼矢板1Yの海水に水没した水没部2に対し、該鋼矢板1Yの凹部1Ya内面に倣うよう対向する少なくとも前面3a及び両側面3bの三面を有する陽極3を用い、前記連結配置される鋼矢板1Yの凹部1Ya及び凸部1Ybの幅方向ピッチをP[cm]とし且つ該凹部1Ya及び凸部1Yb間の奥行をD[cm]とした場合に、前記陽極3の前面3a及び両側面3bの三面と前記鋼矢板1Yの凹部1Ya内面との極間距離c[cm]を1≦c≦0.05×(P+2D)に保持すると共に、前記鋼矢板1Yの凸部1Yb表面に電流を流すための凹部1Yaからの前記陽極3の両側面3bの張出量s[cm]を0.75×D≦s≦1.25×Dに保持した状態で、前記陽極3と鋼矢板1Yとの間に直流電源から通電する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼矢板の電着防食方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、岸壁等に護岸のために設けられる鋼矢板、橋梁や桟橋等に設けられる鋼管杭、或いはコンクリート構造物の表面を鉄鋼部材で被覆した鋼ケーソン等の海洋鋼構造物は、その一部が海水に水没した状態で設けられており、非常に錆が発生し易い環境に晒されている。
【0003】
従って、このような海洋鋼構造物では、長期間の使用により錆が発生し減肉して強度が低下するため、補強工事或いは取替工事等を行う必要が生じるが、該補強工事或いは取替工事には多大の費用が掛かるため、電気防食、電着防食、或いはこれらの併用により、前記海洋鋼構造物の寿命延長を図ることが行われている。
【0004】
図18は従来の海洋鋼構造物1への電着被膜形成の一例を示す概略図であって、海洋鋼構造物1の海水に水没した水没部2に対し所要の間隔をあけて陽極3を設け、該陽極3と海洋鋼構造物1との間に直流電源4を設けて直流電流を通電することにより、海水に溶存するカルシウムイオン(Ca2+)やマグネシウムイオン(Mg2+)等の陽イオンが陰極としての海洋鋼構造物1へ向かって海水中を泳動し、該海洋鋼構造物1において電子を得ることとなり、該海洋鋼構造物1の水没部2表面に、CaCO3 及びMg(OH)2 等を主成分とする防食電着被膜5(エレクトロコーティング層)が形成され、該防食電着被膜5により前記海洋鋼構造物1の水没部2が防食されるようになっている。
【0005】
従来の場合、前記陽極3としては丸棒や板といったごく一般的な形状の電極が用いられ、電着施工を行っているのが現状であった。
【0006】
尚、前述の如き海洋鋼構造物の防食方法の一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4146637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述の如く、陽極3として丸棒や板といったごく一般的な形状の電極を用いて電着施工を行うのでは、特に海洋鋼構造物1が鋼矢板である場合には、該鋼矢板が凹凸形状を有していることから、陽極3との極間距離が不均一となって通電量に差が生じ、鋼矢板の表面に形成される防食電着被膜5の厚さに大きなバラつきが生じてしまうことが問題となっていた。
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑み、鋼矢板の表面に均一な厚さの防食電着被膜を形成し得る鋼矢板の電着防食方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、凹凸部が形成されるよう連結配置される鋼矢板の海水に水没した水没部に対し所要の間隔をあけて陽極を設け、該陽極と鋼矢板との間に直流電源を設けて直流電流を通電することにより、鋼矢板の水没部表面に防食電着被膜を形成する鋼矢板の電着防食方法において、
前記鋼矢板の凹部内面に倣うよう対向する少なくとも前面及び両側面の三面を有する陽極を用い、前記連結配置される鋼矢板の凹部及び凸部の幅方向ピッチをP[cm]とし且つ該凹部及び凸部間の奥行をD[cm]とした場合に、前記陽極の前面及び両側面の三面と前記鋼矢板の凹部内面との極間距離c[cm]を
1≦c≦0.05×(P+2D)
に保持すると共に、前記鋼矢板の凸部表面に電流を流すための凹部からの前記陽極の両側面の張出量s[cm]を
0.75×D≦s≦1.25×D
に保持した状態で、前記陽極と鋼矢板との間に通電することを特徴とする鋼矢板の電着防食方法にかかるものである。
【0011】
又、本発明は、凹凸部が形成されるよう連結配置される鋼矢板の海水に水没した水没部に対し所要の間隔をあけて陽極を設け、該陽極と鋼矢板との間に直流電源を設けて直流電流を通電することにより、鋼矢板の水没部表面に防食電着被膜を形成する鋼矢板の電着防食装置において、
前記鋼矢板の凹部内面に倣うよう対向する少なくとも前面及び両側面の三面を有する陽極と、
前記連結配置される鋼矢板の凹部及び凸部の幅方向ピッチをP[cm]とし且つ該凹部及び凸部間の奥行をD[cm]とした場合に、前記陽極の前面及び両側面の三面と前記鋼矢板の凹部内面との極間距離c[cm]を
1≦c≦0.05×(P+2D)
に保持すると共に、前記鋼矢板の凸部表面に電流を流すための凹部からの前記陽極の両側面の張出量s[cm]を
0.75×D≦s≦1.25×D
に保持する保持手段と
を備えたことを特徴とする鋼矢板の電着防食装置にかかるものである。
【0012】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0013】
前記鋼矢板の凹部内面に倣うよう対向する少なくとも前面及び両側面の三面を有する陽極を用い、前記連結配置される鋼矢板の凹部及び凸部の幅方向ピッチをP[cm]とし且つ該凹部及び凸部間の奥行をD[cm]とした場合に、保持手段によって、陽極の前面及び両側面の三面と鋼矢板の凹部内面との極間距離c[cm]が1≦c≦0.05×(P+2D)に保持されると共に、鋼矢板の凸部表面に電流を流すための凹部からの前記陽極の両側面の張出量s[cm]が0.75×D≦s≦1.25×Dに保持され、この状態で、前記陽極と鋼矢板との間に通電すると、従来のように、陽極として丸棒や板といったごく一般的な形状の電極を用いて電着施工を行うのとは異なり、鋼矢板が凹凸形状を有していても、通電量に差が生じにくくなり、鋼矢板の表面に形成される防食電着被膜の厚さに大きなバラつきが生じてしまうことが避けられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の鋼矢板の電着防食方法及び装置によれば、鋼矢板の表面に均一な厚さの防食電着被膜を形成し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例を示す概要構成平面図である。
【図2】本発明の実施例の検証用として用いた解析ソフトウェアにおける解析プロセスを示すフローチャートである。
【図3】(a)はJIS規格でZ形と称される鋼矢板を連結配置したZ形連結モデルにおいて、鋼矢板の凹部に断面矩形形状の陽極を配置した例を示す平面図、(b)は該Z形連結モデルにおける極間距離と電流密度の最大・最小値との関係を示す線図である。
【図4】(a)はJIS規格でZ形と称される鋼矢板を連結配置したZ形連結モデルにおいて、鋼矢板の凹部に断面矩形形状の陽極を一部が張り出すよう配置した例を示す平面図、(b)は該Z形連結モデルにおける陽極の張出量と電流密度の最大・最小値との関係を示す線図である。
【図5】(a)はJIS規格でU形と称される鋼矢板を連結配置したU形連結モデルにおいて、鋼矢板の凹部に断面台形形状の陽極を配置した例を示す平面図、(b)は該U形連結モデルにおける極間距離と電流密度の最大・最小値との関係を示す線図である。
【図6】(a)はJIS規格でU形と称される鋼矢板を連結配置したU形連結モデルにおいて、鋼矢板の凹部に断面台形形状の陽極を一部が張り出すよう配置した例を示す平面図、(b)は該U形連結モデルにおける陽極の張出量と電流密度の最大・最小値との関係を示す線図である。
【図7】Z形連結モデルの1/2スケールの鋼矢板を作成し、実試験及び1/2スケールのシミュレーションで検証を行うために、鋼矢板の凹部に断面矩形形状の陽極を配置した例を示す平面図である。
【図8】図7に示す1/2スケールのZ形連結モデルにおける極間距離と過電圧分布のバラつきとの関係を示すプロット図である。
【図9】Z形連結モデルの1/2スケールの鋼矢板を作成し、実試験及び1/2スケールのシミュレーションで検証を行うために、鋼矢板の凹部に断面矩形形状の陽極を一部が張り出すよう配置した例を示す平面図である。
【図10】図9に示す1/2スケールのZ形連結モデルにおける陽極の張出量と過電圧分布のバラつきとの関係を示す線図である。
【図11】本発明の実施例において、互いに隣接する陽極同士が接触した状態を示す概要構成平面図である。
【図12】本発明の実施例における陽極の断面形状を示す図であって、(a)台形で且つ中実の陽極を示す図、(b)は台形で且つ中空の陽極を示す図、(c)は網目構造の陽極を示す図、(d)は台形形状の下底の面を除去したコの字型の陽極を示す図である。
【図13】本発明の実施例における陽極の鋼矢板に対向する表面を示す図であって、(a)はメッシュ状の陽極を示す図、(b)は穴あき状の陽極を示す図である。
【図14】本発明の実施例における保持手段を示す概略図であって、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図15】本発明の実施例における保持手段による陽極を設置する手順の一例を示す側面図である。
【図16】本発明の実施例における保持手段による陽極を設置する手順の他の例を示す側面図である。
【図17】本発明の実施例における複数本の陽極を保持手段の設置用バー及び固定用バーにて一組にまとめた例を示す平面図である。
【図18】従来の海洋鋼構造物への電着被膜形成の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0017】
図1は本発明の実施例であって、凹部1Ya及び凸部1Ybが形成されるよう連結配置される海洋鋼構造物1としての鋼矢板1Yの海水に水没した水没部2に対し、該鋼矢板1Yの凹部1Ya内面に倣うよう対向する少なくとも前面3a及び両側面3bの三面を有する陽極3を用い、前記連結配置される鋼矢板1Yの凹部1Ya及び凸部1Ybの幅方向ピッチをP[cm]とし且つ該凹部1Ya及び凸部1Yb間の奥行をD[cm]とした場合に、前記陽極3の前面3a及び両側面3bの三面と前記鋼矢板1Yの凹部1Ya内面との極間距離c[cm]を1≦c≦0.05×(P+2D)に保持すると共に、前記鋼矢板1Yの凸部1Yb表面に電流を流すための凹部1Yaからの前記陽極3の両側面3bの張出量s[cm]を0.75×D≦s≦1.25×D以上に保持した状態で、前記陽極3と鋼矢板1Yとの間に直流電源4(図18参照)から通電するようにしたものである。
【0018】
ここで、本発明者等は、本実施例の有効性をシミュレーションで確認するために、市販の解析ソフトウェアである
「膜厚案内人 ver. 4.4」
(上村工業株式会社; http://www.uyemura.co.jp/uyemura/epps/index.htm)
を使用して検証を行った。該解析ソフトウェアである「膜厚案内人」は、解析モデルの作成及び解析結果の可視化を行うプリポストプロセッサと、解析を行う解析ソルバの二つのプログラムが必要であって、今回の検証に際しては、プリポストプロセッサとして
「Femap ver. 9.2/日本語版」(UGS Corp.)
という、Windows上で動作する有限要素法解析のモデル作成と解析結果の後処理(可視化)を行うソフトウェアを使用した。
【0019】
前記解析ソフトウェアである「膜厚案内人」による解析プロセスは、図2のフローチャートに示す如く、入力データとして、海水の電気伝導度、解析領域、通電期間、全電流値、カソード分極、アノード分極、被膜の材料特性、解析設定パラメータをプリポストプロセッサへ入力し、該プリポストプロセッサにて鋼矢板1Yのモデルを作成し、該モデルをデータ変換して解析ソルバに入力し、電流密度分布解析を行い、該解析ソルバで得られたデータファイルを再度プリポストプロセッサに入力し、解析結果の表示を行うようになっており、表示された解析結果より電流密度分布に関する各種の検討が行えるようになっている。
【0020】
前記入力データの具体的数値は、
海水の電気伝導度:4.7882[S/m]
解析領域:40×20×1[m](幅×奥行×水深)の海水の領域
通電期間:864000[s](=10日)
全電流値:鋼矢板1Yでの電流密度の最大値が4.0[A/m2]となるように設定
被膜の電気化学当量:2.5 × 10-7[kg/C]
被膜の密度:1200[kg/m3
とした。
【0021】
因みに、前記カソード分極及びアノード分極とは、陰極としての鋼矢板1Y及び陽極3での過電圧−電流密度の関係式であり、各極の電気化学特性を決めるものである。前記過電圧とは、静止電位からずれた電位のことを指し、カソード分極の過電圧は静止電位よりどれくらい低い電位かを示し、アノード分極の過電圧は静止電位よりどれくらい高い電位かを示している。この分極データは水質・潮流等の環境や各極の材料特性によって異なり、今回の検証に際しては、カソード分極は実環境においてSS400鋼板の試験片を用いて採取し、アノード分極は室内の水槽実験において1[cm2]の亜鉛板を用いて測定したものを用いた。尚、本解析の結果とは無関係であるが、析出する被膜の物性に関するデータも入力する必要があるため、被膜にはMg(OH)2を仮定して、その電気化学当量(カソードに析出する量)及び密度を設定した。
【0022】
又、前記入力データとして使用する解析設定パラメータは、プリポストプロセッサ(Femap)に対しテキストコマンドを使用して、
1. コントロールデータ整数型
CNTI,次元,ガウス点数,収束繰返数,解法,解析内容,非線形判定値,CG法判定値,インコア,リスタート指定,節点移動指定
CNTI, 4, 2, 50, 4, 2, 3, 12, 1, 0, 0
2. コントロールデータ実数型
CNTR,深さ,全電流,非線形緩和係数,膜厚計算緩和係数
CNTR, 1.0,(前記全電流値), 0.99, 0.0
3. ステップデータ
STEP,連続番号,経過時間,時分割数,全電流,電位,出力制御,第2の電位設定,第3の電位設定,リスタートデータファイル出力
STEP, 1, 864000, 1, 0, 0, 0, 0, 0, 0
という形で入力した。尚、前記ステップデータにおける全電流に0を入力しているのは、コントロールデータ実数型において入力されたデータをそのまま使用するためである。又、前記ステップデータにおける第2の電位設定と第3の電位設定は、今回の場合使用しないため、0を入力している。
【0023】
そして、先ず、解析を簡略化するために、図3(a)に示す如く、JIS規格ではその断面形状からZ形と称される鋼矢板1Yを凹部1Ya及び凸部1Ybが形成されるよう連結配置したZ形連結モデルを作成し、該Z形連結モデルにおける鋼矢板1Yの凹部1Ya及び凸部1Ybの幅方向ピッチをP=40[cm]、奥行をD=34[cm]とし、このように凹凸形状が直角な鋼矢板1Yを、40×20×1[m]の解析領域の岸壁とみなした端面に設置すると共に、各陽極3による電流の重ね合わせを考慮するために、鋼矢板1Yの幅方向中央部における五箇所の凹部1Yaに断面矩形形状の陽極3を配置し、極間距離cを2,3,5,7,10,15[cm]の六条件で変化させた場合に、凹部1Ya三箇所(図3(a)中、仮想線で囲った箇所)の電流密度の最大・最小値及び分布を見ることで通電の均一性に関する評価を行った。
【0024】
前記極間距離cが2,3,5[cm]の場合には、図3(b)に示す如く、鋼矢板1Yでの電流密度の最大値が4.0[A/m2]程度となるように陽極3一本あたりに通電する電流を5.6〜5.8[A]とすると、評価範囲の鋼矢板1Yの凹部1Ya(奥面及び両側面)の電流密度は略3.0〜4.0[A/m2]の範囲内に収まっていたが、前記極間距離cが7[cm]以上の場合には、鋼矢板1Yでの電流密度の最大値が4.0[A/m2]程度となるように陽極3一本あたりに通電する電流を5.0〜5.6[A]としても、鋼矢板1Yの凹部1Yaの奥隅部に電流が分布しなくなり電流密度の最小値が徐々に小さくなるため、電流密度分布のバラつきが大きくなっている。この要因としては、陽極3の鋼矢板1Y表面との幾何的関係及び対向面積があると考えられる。即ち、極間距離cが大きくなると、特に前記鋼矢板1Yの凹部1Yaの奥隅部と陽極3の距離がより大きくなる上に、鋼矢板1Yの凹部1Yaに対する陽極3の対向面積が小さいために電流密度が大きくなり、陽極3との距離が近い部分に電流が集中することによって、前記奥隅部に電流が流れにくくなるため、鋼矢板1Yの凹部1Yaでの電流密度のバラつきが大きくなったと考えられる。尚、前記陽極3に通電する電圧は1〜20[V]としてある。
【0025】
続いて、図4(a)に示す如く、前記Z形連結モデルにおける鋼矢板1Yの凹部1Ya及び凸部1Ybの幅方向ピッチをP=40[cm]、奥行をD=34[cm]として凹凸形状が直角な鋼矢板1Yを、40×20×1[m]の解析領域の岸壁とみなした端面に設置すると共に、各陽極3による電流の重ね合わせを考慮するために、鋼矢板1Yの幅方向中央部における五箇所の凹部1Yaに断面矩形形状の陽極3を一部が張り出すよう配置したモデルを作成し、前記解析結果(図3参照)を踏まえて極間距離cを5[cm]に固定した状態で、陽極3の張出量sを0,10,20,30,40,50,70,100[cm]の八条件で変化させた場合に、凹部1Ya三箇所及び凸部1Yb二箇所(図4(a)中、仮想線で囲った箇所)の電流密度の最大・最小値及び分布を見ることで通電の均一性に関する評価を行った。
【0026】
前記張出量sが0,10,20[cm]の場合には、図4(b)に示す如く、鋼矢板1Yでの電流密度の最大値が4.0[A/m2]程度となるように陽極3一本あたりに通電する電流を6.0[A]としても、評価範囲の鋼矢板1Yの凹部1Ya(奥面及び両側面)及び凸部1Ybの電流密度分布のバラつきが大きくなっているが、前記陽極3の張出量sを30[cm]以上にした場合には、鋼矢板1Yでの電流密度の最大値が4.0[A/m2]程度となるように陽極3一本あたりに通電する電流を6.0〜6.4[A]とすると、電流密度の最大・最小値の振れ幅の範囲はあまり変化しないという結果が得られた。従って、物量面を考慮すると、陽極3の張出量sは鋼矢板1Yの凸部1Ybから30[cm]に設定するのが最適であると考えられる。
【0027】
次に、図5(a)に示す如く、JIS規格ではその断面形状からU形と称される鋼矢板1Yを凹部1Ya及び凸部1Ybが形成されるよう連結配置したU形連結モデルを作成し、該U形連結モデルにおける鋼矢板1Yの凹部1Ya及び凸部1Ybの幅方向ピッチをP=40[cm](凹部1Yaの最奥部と凸部1Ybの先端部の幅が共に30.6[cm]で奥行方向における傾斜部の幅が9.4[cm])、奥行をD=30[cm]とし、このように凹凸形状が台形の鋼矢板1Yを、40×20×1[m]の解析領域の岸壁とみなした端面に設置すると共に、各陽極3による電流の重ね合わせを考慮するために、鋼矢板1Yの幅方向中央部における五箇所の凹部1Yaに断面台形形状の陽極3を配置したモデルを作成し、極間距離cを2,3,5,7,10,15[cm]の六条件で変化させた場合に、凹部1Ya三箇所(図5(a)中、仮想線で囲った箇所)の電流密度の最大・最小値及び分布を見ることで通電の均一性に関する評価を行った。
【0028】
このU形連結モデルでは、前記極間距離cが2,3,5,7[cm]の場合には、図5(b)に示す如く、鋼矢板1Yでの電流密度の最大値が4.0[A/m2]程度となるように陽極3一本あたりに通電する電流を5.0[A]とすると、評価範囲の鋼矢板1Yの凹部1Ya(奥面及び両側面)の電流密度は略3.0〜4.0[A/m2]の範囲内に収まっていたが、前記極間距離cが10[cm]以上の場合には、鋼矢板1Yでの電流密度の最大値が4.0[A/m2]程度となるように陽極3一本あたりに通電する電流を4.4〜4.8[A]としても、鋼矢板1Yの凹部1Yaの奥隅部に電流が分布しなくなり、前述と同様、電流密度分布のバラつきが大きくなっている。
【0029】
続いて、図6(a)に示す如く、前記U形連結モデルにおける鋼矢板1Yの凹部1Ya及び凸部1Ybの幅方向ピッチをP=40[cm](凹部1Yaの最奥部と凸部1Ybの先端部の幅が共に30.6[cm]で奥行方向における傾斜部の幅が9.4[cm])、奥行をD=30[cm]として凹凸形状が台形の鋼矢板1Yを、40×20×1[m]の解析領域の岸壁とみなした端面に設置すると共に、各陽極3による電流の重ね合わせを考慮するために、鋼矢板1Yの幅方向中央部における五箇所の凹部1Yaに断面台形形状の陽極3を配置したモデルを作成し、前記解析結果(図5参照)を踏まえて極間距離cを5[cm]に固定した状態で、陽極3の張出量sを0,10,20,30,40,50[cm]の六条件で変化させた場合に、凹部1Ya三箇所及び凸部1Yb二箇所(図6(a)中、仮想線で囲った箇所)の電流密度の最大・最小値及び分布を見ることで通電の均一性に関する評価を行った。
【0030】
このU形連結モデルでは、前記張出量sが0,10,20[cm]の場合には、図6(b)に示す如く、鋼矢板1Yでの電流密度の最大値が4.0[A/m2]程度となるように陽極3一本あたりに通電する電流を5.0〜5.4[A]としても、評価範囲の鋼矢板1Yの凹部1Ya(奥面及び両側面)及び凸部1Ybの電流密度分布のバラつきが大きくなっているが、前記陽極3の張出量sを30[cm]以上にした場合には、鋼矢板1Yでの電流密度の最大値が4.0[A/m2]程度となるように陽極3一本あたりに通電する電流を5.4〜5.6[A]とすると、電流密度の最大・最小値の振れ幅の範囲はあまり変化しないという結果が得られた。従って、物量面を考慮すると、陽極3の張出量sは鋼矢板1Yの凸部1Ybから30[cm]に設定するのが最適であると考えられる。
【0031】
以上より、前記Z形連結モデルとU形連結モデルのどちらのモデルにおいても、前記陽極3の前面3a及び両側面3bの三面と前記鋼矢板1Yの凹部1Ya内面との極間距離cを5[cm]以下に保持すると共に、前記鋼矢板1Yの凸部1Yb表面に電流を流すための凹部1Yaからの前記陽極3の両側面3bの張出量sを30[cm]以上に保持した状態で、前記陽極3と鋼矢板1Yとの間に通電することが好ましく、この最適条件において、鋼矢板1Yの水没部2表面における電流密度を2.5〜4.0[A/m2]の範囲内に収め、鋼矢板1Yの表面に均一な厚さの防食電着被膜5(図18参照)を形成できるというシミュレーション結果が得られた。
【0032】
但し、上記のシミュレーション結果が1/1スケールの実際の鋼矢板1Yに必ずしも合致するとは限らないため、図3及び図4に示すZ形連結モデルの1/2スケールの鋼矢板1Yを作成し、実際の試験による実測及び1/2スケールのシミュレーションを行い、それぞれの結果が合致するか否かの検証を行った。
【0033】
図7に示す如く、内法で幅が134[cm]、奥行が93[cm]、深さ21[cm]の容器内に海水をおよそ七割の深さまで注ぎ、該海水中に、凹部1Ya及び凸部1Ybの幅方向ピッチをP=40/2=20[cm]、奥行をD=34/2=17[cm]とした凹凸形状が直角な1/2スケールの鋼矢板1Y(材質はSS400)を設置すると共に、該鋼矢板1Yの凹部1Yaに断面矩形形状のアルミニウム製の陽極3を配置し、該陽極3及び鋼矢板1Y間に図示していない直流電源(20[A]、12[V])を接続し、極間距離cを変化させた場合に、凹部1Yaの内面複数箇所における過電圧分布のバラつきを実測する一方、シミュレーションを行った。尚、電流密度のバラつきと、過電圧(電位)分布のバラつきとは等価であるため、過電圧分布の最大値と最小値の差をバラつきの指標とした。
【0034】
図7に示す1/2スケールのZ形連結モデルにおける極間距離cと過電圧分布のバラつきとの関係は、図8のプロット図に示す如く、実測とシミュレーションのいずれの場合も、略比例関係にあり、実測とシミュレーションのそれぞれの結果は合致することが確認された。即ち、1/1スケールの実際の鋼矢板1Yに関しても、シミュレーション結果は充分利用できるものと予想される。そして、図7に示す1/2スケールのZ形連結モデルにおいて、過電圧分布のバラつきを抑えるには、極間距離cを3[cm]以下に保持することが有効であると考えられ、1/1スケールの実際の鋼矢板1Yに関して極間距離cを5[cm]以下に保持することを併せて考慮すると、Z形連結モデル並びにU形連結モデルのいずれにおいても、極間距離cは、前記連結配置される鋼矢板1Yの凹部1Ya及び凸部1Ybの幅方向ピッチPと該凹部1Ya及び凸部1Yb間の奥行Dとに応じて、c≦0.05×(P+2D)という式から導き出せるという結論に至った。但し、実際の施工上、前記極間距離cを限りなくゼロに近づけることは、陽極3が鋼矢板1Yに接触してしまう問題から技術的に困難であるが、今回の試験では、極間距離cを1[cm]まで狭めても陽極3が鋼矢板1Yに接触してしまう心配がないことが確認されているため、極間距離cの下限値を1[cm]とし、1≦c≦0.05×(P+2D)とすれば良い。尚、0.05×(P+2D)≦1となるような規格の鋼矢板は存在しないため、この式は成立する。
【0035】
同様に、図9に示す如く、内法で幅が134[cm]、奥行が93[cm]、深さ21[cm]の容器内に海水をおよそ七割の深さまで注ぎ、該海水中に、凹部1Ya及び凸部1Ybの幅方向ピッチをP=40/2=20[cm]、奥行をD=34/2=17[cm]とした凹凸形状が直角な1/2スケールの鋼矢板1Y(材質はSS400)を設置すると共に、該鋼矢板1Yの凹部1Yaに断面矩形形状のアルミニウム製の陽極3を配置し、該陽極3及び鋼矢板1Y間に図示していない直流電源(20[A]、12[V])を接続し、極間距離cを変化させずに固定した状態で、陽極3の張出量sを変化させた場合に、凹部1Yaの内面複数箇所及び凸部1Ybの表面複数箇所の過電圧分布のバラつきを実測する一方、シミュレーションを行った。尚、極間距離cは1≦c≦0.05×(P+2D)という式に基づき、0.05×(20+2×17)=2.7≒3[cm]に設定した。
【0036】
図9に示す1/2スケールのZ形連結モデルにおける陽極3の張出量sと過電圧分布のバラつきとの関係は、図10のプロット図に示す如く、陽極3の張出量sが14[cm]未満では陽極3の張出量sの増加に伴って過電圧分布のバラつきが減少し、陽極3の張出量sが14[cm]以上では過電圧分布のバラつきが変化せず、実測とシミュレーションのそれぞれの結果は合致することが確認された。即ち、1/1スケールの実際の鋼矢板1Yに関しても、シミュレーション結果は充分利用できるものと予想される。そして、図9に示す1/2スケールのZ形連結モデルにおいて、過電圧分布のバラつきを抑えるには、陽極3の張出量sを14[cm]以上に保持することが有効であると考えられ、1/1スケールの実際の鋼矢板1Yに関して陽極3の張出量sを30[cm]以上に保持することを併せて考慮すると、Z形連結モデル並びにU形連結モデルのいずれにおいても、陽極3の張出量sは、前記連結配置される鋼矢板1Yの凹部1Ya及び凸部1Yb間の奥行Dに応じて、0.75×D≦sという式から導き出せるという結論に至った。但し、実際の施工上、前記陽極3の張出量sを限りなく長くすることは、無駄であるばかりでなく、U形連結モデルの場合、互いに隣接する陽極3同士が接触してしまう問題が生じることから、上限を決める必要がある。前記陽極3の張出量sは、鋼矢板1Yの形状によっても異なるが、互いに隣接する陽極3同士が最も接触しやすいのは、前記連結配置される鋼矢板1Yの凹部1Ya及び凸部1Ybの傾斜が規格上最も緩やかな鋼矢板1Yを対象とした場合であり、該鋼矢板1Yは、「鋼管杭・鋼矢板技術協会」において規定されているハット型鋼矢板でNSP-10Hという形式のものに相当する。因みに、ハット型鋼矢板は継ぎ手位置及び組立て方が異なるだけで、形状はU形連結モデルと略同等と考えることができる。前記NSP-10Hという形式の鋼矢板1Yにおいては、図11に示す如く、凹部1Ya及び凸部1Ybの幅方向ピッチはP=45[cm]、奥行はD=23[cm]、凸部1Ybの幅は32.2[cm]、凹部1Yaの開口幅は57.8[cm]であるため、極間距離cを1[cm]まで狭めた場合、台形形状の陽極3の寸法関係は、
(22+s):22=((90−30.2)/2):((55.8−30.2)/2)
(22+s):22=29.9:12.8
となり、互いに隣接する陽極3が接する場合の張出量sは、
s=29.4[cm]
となる。これを、鋼矢板1Yの奥行Dを基準として表すと、
s=1.278×D
となるため、前記陽極3の張出量sの上限値としては、
s≒1.25×D
とすれば、少なくとも「鋼管杭・鋼矢板技術協会」において規定されているどのような鋼矢板1Yに適用したとしても、互いに隣接する陽極3同士が接触してしまう問題が生じることはなくなるため、前記陽極3の張出量sの範囲は、0.75×D≦s≦1.25×Dとすれば良い。尚、Z形連結モデルの鋼矢板1Yの場合、前記陽極3の張出量sを限りなく長くしても、互いに隣接する陽極3同士が接触することはないが、現実問題として同等の張出量sとする。
【0037】
上述の如く、極間距離cに関する1≦c≦0.05×(P+2D)という式と、陽極3の張出量sに関する0.75×D≦s≦1.25×Dという式は、それぞれ誤差はあるものの、連結配置される鋼矢板1Yの凹部1Ya及び凸部1Ybの幅方向ピッチPと、該凹部1Ya及び凸部1Yb間の奥行Dとに応じて、鋼矢板1Yの表面に均一な厚さの防食電着被膜5を形成する上での指標となり得るものである。
【0038】
一方、前記陽極3の材質に関しては、溶解性・不溶解性は問わない。可能であれば港湾で使用される一般的な不溶解性のものが好ましいが、前記極間距離cを狭めに設定し、陽極3が崩壊しないようにする等、通電中の消耗分を考慮して陽極3を作成する場合には、溶解性材料を用いてもよい。
【0039】
前記陽極3の形状に関しては、図12(a)に示す如く、台形で且つ中実のものとすることができるが、陽極3の形状は表面形状のみが重要であるため、図12(b)に示す如く、台形で且つ中空の陽極3でも良く、このような陽極3を用いれば軽量化により施工も容易なものになると考えられる。又、図12(c)のような網目構造の陽極3を用いることも可能である。更に又、図6(a)に示すU形連結モデルにおいて、台形形状の陽極3の上底の面と下底の面の電流密度分布を比較検討した結果、前記陽極3の上底の面の電流密度は3〜5[A/m2]、下底の面の電流密度は約0.5[A/m2]となっており、大まかに見て前記陽極3の下底の面に流れている電流は陽極3面積全体の10[%]程度と考えられるため、下底の面は必ずしも必要ではなく、図12(d)に示す如く、台形形状の下底の面を除去したコの字型の陽極3、即ち鋼矢板1Yの凹部1Ya内面に倣うよう対向する少なくとも前面3a及び両側面3bの三面を有する陽極3を用いることもできる。尚、U形連結モデルの鋼矢板1Yの場合、厳密には、図1に示す如く、その連結部に段差が生じるため、該段差に倣うように、陽極3の先端部の形状を、図1中、仮想線で示す形状としても良い。又、図4に示す如く、Z形連結モデルの鋼矢板1Yに用いる陽極3は、断面矩形形状となるが、図12に示す断面台形形状の陽極3と同様、中実、中空、網目構造、コの字型のいずれも選択可能である。
【0040】
更に、前記陽極3の鋼矢板1Yに対向する表面は平板でも良いが、図13(a)に示す如く、メッシュ状、或いは、図13(b)に示す如く、穴あき状のものにすることで、波浪による陽極3への抗力や陽極3の重量を低減することができる。
【0041】
本実施例においては、陽極3の前面3a及び両側面3bの三面と前記鋼矢板1Yの凹部1Ya内面との極間距離cが非常に小さいため、波による揺動で鋼矢板1Yに陽極3が接触しショートすることがないように陽極3を固定する必要がある。そこで、図14(a),(b)に示す如く、岸壁側から海上へ張り出す設置用バー6を設け、該設置用バー6から吊り下げた固定用バー7に陽極3を取り付けると共に、該固定用バー7の下端に海底に沈む錘8を取り付けることにより、陽極3の保持手段9を構成する。
【0042】
前記保持手段9により陽極3を鋼矢板1Yに対して配置する際には、例えば、図15に示す如く、下端に錘8が取り付けられた固定用バー7と一体とした陽極3を予め作成し、該陽極3を鋼矢板1Y側へ移動・調整しつつ、前記固定用バー7の上端を、岸壁より張り出した設置用バー6と接続・固定したり、或いは、図16に示す如く、設置用バー6と固定用バー7と陽極3と錘8とを予め一体化したものを作成し、これら全体を鋼矢板1Y側へ移動・調整しつつ、前記設置用バー6を岸壁に固定したりすることができる。
【0043】
尚、前記設置用バー6及び固定用バー7にアルミ等を用いることで電源線を用いずに陽極3に通電することも可能である。
【0044】
前記陽極3は、一本ずつ鋼矢板1Yの各凹部1Yaに対して保持手段9により配置することも勿論可能であるが、施工の効率化のために、例えば、図17に示す如く、複数本の陽極3を保持手段9の設置用バー6及び固定用バー7にて一組にまとめたものを作成することにより、複数の凹部1Yaに対して一度に陽極3の設置を行うことも可能である。
【0045】
そして、本実施例においては、前述の如く、保持手段9によって、陽極3の前面3a及び両側面3bの三面と鋼矢板1Yの凹部1Ya内面との極間距離cが1≦c≦0.05×(P+2D)に保持されると共に、鋼矢板1Yの凸部1Yb表面に電流を流すための凹部1Yaからの前記陽極3の両側面3bの張出量sが0.75×D≦s≦1.25×Dに保持され、この状態で、前記陽極3と鋼矢板1Yとの間に通電すると、従来のように、陽極3として丸棒や板といったごく一般的な形状の電極を用いて電着施工を行うのとは異なり、鋼矢板1Yが凹凸形状を有していても、通電量に差が生じにくくなり、鋼矢板1Yの表面に形成される防食電着被膜5(図18参照)の厚さに大きなバラつきが生じてしまうことが避けられる。
【0046】
こうして、鋼矢板1Yの表面に均一な厚さの防食電着被膜5を形成し得る。
【0047】
尚、本発明の鋼矢板の電着防食方法及び装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、Z形連結モデルやU形連結モデルのような鋼矢板に限らず、U形連結モデルを二枚向かい合わせて溶接した、いわゆる組み合わせ型の鋼矢板にも適用可能なこと等、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0048】
1 海洋鋼構造物
1Y 鋼矢板
1Ya 凹部
1Yb 凸部
2 水没部
3 陽極
3a 前面
3b 側面
4 直流電源
5 防食電着被膜
6 設置用バー
7 固定用バー
8 錘
9 保持手段
P 幅方向ピッチ
D 奥行
c 極間距離
s 張出量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸部が形成されるよう連結配置される鋼矢板の海水に水没した水没部に対し所要の間隔をあけて陽極を設け、該陽極と鋼矢板との間に直流電源を設けて直流電流を通電することにより、鋼矢板の水没部表面に防食電着被膜を形成する鋼矢板の電着防食方法において、
前記鋼矢板の凹部内面に倣うよう対向する少なくとも前面及び両側面の三面を有する陽極を用い、前記連結配置される鋼矢板の凹部及び凸部の幅方向ピッチをP[cm]とし且つ該凹部及び凸部間の奥行をD[cm]とした場合に、前記陽極の前面及び両側面の三面と前記鋼矢板の凹部内面との極間距離c[cm]を
1≦c≦0.05×(P+2D)
に保持すると共に、前記鋼矢板の凸部表面に電流を流すための凹部からの前記陽極の両側面の張出量s[cm]を
0.75×D≦s≦1.25×D
に保持した状態で、前記陽極と鋼矢板との間に通電することを特徴とする鋼矢板の電着防食方法。
【請求項2】
凹凸部が形成されるよう連結配置される鋼矢板の海水に水没した水没部に対し所要の間隔をあけて陽極を設け、該陽極と鋼矢板との間に直流電源を設けて直流電流を通電することにより、鋼矢板の水没部表面に防食電着被膜を形成する鋼矢板の電着防食装置において、
前記鋼矢板の凹部内面に倣うよう対向する少なくとも前面及び両側面の三面を有する陽極と、
前記連結配置される鋼矢板の凹部及び凸部の幅方向ピッチをP[cm]とし且つ該凹部及び凸部間の奥行をD[cm]とした場合に、前記陽極の前面及び両側面の三面と前記鋼矢板の凹部内面との極間距離c[cm]を
1≦c≦0.05×(P+2D)
に保持すると共に、前記鋼矢板の凸部表面に電流を流すための凹部からの前記陽極の両側面の張出量s[cm]を
0.75×D≦s≦1.25×D
に保持する保持手段と
を備えたことを特徴とする鋼矢板の電着防食装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−7197(P2012−7197A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142409(P2010−142409)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】