説明

鋼部材の冷却方法

【課題】鋼部材を、複雑な構成の装置を用いることなく冷却水の膜沸騰の影響を抑制し、均一に冷却することが可能であり、鋼部材の変形や表面割れ、内部割れの発生を抑制するとともに、所望の組織への制御が可能である方法を提供する。
【解決手段】冷却水槽中に収容された冷却水に鋼部材を浸漬する鋼部材の冷却方法であって、前記冷却水として可溶性ガスを溶解させたものを用い、前記鋼部材を冷却している間における前記冷却水中の可溶性ガスの濃度は、前記冷却水中において前記鋼部材の表面で生成した水蒸気膜を、前記冷却水中から発泡した前記可溶性ガスで破裂させることが可能な濃度とすることを特徴とする鋼部材の冷却方法。前記可溶性ガスは炭酸ガスであることが好ましく、前記冷却水中の炭酸ガスの濃度は、前記冷却水のpHの測定値に基づいて調整することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造鋳片を始め、鋼材、鋼板、インゴットといった鋼部材を冷却する方法に関し、特に鋼部材を冷却水中に浸漬し、均一な冷却を可能とする鋼部材の冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳片の連続鋳造プロセスでは、鋳片の表面品質や内部品質の低下を抑制したり、析出物の生成を抑制したりするため、鋳片を凝固完了後に切断し、冷却水槽中の冷却水に浸漬して鋳片の温度が所定の温度になるまで冷却することがある。
【0003】
一般に、冷却水槽中の冷却水に浸漬する直前の鋳片の表面温度は700〜800℃であり、浸漬後は約600℃である。冷却水に浸漬中の鋳片は、下面において膜沸騰状態となり、水蒸気膜が生成するため、冷却水の冷却能が低下する。この冷却能の低下により、以下の3つの問題が生じる。
【0004】
第1に、所定の時間内で冷却することが困難となり、工程を管理する上で問題になる。第2に、鋳片に冷却斑(冷却むらによる模様)が発生して表面品質が低下したり、析出物の抑制が不均一となって内部品質が低下したりする。第3に、鋳片の長さ方向で熱収縮の不均一による変形が生じるため、後工程における圧延時に鋳片を圧延ロールに挿入することができなくなる。
【0005】
このような冷却水への浸漬による冷却は、切断した連続鋳造鋳片のみならず、鋼材の熱処理において加熱後の鋼材に対しても行われることがある。これは、連続鋳造鋳片の場合と同様に組織制御を目的とする。この場合も、鋼材の下面において膜沸騰状態となり、生成した水蒸気膜により冷却水の冷却能が低下する。
【0006】
鋼材には、鋼板のような単純な形状を有するものだけではなく、最終製品のような複雑な形状を有するものもある。複雑な形状の鋼材の場合、部位により冷却状態が著しく異なるため、冷却の不均一による複雑な熱応力変形が生じる。このとき、鋼材の形状が大きく変化するため、形状を整える新たな工程が必要となり、単純な形状の場合と比較して製造コストが増大し、製造に長時間を要することとなる。また、熱処理の対象が最終製品の場合には、変形によって製品として扱えなくなる場合もある。
【0007】
連続鋳造鋳片、鋼材、鋼板、インゴットといった鋼部材を水槽中の冷却水に浸漬して冷却する方法に関しては、例えば以下の技術が提案されている。
【0008】
特許文献1には、水に発泡剤を添加して得られる泡沫中に、加熱された機械構造用部品を供給して冷却する技術が提案されている。同文献では、発泡剤として界面活性剤や水溶性ポリマーを適用し、発泡剤の添加量によって冷却速度を制御することができ、冷却速度のばらつきを他の冷却方法よりも改善できるとされている。
【0009】
しかし、泡沫を生成させる発泡剤が高温状態の機械構造用部品と接触すると、有害なガスが発生する。そのため、このガスを大気中に放出させないための排気設備が必要となるだけでなく、作業員の衛生管理も必要となることから、実操業には不向きである。
【0010】
また、冷却媒が泡沫であるため、冷却対象である機械構造用部品の形状が複雑である場合には、部品の細部にまで泡沫を進入させることが困難であり、均一な冷却速度を得ることも困難である。
【0011】
特許文献2には、加熱されて垂直方向に移送される帯状鋼板を冷却水により連続的に冷却するにあたり、界面活性元素を添加し且つ加熱された冷却水を使用することで、鋼板の熱変形を抑制し、しわや折れ等の発生を抑制する技術が開示されている。
【0012】
しかし、特許文献2に開示された技術では、界面活性元素を添加した冷却水と高温に加熱された鋼板とが接触した場合に界面活性元素を成分として含む有害なガスが発生するおそれがある。そのため、このガスを大気中に放出させないための排気設備をさらに設置することが必要となるだけでなく、廃液処理の設備も必要となるため設備費の増大を招くとともに、日常的な保守管理も煩雑となる。また、冷却水を加熱する設備を設けることによっても設備費が嵩む。
【0013】
特許文献3には、鋼片を水中に浸漬して冷却する鋼片の冷却方法において、鋼片の下面に対して水が流動するように水を噴射する技術が開示されている。同文献では、一般に凝固後の高温状態にある鋼片が冷却される過程で、鋼材の表面品質や内部品質を劣化させる変態を回避したり、好ましくない析出物の析出を避けたりするために、鋼片を水中で急冷することが記載されている。また、同文献で開示された技術によれば、鋼片の水中冷却にあたり、その下面側の冷却不足や冷却の不均一に起因する表面欠陥を低減することができるとされている。
【0014】
また、特許文献4には、連続鋳造鋳片を冷却するにあたり、鋳片を浸漬した水中で鋳片の下面へ冷却水を強制的に噴霧するとともに冷却槽内の水を環流させる技術が開示されており、これにより冷却水槽から引き上げた後の鋳片長手方向の反りを防止することが可能であるとされている。
【0015】
しかし、特許文献3および4で開示された技術は、冷却する鋼材のサイズや形状が一定の場合には効果があるものの、鋼材のサイズや形状が大きく変わった場合には、水を噴射させる設備の位置を変える必要があり、多大な設備費を要する。また、特許文献3で開示された技術では、複雑な形状の鋼材の場合には、単なる噴射だけでは鋼材の細部まで水が行き渡らず、均一に冷却することは困難である。また、特許文献4で開示された技術では、鋼材の下面と上面の冷却能を一定にしかも均一に保つことが必要であるが、鋼材の上面の冷却能を制御することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平1−123031号公報
【特許文献2】特開昭58−64322号公報
【特許文献3】特開2000−42700号公報
【特許文献4】特開2002−66726号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】「理科年表 平成16年」平成15年11月30日発行、丸善株式会社、501頁〔気体の水に対する溶解度〕
【非特許文献2】Journal of Heat Transfer,Vol.123(2001),pp.719〜728 “The Effect of Dissolving Gases or Solids in Water Droplets Boiling on a Hot Surface”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述のように、鋼部材を冷却水槽中の冷却水に浸漬して冷却する方法に関して、従来の方法では、鋼部材の下面において膜沸騰状態となり、水蒸気膜が生じて冷却が妨げられるという問題があった。また、冷却が均一でなく、鋼部材の変形や表面割れ、内部割れが発生するという問題、設備費等が嵩むという問題、および組織の制御が困難であるという問題もあった。
【0019】
本発明は、これらの問題に鑑みてなされたものであり、連続鋳造鋳片を始め、鋼材、鋼板、インゴットといった鋼部材を、複雑な構成の装置を用いることなく冷却水の膜沸騰の影響を抑制し、均一に冷却することが可能であり、鋼部材の変形や表面割れ、内部割れの発生を抑制するとともに、所望の組織への制御が可能である方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記の問題について検討した。その結果、冷却水槽中の冷却水に可溶性ガスを溶解させ、この冷却水に高温の鋼部材を浸漬すると、鋼部材の上面、下面、側面等を問わず、冷却水と接触する表面全体で発泡が生じることを見出した。
【0021】
この発泡は、浸漬された鋼部材近傍の冷却水の温度が瞬時に上昇して可溶性ガスの溶解度が急激に低下し、これに伴って冷却水中から可溶性ガスが激しく放出されることによる。可溶性ガスの溶解度については、例えば非特許文献1および2に記載されている。
【0022】
図1は、炭酸ガスの水に対する溶解度と水の温度との関係を示す図である。同図は、非特許文献1に記載の炭酸ガスの水に対する溶解度と水の温度との関係をグラフにしたものである。同図に示すように、炭酸ガスは、水に対する溶解度が常温(25℃)では体積比で約0.75と極めて大きく、水中に多量に溶解する。しかし、水の温度が上昇するのに伴って溶解度は低下し、80℃以上の高温ではほとんど溶解しない。
【0023】
また、非特許文献2には、300℃の加熱板上に置かれた炭酸ガスを溶解させた水滴の挙動について報告されており、水温の上昇による炭酸ガスの溶解度の低下にともなって、水滴から炭酸ガスが速やかに放出されることが記載されている。
【0024】
さらに、検討の結果、以下の(1)〜(5)の知見を得た。
(1)発泡によって、冷却水の膜沸騰で生成した水蒸気膜が破壊されるため、冷却水の冷却能力の低下を抑制することができる。
(2)発泡時には可溶性ガスが大きく膨張し、冷却水自体に流れが生じるため、冷却水槽内の大量の冷却水が、循環ポンプ等の装置を用いずに常に激しく攪拌され、可溶性ガスが冷却水中に均一に溶解した状態となる。
(3)発泡が鋼部材の表面全体で一様に生じるため、鋼部材を均一に冷却することができる。
(4)発泡によって、鋼部材の表面に付着しているスケールを剥離させることができる。
(5)可溶性ガスを溶解させることによって冷却水のpHを7.0より小さくした場合、冷却水への浸漬前の鋼部材の表面に生成していた酸化被膜を除去して伝熱抵抗を小さくし、冷却水による冷却を促進することができる。
【0025】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は、下記の(1)〜()に示す鋼部材の冷却方法にある。
【0026】
(1)冷却水槽中に収容された冷却水に鋼部材を浸漬する鋼部材の冷却方法であって、前記冷却水として可溶性ガスを溶解させたものを用い、前記鋼部材を冷却している間における前記冷却水中の可溶性ガスの濃度は、前記冷却水中において前記鋼部材の表面で生成した水蒸気膜を、前記冷却水中から発泡した前記可溶性ガスで破裂させることが可能な濃度とすることを特徴とする鋼部材の冷却方法。
【0027】
(2)前記可溶性ガスが炭酸ガスであることを特徴とする前記(1)に記載の鋼部材の冷却方法。
【0028】
(3)前記冷却水中の炭酸ガスの濃度を、前記冷却水のpHの測定値に基づいて調整することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の鋼部材の冷却方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明の鋼部材の冷却方法によれば、連続鋳造鋳片を始め、鋼材、鋼板、インゴットといった鋼部材を、複雑な構成の装置を用いることなく均一に冷却することが可能であり、鋼部材の変形や表面割れ、内部割れの発生を抑制するとともに、所望の組織への制御が可能である
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】炭酸ガスの水に対する溶解度と水の温度との関係を示す図である。
【図2】本発明の鋼部材の冷却方法を適用することが可能な冷却水槽の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
1.冷却水槽の構成
図2は、本発明の鋼部材の冷却方法を適用することが可能な冷却水槽の一例を示す構成図である。同図に示すように、冷却水槽1には冷却水2が収容されている。蒸発等によって冷却水2が減少した場合、補給水供給配管3によって、冷却水槽1の上方から冷却水2を補給する。冷却水槽1には、側面を貫通するように可溶性ガス供給配管4が設けられている。
【0032】
可溶性ガス供給配管4から冷却水2に可溶性ガスを吹き込むことにより、冷却水2に可溶性ガスを溶解させることができる。冷却水中の可溶性ガスの濃度は、鋼部材の冷却開始前であっても、冷却中であっても、可溶性ガスを吹き込むことによって調整することができる。冷却水槽1の底面には支持台5が設けられており、鋼部材6を載置することができる。
【0033】
2.鋼部材の冷却方法
前記図2に示す冷却水槽1中の冷却水2には、鋼部材6を浸漬する前に、所定の濃度となるように可溶性ガスを溶解させておく。可溶性ガスの所定の濃度とは、高温の鋼部材6を冷却水2に浸漬した際に、鋼部材の表面で生成した水蒸気膜を破裂させることが可能な程度に発泡する濃度をいう。冷却中に冷却水2の可溶性ガスの濃度が低下した場合には、可溶性ガス供給配管4から冷却水2に可溶性ガスを吹き込んで濃度を上昇させる。高温の鋼部材6は、一例として、凝固完了後に切断した連続鋳造鋳片、加熱された鋼材、鋼板および機械構造用部品等が挙げられる。
【0034】
可溶性ガスが溶解した冷却水2に、高温の鋼部材6を浸漬すると、鋼部材6表面近傍の冷却水2の温度が急激に上昇し、鋼部材6の表面全体から水蒸気膜が生成するとともに、可溶性ガスの微細な気泡が多量に発生する。そのため、水蒸気膜は、生成と同時に気泡によって破裂する。
【0035】
この多量の微細な気泡の発生と、水蒸気の発生とが相俟って、巨大な冷却水槽1中の冷却水2に流動が生じて攪拌される。また、冷却水2中において、可溶性ガスは拡散係数が大きいことから、冷却水2中の可溶性ガスの濃度は冷却水槽1中の場所によらず均一となる。冷却水2中の可溶性ガスの濃度が均一であるため、鋼部材6の表面全体から発生する可溶性ガスの気泡も均一となり、鋼部材6に対する冷却水2の冷却能は、複雑な形状の鋼部材6に対しても均一となる。
【0036】
このように、本発明の鋼部材の冷却方法によれば、複雑な構成の装置を用いることなく、鋼部材6に対する冷却水2の冷却能を均一とすることができるため、冷却による鋼部材6の変形が抑制されるとともに、鋼部材6を所望の組織とすることができる。また、発泡によって、鋼部材6の表面に付着しているスケールを剥離させることができる。
【0037】
3.好ましい可溶性ガス
本発明の鋼部材の冷却方法では、冷却水に溶解させる可溶性ガスとして、炭酸ガス、窒素ガス、水素およびアンモニアも使用することができる。しかし、工業的な利用しやすさの面から、炭酸ガスが好ましい。
【0038】
また、炭酸ガスを使用することによって、冷却水のpHが7.0より小さくなり、この冷却水に鋼部材を浸漬することにより、鋼部材の表面に生成していた酸化被膜を除去することができ、伝熱抵抗が小さくし、冷却を促進することができる。
【0039】
冷却水中に溶解させる炭酸ガスの量は、下記(1)式の反応式および下記(2)式で算出される平衡定数に基づいて決定することができる。
【0040】
【数1】

【0041】
ここで、C:冷却水中の炭酸ガスの濃度(mol/L)、α:解離度(8.0×10-5、25℃)、K:平衡定数(4.3×10-7、25℃)である。
【0042】
また、冷却水のpHは、下記(3)式で表せることから、pHを測定することにより、炭酸ガス濃度Cを算出することができる。
【0043】
【数2】

【0044】
本発明者らが冷却水中の炭酸ガスの濃度を確認する試験を行い、(3)式を基に算出した結果、水温25℃、pH5.6の場合において、3.08×10-2mol/Lであった。この結果は、前記図1に示す炭酸ガスの水に対する溶解度と水の温度との関係を満たすことから、冷却水のpHを測定することで炭酸ガスの濃度の把握が可能であることが確認できた。冷却水のpHは、市販のpH測定器を用いて測定した。
【実施例】
【0045】
本発明の鋼部材の冷却方法の効果を確認するため、以下に示す試験を実施して、その結果を評価した。
【0046】
1.試験条件
試料:連続鋳造鋳片
試料の組成(質量%):0.25%C−0.5%Si−1.2%Mn−0.012%P−0.0015%S
試料のサイズ:500mm×450mm×10000mm
冷却開始時の試料の温度:900℃
試料の冷却水中への浸漬時間:20分
冷却水に溶解させた可溶性ガス:炭酸ガス
冷却水中の可溶性ガスの濃度(25℃):4.46×10-3〜4.46×10-2mol/L
【0047】
また、冷却水中の可溶性ガスの濃度(水温25℃における値)は、表1に示す値とし、比較例2では可溶性ガスを添加しなかった。比較例2の冷却水中の可溶性ガスの濃度について「−」とは、1.00×10-4mol/L以下であったことを示す。
【0048】
【表1】

【0049】
冷却水槽は、前記図2に示す構成のものを使用した。試料は、連続鋳造工程においてトーチで切断したものを、クレーンで吊り上げ、冷却水槽に移動させ、冷却水中に浸漬し、支持台の上に載置した。試料の冷却水中への浸漬時間は、今回用いた試料が所望の組織となる温度まで冷却される時間である20分とした。試料を冷却水に20分浸漬することにより、試料の温度は900℃から500℃となった。
【0050】
2.評価指標
試験の評価指標として、変形指数、表面割れ指数、および組織変化指数を採用した。
【0051】
2−1.変形指数
試料の長手方向における試料の上下の最大変形量を鋳片の長さで割った値(以下「変形比」という。)を各試料について求め、各試料についての変形比を、可溶性ガスを溶解させない冷却水を用いた場合の変形比で割った値を変形指数とした。
【0052】
具体的には、鋳片の長さが10000mm、最大変形量が200mmであり、変形比が200mm/10000mm=0.02であった比較例2の変形指数を1とした。例えば鋳片の長さが10000mm、最大変形量が5mmである場合には、変形比は5mm/10000mm=0.0005であり、変形指数は0.0005/0.02=0.025である。
【0053】
変形指数は、試料の変形の抑制効果を示す指数であり、値が小さいほど変形の抑制効果が大きい。
【0054】
2−2.表面割れ指数
ここでの表面割れとは、試料表面の縦割れ、横割れ等の目視で確認できる割れをいう。各試料について、鋳片の長さ1mあたりの表面割れの長さの合計を測定し、各試料についての表面割れの長さの合計を、可溶性ガスを溶解させない冷却水を用いた場合の長さの合計で割った値を表面割れ指数とした。すなわち、比較例2の表面割れ指数を1とした。
【0055】
表面割れ指数は、試料の表面割れの抑制効果を示す指数であり、値が小さいほど表面割れの抑制効果が大きい。
【0056】
2−3.組織変化指数
試料の上面、下面、2つの側面の幅方向の1/4、1/2、3/4で、試料の長さ方向に1000mm間隔で鋳片表面から厚さ方向に20mmの組織観察用サンプルを採取し、組織を観察した。組織観察用サンプルは、エメリーペーパーおよび砥粒直径が約1μmのダイヤモンド研磨剤を用いて研磨し、ナイタール腐食液を用いて組織を顕出させた。鋳片の組織は、表面に微細な結晶粒が厚さ方向に向かって形成され、ある距離を成長した後に結晶粒は粗大化した状態となる。
【0057】
ここでは、結晶粒が微細な状態を保持している表面から厚さ方向への距離を組織観察用サンプルごとに測定して偏差を算出し、各試料についての偏差を、可溶性ガスを溶解させない冷却水を用いた場合の偏差で割った値を組織変化指数とした。すなわち、比較例2の組織変化指数を1とした。
【0058】
組織変化指数は、組織の制御効果を示す指数であり、値が小さいほど鋳片表層の微細化深さのばらつきが小さいことを意味する。製品の表面品質の確保には、組織変化指数は0.2以下であることが好ましい。
【0059】
3.試験結果
前記表1には、冷却水中の可溶性ガスの濃度と併せて、変形指数、表面割れ指数、および組織変化指数の値を示した。同表から明らかなように、可溶性ガスの濃度が4.46×10-3mol/L以上の場合、可溶性ガスを溶解させた冷却水を使用した本発明例の鋼部材の冷却方法によれば、鋳片の変形および表面割れが抑制されており、また、本発明例はいずれも組織変化指数は0.2以下であり、所望の組織に制御されていた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の鋼部材の冷却方法によれば、連続鋳造鋳片を始め、鋼材、鋼板、インゴットといった鋼部材を、複雑な構成の装置を用いることなく均一に冷却することが可能であり、鋼部材の変形や表面割れ、内部割れの発生を抑制するとともに、所望の組織への制御が可能である
【符号の説明】
【0061】
1:冷却水槽、 2:冷却水、 3:補給水供給配管、 4:可溶性ガス供給配管、 5:支持台、 6:鋼部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水槽中に収容された冷却水に鋼部材を浸漬する鋼部材の冷却方法であって、
前記冷却水として可溶性ガスを溶解させたものを用い、
前記鋼部材を冷却している間における前記冷却水中の可溶性ガスの濃度は、前記冷却水中において前記鋼部材の表面で生成した水蒸気膜を、前記冷却水中から発泡した前記可溶性ガスで破裂させることが可能な濃度とすることを特徴とする鋼部材の冷却方法。
【請求項2】
前記可溶性ガスが炭酸ガスであることを特徴とする請求項1に記載の鋼部材の冷却方法。
【請求項3】
前記冷却水中の炭酸ガスの濃度を、前記冷却水のpHの測定値に基づいて調整することを特徴とする請求項1または2に記載の鋼部材の冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−112849(P2013−112849A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259789(P2011−259789)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】