説明

鍛造性と耐応力腐食割れ性に優れた鉛レス銅基合金

【課題】本発明は、工業的に満足しうる被削性を有し、且つ優れた鍛造性、耐応力腐食割れ性を有する銅基合金の提供を目的とする。
【解決手段】質量%において、Cu:59.0〜61.0(61.0を除く)%、Bi:0.5〜1.5%、Sn:1.5〜2.5%、Fe:0.06〜0.2%、Sb:0.02〜0.06%、P:0.04〜0.15で残部がZnと不純物からなり、鍛造性と耐応力腐食割れに優れたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造性と耐応力腐食割れ性に優れた銅基合金に関し、特に継ぎ手、バルブなどの優れた鍛造性と高い耐応力腐食割れ性が要求される製品の製造に好適である。
【背景技術】
【0002】
耐応力腐食割れ性に優れた鉛レスの銅基合金として、特許4397963号に、Cuが59.5〜66.0%、Sn0.7〜2.5%、Bi0.5〜2.5%、Sb0.05〜0.6%の組成を持つ合金が開示されている。
【0003】
しかし、同公報に開示する銅基合金では、Sbの量が比較的多い。
同公報には、Sbを含有する場合にはPは任意元素であると記載されているが、本発明者の検討ではBi系合金において、Pが存在しない状態でのSbの存在は機械的性質を著しく劣化させることが明らかになり、実用材料として不安がある。
具体的には、特に伸び値の低下が著しく衝撃値が低いことが明らかになった。
また、同公報にはNiが任意元素であることが記載されているものの、全ての実施例にNiが含まれていてNiの含有していないものの実証がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4397963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、継手やバルブなどを中空鍛造で作る場合が多くなってきているが、これに対応するには、熱間変形抵抗が小さく、アプセット率が90%を超える材料が必要になってくる。
しかも、これらの製品には耐応力腐食割れ性に優れた材料であることが不可欠である。
本発明は、かかる傾向および要請に応えるべくなされたもので、工業的に満足しうる被削性を有し、且つ優れた鍛造性、耐応力腐食割れ性を有する銅基合金の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記の目的を達すべく、第一に、質量%において、Cu:59.0〜61.0(61.0を除く)%、Bi:0.5〜1.5%、Sn:1.5〜2.5%、Fe:0.06〜0.2%、Sb:0.02〜0.06%、P:0.04〜0.15で残部がZnと不純物からなり、鍛造性と耐応力腐食割れに優れたことを特徴とする銅基合金を提案する。
【0007】
第二に、質量%において、Cu:59.0〜61.0(61.0を除く)%、Bi:0.5〜1.5%、Sn:1.5〜2.5%、Fe:0.06〜0.2%、Sb:0.02〜0.06%、P:0.04〜0.15、更に、Te:0.01〜0.45%、Se:0.02〜0.45%のうち、少なくとも1種の元素を含有し、残部がZnと不純物からなり、鍛造性と耐応力腐食割れ性に優れたことを特徴とする銅基合金を提案する。
【0008】
本出願人は、先に熱間鍛造性に優れた黄銅材(特許第3966896号)を提案しているが、本発明は中空製品の熱間鍛造性及び耐応力腐食割れ性をさらに改善したものである。
また、本発明に係る銅基合金は特許文献1の実施例に示すようなNi成分が不要でビスマス系の鉛レス合金において、Cuの成分範囲を59.0%以上、61.0%未満に制御し、Sb,Pの添加量の最適化を図ったものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る銅基合金は、熱間中空鍛造品等やアプセット率が90%以上ないと成形が難しい熱間鍛造品であっても割れることなく製造が可能で、耐応力腐食割れ性にも優れる。
また、本発明に係る銅基合金は特許文献1の発明とは相違し、γ相平均結晶粒包囲率を特に制御する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】評価に用いた銅基合金の成分表を示す。
【図2】試験片の鍛造性、耐応力腐食割れ性及び機械的性質の評価結果を示す。
【図3】鍛造性の試験方法を示す。
【図4】応力腐食割れ試験に用いたサンプル形状とトルク付加おねじを示す。
【図5】デシケーターの内に入っているサンプルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明において銅基合金の成分を決定した理由を説明する。
本出願人は、先の特許第3966896号に係る発明ではCu:61.0〜63.0%としたが、その後の研究によりCu成分を59.0%以上あれば61.0%未満に制御することで熱間鍛造性と耐応力腐食割れ性の両立を図ることができたものである。
より具体的に説明すると本願成分系においてCu成分が59.0%未満では、鍛造可能温度範囲が狭くなり、Cu成分を61.0%以上にすると割れが生じない限界アプセット率がやや低下する。
【0012】
Biは被削性を向上させるための添加元素であり、本発明においては必要に応じて、0.5%以上を添加するが、1.5%を超えると、鍛造性が低下するので、1.5%以下がよい。
【0013】
Sn成分を1.5〜2.5%の範囲にて添加すると熱間鍛造性が改善されるとともに
Sbとの併用でSn単独で得られないとされる耐応力腐食割れが改善する。
本願成分系においてSn成分が1.5%未満では鍛造性が劣り、2.5%を超えると脆くなる。
【0014】
Fe成分は、結晶の微細化を促進し、強度を向上させる。
Feの添加量が0.06%未満では十分に発揮されない。また、0.2%を超えるとP−Fe化合物が増加してPが消費され、Pの有効添加量が不足し耐食性が低下する。
【0015】
Sb成分は、耐応力腐食割れ性を改善する。先に述べたとおりSnとの併用にて特に効果がある。
有効に作用するには少なくとも0.02%の添加が必要である。しかし、Sbは銅合金を非常に脆くさせるので、0.06%が限界である。できれば、0.05%未満が望ましい。
【0016】
P成分は、耐食性を向上させる働きがある。また、PはBiの粒界への移動を抑制するため熱間加工性を向上させる。
Pの適正添加量は0.04〜0.15%となる。
【0017】
Te成分は、切削性が向上するが、0.01%以上で効果があり、添加量相応の効果を得る点、及び経済性の点から0.45%を上限とした。
【0018】
Se成分は、切削性が向上するが、材料単価が高価であるため、極力抑えるのがよい。
また、熱間加工性が悪くなるので0.45%以下が望ましい。
従ってSe成分を添加する場合は、0.02〜0.45%の範囲が好ましい。
【実施例1】
【0019】
図1に示すような各種合金組成の鋳塊(外径60mm、長さ80mmの円柱形状)を熱間(750℃)で外径22mmの丸棒状に押出加工し、その後、常温まで空冷することによって銅基合金材を得た。
図1の表中、No.1〜10が本発明に係る実施例に該当し、No.21〜26は比較例である。
<評価試験>
(1)鍛造試験
上記で得られた銅基合金材を長さ22mmに切断し、図3に示す試験方法にて鍛造性を評価した。
図3にてアプセット率(%)={(22−h)/22}×100の値が大きい方が厳しい試験方法となる。
本発明においては、継手や中空バルブ等を製造することを念頭においているので、アプセット率90%にて鍛造性を評価した。
鍛造温度は620℃〜770℃まで50℃きざみで4種類とした。
鍛造機はメカニカルプレス250トンを使用した。
評価としては、上記4種類の温度の中で最も鍛造性の良い温度での品物を選び、割れが生じていないものを○、部分的に割れが認められたものを△、全体に割れが見られたものを×とした。
(2)応力腐食割試験
外径が22mmの銅基合金材を長さ78mmに切断し、熱間鍛造を行なって図4(a)に示す形状に仕上げた。
めねじ部外径が25mmでネジは1/2インチのテーパーめねじとした。
これに図4(b)に示すようなシールテープを巻いた1/2インチテーパーおねじの継手を90N・mのトルクでねじ込み、アンモニア濃度14%のアンモニア水を入れたデシケータ内に24時間放置し、試験を行なった。
図5に試験状態を示す。
24時間経過後にデシケータ内から各供試材を取り出して希硝酸で洗浄した後に、目視確認により割れ有無の評価を行なった。
割れの発生がないものを「○」、割れの発生が認められたものを「×」とした。
(3)機械的性質
図1に示すような各種合金組成の鋳塊(外径60mm、長さ80mmの円柱形状)を熱間(750℃)で外径10mmの丸棒状に押出加工し、その後、常温まで空冷することによって銅基合金材を得た。
これを平行部の径が7mm、標点距離は25ミリになるように機械加工して引っ張り試験を行ない、0.2%耐力、引張強さ、破断伸びを測定した。
ここで、0.2%耐力が190N/mm以上、引張強さが380N/mm以上、破断伸びが15%以上を判定基準とした。
3項目全てを満足する場合を◎、2項目を満足する場合を○、1項目以下しか満足できない場合を×と判定した。
【0020】
図1の化学成分と図2の評価結果を検討する。
実施例合金No.1〜10は、特徴としてCu:59.0%以上で61.0%未満であり、Bi:0.5〜1.5%,Sn:1.5〜2.5%,Sb:0.02〜0.06%,P:0.04〜0.15%の範囲であるので、鍛造性、応力腐食割れ性、機械的性質のいずれにおいても実用上、問題がない。
比較例と比較すると、比較例No.21はCu成分が61.8%と61.0%以上なので、鍛造性に劣り、比較例No.22はSn:1.38%と1.5%未満なので鍛造性に劣っていた。
比較例No.23〜25はPが添加されていなく、Sb成分が0.06%を超えているので、機械的性質に問題があった。
特に比較例No.25は、Biが上限を超え、Snが下限以下なので、鍛造性及び耐応力腐食割れ性においても劣っていた。
比較例No.26は、Pが添加されていてもSbが添加されていないため、耐応力腐食割れ性に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%において、Cu:59.0〜61.0(61.0を除く)%、Bi:0.5〜1.5%、Sn:1.5〜2.5%、Fe:0.06〜0.2%、Sb:0.02〜0.06%、P:0.04〜0.15で残部がZnと不純物からなり、鍛造性と耐応力腐食割れに優れたことを特徴とする銅基合金。
【請求項2】
質量%において、Cu:59.0〜61.0(61.0を除く)%、Bi:0.5〜1.5%、Sn:1.5〜2.5%、Fe:0.06〜0.2%、Sb:0.02〜0.06%、P:0.04〜0.15、更に、Te:0.01〜0.45%、Se:0.02〜0.45%のうち、少なくとも1種の元素を含有し、残部がZnと不純物からなり、鍛造性と耐応力腐食割れ性に優れたことを特徴とする銅基合金。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−231383(P2011−231383A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104405(P2010−104405)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(301073392)サンエツ金属株式会社 (9)